「九条の会・わかやま」 510号 発行(2024年07月06日付)

 510号が7月6日付で発行されました。1面は、民意が国会に届かない小選挙区制(小松 浩 氏 ③)、仲代達矢さん 空襲の体験を語り戦争反対を訴える(1)、九条噺、2面は、「和歌山障害者・患者九条の会18周年の集い」を開催、書籍紹介『「差別」のしくみ』  です。
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民意が国会に届かない小選挙区制

 5月12日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の「第20回総会」が開催され、立命館大学教授・小松浩氏(憲法学)が「大軍拡・戦争に向かう国にしていいのか~憲法9条を生かした平和外交を~」と題して講演をされました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は3回目で最終回。

小松 浩 氏 ③



 敵基地攻撃能力は抑止力として働くのか。日本は、5年間で43兆円の防衛予算、GDP2%以上の大軍拡で世界第3位の軍事大国となり、他国への脅威となる。他国は攻撃を踏みとどまるのか。中国・北朝鮮は反発し、対抗措置を強化、安全保障のジレンマは拡大、軍拡競争、危険はますます強まり、偶発的に戦争が起こる可能性がある。
 攻撃されないためにはどうするのか。それは外交努力しかない。絶対に戦争はしない、世界平和のために尽すという決意をしているのが日本国憲法だ。この理念に基づいて外交努力をするのが、我々の目指すあり方ではないのか。戦争というのは外交の失敗だ。中国は日本の最大の貿易相手国で、日系企業の海外拠点数で中国は第1位であるなど日中経済関係は一層緊密になっており、戦争になれば日本経済も大変なことになる。敵基地攻撃は軍事的合理性からしても問題だ。
 ウクライナやガザは悲惨な状況だ。戦争になったらおしまいで、なかなか止められない。抑止力の強化ではなく、平和の準備が必要だ。
 憲法の基本原理は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義だ。それぞれ別項目という人も多いが、これらは三位一体、密接不可分のものだ。世界人権宣言は「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利を承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である」と書いている。人権を尊重しない国はファシズム国家だ。戦争への兆しには国民が反対の声を上げて戦争を止めるというのが世界人権宣言だ。GHQによる日本の民主化は、アジアと世界の平和を目指し、戦争を止めるのに人権・民主主義を使うためだった。さらに「平和こそが人権の基礎」「人権のための平和」「人権としての平和」(平和的生存権)と、平和でなければ人権は成り立たないという考え方だ。「対テロ戦争」などでも平時では考えられない人権侵害が起る。ヨーロッパ人権条約には「戦争その他の国民の生存を脅かす公の緊急事態の場合には、いずれの締約国も事態の緊急性が真に必要とする限度において、この条約に基づく義務を離脱する措置をとることができる」と、人権保障は平時で、戦時は別との発想だ。やはり平和でなければ人権は保障されない。
 「安保3文書」にも「安全保障分野における政府と企業・学術界との実践的な連携の強化」と、軍事研究優先、学問の自由の侵害、愛国心教育と教育の自由の侵害がある。さらには、共同開発戦闘機の輸出解禁にもなってきて、軍事産業を日本経済の柱にしようという動きもある。以前は武器輸出3原則で全面禁止していたものを戦闘機から突破し、経済安保法で秘密漏洩を罰するというプライバシー侵害も行われている。
 明文改憲の動向は、維新、国民民主が自民を焚きつける状況があり、岸田首相は「議論を前進させるべく最大限の努力をしたい」と述べている。自民の狙いは9条改憲だが、一挙には難しいので、緊急事態条項からとなっている。これは国家緊急事態があるというのが前提となっており、大変問題がある。これは、改憲のための改憲だ。
 日本の民主主義はどこかおかしい。小選挙区制が導入されて30年になるが、昔の方が日本の民主主義はまだましだった。政治資金パーティー問題などがあっても自民党は高を括っている。選挙になればそれでも勝てるのではないかと思っている。それを阻止できるのは野党共闘だ。
(おわり)



