太夫さんの報告(関東近郊)

太夫さんの報告を4つのページに分けて紹介しています。最新情報は、掲示板ダイジェストに掲載しています。写真は、太夫さんが撮影したものを私が貼り付けました。

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太夫さんの報告
太夫さんの報告(静岡県)
太夫さんの報告(九州)
箱根湯本「ホテルマイユクール祥月」
埼玉県長瀞「長生館」
甲府「ホテル神の湯温泉」
河口湖「秀峰閣 湖月」
那須温泉「山楽」
草津温泉「大阪屋」・四万温泉「四万たむら」
谷川温泉「金盛館せせらぎ」・法師温泉「長寿館」
小涌谷「ドーミーヴィラ箱根」
川俣温泉「仙心亭」
湯河原温泉「源泉上野屋」
中川温泉「蒼の山荘」
塩原温泉「湯守田中屋」
四万温泉「中生館」
万座温泉「豊国館」
日光「ホテル清晃苑」・奥日光「湯元板屋」
川俣温泉「ふくよ館」
中川温泉「河鹿荘」
四万温泉「地酒の宿中村屋」
川治温泉「お宿東山閣」
湯河原温泉「加満田」
谷川温泉「別邸仙寿庵」
南熱海網代山温泉「竹林庵みずの」・湯河原温泉「おやど瑞月」
奥湯河原温泉「海石榴」
柴原温泉「かやの家」
四万温泉「佳松亭積善」・伊香保温泉「お宿玉樹」
那須温泉「ペンシオーネサライ」・「二期倶楽部」
嵯峨塩温泉「嵯峨塩館」・河口湖温泉「湖山亭うぶや」
「すっぽん懐石やじま」・伊香保温泉「岸権旅館」

 

箱根湯本に行ってきました。旅館は「ホテルマイユクール祥月」というところで、旅館とホテルの中間という感じです。館内はちょっと地味目ですが、お風呂は源泉100%ということで、温度管理もしっかりしていて言うことはありませんでした。箱根湯本は透明の単純温泉です。露天も広々としていて気持ちいいです。料理も僕にはちょっと量が物足りない感じがしましたが(女性には丁度よさそうです)おいしかったですね。和洋折衷料理です。

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埼玉県の長瀞(ながとろ)は全国的にはメジャーじゃないかもしれないけれど、渓谷美?でライン下りがあります。でも、温泉ではありません。旅館は「長生館」というところです。内湯も露天もまあまあで、これが天然温泉だったらなあと残念に思いました。長瀞の中心部が目の前でロケーションは抜群です(写真)。部屋も良かったし、食事も一品一品運んでくる本格的なものでした。全体的においしいと思います。鯰を初めて食べましたが、あっさりしているのでびっくりしました。竜田揚げにしたものでしたがおいしかったですよ。

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甲府の「ホテル神の湯温泉」に行ってきました。神のお告げがもとで掘り当てた温泉だということでこの名前がついたようです。確かに甲府の高台に一軒だけ温泉がぽつんとあるという感じのところです。高台にあるので部屋からは甲府盆地が一目で見渡せます。朝日と富士山とを同じ視角にとらえることができます。季節によって違うのでしょうが、この時は朝日と富士山とは少し離れて窓の左と右に収まっていました(写真)。風呂は部屋数の割りに浴槽の数も多く広々としています。源泉が30度ちょっとということで沸かしているのでしょうが、もしかすると一番ぬるいところは源泉のままかもしれません。浴槽ごとに温度を変えてあって、広いのでゆっくり入っていられます。ラジウム泉だということで、あったまります。少し黄色っぽい色がついていました。露天は、建物のベランダが露天になっているような構造で、高台にあるせいで開放感はあります。山梨らしくワイン風呂でした。ワインというよりもぶどうジュースの匂いがしました。何でも粉末を入れているらしく、やはりワインと言ってもアルコールは入っていないそうです。温泉好きは大体そうでしょうが、僕も余計なものは入れて欲しくない気がしますね。でも大浴場は一般的な温泉なのですから、一か所ぐらいはこんな湯船があってもいいかなとも思いました。食事はおいしかったです。むかご豆腐というのがなめらかな口当たりで何とも言えなかったです。朝食はよくある和定食です。女将さんが出発の時に一人で見送ってくれるなど、好感が持てました。

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河口湖の「秀峰閣湖月」に行ってきたので報告します。ここのすばらしいところは二点あります。まず、部屋からの眺めですね。おそらく、河口湖の中では最高だと思います。富士山と、河口湖の両方がすべての部屋から眺められます。ということは、運が良ければ逆さ富士が眺められるということです。今朝は、かなりいい線までいった景色が見られました(写真)。もう一つは、湯上りにビールが出ます。と、ここまではよくある話ですが、なんと、そのビールは一杯だけではなく、飲み放題なんです。誰にも気兼ねしないように、自分で入れることができます。でも、入れるのに慣れないので、ぼくはほとんど泡でしたが。ただし、時間は夜の7時までです。また、もしかすると季節限定のサービスかもしれませんので、もし行く時は確認してから行ってください。食事も、ボリュームがあり、おいしいと思います。ただ、早めに大体の料理を並べてしまいますので、やはり、あわただしく、温かいものも冷めてしまいがちです。朝食はバイキングで、種類・味とも平均以上だとは思いますが、とりたてて言うほどのこともありません。大浴場に露天が付いている型のお風呂で、大浴場からも露天からも富士山が見えます。温度は、大浴場の方がちょうどいい感じ、露天は温めです。部屋もさっぱりしていて、従業員教育もできていると思います。

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今回行ったのは那須温泉の「山楽」です。部屋は、高級旅館の割にはそれほど広くはなく、また、それほど新しくもありませんでした。温泉はずうっと上の大丸温泉から引き湯しているそうです。でも、そこは自家源泉だそうでお湯は流し放しです。露天で、ぼくの大好きな温泉の匂いがしました。硫黄泉ではない、何とも言えないあの温泉の匂いです。大浴場は客室の割りに狭い感じがしましたが、でも落ち着いていて、窓も二方向に大きくとられ、僕の好きな感じでした。露天は広々としています。大浴場に付いているタイプですが、ドアを開けてちょっと歩くので、かなり開放感を感じることができます。また、周りを木が取り囲んでいるので、林の中のお風呂という感じで、まるで、秘湯に来たようです。熱いお湯を流し込んでいるのですが、広いので少しぬるめになっています。大浴場はちょっと熱めです。風呂は交代制で、朝入った露天の方はもっと広くてびっくりしました。食事も非常においしいです。前菜になまこが出たのですが、初めは何だか全然分からず、仲居さんに聞いてみて、なまこと知り驚きました。絶品です。メインは那須牛のステーキ。部屋出しでしたが、揚げ物はあつあつで、時間もぴったり6時半の指定どおりです。朝食もまったく手抜きがなく、夕食の質を維持していました。普通の朝定食をちょっとひねった感じの朝食です。従業員の挨拶も気持ちよく、部屋係の女性も控えめでいながら終始にこやかで感じが良かったですね。サービス料は料金に含まれているので、心付けは一切必要ないと部屋の案内書に書かれているのも、良かったと思います。

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草津と四万に行ってきました。今回、行ったのは「大阪屋」でした。露天(写真1)は、長方形の、四人ぐらいしか入れない感じのところです。でも、草津の旅館の露天は広さは期待できないですよね。見晴らしも全くなく、目の前が石垣になっています。でも、この石垣は自然な感じなので、普通の塀とはちがって、あまり圧迫感は感じませんでした。くつろげます。大浴場もあまり広くはありませんが、落ち着いた感じで僕は好きでした。お湯は湯畑から取っているそうですが、草津の湯にしてはすごくまろやかな感じがしました。女将さんは気さくで気取らない感じの人で、すごく好印象をもてたし、また、番頭さんみたいな人もとても丁寧で心配りのすばらしい人でした。チェックイン時間も1時だし、夜の12時でも、ロビーの明かりをしっかりつけて、フロントに人を配置するなど、サービス面ではなかなかいいと思いました。

翌日、向かったのが四万温泉。「四万たむら」といえば「森のこだま」と「御夢想の湯」の二つが有名で、時間制で交代だと思っていたんですが、男女両方ともあるんですね。「森のこだま(写真2)」はあまりにも人工的な露天風呂で嫌いな人もいるかもしれませんが、そんな人には「竜宮(写真3)」という川原のワイルドな露天風呂もあります。「竜宮」は一応混浴なんですが、女性用の脱衣所もないし、残念ながら、女の人はほとんど入れません。(ただし、勇敢なおばさんたちが、この日は入ってました。)「御夢想の湯」はやはり、何か精神的に落ち着きます。それから、「たむら」には湯治向けに「花涌館」という建物があって、その中にも「翠の湯(写真4)」というお風呂があるんです。このお風呂もけっこうシブイんですよ。「森のこだま」は温度が熱いです。全体が屋根に覆われていますので、上への開放感はありませんが、人工の滝あたりに奥行きがあるので、ぼくは好きです。「竜宮」は屋根がありませんので上への開放感はあります。でも、周りは石ばっかりで急流などはありませんから、景色は今一です。食事ですが、食事処であつあつが食べられますし、味もなかなかです。百合根の天麩羅や、蓮根饅頭の蟹肉銀餡なんかはとてもおいしかったですね。朝は、レストランのバイキングでまあ合格点というところです。部屋ですが、僕の泊まった水涌館は広くてレイアウトも凝っていてなかなかいいです。坪庭が配置してあり、そのせいでトイレにも、部屋の風呂にも窓があります。

