カスパルとリンハルトのセクシュアリティおよび、カスパル関係のペアエンドについての考察


本編および無双の支援会話やペアエンドに関するネタバレを含みます。
あくまで個人の考えであり、キャラのセクシュアリティについて断言するものではありません。
紛らわしさを回避するために「Ace」や「Allo」といった複数の単語の総称や略語としてもちいられる言葉は使用していません。
気がついたことがあったら随時加筆・修正します。



目次


リンハルトのセクシュアリティについて
カスパルのセクシュアリティについて
AO3ではしばしばトランス男性として描かれているカスパル


レト/リンのペアエンドから鑑みるリン/カスのペアエンド
カスパルとのペアエンドから窺えるドロテアの価値観の変化
カスパルとエーデルガルトは性的な関係がない夫婦?
カスパルの伴侶となる女性について考える1・ヒルダ
カスパルの伴侶となる女性について考える2・ベルナデッタ
カスパルの伴侶となる女性について考える3・カトリーヌ







・リンハルトのセクシュアリティについて

 この記事は主にカスパルのセクシュアリティを考察するものですが、比較対象として先にリンハルトのセクシュアリティについて少し触れておきます。

 リンハルトは女性と結婚して子供を授かるペアエンドがあることから、異性を性愛の対象に含めていると思われます。また、プレイヤーの選択によっては男性の主人公であるベレトと婚姻関係を結ぶ場合もあることから、同性も性愛の対象に含めていることがわかります。

 風花無双の主人公であるシェズに対しても男女で態度を変えることがなく、どちらにも「自分と同居しないか」という話を持ちかけます。そして、「どういう意味かと思った」と疑問を口にするシェズに対して「そういう意味だと思ってくれていいんだけど」と意味ありげな返事をします。

 そういった点から、リンハルトはバイセクシュアル(1)、あるいはヘテロフレキシブル(2)である可能性が考えられます。

 ベレトとの会話にしろシェズ♂との会話にしろ、リンハルトには「同性に対して恋愛感情を持つことへの戸惑い」のようなものは見られないため、バイセクシュアルである可能性のほうが高いのではないかと個人的には予測しています。

 リンハルトと恋愛関係になれる異性キャラの多さに対して、同性の相手は主人公たちに限定されています。リンハルトが同性に対して性的な魅力を感じる範囲が異性より狭いのか、リンハルトの性的な好意に応えられる同性が主人公たちのみだったのかはこちらでは判断がつきません。

 主人公であるベレト/ベレスは「相手の好みに関係なくほとんどのキャラと恋愛関係になれる」という特権を持っている(それによってキャラのセクシュアリティを表現していると思われる)ので、「同性を性愛の対象に含めている男性」はもれなくベレトとも恋愛関係になってくれるものと考えられます。

 その説を前提とすると、同性を性愛の対象に含めている男性キャラはベレトと婚姻関係を結べるリンハルトとユーリスのみと推測されるため、「リンハルトの性的・恋愛的な好意に応えられる同性が主人公たちのみだった」という可能性はあるのではないかと思っています。

 また、リンハルトはフレンに対して「子供を作りたい」という発言をしている点から、アロセクシュアル(3)であるとも考えられます。「子供を作りたい」という発言が「性行為をしたい」という感情と直結しているとは限りませんが、少なくとも性行為に対して抵抗があるわけではなさそうです。

 更にリンハルトは「それは愛し合う二人がするものでしょう?」と訊ねるフレンに対して「うん、僕は君のこと、好きだよ」と好意を伝えていることから、アロロマンティック(4)であるとも考えられます。「好き」にもいろいろな種類がありますが、この場合はフレンの言葉への返答なので、恋愛的な意味での「好き」だと思われます。

 リンハルトは女性との支援がやたらと多いうえに、女性を口説いていると取れるような発言も多いのが特徴的です。

「……君は可愛いね」
「君のために力を尽くすし、君だけを助けるよ。ずっとね」
「君は僕にとって大切な人だよ。家族にしたいくらい」
「これからは僕がずっと見守ってるよ(中略)この先の一生を捧げてもいいくらいだ」

 ……と、甘い言葉をこれでもかと口にします。

 相手をからかっていると取れるような言動も多いため、恋愛的な好意を匂わせる発言をそのまま恋愛感情と判断できるかは怪しい部分もあります。ですが、少なくとも「恋愛的な行為」は好むタイプであると言えるでしょう。

「リンハルトはバイセクシュアルかもしれない」と仮定した場合に気になったのが、リンハルトが着ている服の色です。本編二部および無双のリンハルトは、いずれもグリーンを基調として差し色にパープルやイエロー(ゴールド)を使用した平服を着ていますね。

 LGBTQ+のシンボルとしてもちいられるプライドフラッグには様々な種類がありますが、それらにおいてグリーンは「ノンバイナリー(5)」を、パープルは「どちらの性にも惹かれる」ことを、イエローおよびゴールドは「二元的ジェンダー(男女)以外のジェンダーの象徴」を表している場合があります。

 風花に登場するキャラすべての衣服にセクシュアリティに関する意味が含まれているとは考えにくいですが、中性的な雰囲気かつ両性愛者だと思われるリンハルトの服にこういった色がもちいられていると、もしかしたら……などと勘ぐってしまいました。

 リンハルトがノンバイナリーかつバイセクシュアルであるとするなら「リンハルトは男性にも女性にも性的・恋愛的に惹かれる」というより「リンハルトは二元的な性別にとらわれない」というほうが正しいのかもしれませんね。



1 バイセクシュアル……異性と同性に対して惹かれることがある性的指向。
2 ヘテロフレキシブル……基本的には異性に惹かれるが、ときおり同性に惹かれることもある性的指向。
3 アロセクシュアル……他者に対して性的に惹かれることがある性的指向。
4 アロロマンティック……他者に対して恋愛的に惹かれることがある性的指向。
5 ノンバイナリー……ジェンダー二元論にとらわれないジェンダーの自認のこと。








