意思疎通は大事です


「カスパル、口付けしてもいいかな?」
「ん、いいぜ」

「カスパル、抱き締めてもいい?」
「別に構わねえけどよ」

「……なあリンハルト、なんでいちいち訊くんだ?」
「えっ?」
 解せないといった面持ちで訊ねてくるカスパルに、リンハルトはきょとんとした表情を浮かべながら首を傾げる。
「なんでって、何か変?」
「いや、別にわざわざ訊かなくても好きにすればいいだろ? その……そういうのがだめって仲でもねえんだからよ 」
 『恋人なんだから』とでも言おうとして言えなかったのが、カスパルはもごもごと言葉を濁す。そんなカスパルの初心さに愛おしさを感じつつ、リンハルトは言葉を続けた。
「確かに僕たちは肉体的な接触をお互いに許容している関係だけど、触られたくない気分のときもあるかなって」
「そりゃ、まあ……ないとは言えねえな」
「でしょ?」
 リンハルトの説明にカスパルも納得したように頷く。
 リンハルトはカスパルに触れられるのは嫌いではないし、好ましいとすら思っている。だが、睡眠中に起こされるのは嫌というふうに、条件付きで嫌になることもある。それはきっとカスパルも同じだろう。
「僕に触れられて嫌な気分になってほしくないから、確認はさせてほしいな」
「……確かにお前の言う通りだな。けどよ、毎回いいって言うのもなんか恥ずかしいんだよな」
 カスパルは頬を掻きながらちらりとリンハルトに視線を向ける。
「だから、確認なんて言わずに好きに触っていいぜ」
「いいの?」
「おう。つうか、オレが嫌がるかもなんて理由で毎回律儀に確認してくるお前が、オレが嫌がるような触り方するとも思えねえし」
「……ふうん? じゃあこういうのもいいんだ?」
 リンハルトはカスパルの手を取り、指先に軽く口付けを落とした。そのまま唇を動かして手の甲にも口付けを落とし、指の間に舌を這わせる。
「っ……くすぐってえ……」
「くすぐったいだけ?」
 リンハルトはカスパルの瞳を覗き込むが、そこに嫌悪の色は見えない。むしろ頬のあたりが仄かに色づいているようにも見えて、リンハルトは指の根元に音を立てて口付けた。
「っ……」
「カスパル、これは嫌?」
「……別に……嫌じゃ、ねえ」
「嫌じゃないってことは好きでもないってことかな? 好きか嫌いかで言うとどっち?」
「……好き、かもしれねえ」
 リンハルトの問いかけに対して、カスパルは頰を赤くしたまま答える。
「ふふ、嬉しいな」
 カスパルの返答に微笑んだリンハルトは、今度は唇に口付けを落とした。軽く触れるだけで唇を離すと、カスパルは少しだけ物足りなさそうな表情をする。
「……リンハルト」
「どうしたの?」
「いや、その……」
 カスパルはもごもごと言葉を詰まらせた。リンハルトはそれを急かすことなく、カスパルが言葉を続けるのをじっと待つ。
「ええと……もっと、してほしい」
「ん、いいよ」
 リンハルトはその言葉を受けてふたたび口付けると、今度は舌を伸ばしてカスパルの唇を軽くなぞった。促されるように薄く開いた唇のあいだに舌を滑らせ、歯列をなぞって頬の内側や上顎をそっと撫でる。
「ん、ふ……っ」
 カスパルは息を詰まらせながらもリンハルトの舌を受け入れ、おずおずと自分からも舌を伸ばす。リンハルトはその舌をくるむようにして絡め取り、自身の口内へと招き入れた。
「っ……んん……!」
 ぬるりとした感触にカスパルの肩が震える。それでも健気に応えようとする姿が愛おしくなって、リンハルトはより深く口付けた。歯列の裏をなぞるように口内を舐めれば、カスパルの身体がぴくりと震える。
「ん……ぅ……ふ……ぁ」
 カスパルは縋るようにリンハルトの服を強く掴んで、与えられる快楽を必死に受け止めていた。鼻にかかった声がカスパルの唇の隙間から溢れ、リンハルトの鼓膜を甘く刺激する。
「っは……」