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今回は、思いがけず桜に出会う旅となりました。初日は谷川温泉の「金盛館せせらぎ」です。水上から少し上がっただけで、水上の温泉街とはがらりと変わった自然の中の別世界になります。見晴らしのよい露天風呂は一つしかなく、時間交代ではなく混浴になっていました(女性専用時間帯アリ)。確かにすばらしい眺めです。「せせらぎ」という名前の通りすぐそばを川が流れ、この露天風呂のあたりでカーブしているので両方向への流れが見通せます。この辺は桜がおそくていつもは見ごろがまだらしいのですが、やはり今年はピークを過ぎてしまいすでにかなり散っていました。ただ、ところどころにまだ咲き残った桜があり、丁度この露天風呂の横にある桜もそんな感じで露天風呂の中に桜の花びらが散りこんでしました(写真1)。考えてみると桜の花びらと共に露天につかったことはあまりなかったかもしれません。それだけでいい気分になりました。露天風呂に通じる小道も桜の花に埋め尽くされていました(写真2)。混浴の露天は混浴である割にはあまり広くありません。二組ぐらいなら、はじとはじでまあまあ遠慮せずに入れるかなという感じですが、三組以上になるとお互いに気になってくるかもしれません。ただ、全体の部屋数が23室しかないので、あまりぶつかることはないかとも思います。半分屋根がついているので雨の降ったこの日でもゆっくり入ることができました。お湯もわずかにぬるい程度で、適温といってもいいと思います。大浴場は浴槽がふたつあり、ゆったりとしていますが洗い場と浴槽の間のゆとりがなく、室内全体は狭い感じがします。大浴場に併設して露天風呂が男女ともありますが、こちらはほんのお印程度で、同時に二人くらいしか入れないもので、囲まれていて見晴らしもありません。部屋はかじか亭の部屋でした。広さもほどほどで眺めもよくゆっくりできます。よく、ドアの前に格子戸があるタイプの部屋を見かけますが、この部屋は逆に鉄のドアをあけ、二三歩歩くと格子戸がありました。唯一、洗面所が狭いのが欠点といえばいえます。ただ、ここは旧館ですので、新館などはもっと広くて新しいはずです。食事は月替わりで、初めに前菜、焼き物、お造り、煮物の四品が並べられ、あとは一品ずつ五品(ご飯・デザートを除く)追加されるというものです。間延びもせず丁度良い感じで運ばれてきました。焼き物は赤城牛のステーキでなかなかおいしいものでした。すべておいしく質の高いものですが、特に初鰹のお造り、筍の煮物、揚げ物が良かったと思います。揚げ物の中にこんにゃくの衣上げがあり、初めての経験でしたがこれがなかなかいけます。最後にちぎりっこというすいとんみたいなものが出されたこともあり、かなり満腹になります。朝食も、手抜きがなく質の高さを維持しています。おいしいものです。従業員の心遣いもよく、チェックアウトの時に女将さんが姿を見せましたが、これまた気を遣う人でした。

僕は「長寿館」は二回目で、今回、通されたのは薫山荘の31番という一階の角部屋です。旅館のパンフレットに出ている、四枚のふすまに漢字の書かれた部屋です。この部屋はゆったりとしたいい部屋でした。次の間が4畳、本間が10畳、それに広縁で、お風呂はついていないという考えてみればそれほど広くはない部屋なんですが、戸を開けたすぐの洗面所をかねたところにゆとりがあります。本間の障子を開けると、窓のすぐ近くに、やや盛りを過ぎてはいるものの桜が見事に花を開いていました。窓際に寝転ぶとお花見で桜の下で寝転んでいる気分になります。今度来たら、もう一度泊まりたいと思った部屋でした。法師の湯(写真3)には脱衣所が男女別にできていました。でも、なぜか女性はこの前の方が入っているような気がしました。女性専用の時間帯に入れるというので、混浴時間にあえて突撃する必要がなくなったからでしょうか。玉城の湯ができたためか、入浴者が分散され法師の湯の入浴者が少なくなった気がしましたが、この前では考えられなかった、誰も法師の湯に入っていない時間帯というものも、ほんの瞬間的ですがありました。新しくできた玉城の湯(写真4)も素晴らしいですね。一見、超高級旅館の大浴場という感じですが、小手先ではない遠くを見通した考えで作られている、法師温泉ならではの大浴場だと思いました。以前は、体を洗いたい時は法師の湯の周りで遠慮しながら洗わなくてはなりませんでしたが、今度は玉城の湯にワイルドな洗い場もできて快適になりました。併設された露天風呂も一流です。周りに建物がないので視野は360度開けています。外から覗かれることもありません。食事ですが、おいしいと思います。ただ、部屋係がとても忙しそうで、全体的にいっぺんに出されてしまう形の食事なので岩魚の焼き物など冷めてしまっていました。その辺が今一ですが、後から出された鯉こくはあつあつで、非常においしいものでした。絶品だったと言っていいと思います。クセは全くなく、うまみが凝縮されていました。朝食は久しぶりの一般的な朝定食で品数もそれほど多くはありませんが、おいしいと思いました。

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小涌谷は初めてで、ユネッサンなどのイメージで俗っぽいところかと思っていましたが、全然ちがって、木々の中の静かな道をゆく、どこかの秘湯かとも思えるようなところでした。近くに「千条(ちすじ)の滝」というミニ「白糸の滝」風の滝があって、日曜だというのにあまり人もおらず、なかなかの雰囲気でお勧めです。さて、ドーミーヴィラ箱根「」は割と最近できたばかりの小奇麗なコンドミニアム形式の宿ですが、食事は付いています。部屋はツインルームで46uあるのですが、特にこれといった調度はないので、かなり広々とした印象を受けます。コンドミニアム形式ですので、流しや電子レンジ、空の冷蔵庫がついています。ただし、調理プレートなどはありませんでした。部屋の窓からは遠くの山々が見えるらしいのですが、あいにく、霧のため見えませんでした。お風呂は5時〜25時までで、男女交替制です。それぞれ内湯と露天、サウナが付いています。当日の男性用は桧の内湯と岩風呂の露天です。広さは狭くもなく広くもなくといったところです。お湯は適温で温度管理がしっかりなされていました。ただ、岩風呂の露天は流れ出す口がどこにもなく、湯舟の中には強烈な吸い込み口がいくつもありました。そこを足でふさいでも、流れ込む水量が減るということはありませんでしたが、かすかな塩素臭がしたこともあり、ここは循環だと思います。桧の内湯は桧のすがすがしい香りが満ちていました。ここは流れ込むお湯の量も他とは違ってあまり多くありませんでしたし、塩素臭もしませんでしたので、もしかするとここに限っては流し切りかもしれません。いい感じの内湯でした。
露天は当日女性用の丸い桧の露天にしろ、この岩風呂の露天にしろ周り三方を囲まれ頭上もよしずのようなもので覆われていますので、開放面は一方向だけです。しかもこの一方向も岩風呂は木々、丸い桧の露天風呂は竹やぶが目の前に迫っていますので、全体的に暗く、開放感はありません。ただ、露天は空間自体は狭い印象はありませんので、その暗さがかえって落ち着きを与えているともいえます。なお、この丸い桧の露天や、その内湯の石のお風呂は明らかに塩素臭がしました。弱食塩泉だということですが、口に含んでみてもしょっぱさはありませんでした。小涌谷温泉ということですが、成分表を見てみると、宮ノ下から引き湯をしているようです。食事は食事処でいただきます。ここのうりは「炙り焼き」で魚、肉、野菜をテーブルにしつらえられたガスコンロで焼きながら食べるというものです。この炙り焼きにしろ刺身にしろ、素材はかなり吟味されています。この炙り焼き以外はあまり品数はありませんので、もしかすると人によっては量が少ないと感じるかもしれません。また、自分で焼かなければならず、少し油断していると焦がしてしまい、せっかくの素材を活かしきれないおそれがあります。肉とか浅利の釜飯とか、デザートのくだものとか、とにかく全体的においしいものだといえます。最後にセルフサービスでおしるこが出ますがこれもおいしいと思いました。朝食もメインは魚の焼き物です。魚は3種類の中から選ぶことができ、これもいい素材のおいしい魚でした。それ以外のおかずはあまり量もなく印象は強くはありませんが、まあ、おいしかったと言っていいでしょう。

