幼なじみが変な知識を身につけてきた


「なあなあリンハルト! パイズリって知ってるか?」
 ――いきなり何を訊かれているんだ僕は?
 きらきらした瞳で見上げてくるカスパルをリンハルトは呆れ顔で見下ろした。
 パイズリというのはつまりあれだろう。乳房で男性器を挟んで刺激するあの行為のことだ。結合こそ伴わないものの性行為の一種であり、決していまのカスパルのように無邪気に口にするような言葉ではない。
 カスパルのことだ。その言葉が大声で発するべき言葉ではないということを知らずに口にしている可能性もある。
 となれば、この期待に満ちた目は「リンハルトなら答えを知っているだろう」という理由からかもしれない。そういうとき、カスパルは昔からこんな瞳を向けてくるのだ。
 リンハルトはそう判断し、カスパルに注意を促すのは後回しにした。幸いなことに、ここはリンハルトの自室だ。周囲に白い目で見られるという事態は回避できている。
「知ってるけど……君の口からそんな言葉が出てくるのは意外だったな」
 リンハルトはひとまず「知っているか」という問いにだけ答えた。
 なにがどうと具体的に説明するのは、恥ずかしいというよりめんどうだ。カスパルが説明を求めているのかどうか判断がつくまでは、わざわざこちらから口にすることもないだろう。
「それがよ、バルタザールが……」
「ああうん、経緯はだいたいわかったよ」
 リンハルトはカスパルがすべてを言い終える前に言葉を遮った。
 話の続きを聞かなくとも想像はつく。おおかた、バルタザールとの手合いの後で食事にでも行くことになり、そこで下世話な会話に花が咲いた――といったところだろう。
 カスパルはもともとその手の話題を好む性格ではないが、バルタザールもカスパルの性格はよく知っている。きっと、カスパルがうまく話題に食いつくように巧みに会話を盛り上げたに違いない。
 そしてまんまとその手管に乗せられて、カスパルはリンハルトに先程のような問いかけをしたというわけだ。
「バルタザールが『恋人にしてやったら喜ぶぞ』って言うんだけどよ、肝心のやり方を教えてくれねえんだよな。それは相手に訊けって言われて……」
「え、待って。カスパルはバルタザールに僕たちが付き合ってることを話したの?」
 聞き捨てならない発言が耳に入り、リンハルトはふたたびカスパルの言葉を遮る。
 聞き間違えでなければ、バルタザールは『恋人にしてもらえ』ではなく『恋人にしてやったら』とカスパルに言ったという。それはつまり、カスパルの恋人が男性であることをバルタザールが把握しているということだ。
 別に自分たちの関係を隠しているわけではないが、色恋沙汰なんてものは得てして好奇の視線を集めてしまう。穏やかに日々を過ごしたいリンハルトにとって、それを公にしたところで利益はないと言えた。
「そりゃ話すだろ? あいつはオレたちの仲間なんだからさ」
 カスパルは不思議そうな顔で首を傾げる。
「……まあ、確かにそうだね」
 悪意の欠片も見えないカスパルを咎める気も起きず、リンハルトは額に手を当てながら嘆息した。
 幸いなことに、相手は豪放磊落なバルタザールだ。自分たちの関係を知ったところで冷やかすような真似はしないだろう。これがドロテアやベルナデッタであれば少々めんどうな所だった。
「だからよ、パイズリってどういう意味なのか教えてくれ!」
 按摩か何かと勘違いでもしていそうなカスパルに、リンハルトはふたたび嘆息する。
 以前も似たようなことがあった。『白銀の乙女』の異名を持つアリアンロッドに対して、カスパルは「なぜ要塞なのに乙女なのか」という疑問を抱き、あちこちに聞いて回ったのである。