・カスパルのセクシュアリティについて

 能動的に性的・恋愛的な言動をするリンハルトと比較すると、受動的なカスパルの性的指向は非常にわかりにくいです。

 カスパルはヒルダのような魅力的な女性に夜のお誘いをかけられてもその意味を理解できなかったり、ドロテアのようなセクシーな女性と互いの自室を行き来することに抵抗を見せません。ゲーム開始時点で17歳、ヒルダとの会話が発生する頃には少なくとも22歳であるにも関わらずです。

 また、ベルナデッタとの支援会話ではベルナデッタの体に触れて担ぎ上げていると想像できますが、そこでも「異性の体に触れること」への抵抗やときめきを感じていないように見えます。後日その行為をベルナデッタに怒られたときも「悪かった、オレ、全然気にしてなかったよ」と吐露しています。

 そこから「異性の体、あるいは性的な接触への関心のなさ」を感じ取れます。とはいえ相手と自室(密閉された狭い空間)で二人きりになることや体が接触することに対する嫌悪感は見せていないため、あくまで興味がないだけで嫌というわけではないのでしょう。

 ドロテアとの支援Aの会話では二人で頻繁にお茶に行っていることが明らかになり、更に無双ではメルセデスと一緒にお菓子作りや猫の観察をしているようです。それらは他人から「彼らはデートをしている」と思われかねない行動ですが、カスパルは喜ぶ様子も恥ずかしがる様子もなく「またかよ」などと言っています。

 こういったやりとりから「異性と恋愛的なやりとりをすることに対する関心のなさ」も感じさせます。

 しかし「お前に、凄え景色見せてやろうって、それしか考えてなかったから……」という理由でベルナデッタを連れ出したり、ドロテアやメルセデスの誘いを断らないあたり、それらの恋愛的な(本人の認識はともかく、他人からはそう見られる可能性がある)行為に対して嫌悪感があるわけではなさそうです。

 風花に登場する人々はモブを含めて品があるので、カスパルが異性の体に興味を示さないことや、異性とデートのような行為をしていることをからかったりしている気配はありません。ですが、もしそのような人がいたのであればカスパルの感じ方も変わっていたのかもしれませんね。

 そういった「性的・恋愛的な事柄への関心の希薄さ」から、カスパルはアセクシュアル(6)かつアロマンティック(7)である可能性が考えられます(アセクシュアル・アロマンティックに分類される性的指向を持つ人すべてが性的・恋愛的な事柄に無関心というわけではありません)

 カスパルの「性的・恋愛的な事柄に関する関心の希薄さ」を表しているエピソードを上げると枚挙に遑がありません。

 難攻不落の要塞であるアリアンロッドは処女に例えられて「白銀の乙女」と呼ばれていますが、カスパルはこれに対しても「なんで要塞なのに乙女なんだ?」とその言葉に隠された意図を理解できていません。

 バルタザールに「拳で決着がつかないなら金か女で勝負だ!」と持ちかけられても「女の勝負ってなんだよ」とキョトン顔をする始末です。この調子ではおそらく「同性同士で下ネタで盛り上がる」といった行為をしたこともなさそうです。

 また、カスパルは「自分に対する恋愛的な好意」に対しても非常に鈍感です。

 カスパルはベルナデッタに「あの場所に連れてくのは、あたしだけにしてください」と可愛い独占欲を向けられたときも「何でそんな約束……」と疑問を口にしており、その言葉の意味を理解していません。その後の「不束者ですが、よろしくお願いします」という彼女の言葉も「何だよ、その挨拶! がっはっはっは!」と笑い飛ばしています。

 アネットとの支援Aの会話では「カスパルは強くてかっこいいね。そういうとこ、好きだな」と率直な好意を伝えられます。アネットに恋愛感情があるのかは不明ですが、異性にこのようなことを言われればときめく人は多いはず。ですが、やはりここでもカスパルは驚く様子もなく「がっはっはっは! オレもお前のこと好きだぜ!」と、なんともフレンドリーな「好き」で返しています。

 特に顕著なのが女神の塔でのイベントでしょう。

 女神の塔は生徒たちの間で「女神の塔で将来を誓い合った二人は必ず結ばれる」という噂が立っているデートスポットですが、ここに現れたカスパルは「なぜほかの生徒たちが立ち入り禁止のここに入っていくのか」を理解していません。

 更にカスパルは「昨日の夜さ、あんま仲良くない女の子に、急に話しかけられたんだよ。明日、舞踏会を抜け出して、女神の塔に二人で行かない? って。何かあんのかって聞いても、秘密だって教えてくれねえんだぜ」と話します。これは明らかにカスパルへのデートのお誘いです。

 しかし、カスパルは「飯食ったり踊ったりで忙しいから興味ないっつったら、怒ってどっか行っちまうしよ」となんとも不躾な断り方をしたらしいのです。

 そもそも、相手の女の子はカスパルを女神の塔に誘うくらいなのですから、カスパルに対して強い好意を抱いているはず。にも関わらずカスパルは彼女の名前すら記憶しておらず「あんま仲良くない女の子」とまで言っています。

 それに対して主人公が「酷い話だ」「さすがに可哀想」とふられた女の子に同情的な意見を言うと、カスパルは「だろ? 何の説明もねえし」「可哀想ってほどでもねえけど」と理不尽に怒られた自分への同情だと受け取ります。

 セクシュアリティがどうこうより会話のおもしろさに目が行ってしまいますが、つまりカスパルは「自分に対する恋愛的な好意」に鈍感なだけではなく「恋愛的な感情の動き」もまったく理解できないのです。

