はなびらひらく3


「うーん、やっぱり筋肉が落ちてるよねえ」
 揉むたびにふにゅふにゅと形を変える柔らかい膨らみを眺めながら、リンハルトは不可解そうに首を傾げる。
 その膨らみの持ち主であるカスパルもまた、首を傾げる幼なじみを眺めながら自身も首を傾げていた。
 コンスタンツェの魔法の暴走によってリンハルトとカスパルが女性の体になってしまってから数日――いつもとは異なる姿の恋人への純粋な興味と共に、この不可思議な現象の研究対象としての興味もリンハルトの好奇心をくすぐっていた。
「そりゃあ、女になってるんだから仕方ねえだろ? 男のときとは体の構造が違うんだろうし」
 リンハルトの好きなようにさせていたカスパルは、自分の胸を肌着越しに観察する幼なじみの細くなった手を見下ろす。
 もともと中性的な容姿のリンハルトは、女性の体になってもカスパルほど顕著な変化は見受けられなかった。それでも体の細さや皮膚の柔らかさは男性のそれとは異なり、肌に触れるリンハルトの手への違和感にカスパルは落ち着かない気分になってしまう。
「女性でも鍛えている人はもっと胸筋が発達してるでしょ。君はもともと脂肪の量が少ないし、男性時の肉体が女性時の肉体に反映されるなら、こんなにふにふにはしてないはずなんだけど……どういう基準で女性の体が形成されているんだろう?」
「いや、オレに聞かれてもわかんねえって」
 リンハルトに胸を揉まれていると変な気持ちになりそうで、カスパルはさりげなくその手を掴んで止めさせる。
 この「変な気持ち」の正体が性的興奮であることにカスパルは薄々気づいていた。胸に触れられている間ずっと感じていたそわそわとした落ち着かない感覚は、性欲を刺激されて体が昂っていたからなのだ。
 性的な知識も経験も乏しいカスパルは最初こそその感覚が何なのかわからなかったが、リンハルトと褥を共にするようになってから少しづつ自覚し始めている。
 しかし、まだその衝動をうまく発散することも看過することもできないカスパルにとって、「変な気持ち」になってしまうことはあまり好ましいと言える状態ではなかった。
「……カスパル、そわそわしてるね。僕に触れられていやらしい気分になったのかな?」
「へっ!? ばっ、なん……!?」
 図星を突かれ、カスパルの顔が一瞬で赤くなる。
 その反応にリンハルトは嬉しそうに目を細めた。
「恥ずかしがらなくていいんだよ。恋人同士なんだからね。僕としてはもっと求めてくれてもいいと思ってるくらいだ」
「う……いや、そうだけどよ。でも、いまはいつもと状況が違うだろ? 女の体だと、なにをどうすりゃいいかもわかんねえし……」
 カスパルは気恥ずかしさから目を逸らし、「恋人同士」という言葉のむず痒さに頬を掻く。
 リンハルトはその手をそっと握って、カスパルをまっすぐに見つめた。
「僕はもっと君に触れたいな」
「っ……!」
 リンハルトの真摯な瞳と、やわらかい声と、握られた手の温かさにカスパルは息を呑む。
 長い時を親友として過ごしてきたリンハルトの情愛に満ちた言葉は、カスパルにとって未だ慣れるものではなかった。その言葉を否定する気は毛頭ないが、かといって肯定するのも気恥ずかしいため、カスパルはいつも反応に困って言葉を詰まらせてしまうのだ。
「君の体の変化も興味深いけど、僕は君自身のことももっとよく知りたいんだ」
「オレの……こと」
「そう。君がどんな風に感じていて、何を望んでいるのか……僕に教えてほしいな」
 リンハルトはひとまわり小さくなった幼なじみの指に自分の指を絡めて、その感触を楽しみつつ言葉を続ける。
「僕が君を求めるのに、君の性別なんて関係ないんだ。君の心も体もまるごと愛しているんだってこと……ちゃんと伝わってるかな?」
 リンハルトの濃紺の瞳に熱っぽく見つめられて、カスパルの心臓が大きく跳ねた。
 自分と同じ、軍から支給された石鹸を使っているはずなのに、リンハルトから漂う匂いはカスパルのものとは異なっている。緑がかった黒髪が揺れるたびにふわりと香るその匂いは、カスパルをひどく安心させると同時に形容しがたい気分にもさせた。