 このままではカスパルはずっと同じ質問を繰り返すだろう。仕方なく、リンハルトはカスパルに説明を始めた。
「あのね、カスパル。パイズリってのは胸の間に男性器を挟み込んで、皮膚で摩擦して射精に導く行為のことだよ。基本的に女性の乳房をもちいて行うものだけど、君は胸筋が発達しているからできるだろうとバルタザールは判断したんじゃないかな」
 懇切丁寧に説明してやると、カスパルは頷きながら話に耳を傾ける。
「なるほど、そういうことか。なら、オレにもできそうだな」
「ええ……? やる気出ちゃったの?」
 真相を知れば興味を失うだろうとリンハルトは踏んでいたのだが、カスパルはなおのこと興味を持ってしまったようだった。
「試してみようぜ。ほら、ちんこ出せよ」
「いや、僕そういう特殊嗜好の行為はちょっと……」
 乗り気なカスパルに対してリンハルトは及び腰になる。
 別に、リンハルトもパイズリに興味がないわけではない。カスパルとの性交が嫌というわけでもない。ただ、カスパルに男の急所とも言える性器を預けるという行為が危険すぎる予感しかしないのだ。
「いいから、早くしろよ」
「しょうがないなあ……」
 カスパルは有無を言わさずといった様子で上半身裸になると、寝台に座っていたリンハルトの前に膝立ちになった。
 ここで粘るのもめんどうだ。一度付き合ってやればカスパルも満足するだろう。ある種の諦念を抱いたリンハルトは、しぶしぶ股を開いてカスパルの体が割り込んでくるのを受け入れる。
 カスパルはリンハルトの下衣の前を寛げ、下着の中からまだ柔らかいままの陰茎を取り出した。それを片手で掴んで自らの胸の間に導き、両の胸で挟み込もうとする。
 しかし、勃起していない状態ではうまく挟むことができないらしい。柔らかい性器が胸の間から逃げるように滑るのに四苦八苦したあと、カスパルは眉間に皺を寄せてリンハルトを見上げた。
「これ、どうやったら挟めるんだ?」
 困惑した様子のカスパルにリンハルトは苦笑する。先程までの威勢はどこに行ったのか。
「まずは手や口を使って勃起させる必要があるんじゃないのかな。唾液で濡らしておけばその後の行為も円滑になるし」
「ふうん。けっこうめんどうなんだな」
 カスパルは納得したように呟くと、リンハルトのものを掌で包んで軽く上下に動かし始めた。
 カスパルの掌は胼胝だらけで硬いうえに、技巧的に上手いとはとても言えない。それでも何度かリンハルトとこういうことをしているという経験からなのか、責め立てる手の動きは意外と的確だった。
「おっ、大きくなってきたじゃねえか! よしよし、その調子だ!」
「もうちょっと色気ある言い方できないの、君」
 呆れながらも、リンハルトのものはすっかり膨張して天を仰いでいる。色気があろうとなかろうと、性器を扱かれているのだから反応してしまうのは仕方がない。
「えっと……唾液で濡らす、ってことは舐めるんだよな?」
 カスパルは確認するようにリンハルトを見上げたのちに、竿を握ったまま亀頭に舌を伸ばして先端をちろちろと舐め始めた。
 焦らすように小刻みに先端を舐めたかと思うと、カスパルの頭が下に移動して今度は陰嚢に吸い付いてくる。そこから裏筋に沿ってゆっくりと這い上がり、カリ首に到達するとその周囲をなぞるように舌を這わせていく。
 やがて鈴口から先走りが滲み出てくると、カスパルはそれを掌で性器全体に塗り広げて動きを止めた。勃起だけさせられたリンハルトの陰茎が、カスパルの掌の中で射精を急かすように脈を打っている。
「こんなもんか? ここからどうすりゃいい?」
「ええと……とりあえず胸で僕のを挟んでみて、それから寄せたり上げたりしてくれる?」