 いっぽうで、カスパルには異性と結婚して子供を授かるペアエンドもあります。べレスからプロポーズされた際も「嬉しいよ、すげえ嬉しい!」と好意的な返事をし、「あんたとこういうふうになったらいいなとか思うことはあったが……」と「以前から恋愛感情があった」とほのめかすような発言もします。

 そこから性的・恋愛的な事柄に関心がないわけではなく、無知で鈍感なだけのアロセクシャル/アロロマンティックかつヘテロ(8)という可能性も浮かびます。

「基本的には他者に性的、恋愛的に惹かれないが、強い信頼関係で結ばれた(風花雪月の場合は支援Aのこと)相手には稀に惹かれることがある」ようにも見えることから、デミセクシュアル(9)かつデミロマンティック(10)という捉え方もできるのかもしれません。

 カスパルのセクシュアリティを考察するうえで外せないのがドロテアとのペアエンドです。

 風花では男女のキャラがペアエンドを迎えるとそのほとんどが結婚という道を選びますが、カスパルとドロテアのペアエンドの文面には恋愛関係や肉体関係を匂わせる言葉がまったくありません。そればかりか、二人の関係性を示す言葉が何も記述されていないのです。

 そして、カスパルとドロテアのペアエンドは「二人は命が尽きるその時まで共に暮らしたというが、それを示す証は何もない」という言葉で締められます。この一文はリンハルトとカスパルのペアエンドの「彼らが終の住処をどこに定めたのか、それだけは記されていない」という締めの言葉に似ていると感じました。

「二人の関係性を示す言葉がいっさい使われていないが、二人は最期のときまで共にあった」というような内容は、リンハルトとドロテア双方のペアエンドに共通するものと言えるでしょう。

「伴侶でも恋人でもない(少なくとも文章の中には記されていない)つまり性的・恋愛的な関係では繋がっていない相手と生涯を共にした」という記述が「カスパルはそれらを必要としない=彼はアセクシュアル/アロマンティックなのではないか」という可能性を更に高めているように感じました。

 性的でも恋愛的でもない親密で深い関係(友情とも異なる)のことを「クィアプラトニック・リレーションシップ」呼ぶそうなので、リンハルトとカスパル、カスパルとドロテアの関係にあえて名前をつけるのであればこれなのかもしれません。

 これらの推測から、カスパルは「自ら性的・恋愛的な活動をすることはないが、強い感情的な絆や信頼関係で結ばれた相手に性的・恋愛的な関係を求められた場合に応じることはできる」という性的指向なのではないかと思われます。

 そして、それを求めなかったのがカスパルとペアエンドがありながらも婚姻関係を結ばないリンハルト、ドロテア、アッシュ、シャミアなのではないでしょうか。

「他者に対して性的・恋愛的には惹かれないが、パートナーの要望に応えて性的・恋愛的な関係を持つこともある人」はキュピオセクシュアル(11)やキュピオロマンティック(12)に分類されることもあるそうですので、あえてラベルを貼るのであればこれらが該当するかもしれません。

 ベレスと支援Sのある男性キャラはそのほとんどが自らプロポーズをしてくれますが、カスパルの場合は「ベレスのプロポーズにカスパルが応える」という形になっています。そういった一見して変哲のないシーンにも、彼の性的指向が表れていると取れるかもしれません。

 セクシュアリティではなく恋愛観の話になってしまうのですが、ベルグリーズのお家騒動もカスパルの「色恋沙汰に対する関心の薄さ」に影響しているのではないかと感じました。

 カスパルは色恋の機微には疎いいっぽうで、ドロテアの婚活を「男漁り」とネガティブな印象を受ける言葉で呼んだり、「うちのじいさんが後妻に入れ込んで……」といった発言をすることがあります。

 これらはおそらく、ベルグリーズ家のお家騒動に関してカスパルの周囲にいる人々がなんらかの噂話をしており、それをカスパルが耳に入れたことによって覚えた言葉なのではないでしょうか。

 お家騒動そのものはカスパルが幼い頃の出来事でしょうから、それ自体の記憶をカスパルがはっきりと覚えている可能性は低いでしょう。

 しかし、お家騒動から数年が経った本編でもその話題が出たり、兄の性格を「そういった出来事があったから仕方ない」と擁護しているあたり、噂話や醜聞は嫌というほど耳にしたのではないかと思われます。

 そこからカスパルが色恋沙汰に関して「めんどくさそう」等のネガティブなイメージを抱いた可能性もあるのではないかと感じました。それがドロテアに対する「よく飽きねえな」という発言に繋がっているのでは……とも感じられます。

 いずれにせよ公式が明言しない以上は推測でしかないうえに、「彼はこうである」と断言するのはそれこそセクシュアリティの押し付けなのでは……と感じると同時に、セクシュアリティというものにそこまではっきりとした境界はないのかも……とも感じるため、あくまで「こういう可能性もある」程度の認識です。



6 アセクシュアル……他者に性的に惹かれることがない性的指向。
7 アロマンティック……他者に恋愛的に惹かれることがない性的指向。
8 ヘテロセクシュアル……異性に対して性的に惹かれることがある性的指向。
9 デミセクシュアル……強い感情的な絆や信頼関係がある相手に対して、稀に性的に惹かれることがある性的指向。
10 デミロマンティック……強い感情的な絆や信頼関係がある相手に対して、稀に恋愛的に惹かれることがある性的指向。
11 キュピオセクシュアル……他者に対して性的に惹かれることはないものの、他者と性的関係を持つことを望んでいる(セックスという行為自体を楽しみたい、パートナーの要望に応えたい等の理由から)という性的指向
12 キュピオロマンティック……他者に対して恋愛的に惹かれることはないものの、他者と恋愛的な関係は持ちたい(デートという行為そのものを楽しみたい、パートナーの要望に応えたい等の理由から)という性的指向