「好きだよ、カスパル」
 耳元で囁かれ、リンハルトの唇が耳に触れる。そのくすぐったさにカスパルは思わず目を瞑った。
 いつもこうなのだ。リンハルトはカスパルの微細な変化を察知すると、甘い言葉と態度でカスパルの心を蕩けさせ、そのままなし崩しのように体を重ねることになる。
 いいように転がされている気がしなくもないが、行為の始め方がわからないカスパルにとって、リンハルトの誘導はありがたいものではあった。
「んっ……」
 リンハルトの唇が赤く染まったカスパルの耳朶を食む。カスパルの背筋にぞわりとした感覚が走り抜け、思わず鼻から抜けるような声が漏れた。
「ふふ、耳弱いんだ……可愛いね」 
 熱っぽい声に囁かれるたび、カスパルは頭の奥がくらくらとして何も考えられなくなってしまう。体の芯が熱くなるような未知の感覚に不安を覚えて、縋るようにリンハルトの背中に手を回した。
「……寝台に行こうか?」
 リンハルトに囁かれ、カスパルは小さく頷く。
 ほんの数歩離れた位置にあった寝台に移動すると、リンハルトはカスパルを横たえて手早く衣服を脱がしていった。
 肌着をたくし上げる際に生地が胸にひっかかり、半ば強引にそれを外すとひっぱられた乳房がぷるりと揺れる。露になった先端は薄桃色に色づいており、リンハルトの視線を浴びて少し硬くなったようだった。
 リンハルトの視線を体の上に感じて、カスパルはたまらず熱い息を吐く。
 カスパルはまだいまの自分の姿に慣れていなかった。まるで他人の体のような気がしてしまい、それをまじまじと眺められるのも気恥ずかしいのだ。
 しかし、リンハルトは構わず上から下までをゆっくりと慈しむように視線で撫でてゆく。
「いまの姿も可愛いなあ……君の全部が愛しいよ」
 リンハルトは微笑み、その唇を額から瞼、鼻へと落としていく。触れるだけの口付けの雨を降らせながら、頬や首筋を何度も撫でさすり、丸みを帯びたカスパルの体をなぞるようにその肌の感触を慈しんだ。
「普段の君の逞しい体も魅力的だけど、いまの姿もとっても綺麗だよ。この体も全部味わいたくて……待ちきれないんだ」
「……っ」
 直截に欲求を伝えられ、カスパルの全身がかあっと熱くなる。
 リンハルトから与えられる甘い刺激の心地よさを知っている体は、穏やかに告げられるその言葉にも反応してじくじくと熱を持ち始めていた。
 リンハルトは襯衣の合わせを外し、肩から滑り落とすようにして衣服を脱いでゆく。細い肩と白い肌、そして控えめに揺れるふたつの膨らみが露わになり、カスパルは思わず視線を逸らした。
「なんか、まだ慣れねえな……リンハルトじゃないみたいな感じがしちまって」
「そうかい? 僕は僕だよ」
 リンハルトはカスパルの手を取って自分の胸に導く。その膨らみに触れた瞬間、掌に感じる柔らかい感触と体温が生々しく伝わってきてカスパルは息を呑んだ。
「ほら……ちゃんと僕だよ」
「お、おう……」
 リンハルトの肌の感触を味わいながら、カスパルはその体に手を這わせる。細い肩と薄い胸板から続くなだらかな腰回り、そして丸みを帯びた臀部をおそるおそるなぞった。
 その掌の感触がこそばゆいのか、ときおりリンハルトは「んっ」と小さく喘いでぴくりと体を跳ねさせる。
「僕の体、ちゃんと触って……君を感じさせてほしいな」
 リンハルトは腰を少し上げてカスパルの手を取り、その指を自分の秘所へと導く。そこは僅かに潤みを帯びており、軽く触れただけでくちゅりと水音を立てた。
「あっ……」
 指に絡みつく濡れた感触にカスパルの背筋がぞくりと震える。しかし、それ以上この指をどうすればいいのかわからず、カスパルは戸惑いながらリンハルトを見上げた。
「ふふっ、カスパルにはまだ早かったかな?」
 所在なさげに眉根を寄せるカスパルを宥めるように、リンハルトはその頭を撫でながら額に口づける。
「ちょっとずつ覚えていこうか。今日は僕が全部してあげるから……大丈夫だよ」