 やがてどちらからともなく唇を離すと、二人の唇の間を銀色の糸が伝い、ぷつりと途切れて顎に落ちた。
「リンハルト……」
「ん?」
 カスパルは呼吸を整えるように大きく息を吸い、ぼんやりとした瞳でリンハルトを見上げる。
「……やっぱり、いちいち確認するの禁止な」
「ええ? どうして?」
 心外だと言わんばかりに目を丸めるリンハルトを、カスパルは目を眇めて睨みつけてきた。
「……お前、オレに返事させるのをおもしろがってるだろ! なんかこう、からかわれてるみたいで気に入らねえ!」
「……あ、ばれてた?」
 あっけらかんと肯定するリンハルトに、カスパルはがっくりと肩を落とす。
「お前なあ……」
「ふふ、ごめんね」
 リンハルトは苦笑いを浮かべつつ謝罪の言葉を述べる。
「君の指摘もその通りなんだけど、君に嫌な気分になってほしくないって気持ちも本当だよ。……そんなに嫌だったかな?」
「……嫌とは言ってねえだろ」
 拗ねたように唇を尖らせながらカスパルがぼそりと呟く。
「お前の気遣いはありがてえんだけど、オレそういう駆け引きみたいなの得意じゃねえからよ……だから、次からは『ぜんぶ』お前から言ってくれ。オレはいいか駄目かだけ答える」
「うん、わかったよ。約束する」
 カスパルが不貞腐れ気味に出した提案に、リンハルトは素直に頷いてみせる。
「じゃあ……続き、してもいい? 君とひとつになりたいな」
「……もっと、オレにもわかるように言え」
 意趣返しのようなカスパルの返事に、驚かされたのはリンハルトのほうだった。
「……いいか駄目かだけ言うんじゃなかったの? 参ったなあ」
 リンハルトは苦笑すると、カスパルの耳元に顔を寄せて囁く。
「君のことが愛しくて、君と繋がりたくて堪らないんだ。だから……君の中に入ってもいい?」
 その問いに対して、カスパルは返事の代わりに両腕を伸ばしてリンハルトの首に抱きついた。そして、今度は自分から口付ける。
 リンハルトはそれに応えるように舌を絡め取りながら、カスパルの身体を抱き寄せて寝台に倒れ込んだ。





 蜜より甘い


 リンハルトは寝台の側の机に置かれた水差しを手に取り、自分の口に含んで水を流し込む。そのままカスパルの上に覆い被さって唇を合わせると、カスパルは素直に口を開いて流し込まれる水を嚥下した。
「疲れたかな? 大丈夫かい?」
「ん……なんともねえよ」
「そっか、よかった」
 気怠げに応えるカスパルの額や頬に啄むような口付けを落としながら、リンハルトは疲弊しているであろう恋人の髪を手で優しく梳く。
 汗で張り付いた前髪を掻き分けてやると、その手が心地良いのかカスパルが目は細めて擦り寄ってる。その様子がまるで猫のように見えて、リンハルトの顔に思わず笑みが浮かんだ。
 窓の外はすっかり夜が更けていた。薄明かりの中で浮かび上がる逞しい肢体には、筋肉の隆起に沿うようにして汗が伝い落ちている。ただそれだけのことが妙に艶めかしく見えて、リンハルトは静かに息を飲んだ。
 普段は感情の赴くままにくるくると動く表情豊かなカスパルの顔は、情欲に濡れると驚くほど艶を増す。上気した肌は薄紅に染まり、いつも豪快な笑い声を上げている唇は切なげな吐息を漏らす。
「……綺麗だなあ」
 リンハルトの漏らした呟きが聞こえたのか、カスパルは気怠げに身を起こした。汗ばんだ身体をリンハルトに向け、首を傾げて問いかけてくる。
「綺麗、ってなんだよ」
「カスパルのことだけど」
 リンハルトがそう答えてもカスパルは意味がわからないらしく、怪訝な表情を浮かべるだけだった。
「君の髪や瞳は澄んだ青空みたいで綺麗だし、手足の筋肉はしなやかで優雅だと思う。傷だらけの皮膚も、君の努力の証だと思うとすごく愛おしいんだ」
 リンハルトは寝台の上に座るカスパルの胸元に指を這わせた。しっとりと汗ばんだ肌の感触を楽しむように優しく撫で回すと、カスパルの吐息に甘い響きが混ざり始める。
