焼け木杭に何とかは言うけれど


 カスパルの引き締まった胴を掴んで欲望のままに腰を打ち付けると、開きっぱなしの口から断続的に声が漏れた。色気や艶やかさとは無縁の吠えるような嬌声が、リンハルトの鼓膜を震わせて脳を蕩けさせていく。
 ガルグ=マクの戦いから五年の月日が経過していた。
 そのあいだ、皇帝や一族に刃を向けることになったカスパルは、帝国を離れて王国領と同盟領を放浪していたらしい。そのカスパルが同盟軍に合流し、リンハルトもまた家を離れて同盟軍へと身を投じたのが数日前の話だ。
 久しぶりに再開した幼なじみの二人は互いに近況報告や現状への不安などを吐露し、流れのまま寝台へともつれ込んだ。恋人同士でもある二人は五年の月日を埋めるようにお互いの熱を交換し合い、もう何時間も交わり続けていた。
「あっ、あっ、リン、ハルトっ……!」
 カスパルの背筋が反り返り、内壁が強く収縮する。搾り取るような締め付けに逆らわず、リンハルトも何度目かの射精を迎えた。
 絶頂感に震えるカスパルの背中に覆い被さって抱きしめると、汗で湿った肌同士が密着して互いの熱を伝え合う。
 リンハルトの腕にすっぽりと収まってしまうほど小さかったカスパルの体は、五年間ですっかりと逞しく成長していた。
 筋肉に覆われた肩口に顔を埋めれば、微かな刺激臭がリンハルトの鼻腔を満たす。子供特有の牛乳のような体臭もすっかりと消え、代わりに雄臭い匂いがした。
 それはきっと自分も同じなのだろうと思うと妙におかしくなって、リンハルトはくつくつと笑いながらカスパルの首元に軽く歯を立てる。
「んぅ……ふぁ……」
 首から耳の裏まで舐め上げ、耳たぶを食み、舌を差し入れてわざと音を立てて愛撫すれば、カスパルは面白いように反応を示す。
 カスパルの性器からはとろとろと精液が溢れ出ていて、敷き布には小さな水溜りができていた。そこにそっと手を這わせると、未だ硬度を保ったままぴくぴくと脈打っている。
「まだ足りない?」
 リンハルトが意地悪く囁けば、カスパルは小さく頷いた。
「もっと、くれよ」
 掠れた声でそうつぶやき、カスパルは自ら誘うように腰を振る。そんな仕草一つにも煽られて、リンハルトはふたたびカスパルの中を突き上げた。
「あッ! はっ……ああッ!」
 何度も吐き出した精液のおかげで抽挿は滑らかだった。粘ついた音が結合部から響き、それに合わせてカスパルの口からは意味のない言葉だけが溢れ出る。
「ひぐっ……うあッ! ああっ……!」
 リンハルトが突き上げるたびに、カスパルの先端から白濁が押し出されるようにして零れ落ちる。それでもなお萎えることのない陰茎を握って上下に擦ると、内壁が痙攣するように収縮を繰り返した。
「ひっ!? だめだ、そこっ……!」
「どうして? こうされるの好きでしょ?」
 親指で先端をぐりぐりと弄るとカスパルの体がびくんと跳ね上がる。同時に中がぎゅっと締まり、危うく持っていかれそうになったところを何とか堪えた。
「ほら、こうするとまたすぐイっちゃいそうだね」
「ああぁっ! あっ、あっ、イク、イッちまう……!」
「いいよ、好きなだけ気持ちよくなりなよ」
 耳元で甘く囁いて、そのままカスパルの唇を塞いだ。口内を犯しながら律動を再開させると、くぐもった喘ぎ声が喉の奥で反響する。
「んむっ……ンーッ!」
 舌先を強く吸ってやると同時に、カスパルは大きく体を震わせて達した。それと同時に後孔が激しく収縮し、搾り取られるようにしてリンハルトもまたカスパルの中に精を放つ。
 長い射精を終えてようやくカスパルの中から性器を引き抜くと、栓を失ったそこからどろりと大量の精液が流れ出た。
「……すごい量だよね。僕たちどれだけやってたんだろう」
 リンハルトは自分の出した精液の量に笑ってしまう。
 リンハルトもカスパルも元来は性欲が強いほうではない。だからこそ久しぶりの性行為で歯止めが利かなかったのだろう。
 カスパルは寝台に寝そべったまま荒い息をついている。呼吸に合わせてはくはくと開閉する後孔から白い液体が垂れ流しになっており、その淫靡さに思わずリンハルトはごくりと生唾を飲み込んだ。
