「九条の会・わかやま」 508号 発行(2024年6月10日付)

 508号が6月10日付で発行されました。1面は、専守防衛に反する敵基地攻撃能力の保有(小松 浩 氏 ①)、「なぜ反乱しない」「9条に恥じない国を」(1)(樋口陽一さん ①)、九条噺、2面は、総がかり行動「5・30憲法審査会日行動」実施、言葉「地方自治法改正案」 です。
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[本文から]

専守防衛に反する敵基地攻撃能力の保有

 5月12日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の「第20回総会」が開催され、立命館大学教授・小松浩氏(憲法学)が「大軍拡・戦争に向かう国にしていいのか~憲法9条を生かした平和外交を~」と題して講演をされました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は1回目。

小松 浩 氏 ①



 岸田首相がバイデン大統領と日米首脳共同声明を出した。未来のためのグローバルパートナーと、極東・東アジアで日米の防衛環境をかつてないレベルに引き上げ、日米安全保障協力を新しい時代に切り拓くとしている。
 この共同声明では、米軍・自衛隊の作戦と能力のシームレスな統合で一体となってやっていくとしている。自衛隊も陸・海・空でシームレスな統合が必要だというのが、防衛省設置法改正で、統合作戦司令部を新たに作るとしている。AUKASに日本も先端軍事技術協力などで参画。これは経済安保法にも関連してくる。バイデン大統領は「この共同声明は日米同盟が始まって以来最も重要な刷新だ」と言う。まさに新たな段階に、知らず知らずの内に来ていると言わざるを得ない。米駐日大使は「岸田政権はこの2年間で、70年来の政策の隅々に手を入れ、根底から覆した」と言っている。集団的自衛権など、「あれは出来ない。これは出来ない」と言っていたのを安倍首相が突破し、岸田首相は安倍以上にやっている。共同宣言の大本を作ったのは22年12月の「安保3文書」だ。
 「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」だが、その決定過程は大問題なのに、あまり問題だと認識されていない。国民主権・民主主義・議会制民主主義から、こんな決定方式でいいのかと指摘したい。岸田首相は「安保政策の大転換だ」と言っているにも拘らず、選挙で問わず、閣議決定で決めてしまった。主権者国民の意思を問わず大転換をやった。「安保3文書」決定前には、まだ何も決まっていないと、臨時国会でも全く説明しなかった。ところが臨時国会が終り数日後に閣議決定をした。これは国会の審議を避けるためのものだ。国会は国権の最高機関だから、安保政策の大転換なら審議すべきで、議会制民主主義に反するものだ。その翌年1月に訪米してバイデン大統領に報告した。その後通常国会が開かれたが、今度は「手の内を明らかにしない」と説明をしなかった。
 二番目は「安保3文書」の最大の柱、敵基地攻撃能力の保有だ。以前は憲法違反だと言っていた。1959年伊能防衛庁長官は「その危険があるからといって平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない」と、相手基地を攻撃する兵器・能力を持つことは憲法違反だと言っていた。1972年の田中首相の答弁は「専守防衛とは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく…」と、敵基地攻撃能力保有は出来ないと言っている。敵基地攻撃は憲法違反というのが政府・自民党の見解であった。「安保3文書」の検討を行った有識者会議には憲法学者は一人も入っていない。そういうところで、憲法の大転換が行われている。そもそも憲法問題は念頭にない。国家の基本法の憲法を念頭に置かないで審議ができるのか。いずれにしても憲法問題は一切触れられず「安保3文書」は決定されている。(つづく)

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「なぜ反乱しない」「9条に恥じない国を」(1)
樋口陽一さん ①




