石山離宮五足のくつ

この宿の名前や評判を聞いて気になったのはいつのことだったでしょうか。九州にはたくさんの温泉や旅館があり、それぞれに魅力があるのでつい目移りしてしまい、なかなかここに行くことができませんでした。今回九州に2泊してみようかと計画したとき、千載一遇のチャンスを得た気がしてすぐに調べ予約しました。

熊本の天草地方、下島の東シナ海に面し、緑に囲まれたこの宿は熊本市内から車で約2時間のドライブで到着しました。チェックインは15時です。「運転に自信のない方はお申し出ください」と看板に書かれた急こう配の道を上がると男性が立っていて車を誘導してくれました。荷物を持ってもらい、石の門を通り、両脇に緑の茂った石を敷いた小道を進みます。途中「邪宗門」という食事棟を案内され、ヴィッラコレジオに向かいます。コレジオは宣教師の養成校にちなんで名づけられているそうで、木造りの天井の高い落ち着いたスペースです。ここにはレセプション、ライブラリー、バーがあります。椅子に座り、おしぼりが出され、ジャスミンティーをいただきます。宿泊するところは離れ形式ですのでここで一通りの説明を受けました。ロビースペースにはセレクトショップもあり、バーではソフトドリンクなどもオーダーできます。オーダーストップは22時半、朝は8時からということでした。この建物の鍵は23時で閉まるそうですが、用事のあるときには電話をすればいつでも開錠してくれるそうです。ライブラリーには雑誌や本、DVDなどがあり、自室に持って行って利用が可能です。また食事は先ほど案内のあった邪宗門で懐石料理、1時間半から2時間かかり、18時から23時に終わるように好きな時間にお越しくださいと案内がありました。荷物は確認された後説明やチェックインの間に部屋に運んでもらえます。ジャスミンティーを飲み終わったら部屋に向かいます。今回はOld天草をコンセプトにしたヴィッラAに泊まりました。ヴィッラBはNew天草を、レセプションも別のヴィッラCはキリスト教が伝来した16世紀の天草テーマにしていてさらに山の中腹に位置し2005年にオープンしたエリアです。ヴィッラAもそれぞれ違う造りで、緑に囲まれた中に点在し、宿泊したA−1は二人用の建物です。注連縄を飾った玄関は和風、玄関には草履が揃えてありました。時期的に正月飾りかと思ったのですが、天草では注連縄を一年中飾る風習だそうです。リビングは板張りで、中央に丸いテーブルがあり、3人掛けのソファーとオットマンのついた一人掛けの椅子が置いてあります。障子戸を開けると濡縁があり眺めはほとんどが緑の茂みで残念ながら海は見えません。枝の短い時期には水平線が望めるようです。覗き込みはありませんが、一つ下の建物の屋根は見えました。縦長の部屋を仕切るようにテレビ、DVDプレーヤー、オーディオシステム、左右に冷蔵庫、電気ポットなどが入った木の収納家具があり、冷水とお茶もそろっています。冷蔵庫には缶飲料などがあり、チェックアウト時に伝票を記入して持参するよう説明がありました。その棚の裏側がキングサイズのベッドです。玄関に比してリビングは洋風でした。奥のドアを開けると洗面所が窓に面してあり、右がトイレ、左がバスそこから露天風呂に出ることができます。ただ窓といっても正面は山肌と緑です。洗面台は二つあり、アメニティがそろっています。ここは表現すればアジアンリゾート風でしょうか。トイレはシャワートイレでした。バスタブは猫足で、二人用のこの部屋ではバラ風呂が楽しめますが、結局このバスタブは使わなかったのでバラ風呂も入ることはありませんでした。シャワーは二箇所あります。扉を開けると石造りの露天風呂があり、ここも木と緑に囲まれています。この露天風呂が温泉で24時間入浴できます。内湯は温泉ではありませんが、温泉が肌に合わないお客様もいるからとの説明がありました。玄関側にはウォークインクローゼットがあり、タンス、金庫、タオルやバスローブなどが備えてあります。浴衣もあり、コレジオや邪宗門は浴衣で出掛けてもいいそうです。室内用に使い捨てですがスリッパが準備され、足袋もありました。

お茶請けはオーナーのお母様手作りのよもぎ団子です。よもぎの香りが豊かで、甘さ控えめの粒あんでおいしかったです。予約すると購入もできるそうです。部屋ではお茶は自分で入れます。

温泉ですが、ヴィッラAとBは下田温泉、ヴィッラCは自家源泉だそうです。透明でツルスベ系。やや熱めでした。浴槽の下から供給され、掛け流しです。ホームページによると加温のため、温度調節は希望できるとのことでした。