「ねえ、カスパル。もう一回しようか」
 カスパルの体を抱き締めながら、張りのある胸筋を掌で掬うようにして揉み込む。ぷくっと膨らんだ先端を指で摘んで転がすと、カスパルの口から甘い吐息が漏れた。
「んっ……! 胸、やだって」
「嘘、好きでしょ? 硬くなってるよ」
 片方の突起をくりくりと弄りながら、もう片方の手で尻の割れ目をなぞる。散々酷使されたそこは未だに柔らかく、難なく二本の指を受け入れた。
「ここも僕のこと離してくれなくてさ。カスパルの体は素直だよね」
「あっ、うるせぇ……!」
 精液を掻き出すように内壁を引っ掻けば、カスパルの体がびくんと震える。そのまましばらく奥まで探るように出し入れを繰り返していると、やがてカスパルの腰が揺れ始めた。
「どうしたの? 何か言いたいことがあるなら言ってごらんよ」
「……ッ!」
 意地の悪い問いかけにカスパルの顔が羞恥に染まる。
「言わないとわからないけどなぁ……」
「ぐっ……」
 カスパルは恨めしげにリンハルトを見上げていたが、すぐに諦めたように視線を逸らした。そして、消え入りそうな声で呟く。
「…………ぃ」
「聞こえない」
「もっと……」
「うん?」
「だからっ……もっと欲しいんだよ!」
 半ば自棄になって叫ぶ姿が可愛らしくて、リンハルトはふっと微笑んでカスパルの頭を優しく撫でた。
「可愛いね、カスパルは」
「うるせっ……んんっ! あ、はぁっ……!」
 求められるままカスパルの中に自身を挿入すると、今度は最初から激しく腰を打ち付けた。結合部からは収まりきらなかった精液が溢れ出て、二人の下肢を濡らしていく。
「ああッ! 激しっ……んああッ!」
「凄いね、突くたびに溢れてくるよ」
「言うなッ……! あッ、ああッ!」
 突き上げるたびにカスパルの性器からぴゅっぴゅっと少量ずつ精液が飛び散る。壊れてしまったかのようにずっと達し続けていて、もはや苦痛に近い快楽に襲われていることは明らかだった。
 それでも、カスパルは健気に自分を受け入れてくれる。そんな姿を見るとますます愛おしさが募り、リンハルトの動きはより一層激しいものへと変わっていった。
「カスパル、好きだよ」
「オレもっ、あっ、好きっ、だっ……」
 うわ言のように繰り返される言葉が嬉しくて、リンハルトはさらに抽挿を早めていく。
 馬鹿みたいに抱き合って、貪るようなキスをして、汗まみれになりながら交わって。最後はもうお互いにほとんど記憶がなかった。

 翌朝、目を覚ますとカスパルは隣で穏やかな寝息を立てていた。
 早寝早起き早食いが信条のカスパルが寝過ごすのは珍しい。昨晩は水浴びもしないまま寝てしまったし、やりすぎたお詫びに湯船まで運んであげてもいいかもしれない。
 そう考えてカスパルを抱えあげようとしたものの、成長した体はリンハルトの記憶より遥かに重量があり、軽々と抱えあげられるものではなさそうだった。
「ん? んー……リンハルト?」
 体に触れられる感触に目を覚ましたカスパルが、寝ぼけ眼を擦りながらリンハルトを見る。
「ああ、起こしちゃったか、ごめん。君を浴室に運ぼうかと思ったんだけど、無理そうだからやっぱり自分で歩いてくれない?」
「……お前なあ」
 カスパルは呆れながらも寝台から立ち上がり、酷使した体を引き摺って浴室へと向かう。さすがに申し訳なくなったリンハルトもカスパルの後を追い、二人で朝風呂を堪能することにした。

 浴槽に水を張って魔法で温めるという入浴法を思いついたのはリンハルトで、それをいたく気に入ったのはカスパルだった。
 普段は烏の行水のような入浴しかしないカスパルも、こうすると気持ちいいのかゆっくりと時間をかけて体を休ませる。二人で湯に浸かりながら取りとめもない話題をするこの時間が、リンハルトは嫌いではなかった。
「さすがにもう狭いなこれ」
 体を流し合って二人で湯船に浸かろうとしたところで、浴槽の狭さにカスパルが笑い声を上げる。
 以前はカスパルが小さかったので二人で浸かっても窮屈だと感じることはなかったのだが、そのカスパルもいまはすっかりと大人の体になっていた。