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川俣温泉へ行ってきました。川俣を初めとする鬼怒川の奥の温泉はぼくの大好きなところで、これは途中の瀬戸合峡という絶景のポイントが気に入っていることと、すべて川のそばに露天があり、それぞれ独特の雰囲気を持っているという二つの理由です。
今回はインターネットの10周年特別企画という格安プランで行きましたが、通常も平日12000円というかなり安い料金設定です。仙心亭は全部で部屋数が20室以下だったと思います。泊まったのはバス・トイレ付きの部屋で、10畳と畳の広縁が付いた仙心亭ではごく一般的な部屋です。10周年ということですが、部屋はまだ小奇麗で10年も経ったという印象はなく、申し分ありません。入った部屋は川に向かって左端の方の部屋で、この部屋の特徴は何といっても川俣名物の間欠泉が部屋の中から眺められるということでしょう。ただ、間欠泉が見られるということは噴泉橋から、こちらも見られてしまうということでもあります。この間欠泉は6年前は湯の出が悪かったのですが、今回は豪快に吹き出していました。50分に一回、15秒程度で、結構、見るのは難しいのですが、今回は二泊したせいもあり、部屋の中から、大浴場から、噴泉橋からと何回も見ることができました。また、奥鬼怒の清流もかなり見下ろす感じですが部屋の中から眺めることができます。
お風呂は男女別の大浴場と露天が二つです。大浴場は部屋数が少ない割に広々していて、洗い場も男性用で九か所ありました。湯気もまったくこもっておらず、湯舟もそこそこ広いと思います。湯温は絶妙でぼくにとっては「玉の湯(やさしく包まれる感じの絶妙の湯温ということ)」でした。もちろん源泉流し切りです。ただ、お湯はそれほど特徴はないかもしれません。風呂場に向かうにつれて硫黄臭はするのですが、お風呂に入ってしまうと、鼻が慣れるせいか感じなくなります。なめてみてもしょっぱさもなく、特においしいという感じもしませんでした。露天は一階からさらに外の階段を使って川の方へと下りて行きます。建物にして3階分くらい降りるでしょうか。また、外なので雨が降ったら傘を差さねばならず、ちょっと降りるのが大変かもしれません。一階半ぐらい降りたところに女性専用の露天があります。暗くて雰囲気はあると思いますが、中途半端なところにあるので眺めは多分悪いだろうと思います。
さらに降りていくとメインの露天風呂「藤四郎の湯」があります。ここは昼の2時から18時までが男性専用、18時から21時までが女性専用、21時から翌朝までが男女混浴になっています。この露天風呂はぼくにとっての最高評価の露天と言っても言いと思います。渓流沿いの露天で、川下方向を見ると幽玄な渓谷美が、川上方向を見ると岩に当たって砕け散るダイナミックな波しぶきを間近に見ることができます。何時間いても見飽きない景色です。湯舟は10人ぐらいは入れると思います。上下二段に分かれていて、上の方は湯船に入りながら川の流れを見ることができますが、少し離れた感じは否めません。また、上の方は少し熱めの湯温になっており、自分で調節することはできません。下の段は広くなっていますが、湯舟に入りながら流れを見ることはできません。周りの岩に腰掛けると最高の眺めを堪能することができます。ここには温泉と水がほとんど同量流れ込んでいてぬる目ですが、この水のホースは外の方に外して湯舟に入れないこともでき、また岩の上に置いて、外に流す量と湯船に入れる量を調節することもできます。もともと温泉自体も手ですくえるくらいの湯温なので、水を入れなくても入れる温度ではないかと思います。また、わずかですが、湯の花もありました。と、ここまではいいのですが、残念ながらこの露天風呂の最大の欠点は旅館の部屋や、噴泉橋の上から見えてしまうのです。奥に引っ込んだり、上の段に行けば見えませんが渓流の眺めを堪能したい場合は見られるのを覚悟しなければなりません。また、岩の上にいる場合はタオルでかくせますが、湯舟に入っている場合は、お湯の透明度が高いので、どうしょうもありません。といっても、かなり離れているので、自信がない人でも大丈夫ですが・・・
食事は個室の食事処でいただきます。「石焼噴泉煮(いしやきふんせんだき)」というのがここの名物で、600度に焼いた石を桶の中に入れ、具を瞬時に煮立たせるというものです。野菜などしゃきしゃき感が残って、やはりおいしいと思います。初日はみそ味の石焼噴泉煮、岩魚の刺身、そば、岩魚の焼き物、ソフトクラブの天麩羅。柿のデザートなどで、この他にも先付けや酢の物などがあり、全体的に非常にボリュームを感じさせ、満腹になります。岩魚の刺身は非常においしいものでした。ソフトクラブの天麩羅も少々塩味が強いように思いましたが、なかなかないおいしいものでした。ただ、天麩羅は部屋に通された段階ですでに並んでいますので、揚げたてという訳にはいきません。二日目は、しょうゆ味の石焼噴泉煮。鴨肉の湯葉巻き鉄板焼き。岩魚の刺身、そば、ビーフシチュー、山菜の天麩羅。みかんなどでした。天麩羅は完全に冷めていましたが、この日ももビーフシチューなど、ほとんどおいしくいただきました。また、みかんがとてもおいしく感じました。朝食は同じ場所ですが、夕食に比べ朝食はささやかな感じがします。一般的な朝定食から何か一品抜いた感じです。一日目の魚は鮭でしたが、二日目は岩魚の一夜干しで、これは絶品でした。また一日目は「ブルーベリーのアイスクリーム」二日目は「マロンのアイスクリーム」など朝食にもデザートがつきました。ぼくとしてはあと一品欲しかった気がしますが、デザートなどは満足できました。
宿に着いたときに、ロビーでゆずの冷水とお麩のお団子をいただき、そのまま部屋に案内されますが、案内係が部屋に入ってお茶を改めていれるということはありませんでした。部屋の外でどうぞごゆっくりという感じです。女将さんも他の従業員と同じ格好で忙しく立ち働いています。これだけの料金ではやはり、従業員の数を制限してということが必要なのでしょう。ほとんど言うことは何もありませんが、湯上り処の冷水や部屋の冷水ポットが欲しいと思いました。特に、水道の水もかなりおいしかったので、この水を利用しないのはもったいないと思いました

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湯河原のHPから、一人宿泊できるところを調べ、選んだ宿は「源泉上野屋」という旅館です。旅館の入り口はなかなかいい雰囲気です。チェックイン時間前だったせいか、玄関でいくら声をかけてもだれも出てきません。仕方無しに靴を脱いで上がり、とりあえずフロントに行ってみると、電話が置いてあり9番に電話してくださいとあります。電話をするとご主人が出てきました。イン前なのですが、すぐに案内してくれました。バックは持ってくれません。部屋に通され、3時まで従業員は休憩なのでと言って、出て行ってしまいました。正式なインの時間前に入るとお茶を入れててくれないところは結構あるので、それはいいのですが、お着き菓子さえ置いてありません。また、浴衣のサイズにも気を配るそぶりもありませんでした。人のよさそうなご主人なのですが、こんな本当にちょっとしたことの積み重ねで大分印象がちがうのにと残念でした。ちなみに、お菓子はお風呂から上がった時に仲居さんが持ってきてくれ、お茶も入れてくれました。部屋はなかなか立派です。後でパンフレットを見たら、何とパンフレットに載っている四つの部屋のうちの一つでした。広さは2畳の踏み込みと、10畳の主室だけなのですが、床の間は非常に立派です。また、天井も高く窓も二面にあり障子が閉められています。古い部屋の好きな人ならいっぺんで気に入るでしょう。トイレはシャワートイレではなく、また洗面所も狭い感じでしたが、なにしろ床の間が良かったですね。花も活けてありました。また、この部屋に入るまで何回か階段を昇るのですが、その階段も磨き上げられていて、いい感じです。ただし、昔の建物ですので勾配は急で、暗く、段差が分かりにくいなどお年寄りには向きません。とにかく一人で泊まるにはもったいない部屋だと思いました。
お風呂は新しくなっています。露天風呂が二つあるのですが、それぞれ貸し切りの家族風呂になっていて、宿泊者の数によって扱いが違うようです。多い時は予約制、少ないときは自由貸し切りになります。今回は自由貸し切りで、とにかく空いてさえすれば入れます。今回、ぼくが入ろうと思った時に誰かが使っていたということはありませんでした。露天は広い方と狭い方の二つがあり、広い方だといっぺんに三人ぐらい入れます。露天といっても半露天という感じで、上下前後左右のうちの一面しか開いていません。ですから、あまり風も通らないし、星も見えません。また、その開いている一面も木が生い茂り見通しはありません。しかし、お湯はいいのではないでしょうか。源泉を二本持っているということだし、すべての浴場に飲泉用のコップがありました。とっても温まるお湯で、最初露天に30分、大浴場に30分、試しで入ったのですが、それだけでバスタオルと浴衣がびしょびしょになってしまいました。大浴場でぼくより先に上がった人は、立ち寄りの人らしく、ぼくが上がってもなかなか洋服を着ようとせず、服が着られないとなげいてました。
露天も新しいのですが、大浴場も新しく、明るい感じです。そんなに広くはありませんが、全部で18室とのことですので、これくらいあれば十分でしょう。ひょうたん型の湯口からお湯が流れ込み、その口には温泉成分が白くこびりついていました。大浴場は夜の10時に男女交代ですが、今回はほとんど露天にいましたので、交代するもう一つの方は結局行きませんでした。こちらの方はいくらか狭いようです。露天も大浴場も源泉の流し切りですが、いずれも浴槽内に吸い込み口と注入口がありました。源泉が高温なので温度調節のためではないでしょうか。もちろん、塩素臭はしませんでした。飲んでみると、やや塩味がするという感じで、それほど強烈ではなく、ぬるすべもそれほどではありませんが、この温まり具合は尋常ではない感じがしました。ただし、川のそばの木造の建物であること、台風が接近していたことなど、湿度が相当高かったせいもあったかもしれません。でもやはり、ちょっとあなどれないお湯では?という感じがしました。部屋にあった療養関係の温泉の本にもこの旅館のお湯が紹介されていましたので、湯河原の中でもかなりいいお湯なのでは?という気がします。
部屋、お風呂とも予想外に良かったので、食事も期待が高まります。旅館のHPで見た食事の写真もなかなかのものでした。しかし、実際のところは残念ながら食事は期待はずれでした。一人だったせいもあるかもしれませんが、まず、最初にごはん、汁も含めていっぺんに出されてしまいました。これでガックリきたところへ、品数が多くありません、器もたいしたことがないし、中身も見た感じいただけません。大部分が何の工夫もない旅館料理と言う感じです。天麩羅はわずかに温かみが残っている程度、しし唐が二本と、穴子をざくざく切った感じのものが四つという大雑把なものでした。ただ、お刺身がおいしかったのと、まぐろの頬肉のバター焼きが絶品だったのが救いでした。おひつのごはんを全部食べても、(といっても二杯分くらい)、まだお腹に余裕がある感じでした。この料金なら、料理はあと最低二品は欲しかった感じです。デザートはマスカットで、なぜかデザートだけは後から持ってきました。朝食も少なめで、これまたおひつのご飯を全部食べてしまいました。ただ、やはりアジの開きはおいしかったですね。ということで、もっと食事に気合を入れること、細かなことに気を遣うこと、などに気をつければ、部屋やお湯はいいのですから、かなり良く変身出来る旅館なのではないかっていう気がしました。

