「九条の会・わかやま」 475号 発行(2023年3月7日付)

 475号3月7日付で発行されました。1面は、「戦争だけはダメ」の声広げたい 法政大学前総長・田中優子さん、安保3文書と憲法 飯島滋明氏(名古屋学院大学教授)、九条噺、2面は、書籍紹介『憲法改正と戦争 52の論点』  です
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[本文から]

「戦争だけはダメ」の声広げたい
法政大学前総長・田中優子さん




 自民党改憲草案の愚かさ
 自民党の改憲草案は、個人の権利を中心に人類普遍の価値をうたった現憲法とは全く異なる価値観で書かれており、古い家制度の復活を本気で考えています。
 戻ろうとしているのは、天皇を元首として祭り上げ、下々の者には多様性を認めず「家」に押し込めて支配した時代。それは「日露戦争の勝利をもう一度」と、その後の戦争を準備していった時代に重なります。
 当時の政府は気に入らない研究者を辞めさせ、出版を差し止め、映画の脚本を検閲し、教育内容に介入するなどして総動員体制をつくっていきました。その時代に戻そうという流れは、安倍元首相以降の自民党に受け継がれています。
 敵基地攻撃で日本守れず
 一方で、敵をつくって人心を統一し、戦争へ誘導する手法も目立ちます。国民の共通の敵とする対象はなんでもよくて、今はとりあえず中国が脅威として便利に使われています。
 中国脅威論の背後にはアメリカがおり、「台湾有事」を仕立てて日本に武器を買わせているのが実態です。国民の中には、ウクライナの事態を見て「防衛の仕組みが必要」と考える人もいるでしょう。しかし、安保3文書の改定で政府がやろうとしているのは、防衛ではなく攻撃の準備です。ミサイルをはじめとする敵基地攻撃能力を日本が持てば、中国はそれに倍する準備をするだけのことです。
 戦争になっても、アメリカは武器を売りつけるだけで日本を助けないでしょう。先の戦争で日本が負けた一番の原因は、食料をはじめとする兵站(へいたん)の欠落でした。その反省がないのでしょうか。国民が飢えている時に、どんなに兵器を持っていても意味はありません。
 未来構想の力が不足
 トランプ氏やプーチン氏らに共通しているのは、未来を構想する力がないことです。ロシアは戦争にお金を使うのではなく、広大な土地を活用していろんな温暖化対策をやれるはずなのに、やろうとしない。日本も食料生産や、豊かな自然を生かした再生エネルギーづくりが可能だと思います。軍拡ではなく学費無償化など教育にもっとお金を使うべきですが、そういう方向は見えてきません。すぐにお金になることや、票になることしか考えられなくなっているのです。
 今は既に戦時体制
 私たちが今やるべきなのは、日本が既に戦時体制に入っていると知らせ、気づいてもらうことです。政治的な立場が違っていても「戦争は嫌だ」という人は多いわけで、「戦争だけはしてはいけない」と声を上げること、危機感を持って訴え、共感を広げることです。
 若い人にとって一番深刻なのは徴兵制の問題です。戦前には学徒動員で学生が徴兵されました。そうはならないだろうと思っていても、戦時体制が進むと誰も反対できなくなっていったのです。
 最近はコロナとウクライナ問題を通じて若者の考え方が変わり始めているかもしれません。授業もアルバイトもままならなくなり、就職も従来のようにいかなくなるなど、社会の出来事を「自分事」として考えざるを得なくなっています。若者にアプローチする際には、手法や伝え方に慎重さと工夫が必要です。シンポジウムなどを含め面白くて覗きたくなるような場所をつくって一緒に議論していく、難しくてもそんな試みを続けてほしいと思います。
(『全国革新懇ニュース』2月号より抜粋)

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安保3文書と憲法
飯島滋明氏(名古屋学院大学教授)