・AO3ではしばしばトランス男性(12)として描かれているカスパル

 英語圏の二次創作投稿サイトであるArchive of Our Own(略称AO3)に投稿されている作品を拝読していると、しばしば「Nonbinary Linhardt von Hevring(ノンバイナリーのリンハルト=フォン=ヘヴリング)」というタグをお見かけします。そして、そのタグとよく併記されているのが「Trans Caspar von Bergliez(トランスのカスパル=フォン=ベルグリーズ)」というタグです。

「リンハルトはノンバイナリーなのではないか」という説はリンハルトの項目でも触れたため、個人的にはそこまで意外でもありませんでした。しかし、自分はカスパルがAMAB(13)であることを疑ったことがなかったので、この傾向はかなり興味深く感じました。

 しかもこれらのタグ、1件や2件ではなく「Nonbinary Linhardt von Hevring」タグが63件、「Trans Caspar von Bergliez」タグが52件と、それなりの数の作品に使用されているのです。ということは、カスパルには「彼はトランス男性ではないだろうか」と思わせる何かがあるのでしょう。それを少し考えてみたい。
 
 まず可能性として思い浮かんだのが、カスパルの小柄さです。

 カスパルの身長は17歳の時点で身長159cmです。同じ学級の男性であるリンハルトは身長177cm、フェルディナントは175cm(二部では180cm)、ヒューベルトは188cmですので、この時点ではかなり小柄と言えるでしょう。その後、カスパルは19歳で169cm(風花無双での設定)、22歳で173cmにまで成長しています。

 日本人の感覚で言うと身長173cmというのは取り立てて小柄には感じません。しかし、周囲のキャラとの比較に加えて、リンハルトやラファエル、無双のバルタザールの支援会話などで、カスパルはたびたび小柄であることを指摘されています。つまり、あの世界では小柄なのです。それが「カスパルはAFAB(14)なのでは」と思わせる一因なのかもしれません。

 もうひとつの理由として考えられるのが、カスパルの「男性らしさ」へのこだわりです。

 カスパルは自身の髪を常に超短髪にしており、服装も活動的なデザインの制服やいかつい(優美なデザインではない)鎧といった「男性的」と言えるものです。個人指導では「男ならウォーリアー」「男ならグラップラー」と、「男性らしさ」を意識したセリフを口にする場面もあります。

 比較として、リンハルトは常に長髪であることに加えて、ロングスカートのようにも見えかねないゆったりしたズボンを穿いたり、ローブのような平服を着たりと中性的な恰好をしています。いかつい鎧といった極端に男性的な服や、ドレスのような極端に女性的な服を着ていることはありません。

 リンハルトのように特定の性別を意識させない恰好は「男性らしさ」あるいは「女性らしさ」に拘らない(もしくは、どちらにも見せたくないという拘りがある)と言えます。そこが「リンハルトはノンバイナリーなのではないか」と考察される理由の一因なのでしょう。

 また、トランス男性は自身の乳房への違和感から、それを硬い下着で押さえつけたり、手術で切除する場合があります。青年となり体が成熟したカスパルは胸を覆う防具を身につけていますので、それが乳房を隠す役割をしているように見えるのもトランス説がある一因なのかもしれません。

 三つ目の理由が、カスパルの鍛錬好きな性格です。

 トランス男性の多くは、自身を男性らしく見せるために筋トレに励む場合が多いと聞きます。カスパルの鍛錬好きは本人の好戦的な性格や、ベルグリーズ家の人間として生まれたという立場にも起因するのでしょうが、そのように取ることもできるのではないかと思われます。

 そして、四つ目の理由が、「カスパルは敬語を話さない」という点です。

 敬語は日本語特有の文化ですので別の言語ではどう表現されているのかは不明ですが、敬語というのは一般的には穏やかで上品な印象を与える言葉だと思われます。そして、発言者が男性であるか女性であるかによっても受ける印象が異なる場合が多いです。

 例えば、幼い女の子が敬語を使っていれば「礼儀正しい子である」という印象は受けるかもしれませんが、「大人しい子である」という印象はあまり受けないのではないでしょうか。それが男の子だと「大人しい子である」という印象が強くなる気がします。アッシュやイグナーツがそれですね。

 逆に、活発な口調をしているレオニーやカトリーヌたちは女性キャラの中では特異な印象を受けますが、男性キャラの場合はむしろ活発な口調のキャラのほうが多いです。これは日本に限らず根付いている「男の子は活発であるべき、女の子は大人しくあるべき」といった性別による育成方針の違いによるものでしょう。

 そういう意味で敬語は「女性的な口調」と取ることもできるため、その点でも「カスパルは女性的な振る舞いを避けている」というふうに見えるのかもしれん。

 以上が「カスパルはトランス男性ではないかという説が考えられる理由」ですが、書き手はトランス男性ではないためにあくまで推測することしかできません。


12 トランス男性……出生時に決められた性別は女性だが、自認するジェンダーは男性であること。
13 AMAB……出生時に男性の性を割り当てられること。あくまで「出生時に割り当てられた性別」であり、本人の性自認とは無関係。
14 AFAB……出生時に女性の性を割り当てられること。







ここからは考察というより、ここまでの考察を前提としたカプ語りです。
記事の性質上、いろいろなカプの話をしています。





・レト/リンのペアエンドから鑑みるリン/カスのペアエンド

 ベレトとリンハルトのペアエンドは、リンハルトとカスパルの関係性を考察するうえでも重要であると考えています。

 前述したように、ベレトとリンハルトのペアエンドでは二人は「伴侶」という関係になります。

 ベレトがリンハルトを支援Sの相手に選ぶということは、リンハルトをパートナーにしたい気持ちがあるということであり、その場合リンハルトはベレトに対して独占欲を感じさせる発言をします(テキストの内容はベレスが相手のときと共通です)