食事は案内の通り邪宗門です。入り口で個室に案内されるのですが、私たちが行ったときはちょうど手薄だったらしくスタッフが見当たらずしばらくうろうろしてしまいました。後で気づいたのですが、ここに行く場合は必ずコレジオを通るので、コレジオにスタッフがいるときは客が向かったことを連絡をするのではないかと思います。また満室の時には入り口そばにデスクがあったので常駐するスタッフがいるのかもしれません。廊下は天草の教会をイメージしているそうで、聖歌が流れ、正面に聖母子像が置かれています。その長い廊下に沿って10個ある個室は人数によって使い分けるようです。私たちは一番奥のRoom10でした。広い木のテーブルで足を下して座ることができます。テーブルにはお品書きが置かれていました。このお品書きは達筆で私には読めない文字がありました。

担当は車を誘導してくれた男性でした。食前酒は梅酒です。次に先付の「蛸旨煮、丸十南瓜」が運ばれてきました。天草は蛸がたくさん取れ、明石の蛸が絶滅した時も天草から運んだそうです。今では明石の方が有名になりましたがと係の男性が話していました。言われてみれば通ってきた道に蛸街道と書いてありました。料理の説明だけでなく天草についても色々話してくれます。次に「鮑羽二重むし、水晶茄子」。運ぶペースも私たちにちょうど良かったです。
造里「東シナ海の恵み」には水前寺海苔が添えられていました。椀は海老真薯にしめじと三度豆が入っていました。この日は契約農家から入ったということでお品書きにはありませんが松茸も添えられました。車海老も天草の特産で上島では養殖、下島では天然物が多く水揚げされるそうです。確かに上島の海沿いには何かの養殖場があったなと思いました。焼物は栄螺の田楽で、くしに刺さった栄螺を焼いた石の上で焼いていただきます。また南関寿司という郷土料理のいなりずしも出されます。この揚げは保存食として作られているそうで、独特の食感があります。合肴は蓮根饅頭です。熊本県は蓮根の生産日本一だそうで、これも家庭料理としてよく食べられるそうです。煮物は紅葉鯛のアラレ煮。アラレも手作りだそうです。香ばしくおいしかったです。食事はじゃこめしに味噌汁、香物です。味噌は麦みそだそうです。甘味は特産品の倉岳シモンを使ったデザートです。倉岳シモンはブラジル原産の芋で、移民交流から持ち込まれ特産品となってるそうです。
この邪宗門は「五足の靴」の執筆者の一人、北原白秋の詩集の名前です。日本食の五味と素材の味を生かした「淡味」を追求しているということで、契約農家の素材と海の幸を生かした料理だったと思います。私には十分な量でしたが、余裕がありました。

食事の後はコレジオのバーでお酒をいただきました。「五足のくつ」や「石山離宮」などオリジナルカクテルがあります。この時のバーテンダーは女性でしたが、料理を運んでくれた男性の下で修業をされているということでした。スタッフは何人もいるそうですが、あの男性は何でもこなせる方だそうです。

朝食は邪宗門の同じ部屋で8時からと夕食時に案内がありました。朝はコレジオを通った時にスタッフに「ご朝食ですか?」と聞かれ、返事をしたためか、入り口に係の若い男性が笑顔で立っていました。この若い男性は昨日コレジオから部屋まで案内をしてくれた方でした。最初にオレンジジュースか牛乳を選びます。このオレンジジュースは果肉入りで絞りたてですので、私はこちらをお勧めします。しばらくするとお盆にのった朝食が運ばれてきます。お粥かご飯は昨晩のうちに確認されています。鯵のみりん干しは本店(下田温泉伊賀屋)の手作り、出汁巻、手作り豆腐、ひじきの煮物、アオサの味噌汁などで、天草の朝ごはんがベースということです。夜は閉まっていたのでわからなかったのですが、朝はこの部屋の窓から東シナ海が臨めました。

食事の後ライブラリーで新聞を読み休憩した後、「五足の靴文学遊歩道」を歩いてみました。「五足のくつ」の敷地内を横切るように遊歩道があるのですが、あまり歩く人がいないのか少々歩きにくかったです。ただ展望所からの眺めはなかなかでした。またライブラリーは若干本が雑然としていたので、もう少し並べ直したいいのにと思いました。

チェックアウトは11時です。荷物を持って出ようとしたら、気づいた若い男性が荷物を運びに来てくれました。支払いの間に車まで運んでくれます。もちろん最後まで見送りもしてくれました。

ここは滞在中自分の時間を楽しむことができる宿です。連泊、リピーターも多いそうです。次はぜひヴィッラCに泊まってみようと話しながら帰りました。

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