ごめん、可愛い


「まったく、君はいつも無茶をするよね」
「痛っ……」
 カスパルの右腕に処置を施しながらリンハルトは何度目かの溜め息をつく。
 先日の戦で先陣を務めたカスパルは、格闘部隊を引き連れて敵陣に切り込んだ。その際に利き腕を骨折したらしく、帰還したときには腫れ上がった右腕をぶら下げていたのである。
 カスパルが無茶をするのは毎度のことだし、それによって帝国軍に何らかの利益が発生しているのも確かだ。そうであっても、もう少し自分の命を大切にしてもいいだろうとリンハルトは思わずにはいられない。
「はい、終わり。しばらくは鍛錬もできないし不便だろうけど、君は不便を味わっておいたほうがいいよ」
 そうすれば少しは自分の身を大切にするようになるだろう――というのがリンハルトの理屈だったが、そこまでは口にしなかった。
 カスパルは「なんだよ、それ」と唇を尖らせる。
 利き腕を布で吊っているカスパルは食事すらうまく行えず、左手でなんとか食器を使うもののぽろぽろと零してしまっていた。
 リンハルトは「ね? 怪我すると不便でしょ」と指摘しながらカスパルの持っている食器を受け取り、食事を口まで運んでやる。
 不服そうな表情をしながらも大人しく口を開けるカスパルは雛鳥のようで愛らしく、これは悪くないかもしれない……などとリンハルトが思い始めた頃のことだった。

「カスパル、入っていい?」
 カスパルの容態を確認するために兵舎の二階を訪れたリンハルトは、彼の私室の扉を軽く叩いた。
 いざというときの保険として、リンハルトとカスパルはお互いの部屋の鍵を所有している。とはいえ、あくまで保険なので基本的には無断で部屋に入るようなことはしていなかった。
 カスパルの返事は聞こえてこない。
 寝ているのか、それとも発熱などをして返事をする気力がないのか――後者であったなら放っておくわけにはいかないだろう。
 リンハルトは「大丈夫かい? 入るよ」と断ってから扉をそっと開く。
 結果として、カスパルは起きていた。だが、行為に熱中するあまりリンハルトの声が聞こえなかったようだ。
 行為――というのはつまり自慰である。
 カスパルは下半身を露出したまま寝台に腰をかけ、左手で反り立った性器を握っていた。
 リンハルトが見ていることにも気づかず、カスパルは無我夢中で手を動かしている。性器が摩擦されるたびに先走りがくちゅくちゅと音を立て、粘着質な水音が室内に反響した。
 快感に堪えるように閉じられた瞳や、ふっ、ふっ、と押し殺したような吐息――普段の快活なカスパルからは想像もできない艶かしい姿に、リンハルトの背中にぞくりとしたものが走る。
「カスパル」
 リンハルトはそっとカスパルに近づき、息を吹きかけるようにして耳元で囁いた。
「へ!? あっ……?」
 絶頂に至ろうとしていたらしいカスパルはびくりと肩を揺らしてリンハルトを振り返る。自慰を目撃されて羞恥を覚えたのか、カスパルの頬がかあっと真っ赤に染まり上がった。
「あ、その……これは」
 慌てふためく姿に嗜虐心が刺激され、リンハルトはにまりと唇を吊り上げる。
「カスパルも自慰することあるんだね。そういうの、興味ないのかと思ってたよ」
「う……そ、そりゃあ生理現象なんだから仕方ねえだろ」
「うん、仕方ないよね。だから恥ずかしがらなくてもいいんだよ」
 リンハルトは寝台に乗り上がって宥めるようにカスパルの背中を抱き締めた。そのまま繰り返し耳元や首筋に口づけを落とすと、腕の中の身体が震えるのがわかる。
「ふふ、カスパルの身体は正直だね」
 リンハルトは上機嫌に呟きながらカスパルの性器に触れた。