 そこから「二人は相手にパートナーとしての関係を求めており、他者にもそれを誇示したいという気持ちがあるのだろう」と感じるため、互いの関係に「伴侶」という肩書きを選んだのは不自然ではないかなと思いました。
 
 いっぽうで、リンハルトとカスパルのペアエンドには二人の関係を示唆する言葉は明記されていないのです。「結婚」や「伴侶」といった恋愛関係を示す言葉だけではなく、「友情」や「親友」といった友人関係であることを示す言葉も使われていません。

 そういった理由から「二人は恋愛関係かもしれないし、そうでないのかもしれない」とも取れるようになっているのです。

 ここでひっかかるのが「リンハルトは同性と恋愛関係になることを望む場合もある」ということがわかるベレトとのペアエンドです。

 リンハルトの同性ペアエンドの相手がカスパルのみであったなら、私はおそらく彼らのペアエンドをひっかかりなく「幼なじみ同士の友情エンド」として受け取っていたでしょう(日本のメディアに登場するキャラは特に言及がなければ異性愛者である……という前提が私の中にあるためです)

 ですが、「リンハルトはバイセクシュアルであり、カスパルはアセクシュアル/アロマンティック、あるいはヘテロ、もしくはその両方である」と考えると、そこから「リンハルトはカスパルに恋愛感情を持っているのかもしれないが、カスパルはそうでないのかもしれない」というふうにも捉えることができます(あくまで可能性のひとつとして)

 その場合、リンハルトはカスパルに性的・恋愛的な関係を求めるだろうか? と考えたときに思い浮かぶのが、無双のリンハルトが取ったさまざまな言動です。

 例えば、ヘヴリング伯がベルグリーズ伯を転移魔法で前線に送り出す様子を見たリンハルトが、カスパルに「君も転移する? 危ないことはしてほしくないんだけど」と訊ねる場面です。

 前線に転移させるなど「危ないこと」以外の何者でもないので、本当はしたくないのでしょう。しかも、転移する・しないの主導権は術者であるリンハルトにあるはずです。それでもリンハルトはきちんとカスパルの意思を確認しているのですね。

 そんなリンハルトがカスパルの意思を無視したのが、無双黄燎ルートのミルディン大橋での戦いです。

 ここでのリンハルトは、敵を深追いして重傷を追ったカスパルを転移魔法で強制的に後方へ退避させます。更に自分が守っている砦を開門し、敵兵を進軍できるようにして囮となります。

 プレイヤーが作戦で「リンハルトの説得」を選んでいた場合ここでリンハルトは投降しますが、選ばなかった場合はそのまま戦い続けて討死してしまいます。

 血も争いも苦手、自分が傷つけられるのも誰かを傷つけるのも嫌という平和主義者のリンハルトが、自らを犠牲にしてでも守ろうとした相手がカスパルというわけです。

 また、ここでのリンハルトは「オレのために死ぬとか考えんなよ!」と伝えるカスパルに対して「さあね、僕は好きに生きるよ」と笑顔で応えます。

「君のために」などと言えば生き残った相手を縛る呪いになってしまいますし、それは彼の望むところではないのでしょう。「誰かのために自分が死ぬ」という行為のエゴイスティックさを、リンハルトは自覚しているのだろうと感じました。

 リンハルトは本編の支援Aではカスパルに対して「二人で生き延びること」を約束させています。基本的にはカスパルの意思を尊重するリンハルトが、カスパルに対して唯一望むことが「カスパルが生きていること」なのでしょう。

 そして、無双のリンハルトはカスパルが死亡している場合、ベルナデッタとの支援会話で「僕が一番死んで欲しくなかった人は、もうこの地上にはいないしね……」という心情を吐露します。その気持ちの表れが黄燎ルートで取った行動なのかもしれません。

 そういったリンハルトのカスパルに対する献身的な愛情を考えると、リンハルトはカスパルの性的指向を尊重して自分の性的指向は押さえ込んでいたのかも……? などという想像をしてしまい、それはキスやセックスといった「見える形での愛情」とはまた別種の深い愛情なのではないかと思うわけです。

「伴侶」や「恋人」という関係性も魅力的ではありますが、「結婚という約束や恋愛的な繋がりがなくても、二人は終わりのときまで共にあった」という彼らの関係性も、また別の魅力があるように思いました。








・カスパルとのペアエンドから窺えるドロテアの価値観の変化

 カスパルとドロテアのペアエンドは非常に現代的な価値観に沿ったものなのではないかと感じました。

 ドロテアは「貴族との結婚」に強い執着を見せており、それはカスパルとの支援会話でも言及されます。そして、目安箱への投函で「お金も愛情も両方ほしい」とも吐露しています。

「自分の幸福な未来のためにはお金と愛が必要である、そのためには貴族と結婚する必要がある」という彼女の価値観は「貧しい孤児」という生い立ちが深く関係していそうですね。

 また、ドロテアはエーデルガルトに忠誠を誓うヒューベルトに対して遠回しに「エーデルガルトのことを恋愛的に好きなのではないか」と訊ねるなど、ヘテロノーマティビティ(5)的な価値観を持っているように見えます。

(ドロテアは同性婚も可能なキャラですが、本人のセクシュアリティと他者を見る場合の価値観が一致するとは限らないことに加えて、相手が男性のヒューベルトではなく女性のモニカであったならこのようなことは言わないのでは……と感じたためにそう判断しました)

 カスパルは次男とはいえ貴族であり、裕福な家庭のお坊ちゃんです。紅花ルートであれば「軍務卿」という確固たる地位につくため、ドロテアの求める「お金持ちの貴族」に該当すると言って差し支えないでしょう。

 いっぽうで、紅花ルート以外におけるカスパルはベルグリーズ家と絶縁しているため、身分は平民だと思われます。放浪の旅人という立場からして、裕福とは言い難い金銭状況でしょう。