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二回目の一人旅に行ってきました。一人だとあまり遠出をする気にならず、近場をさがして中川温泉に決めました。今回行った旅館は「蒼の山荘」という旅館で、この旅館の名前はこの前行った時のバスの中の案内放送で初めて知り、ちょっと印象的だったので覚えていました。中川温泉は、小田急線の小田原のちょっと手前の「新松田」というところからバスに乗り、一時間ほど行ったところにあります。結局家を出て3時間近くもかかるのでそんなに近場でもないのですが、さすがにそれだけバスで入ると、大自然はゆたかで、箱根にはない景色やひなびた感じが広がります。中川はそれほど水量の豊かな川ではなく、渓流のダイナミックさなどはありません。河原にはすすきが広がり、銀色の波を立たせていました。蒼の山荘はしゃれた前庭があり、そこを上ってこれまたしゃれた建物に入ります。きれいだとはネットで調べて知っていたのですが、意外にしゃれているのにびっくりしました。入るとフロントがあり、そこで名前を告げるといきなり宿泊料を請求されました。今までに多くの旅館に行っていますが、これは初めてのことです。すぐに部屋まで案内され、部屋の前でキーを渡されました。荷物も持たず、お茶出しもしません。部屋には、お着き菓子のゴーフルが一枚、テーブルには急須と茶碗が用意され、急須の中にはちゃんとお茶の葉が入っていました。まあ、一人旅だとこんな旅館はざらなんだろうと思いましたが、浴衣については電話で予約した時にサイズを聞かれ、それがちゃんと用意してあるなど、さっきのお茶とはいえ、気を配るところはそれなりに気を配っている?のがなんかおかしかったですね。この旅館は全部で10室で、この日は確か6組ぐらいの客でしたが、びっくりしたのは、ぼくが通された「朧月」という部屋が一番いい部屋だったことです。ぼくは最も一般的な、二人で入れば一人12000円のプランだったんですが、そんなありきたりのプランで、しかも一人客のぼくが一番いい部屋だということは、つまり、ぼく以外の客はすべてぼく以下のプランだったということでしょう。実はこの旅館はインターネットで検索すればすぐに分かりますが、ビジネスプランというかなり格安なプランをやっていて、新しい部屋でトイレもテレビもあり食事は家庭料理だが、かなり安く、もちろん一人でもOKということで知られているんですね。ぼくの入った部屋は二階の川側の角部屋で、一階のロビーの真上。八畳の主室、次の間が六畳、それに広縁という作りで、新しくきれいです。ただし、洗面台は立派なものではなく狭い感じがしましたし、部屋風呂はありません。トイレもシャワートイレではありませんでした。部屋からの眺めは、山、林、庭で、向こうからの覗きこみはありません。角部屋だったので、川も見えます。
風呂は男女別で交代はありません。また空いていればいつでも入れる家族風呂が一つあります。すべて時間は夜23時までで朝は6時からです。湯温はやや低めの適温といったところでしょうか。露天はさらに低めですが、入っていて寒いということはありません。内湯は岩風呂ですが、やや暗い感じで、内部もコンクリートの部屋にペンキを塗ったようで今一な気がしました。雰囲気があると言えば言えるのですがぼくはあまり好ましい印象を受けませんでした。それに比べると露天はとてもいいですね。男性用は山と林、庭に面していて眺め応えのある景色です。後ろの建物を振り返らず、前だけを見ると野の湯船につかっているような気分になります。自然と一体化したお風呂にはいくつか入りましたが、その中では一番一体感はあるのではないでしょうか。かなりいい印象です。女性用は確認した訳ではありませんが、男性用からは眺められない川や遠くの山も見えるようです。できれば、男女交代にしてほしいところです。後で少しご主人と話したのですが、それによると、お湯は半分循環とのことです。ただし、塩素臭はまったくしません。加熱はしていないという話だったのですが、朝の露天には特に熱いお湯がそそぎこまれていたので、ちょっと?です。したがって、逆に温度管理はしっかりしている印象を受けました。
夕食は大広間を籐のしきりで仕切った形です。ただし、ぼくのプランで二人以上だったら部屋でも食べられるようです。内容は、いのしし(多分)の陶板焼き。てんぷら、刺身、茶碗蒸し、酢の物、岩魚、前菜、といった感じで、とにかく旅館の夕食の見本、定番中の定番という感じで、まったくこの旅館独自の工夫というものを感じませんでした。説明もまったくなしで、初めに、ごはん、おすましなど、全部持ってきました。天麩羅はもちろんさめていて、刺身もまったく大したことはなくデザートもありませんでした。仲居さんも姿を消し、用事がある場合はフロントに電話をかける仕組みです。朝食も同じ場所で同様な感じです。量は少なく焼き魚も大したことはありません。味付けはとくにまずいということはありませんが普通です。朝食はグレープフルーツのデザートが付いていました。昨日のデザートは忘れたということでなければいいのですが・・・。ここはとにかく従業員に会うことが少ないところです。ほとんどご主人がやっているのでは?という印象を持ちました。朝食のあと片づけをしていたご主人と少し話したのですが、向かいの山二つがここの持ち物だそうです。源泉も少し行ったところに所有し、しかもそこはポンプではなく自噴だそうです。建物も新しくしいろいろ工夫しているようです。部屋も新しく、都会に近いのに素晴らしい自然、鹿も多くいて、いのししもいるというところなのだから、発展する要素はかなりあると感じました。しかし、それにはとにかくまず、料理をしっかりさせる必要があります。おいしい料理と自噴する温泉を核にすればきっと好転していく宿であるに違いないと思います。名前のある料理人でなくても地元の料理上手のおばさんでもいいから、地元の食材を生かしたおいしい料理を作れる人を入れること、パイプの掃除をして湯量を増やし、流し切りにすること、内湯をもう少し温かみを感じさせるものにすること、従業員を増やしてサービスに力を入れること。これができれば変わると思います。

