あい、らしい2


「リンハルト……」
 寝台に寝転がるリンハルトの背中にカスパルがそっと抱きつき、甘えるように耳元に顔を寄せてくる。
 体の関係を持ってからと言うもの、カスパルはときおりこうしてリンハルトに行為をねだるようになっていた。
「ん……したいの? しょうがないなぁ」
 童貞に性行為を教え込んだのだから、こうなることはリンハルトも予想がついていた。だからよほど気分が乗らないとき以外は邪険にはせず、望まれるがままに応じている。
 カスパルの誘い方は実に稚拙だ。
 行為に持ち込むために雰囲気を作るだとか、リンハルトの機嫌を取るためになにかをするだとか……カスパルにそんな恋愛の駆け引きがわかるはずもなく、ただ甘えた声で名前を呼びながら体を擦り寄せてくる。
 リンハルトにはその稚拙さが可愛くて仕方がなかった。
 振り返ってカスパルの唇を塞ぐと、カスパルもそれが行為の合図だと察したらしい。嬉々としてリンハルトの口腔に舌を差し入れ、積極的に絡ませてきた。
「んぅ……ふっ……」
 唇を食んで吸って、舌を絡めて唾液を流し込むと、カスパルはそれを美味しそうに飲み干してくれる。
 「口付けの後に気持ちいいことが待っている」と学習したからなのか、しっぽを振る犬のような従順さで口付けに夢中になる姿はとても愛らしくていじらしかった。
 口付けながらカスパルの衣服を脱がしていくと、カスパルもそれに倣ってリンハルトの衣服に手をかける。
 口付けにしろ脱衣にしろ、カスパルはリンハルトがその行為を始めるまで自分からは行おうとはしなかった。まるで「待て」をされた犬のように、従順に次の行為を待っているのだ。
 おそらくは、リンハルトから「いい」という意思表示が出るのを確認しているのだろう。
 リンハルトが相手に牽引されることを望む性格であったならば、カスパルは「寝台における作法がなっていない」と言えるかもしれない。
 しかし、リンハルトにはカスパルのこの拙さがむしろ魅力的に思えた。
「んむ……ッ!?」
 口付けたまま指先で胸や腹筋を撫でると、くすぐったいのかカスパルは身を捩る。それでも構わずに肌の上を滑らせていくうちに、やがてカスパルは息を上げて身を震わせ始めた。
 素直すぎる反応に気をよくしてさらに手を下へと這わせ、形を確かめるようにしてゆっくりと陰茎をさすってやる。そこは既に熱を帯びており、少し刺激するだけですぐに硬度を増していく。
「ん……きつそうだね。一回出しておこうか」
「え……あっ!」
 下着ごと穿きものを取り去ると、カスパルの陰茎がぶるりと飛び出してきた。すでに勃起しているそれは先端から透明な雫を溢れさせ、自身の竿を濡らしている。
「あぁっ! はっ……っ」
 それを軽く握り込んで上下にしごいてやれば、カスパルは腰を突き出しながらびくんと背を反らせた。同時に陰嚢も持ち上がり、今にも精液を放出しそうなほど張り詰めていく。
「んっ……ふ……う……っ」
 絶頂が近いことを悟ったリンハルトは、カスパルの亀頭を口に含んだ。尿道口を舌先でこじ開けるように舐め回し、同時に会陰部をぐりっと指先で押し込んでやる。
「ひぁっ!? そこっ、なに、なんっ……!?」
 途端に、カスパルの口から悲鳴が上がった。
「ここ、知らない?」
「知ら……ないっ、変……だ……っ」
 未知の感覚に戸惑っているらしいカスパルに、リンハルトは笑みを浮かべてその場所にもう一度触れてやった。
「ここの内側にね、前立腺っていう器官があるんだよ。男性が肛門性交で快感を得られるのはそれのおかげなんだけど、肛門からではなく会陰部からでも刺激することができるんだ」
「ぜんりつせん……? んぅっ……!」