 しかし、カスパルが裕福だろうとなかろうと、ドロテアは「カスパルと結婚する」という道を選びません。恋人なのかどうかすら不明です。それでも二人は命尽きるまで共に暮らしました。

 ドロテアはお金持ちどころか結婚へのこだわりも捨てたのです。

 これはドロテアがカスパルとの交流を通して「貴族と結婚することだけが幸せではない」という新たな価値観を得たのだろうと私は考えています。

 そして、このドロテアの選択は「結婚だけが幸せではない」「恋愛だけが愛情ではない」「仲の良い男女が結べる関係は恋愛関係だけではない」といった、アマトノーマティビティ(16)およびヘテロノーマティビティからの脱却でもあるのではないか……と感じました。



15 ヘテロノーマティビティ……異性愛規範。男女であれば恋愛感情や性愛関係が自然と生じるものであるという思い込み。
16 アマトノーマティビティ……恋愛伴侶規範。人は誰もが恋愛をして伴侶を持つという思い込み。








★カスパルとエーデルガルトは性的な関係がない夫婦?

 カスパルとエーデルガルトはペアエンドを迎えると結婚します。
 結婚します。
 えっ!?

 このエピローグを読んだとき、私はとても意外に感じました。カスパルとエーデルガルトの支援会話には恋愛関係を匂わせるやりとりがなく、彼ら自身が能動的に恋愛をするタイプにも見えなかったためです。

 エーデルガルトが恋愛に能動的でないと思える理由が、支援会話やペアエンドの内容です。

 エーデルガルトに関する支援会話は「恋愛っぽさ」を感じられるものがほとんどありません。ドロテアとの支援会話では「私は色恋とは無縁よ」「きっと、燃え上がる恋、なんて一生することがないのよ」とも言っています。

 エーデルガルトとのペアエンドで彼女と結婚していると思われるキャラは、ベレト、ベレス、フェルディナント、カスパルの四名です。結婚はしていないものの、ドロテアやマヌエラとのペアエンドにはふんわりと恋愛関係を匂わせています。

 そのうちフェルディナントはペアエンドを迎えられる女性キャラ全員と結婚しており、彼自身が親しい女性との未来に「結婚」という関係を求めるのであろうことが予想できます。おそらく、エーデルガルトはそんな彼の気持ちに応えたのでしょう。

 また、エーデルガルトが子供をさずかったという記述があるエピローグは、フェルディナントとのペアエンドのみとなっています。単独エンドやヒューベルトとのペアエンドでは「後継者」の存在のみが記述されており、エーデルガルトの血を引いた子供ではないと思われます。

 それらの点から、エーデルガルトはバイセクシュアルかつアセクシュアルなのではないかという推測ができます。なおかつ、カスパルと同じように「必要に応じて性的な関係を持つこともできる」といった性的指向なのではないかと思われます。

 ただし、エーデルガルトの場合はカスパルとは異なり「興味がないというよりは、他事が忙しすぎて考える間もないのが実状だけれど」と、恋愛に興味がある素振りを見せています。しかし、忙しさに加えて「政治的な理由で婚姻が決まってしまうかもしれない」と諦めているようです。

 そういった点から、エーデルガルトは他人に性的に惹かれることはないものの、恋愛的に惹かれることはある、アセクシュアル/アロロマンティックなのではないかと思われます。政略結婚をすることがあったのであれば、愛情のない相手と性的な関係を持つ未来もあったのかもしれませんね。

 なんにせよ、カスパルとエーデルガルトは両名ともに恋愛に関して受動的な性格と言えます。

 カスパルとエーデルガルトの夫婦仲は良好だったようですが、二人のあいだに子供を授かったという記述はありません。そこで思い浮かんだのが「カスパルとエーデルガルトは性的な関係がない夫婦なのでは?」という可能性です。

 二人の支援会話からして、二人のあいだに強い信頼関係があるのは確かでしょう。しかし、能動的に性的な関係を求めないであろう二人が、性的な関係に発展したとは想像しにくい。

 また、単独エンドやヒューベルトとのペアエンドから推察できるように、エーデルガルトが統治する帝国では、皇帝など権力者の後継に血縁関係を必要としていません。つまり、二人が子供をもうける義務もないのです。

 というか、二人が恋愛関係であったかどうかも怪しいのではと思っています。

 そもそも、愛情の区分は明確な境目がなく基準が曖昧です。アロセクシュアルかつアロロマンティックの場合は「相手と性行為をしたいかどうか」を「恋愛的な惹かれ」の基準にできますが、アセクシュアルの場合はそうもいきません。

 そういった点から、二人の関係は友情や信頼の延長であったり、「相手のことは好きだけど恋愛的な惹かれかはわからない、あるいはどの種類の『惹かれ』であっても構わない」という、クワロマンティック(17)な関係である可能性もあるのかなと思いました。

 そういった仮定を前提とした場合、二人が良好な関係を築くにあたって「結婚」という制度や「夫婦」という形式は必要がないもののように感じます。しかし、彼らはお互いの関係に「夫婦」という形を選択しました。

 それはなぜか……と考えたときに思い浮かんだのが、彼らの置かれた立場です。

 二人のペアエンドにおけるエーデルガルトは皇帝ですし、カスパルは軍務卿です。エーデルガルトが改革を進めているとはいえ、何かと周囲に「こうあるべき」と言われる立場にある身でしょう。

 そんな二人が互いに求める関係を維持するにあたって、もっとも適した関係が「結婚」という形だったのでは? ……などというのが自分の推測です。



17 クワロマンティック……恋愛的魅力と他の魅力の区別がつかない、あるいは定義しないという性的指向。








・カスパルの伴侶となる女性について考える1・ヒルダ

 女神の塔のイベントでカスパルをデートに誘った女の子は、カスパルの不躾な態度に怒って帰ってしまいました。

 カスパルは女性を性的に意識していないことに加えて、興味のなさから恋愛に関する知識も浅いと思われます。そのため異性と接する際の距離感が近く、ドロテアやヒルダに自室に誘われてもその意図を深読みしません。

