「九条の会・わかやま」 496号 発行(2023年12月03日付)

 496号が12月3日付で発行されました。1面は、人権保障こそ安全保障・「守ろう9条 紀の川 市民の会」志田陽子氏②、「第10回平和を願う町民のつどい」開催・みなべ「九条の会」、九条噺、2面は、大学の自治と学問の自由・山極壽一さん(総合地球環境学研究所所長・元京都大学総長)、パンフレット紹介『「国会議員の任期延長改憲」その危険な本質』  です。
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[本文から]

人権保障こそ安全保障

 11月11日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の「第20回憲法フェスタ」が開催され、武蔵野美術大学教授・志田陽子氏が「平和への自由と表現の自由~私たちの知る権利と語る権利は?」と題して講演をされました。講演要旨をレジュメから3回に分けてご紹介します。今回は2回目。

志田 陽子 氏 ②



 個人が社会の中で生きていく上でも、国が国際社会の中で存続していく上でも、友好・助け合いのモードと警戒・自己防衛のモードの両方を使い分けていると思います。攻撃型・戦闘型の軍事に莫大な予算をかける一方で、他国の戦争被害者を難民として受け入れることには無関心ということになれば、国としての品格は低いものとなり、憲法前文の「平和のうちに生存する権利」が見ているのとは逆方向になります。
 有事の時、手を差しのべてもらえるか? 外交と人権で合格レベルにならないと…。日本では外国人への人権保障がまったく行き届いていません。今の日本の難民認定手続き全般のハードルの高さ、技能実習生制度の問題、在日外国人への排撃的なヘイトスピーチ、そして入国管理センターで起きてきた数々の人権侵害、さらに改正された入管法の内容など、どれも、国際人権の専門家からは、深刻に問題視されています。
 軍事的手段は、他のすべての努力に失敗したとき、致し方なくとる「最後の手段」です。これを使わずに済む方策を幾通りにも練ること、対立を煽る言動をとらないよう思案することのほうが第一です。
 どれだけの「装備品」を備えたところで、本当に国の存立が危うくなる「事態」が起きれば、まして自らが攻撃を行った結果の反撃を受ければ、簡単に消し飛んでしまう位置に、日本はあります。だから緊張関係の絶えない位置の中で生き延びるには、世界中から「この国を失うことは世界にとって損失だ」と思ってもらえる国にならなくてはならないのです。
 それでもどうしても「存立危機事態」に陥ったときには、日本国民が別の土地で生き延びられるよう、外国に助けてもらうことを考えなくてはならないでしょう。そのようなとき、日本の国民が他国の人々から手を差しのべてもらえるのでしょうか。今の日本の人権状況では、いざというとき日本国民の大多数が見捨てられるのではないか――入管センターの中で死亡した何人もの外国の人々と同じように――と思えてならないのです。
 国民・住民のための安全保障を真剣に考えるなら、外国人を含め、全ての人間に保障されるべき「人権」を確実に保障することからはじめなくてはならないはずです。
 こうした現状の中で、私たちは、いわゆる「空気」「同調圧力」によって憲法の成り行きを決めるのではなく、各人が自分の意思で考え、判断し、その結果を(たとえば憲法改正国民投票によって)国に伝えていく必要があります。市民が主体的に、学びの場を持つことが、これまで以上に求められています。(つづく)

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「第10回平和を願う町民のつどい」開催
みなべ「九条の会」




 11月25日午後1時30分より南部公民館2階大会議室で「第10回平和を願う町民のつどい」を開催しました。
 平野世話人代表の挨拶の後、来賓挨拶で小谷芳正町長は、「一本の鉛筆があれば 戦争はいやだと私は書く」という美空ひばりの反戦歌でもある「一本の鉛筆」の歌詞を紹介するとともに、「憲法には変えるところはあると思うが、9条は守っていかなくてはならない」と発言し、参加者を勇気づけてくれました。
 「つどい」では講演が多かったのですが、今年は趣向を変え、大阪から老楽亭ぼちぼちさんをお招きし、「亡者の出戻り」という落語を披露して頂きました。あの世では、箱物行政で閻魔大王の建物は豪華にはなったが、三途の川の渡し船は昔のままで、高齢化社会で増える亡者を渡しきることができず、亡者達が溢れてきている。そんな中、俗世での知り合い同士が出会い、ひょんな事から俗世に戻って…。ぼちぼちさんの笑いの中に風刺を入れた巧みな噺に引き込まれ、大笑いの一時を過ごしました。



 続いて「憲法9条を守る交流集会・和歌山」への九条の会事務局長の小森陽一さんのビデオメッセージを視聴しました。ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ地区侵攻で緊張が高まっている中で、戦争をしない憲法9条の大切さを再認識できたと思います。
 続く総会では、21年から23年までの第9期の取り組みの総括をし、第10期の方針を決定しました。今回の総会で、8~9期の世話人代表を務められた平野憲一郎さんが退任されました。長い間のご苦労に感謝いたします。
(会の事務局長・井戸保さんより)