 説明しながらも、リンハルトは会陰部に添えた手に力を込めてぐっぐっと押し込んだり離したりを繰り返した。そのたびにカスパルは甘い声を上げて内腿を引き攣らせる。
「僕が君と性行為をしているときに得ている快感を、いまの君も感じているってことだね。どう、気持ちいいかい?」
「わかっ……わかんね……っ……んぅっ……へん……だけど……っ……ふ……ぅっ……」
「けど?」
「んっ……もっと……してほしい……かもっ……んぅっ……」
「ふふっ、カスパルは本当に素直だよね」
 リンハルトはカスパルの亀頭をぱくりと咥え、先端を舌先で愛撫しながら会陰部を揉み続けた。
「んっ……ふっ、んんっ……」
「もう出ちゃいそう?」
 カスパルは必死に首を縦に振る。
 その素直さが可愛くて、リンハルトは射精を促すように更に強くカスパルの陰茎を扱いた。
「いいよ、出しても」
「んっ、出るっ……うぁっ……あああッ!」
 促すように鈴口に舌先をねじ込みながらぐっと会陰部を押し込んだ瞬間、カスパルの体が一際大きく震えた。それと同時に熱い飛沫が喉の奥に叩きつけられ、独特の苦味がリンハルトの口内に広がる。
「はぁ……はぁ……っ……ふ……」
 カスパルは全身を弛緩させて荒い呼吸を繰り返していた。
 絶頂の余韻に浸るカスパルの頬に軽く口付けてから、リンハルトはカスパルの手をそっと掴む。そして、それを自らの股間に導いて内腿にそっと触れさせた。
「ねえ、今日はカスパルが慣らしてくれないかな? カスパルもこういうの、ちゃんとできるようになったほうがいいよ」
「慣らすって……ここを指でほぐすってことだよな……」
 カスパルは一瞬戸惑った表情を浮かべたが、すぐに意図を理解したようだ。普段リンハルトがするように香油で指を濡らしたあと、恐る恐るという様子で後孔に触れ、指先で軽くつついてくる。
「んっ……そうそう、ゆっくり入れてみて」
「わ、わかった……」
 カスパルはこくりと小さくうなずくと、慎重に人差し指を差し入れた。異物を受け入れる違和感にリンハルトが思わず眉根を寄せると、「痛いか?」と心配そうに声をかけてくる。
「ん……大丈夫、続けて」
「こうか?」
 慣れない動きではあるが、カスパルは懸命に指を動かして狭い肉壁を解していく。
 そんな姿ですらいじらしく見えてしまい、リンハルトは思わず笑みを零しそうになるのを耐えながらカスパルに助言をしていった。
「カスパル、指をもう一本増やしてみようか」
「お、おう」
「うん、それで中をぐるっとかき混ぜるようにして……んっ、そこ……もう少し奥……そう、そこ」
 カスパルの動きはぎこちないが、それでもリンハルトの言葉に従って後孔を解してゆく。
 情事の最中とは思えないような神妙な面持ちのカスパルがおかしくて、リンハルトはつい口角を上げてしまった。だが、前戯に集中しているカスパルは気づいていないようだ。
「んっ、そこっ……気持ちいいっ……あっ」
 カスパルの指先が偶然にも前立腺をかすめたようで、途端に強い快感が走り抜ける。
 カスパルは驚いたように目を丸くしたが、すぐにそこが「いいところ」であることを察したらしく、重点的にそこを責め始めた。
「んっ、あっ……そこっ……もっと触って……あっ……ん」
 リンハルトはカスパルの首筋にしがみついて耳元で甘く喘いだ。
 カスパルはリンハルトの声に応えようとさらに指を増やし、二本の指を使ってぐりぐりとそこを刺激し続ける。
「んっ……いい、よっ……あっ……ね、前も触って?」
 リンハルトはカスパルの手を取って自身の陰茎に導いた。すぐに意図を察したらしいカスパルはリンハルトのそれを掌で包み、ゆるゆると上下に扱き始める。
「んっ……ふっ……う……あぁっ!」
 前後から与えられる快感にリンハルトは背を反らせて体を震わせた。刺激によって後孔がきゅっと締まり、内壁がカスパルの指の形をより明確に感じ取る。