「う、わかった……」
 カスパルはこくりと頷いて、リンハルトの愛撫に身を任せることにした。
 リンハルトは啄むような口付けを落としつつ、カスパルの胸に手を伸ばして張りのある乳房を掌で優しく包み込んだ。先ほどまでの検分するような手つきではなく、明らかに愛撫を目的とした触れ方にカスパルの体温が徐々に上がってゆく。
「ふっ……」
 リンハルトの指先がカスパルの胸の突起を転がし、ときおりひっぱっては悪戯に刺激を与える。するとそれはすぐに赤く腫れて立ち上がり、更なる愛撫をねだるように芯を持った。
「……可愛いね」
「っ……」
 耳元で囁かれる言葉に反応して、カスパルの体が更に熱くなっていく。リンハルトはその反応を楽しむように執拗に胸を揉みしだき、立ち上がった突起を摘んでくにくにと弄んだ。
「っ、ん……ぁ、りっ……」
 カスパルの頭の中は次第に霞みがかっていき、体から力が抜けていく。リンハルトの熱っぽい囁きはカスパルの思考を少しづつ蕩けさせ、媚薬のようにその体を昂らせていった。
「可愛いよ、カスパル」
 リンハルトはうっとりとした声音でそう囁くと、カスパルの胸に顔を寄せて赤く腫れ上がった突起を口に含む。ざらつく舌の感触に背を震わせながら、カスパルは鼻から抜けるような甘ったるい吐息を漏らした。
「声、我慢しないで……」
「っ、ぁ……ん……!」
 ちゅ、ちゅ、と音を立てながら先端に吸い付き、もう片方は下側から持ち上げるようにして揉みしだく。指で弾力を確かめながら小さな蕾をこねてはひっぱると、カスパルはおもしろいように体を震わせた。
「ふぁっ、く、う」
「気持ちいい?」
「んんっ……っ!」
 リンハルトは円を描くように乳輪をくるりと指でなぞり、それから膨らみの先端をきゅうと摘み上げる。カスパルは少し痛いくらいの刺激を好むようで、強めにそこを捻るたびに背中をびくりとしならせた。
「可愛いね……もっと声、聞かせて」
「あっ、あ……んっ、り……リンハルト……あッ……あぁ!」
 固くしこった先端を強く吸い上げると、カスパルは背中を浮かせて身悶える。もう片方も忘れずに指の腹で押し潰し、ときおり指先でくじいては強くひっぱって刺激を与え続けた。
「や、リンハルト……それ、あっ!」
 カスパルはリンハルトの太腿に腰を押し付けながら悶え、秘所からはじわりと温かな蜜を滲ませている。
 カスパルの腰が揺れているのを肌で感じたリンハルトは、脚を軽く動かして自身の太腿に触れているカスパルの秘所をやんわりと擦った。
 舌先で先端を転がし、爪の先で弾き、二本の指で挟んでくりくりとねじる。ありとあらゆる方法で弄ばれた二つの膨らみは唾液に濡れそぼり、リンハルトの指の中で形を変えていった。
「んぁッ! あぅ……っ」
「ん……」
 ちゅぱっと音を立てて口を離すと、すっかり蕩けきった表情で荒い息をついているカスパルと視線が合った。赤く色付いた胸の先端は固く立ち上がり、唾液でぬらぬらと光っている。
「あ……っ、ん、リンハルト……も……下も」
 触ってほしい、と暗にねだりながらそろそろと股間を押し付けてくるカスパルの姿に、リンハルトはごくりと喉を鳴らした。
「下も……なに?」
 カスパルの望むまま気持ちよくしてあげたいという気持ちと、もっと焦らしてみたいという衝動がリンハルトの中でぶつかり合う。
 カスパルは頰を真っ赤に染めながらリンハルトを見上げ、訴えるような視線を向けてきた。
「だから、その……してくれよ」
「してって、何を?」
 リンハルトは意地悪く問いかけながら、すっかり濡れそぼったカスパルの割れ目をつうと指でなぞり上げる。カスパルのそこはもう充分すぎるほど熟れていて、触れられる度に熱い蜜を溢れさせた。
「ほら……どうしてほしい?」
「んぁっ!」
 つんと膨れ上がった花芯を指でつつき、焦らすようにその周囲をくるりとなぞる。カスパルはそれだけで上擦った声を漏らし、リンハルトの指に自身のそこを押し付けて更なる愛撫をねだった。
「あッ! あ、そこっ……もっ……もっと……」
「もっと?」