 なぜ勃起によって思考能力が低下した状態でこのような説明をしなければならないのか、これはそうやって焦燥感や羞恥心を煽る類の性行為なのだろうか――カスパルにそのような思惑がある可能性は低いものの、リンハルトはそう思わずにはいられなかった。
「こ、こんな感じか……?」
 カスパルは両手で左右の胸を持ち上げ、リンハルトの性器をその間に挟み込んだ。カスパルがぎゅう、と手に力を込めると、彼の大きな胸にリンハルトの陰茎が埋もれ、先端部分のみが外気に晒される。
 上質な筋肉は力んでいない時は柔らかい――という話は本当らしい。カスパルの大胸筋は柔らかく弾力があり、それでいて程よく引き締まっていた。そこに勃起した性器を挟み込まれると、張りのある肉が押し返してくる感覚がある。
「うおっ……なんか変な感触だな」
 カスパルは不思議そうにつぶやきつつも、自分の胸を揉みしだいて肉を寄せ集め、陰茎を挟んだまま上下に動かし始めた。
 慣れない手つきではあったが、胸の間を行き来するたびに竿が皮膚に擦られ、ぞくぞくとした快感がリンハルトの中に生まれる。カスパルの唾液やリンハルトの先走りが潤滑油の役割を果たしてくれたため、摩擦による痛みはさほど感じなかった。
「どうだ? 気持ちいいか?」
 リンハルトの股の間にいるカスパルが上目遣いに訊ねる。
「うん、まあ……いいか悪いかと言ったらいいかな」
 まだ「とてもいい」とまでは言い難く、リンハルトは言葉を濁した。
 正直に言えば、カスパルの愛撫は稚拙でお世辞にも上手とは言えない。しかし、その拙さが却って興奮を煽ってくるのも事実だった。
「もっと速く動いたほうがいいか?」
 カスパルはリンハルトの返事を待たずに動きを速める。胸の間で陰茎が擦られるたびにくちゅ、ぬちゃ、と粘着質な音が響き、ときおり胸の谷間から飛び出した亀頭の先端がカスパルの顔にぶつかった。
「うわ……お前のここ、すごく熱いな」
 カスパルは勃起して赤黒く変色したリンハルトの亀頭に頬を寄せる。そして胸を揺すりながら先端をぺろりと舐め上げ、リンハルトを見上げて悪戯っぽく笑った。
「ん、また大きくなった……オレの胸、そんなにいいのか?」
「……あのねえ、君、そういうのどこで覚えてくるの?」
 カスパルの淫猥な仕種を目の当たりにしたリンハルトは額に手を当てて嘆息する。
 どこで覚えたというわけではなく無意識なのだろう。昔からカスパルはこうだ。無意識に相手をその気にさせるような言動をしては、無自覚のうちに相手に好意を寄せられていた。
「どこで覚えたって、さっきお前が教えてくれたんだろ」
「いや、それのことじゃなくて……ああ、なんかもういいや」
 説明を諦めたリンハルトに対して、カスパルは解せないといった表情を浮かべている。それでも気を取り直して口を大きく開けると、リンハルトの亀頭をぱくりと咥え込んだ。
「ん、ふぅ……んむ、んっ……」
 カスパルは舌先で尿道口を弄びながら胸で竿を刺激し続ける。胸筋の弾力性を利用して根元から搾り取るように扱かれるたび、背中からぞくぞくと快楽が押し寄せてきてリンハルトの射精感が高まっていく。
「んぐ、う、ぐっ……! んっ、んむっ!」
 絶頂が近づき、リンハルトはカスパルの後頭部に手を添えてゆるゆると腰を動かし始めた。するとカスパルも察してくれたようで、胸を押し潰すように圧迫しながら尿道を強く吸い上げてくる。
「ごめん、そろそろ出るかも……」
「ん、いいぜ、出せよ」
 カスパルは顔を上げてリンハルトの亀頭を口から離すと、胸を上下させて竿全体を激しく扱いてきた。
「うあっ、ちょ、待って、激しすぎ……!」
