朝日新聞和歌山版 2022年9月5日付



B29墜落米兵を弔い続け77年
「遺体に投石生涯背負う」
古久保さん、大阪で講演

 戦時中に墜落した爆撃機B29の米兵を弔っている田辺市龍神村の古久保健さん(84)が3日、大阪市で講演した。あの日に自分がしてしまった「残酷」な行為を、声を震わせながらふりかえった。
 B29が龍神村の山中に落ちたのは「1945年5月5日。米兵7人は即死し、4人は大阪に連行されて日本軍に処刑されたり不明になったりした。村人は「敵」の米兵を墜落直後から弔い、77年後の現在も慰霊祭をつづけている。
 大阪市の講演で古久保さんは、当時7歳だったこと、墜落現場の森の木にぶらさがった米兵の遺体に石を投げつけたことを語った。その行為は、当時うけていた教育を忠実に実行した結果であり、父親が戦死したことへの恨みからでもあった。今は、あの行為は人間の尊厳を踏みにじるものだったと深く恥じている。
 古久保さんは米兵の写真を掲げて「私が石を投げつけたのはこの青年です。19歳でした。(遺体に石がぶつかったときの)音が耳から消えないんです。このことを私は生涯背負って生きている。おなじ思いを子や孫にさせたくないから戦争反対をこれからも訴えていく」と語った。
 この目、古久保さんら龍神村の人びとの証言をおさめた記録映画「轟音」(笠原栄理監督)の上映会が古久保さんの講演会とともにあった。市民でつくる実行委が企画した。
(下地毅)