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仲代達矢さん、空襲の体験を語り戦争反対を訴える(1)

 俳優の仲代達矢さんが12歳の時に体験した山の手空襲を語り、戦争反対を訴えられています。「東京新聞5月21日付」の記事を2回に分けてご紹介します。今回は1回目。



 無数の焼夷弾が降り注ぎ、3000人以上が犠牲になった1945年5月25日の「山の手空襲」。俳優の仲代達矢さん(91)にとって、それは「心臓が飛び出しそうなほどの恐怖を抱いた記憶」だった。空襲被害者の救済法案に賛同する動機にもなった体験とは、どんなものだったのか。その後の人生にどんな影響を及ぼしたのか。被災した南青山を一緒に巡り、思いを尋ねた。
 山の手空襲、1945年4〜5月に米軍が東京で行った大規模空襲。東京大空襲・戦災資料センターによると、麴町や赤坂、渋谷、世田谷などを目標にした5月25〜26日は、下町を焦土にした3月の東京大空襲を上回る3262トンの焼夷弾などを投下。3242人が死亡、1万3706人が負傷し、家屋15万6430戸が被害を受けた。米軍はこれを最後に「主要目標なし」として東京を大規模空襲リストから外した。
◆今でも見る悪夢、話したくないけど伝えなければ
 「今も、あのことで恐ろしい夢を見るんです。だから本当は話したくない。でも戦争を知る世代は少なくなっている。平和のために伝えることが役目なら、やった方が良いかなと」。
 「山の手空襲」の追悼碑に向かう車中、仲代さんは、今回取材に応じた理由を聞いた「こちら特報部」に、こう説明した。
 「あのこと」が起きたのは1945年5月25日。仲代さんは12歳で、疎開先から渋谷区に戻り、中板橋(板橋区)の中学校に通っていた。南青山の青南国民学校(現青南小)時代の友人の家に遊びに行き、道玄坂の自宅に帰る途中、空襲警報が鳴りだした。午後10時すぎ、青山学院大の近くを通っているときだった。
 何百機というB29が焼夷弾をバラバラと落していく。無我夢中で逃げている途中、1人でポツンと立っている6歳くらいの少女を見つけた。「こんなとこにいたら危ない」と手を引いたが、すぐにすさまじい音がした。「肩をすくめて振り向くと、少女は私が握っていた手だけになっていた。焼夷弾が直撃したんです」。あと数十センチずれていれば死んでいた。恐ろしくなった仲代さんは、慌てて少女の手を放り投げて走り続けたという。自宅までの記憶はない。「とにかく必死だった。だから、当時どんな気持ちだったかと問われても答えようがないんです」。
◆表参道の石灯籠は遺体の血や体液で黒ずんだ
 表参道に着くと、ケヤキ並木沿いにきらびやかなショップが並ぶ様子を見回した。「こんな風に変わるとは夢にも思わなかった。残っているのはこれだけか」と石灯籠を見上げる。1920年の明治神宮創建時に造られ、山の手空襲で焼夷弾から逃れようとした人が周りに折り重なり、炎に包まれた。  遺体から染み出た血や体液で黒ずんだといわれる台座に手を当てた仲代さん。観光客や若者の人波が絶えない街で、「焼け野原だったことしか覚えていない」とつぶやいた。空襲の翌日、前日まであった建物や住宅ががれきの山になり、あちらこちらで火柱が出ていたという。
 その近くにある港区が建てた追悼碑へ。毎年5月25日に慰霊行事が行われていることを話すと、碑の文字を何度か繰り返して読み、そっと手を合わせた。「多くの小学校の友だちが亡くなったんです。当時は分からなかったけど、後に同窓会で聞いたりしてね」。
 青山学院大の正門前に向かった。歩くのは俳優養成所に通っていた以来とのこと。向かいには当時、路面電車の青山車庫があったが、今は国連大学本部のビルが立っている。
(つづく)