「んっ……あッ! あっ、あぁっ!」
 リンハルトは人差し指と親指で芯を持った芽を摘み、くにくにと転がして弄ぶ。カスパルは待ち望んでいた刺激に腰を跳ねさせ、口の端から唾液を零しながら高い声で喘いだ。
「気持ちいい?」
「ん、んっ……きもちいっ……」
「ふふ……じゃあ、もっと気持ちよくしてあげるね」
 リンハルトはカスパルの脚の間に顔を埋め、赤く充血した陰核を口に含んだ。指とは違った柔らかく熱い感触にカスパルは腰を浮かせ、「ひっ!?」と短い悲鳴をあげる。
 膨らんだそれを唇で挟み、舌を出してくすぐるように舐め上げ、ちゅうっと吸い付いては前歯で甘く噛む。押し寄せる快感の波にカスパルは腰を浮かせて身悶え、敷き布をくしゃりと掴んではいやいやと首を振った。
「あぁっ! あ、んぁっ、はっ……あぁっ!」
 ぬるりとした舌での愛撫は強烈すぎるほどの快感となってカスパルの体を駆け巡った。ざらついた舌が敏感な部分に触れるだけで目の前がちかちかとするほどの刺激に襲われ、頭の中が真っ白になっていく。
「あぁっ!  それ、はっ……あッ、あっ!」
 リンハルトは指で陰核の皮を剥き、露わになった粘膜を舌でねっとりと舐め上げる。それから蜜に濡れた膣口に吸い付き、ちゅるりと音を立てて吸い上げた。カスパルの腰がびくんと跳ね上がり、口からはひっきりなしに嬌声が零れる。
「やっ!  あッ、あぁっ!  だめっ……もっ……ああぁぁっ!」
 カスパルは背中をしならせ、喉を仰け反らせて絶頂を迎えた。リンハルトの口に股間を押し付けながらびくん、びくんと何度か大きく痙攣したあと、弛緩した体がくたりと寝台に沈み込む。
「っ……ぁ」
 ちゅ、と小さな音を立てて唇を離したリンハルトは、とろんと蕩けきったカスパルの表情を見下ろして目を細めた。まだ絶頂の余韻が残っているのか、カスパルはときおり体を小さく震わせている。
「カスパル……すごく可愛かったよ」
 リンハルトは汗ばんで額に張り付いたカスパルの前髪を指で払ってやり、その目元に口づけを落とした。
 快感で滲んだ涙を舐め取り、そのまま頰に口付ける。それから鼻や耳にも口付けを落としていき、最後にそっと唇に吸い付いた。
「指、入れても大丈夫かな? 怖い? 嫌ならここには触れないよ」
 リンハルトはカスパルの脚の間に手を伸ばし、すっかり濡れそぼった割れ目に指を這わせる。達したばかりのそこはひくひくと痙攣しており、少し触れただけでも新たな蜜が溢れてきた。
「ちょっとおっかねえけど……嫌、じゃねえ……もっと……」
「うん……ゆっくりやるね」
 リンハルトは熱く濡れた割れ目に指を押し当て、やんわりと襞を割り開いた。途端に中に溜まっていた愛液がとぷりと溢れ出し、リンハルトの指を熱い体液が包み込む。
「あっ、はぁ……」
「痛い?」
「ん……平気だ」
 リンハルトは慎重に指を押し進め、内側の壁を傷つけないようにゆっくりと中を広げていく。カスパルは異物感に眉を寄せていたが、リンハルトの指の動きが止まると自ら腰を揺らして続きをねだった。
「あッ……あぅ、んっ!」
 リンハルトはカスパルが望むままに指を抜き差しし、蜜を絡めては内壁を優しく撫で上げる。カスパルのそこはリンハルトの指の形に広がり、抽挿するたびにぐぷぐぷといやらしい水音を立てた。
「はぁ……リンハルト、もっと……」
「うん……好きなだけしてあげるね」
 リンハルトは指を増やしてカスパルの中を更に押し広げていく。
 くちゅくちゅと音を立てて抜き差しを繰り返すと、カスパルは熱い吐息と共に腰を揺らし始めた。ゆっくりと奥まで進み、中を広げるようにぐるりと指を動かせば、甘えるような声が喉の奥から溢れてくる。
「気持ちいい?」
「んっ、あっ……あぁッ……」
 一度火の付いた体はすぐに燃え上がり、カスパルの理性をどろどろに溶かしてゆく。
 リンハルトは指を出し入れしながら、膨らんだ花芯を親指でくりくりと押し潰した。途端にカスパルの体がびくんと跳ね上がり、リンハルトの指を咥えた膣内がきゅうっと締まる。