「んっ、カスパル……もう挿れてもいいよ……んっ」
「えっ……こんなんでいいのか?」
「平気だから、ね? 早く僕の中にカスパルのを挿れてほしいな」
 ねだるように腰を揺らすとカスパルはこくりと頷いた。リンハルトの後孔を解していた指を引き抜き、代わりに己の怒張をあてがう。
「じゃ、じゃあ……いくぞ?」
「ん……おいで?」
 カスパルはゆっくりと体重をかけ、少しずつ自身を埋め込んでゆく。充分に慣らされたそこは痛みを感じることはなく、カスパルのものを悦んで受け入れた。
「あっ……ん……」
 カスパルの亀頭がゆっくりとリンハルトの中に押し入ってくる。リンハルトの体内が馴染むまで待ってくれるようで、カスパルはなかなか挿入を進めようとはしない。
 既に何度か身体を重ねているが、カスパルは毎回こうだった。
 気遣いはありがたいのだが、このじれったさはどうにかならないものだろうかとリンハルトは思う。とはいえ、そういう優しさが好きなのも事実なので、文句を言うつもりはないのだが。
「カスパル、もう動いても大丈夫だよ」
「そ、そうなのか? 痛くないか?」
「うん、痛くないから」
「ならいいんだけどよ……」
 カスパルは少し不安げにしていたが、やがて意を決したように抽送を始める。
 最初はぎこちなかった動きも回数を重ねるごとに慣れてきたようで、今では円滑に動けるようになっていた。
「はぁ……はぁ……っ……ふ……」
 カスパルは額から汗を流しながら必死に腰を動かしている。その姿を見ていると愛おしさが込み上げてきて、リンハルトはカスパルの頬にそっと手を添えた。
「んっ……気持ちいい……よっ……」
「ほんとか? オレもすっごくいいぜ」
 そう伝えるとカスパルは嬉しそうに微笑んで唇を合わせてくる。
 カスパルの性技ははっきり言って拙い。前戯もろくに知らず、抽挿も単調で技巧らしきものは何も持ち合わせていない。
 だが、こうして一生懸命に自分を求めている姿を見ると、リンハルトの胸は不思議と満たされていった。
 おそらく、リンハルトがカスパルと性行為をするのは快楽を得ることが目的ではなく、彼を愛することが目的なのだ。そのための手段として性行為があるだけで、そこに技巧など必要ない。
 そういうことなのだろうとリンハルトは思うことにしていた。
「カスパル、もっと激しくしていいよ」
「でも、お前がつらいんじゃねえかと思って……」
 力加減がわからないからこそ、過度に加減をしてしまうのだろう。カスパルは遠慮がちに眉根を寄せてリンハルトの顔を覗き込んだ。
「僕は平気だよ。君が気持ち良くなってくれる方が嬉しいんだ」
「けどよ……」
「言い方を変えよう。僕は激しいほうが好きなんだ。僕はこうして君に付き合ってあげてるんだから、僕のわがままも聞いてくれたっていいじゃないか」
「う……わかったよ。けど、つらかったら言ってくれよ?」
 カスパルは少し迷う素振りを見せたものの、リンハルトの言葉に従って律動を再開した。
 リンハルトの膝裏を抱えてぐっと腰を押し付け、深い位置まで挿入する。そしてぎりぎりまで引き抜いてはまた奥深くへと突き刺し、何度も繰り返しリンハルトの体内を穿った。
「んっ……あっ……ん……はぁっ……あっ……ん」
 カスパルの剛直で内壁を擦られるたびに甘い快感が生まれ、結合部からはじゅぷじゅぷという淫猥な水音が響く。
 カスパルは荒い呼吸を繰り返しながらも、リンハルトの感じる場所を探り当てようと懸命になっていた。
 慣れないなりに相手を気持ちよくさせようとしている姿がいじらしく、リンハルトはカスパルの腰に脚を絡めて引き寄せる。
「カスパルっ……んっ……もっと奥まで入れても……大丈夫だからっ……」
「こ……こうか?」