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【九条噺】  近畿も梅雨入りしてから日数が経過した。梅雨は晩春から夏にかけて雨や曇りの日が多く現れる気象現象で、その期間を指す▼ところで、この期間のことを何故「梅雨」と書くのか。「この時期は梅の実が熟す頃だから」とか、「カビが生えやすく『黴雨(ばいう)』から転じた」とか、色々あるようだ。梅雨は旧暦の5月頃なので「五月雨(さみだれ)」ともいう。梅雨の雨のように、物事が長くだらだらと続くことを「五月雨式」と言うようになった▼夏が近づくと南から暖かく湿った太平洋高気圧が張り出し、北にある冷たい空気をもつオホーツク海高気圧との間に梅雨前線ができ、上昇気流が起り、雲ができて多くの雨を降らせる。太平洋高気圧の勢力が増していくと梅雨前線も北上し、梅雨は南から北へ進んでいく。梅雨前線は東北まで行くとやがて消滅し、梅雨明けとなる▼昨年の近畿地方の梅雨明けは7月16日だった。京都にいた頃、祇園祭の山鉾巡行は梅雨明けに合わせて7月17日と決めているのかと思っていた。今年は梅雨入りが例年より遅かったが、梅雨明けも遅れるとは限らないとか▼梅雨は、しとしと長く続く印象だったが、近年は様子が変わってきていると専門家は指摘する。地球温暖化が最も進行すると想定したシナリオに基づき、将来の梅雨時の雨の降り方を予測すると、多くの地域で雨量が増えることが示されたという▼地球温暖化は台風の巨大化だけではなく、梅雨時の豪雨災害の増加にも注意が必要だ。(南)

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「和歌山障害者・患者九条の会18周年の集い」を開催



 6月30日、和歌山市ふれ愛センターで「18周年の集い」を行いました。
 総会では2023年度活動・決算報告、2024年度活動方針・予算・役員提案が承認されました。
 記念講演は、憲法9条を守る和歌山弁護士の会の金原徹雄先生です。先生には2006年の結成集会での講師をはじめ、何度も講演をお願いしています。今回は「改憲をめぐる状況と防衛政策の動向〜日本はどこを目指すのか〜」と題してお話をいただきました。
 憲法審査会の動きとしては「緊急事態における議員任期の延長」が当面の焦点になるそうです。改憲発議が行われる場合、まずは確実に国民の賛成が得られそうな内容でくるのではないか、いきなり9条改正は出てこないのではないかとのこと。
 一方で、気になる新たな動きもある。それは2年前に公明党北側一雄副代表が述べたもので、自衛隊の憲法上の位置づけを、内閣総理大臣の権限などを規定している72条や73条に書き込んでいくというものだそうです。同氏の個人的意見とはいえ、9条改正は反対でも自衛隊合憲論の人は割りと多いので、注意しておかなければならないとのこと。
 あいにくの天候で、23名と参加者はやや少なめでしたが、活発な質問や意見が出され、情勢をしっかり学ぶことのできた一日となりました。
(事務局・野尻誠さんより)

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書籍紹介 『「差別」のしくみ』



「差別と偏見はどう違う?」「差別と区別は?」──差別が許されないことには、ほとんどの人が賛同する一方で、その定義は難しい。法律家の間でも、そのあいまいさに苦戦している。同性婚・夫婦別姓などのジェンダーをテーマにした「差別」から、人種をめぐる「差別」まで、その構造を気鋭の憲法学者が徹底検証する。
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著者:木村 草太(東京都立大学教授、憲法学者)
判型:四六判 320ページ
定価:1800円+税
発売:2023年12月11日
出版:㈱朝日新聞出版  電話03-5541-8757 メール shoseki-1@asahi.com

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(2024年07月05日入力)
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