 また、ドロテアの男漁りを「オレの訓練みたいなものか」と納得したり、ヒルダの放任主義を「心が広い」と褒めたりと、相手が他人に批難されがちな部分を肯定するのも非常に上手です。

 ベルナデッタに対しては「お前に、凄え景色見せてやろうって、それしか考えてなかったから……」「この気持ちが本物だって、お前にわかってほしいんだ」「ちゃんと優しく連れてくし、連れてくのはお前だけにするよ」と、口説いているとも思えるようなセリフをこれでもかと連発しています。

 そういった面から、カスパルは「彼は自分に恋愛的な好意がある」という誤解を異性に与えやすいのでしょう。それでいてあの不躾な態度なのですから、女神の塔に誘った女の子は「思わせぶりな態度をしておきながらなんなのか」と憤慨したに違いありません。

 なお、カスパルは無双フェルディナントの「自分は器用貧乏である」という悩みを「いろんなことができるってことは、それだけ多くの人を助けられるってことだろ」と肯定しており、彼の「他人の欠点を肯定するのがうまい」という性質を発揮する場面が異性に限らないことがわかります。

 また、ベルナデッタを連れて行った場所は「喧嘩したやつと眺めていたら仲良くなれた景色が見える場所」らしいため、「異性と眺めるとロマンティックな雰囲気になる景色」という認識もなかったものと思われます(喧嘩した相手が同性とは記述されていませんが、どちらにしよデートに適した場所という認識はなさそうです)

 要するに、彼は相手が同性でも異性でも態度が変わらないようなのですね。

 では、カスパルと恋愛的にうまく行った女の子たちはどう違うのか……ということで、ヒルダとのやりとりを振り返ってみました。

 ヒルダはカスパルの鈍感さを「甘えたところで、あなたは何もやってくれないでしょー」と理解したうえで「あたしはカスパルくんが自由にしてるのを見るのが好きなの」と「自分の希望通りに動いてくれない」部分を肯定しています。

 カスパルもまた、ヒルダの「怠け者」や「不真面目」と否定されがちな一面を「心が広い」と褒め、「他人に縛られたら、お前の良いとこがなくなっちまうもんな!」と肯定しています。

 この二人は、お互いが他人に批判されがちな部分を「相手のいいところ」として受け入れているのですね。

 エッチなお誘いの意味を理解しないカスパルに対しても、ヒルダは「……やっぱり気づかないよね。ずるいなー、カスパルくん」と、少し残念そうにしつつある程度は予測がついていたような反応です。

 カスパルが「自分に対して性的な惹かれ」を感じさせる言動をせずとも、ヒルダはそれを「カスパルくんだから」と許容しているのです。そこが女神の塔イベントの女の子とは大きく異なる部分でしょう。

 ペアエンドを迎えたカスパルとヒルダは二人で旅に出ます。

 ヒルダはクロードとの支援会話で「駆け落ち」に対する憧れを見せていました。カスパルとの二人旅はその後の「ホルストに呼び戻された」という出来事も含めて「駆け落ち」のようなものと言えるため、ヒルダにとっては「恋愛的な行為」であったのではないでしょうか。

 そして、カスパルの人柄を見極めたホルストは、ヒルダとの結婚を認めてゴネリル家の騎士として登用します。無双ではホルストがプレイアブルキャラとして登場しますが、あのホルストの印象から想像するとカスパルのことを気に入ってくれそうではありますね。

 ヒルダは支援Aの段階でカスパルに対して夜のお誘いをしているので、パートナーとなったカスパルに性的な関係を望んだのであろうことは容易に想像がつきます。カスパルがあの様子なのでなかなか進展しなかったとは思いますが、後日談によると二人は多くの子供を授かったようです。








・カスパルの伴侶となる女性について考える2・ベルナデッタ

 カスパル関係の支援会話の中で特に「恋愛的な交流」であると感じられるのがヒルダ、そしてベルナデッタとの支援会話かなと個人的には思っています。

 ベルナデッタとの支援会話では、カスパルはベルナデッタを「凄え景色」こと素敵な夕焼けが見える丘まで連れて行きます。

 それ自体はまあいいのですが、この際にカスパルは許可もなくベルナデッタの体に触れて担ぎ上げるのです。人によってはかなり不快な行為ですので、カスパルに下心がなければいいというものではありません。

 これに対してベルナデッタは当然ながら怒ります。ですが、怒るだけでなくきちんと「ふん掴まれる女の子の身になってください!」と「自分が何に対して怒っているか」を伝えています。ここが女神の塔イベントの女の子とは異なる部分と言えるでしょう。

 怒られたカスパルは「……悪かった。オレ、全然気にしてなかったよ。お前に、凄え景色見せてやろうって、それしか考えてなかったから……。ほんと、悪かったな……」と、かなり反省した様子を見せます。

(このセリフを言うときのしょぼんとした様子のカスパルがかわいいのですが、そんなカスパルの態度に「あえっ、いや、その……わ、わかればいいんです!」と速攻で絆されるベルナデッタもまたかわいい)

 更にベルナデッタはカスパルに対して「またあの場所に、今度は優しく連れていくこと」を約束させます。そして、次にベルナデッタをその場所に連れて行ったカスパルは「おー、間に合ったか」というセリフを口にします。

 この「到着までに時間がかかったこと」を表すセリフが「カスパルはベルナデッタとの約束を守って彼女を優しく連れて行った」ことを暗喩しているのでしょう。

 ドロテアやヒルダとは「お互いはお互いらしいままでいい」と、相手に自分の価値観を押し付けない交流をしていました。いっぽう、ベルナデッタとは「お互いの影響でお互いが変化する」という、違った方向での交流をしているようですね。

