澤地久枝「憲法九条は未来への人と人との絆」
(輝け!憲法9条 平和のつどい 5月13日 和歌山県民文化会館大ホール)

 「輝け! 憲法9条 平和のつどい」が2006年5月13日午後、和歌山県民文化会館大ホールで開催され、あいにくの雨にもかかわらず県下各地から2,500人が参加し超満員となりました。「九条の会」呼びかけ人・作家の澤地久枝さんが「憲法九条は未来への人と人との絆」と題して講演し、深い感銘を与えました。以下に、「つどい」での、澤地久枝さん講演の概要と、共催団体を代表しての月山桂氏の開会挨拶、松井和夫氏の閉会の辞の要旨を載せます。(講演概要は90分にわたる講演をサイト管理者の責任でまとめたものです。開会挨拶、閉会の辞も要旨です。)

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開会挨拶(要旨)
[九条の会・わかやま呼びかけ人、弁護士 月山 桂]

 天気の悪い中ご参加くださり感謝。
 じつは戦時中、雨ふりしきる神宮外苑から学徒出陣で戦争に巻き込まれていった一人。悲惨な戦争を思うと、二度と戦争をしてはいけないと考える。
 弁護士として人権を守るのが職務だが、平和があってこそ人権も守られる。アフガニスタン、イラクなどに見られるとおりだ。
 近ごろ与党をはじめ、外国の脅威を口実に憲法改定の動きが出ている。実は、我が国のためよりアメリカのため日本人が海外で戦争をできるようにする危険な企て。私たち自身、子、孫の命に関わることで許せない。
 憲法改定を阻止しようと全国津々浦々で九条の会が数多く作られ、和歌山でも考え方の相違を超えて50になんなんとする会が誕生。そして、本日「九条の会」の澤地久枝さんを迎えてこの会を開くことができたのは、50になんなんとする会が心を一つにしてできたもの。
 この国を二度と戦争する国にしてはならない、世界に誇る憲法9条をもっともっと輝くものにしなければならない、これは私たちの願い。どうか本日お集まりの皆さま、「つどい」を契機として、心を合わせて、憲法9条改定を阻止する確実な力、より大きな力となろうではありませんか。

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澤地久枝「憲法9条は未来への人と人との絆」(講演概要)

●はじめに
 澤地久枝です。雨の中ありがとうございます。心配したが、このように多数の参加、憲法9条のために喜びたい。(大きな拍手)
 和歌山には多少の縁があり、南部川村の合併前さいごの図書館関係行事に、反戦出前話の本多立太郎さんに呼ばれたことがある。
 「九条の会」呼びかけ人をためらったが引き受けてから、このような会に出ることが多くなり、全国で心を通わせ元気を得ている。

●「愛国心」押し付け、教育基本法改悪ねらう小泉の暴走
 教育基本法改定案が衆議院に上程された。教基法は、憲法を根付かせるための憲法と二頭立てのたいせつな法律。改定のねらいは「愛国心」を押し付け、アメリカと戦争をするために邪魔な憲法9条を変える方向に導くこと。戦前の軍国主義を支えたのも「愛国心」。
 愛国心は法律で強制する物ではない。カザルスの「祖国への愛、それは自然なものである。では、なぜ国境を越えて他の国々の人々を愛してはいけないのか?」との言葉もある。
 だめな政治家、戦争で儲けたい財界人、天下りをこととする官僚の国ではなく立派な国なら愛せる。暴走すると分かっている小泉に「ジュンちゃん」と投票するような国は愛せない。 この国は抜本的に変わらなければならない。

●米英を憎まねばと思った自分を恥じた。民を捨てた国家と軍
 「出て来い、ニミッツ、マッカーサー」と歌い、米英を憎まなければ死んだ兵隊に申し訳ないと思い、神風は吹かなかったと思った自分を恥じたのが、その後の原点。
 中国東北部で敗戦を迎えた時、軍は開拓団婦女子を捨てて逃げ、国家の保護も無くなった。民間人の集団自決、残留孤児などの責任を後日追及された旧軍人は「軍の主とするところは戦闘にある」と答えた。

●平和外交こそ。日米軍事同盟の危険な動き
 国を守るというが、軍は国民を守らない。平和外交こそがたいせつ。
 日本は今、日米軍事同盟でアメリカを支えている。赤字国債を買い、基地費用を出し、イラク派兵もした。脅せばBSEの危険がある牛肉も買う国と思われている。アメリカはいっそうの貢献を要求。米軍基地を再編し不沈空母として強化する、戦争に金だけでなく命も出せ、憲法9条が邪魔だ。憲法9条改定をめざして、国民投票法案、共謀罪など9条を周辺から「齧(かじ)りとる」動きが進んでいる。

●恐がらずに言おう
 しかし、9条を守ることこそ日本にとって大切。恐がらずに思っていることを言うことが大切。
 講演を聴いた人からの手紙。〜 話を聴いて9条を守ろうと自分ひとりの「オンリーワン九条の会」を作り、夫を誘って「オンリーツー九条の会」にした。〜 このように信じることを言っていくことが力になる。この「つどい」も力、9条を守ろうという「人と人と」のネットワークの力になる。
 城山三郎『対談集「気骨」について』での対談を読んだ人からの手紙。〜 手紙をさし上げるのは大それた経験だが言わずにいられない。私の一家は台湾から引き揚げた。父は戦死、母が一男三女を連れて引き揚げ。姉が幼い弟を連れて中学に通った。4歳のとき弟が死んだ。寒い日に乳母車に乗せて外出した、背負っていれば温かみで死なずにすんだのにと姉は悔やみ続けた。自分も弟を背負って闇市でそら豆を拾って食べたりした。母は高齢を全うしたが、遺品の中から弟のちびた下駄が出てきた。大変な時代に苦労をし、肉親を守れなかったことを悔やみ続けた、こんな人たちがいて今の日本があることを伝えたい。〜