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塩原温泉の「湯守田中屋」へ行ってきました。11時に東京駅を出発した高速バスは1時40分に宿屋の前に着きました。インの時間は3時だと思うのですが、この高速バスで来る客も多いらしく、特に待たされずに部屋へ通されました。通された部屋は二階の和洋室で、イン前なのに部屋係の仲居さんが案内してくれ、すぐにお茶を入れて、サイズの合った浴衣を、今日は雨で、露天へ行くと濡れますのでと二枚持ってきてくれました。しばらくして、氷入りの冷水ポットも運ばれてきました。気配りはなかなかです。ただ、部屋は和洋室とはいうものの、ドアを開けると正面に窓と応接セット、左手の手前にユニットバス、奥にベッドが二つ並んでいて、右手が畳6畳分の和室という造りです。和室はふすまや障子で部屋が区切られている訳ではなく、和室に上がる時だけスリッパを脱ぐことになります。ほんのわずか床の間らしきところにはテレビが鎮座しています。ということで、部屋全体の印象は今一です。窓からの眺めは正面の駐車場が視界に入り、その後ろには山の斜面が迫ります。窓に近づけば駐車場から顔などは見えてしまいますが、外からの覗きこみはそれ以外はありません。
浴衣に着換え、さっそく露天へ行きました。露天へは宿を出て、目の前の国道を横切り、崖に作られた石段を5・6分クネクネと降りていきます。石段は最初の方はまだいいのですが、露天に近づくにつれて急に、しかも一段の高さが高くなるので注意が必要です。特に一段だけかなり幅が狭いところがあります。ここでコケたら石段がとがっていることもあり大怪我は必至です。また、膝を痛めている人や心臓の悪い人、目の悪い人などは避けた方が無難でしょう。なんでも280段あるらしく、60歳までの露天風呂という気がします。谷に下りると、箒川にダイナミックな巨岩がゴロゴロしています。非常にワイルドな景色でこの季節とあいまって荒涼とした感じすらします。ここには、まず一番下に、川とほとんど同じ高さの「河原湯」というコンクリート作りのまるで廃墟のような、まったく情緒のない露天があります。その近くに1.5メートル四方位の正方形の石門湯という湯舟があるのですが、浴槽の底面に石や岩がごろごろしていで危なっかしいし、ここもまた情緒も無いので、一分間の記念入湯のみにしておきました。
メインの浴槽は川面よりも5メートルくらい高いところにある、仙郷湯という20人以上入れそうな横長の露天です。奥にお湯の流れ込む樋があり、手前にくるほど湯がぬるくなっています。この日は流れ込む辺りで適温で、手前は温めでした。このお湯につかると、部屋から見えた目の前の小山に向き合う形になります。山の斜面には一面に落葉樹があり紅葉の頃はさぞきれいだと思わせました。ここは広々としてゆっくり入っていられます。もちろん、どこからも覗き込みはありません。源泉流し切りでぼくの好きな温泉の匂いがしました。この露天の左上に上に女性専用の露天があります。ここで、忘れてはならないことは、男性用の脱衣は、この「仙郷湯」の近くにただ箱型に区切った棚と、その中にカゴがあるだけだということです。ひさしなどは一切なく、雨が降れば降りこみっ放しになってしまいます。この日のように雨の強い日は、着替えることもできないし、脱いだ衣服を置いておくこともできません。びしょ濡れになってしまいます。したがって、雨の日は男性は非常に入りにくいと思ってください。屋根ぐらい作ればいいのにと思いますが、実はそれができないのだそうです。ここは、国立公園の中でも特別地域なので一切手を入れられないとのことです。ぼくは、女性がいなかったので、女性専用露天の入り口で服を脱ぎ、その屋根の下の端に服を置いておきました。また、「仙郷湯」にはまったく屋根がないので、傘を差しながら入りました。2時間傘を差しっぱなしでした。こんなに長く傘を差していたのは記憶にありません。その間誰も来ませんでした。翌朝は雨が止んだのでまた入りに行きましたが、上はかなり風が強いのに谷に降りてしまえば風はかなり弱くなるようです。快適に入浴できました。昨日あまり流れていなかった川も上のダムで放流したらしくかなりの水量が流れていました。青空に有明の半月が浮かび、時々落葉が舞ってなかなかの気分でした。ただ、帰りはこの石段を登らなくてはならず、これは結構こたえます。夏なんか、登るのでまた汗をかいてしまうのでは?と思いました。大浴場は一号館の7階の全フロアを男性用に使用した展望型のお風呂です。6階は同様に女性用になっています。メインの浴槽のほかに、寝湯、打たせ湯、ジャグジー、サウナとあります。天井が低く、コンクリートの梁が出ていて、あまり情緒は無い印象です。ただし、窓が二面に大きく取られているので朝などは明るく感じます。その窓の景色を寝ながら眺めることができる寝湯が大きく取られています。ぬる目のお湯で、寝湯の好きな人には良さそうな感じでした湯温は全体的にやや低めです。

夕食は部屋でした。ほとんど最初に出されるタイプの会席で、後出しで山芋のおまんじゅう、天麩羅、松茸のおこわが運ばれてきましたが、こちらが料理の写真をとっていてまだ箸をつける前に結局ほとんどそろってしまいました。ただ、最後のご飯だけはこちらが請求してから持ってきました。料理長は若い人らしく、いろいろ工夫を凝らしているとのことです。メニューは那須牛のステーキがメインで、生湯葉、岩魚の塩焼き、蕎麦の実の吸い物、松茸おこわ、天麩羅、山芋のおまんじゅうなどです。デザートはババロア?全体的においしいですね。那須牛もおいしいし生湯葉もおいしいと思いました。また、栗に黒いソースを使った洋皿風のものがありましたが、この黒いソースも非常においしかったと思います。海のものは全く出さないというコンセプトでやっているみたいです。朝食は、魚、納豆、海苔、サラダなど一般的な朝定食に近いのですがフルーツトマトの赤ワイン漬けなど、いくらか工夫がこらされたものも付きました。おいしいものでした。ただ、デザートにメロンが付きましたが、このメロンは今一でした。食事はおいしいし、天気が良ければ露天は最高。ただ、部屋は今一という感じですね。チェックアウトの時、バス停でバスを待っている僕一人のために、風邪を引いているというのに、若女将が寒い中20分も付き合ってくれたのには感激しました。

