(朝日新聞・和歌山 2022.03.26)



「戦争を始めない知恵、 人にはある」
龍神村の古久保さん語る
 下地毅 2022年3月26日 9時00分

 日本との戦争中に和歌山県 田辺市龍神村で死んだ米兵の慰霊をつづけている地元の古久保健さん(84) が、 平和への思いを串本町で語った。77年前に敗戦となった日本の戦争とプーチン大統領による今の戦争とを重ねて「すべての銃声を地球から消したい」と話した。

 米軍の爆撃機B29が龍神村の山に墜落したのは1945年5月5日のことだった。米兵7人が即死、落下傘で脱出した4人のうち3人は国際法に反して日本軍が処刑、1人は不明という。多くの村人が現場に駆けつけて当時7歳の古久保さんもそのひとりだった。

 21日に串本町で開かれた「上映会とお話」は「くしもと9条の会」が主催した。 ばらばらになった遺体を見たこと、慰霊碑を建てて今も慰霊祭を営んでいること、米兵の遺族を訪ねたことといった古久保さんら村人の証言をまとめた記録映画「轟音 (ごうおん) 」(笠原栄理監督、2015年)の上映後に参加者は古久保さんの話を聞いた。

 ウクライナ侵攻については「これが人間のすることかと怒りに震えている」と話 し、「私たちは戦争を二度としないと固く誓ったはずだ。原点にもどって考える必要がある」と語った。

「原点」のくわしいことは取材に語った。

 B29の米兵の遺体の中には人間の形をとどめていたのがあった。 古久保さんは2個の石を投げつけた。 古久保さんが母親のおなかにいるときに父親は中国戦線で頭を撃たれて死んでいたから「恨みでいっぱいだった」ためだ。胸か腹かにあたってボホッと音がした。

 長じて考えた。父親を奪った戦争はいつ始まったのかというと「満州事変 (1931年)から中国侵略は始まった」。日本は言論を統制し教科書を軍国主義に染めていっ た。「僕がB29の墜落に手をたたいて喜んだのは、そういう教育を受けていたからです」。そうして日本は米国などとの戦争に突きすすんでいった。

「抵抗できない死体にもうしわけないことをした。あの音が私の生き方を変えた」とふりかえり、「始まると誰もとめられないのが戦争。戦争だけは始めないという知恵が人間にはあるはずだ」としめくくった。
(下地毅)