歌姫の戯れ


 ドロテアの綺麗な指が、ちょん、と亀頭の先端に触れては離れてゆく。ときおり尿道を爪先でくじいては、ぴくんと反応するカスパルを見てくすりと笑う。
 そんなもどかしい愛撫を執拗に続けられていた。
 カスパルの性器はすでに痛いほど張り詰めている。先端からはとめどなく先走りが流れ出ていて、それが亀頭に塗りたくられているせいでぬるぬるとよく滑った。
 気持ちいいけれど物足りない。イキたいけどイケない。あと少し刺激を加えれば射精できるはずなのに――その絶妙な加減を見極めるようにして、ドロテアは焦らし続けている。
「ドロテアっ……」
 カスパルは耐え切れず、ドロテアにねだるような視線を向ける。
 「そういう遊び」の一環として、カスパルの両手首は後ろ手で縛られた状態だった。衣服もほとんど着用したまま、胸と性器だけを露出した状態で寝台に腰をかけている。
「だーめ。まだ我慢してね?」
 カスパルの背中に豊満な胸を押し付ながら悪戯をしていたドロテアは、カスパルの乳首をくりくりと捏ねながら耳元で囁く。
 指先でくるりと乳輪の膨らみをなぞり、ぷくっと膨らんだ小さな先端を指の腹で押し込む。赤く熟れたそれを指で挟んできゅっと摘み上げると、カスパルの口から堪えきれなくなった嬌声が漏れた。
「ふふっ、カスパルくんっておっぱい弄られるの好きよね♡ こんなに硬くしちゃって……また大きくなったわよ?」
「うぁっ! あ、ああっ……!」
 ドロテアは爪先でカスパルの乳首をひっかきながら、もう片方の手で屹立した性器を扱き上げる。二箇所から同時に与えられる快感に、カスパルは喉を逸らして情けない悲鳴をあげた。
 いつからこんな関係になったのだったか――訓練か何かで勃起してしまっているのをドロテアに発見され、なし崩しに抜かれてしまったのがきっかけだったような気がする。
 よく考えれば、あれは強姦とまでは行かなくとも何かの犯罪になるのではないかとカスパルは思うが、いまとなっては過ぎた話だった。
 ドロテアはカスパルの陰嚢を下から持ち上げるようにして揉み込んだかと思うと、今度は裏筋を強く擦ってくる。ぞくりとした感覚が背骨を走り抜け、カスパルは喘ぎながら大きく身体を震わせた。
「ああッ! やめろっ、そこはダメだって……!」
 カスパルの反応を楽しむように、ドロテアの手の動きが激しくなる。
 指で作った輪で雁首をひっかけるようにして上下させつつ、もう一方の手で亀頭を責め立てる。敏感な部分への絶え間のない刺激に、カスパルの理性はぐずぐずに溶けていった。
「ドロテアっ、もう無理だっ……」
「ふふっ、可愛くおねだりできたらイカせてあげようかな? ほぉら、がんばれ♡ がんばれ♡」
 ドロテアはカスパルの耳に唇を寄せ、甘く蕩けるような声でささやく。同時に親指で鈴口を虐められ、カスパルは射精感に身震いをした。
「ひぅ……! 早くっ……頼むからっ……!」
 雁の裏側を指先でひっかかれ、カスパルの身体がビクビクと震える。いいところを的確に刺激してくるのにイかせてはもらえず、あまりの苦しさに目尻には涙が浮かんでいた。
「もう、違うでしょ? ほら、ちゃんと『お姉ちゃん』にお願いしてみて?」
 ドロテアの手淫はさらに激しくなっていく。竿の部分を強めに扱かれたかと思うと、今度は雁首を中心に集中的に攻めてくる。緩急をつけた巧みな動きに翻弄され、カスパルはもはや限界だった。
「うう……おねえ、ちゃん、イきたいっ……」
 カスパルは要求された言葉を歯切れ悪く口にする。
 いつかドロテアにせがまれて「一度だけ」という約束で呼んだその呼称を、ドロテアはいたく気に入ったらしい。一度だけという約束が守られることはなく、ドロテアはときおりこうしてその呼称をカスパルに使わせる。
「あら、それじゃあよく聞こえないわ。もっと大きな声で言ってくれないと」
「……っ、お姉ちゃん、イきたいです……お願いしますっ……!」
 羞恥心などもはや消し飛んでいた。とにかく早く楽になりたい一心で、カスパルは半泣きでドロテアに懇願する。
「ふふっ、よくできました♡ いい子にはご褒美をあげないとね♡」
 ドロテアはカスパルの性器をぎゅっと握ると、搾乳するように手を動かし始めた。そしてもう片方の手では乳首を摘まんだり引っ掻いたりしながら、ときおり思い出したかのように強く押し潰す。
「んっ、ああぁっ! むね、やめてくれっ……」
 ドロテアの手を振り払うようにカスパルは身を捩る。ドロテアの愛撫が巧みで気持ちいいのは確かなのだが、胸を弄られるのは男として大切な何かを失っていくようでどうにも苦手だった。
「可愛い声でそんなこと言ってもおねだりしてるようにしか聞こえないわよ? カスパルくんはおっぱいとおちんちんの両方を一緒に弄られるのがいちばん好きだものねえ。いっぱい虐めてあげるからね♡」
「うぁ、あっ! だめだっ、出るっ……!」