 立ち上がったそれは熱を持って震えており、先端からだらしなく先走りを溢れさせている。その先走りを指に絡めるようにして先端を撫で回し、軽く爪を立ててぐりぐりと尿道を刺激した。
「あっ……ひ、っ……り、リンハルト……」
 カスパルは力無くリンハルトの手を握るだけで引き剥がそうとはしない。それどころか、更なる愛撫をねだるように腰を揺らしていた。おそらくは無意識なのだろう。
 切羽詰まったカスパルの声や仕種に、リンハルトは庇護欲とも嗜虐心とも取れる感情が湧くのを感じていた。もっと気持ちよくしてあげたい。もっと乱れる姿を見てみたい。
「ぅあっ……!」
 リンハルトはカスパルの性器をきゅっと握り込み、そのまま上下に扱き始めた。輪にした指で雁の裏側を摩擦すると、カスパルの身体が大袈裟なほどに跳ね上がる。
「ひっ……あっ! あ、あ……っ」
 強い快感から逃れようとカスパルが腰を引くが、リンハルトは構わずに手を動かし続けた。カスパルもすぐに観念したのか、リンハルトに身体を預けて甘い吐息を零し始める。
「可愛い……可愛いね、カスパル」
「んっ……ぁ、あ……」
 耳元で何度も囁きながら手を動かしているうちに、カスパルの太腿がぴくぴくと痙攣し始めた。日に焼けた逞しい太腿が快感に打ち震える様子が愛おしく、リンハルトはたまらず目を細める。
「リンハルトっ……あ、なんか……変だ……っ」
 カスパルは困惑した様子で腰を揺らし、涙を浮かべてリンハルトを見上げた。初めて受ける他人からの愛撫に戸惑っているのだろう。しかし身体は素直なもので、先端からは止めどなく蜜が溢れていた。
「あ、あ……っ、リンハルト……!」
「……ね、自分の気持ちいいところわかるでしょ? 僕に教えてよ。もっと気持ちよくしてあげるからさ」
 リンハルトはカスパルの耳たぶに口づけながら囁いた。熱を含んだ吐息を耳に吹きかけると、カスパルの身体がびくりと跳ねる。そのまま唾液で濡れた舌を軟骨に沿って這わせれば、開きっぱなしの唇から嬌声が漏れた。
「ん、んん……っ」
 射精寸前で思考能力が低下しているのか、カスパルは言われるがままに性器を握り直して上下に動かし始める。
 しかし、羞恥心が残っているらしく目はぎゅっと瞑ったままだった。耳まで赤く染めて自慰をするカスパルの姿は非常に煽情的で、リンハルトは思わずごくりと唾液を呑み込む。
「普段するとき胸や玉は弄るのかな? 左手しかないと自分じゃできないよね……手伝ってあげるから教えてほしいな」
 リンハルトはカスパルの衣服をたくしあげ、胸元や股間に手を伸ばしてゆるゆると刺激を与え始めた。胸の先端を指の腹で擦り、もう片方の手で陰嚢をやわやわと揉みしだく。
「ぅあ、ひっ……!?」
 突然の刺激に驚いたらしく、カスパルは裏返った悲鳴を上げて目を見開いた。しかし、すぐに押し寄せる快感に耐え切れなくなったようで、蹲るようにして背中を丸めてしまう。
「乳首敏感なんだね。普段から弄ってるでしょ?」
「し、してねえ……っ」
「嘘だよね? 開発してない乳首はこんなに敏感じゃないんだよ」
 カスパルの乳首は少しの愛撫にも敏感に反応してぷっくりと膨らんでいた。リンハルトはそんなカスパルの胸の突起を指先で軽く弾き、指の腹で押し潰して痛みを伴う快感を与える。
「……っぅう……ん……!」
「ほら、声も我慢しなくていいんだよ」
 リンハルトが指先でくりくりと突起を捏ね回すと、そのたびにカスパルの身体がびくびくと跳ねた。反り立つ性器からは先走りがとめどなく流れ、カスパルはリンハルトの腕の中でがくがくと身体を痙攣させている。
「りっ、リンハルト、もう……っ」