 ベルナデッタはカスパルに対して「あの場所に連れてくのは、あたしだけにしてください」と要求したり、フェルディナントとのペアエンドでも公務で忙しいフェルディナントをたびたび呼び戻していることがわかります。

 そこからベルナデッタは「好意を持った相手を自分だけのものにしたい、あるいは自分のもとに留めておきたい」という欲求があるのだと推察されます。これは彼女が機能不全家庭で育ったという背景が影響していそうですね。
 
 そんなベルナデッタがカスパルに対して「結婚」という「相手の唯一になれる関係」を求めたのは想像にかたくありません。

 後日談でカスパルはヴァーリ家に婿入りし、二人は多くの子供を授かったことがわかります。機能不全家庭で育ったベルナデッタが夫と共に賑やかな家庭を築いたのだと思うと、なんとも微笑ましいものがありますね。








・カスパルの伴侶となる女性について考える3・カトリーヌ

 カトリーヌは蒼月ルートおよび、銀雪ルートで主人公がレアと支援Aの場合にのみカスパルと結婚します。それ以外の場合はカスパルと共に旅に出ますが、二人の関係を示す言葉はエピローグには記述されていません。

「蒼月ルート」および「銀雪ルートで主人公がレアと支援Aの場合」の共通点は「レアが赤き谷で隠棲している」という点です。

 レアが隠棲している場合、カトリーヌはレアを守るために赤き谷に同行しますが、カスパルとペアエンドを迎えると「彼女の横には志を同じくするもう一人の戦士の姿があった。彼女の夫となったカスパルである」という文章が加えられ、二人が伴侶になっていることがわかります。

 カスパルとカトリーヌの支援会話は主に「正義とは何か」についてカスパルが悩むという内容になっており、多少はいい雰囲気になるものの、二人が結婚するというエピローグは少し突飛に感じます。

 ですが、カトリーヌとほかのキャラとのペアエンドを読んでみると、カトリーヌには「結婚という選択をする条件」があることがわかりました。

 カトリーヌはほかの男性キャラ(リンハルト、アロイス以外)とペアになった場合はルートに関係なく結婚しますが、それらのエピローグには共通する記述があります。レア隠遁時の場合は「レアの後押し」、それ以外は「(情熱、求愛などに)根負け」という一文です。

 カトリーヌが結婚という道を選ぶ条件が「レアの肯定」もしくは「プロポーズを断られ続けても根強くプロポーズをしてくる相手」なのでしょう。

 また、カトリーヌはリンハルトとのペアエンド(レア隠遁時以外)では結婚したという記述こそないものの「彼らが夫婦となったのかは永遠の謎である」と、「夫婦となった可能性」をほのめかす一文がありますが、同条件のカスパルとはそれもありません。

 カスパルはほかの異性と結婚する場合もプロポーズの経緯を記述されていることがほとんどなく、唯一描かれているのがベレスとのペアエンドです。そこではベレスからカスパルにプロポーズするという形でした。

 それを考えるとカスパルは「プロポーズを断られ続けても根強くプロポーズをしてくる相手」には該当しない可能性が高く、レアの後押しがない状態では恋愛的な関係には発展しなかったのかもしれませんね。

 しかしこの二人、どのような恋愛をしたのかがどうにも想像しにくい。

 カスパルはもともと性愛に関する関心が薄く、カトリーヌはレアに尽くすことを優先した結果として色恋沙汰を避けている節があります。そのため、どちらも恋愛には受動的であり、彼ら自身から他人にアプローチをすることはほとんどありません。

 そんな彼らが自分から相手にアプローチをかけたケースを見てみました。

 カスパルとカトリーヌの支援Bの会話では「(正義を間違えないように)オレを見守っててくれねえか?」と頼むカスパルに対して、カトリーヌはにべもなく断ったあと「ガキのお守りは御免だよ、アタシは。見守られたきゃ、見てたくなるほど良い男にでもなるんだね」と、冗談のような言い方ではありますが「見守ってあげる条件」を提示します。

 その後の支援A+の会話では、カトリーヌとの訓練で初めて勝利を収めたカスパルが「前に言ってたろ? ガキのお守りは御免だって。だから、オレは一刻も早く強くなって、あんたと対等になりたかったんだ(中略)だから、カトリーヌさん、オレと……」と言いかけ、そこでカトリーヌに「そこまでだ。今はそれ以上、やめとけ」と言葉を遮られます。

「オレと……」のあとに何を言おうとしたのかは不明ですが、このやりとりを見るとカスパルのほうからカトリーヌにアプローチをかけた可能性はありそうです。とはいえ、カスパルのことなので「それとして意識せず発言した言葉が結果的にプロポーズのような内容になった」という感じかと予測されます。

 カスパルはシャミアとの支援会話で「仲間として頼もしく思ってて、ずっと一緒に戦っていきたい戦友で……出自なんか関係なく、一生の絆が結ばれた、心で通じ合ってる二人っつーか……」などと口にしていますので「一生の相棒になってくれ」とでも言ったのかもしれませんね。

 カトリーヌの場合は、ベレトとのペアエンドで「彼女からアプローチするケース」を見ることができます。

 ベレトがカトリーヌを支援Sの相手に選ぶと、カトリーヌは「例えば、そうだな……。(中略)どうしてもアタシと結婚したい、とかな?」と、結婚の意思をほのめかす発言をするのです。その後、ベレトが改めてプロポーズをして二人は伴侶となります。

 そういった二人の恋愛的な傾向を鑑みると、カスパルが「それとして意識せず発言したプロポーズのような言葉」をカトリーヌがプロポーズとして受け取り、それをレアが肯定したことによって婚約に至る(婚約しないルートではプロポーズとして受け取らなかった)……という感じだったのかなというのが個人的な予想です。



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