「んっ……もっと強く突いて……あっ……ああぁっ!」
 リンハルトの指示通りにカスパルが強く腰を打ち付けると、先端が最深部にまで到達した。瞬間、今まで感じたことの無いような強烈な快感に襲われ、リンハルトは思わず悲鳴にも似た声を上げる。
「あぁっ……んっ……そこっ……いいっ……あぁっ!」
 カスパルは一心不乱といった様子でひたすら腰を打ちつけ、リンハルトの最奥を突き続けた。カスパルの陰茎が激しく出入りするたび、亀頭が内壁を擦って強烈な刺激を生み出す。
「あぁっ……あ……すごっ……いっ……いいっ……あぁっ」
「はぁっ……はぁっ……んっ……リンハルトっ……」
 限界が近いらしく、カスパルは更に激しく抽挿を繰り返した。先ほどよりも強い力で内壁を擦られ、息が詰まるほどの快感が全身を走り抜ける。
 絶頂が近いことを察したリンハルトが自分の性器に手をかけようとすると、それに気づいたカスパルが代わりに握り込んで上下に扱き始めた。
「んっ……一緒にイきたいの? ふふ、可愛いね」
「う……うるせえよ! あっ……くっ……」
 リンハルトがくすりと笑うと、カスパルは照れ隠しのように反論する。そんな姿が愛おしくて、リンハルトはカスパルの首筋に腕を回してぎゅうっと抱き寄せた。
「あっ、もうっ、出るっ……!」
「んっ……僕も、もうだめかもっ……はぁっ……」
 カスパルが一際強く打ち付けた瞬間、二人はほぼ同時に絶頂を迎えた。カスパルはリンハルトの体内に熱い飛沫を注ぎ込み、リンハルトもまた自らの腹の上に精液を吐き出す。
「はぁっ……はぁ……んっ……」
 カスパルは余韻に浸るように何度か腰を動かしたのち、脱力したようにリンハルトに凭れかかってきた。
 リンハルトを押し潰さないように重心を調整しているのだろう。のしかかってくるカスパルの重量はさしたるものではなかった。
「んっ……いっぱい出たね」
「わ、悪ぃ……」
「どうして謝るのさ」
 リンハルトはくすくすと笑いながらカスパルの頭を撫で、首元に顔を寄せて唇を押しつけた。汗ばんだ肌に軽く吸い付いて刺激を与えると、カスパルはくすぐったそうに身を捩る。
 このまま痕をつけてしまおうか――リンハルトは一瞬だけそう考えたが、すぐに思い留まった。
 カスパルは自分の所有物というわけではないのだ。勝手に痕など付けて、誰かに見咎められたりしたら困らせることになるだろう。
 いや、カスパルのことだからその痣がどういう意味を持つかわからない可能性もあるが……とにかく、あまり目立つ場所に痕を付けるのは好ましくない。
「ね……今日はカスパルのお尻を弄ってもいい?」
「えっ?」
 ふと思い立って、リンハルトは自身に挿入したままのカスパルに訊ねてみた。きょとんとするカスパルをよそに、背後に手を回して肉付きのいい尻を撫でる。
 筋肉質なカスパルの尻には女性のような滑らかさはないが、質のいい筋肉ならではの柔軟性があった。
 それを撫でて張りのある肌の感触をひとしきり堪能したあとは、やわやわと揉み込んで大臀筋の膨らみを楽しむ。
 それから谷間に指を滑らせて窄まりを指先でつつくと、カスパルは驚いたようにビクッと体を震わせた。
「カスパルのここ、いっぱい可愛がってあげたいな。駄目かな?」
「いや、駄目じゃねーけど……可愛がるって?」
 後孔の縁に沿って円を描くようになぞりながら問いかければ、カスパルは困惑したように首を傾げる。
 その反応に満足しながらリンハルトはカスパルの耳元に唇を寄せた。
「さっきも説明したでしょ? お尻の中にもね、気持ちよくなれる部分があるんだよ。前と後ろの両方で気持ちよくなれたらもっと楽しいと思うんだ」
「お、おう……そりゃあ、まあ、そうだな……」
 カスパルは曖昧に相槌を打ちながら視線を泳がせる。おそらく、未知の快楽への期待と不安がせめぎ合っているのだろう。