「……そんなこと初めて言われたぜ」
「そう? じゃあ、僕が一番乗りだね」
 リンハルトはくすくすと笑いながらカスパルの身体を抱き寄せる。すっかり全身に力が入っていないカスパルは、リンハルトの腕に収まってされるがままに身体を預けてきた。
 カスパルの髪に鼻を埋めて息を吸い込むと、汗に混じって石鹸の香りが漂ってくる。昔から変わらないその香りが愛おしくて、リンハルトは何度もカスパルの髪を撫でた。
「くすぐってえな」
「ふふ、ごめん」
 リンハルトはカスパルの髪の感触をひとしきり楽しんだ後、額にそっと口付けた。生え際のやわらかい毛を唇で食んで、頬や鼻にも口付けを繰り返す。厚い胸板を撫でて鎖骨に舌を這わすと、カスパルはくすぐったそうに身を捩らせた。
「くすぐってえってば」
「本当にそれだけ?」
 リンハルトは悪戯っぽく問いかけながら胸の尖りに指を伸ばす。硬くしこった乳首を指先で押し潰したり引っ張ったりするたびに、カスパルは鼻に抜けるような甘い声を上げた。
「んっ、ぅ」
「ここも好きだよね」
「うるせえ、ん、ぁっ」
 突起の片方を舌で舐め上げ、もう片方を指で摘むとカスパルは喉の奥で小さな悲鳴を零す。身を捩って逃れようとする身体を抱き締めたまま愛撫を続けると、次第にカスパルの腰が焦れるように揺れ始めた。
「下も触って欲しい?」
 リンハルトの囁きにカスパルは息を荒げながらもこくりと頷く。
 お誘いの言葉ひとつ口にできない恋人の拙さを愛おしく思いながら、リンハルトはカスパルの下肢へと手を伸ばした。





 お手をどうぞ


 聞き慣れた騒がしい足音と共に、聞き慣れない小さな金属音が聞こえてくる。鈴か鉄琴のような繊細なその音は、足音の主にはおおよそ不釣り合いな響きのように感じられた。
 だからといって、リンハルトの視線を書物から離すほどの興味を抱かせるものではなかったわけだが――その音が私室の扉の前で止まったとなれば話は別だった。
「リンハルト! すげえもん貰ったんだ! なあ、見てくれよ!」
 寝台に腰をかけて書物に目を落としていたリンハルトは、興奮した様子で私室に駆け込んできたカスパルに軽く溜め息をついた。
「遠慮しておくよ。カスパルがそういうときはろくなものだった試しがないんだから。あと、いま本を読んでるんだから静かにして」
 リンハルトは顔を上げることすらなく淡々と告げる。
 以前カスパルがこのような様子だったときは巨大な熊の死骸を見せられた。更に前は、抱えるほどの大きさがある魚だったのだ。
 それらはリンハルトにとって「いいもの」とは言い難く、むしろそのために連れ出されるのは迷惑とも言えた。
 ただ、「嬉しい、楽しいといった感情を相手と共有したい」という気持ちが親愛の情からくるものであることは理解しているし、それを嬉しく感じる自分もいることをリンハルトは自覚している。
 そのために、なんだかんだ言いつつ毎回付き合ってしまうのが実情だった。
「今回は本当にいいもんなんだって! いいからこっち見ろ!」
 カスパルは幼馴染のすげない返答にもめげることなく、リンハルトの正面に回り込んで両腕を広げてみせる。どうやら今回はリンハルトをどこかへ連れ出すつもりではないようだ。
 それならば見るくらいは構わないかと判断したリンハルトは、手にしていた書物に栞を挟んでからやれやれと顔を上げる。
 新しい武器でも入手したのか、それとも防具か――カスパルの嗜好を鑑みたときに思い浮かんだのがそれらだったが、いざ視界に入った幼なじみが身につけていたのは予想外のものだった。
「……それ、白鷺杯の?」
「おう!」
 カスパルが得意げに纏っていたのは優美な装飾に彩られた衣装だった。
 五年前、まだ二人が学生だった頃、士官学校の催し物として行われた学級対抗の舞踏会。それに優勝した者に与えられた特別な装束である。