 肩まで浸かると押し出された湯が浴槽から溢れ出して浴室の床を濡らす。リンハルトがそれを見て「もったいない」とぼやいていると、カスパルが不意に身を乗り出してきた。
「ん……何?」
「いや、別にどうもしないけどよ」
 カスパルはリンハルトの首筋に顔を埋め、ちゅっと音を立てて吸い付いてくる。そのまま肌を擦り合わせながら何度も吸い付き、胸の突起をたどたどしい手つきで愛撫してきた。
「……もしかして、やりたくなったの?」
 リンハルトはカスパルの行為の意図を察してそう訊ねる。無言で頷くカスパルの耳は僅かに赤くなっていた。それに気が付いたリンハルトは思わず頬を緩め、そのままカスパルを抱き締める。
「じゃあしようよ。僕もしたいと思ってたところなんだよね」
 それは半分嘘だった。正確には、いましたくなった。カスパルの拙い誘い方がいじらしく、その拙さを愛おしく感じたせいだった。
 リンハルトは乗り上げてきたカスパルの尻に手を回し、そのまま割れ目に指を這わせる。後孔はまだ柔らかく解れたままで、指を差し入れるとくぷりと飲み込んだ。
「昨晩の、まだ残ってるね」
 昨晩リンハルトが出した精液を掻き出すようにぐるっと中を探ると、カスパルの体がびくんと跳ね上がった。そこを指先で軽く掻き混ぜるだけで、ぐじゅっという卑猥な音が浴室に響き渡る。
「んんっ……! あ、ああッ……!」
 カスパルはリンハルトにしがみつきながら甘い吐息を漏らす。カスパルが動くと同時に湯船の水面が波を打ち、浴槽の縁から流れ落ちた湯が床に水溜りを作った。
「このまま入れても大丈夫かな? カスパルのここ、柔らかいし……」
「ん……たぶん……」
 リンハルトは自身の性器を扱いて勃起させてから、カスパルの腰を持ち上げてゆっくりとそこに下ろしていく。既に蕩けたそこは難なくリンハルトを飲み込んでいき、根元までぴったりと収まった。
「動いていい?」
「んっ、早くしろっ、て……」
 カスパルは急かすように自ら腰を振り始める。性的なことに関する興味が希薄なカスパルがここまで積極的に求めてくることは珍しくて、それだけ求められているのだという事実が嬉しかった。
「あッ、はっ、あんっ、ああッ!」
 リンハルトはカスパルの動きに合わせて下から突き上げる。最初はぎこちなかった動きはすぐに性急なものへと変わり、カスパルはより深い快楽を求めて激しく上下運動を繰り返した。
「すごっ、きもちいっ、もっとぉ……」
 快楽に溺れていくカスパルの姿は淫らで美しい。リンハルトはその姿をじっと見つめながら、カスパルの中に欲望を叩きつけた。
 肉同士がぶつかり合う乾いた音と結合部からの水音が混ざり合い、浴室内に反響する。激しい抽挿によって中に出した精液が後孔の縁で泡を立て、律動のたびに結合部から溢れ出す。
「ああっ、またイくぅ……あああっ!」
 やがて絶頂が近いことを察してカスパルの性器に触れると、そこはもう先走りなのか射精しているのかわからないほどにどろどろになっていた。
「一緒にイこうか」
「んっ、ああッ……あああッ!」
 淫らに揺れる腰を掴んで最奥まで貫けば、カスパルは体を反らして勢いよく白濁を吐き出した。熱く蕩けた内壁が性器に絡みつく快感に耐えきれず、リンハルトもカスパルの最深部に熱い飛沫を注ぎ込む。
 お互いの荒い呼吸だけが響く浴室内で、カスパルはリンハルトにもたれかかったまましばらく動けずにいた。リンハルトはカスパルを抱き締めながら唇を合わせ、舌先を絡めて唾液を交換し合う。
「ふぁ……リンハルト、もう一回」
「ええ……? 仕方ないなあ」
 カスパルがあまりにも物欲しげに見つめてくるものだから、リンハルトはもう一度カスパルと体を重ねた。どうせ今日はなにも予定が入っていない。だからこそ昨晩は思い切り求め合ったのだ。
 位置を変えて、体勢を変えて、何度も交わって。汗まみれになった体を洗い流して湯船に浸かり、ようやく一息ついた頃には既に昼過ぎになっていた。



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