 そんなカスパルを安心させるべく、リンハルトは殊更優しい声音を意識して語りかけた。
「……ね? 僕に身を委ねてくれないかな。とっても気持ちよくしてあげるよ」
「わ……わかった」
「ありがとう。大好きだよ、カスパル」
 リンハルトはちゅっと唇に触れるだけの口付けをしてカスパルの尻から手を離す。そして寝台の脇の小棚から小瓶を取り出すと、栓を開けて中身をカスパルの双丘の間に垂らした。
「ひぅ……冷てぇ……」
「ごめんね。でもすぐに温まるから」
 いきなり指を入れることはせず、香油のぬめりを利用して按摩するように穴の周辺を優しく撫で回す。
 肛門の周りを円を描くようになぞったり、ときおり爪を立てて引っ掻いたり……緩やかな愛撫を繰り返すうちに、徐々にではあるがカスパルの後孔は綻んできた。
 それを見計らい、リンハルトは人差し指の先端を差し入れる。
「あぅっ……」
「痛い?」
「だ、大丈夫……続けてくれ……」 
 あやすようにカスパルの額や頬に口付けながら、リンハルトはゆっくりと指を奥へ進めていく。
「はぁっ……う……」
 第二関節まで埋めたところでぐるりと内部をかき混ぜると、カスパルは苦しげに息を吐いた。
「カスパル、深呼吸できる?」
「ふー……はぁ……」
「いい子だね。そのまま力を抜いてて」
 カスパルが言われた通りに深く呼吸をするのに合わせて、リンハルトは更に奥へと指を侵入させる。
 そのうちに根元近くまで飲み込ませることができたので、今度は引き抜いて再び押し入れる動作を繰り返した。
 最初は異物を押し出そうと内壁がぎちぎちと締まっていたが、何度も出し入れしているうちに段々と力が抜けてきた。
 カスパルの声色にも甘い響きが含まれるようになり、表情も苦痛とは程遠いものに変わっていく。
「あっ、はぁ、あっ……」
「カスパル、わかる? 君の中、すごく柔らかいよ」
「うぁ……わか、んねぇ……腹ん中が熱くて、じんじんする……」
「それが気持ちいいって感覚なんじゃないかな。ほら、また中が震えたよ」
 くん、と指を曲げて前立腺の裏側を刺激してやると、カスパルは背中をしならせて喘いだ。
 その様子に興奮を煽られながらも、リンハルトは慎重にカスパルの後孔を広げていく。頃合いを見て中指も追加すると、カスパルは小さく喘ぎながらも健気に受け入れてくれた。
「カスパルのまた大きくなってきたね。僕の中で君のが膨らんでるのがわかるかい?」
 一度射精して萎えていたカスパルの性器が体内で膨らむのを感じ、リンハルトは頬を緩める。
 カスパルにも伝わるようにと後孔に力を込めると、その刺激でカスパルの性器がぴくりと動き、同時にリンハルトの指を受け入れていたそこが締まるのを感じた。
「ふふ、感じるとお尻の穴がきゅってなるんだね。可愛い」
「うぁ……言うな、ばか……!」
 羞恥に耐えかねてリンハルトの肩口に顔を埋めるカスパルだったが、耳たぶまで真っ赤に染まっているためあまり隠れていない。
 リンハルトはその愛らしさに微笑みながら、カスパルの耳に舌を這わせた。
「あッ……!」
 耳の裏を舐め上げ、耳たぶを食んで吸い上げる。その間も指の動きを止めることはなく、三本の指でばらばらに動かしたり、ときおりまとめて突き上げたりした。
「ここ、コリコリしてるのわかるかな? これがカスパルの気持ちいいところだよ」
「ひぃっ! あッ、だめだっ、そんなにしたらッ……」
 直腸内のしこりを指先で挟まれ、カスパルの体がびくびくと跳ねる。
「あ、ああッ……や、出るッ……~ッ!」
 カスパルは悲鳴じみた声を上げながら二度目の絶頂を迎えた。リンハルトの中に収まったたままのカスパルの性器から精が放たれ、じわりとした熱がそこから広がる。