 そして、その装束は単なる華やかな衣服ではなく、舞踊という分野でも勝利を収めたという、カスパルにとって輝かしい経歴を証明する記念品でもあった。
「でも、当時のものではないよね? あの頃に着ていた服をいまの君が着れるとは思えないし」
 カスパルをしげしげと眺めたリンハルトは、その服の大きさが彼の体型に合致しているのを確認したのちに率直な疑問を口にする。
 あの衣装は当時のカスパルの体格に合わせて裁断され、カスパルの好みに合わせて臙脂色に染色された、カスパルのためだけの衣装だ。
 この世に一着しかないはずの代物であるそれは、体が大きく成長したいまのカスパルに着れるものではないはずだった。
「先生が職人に頼んで同じ意匠のやつを作ってくれたんだ。兵士たちの士気を上げるためにたまに踊ってやってくれって言われてよ」
 カスパルは衣装を見せつけるようにくるりと一回転してみせる。
 動作に合わせて長い裾がふわりと翻り、鍛えられた太腿が一瞬だけ覗く。胸や腰を飾り立てていた装飾品が振動によってぶつかり合い、鈴を鳴らすような音色を室内に響かせた。
 生き生きとしたカスパルの姿は魅力的で、溌剌とした生命力に満ち溢れている。確かにそれはリンハルトにとっても「いいもの」であるように思えた。
「うん、いいんじゃないかな。兵士たちにも娯楽は必要だしね」
「だろ!」
 リンハルトが興味を示したことが嬉しかったのか、カスパルはにかっと歯を見せて笑う。
 前線の駐屯地では、兵士たちは疲労や高揚によって精神の均衡を崩しやすい。そこで舞い踊るのは鑑賞させること自体が目的ではなく、和やかな雰囲気を醸すことが狙いなのだろう。
「オレよりもドロテアとかのほうがいいんじゃねえかって先生に訊いてみたんだけどよ、女だと危険だから素手で戦えるオレに任せたいんだって言われてよ。踊りの何が危険なんだ?」
 カスパルは振り付けを思い出しているのか、手を軽く動かしながら首を傾げる。
「踊りを本職としている人には『副業』をしている人も多いんだよ。たぶん、女性だとそういった誤解を与えやすいから危険という意味なんだろうね」
 踊るという行為によって発生するいくつかの危険性の中で、リンハルトがベレトの意図として汲み取ったのは舞踏中の事故などではなくそれだった。
 すべての踊り子がそうというわけではないが、踊り子を本職としている者の中には春を鬻いでいる者も多い。
 それが町の風紀を乱すとして、一時期女性の踊り子が禁止された地域もあるそうだ。しかし今度は男性の踊り子が春を鬻ぐようになり、結果として舞踊の鑑賞という娯楽自体が禁じられたという。
 そういった実情を鑑みた結果として、女性にその役を任せるのは危険だろうとベレトは考えたのだろう。
 カスパルは白鷺杯で優勝しているという実績があるし、万が一襲われるようなことがあっても素手で対処できる。適度に踊れて自衛もできるという意味では、確かにカスパルは適任なのかもしれない。
「踊り子の副業? 歌とか演劇とかか? それがなんで危険なんだ?」
「そういうのじゃなくて……閨での踊り、というべきかな」
「ねや?」
 カスパルはリンハルトの言葉を繰り返してきょとんとした表情を浮かべた。
 リンハルトはそんなカスパルを一瞥して軽くため息をつく。
 比喩的な言い方では伝わらないだろうとは予測していたが案の定だ。このまま曖昧にごまかすことは簡単だが、ここはしっかりと意味を伝えておいたほうがいいかもしれない。
 カスパルであれば襲われた場合に自衛はできるが、悪意を感じさせない者の下心を察することはできないだろう。リンハルトが心配なのは、むしろそういった輩のほうだ。
「わからないかな? つまり、こういうことだね」
 リンハルトはカスパルの手首を掴んで自分のほうへと引き寄せた。体勢を崩して凭れかかってきたカスパルの腰を抱き寄せ、長い裾の切れ込みに手を差し込んで剥き出しの太腿をするりと撫で上げる。