「あッ!  あぁっ、あっ!」
 くにくにと花芯を揉みながら、指を出し入れする速度を徐々に速めていく。カスパルは腰をがくがくと震わせながら、リンハルトの指の動きに合わせて甘く蕩けきった声を漏らした。
「あっ、あッ……あぁっ!  あぅ……っ」
「ふふ、可愛いね……」
 リンハルトはカスパルの頰に口付けを落とし、中を広げるように二本の指でぐるりと円を描く。同時に花芯をきゅっと摘み上げると、カスパルは背中をしならせて秘所からぷしゃっと透明な液体を吹き出した。
「あ、あっ……あぁっ!  ああぁぁっ!」
 がくん、がくんとカスパルの腰が跳ね上がり、熱い飛沫が迸る。
 カスパルの体内が指に絡みつく感覚と、生ぬるい体液が自身の手を濡らす感覚――それらに劣情を刺激されたリンハルトの太腿を、溢れ出した愛液が伝い落ちた。リンハルトの秘所もまたカスパルの痴態によって濡れそぼり、直接的な刺激を求めてひくついている。
「はぁっ……はっ……」
 荒い呼吸を繰り返すカスパルの中から指を引き抜くと、その刺激にもカスパルは「んっ」と小さな声を漏らした。カスパルの股座は愛液と潮で濡れそぼり、膣から溢れ出した体液が後孔までをも濡らしている。
 リンハルトはぐったりと弛緩したカスパルの額に唇を寄せ、そのまま頰や首筋にも同じように口付けを落としていく。
 くすぐったそうに身を捩るカスパルの体を抱え直し、開かせた脚の間に自身の体を割り込ませると、これから何をされるのか察したカスパルが期待に頰を染めてリンハルトの首に腕を回した。
「一緒に気持ちよくなろうか」
「んっ……」
 リンハルトは熱い吐息と共にカスパルの耳朶を食み、熱を持った自身の陰核をカスパルの膣口に押し当てた。くちゅりと濡れた音を立てて触れ合う二つの性器の熱さに、カスパルはこくりと喉を鳴らす。
 カスパルが小さく頷くのと同時に、リンハルトはゆっくりと腰を動かし始めた。
 しこった陰核でカスパルの膣口を擦り、その上にある小さな突起をぐりぐりと押し潰す。敏感な部分を濡れた襞に包み込まれる感覚は、まるでカスパルの中に入っているかのようだった。
「ん……っ、あッ……」
「はぁ……っ」
 リンハルトの陰核がカスパルの割れ目を往復する度に、二人の愛液が混じり合ってぐちゅぐちゅと音を立てる。お互いの一番感じる部分をぴったりと重ね合わせて擦り上げると、たまらない快感が背筋を走り抜けていく。
「あっ、あぁッ……リンハルト……っ!」
 カスパルは無意識のうちに腰を揺らし、リンハルトの動きに合わせて秘裂を押し付けていた。その刺激に反応するように、リンハルトの陰核も更に大きく膨れ上がる。
「リ、リンハルトぉ……もっと欲しい……」
「んっ……いいよ。僕も君が欲しいな……」
 カスパルは瞳に涙を浮かべてリンハルトを見つめた。
 リンハルトが腰を揺らす度に、二人の胸の先端が触れ合っては離れを繰り返す。その度に甘い痺れにも似た快感が生まれ、二人の脳をどろどろに溶かしていった。
「あッ!  あぅッ!  リンハルトっ!」
「カスパル……っ」
 カスパルの口から漏れる声はもう意味を持たない言葉ばかりだった。
 それでも必死にリンハルトに応えようとしがみつく姿が愛おしく、リンハルトは一層強く腰を揺すった。愛液と潮で濡れた秘裂同士が擦れ合い、溢れた蜜が二人の間で泡を立てる。
「はぁっ……カスパル……っ!」
「あッ、あぁッ!  リンハルト……っ!」
 二人の間で押し潰された陰核がぐりゅっと擦れ、濡れた秘裂がぶつかり合って愛液が飛び散る。二人の体の間で押し潰されている陰核も、膣口を擦るように浅く穿たれているカスパルの蜜穴も、どちらも熱く蕩けて限界が近いことを訴えていた。
「リンハルト……っ!」
 カスパルは必死に手を伸ばしてリンハルトを抱き寄せる。その拍子に二人の胸の先端が擦れ合い、弾力のあるその感触にリンハルトは熱を孕んだ吐息を漏らした。
 限界を訴えるようにカスパルの脚がリンハルトの腰に回され、互いの陰核と秘裂がぴったりと合わさる。やわらかい粘膜同士が溶け合って二人の境界が曖昧になるような感覚は、男性同士での交合とは異なる快感をもたらした。