「はーっ……はーっ……」
 カスパルはぐったりと脱力し、荒く呼吸を繰り返していた。
 リンハルトはカスパルの中から指を引き抜き、汗で張り付いた前髪を払ってやる。
「気持ちよかった?」
「ん……」
 カスパルはリンハルトに凭れながらこくりと首を縦に振った。
 幼い子供のようなその仕草が愛らしくて、リンハルトは前髪を払った手でそのままカスパルの後頭部をそっと撫でる。
 呼吸が落ち着いたカスパルは性器を抜くと、リンハルトの横に転がって甘えるように抱きついてきた。
「その……リンハルトもオレの中に挿れたい、のか?」
 カスパルはリンハルトの肩に顔を埋めたまましどろもどろに口を開く。
 そんな言葉を口にすることすら恥じらうカスパルの姿は、リンハルトの庇護欲を掻き立てるには充分だった。
「うーん……興味はあるけど、カスパルがしたくなったらでいいよ。無理強いはしないから」
「そうなのか? でも……なんか、公平じゃないだろ」
 リンハルトの返答にカスパルは少し不服そうな表情を浮かべている。どうやら自分ばかりが挿入側になっていることに引け目を感じているらしい。
 リンハルトが挿入側であれば、カスパルの技巧が拙くとも快感を得ることはできるだろう。自分の腕の中で貫かれてよがるカスパルもまた愛らしいに違いない。
 しかし、それはリンハルトにとってさほど重要なことではなかった。
「君が気持ちよくなってくれる方が嬉しいって言ったでしょ? たぶん、君のそこはまだ性器の挿入では快感を得られないと思うし」
「なら、いいんだけどよ……」
 カスパルが納得しかねるといった様子で眉根を寄せたので、リンハルトはカスパルの前髪をかき上げて額に口付ける。大抵のことはこれで誤魔化されてくれるのがまたカスパルの可愛いところでもあった。
「ふぁ……なんか眠くなってきたぜ」
 カスパルはくあ、と猫のように欠伸をして寝台に寝そべる。食べたらすぐ寝る子供のような行動に、リンハルトは再び笑みを漏らしてしまった。
 カスパルはいつもそうだ。行為のあとは必ずと言っていいほど眠そうにしている。体力がないわけではなく、むしろかなりあるほうなのだが、終わった後にはなぜか睡魔に襲われるらしい。
「疲れたんだろうね。寝ちゃってもいいよ、後始末はしておくから」
「いや、いつもそれだと悪いし……」
 働かざるもの食べからず、というような価値観を持つカスパルにとって、後始末を他人に任せっぱなしという状況は居心地が悪いのだろう。
 とはいえ、カスパルに任せては効率が悪いどころかリンハルトの仕事が増えそうですらある。自分でやるのは確かに手間だが、今はそれがリンハルトにとってもっとも楽な選択肢と言えた。
「そう? じゃあカスパルが僕のここに指を入れて掻き出してくれるんだ?」
 リンハルトはカスパルの手を取って自分の秘所に触れさせる。行為後のそこは未だ熱を持ってひくついており、カスパルの指が少し触れただけでも敏感に反応を示した。
「あ……いや、これはちょっと恥ずかしいな……」
 カスパルは頬を赤らめ、戸惑うように視線を泳がせる。
「だったら大人しくしててよ。君がもうちょっと慣れてきたらそのときは任せるから」
「う……わかったよ。ありがとな」
 カスパルは観念したのか礼を言うと、そのまま目を閉じて眠りに落ちてしまった。
「……まあ、別に今のままでも僕は構わないんだけどね」
 寝息を立てるカスパルの髪を優しく撫で、リンハルトはぽつりとつぶやく。
 体が成熟してもなお少年のような拙さを残すカスパルのことが、リンハルトは愛おしいと思う。それは庇護欲なのかもしれないし、あるいは、別の感情なのかもしれない。
 リンハルトはその答えを求めぬまま、自分もまた眠りにつくべく目を閉じた。



 作品一覧に戻る