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四万温泉の中生館へ行ってきました。今回行ったのは「群馬の温泉ページ」のtakayamaさん初め、知る人ぞ知るという旅館、四万の最奥、日向見地区にある「中生館」です。ここはなっちゃんからも行ったことがあるか、聞かれたこともあり、いつかは行かねばなるまいと思っていたのですが、二日連続で休めることになり、ちょうどいい機会だと前日に予約して出かけました。電話に出たのはご主人らしく、丁寧な応対で好感が持てました。四万の終点のバス停からさらに歩いて30分ほどかかるらしいのですが、一人でも迎えに来てくれるということでした。また、四万の有名な共同湯「御夢想の湯」がすぐそばにあるということで、共同湯にはほとんど入らないぼくですが、今回はぜひ「御夢想の湯」にも寄ってみようと思ったのでした。チェックイン時間は2時と早いのですが、バスはそれよりも30分も早く着いてしまいました。とりあえず宿に電話してみるとすぐに来てくれるということで、そんなに待たずに来てくれました。宿についてさっそく部屋に案内してくれようとしたのですが、ちょうど畳替えをしたばかりで、掃除に時間がかかるということだったので、「御夢想の湯」へ行くことにしました。本当に中生館から「御夢想の湯」は近く、ほとんど中生館の敷地の中にあると言ってもいいほどです。また、そのすぐ近くに重要文化財の日向薬師堂がありますので、立地としては中生館は非常にいいところにあります。この時はまだ浴衣に着替えていませんから、「御夢想の湯」からの帰りはちゃんと元通りに服を着なければならなかったのですが、「御夢想の湯」が熱くてまた非常に温まり、なかなか汗が引かなかったので、アンダーシャツのまま宿に戻ってきてしまいました。そんな気にさせるほど近いのです。
通された部屋は二階に上がった、階段のすぐ近くの「竹」という部屋で、ドアを開けると、ちょっとした踏み込みがあり、その先に六畳の和室、さらには椅子が二脚置かれた、洗面のついた広縁と続きます。ちょうど玄関の上に当たる感じで、窓からは庭や日向薬師堂の背面を見ることができます。障子を張り替えたばかり、畳替えをしたばかりということで、部屋はきれいなものでした。ただ、一畳大の床の間にはご多分にもれず、テレビやインターフォンが置かれていました。立派な花まで置かれていて、あれ?と思ったのですが、やはりこれは造花でした。造花だったらない方がいいかなと思います。トイレがあるとほとんど言うことのない部屋ですが、残念ながらトイレはありません。案内はご主人で、ご主人がお茶を入れてくれました。部屋にはティッシュはありましたが、バスタオルは付いていませんでした。この中生館の名物は「かじかの湯」という川を渡ったところにある露天風呂です。残念ながら、湯量の関係で五月の下旬から十月の十日くらいまでしか入れないそうです。お風呂に関しては、中生館は基本的には岩風呂(内風呂)、その隣の露天「月見の湯」、そして、「かじかの湯」がすべて男女混浴で、夜の7時〜9時までが女性専用時間になります。それとは別に女性専用の「檜風呂」があるのですが、ここは夜の7時〜9時に限って男性時間になります。それぞれの湯舟は小さく、大体二人が基本だと考えていいでしょう。ただし、岩風呂とかじかの湯は湯舟が二つあります。湯舟が小さいのは、湯量が少なく源泉流し切りにしているためだそうです。循環にすれば今の3倍にできると女将さんは言っていました。掃除も楽になるそうです。する気はなさそうですが、女将さんは少し惹かれているかも・・。ここのお風呂は共同洗面所のある廊下から、女性専用の檜風呂、混浴の岩風呂に分かれますが、この廊下に整髪料やカミソリが置かれています。また、フェイスタオルが置かれ、ご自由にお使いくださいとあるのは、秘湯系の宿としては珍しいと思いました。岩風呂の脱衣所からさらに隣の露天「月見の湯」へ、さらにそこにある非常口の小さな木戸を開け、少し降りて専用の小さな橋を渡り対岸の「かじかの湯」へと行きます。「かじかの湯」には風流な小さな脱衣置き場があるのですが、枯葉がたまり、端に蜘蛛の巣も張っていました。このへんは、是非毎日掃除をしてほしいと思いました。湯舟は二つあるのですが、まだ気温が低いせいか、一つは30センチくらいしかお湯がたまっておらず、全く流れずに枯葉などが浮かんでいました。まさに死んでいる状態で、これだったら、空にしておいた方がよっぽどいいと思いました。もうひとつの湯船はしっかりお湯が注ぎ込まれ流しきりの状態になっていましたが、湯温がまだ低く体温よりいくらか温かい程度でした。お湯を流し込んでいますが、湯舟の底からもわずかですが湧き出しています。久しぶりの直接湧出のお湯でした。ロケーションはなかなかのものです。湯舟のすぐ近くにはコケの生えた大きな岩、湯舟の上には無数の木の葉の緑が空全体を覆うように広がっています。ぼくは直射日光の差す露天は大嫌いないのですが、ここなら十分に太陽がさえぎられ、言うことはありません。この葉っぱは近くの大木のものですが、この大木は根元の土が抉り取られている感じで見ごたえがあります。翌朝この「かじかの湯」に入った時は、天気がいいのに、その大木の根のあたりから水滴が行く筋も滴り落ちてくるのです。どんな仕組みなのか分かりませんが、思わずその水滴を飲んでみたいという気になりました。翌朝は湯温も上がっていて、緑一色の中、清冽な川の流れを眺めながら至福の時を過ごすことができました。もし連泊したら、多分昼間はずうっとこの露天に入っているだろうなと思いました。湯船は川面より1メートル半ほど上にあるだけで、川はそれほど水量が多くなく、真夏なら、露天に入っては下の川の冷たい水につかるということを繰り返したりできるのではないかと思いました。旅館の人に確かめた訳ではないので、もしかすると危険なのかもしれませんが・・。昼間入ったときは、それほど特に強い印象はなかったのですが、朝は大感激の露天でした。ぼくは、朝食後はもうお風呂に入るということはしないのですが、この日はまた入ろうと決心して道を戻り、「月見の湯」への木戸をくぐろうとしたら、ギエー!!一段高くなっている木戸の下のコンクリートのところで蛇が日向ぼっこをしているじゃありませんか。幸いに向こうもこちらに気づいたらしく、そそくさと穴に姿を隠そうとしましたが、頭かくして尻隠さずでまだ尻尾が見えています。その上をまたいで木戸をくぐって帰ってきましたが、結局、朝食後は行きませんでした。なかなかうまい具合には行かないもんですね。内湯の隣の「月見の湯」は手軽に入れる露天ですが、三方を塀などに囲まれてしまっています。開けた一方も木の葉っぱが見えるだけで、それほど眺めがいいとは言えません。湯舟の真ん中に大きな平たい岩があり、寝湯にちょうど良さそうですが、頭を乗せるところがありません。この岩のおかげで、少し湯船が窮屈になっています。
混浴の内湯である岩風呂はなかなか情緒があります。浴槽が二つ並んでいて、透明感にあふれたお湯が流し切りになっていて、湯口にコップが置いてあり飲泉ができます。お湯はくせがなくかなりおいしいものですが、おいしさよりも、四万の湯は胃腸に効くということで有名なようで、露天で一緒になったおじいさんがとてもいいと言っていました。岩風呂は自然の岩の上に木を組み小屋掛けした感じ(もちろん、本当は人工的に岩を組んだもの)で、ちょっと、この前の満山荘の内湯を思わせます。なかなか雰囲気を感じさせる内湯です。シャンプーは置いておりますが、カランは一切なく、湯舟のお湯を汲んで流すことになります。ただ、あまりたくさんの人で混み合うことはないので、お湯はきれいで、何の問題もありません。岩風呂の窓からは外の木々と「かじかの湯」が見えます。湯船が狭いうえにお湯は透明感あふれるもので、混浴とはいえ、女性にとっては「かじかの湯」も「月見の湯」も「岩風呂」もかなり男性と一緒に入るにはキツイお風呂だと感じました。ぼくは露天に平気で2時間くらい入っていますので、女性の邪魔をしているのではないかと気になったのですが、この日は女性一人ということで、いくらか安心しました。
食事は夕食も朝も部屋です。この旅館は料金に4パターンあり、一人旅は下の二つのパターンのどちらかしか選べないようですが、ぼくは無理を言って、料理だけでも上から二番目のパターンにしてもらいました。その料理はお絞りもお品書きもありませんでしたが、説明が少しだけありました。運ぶのは女将さんです。鴨肉の前菜、岩魚の塩焼き、酢の物、筍の煮物、鴨肉のつくね、鹿刺し、サーモン(?)の刺身。山菜の天麩羅、白魚の卵とじ、などデザートをふくめてすべての料理が初めからいっぺんに運ばれてしまいます。ごはんもおひつに入れられた状態で最初に運ばれてしまいます。全体的においしい食事だとは思いますが、特にこれは、という絶品にあたるものはありません。山菜の天麩羅や岩魚の塩焼きは冷め切ってはいなかったものの、揚げたて、焼きたてという感じではなく、やはりせっかくの味が落ちてしまっている気がしました。天麩羅は、たとえ熱々にしても後一歩だろうというところ、岩魚は骨は食べられませんでした。この日は客が四組しかなくしかも、ご主人夫婦がてきぱきと運んでいたのですが、こんな状態でした。やっぱり、全部いっぺんにというところに逆に無理があるのではないでしょうか。特に温かさ、冷たさの必要のないものを最初に運び、その後で、温かいもの冷たいものを一気に運ぶということはできないのでしょうか。素人考えなのかもしれませんが、できない訳はないと思うし、それほど面倒なことでもないような気がするのですが。デザートはグレープフルーツがふた切れ、ジューシーでおいしいものでした。言いたいことは多々ありますが、全体的にまあおいしく、値段の割には満足できる料理で、最上クラスの料理だとさらにどんな感じになるのかなと興味がわきました。朝食は、これといった特徴は全く無い定番の朝食だといっていいでしょう。焼き魚はししゃもが二尾。それに、しらすおろし、海苔、温泉卵、お浸し、サラダという内容です。夕飯も朝食もごはんは小さなおひつで出てきます。二回とも空っぽにしてしまいました。ということは、ごはんもまあまあおいしかったということでしょう。ここはなぜ「日本秘湯を守る宿」に入っていないのかは分かりませんが、十分にその資格がある宿だと思います。だからこそ本物の温泉の分かる通人に愛されているのでしょう。ただ、気になったのはぼくが泊まった日は一人宿泊が三組もあり、二人が一組という状態だったことです。一人が気楽に泊まれる宿はありがたいことですが、旅館の経営としてはやはり苦しいでしょう。家族連れにも愛される宿になってこそ経営も安定するのではないでしょうか。温泉好きの宿という現状に満足せずに、何が足りないか、何が必要なのかを宿としての原点に戻って考えてみることも必要だと思います。露天のこまめな手入れ、あつあつの料理など、日常の忙しさにかまけず、ほんのちょっとしたことを気にかけ、磨きをかけていけば、お風呂だけでなく、旅館としても十分人気の出る宿だと思います。

どうも、この宿に泊まる原因を作ったtakayamaです(汗)。中生館について、すこしお話しましょう。一郷一会の会HPの掲示板に防衛軍モードといった特殊?な書き込みかたをするのがあります。かなり良い湯でないとこのモードにならないのですが、群馬の温泉で私が始めて、このような書き込みかたをしたのが、中生館でした。四万温泉は奥に行くに従って硫酸塩泉が薄くなり、四万温泉最奥の日向見地区は、私の好きな泉質「単純泉」に限りなくちかくなります。そんな微妙な温泉に、本当によい湯に出会えます。太夫さんの記載では一度に夕食を持ってきてきてしまいますが、不味くはなかったとのことで、今度この宿は自信をもってひとにお勧めしますし、自分でもいきたいとおもてえいます。レポありがとうございました。楽しく拝見させていただきました、結構こんな宿すくないですね。ここの女将さんとはなしたのですが、休日は御馴染みさんが宿泊されるようで、意外と賑やかだといいます 。