●迷っている人を変える 緊急に何をするべきか自分に問う
 小泉や後継者が、国民にとって悪いことをすれば「No !」と言い、政治家が有権者の声を気にせざるを得ないようにすること。ジュンちゃんに投票する人を変えられるかが課題。従軍慰安婦を正当化する旧軍人を説得することは無理。よく分からずもやもやしている人を変えられるか、私たちが賢くならなければ。
 そのためには、深呼吸して何をするべきか書き出してみよう。家族や自分にまつわる人が何を望むか。緊急な事から順位をつけて(5番目以下は後でも良い)。

★中国に負けたことを認識すべき
   師の五味川純平が語っていたこと。戦争といえば米英に負けたことが意識されるが、実は中国と戦ったこと、そこで負けたからこそ米英にも負けたということを、事実と実感を持って全国民が確認していたら、戦後の思想運動は違っていただろう。
 「満蒙は生命線」と、日本軍が満州の軍事勢力、張作霖を爆殺し中国人のしわざにする謀略、しかし息子の張学良は中国の青天白日旗に易幟して抗日に合流した。こうした史実を知るべき。 

★徴兵のこと
   日本が60年間戦争せず戦死者を出さずに来たことは世界でも奇跡的。背景に、賢い母たちの力がある。わが子や夫を戦地に送り出して亡くし、あの時なぜ命がけで引き止めなかったかと後悔した人たちだ。
 富山の女性プロデューサーが作ったテレビ番組「赤紙配達人」が放映された。兵事係として召集令状(赤紙)を配達した人の話だ。 〜 深夜届けて受領印をもらう。皆「まちがいじゃないか」と言う。新婚の大工さんは「この令状なんとかならんか」と身重の奥さんと泣いている、自分も「お腹の子のために一日でも長く生きて」と泣くしかない。心を鬼にして受領印をもらう。戦死公報を届けるのも仕事。「あんちゃん(=兄ちゃん。あなた)が行けと言ったからあの子は死んだ」と責められる。〜 皆泣いていたのが事実、誰が喜んで戦争に行くものか。

★兵士の餓死
 戦死は撃ち合って死ぬだけではない。ガダルカナル島、ニューギニアなど、制空権・制海権を奪われて補給がとだえ、弾薬、食糧が絶えて餓死者が出る。人肉食が横行し、友軍の側を通過するとき肉付きを観察する視線に恐怖。
 ちなみに、かつての補給無視と同様、悪い材料を見ず良いことだけ見ていい気になる考えは、今の日本にもあり、劣化した日本を作っている。

★東京大空襲
 夫が再招集され、長男輝一(きいち)と双子の赤ん坊を抱え、本所で東京大空襲にあった妻の話(岩波ブックレット『東京大空襲60年 母の記録』)。炎の中、輝一が「熱いよ。赤ちゃん大丈夫?」と聞く。息ができず、背中を蹴っていた赤ん坊も冷たくなり、輝一も「おかあちゃん」と薄目を開けて息絶える。この人の短歌「この乳をふくます子なき悲しさに 夜ごとに流す母の涙を」。

★沖縄地上戦
 講演後に訪ねて来た女性が語った話。兄弟にも言えず秘めてきたが言わずに死ねない気持ちで打ち明けた。〜 沖縄地上戦で子を連れて逃げまどい、収用所にいる時に子を亡くした。2歳ほどの幼子は、短い一生の最初で最後の一言「アンマ(お母ちゃん)」と言って死んだ。〜

●忘れないことが供養
 作家森敦が「忘れないことが供養」と言った。悲惨な死に方をした人を忘れず、伝えることが大切。戦争の話をすると、若者が「生まれていませ〜ん」と他人事のように言うのは自慢にならない。幸福にあえず死んだ人のことを知らなければ、何時自分もそうなるか分からない。

●戦争しない日本がブッシュに「No !」と言うべき
 日本では第2次大戦以後、戦死したり敵や民間人を殺した日本人はいない。これは希有のこと。捏造データをもとにイラクに戦争をしかける国に「No !」を言うべき。しかし日本は逆に支えている。
 主権者として憲法にもとづき、「No !」を言おう。アメリカで、イラク戦死者の母シンディー・シーハンは、息子を戦場に送ったことを悔い、撤兵を求めるダイイン(死んで横たわった形の示威)など、全米で「ブッシュの戦争にNo !」を訴えている。

●憲法9条を守る市民の力
 戦後は、市民が選挙権ももち、市民社会が成長してきた。憲法9条を守る市民の意思表示を広げれば、人の心の砦ができる。今全国で4,770の九条の会ができている。一人ひとりが、「私たちには宝となる憲法9条がある」と前に出て行こう。市民が核になり政党も中に入って、市民の力がまとまれば政治も変えられる。皆で明るく歩いていこう。

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閉会の辞
「守ろう9条 紀の川 市民の会」代表、医師 松井和夫

 たくさんの人で感激し、ホッとしている。すばらしいパフォーマンスの子供たち、講師の澤地さんに感謝する。壇上にはいろいろな地域や性格の「会」の代表が並んでいる。見知らぬ顔もある。いつもの顔でない人が訴えることは大切。いろいろな人から百回聞けば力になっていく。がんばろう。

(2006年5月16日入力 7月27日書名の一部等修正)
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