 カスパルの限界を察したのか、ドロテアは手のひら全体で性器を包み込んで一気に扱く速度を上げた。射精を促す激しい愛撫に、カスパルは為す術もなく絶頂へと押し上げられてしまう。
「ふふっ、たくさん出たわね♡ ひょっとして溜まってた?」
 ドロテアはカスパルの性器から手を離すと、白濁が絡みついた指を目の前で見せつけるように舐めあげた。恥ずかしがって顔を背けるカスパルをよそに、ドロテアはさらに行為を続ける。
「今度はここで気持ちよくさせてあげるわね♡」
 ここ、と言いながらドロテアが触れたのはカスパルの後孔だった。カスパルの体が驚きに跳ね、怯えた水色の瞳がドロテアに向けられる。
 カスパルはいたって健全な性嗜好の持ち主であり、そこを排泄以外の目的で使用したことはない。
 戦場であれば男同士で……という話は珍しくもないし、カスパル自身も何度か同性に言い寄られたことはある。とはいえそれを受け入れたことはなく、カスパルにとってそこはまったく未知の領域だった。
「大丈夫よ。力を抜いてちょうだいね」
 ドロテアはカスパルを安心させるように微笑むと、手に取った香油を窄まった後孔へ塗り始めた。たっぷりと潤滑剤を含んだ中指が、つぷっと音を立てて未開の穴へと挿入される。
「う……くっ……!」
 本来受け入れる器官ではない場所への挿入に、カスパルは眉根を寄せて不快感を示した。ドロテアの華奢な指一本で痛みを感じることはなかったが、そこを広げられる違和感に太腿が震えてしまう。
「苦しい? でもすぐに慣れるわ」
 ドロテアは慎重にカスパルの内部を探っていく。指先を軽く折り曲げたり、ぐるりと円を描くように動かしたりするたびに、カスパルは小さく声を漏らした。
「ふぅっ……ん、ううっ……」
 やがて二本目の指が挿入され、さらに奥深くまで入り込んできたところで、ドロテアの指が内壁のある部分をぐりっと押し込む。
「ひっ!?」
 突然の強い刺激にカスパルは大きく目を見開いた。今まで感じていた圧迫感とは異なる、ぞわりとした感覚が全身を襲う。
「あ、あぁっ! そこ、やめろぉ……!」
「ふふっ、カスパルくんのいいところみーつけた♡」
 ドロテアはカスパルの反応に笑みを浮かべると、その一点を集中的に責め立てた。
 指の腹で押し潰したり、掠める程度に撫でてやったり、緩急をつけてそこを刺激する。曲げた関節にそこをひっかけながら指を引き抜くと、カスパルはひときわ大きな嬌声を上げた。
「やだ、やだっ! ああああッ!」
 身体の奥底から湧き上がる未知の快感に恐怖を覚え、カスパルは悲鳴じみた声をあげる。ドロテアの手は止まるどころかますます激しさを増していき、容赦なく前立腺を押し潰してきた。
「ひぅ! ああぁッ……! やあっ……」
「ふふっ、可愛いわね。お尻の穴きゅんきゅんさせちゃって」
 カスパルは腰を引いて逃れようとするが、ドロテアはそれを許さなかった。片手でカスパルの腰をがっちりと押さえつけ、空いた手で執拗に後孔を責め続ける。
「カスパルくん気づいてる? お尻の穴いじられておちんちん大きくなってるわよ?」
「え? う、嘘だ……」
 カスパルは自分の下半身に目をやる。ドロテアの言葉通り、彼の陰茎は再び硬度を取り戻していた。
「うふふ、男の子なのにお尻に入れられて感じるなんてとんだ変態さんね」
「ち、違う……! これは、その……」
「はいはい、言い訳はいいから。いまはお姉ちゃんに身を任せなさい」
 ドロテアは三本目の指を挿入すると、カスパルの前立腺を指の腹で転がすように刺激する。更には空いた方の手で戸渡りを圧迫し、内側と外側からそこを責め立てた。
「やぁっ、あっ! ああぁっ!」
「ね、女の子みたいに後ろだけでイッちゃおうか?」
 耳元で囁かれてカスパルはびくりと体を震わせる。同時に中のしこりを強く押し込まれ、あまりの快楽に視界が真っ白に染まった。
「ひぁ、ああぁっ! イクっ! イくうぅっ……!」
 カスパルは喉を仰け反らせながら絶頂を迎えた。体は痙攣するように震えているものの、性器からは何も出ていない。男にも射精を伴わない絶頂があることを、カスパルはこのとき初めて知った。
「ふふっ、空イキしちゃったのね。可愛い♡」
 ドロテアはカスパルの額にちゅっと口づけを落としてから指を引き抜く。質量を失ったそこがひくんと疼くのがわかり、カスパルはいたたまれない気分になってしまった。
 ようやく終わった責め苦にカスパルの体からは力が抜け、ぐったりと寝台に横たわる。
「あら、疲れちゃったかしら? じゃあ今日はこのくらいにしておきましょうね」
「えっ……」
 ドロテアはカスパルの拘束を解いてから乱れた衣服を整えると、呆然とするカスパルを残して部屋を出ていった。
 後ろまで開発されてしまったカスパルが童貞を卒業できたのは、これよりさらに後のことである。



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