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万座温泉「豊国館」へ行ってきました。ここは温泉通が万座を語るとき必ず出てくる旅館名ということで、前から気になっていたのですが、今回はからずも宿泊が現実のものとなったのです。豊国館の入り口は素朴な感じのものですが、ぼくは決して嫌いではありません。玄関のガラス戸を開けると、上がり口の右手にソファーが置かれ、フロントはさらにその奥になっているようです。靴を脱ぎ、勝手にげた箱に入れます。傘は傘立てに突っ込んでスリッパを履きフロントへ向かいました。フロントにはご主人らしい愛想のない人がいましたが、名前を告げるとすぐに部屋へ案内してくれました。ただし、荷物を持ったり、お茶を入れたりということはありませんでした。ま、秘湯はこんなものかなという感じです。部屋はフロント近くの階段を上がってすぐの88号室でした。ドアを開け、半畳程度の板の間にスリッパを脱ぎ、すぐ和室6畳の部屋に上がります。まさに6畳それだけというシンプルな造りで、窓のところが腰高になっていてそこに40cm幅くらいのスペースがあるだけでした。そこにテレビが置かれています。風呂も、トイレも、洗面も、冷蔵庫も、エアコンも、金庫も、ティッシュもないという部屋ですが、内装は手を入れたばかりらしく清潔感があります。ここは布団敷きはセルフで、浴衣と一緒にシーツと枕カバーが置いてありました。窓の外はほとんど一階部分の屋根で、上方は景色が望めますが、電信柱が邪魔をして、素晴らしい景色というわけにはいきません。
お風呂は一階に男女混浴の露天風呂とその隣に男性用の内湯、さらにその隣には女性用の内湯と女性専用の露天風呂があります。この男女混浴の露天風呂は有名で、大きな長方形の形と深さが1メートルあるということでプールのようなお風呂として知られています。まさにその通りで、何も付け加えることはないのですが、その単純な形から言っても情緒はあまり感じさせません。ここは女性が入るとすると、廊下からお風呂に通じる通路のようなところで着替えなければならないこととか、すぐ近くの部屋や男性用の内湯から覗かれてしまうこととか、入るまでが大変だなと感じました。入ってしまえば、乳白色のお湯なので大丈夫なのですが、旅館も何か女性のために一工夫考えてもいいのではないかと思いました。露天の景色は、万座の空吹きが左の方に見えてはいますが、道路が真ん中を走っているし、目の前に草が生い茂っていて全体的に漫然とした印象です。視界は開けてはいますが、ちょっと絶景という感じではありません。湯船の上に屋根はまったくなく、この日は台風の余波で夕方前まで雨が降り続いていて、ぼくは雨にもかなり強くなりました。湯温は少し熱めでしたが、なぜか翌朝入った時は、この時よりやや温くなっていました。ここは内湯もそうなのですが、ホースが湯船の脇に置いてあり、そのホースから水が出しっぱなしになっています。ですから、ぬる湯好きの人は割と遠慮なくうめてしまいます。とはいえ、もちろんお湯は内湯も露天も源泉流し切りの硫黄泉です。ぼくは夕食前までに計2時間半近く入って、この露天を堪能してきました。この露天に飲泉用のおわんがあることを後で知りましたが、ぼくは計四回入ったのに全然気づきませんでした。内湯にもそれらしきものはなかったので、ここは飲泉できないのかと思っていました。豊国館は源泉は苦湯ということでしたので、是非その苦さを味わってみたかったのに残念です。内湯はそれほど広くはありませんが、四角い湯船で、浴室の床や壁が木で造られていて落ち着きます。いい感じの内湯だと思います。一箇所温水の出る蛇口があり、ここで体を洗うことができます。シャンプー類も備えられていました。露天も内湯も24時間入浴可能です。内湯の脱衣所は床暖房のように温かくなっています。この下にお湯を貯めているのかも知れません。
食事は一階の食堂で、がらんと見渡せる広い大食堂と言う感じです。この日はお盆前の土曜でしたが、超満員というほどでもないらしく、テーブルに余裕を持たせて各席が配置されていたので、他の客はあまり気になりませんでした。ただし、一人客だとやはり少し食べづらいかなという感じです。ここは椅子席ですので、女性も座りやすいですね。夕食は5時半、朝食は7時半と宿から指定されます。ほとんど初めに出されてしまうタイプの夕食でしたが、鯉の洗いとおそばは少し後でもってきてくれました。ごはんはこちらの様子を見て、最後に温かいものを持ってきてくれます。もやしの味噌汁もお替わり可でした。野菜の天麩羅、たまご豆腐、野菜の煮付け、魚(鰈?)それに後出しの鯉の洗い、おそばというラインナップで、デザートのメロンも初めから出されています。テーブルで火を使うものや、肉系のものはありませんでした。鯉の洗いは臭みはまったくありません。ただし、絶品というところまではいっていません。これは料理全体に言えることで、まずいというものはまったくなかったのですが、これは、というものもなかったと思います。品数からいうと後二三品ほしいところですが、天麩羅のボリュームがあったせいか、それともアルコールを呑みすぎたせいか、さほど淋しいという感じはありませんでした。アルコールと言えば、ここはドイツのテーブルワインが1000円で出てきます。朝食は同じ場所でいくつかに仕切られたプレートに、サラダ、鮭、佃煮、煮豆などが配置され、その他に温泉卵、とあと一品小皿が付いてきました。プレートに沢山の品数が乗っている状態を見ると、なんだかバイキングで何種類か取ってきたような感じです。このプレートやあらゆる食器がプラスチックなのもバイキングを連想させるのかもしれません。鮭は完全に冷え切っていましたが、この朝食もだいたい昨日の夕食と同じような感じではないでしょうか。豊国館は宿泊料金が五段階に分かれていますが、食事は変わらないと言うことでした。われわれは下から二番目の料金で宿泊しましたが、それでも十分なものだと感じました。まあ秘湯系、湯治系の宿で一般的な旅館のもてなしは期待できませんが、万座のお湯を手軽に楽しむにはいい宿だと思います。フロントの苦虫を噛み潰したようなご主人に、写真のシャッターを押してもらうように頼んだのですが、手間を取らせてしまいました。でも、別に怒りもせずに何回もシャッターを押してくれました。このご主人は案外いい人なんだという気がしました。

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日光へ行って来ました。初日は、東照宮へ歩いて5分という近さの「ホテル清晃苑」にしました。翌日の東照宮観光の利便性を考えたのと、JTBの評価もそれほど悪くない感じだったからです。宿からは東武日光駅まで迎えに来てくれ、「○○様」というこちらの名前入りの紙を掲げて待っていてくれます。今まで沢山の宿の送迎を受けましたが、「○○様」という名前入りのところは、ここが初めてだったと思います。駅から車で7・8分といった感じでしょうか。宿に着くと、時間はチェックインの3時を少し過ぎており、すぐに部屋へ案内してもらえました。部屋は310号室で、この三階が最上階です。ドアを開けると、踏み込みは二畳大の板張りになっています。ただこの板張りは、音がぎしぎしとしました。この踏み込みの左に洗面があり、洗面に入ってさらに横のドアを開けると、ユニットバスになっています。トイレ、洗面、バスがくっついていますが、書いたように洗面はこことは別に独立したものがあるわけです。さっそく、このユニットのトイレを使って、また踏み込みのところに戻ると、あれ〜?ここにもドアがあるぞ〜。そのドアを開けてみると、何とここにも独立したトイレがあるではありませんか。シャワートイレでした。それにしてもトイレが二つもある部屋に泊まったのは初めてです。さて、踏み込みの先の、下方に等間隔の隙間のある変わったふすまを開けると、10畳の和室です。ちょうど畳一畳程度の床の間もあり、その先の広縁は四畳大の広さのところが畳の部分とカーペットの部分とに分かれ、椅子が二脚同じ方向を向いて置かれています。窓ガラスは全面に非常に大きく取られていて、しっかり磨かれているのが印象的でした。しかし、部屋全体の印象は非常に殺風景です。これは床の間に花も何もなく、がらんとしているためにそのような感じになるのでしょうか。畳は替えたばかりのようです。迎え菓子は鬼怒川周辺でよく見かける「鬼怒の清流」というお菓子でした。窓からは、木々とその後ろに山が見えます。覗き込みはまったくありません。
風呂は内湯と露天が別々になっていて、内湯は24時間入浴可能ですが、露天は11時までで、いずれも男女交代はありません。まず露天に行ってみました。この露天は2・3年前に新しく造られたばかりのものです。脱衣所と檜の一人くらいしか入れなさそうな湯船が二つ、さらに外に三角形の3人くらい入れるかなという湯船があります。木々が前面にあり、落ち着いて入れますが、やや後方には旅館の建物があり、たくさんの猫が寝そべっていました。この露天の最大の謎は竹炭の入った大きな袋が湯口の下に沈められていることで、「ふつう温泉に竹炭をいれるか〜?」と思いました。脱衣所には竹炭の効用が大きく張り出されていて、「水のクラスターを細かく」、「塩素を吸着」とかいう内容が書かれていました。後から作られたことといい、竹炭といい、これは温泉ではないのでは?と思って、フロントの女性に聞いてみたのですが、温泉だということです。どうも腑に落ちません。お湯は流し切りではなく循環で、ほんのかすかですが塩素臭も感じられました。ただ、ほとんど気にならないレベルだと思います。
大浴場には大きな温泉成分表が張ってあり、これは温泉にまちがいないと思いますが、ここにも謎が、湯面が非常に静かなのです。湯面より上からの流し込みがまったくなく、湯の中からの流し込みだと思われますが、それにしては湯面がおとなしすぎて、どこから入れているのか良く分かりません。初めは、普通の家庭のお風呂のように、その日の分を入れてそれっきりかと思いましたが、湯船の中を一周してお湯の流れ込んでいる口を発見し、やれやれと安心しました。お湯も汚れてはおらず、湯船は旅館の規模にしてはわりと広めでしょうか。この内湯は塩素臭は感じませんでしたが、成分分析表によると源泉の泉温は34度ですので、沸かしています。浴場内はわりと暗めですが、そんなにいやな感じはしません。ここには露天は併設されていない訳ですが、大きなガラス窓の向こうには、人工的に造られた庭のダイナミックな造型が見えます。といっても、大きく広がる庭ではなくて、ほんの坪庭で見晴らしは全く無いのですが、そのロケーションを逆手に取っているという感じでしょうか。ここは部屋数もそれほど多くはないのですが、やはり宿泊客の目的は温泉ではなく、東照宮などの観光にあるらしく、露天も大浴場もほとんど他の人には会いませんでした。