 限界が近いのだろう。カスパルは切羽詰まった声で訴えかけてきた。
 潤んだ瞳や紅潮した顔、口の端からだらしなく垂れた唾液や震えた声――普段のカスパルが見せないその姿に、リンハルトの下肢がますます熱くなっていく。
「うん、いいよ。出してごらん」
 リンハルトはカスパルの手の上から彼の性器を握り、絶頂を促すように強く扱き上げる。それと同時に精液を押し出すように陰嚢を揉みしだくと、カスパルの背中がぶるりと震えた。
「うっ、ぁ、ああっ……!」
 カスパルは一際大きく身体を震わせながらリンハルトの手の中で吐精した。尿のように濃い精液が大量に噴き出し、掌に収まりきらなかった白濁がぼたぼたと滴り落ちていく。
「たくさん出たね。怪我のせいで自慰できなくて溜まってたのかな」
「はあ……っ、は……」
 カスパルは背を丸めたまま荒い息を吐き出している。余裕のない様子が愛おしく、リンハルトは慰撫するようにカスパルの腹を撫で擦った。
「……なら、これだけじゃあ足りないよね?」
 リンハルトは下穿きをずり下ろすと、カスパルの精液で濡れた手で自身の秘部に触れる。
 リンハルトのそこは期待で蕩けきっており、精液を纏った指先を呑み込んで更にひくついた。まるで待ち望んでいるかのように中が収縮する感覚に、リンハルトは甘い吐息を漏らす。
「リンハルト、何を……」
「男同士のやり方は知ってる? 僕のここに君のを挿れるんだよ。……嫌かな?」
 ここ、と言いながら自身の秘部を指し示すリンハルトに、カスパルは驚いたように目を見開いた。言葉を失ったまま何も言えないらしく、視線をうろうろと彷徨わせている。
 その初々しい反応が可愛くて、リンハルトは「ふふ」と笑みを零した。
「カスパルが嫌ならやめておくよ。無理強いはしたくないし」
 リンハルトは体を起こして衣服を正すと、カスパルの額に口づけて寝台から降りようとした。
 しかし、カスパルの手が服の裾を掴んでいたため動きを止める。
「……い……嫌じゃねえ、けど」
 カスパルは羞恥に耐えるように俯きながらもリンハルトを離そうとはしなかった。
「でも、オレ、こういうの全然わからねえし……」
 カスパルは言葉を濁しながらもごもごと口を動かす。
「オレとお前は親友だけど……こういうことって、その、友達同士じゃしないんじゃねえのか?」
「そうだね。一般的には恋人同士がすることだよ」
 リンハルトはカスパルの耳元へ唇を寄せた。そのままねっとりと舐め上げながら言葉を続ける。
「でも僕はカスパルが好きだから、こういうことをしたいんだ。君は嫌かい?」
「嫌じゃ……ねえ」
 カスパルは消え入りそうな声で答えると、リンハルトの服の裾をぎゅっと握り直した。幼い子供のような拙い仕種が愛らしく、リンハルトの胸がきゅうっと締め付けられる。
「よかった。大丈夫、ちゃんと気持ちよくしてあげるからね」
 リンハルトはそっとカスパルの上体を押し倒してその上に覆い被さった。法衣を肩から滑らせるようにして脱いでゆくと、目のやり場に困るのかカスパルは視線を泳がせる。
 格闘部隊を率いているカスパルにとって、男性の裸など見慣れたもののはずだ。それを見ることに抵抗を示すということは、カスパルがリンハルトを意識しているということだろう。
 ――あのカスパルが、である。
 その事実にリンハルトは興奮せざるを得なかった。
「……ひゃっ!?」
 射精によって萎えた性器を口に含むと、カスパルは驚きの声を上げる。
「まっ、それっ、汚ねえからっ!」
 慌てて腰を引こうとするカスパルに構わず、リンハルトは亀頭を自身の口内へと導き入れて先端を吸い上げた。カスパルは強い快感に戸惑っているのか、声を荒らげつつもさしたる抵抗はせず身を震わせている。