 強烈な刺激に耐えきれず、リンハルトはカスパルの胸の中に大量の精液を放出する。カスパルの谷間に陰茎が埋まった状態での射精だったために、精液は飛び散ることなくカスパルの胸に受け止められた。
「うわっ……すごい量だな。それに濃い……お前、ちゃんと抜いてるのか?」
 精液をすべて受け止めたカスパルは、リンハルトが落ち着くのを待ったあと胸から手を離して中を見せてきた。
 どろりとした白濁がカスパルの大きな胸に溢れかえっている。その光景はあまりに背徳的で、同時にひどく官能的でもあった。
「まあ、それなりにはね。でも、最近は面倒になってきてたし……」
 リンハルトはぬるついた性器を拭って衣服を整えつつ、何気なくカスパルの下半身に目をやった。
 カスパルのものはすっかり勃ち上がり、衣服を窮屈そうに押し上げている。そういえば、リンハルトが一方的に愛撫を受けていただけで、カスパルは一度も達していない。
「あー……カスパル、したくなった?」
 自分だけ出しておきながらそれを無視するのも忍びなく、リンハルトはカスパルの髪に触れながら訊ねた。汗ばんだ額に前髪が張り付いており、それを後頭部に流すようにして梳いてやる。
「そう、だな……オレもしたくなったかも」
「僕が先にやりたがってたみたいな言い方やめてくれない? ……まあ、いいよ。僕がしてあげる」
 リンハルトはカスパルに寝台に上がるように促すと、革帯を緩めて下着ごと下衣を脱がせた。布の中に押し込められていたカスパルの性器が解放され、勢いよく跳ね上がって腹を打つ。
「うわ、元気すぎでしょ君の」
 カスパルの性器は完全に上を向いていており、鈴口からは透明な液体が滲み出ている。リンハルトはそれを握って上下に扱き、親指でぐりぐりと先端を刺激してやった。
「ん、くっ……ぁ、あ……ッ」
 雁の裏側を指先でなぞるようにしてやると、カスパルはぶるっと身体を震わせて切なげな声を上げる。かなり我慢していたのだろう。張り詰めた陰嚢がきゅうと縮み、カスパルの限界が近いことを知らせていた。
「あ、あ、それ、やばっ……っ!」
 リンハルトはカスパルの亀頭を手で包み込み、掌全体を使って小刻みに擦ってやる。とどめとばかりに先端の穴に爪を立てると、カスパルの尿道からどぷりと精液が噴き出した。
「ふう。これでお互い様だからね」
 カスパルの精液を掌で受け止めたリンハルトは、それを布で拭いながら事もなげに言う。
「お前、もうちょっと情緒とかないのかよ」
「その言葉、そのまま君に返すよ」
 呆れ気味のカスパルにリンハルトは溜め息混じりで返す。それからひとつ欠伸をし、汗で湿った敷き布に体を横たえた。
 ふとカスパルのほうを見ると、胸につきっぱなしになっていた精液を布で拭い取っている。少し乾いたそれが鍛えられた胸の上でてらてらと光っている様子は、カスパルの快活さとは不釣り合いで妙に艶かしく見えた。
「なんだよ」
「別に」
 リンハルトは目を閉じて素っ気無く答える。
 その態度が不満だったのか、カスパルはリンハルトの横に転がって背後から抱きついてきた。それに気づかないふりをして狸寝入りを決め込むリンハルトの背中に、なにやら温かい膨らみが押し付けられる。その感触の正体がカスパルの胸筋であると気づくのにそう時間はかからなかった。
「……なに、まだするの?」
「お前だって足りないんじゃねえのか?」
 カスパルはリンハルトの首筋や肩口についばむような口づけを落としていく。リンハルトを抱きしめていた腕はそのうち胸や下肢をまさぐり始め、ふたたび熱を持ち始めた性器に触れた。
「カスパル……っ、こら……!」
「お前のここ、また硬くなってきたな」