12月16日、岸田自公政権は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の「安保3文書」を閣議決定しました。「安保3文書」については、憲法的に以下の問題があります。
①世界中での自衛隊の武力行 使を容認する「安保法制」を前提とする「安保3文書」は、「武力の行使」「戦争」を禁ずる憲法9条1項に違反します。
②「敵基地攻撃能力の保有」は、歴代の政府見解でも憲法で保有を禁じられた「戦力」に該当し、憲法9条2項に違反します。
③自衛隊配備や強化、とりわけ南西諸島での自衛隊配備・強化は、自衛隊員、基地周辺の市民、医療関係者等の生命や身体等を危険にさらすため、「戦争や軍隊により生命や身体、健康を奪わ れたり脅かされない権利」である「平和的生存権」(憲法前文等)侵害の危険性 があります。
④「戦争できる国づくり」のための軍事的合理性を優先する「安保3文書」は、憲法の平和主義から正当化できません。
⑤「戦争できる国づくり」のため、自治体をさらに管理下に置くことも目指す「安保3文書」は、「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」の実現にとっても重要な「地方自治」の保障(憲法第8章)を一層、空洞化する危険性があります。
⑥平和的外交手段を追求せずに「軍事力」を背景にした「外交」は、「国際協調主義」(憲法前文)から正当化できません。
⑦軍事的合理性から学問や経済を国の統制下に置こうとする「安保3文書」は「学問の自由」(憲法23条)、「財産権」(憲法29条)等を侵害する危険性があります。
⑧「自己中心的」主張が多い「安保3文書」は、「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」(憲法前文)とは相容れません。
⑨「軍事費大増額」は「幸福追求権」(憲法13条)、「生存権」(憲法25条)、「教育を受ける権利」(憲法26条)を保障する政策を困難にする危険性、憲法理念の実現を阻害する危険性があります。
 ここでは④⑤⑦⑧について指摘します。
 2013年の「国家安全保障戦略」は、外交と防衛を中心とした安全保障政策の文書になっているのに対して、今回の安保3文書では経済、技術、情報、宇宙、さらに自治体や海上保安庁、空港、港湾なども「国家安全保障」の名目で国の管理下に置くことが目指されています。
 たとえば「国家防衛戦略」10・11ページでは以下のように記されています。
 「外交力、情報力、経済力、技術力を含めた国力を統合して、あらゆる政策手段を体系的に組み合わせて国全体の防衛体制を構築していく」
 「国家防衛戦略」12ページでも以下のように記されています。
 「防衛上のニーズを踏まえ、総合的な防衛体制の強化のための府省横断的な仕組みの下、特に南西諸島における空港・港湾等を整備・強化するとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として、平素からの訓練を含めて使用するため、関係省庁間で調整する枠組みの構築等、必要な措置を講ずる」
 自治体や民間団体についても「政府と地方公共団体、民間団体等との協力を推進する」(「国家防衛戦略」11ページ)とされ、「有事の際の防衛大臣による海上保安庁に対する統制も含め、海上保安庁と自衛隊の連携・協力を不断に強化する」(「国家安全保障戦略」22・23ページ)とされています。
 「宇宙」も、「我が国全体の宇宙に対する能力を安全保障分野で活用するための施策を進める」とされています(「国家安全保障戦略」23ページ)。
 ⑦ですが、2022年5月、岸田自公政権は軍事的合理性から経済や学問を統制下に置くことを可能にする「経済安保法」を成立させました。
 「国家安全保障戦略」27ページでは、「経済安保法」の「着実な実施と、不断の見直し、更なる取組を強化する」とされています。軍事的見地から、あらゆる領域の統制・動員が、「安保3文書」では目指されています。
 ⑧ですが、アメリカの顔色をうかがって核兵器禁止条約の会議にすら参加しない日本が「唯一の戦争被爆国として、『核のない世界』の実現に向けた国際的なとりくみを主導する」「国家安全保障戦略」15ページ)と言ってみたり、気候変動対策に対して足を引っ張った国に与えられる「化石賞」を3年連続で受賞した日本が「気候変動」に言及した上で、「国際社会が共存共栄できる環境を実現する」としています(「国家安全保障戦略」11ページ)。
 「自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を維持・擁護する」と繰り返し明記されていますが、安保法制、原発再稼働、安倍元総理国葬、辺野古新基地建設、軍事費大増額のための増税など、自民党や公明党は「民主主義」を実践してきたのでしょうか?
 「人的交流等の促進」も明記していますが(「国家安全保障戦略」16・17ページ)、ウィシュマさんの死亡事件に代表される入管の非人道的行為、暴力、パワハラやセクハラ、低賃金や残業代未払いなど、人権問題満載の「技能実習生」への非人道的状況に本格的対応をしない日本政府、「自由」「基本的人権の尊重」「法の支配」を実践してきたというのでしょうか?
 こうした状況にもかかわらず、「世界で尊敬され、好意的に受け入れられる国家・国民であり続ける」(「国家安全保障戦略」5ページ)と言って、自民党や公明党は恥ずかしくないのでしょうか?
(「戦争をさせない1000人委員会」HPより)