 護憲派の巨頭・樋口陽一さん。「先行世代を押しのけて一歩でも前に進んでほしい。なぜ反乱しないのか」と私たちを挑発する。
◆暴力教師に殴られ、空襲を逃げ延びた
 樋口さんは1934年に仙台市で生まれ、日本が米英などに宣戦布告する41年に国民学校に入学した。戦地から帰ってきた暴力教師に級長としての連帯責任で殴られるなど、戦時教育を受けた。沖縄戦の組織的な戦闘が終わる45年6月23日の前日、辞令が下った。「国民学校学徒隊」の「副小隊長」を命じるというものだ。担任教師が「小隊長」で、級長が「副小隊長」だった。死者1399人とされる7月の仙台空襲では、弟と一緒に一晩じゅう逃げた。
 旧制中学からかわった新制の仙台一高に最初の1年生として入学したのが50年。菅原文太さんは1つ年上で別の旧制中学から移ってきていた。井上ひさしさんは同期生。ただ、交遊が始まったのは卒業したあと。
◆人間尊重は文ちゃん(菅原文太)、ひさし君(井上ひさし)の生き方そのもの
 「旧制中学を経た文ちゃんとか1年上はもう大人。中には色街に行く生徒もいた。彼らとは違い私らは子どもでした。一方の井上はカトリックの養護施設と高校を往復する毎日で授業中だけが彼の自由時間。授業中に映画に行くのを教師が認めた話が有名ですが、変わったヤツがいるなというくらいでした」
 「文ちゃんとはね、あまりに日常的に、とくに晩年はいつも接していました」と、棚に飾った写真を指さした。40代の文太さん、井上さんら同窓生と談笑しているカットだ。傍らには「惜別」という言葉と文太さんの肖像をあしらったラベルのワイン。文太さんが亡くなったとき、お別れ会で配られたものだ。
 文太さんは亡くなる直前の2014年、米軍の辺野古新基地の是非が焦点となった沖縄県知事選で「新基地をつくらせない」と公約した翁長雄志さんの応援に駆けつけた。《政治の役割は二つあります。一つは国民を飢えさせないこと、安全な食べ物を食べさせること。もう一つは…、これは最も大事です。絶対に戦争をしないこと!》と演説すると、聴衆からうおーっとどよめきが起こった。翁長知事誕生の決定打になったと言われる言葉だった。その年、樋口さんは1月の都知事選の細川護熙元首相の応援など、各地で文太さんと行動を共にしていた。
    「一人一人かけがえのない個人、全体のために犠牲にするわけにはいかない個人を大切にする。そうした意味での人間尊重。それが、文ちゃん、ひさし君の生き方そのものだったと思いますね」。
◆かけがえのない「個人」を「全体」のいけにえにしてはいけない
 「人間尊重などと言いますが、単なる『人間』という言葉は要注意です。全体のためにいけにえを差し出すことこそが人間的だ、という考えもありますから。戦争中の特攻隊などは、そういうふうに美しく飾られました。だから、代替物のない個人というところに突き詰めてこそ、初めて意味がある。それを本気で認めるかどうか。その一点で、憲法観の基本が分かれると思います」。
 現行憲法が「個人として尊重」としているところを、自民党の改憲案が「人として尊重」としている点を危ぶむ。個人が単なる人的資源におとしめられかねないからだ。
◆憲法に「自衛隊」書き加えたら、9条が失効する恐れ
 「日本国憲法がなければ、やらかしたに違いないことへの抑止力が、確かにあった。あからさまな直接的な軍事行動を控えることができたと思います。ただ、それを奇貨として、血を流さずに復興支援という形で戦後の果実だけを取る、というさもしい行為に、その抑止力を働かせることができるか。復興支援には関わるべきだが、9条をもつ国として恥をかいてはいけない」。
 先の大戦後、朝鮮戦争、ベトナム戦争で兵たん基地として利益を得た日本。湾岸戦争で「海外派兵」の道を開き、アフガン戦争、イラク戦争では「テロとの戦い」という米国の論理に引きずられた。憲法は幅広い議論のないまま時の政権によって解釈を変えられ、大規模災害が続くなかで自衛隊への信頼感も高まった。自衛隊を憲法に位置づけようという主張も説得力を増している。
 樋口さんは、自衛隊の存在を憲法に書き加えることの法的な意味について理解が足りないと指摘してきた。基本的な法の原則の1つに「後(のち)の法は先の法を破る」があり、ある法規範に、それまでと違うことを書き加えれば、前からあるルールは失効するか意味を変えるという原則だ。つまり、9条の条文を削らないまま自衛隊の存在を書き加えれば、「戦争放棄」「戦力不保持」という現在の9条が失効する恐れがあるわけだ。 (東京新聞4月2日付より転載)(次号【509号】につづく)