 リンハルトの耳元に唇を寄せたカスパルが意地の悪い笑みを浮かべる。
「仕方ないでしょ、生理現象なんだから」
「じゃあ、このまましようぜ」
 カスパルは硬さを取り戻しつつあるリンハルトの性器を握り込んだ。
 若いリンハルトのそれが完全に勃起するまでにさほど時間はかからなかった。カスパルは掌の中の性器が質量を増したことに笑みを浮かべ、悪戯するようにやわやわと愛撫する。
「やるのは構わないけど、僕は疲れたから君が動いてよね」
 リンハルトが観念するように仰向けに転がると、カスパルは膝立ちになって腹に乗り上げてきた。そのまま反り勃ったリンハルトの性器を跨ぎ、自身の後孔へと先端を導く。
「う……意外と難しそうだな、これ」
 意気揚々と跨ったものの、いざやるとなると怖気付いたのか、カスパルは膝立ちのまま動きを止めた。
 カスパルの後孔はまだぴっちりと閉じており、亀頭を押し当てたところで挿入はできそうにない。それでもカスパルは眉間に皺を寄せながら腰を浮かせ、性器に後孔を擦り付けてきた。
「カスパル、力づくでやっても痛いだけだよ」
「んなこと言ったって……ッ」
 カスパルは焦れた様子で後孔に亀頭を何度も押しつける。ぷっくりと膨らんだ入口がリンハルト自身の先端に擦られるたびに、カスパルの太腿がぴくりと震えた。
「あ、あっ、なんかこれ、変な感じだ……っ」
 粘膜同士が触れ合う感覚にカスパルの口から吐息が漏れる。
 先端だけを刺激されて辛いのはリンハルトのほうだった。カスパルの後孔に亀頭が擦られる刺激によってリンハルトの性器からは先走りが溢れ出し、後孔との摩擦によって粘着質な音を立てる。
「そんなんじゃいつまで経っても入らないよ」
 もどかしい刺激に耐えきれず、リンハルトはカスパルの腰を掴んでやんわりと引き寄せた。
「わかってっけど……ッ! はぁ、あ、あ……っ!」
 指摘を受けたカスパルはいったん動きを止め、それからゆっくりと腰を沈めてずぶずぶとリンハルトの性器を呑み込んでいく。しかし、半分ほど埋めたところで動きが止まり、中腰の体勢のまま苦しげに顔を歪めた。
「カスパル、大丈夫?」
「ん、なんとか……」
 カスパルはそう答えてはいるものの、脂汗を流しながら歯を食い縛っている。ろくに慣らしてもいないのだから無理もない。そもそも、そこは本来なにかを受け入れるための器官ではないのだ。
「ゆっくりでいいよ」
「ああ……」
 カスパルはリンハルトの腹の上に手をついて少しずつ腰を落としていった。結合は徐々に深くなっていき、竿の膨らみに沿ってカスパルの肉輪も広がってゆく。
「ふっ……ん、ぜんぶ入ったぞ」
 すべてが入りきったところでカスパルは大きく息をついた。
 カスパルの中は熱く湿っていて、リンハルトの陰茎に絡みつくように締め付けてくる。カスパルの呼吸に合わせて脈動する内壁が心地よくて、気を抜いてしまうとすぐにでも達してしまいそうだ。
「ん……動くからな」
 カスパルは短く宣言したのちに緩慢な動作で抽挿を始めた。初めは痛みに耐えるように目を閉じていたが、次第にその表情は蕩けていき、動きは大胆になっていく。
「あ、あ、あぁっ! いいっ……あっ!」
 カスパルが体を動かすたびに繋がった部分がぐちぐちと音を立て、泡立った体液が太腿を流れ落ちる。最初はぎこちなく上下していただけのカスパルの体は、いまは貪欲に快楽を求めて激しく揺れ動いていた。
「は、あ、あ、すげえ、気持ちいいっ」
「君、それしか言えないわけ?」
「うるせぇよ、お前だって、ん、こんなにしといて、なに言ってんだよ」