「あっ、あぅ……」
 リンハルトはカスパルの性器を根元まで飲み込み、喉の奥で先端を扱いた。陰嚢を優しく揉みしだきながら舌先で裏筋や雁首を擽ってやれば、カスパルのそれは徐々に硬さを取り戻していく。
「ん……大きくなったね」
 口内の質量が増したのを確認したリンハルトが口を離すと、すっかり反り立ったカスパルの性器が姿を現した。
 カスパルの性器は形こそ大人のそれだったが、亀頭はまだ淡い色をしていた。その未熟な性器が唾液に塗れてぬらぬらと光る姿は背徳的で、リンハルトの興奮を更に煽ってゆく。
「は……っ、ぁ」
 カスパルはというと、とろんとした表情で息を荒げていた。快楽に溺れかけた瞳は虚ろで、半開きになった唇から覗く舌先が艶めかしく濡れている。
 可愛いすぎてめちゃくちゃにしてしまいたい――というのがリンハルトの正直な気持ちだった。
 だが、カスパルに無体を働きたくないのできちんと順序を踏みたい、というのもまた正直な気持ちだ。
「準備するからいい子で待っててね?」
 リンハルトは自らの指先を自分の秘部へと挿入し、カスパルの先走りを塗り込むようにして内部を広げていく。自分のいいところを探すようにしてゆっくりと抜き差しを繰り返すと、そのたびに粘着質な水音が室内に響き渡った。
「ふ……ぅ……ん」
 リンハルトはカスパルに見せつけるように腰を突き出して自分の秘部を弄る。
 リンハルトの性器はカスパルの痴態によって既に立ち上がっていた。カスパルの視線が自身の性器や秘部に向けられているのを感じ、リンハルトのそこはますます熱を帯びてゆく。
「リンハルト、オレ、もう……」
 我慢の限界だったのか、カスパルは切羽詰まった声で名を呼びながらリンハルトを抱き寄せた。そのまま甘えるように頬擦りされ、リンハルトはぞくぞくと背筋を震わせる。
 人を素手で殺せるほどの膂力を持っているにも関わらず、相手に襲いかかることもできないのだ、この男は。
 いや、おそらくは――どうすれば自分がいま置かれている状況を解決できるのかを理解していない。だから、リンハルトにどうにかしてほしいと頼んでいるのだ。
 カスパルがそういった人種であることはわかってはいたものの、あまりにも無知で未熟なその反応は、リンハルトの中に秘められていた何かを喚起させるのに充分だった。
「うん、一緒に気持ちよくなろうか」
 リンハルトは腰を浮かせてカスパルの亀頭に自身の後孔をあてがうと、そのままゆっくりと腰を落としていく。質量のある肉塊が秘部を押し拡げる感覚に、リンハルトはほうっと熱い息を吐き出した。
「う、あ……っ!」
 カスパルは苦しそうな声を上げながらも、リンハルトが行為を進めるのを待っている。初めて感じる他人の体内の感覚に戸惑っているらしく、眉根を寄せて荒い呼吸を繰り返していた。
「あ、あっ……カスパル……」
 リンハルトはカスパルのものを受け入れながら、切なげな吐息と共に彼の名を呼んだ。カスパルの性器がずぶずぶと体内に入ってくる感覚が心地よく、全身が歓喜で打ち震えて肌がぞくぞくと粟立つ。
 やがて自身の尻がカスパルの股間に触れたのを感じたリンハルトは、そこで一度動きを止めてカスパルの顔を見下ろした。
「ん……ぜんぶ、入ったよ」
 リンハルトがそう言って結合部を指でなぞると、カスパルは恥ずかしそうに目を伏せた。その初心な反応が可愛くて、リンハルトは思わず頬を緩めてしまう。
「じゃあ、動くからね。つらかったら言ってね?」
「んっ……」
 カスパルはほとんど吐息のような返事をしながらこくりと頷く。