「カスパル……好きだよ」
「っ……!」
 濡れた襞同士を擦り合わせながら、リンハルトはカスパルの耳元に唇を寄せて囁く。その瞬間、カスパルの体が激しく跳ね上がり、熱い飛沫が二人の股間を濡らした。
「あ……っ、あ……」
 二人の体の間でぷしゃああと潮を吹き上げながら、カスパルは小刻みに体を震わせる。自身の股座を生温い体液が濡らす感覚に目を細めながら、リンハルトは更に強くカスパルを抱き寄せた。
「はぁ……っ、カスパル……」
 リンハルトは熱い吐息と共にカスパルの名を呼び、昂った体を落ち着かせるように何度か呼吸を繰り返す。
 このまま愛撫を続けて自身の快楽を追いたい気もするが、いまのカスパルに更なる刺激を与えるのは酷というものだろう。
 リンハルトは名残を惜しみながらもカスパルから体を離した。粘着質な音を立てながら愛液が糸を引き、二人の股座を繋いでいる。
「あっ……やめちまうのか?」
 寂しげに秘裂をひくつかせたカスパルは、縋るような視線をリンハルトに向けた。既に何度か達しているというのに、不満そうな表情を浮かべるカスパルにリンハルトは苦笑を浮かべる。
「うん……これ以上は駄目だよ。カスパルも疲れたでしょ?」
 リンハルトは慰撫するような手つきでカスパルの頭を撫でる。汗に濡れた髪が肌に張り付き、指に絡みつく感触が心地よかった。
「でも、お前はまだなんじゃねえのか? オレはまだいけるぜ」
 リンハルトの気遣いに気付いているのかいないのか、カスパルは唇を尖らせて不満を訴える。
 どうやら、カスパルが不満なのはリンハルトが達していないことのようだった。余裕がないようでしっかりと相手のことは観察しているカスパルに、リンハルトはまた苦笑を浮かべる。
「僕はいいよ。君が気持ちよくなってくれたならそれで嬉しいんだ」
「別に疲れたわけじゃねえよ……オレだって、まだリンハルトと……」
 どこか悔しそうなカスパルの表情といじらしい言葉に、おさまりかけていた劣情がふつふつと再燃してくるのをリンハルトは感じていた。それでもリンハルトは行為を続行する気はなく、時間と共に劣情が薙ぐのを待つつもりでいる。
「でもカスパル、明日……というかもう今日か、今日は朝から訓練だったよね? だったらそろそろ休まないと」
 リンハルトはカスパルの額に自分のそれを合わせ、至近距離で視線を合わせた。快感に潤んだ空色の瞳がリンハルトを捉え、切なげな吐息が吐き出される。
 性行為の際、カスパルは自身の限界をうまく把握できていないようなのだ。
 この傾向は学生時代も戦場で見受けられたが、戦場慣れしていくるうちになりを潜めた。だから、性行為におけるこれも慣れれば把握できるようになるのだろう。
「まだ大丈夫だって」
「だめだよ。ほら」
 リンハルトは諫めながらそう呟くと、カスパルの頰に口付けを落とした。そのまま唇同士を重ね合わせ、ちゅっと音を立てて離れてから微笑む。
「続きはまた今度ね」
「……おう」
 少し不満そうな表情を浮かべつつも素直に頷いたカスパルに、リンハルトは再びあやすような口付けを落とした。
 行き場を失った熱は数分のあいだリンハルトの体を火照らせたが、やがてそれも薙ぐように静まり、二人は穏やかな眠りに落ちていった。
 男性時よりいくらか丸みがあるカスパルの寝顔は、それでもリンハルトのよく知るカスパルのものだった。リンハルトはその寝顔を眺めながら「好きだなあ」と確認するように呟く。
 その言葉がいまのカスパルの耳に届くことはないだろうが、伝えたいのであれぱまた言えばいいだけのことだ。カスパルが自分の隣にいる限り、いくらでも気持ちを伝えることはできるのだから。
 かつては当たり前だったその幸せがいまもまだ在ることに感謝しながら、リンハルトはもう一度カスパルの額に口付けを落とした。



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