 カスパルは挑発的な笑みを浮かべて言い返すと、上体を前に倒してリンハルトに覆い被さるような体勢になる。そのまま前後に体を揺すり、性器が抜けそうなところまで引き抜いたかと思うと、勢いをつけて一気に根元まで挿入した。
「う、くぅ……ッ!」
「はっ、どうした? お前のほうこそ、声出てるぜ」
「それは、君が急に動いたりするからでしょ」
「へーえ、そういうことにしといてやるか」
 カスパルはにやりと笑ってさらに激しく腰を打ち付け、角度を変えながら何度も抜き差しを繰り返す。結合部では先走りや腸液が泡を立て、ブポッブポッと下品な音を響かせてリンハルトの鼓膜を震わせた。
「カスパル、ちょっと、激しすぎ……ッ」
「お前だって、いつもより興奮してるんじゃねえのか?」
「そりゃ、まあ、ね……ッ」
 カスパルは小刻みに尻を動かしながら、リンハルトの性器を自身の最奥へと押しつける。
 窄まった肉輪がカリ首に引っかかるたびに、リンハルトの目の奥にちかちかと火花のような光が散った。抽挿に伴う快感によってカスパルの性器も硬さを取り戻し、二人の腹の間で擦れては絶えず先走りを零している。
「は、あ、あ、あ……っ!」
「カスパル、そろそろ、僕、限界かも……っ、どいてくれないかなっ……」
 リンハルトはカスパルの腰を撫でて離れるように訴えるが、カスパルはリンハルトの首に腕を回して一層強く腰を押し付けてきた。
「ちょ、カスパル、聞いてるの……ッ!?」
「中に出しちまえよ。いいだろ?」
 カスパルはリンハルトの唇に軽く口づけてふたたび腰を振り始める。そのまま顔を下に移動させて胸元に舌を這わせ、汗の滲んだ皮膚を舐め上げた。
「やめ、カスパル、だめだってば!」
「なんでだよ。いいじゃねぇか。このまま一緒にイこうぜ」
「ほんっとに、君は……ッ!」
 カスパルの体内が精液を搾り取るように収縮し、その刺激に耐えきれずリンハルトはカスパルの中に射精してしまった。
「ん、はっ……熱っ……」
 熱い飛沫が体内に注ぎ込まれる感覚に、カスパルは小さく呟きながら身体を震わせる。そして、リンハルトの腹の上で自分も白濁を吐き出すと、脱力するように倒れ込んだ。
「あー、もう。中に出しちゃったじゃないか。お腹壊しても知らないよ」
「平気だって、これくらい」
 カスパルは悪戯っぽく笑い、後孔からずるりと性器を引き抜いた。栓を失ったそこからどろりと大量の液体が流れ出し、カスパルの太腿を汚していく。
「んっ……溢れてくるな」
 排泄感に似た感覚にカスパルはぶるりと背を震わせる。尻たぶを掴んでそこを押し開くと、はくはくと開閉する穴から残滓がとぷりと流れ出した。
「カスパル、自分でやってて恥ずかしくない?」
「いまさらお前の前で恥ずかしがることもねえだろ」
 カスパルは慣れた様子で後始末を済ませたあとふたたび寝台へと転がる。
「疲れた。寝ようぜ」
「やるだけやっといてそれ? まあ、いいけど。僕も眠いし……」
 カスパルを待っているうちにリンハルトにも睡魔が襲ってきた。リンハルトはひとつ欠伸をしたあと、隣で横になっているカスパルを引き寄せて抱き枕のように抱え込む。
「おい、苦しいって」
「僕の安眠の妨害をしたんだから、抱き枕くらいにはなってよ」
 不満を訴えるカスパルの声を聞きながらリンハルトは瞼を閉じる。
 鍛錬にしろ、かくれんぼにしろ、なんだかんだ言いつつカスパルに付き合ってしまうのは子供の頃から同じだった。めんどうだと思いつつ断ろうとも思わないのは、結局のところ、自分がカスパルに甘いからなのだろう。
 そんなことをぼんやりと考えながら、リンハルトは微睡みの淵に落ちていった。



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