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【九条噺】

 イスラエルのガザ地区攻撃で涙なしでは見られない光景がテレビで放映される。何故このようなことになっているのか▼歴史を遡ると2千年ほど前にこの地にあったユダヤ人国家がローマ帝国に滅ぼされ、ユダヤ人は世界中に散り散りになり、アラブ人が住むようになった。1947年に「パレスチナにアラブとユダヤの2国を作る」パレスチナ分割決議が国連で採択され、人口で3分の1のユダヤ人に56%の土地が与えられ、この地に根を下ろしていた70万のアラブ人が故郷を追われる悲劇が起った▼このような経緯で対立が始まり、4回の中東戦争でイスラエルはアラブ人の地を削り続け、自国内でパレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区とガザ地区)を封鎖し圧迫している▼歴史を見てくると、被害者だったユダヤ人が、加害者になったことが根源的な問題ではないだろうか。ハマスの武力行使は容認できないが、2006年のガザ議会選挙で選ばれ、イスラム教の教えを厳格に守り、ガザ地区を中心にパレスチナ解放を訴えている政治勢力だ▼ガザ地区の深刻な人道的危機を打開するためには、イスラエルのガザ地区への大規模攻撃を直ちにやめることが必要だ。そして、イスラエルの占領地からの撤退、アラブ人の独立国家樹立を含む民族自決権の実現、両者の生存権の相互承認が必要だ▼岸田政権はアメリカとともに国連総会の「人道的休戦」の決議案に棄権するのではなく、即時停戦に最大限の努力をすべきだ。(南)

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大学の自治と学問の自由
山極壽一さん(総合地球環境学研究所所長・元京都大学総長)




 今回、岸田首相は日本学術会議会員の推薦者全員を任命しました。首相はこれで3年前の任命拒否問題は終わったと言いたいのでしょうが、なにも終わっていません。根本的な問題は、任命拒否の理由が分からないところにある。推薦された6人がなぜ不適格なのか。任命権者である首相が理由を述べない限り、学術会議に改革をしろという権利はありません。任命権が首相にあることをけしからんとは言いません。首相が学術会議会員を理由なく任命拒否できるならば、文科大臣も大学が自治として推薦した国立大学学長を理由なく拒否できることになってしまう。それが問題なのです。
 世界中に共通する大学の根拠は、大学の自治と学問の自由です。これがなければ大学とはいえない。東京大学も京都大学も日本のどの政権よりよっぽど長生きです。大学はずっと、その過程を通じて学問をし、様々な意見を政府や社会に述べてきました。政権はそのあいだ何回も変わり何度も戦争が起きた。それでも大学が長寿でいるのは、大学が自治を持ち、学問を自由に行ってきたからです。この二つは決して侵されてはいけないのです。

非戦の誓い世界に知らせよ

 日本学術会議は、1950年と67年に「軍事目的のための科学研究は行わない」という趣旨の声明を発表しています。学者が第二次世界大戦に積極的に関与したことへの大いなる反省からです。
 政府が閣議決定した「安保3文書」は先制攻撃を承認していますが、あの日米開戦を忘れないでください。先制攻撃を認めると、どんどん戦争に踏み込んでいくのです。絶対に認めてはいけません。核兵器禁止条約に署名しなければいけない日本政府が、「広島ビジョン」で核兵器の抑止力を認めたことは大きな間違いです。日本国憲法は、前文と第九条で、戦争は絶対に起こさない、政府による戦争という行為を止めなければいけないと書いています。日本は非戦を誓った国としての存在を、世界に知らしめるべきなのです。その日本が武装していったい何になるのですか。いかに大変でも、日本は外交努力で戦争をさせないということに注力し、戦争防止を世界中の人たちに働きかけなければならない。それは、敗戦国である日本だからこそできることなのです。

学問は政治の壁を越える

 コロナ禍を経験した私たちは、人と人のつながりや地域のコミュニティーが暮らしのなかでいかに重要だったかを痛感したはずです。政府が進める「超スマート社会」は、システムで人を情報として管理し、地方を都市化させ、なんでも自動で動く環境に人が合わせて暮らす社会です。それば人間のロボット化ではないでしょうか。もっと自然とつき合い、生き物として生きていることを自覚できる世の中を目指すべきです。システムが地域の個性を失わせているいま、地域と地域の交流にもっと目を向けましょう。(全国革新懇ニュース 23・11月号より抜粋)

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パンフレット紹介『「国会議員の任期延長改憲」その危険な本質』



安保3文書改定の閣議決定を受けて、大軍拡と戦争準備が進められています。衆議院憲法審査会では、自民、公明、維新、国民、有志の会の4党1会派が、この秋にも国会議員の任期延長改憲の条項案をまとめるとしています。任期延長改憲は、単なる「お試し改憲」ではなく、「戦争する国」を完成させる「突破口」「導入口」となるものです。このパンフは、憲法審査会の今の動きを伝え、緊急事態における任期延長改憲の危険な本質をわかりやすく説明しています。政府自民党の進める「戦争する国づくり」「戦争するための改憲」にNO!の声を一層大きなものとするために、ご活用ください。
【目次】
第1章 いま、憲法審査会で何が起きているのか
  1 激しさを増す憲法審査会の動き
  2 任期延長改憲あと一歩で条文案取りまとめ
  3 いまなぜ任期延長改憲?
第2章 代表民主制と任期延長改憲論
  4 憲法は、なぜ、国会議員の任期を定めているのか
  5 任期延長改憲論の内容
第3章 任期延長改憲は不要である
  6 国会議員の任期延長改憲論(改憲派の主張)
  7 論破された任期延長改憲論~参議院の緊急集会で対応
  8 論破された任期延長改憲論~その他の主張も理由がない
第4章 任期延長改憲の危険な本質
  9 侵害されるのは国民主権
 10 選挙時期の操作と「居座り」
 11 9条改憲・緊急事態条項改憲への「導入口」
資料 憲法、公職選挙法、改憲条文案
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編集発行:9条改憲NO!全国市民アクション/改憲問題対策法律家6団体連絡会
     2023年10月3日発行 A5判32頁
頒  価:100円(送料別途、10部以上は送料無料)
申し込み:自由法曹団
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(2023年12月02日入力)
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