憲法の講演会(くまの平和ネットワーク主催)

 紀南・熊野地方の10団体で構成している「くまの平和ネットワーク」主催の憲法講演会が12月9日、新宮市福祉センターで開かれ、和歌山信愛女子短期大学の伊藤宏教授(55)が「ゴジラとウルトラマンがあなたに伝えたいこと」のユニークなテーマで、現憲法の大切さや魅力について話されました。参加者は約百人。
 元共同通信記者の経歴をもち、子どもの頃から原子力の関心があったとのこと。記者時代には三重県・芦浜原発予定地の取材などを通じて、地域社会の崩壊や事故が起これば取り返しのつかない事態になることを直感し、青森・六ヶ所村取材時に辞表を提出した経緯などを話しました。そしてライフワークともなっている「ゴジラ」の話題へ。
 映画「ゴジラ」第1作は、アメリカの水爆実験で被曝した第五福竜丸問題が大きくクローズアップされた1954年公開で、戦争の影を引きずり、当時の社会問題が描かれた大人向けの映画だと説明。予告編の映像を流しながら、「文化の日に公開されたが、法律上の正式名称は『自由と平和を愛し、文化をすすめる日』といいます。文化の日を別の名前にしようとする動きもありますが、『自由と平和』の言葉が気にいらないのかもしれません」と解説しました。
 そのあとゴジラは子ども向け映画となりますが、いくつかの異色作を紹介し、「ゴジラ対ヘドラ」(71年)では当時社会問題化していた公害がテーマに。また2001年作の「大怪獣総攻撃」では「戦争で命を落した無念さ、愚かさを忘れた日本にモノ申しに来ている、という設定になってる。謎の老人役という出演者に『ゴジラには戦争で亡くなった人達の魂が宿ってる』と言わせており、監督の手法で他の作品とは違ったメッセージを伝えている」を話しました。
 また、昨年公開のヒット作「シン・ゴジラ」については「自衛隊賛美の映画だと思う。国家としての“国”が前面に出ている感じがする。ゴジラを世界に売り込む時には『ゴジラはなぜ日本にいるのか』『なぜ愛され続けているのか』という意味抜きで、単に商売道具として使われることには耐えられない」と胸の内を語りました。
 「私は憲法の専門家ではなく、皆さんの方が詳しいはず。」と前置きして憲法についての論考に入りました。
 「専門のジャーナリズム・メディア論は憲法抜きには考えられない。学生に憲法を読んだ事のある人?と質問しても手が挙がらない。“大阪のおばちゃん”  の谷口真由美さんの本を教科書に使っているが、まず前文をよく読んでほしいと言っている。人間は終わった直後は戦争は繰り返すまいと思うが、また始めてしまう、そうなろうとしている。前文の精神を思い起こす為にゴジラが日本に現われる意味がある」と語りました。
 「現憲法前文が『日本国民は』で始まるのに比べ、自民党私案は『日本国は』となっており、国家優先で前文の精神が踏みにじられている」と話し、なぜこんな時代になってしまったのか、の問いかけには・労働運動の骨抜き・抹殺・教育基本法が変えられ、憲法さえ語りづらい雰囲気が作られた―と解説しました。
 そして教育基本法前文から「…平和を希求…」の文言が削除され、代わりに「…正義を希求…」が登場。ウルトラマンの言っていた人類の平和や世界の平和が、国家にとって都合のいい「正義」に変質されそうだ、と懸念を述べました。
 押し付け憲法との批判に対しては、鉄筆文庫の『日本国憲法~9条に込められた魂』を引用し、当時の幣原喜重郎首相の書生が書き留めたとされる記述から「非武装の理念は二度と戦争を繰り返さないために日本が書き足したもので、押し付けられたものではない」と断じました。
 最後に「憲法があるために不都合なこと、困ったことがありますか?憲法があるから戦争に巻き込まれなかった。憲法が時代に合わないのではなく、時代の方が合わなくなってきた。加憲というなら、自衛隊だけでなく、警察、消防隊…あらゆる職業を明記すべきです。知る権利など本来あって当然なものは書く必要はない。書いてなければわからない人は勉強してほしい」とハッパをかけ、「皆さんには自信を持って行動して頂きたい。ゴジラを人間の英知で上陸させないようにしないといけない世の中にしましょう」と結び、講演を終了しました。
  (「くまの平和ネットワーク」の松原洋一さんより)



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