 そんなカスパルの挙動ひとつにすら愛おしさを感じつつ、リンハルトは腰を揺らし始めた。初めはゆっくりと、次第に速く。自分の感じるところに当たるよう角度を調整しながら抽挿を繰り返してゆく。
「ぁ、あっ、ぅあ……っ」
「ふふっ……カスパルの、また大きくなったね」
 リンハルトは恍惚とした表情で呟いた。内壁が絡みつくたびにカスパルの口からは甘い声が漏れ出し、その声に煽られたリンハルトは一心不乱に快楽を追い求めていく。
「は、あっ……カスパル、気持ちいい……?」
「ん、うんっ……」
 リンハルトが問いかけるとカスパルはこくこくと首を縦に振った。カスパルもきちんと快楽を得ているらしく、リンハルトの体内にある性器が質量を増していくのを感じる。
「よかった……僕も、すごくいいよ……」
 リンハルトはうっとりと呟いたのちに腰を上下させる速度を早めた。ぱん、ぱちゅんと肌同士がぶつかり合う音が部屋に響き、狭い室内に淫靡な空気が充満していく。
「ふっ、はぁ……カスパル、好きだよ」
 リンハルトは身を眺めてカスパルに口づけた。舌を差し入れて絡ませ合えば唾液が混じり合い、頭の芯まで蕩けそうになる。
「あ、あぁっ……リンハルト、オレ……っ」
 カスパルは掠れた声でリンハルトを呼びながら切なげに身を捩らせた。
 その訴えに応えるようにして、リンハルトはカスパルの亀頭を最奥に押し当てる。ぐりぐりと腰を回しながら内壁をうねらせると、カスパルは堪えきれないといった様子でリンハルトの首に片腕を回してきた。
 不自由な身体で懸命に求めてくるカスパルが愛おしく、リンハルトは自身がますます昂っていくのを感じる。触れていない性器からはだらだらと先走りが溢れ出し、竿を伝って垂れ落ちたそれが根元の茂みを濡らしていた。
「はあっ……カスパル、可愛いね……もっと気持ちよくなっていいからね」
 リンハルトはカスパルの耳元に顔を寄せて甘く囁いた。そのまま耳たぶを甘噛みしながら腰を打ち付け、膨らんだ乳首を指の腹でくにくにと転がす。
「んっ、あっ……ぁああっ……!」
 カスパルは悲鳴じみた声を上げて身体を痙攣させた。
 突起をつねったり押し潰したりするたび、カスパルの性器がリンハルトの中で脈打つのを感じる。その反応が可愛くて、リンハルトは執拗にそこを攻め続けた。
「あぅ……り、リンハルト……っ、も……出る、から……」
 カスパルの嬌声は次第に泣き声混じりのものへと変化していき、がくがくと脚を震わせながらリンハルトの名前を呼ぶ。快感からなのか未知の感覚への恐怖からなのか、カスパルの目尻からはうっすらと涙が伝い落ちていた。
「んっ……いいよ、僕の中に出して」
 絶頂が近いことを察したリンハルトは、カスパルの胸元に口づけを落としながら微笑んだ。カスパルのものを締め付けたまま小刻みに腰を揺すって、自分の気持ちいいところに擦り付けるようにして抜き差しを繰り返す。
「ぅあ、あっ……ぁ!」
 やがてカスパルの体が大きく跳ねたかと思うと、リンハルトの体内に熱い飛沫が放たれた。それを受けてリンハルトもまた絶頂を迎え、背を弓なりにしならせて自身の性器から白濁を吐き出す。
「あっ……すごい……たくさん出てるね」
 どくんどくんと脈打つ性器を最奥に感じながら、リンハルトはうっとりと目を細めた。カスパルが吐き出したものを一滴残らず搾り取ろうとするかのように、自分の中が収縮しているのを感じる。
「はー……っ、はー……」
 カスパルは焦点の定まらない目で天井を眺めていた。全身から力が抜けてしまったらしく、ぐったりと寝台に横たわっている。
「疲れちゃったかな? ごめんね」