「……ッ!?」
 突然のリンハルトの行動にカスパルは体を硬直させた。
 そんなカスパルを尻目に、リンハルトは太腿から更に上へと手を這わせる。長い腰巻きの下には短い下衣も身につけていたが、薄い生地はリンハルトの手の感触を遮るには至らなかった。
「……っ、リンハルト!」
「わかったかな?」
 太腿の付け根のぎりぎりまで手を滑らせたところでカスパルから制止の声がかかり、リンハルトはぱっと手を離す。
「ねや、って……そういうことか……」
 カスパルはリンハルトの行動と言葉の意味を理解したらしく、顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。
 鈍いカスパルでも、リンハルトの手の動きが性的な意図を孕んでいることには気づいたようだ。その程度には、二人は既に深い関係にあった。
「だから、君もいちおうは気をつけたほうがいいよ。君の身分と強さを知らない兵士は少ないだろうけど、名前は知っていても顔を知らない兵士はいるだろうし、他国から出稼ぎにきた傭兵だって軍の中にはいるからね」
「……ああ、わかったよ」
 カスパルの返事にリンハルトはほっと安堵の息をつく。
 そういった意図でカスパルと体を重ねているわけではなかったが、それによって性に関する事象を多少は把握してくれるようになったのはリンハルトにとって収穫だった。
 リンハルト自身もそういった危険性に身に覚えがあったのもあり、なにかと未熟な恋人は心配の種だったのだ。
「でもまあ、お前やフェルディナントなら綺麗な顔してるからともかく、オレにそんな気を起こすやつなんてそうそういねえだろ」
「そうとも限らないと思うけどね。少なくとも、僕は君の容姿も含めてとても魅力的だと思っているよ。踊っている君は活力に満ちていて、なおのこと素敵だと思う」
「お、おう……そうかよ……」
 恋人からの率直な賛辞をぶつけられたカスパルは、照れ隠しをするように視線を逸らして頬を掻いた。
「本当に……とても綺麗だよ」
 リンハルトはそう囁いて、赤く染まったカスパルの耳にそっと息を吹きかける。
「っ!」
 突然耳に生暖かい空気を吹きかけられたカスパルはびくりと体を震わせた。そんな反応が面白くて、リンハルトは今度は耳の輪郭に沿って舌を這わせる。
「おま、え……ッ」
「うん?」
 戸惑うカスパルを余所に、リンハルトは形の良い耳を唇でやんわりと食んだ。そのまま舌で耳の形をなぞるように舐め上げ、ひととおり味わった後は舌先を窪みにねじ込む。
「あ……っ!」
 ぬるりとした感触に驚いたのか、カスパルの口から小さな声が上がった。
 リンハルトは長椅子に乗り上げた不安定な体勢のまま身を捩らせるカスパルの腰を抱き、密着させるように自分のほうへと引き寄せる。
「お、おい……っ」
 耳から首筋へと唇を移動させながら、リンハルトはカスパルの下衣を覆う装飾品の紐をするりと解いた。支えを失った装飾品が連なったまま床へと落下し、絨毯に受け止められて軽い金属音を立てる。
「あ……っ! す、するのか?」
「うん……したくなっちゃったな」
 甘えるような口調で問いかけると、カスパルはリンハルトをじっと見つめてこくりと唾を飲み込んだ。
「お前、いつもよくわかんねえときにそういう気分になるよな……」
「だめかな?」
 リンハルトはカスパルの耳元に口を寄せて問いかける。今度は低く、少し掠れた声で囁くと、カスパルの背中がぞくりと粟立つのが衣服越しに伝わった。
「……服、汚すなよ」
 カスパルはそれだけ言うと、リンハルトの首元に腕を絡めて体をぴたりと密着させる。それを合図に、二人はどちらからともなく唇を重ね合わせた。
 舞い手の衣装を着たまま乱れる幼馴染の姿はとても魅惑的で美しい。リンハルトはその姿に見惚れるように、ゆっくりと時間をかけてカスパルの体を拓いていった。



 作品一覧に戻る