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【九条噺】

 年末からの記録的な寒波で、北海道・東北などの電気代が昨年の倍と大きな問題になった。和歌山の我家も1月の電気代の知らせを見て余りに高いのでびっくりした▼我家は都市ガス供給地域でないので、10年にプロパンガスからオール電化に変え、それ以降毎月の電気代を記録していた。その記録によると、昨年1月の1日当りの消費電力は54.14kWh(キロワットアワー)、今年1月は52.47kWhと節電しているのに、1日当りの電気代は1297円が1780円と増え、1カ月では1万5789円増、1.37倍となっている▼これは一体どういうことかと調べたら、燃料費調整額などが7221円から2万2678円に増えていた▼現在、日本の発電のエネルギー源はLNG51%、石炭41%だそうだ。この燃料費高騰が原因だという。新型コロナによる世界的な経済停滞、プーチンのウクライナ侵略を受けての欧米の経済制裁で、ロシアの燃料輸出が制限されたことで、日本のLNG、石炭などの輸入価格が高騰している▼ここでも、プーチンのウクライナ侵略が日本の我々の生活をも直接苦しめている。そして円安だ。アベノミクスの「異次元の金融緩和」として日銀・黒田総裁が超低金利・円安を誘導し続けた。これが日本の燃料輸入価格高騰に拍車をかけている▼岸田首相は電力代高騰を奇貨として、原発の再稼働・新増設まで言い出した。例え電気代の高騰があったとしても、原発の再稼働・新増設だけは何が何でも阻止しなければならない。(南)

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書籍紹介『憲法改正と戦争 52の論点』



 昨年末(2022年)、岸田自民党政権は「敵基地攻撃能力」を明記した「安保3文書」を閣議決定した。
 自民党の「憲法改正」路線は、安倍・菅・岸田政権へと受け継がれ、「戦争ができる国」から、いよいよ「戦争をする国」になろうとしている。
 今こそ、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重を掲げる日本国憲法を実践しなければならない。本書は「戦争をする国づくり」を阻止するための憲法論!
 憲法は「カタイ」「ムズカシイ」と思われている方にも読んでいただきたく、どこからでも読めるよう「Q&A方式」にしました。
■第1章 憲法と平和主義に関する基礎知識
■第2章 戦争法・安全保障政策の問題点とは何か
■第3章 9条等改憲の問題点とは何か
■第4章 改憲論にどう対抗すべきか
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著者:清水雅彦(日本体育大学教授・憲法学)
判型:A5判 128ページ
定価:1,200円+税
発売年月日:2023年3月2日
出版社:(株)高文研
    TEL:03-3295-3415 FAX:03-3295-3417
 

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(2023年3月7日入力)
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