 リンハルトはカスパルの身体を優しく抱き締めて頭を撫でた。
 カスパルは少しくすぐったそうに身じろいだ後に、ゆっくりとリンハルトの顔を見上げる。潤んだ空色の瞳はどこか虚ろで、まだ快感の余韻が残っているように見えた。
「あ……悪い、ぼーっとしてた……」
 カスパルは荒い呼吸の合間にそう呟くと、リンハルトの背中に腕を回して抱き締め返す。
 その仕種に胸の奥がきゅうっと甘く締め付けられる感覚を覚えつつ、リンハルトはカスパルの背中を優しく撫でさすった。
「リンハルト……」
 カスパルは息を整えてから顔を上げると、気恥ずかしげにリンハルトの名を呼んだ。その意図を察したリンハルトは、くすりと微笑んでカスパルの唇に自分のそれを重ねる。
「ふふ、可愛いおねだりだね」
「うっせ……」
 カスパルは拗ねたように目を逸らす。
 しばらくその状態で抱き合っていたが、やがてどちらともなく顔を見合わせて笑い合った。そのまま何度も軽い口付けを交わしつつ、互いの身体に触れ合って余韻を楽しむ。
 その過程でカスパルが負傷していたことをやっと思い出し、リンハルトは介助の準備をするために身体を起こそうとした。
「ん……っ、カスパル……?」
 しかし、カスパルはそれを引き止めるようにしてリンハルトの腰に手を回すと、ぐっと引き寄せて首筋に顔を埋めてくる。
 リンハルトは戸惑いがちに名を呼んだが、カスパルは何も言わずに鼻先をすり寄せるだけだった。
 まるで離れたくないと言わんばかりに抱きついてくる幼なじみを愛おしく感じて、リンハルトはカスパルの背中をぽんぽんと叩く。
「……怪我で心細くなっちゃったのかな? 大丈夫だよ、怪我が治るまでは僕が側にいるからね」
 カスパルはリンハルトの言葉に安心したように小さく息を漏らし、それからそっと目を閉じた。程なくして穏やかな寝息が聞こえ始め、リンハルトはカスパルが眠りに落ちたことを確認する。
「……君はいつもがんばりすぎなんだよ。怪我したときくらい誰かに甘えるといい」
 リンハルトは微笑んで呟くと、カスパルの額に優しく口付けを落とした。そして彼を抱き締めたまま自身も瞼を閉じ、「おやすみ、カスパル」と小さく告げる。

 翌日、目を覚ましたカスパルは昨晩のことを思い出して顔を赤らめていた。
「わ、悪い……変なことしちまって……」
 カスパルは心底申し訳なさそうな表情を浮かべてリンハルトに謝罪する。飼い主に叱られた犬のような様子がなんだか可愛くて、リンハルトは口元を綻ばせた。
「謝らなくていいよ。僕は嬉しかったし……ふふっ」
「な、なんだよ!」
 急に笑い声を上げたリンハルトが不可解だったのか、カスパルは拗ねたような顔で睨んでくる。
「ごめんね? 君が可愛いから、つい」
「かわ……っ!? お前までそんなこと言うのかよ」
 カスパルは不満げに唇を尖らせるとリンハルトに背中を向けた。
「ねえ、カスパル」
「なんだよ……」
 そんなカスパルを後ろから抱きしめ、リンハルトは耳元で囁く。
「君が望むならいくらでもしてあげるよ。だからもっと僕を求めて?」
 リンハルトはカスパルの耳朶に軽く口づけ、前歯を使って甘噛みをした。カスパルの肩がぴくりと震え、耳元までが真っ赤に染まっていく。
「……ごめん、やっぱり可愛いや」
 リンハルトはくすくすと笑いつつカスパルの耳を唇で挟み込み、ちゅっと音を立ててもう一度口づける。そうしながらカスパルの手の甲をするりと指先で撫で上げ、指先を絡め取って優しく握り締めた。



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