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【九条噺】

 我家の横の山から今年も4月下旬頃よりウグイスの美声が聞えてくる。例年、庭でも聞こえることがあるのに姿は見たことがない▼先日、NHKでウグイスについての番組を見た。それによると、ウグイスは直径100m程度の縄張りを持ち、繁殖期のオスは1日に2000回以上も「ホーホケキョ!」とさえずるという▼その音声を分析すると周波数が異なる2種類があり、一つは縄張りの中心に陣取り、自分の縄張りを主張するときの高い声で、高い声は遠くまでは届き難いが、縄張りの中ではよく通るという。もう一つは縄張りの周辺で、他のオスが侵入しないように見張りながら鳴く低い声で、遠くまで届くそうだ▼今一つ「ウグイスの谷渡り」と言われる「ケキョケキョ・・・・」というけたたましい鳴き方がある。これは縄張りの中にいるメスにヘビなどの捕食者が近づいていることを警告しているのだそうだ▼「梅に鶯」という花札がある。満開の紅梅の枝に緑色のウグイスがとまっている図だが、梅の満開時期にウグイスは鳴くのか? ウグイスはこんな「うぐいす餅」のような緑色なのか? 本当の色は枯草のような薄茶色だそうだ▼縄張りを持ち、いつも他者が侵入しないように警告を発し、侵入してきた時は激しく警告し、行動する。これはウグイスの「専守防衛」に思える。縄張り内のウグイスは他の縄張りにまで出て行くことはない。人間も敵基地攻撃など考えないで、ウグイス並みにとどめるべきだ。(南)

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総がかり行動「5・30憲法審査会日行動」実施



 自民、公明、維新、国民などが改憲条文づくりの作業委員会設置を強引に行おうとしているもと、総がかり行動実行委員会は5月30日昼、「改憲条文案起草委員会設置を強行するな!5・30国会議員会館前行動」を行いました。
 立憲民主党の逢坂誠二衆議院議員、日本共産党の赤嶺政賢衆議院議員、沖縄の風の高良鉄美参議院議員が挨拶。大軍拡・大増税に反対する署名、憲法改悪を許さない署名、計36万6473人分を国会議員に手交しました。
 総がかり行動実行委員会・憲法共同センター共同代表の小田川義和さんが主催者挨拶。「今年5月の共同通信の憲法世論調査の結果では、国会での改憲論議を急ぐ必要はない・65%、改憲論議は幅広い合意形成を優先すべき・72%となっている。憲法でもカネの問題でも、自民党は市民と向き合い、民主主義を貫く姿勢にない。そんな自民党政治は終らせなければならない。ジ・エンド自民党政治の運動を急速に盛り上げよう」と呼びかけました。

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言葉 「地方自治法改正案」

 地方自治法改正案とは非常時に国が自治体に必要な指示を出せるようにするものです。閣議決定を経れば指示できる仕組みで、恣意的な運用のおそれがあります。政府は大規模災害や感染症などの際に個別の法律で想定しない事態が起きた場合、国民の安全を確保するために必要だと説明しています。有事の際に港湾や空港などを使うには、特定公共施設利用法で自治体が国の要請に意見を申し出る規定があり、可能な限り慎重な手続きが課せられています。しかし、今回の改正案では、国は国会承認なしに自治体に網羅的に指示ができ、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」の「おそれ」の段階で、自衛隊のための道路開放や攻撃に備えた自治体職員の動員協力にまで道が開けます。「想定していない」と言われても法律上可能になることは許してはなりません。



(イメージ図は東京新聞より)

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(2024年06月09日入力)
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