食事は、夕食は部屋で、朝食は食堂になります。夕食も修学旅行生が多い影響か、大きな四角いお盆(?)に、火を使う鍋物をふくめて一人分の食事がぎっしりと並べられ、ご飯とおすまし以外は最初にすべて出されてしまいます。献立表が置かれ、高さの異なる器と器とが重なり合っています。最初、このコンパクトにまとめられた料理を見たとき、うわぁ、これだけ?と思いましたが、食べてみると意外とボリュームはありました。メインとなるのはぶたのつくねの入ったチゲ鍋で、なぜここでチゲ鍋が出るのかは謎です。仲居さんによると、外国人(欧米系)などは辛すぎて食べないということでした。日光は外国人の観光客も非常に多いところですので、だったら、もっと考えては?と感じました。おいしいとは思いますが、何でここまで来てこんな辛いものをたべなきゃいけないの?という気がします。揚げ物も初めから出されていますが、これはまだ温かいうちに食べられました。まずくはないのですが、穴子の天麩羅などは、天麩羅屋のおいしい穴子に比べると大分ちがうことは否めません。後は日光お約束の湯葉の煮物、湯葉刺しなど。また焼物はしめじのキス包みという変わったものでした。その他は、小付、まぐろとイカのオクラかけなどでそれぞれ、それなりにおいしいとは思いますが特筆すべきものはありません。また温物替わりということで、うどんが出ます。食前酒はなく、デザートらしきものは、焼き物の魚のお皿の横にゼリーのようなものが置かれていました。揚げ物や、うどん、チゲ鍋などのせいもあったのか、初め見た時の印象より結構お腹いっぱいになりました。朝食は一般的な朝定食ですが、品数はある程度あります。魚は鮭で、卵料理は卵焼きでした。最近よく目にするしらすおろしがあり、海苔、サラダとそれに揚げ出し豆腐がついていました。夕食と同じように、特にこれというものはありませんが、全体的においしいもので、満足できました。
この清晃苑は時期によっては、インターネットプランでかなり安く宿泊でき、しかも内容は変わらないそうです。今回の通常プランでも割と安い方ですから、このインターネットプランで行くと、結構お値打ち感のある宿になると思います。何より、東照宮に5分ですから、この辺をじっくり見たいという人には手ごろな宿でしょう。ただ、温泉的には、書いたように?なところがあり、また、修学旅行生を受け入れる宿であるということも気になるところです。

 
翌日はバスで最奥の日光湯元まで向かいました。奥日光にも観光場所はたくさんあり、奥日光に連泊していろいろ回ってみようという計画です。「湯元板屋」は料金の段階はいろいろあるみたいですが、食事の内容はみな同じだということでした。泊まってみると、この企画は部屋が洋室になることと、食事処での部屋が大部屋になるということぐらいしか違わず、料金差ほど違いがないように感じられました。もちろん、他の部屋に実際に泊まったわけではないので、正確なところは分かりません。バスを降りると、板屋のフロントの男性がバス停に待っていました。この前、湯元を歩いた時に板屋の場所と、バス停から近いということが分かっていましたので、今回は送迎の連絡はしていなかったのですが、連絡していなくても大丈夫だということで、送迎の車で向かうことにしました。結局この車には他の客は乗りませんでしたから、連絡がなくても、一応バスの時間には迎えに出ているということですね。板屋は高級旅館ではありませんが、湯元の旅館の中ではそれなりの建物です。ただ、フロントなどは、ごくあっさりした造りのように感じました。いつもはチェックイン時間前に着くようにしているのですが、東照宮などを見てから行きましたので、この日も3時を過ぎており、すぐに案内してもらえました。フロントの脇にはJTBのサービス部門のブロンズでできたライオン像が置かれており、へぇーと思いました。部屋は312号室で、四階建ての三階です。廊下はブルーを基調としたカーペットが敷かれ、いい雰囲気です。ただ、エレベーターを降りたすぐ横の窓から、前の建物の、屋根が破れた無残な姿が見えるのが何とも興ざめです。これは別に板屋の責任ではないのですが、この窓は温泉街の旅館が視野の多くを占めていて、特にすばらしい眺望があるという訳でもないので、ブラインドで目隠しをするなどの工夫があってもいいのではないでしょうか。エレベーターに乗るときに、この廃屋が必ず目に飛び込んできて、あまりいい感じがしません。ぼくの部屋は洋室ですから、したがってお茶出しはありません。しかし、浴衣のサイズの気づかいはありました。ただ、残念なことに、次の日に置かれていた浴衣はまた元のサイズに戻ってしまっていました。いままでの経験から言っても、連泊した場合、浴衣のサイズが元にもどってしまうということは結構ありました。申し送りがちゃんと出来るか出来ないかという点が、ほんのささいなことですが旅館のサービスとしては大きな分かれ目だと思います。部屋はやや狭目でドアを開けるとすぐ左がクローゼットです。右がユニットの洗面、バス、トイレになっていますが、ここはそれほど狭くはないのであまりユニットであることは気になりませんでした。その先の右側にシングルベッド二つと、左にドレッサーが据えられ、部屋の端にソファが置かれています。ベッド以外はそれぞれ小さめで、狭いところに、なるべく一通りのものを揃えましたという感じです。ゆとりのない分、例えばクローゼットのドアを開けだ状態で部屋のドアを開けるとぶつかってしまうなどの欠点はありますが、小さいながらもソファ用のしゃれたテーブルがあったり、気を遣っている様子はうかがわれ好感が持てました。部屋は新しい感じで快適です。ベッドとはいえ、ここはベッドの上には夏掛け布団が掛けられていました。部屋に冷房はなく扇風機が置かれていましたが、大浴場で会った人に聞いてみると、普通の和室にも冷房はないようです。標高は約1500メートルあり、窓にはしっかりした網戸が完備され、窓を開ければ涼しい風が入ってきます。扇風機も使いませんでした。うちわも置いてあり風流な感じです。また、ベッドの棚には小さい裁縫セットが置かれ、それなりに気を遣っていることを感じさせました。窓からは、やはり先ほどの廃屋とその他の旅館の建物が見え、少し遠めですが覗き込みがあります。ただ、ベッドに寝転がると、青空や遠くの山しか見えずいい気分です。全体的に、料金から考えても、あとはトイレがシャワートイレだったら、小さいながらも言うことなし、といった感じで、納得できる部屋でした。
大浴場は同じ階の三階にあり、男女別で交代はなく、24時間入浴できます。露天は大浴場を抜けていく形です。ただ、露天はそうでもないのですが、脱衣所と内湯が少し古くなっているかなという印象を受けました。特に脱衣所は廊下などの割と華やかな感じに比べると地味目で、もう少しおしゃれな感じにしてもいいのではないかと思いました。3階といっても、斜面に立っているので、大浴場はそれほど広くはなく、ごく普通といった感じで、シャンプーなども普通のものだけでした。浴槽は6名くらいでしょうか。流し込みの量をしぼっているせいか、湯元のお湯にしては内湯も露天も温めでした。内湯のお湯は浴槽からはあふれていないようでしたが、循環している感じでもなく、このへんはよく分かりません。朝のうちは露天も内湯もグリーンがかった白濁ですが、お昼頃を過ぎると露天はブルーがかった白濁に変わるのに気づきました。これは連泊のおかげです。
露天は三階ですが、建物は斜面に面しているので、屋上やベランダにあるわけではありません。露天の浴槽は90度に曲がったカギ型になっており、その曲がっているあたりに、2メートル四方くらいの屋根がしつらえられています。雨の時はこの中に、夜空はこの外にという全天候型の露天です。いつもはしばらく温まると、湯船の縁に出て風に吹かれるというのがぼくの入浴パターンなのですが、湯温が低いせいもあるとは思いますが、少し外に出るだけでサーっと冷えてしまいます。ここのお湯は、引くのがかなり早いお湯ですね。この露天は周りを囲まれていますが、割とゆったりして、高いところに木や山が見えますので、開放感はかなりあると思います。緑を見ながらゆっくり入っていられる露天です。二日目、そんな感じで景色を眺めながら入っていたら、突然風もないのに、木々の枝や葉が大きくゆれました。その後、その近くの木の柵の上に猿の親子が計3匹現れて、ゆっくり毛づくろいを始めました。距離は結構あるので、向こうはまったくこちらを気にする様子もなく、20分あまりもそうしていたでしょうか。その前に戦場ヶ原近くの林の中で鹿の親子をゆっくり見られたことといい、温泉の中からこんな様子を眺められるとは、さすがに奥日光という気がしました。湯上がり処には冷水と麦茶が用意され、麦茶は色はちょっと薄めだったものの味はしっかりしていておいしいものでした。また旅館によっては、夜遅くなどは飲めなくなっていたりしますが、これはいつでも飲めるようになっていて、紙コップも麦茶も切れていたということはありませんでした。

食事は朝夕とも食事処で、二日間同じ席でした。熱々を出すためか、食事時間は6時と指定されます。食事処はいくつかの個室と大部屋で構成されていて、安い企画の客は大部屋になるようです。一品一品運んでくる形で、熱々が食べられます。二日間とも食前酒は山ぶどう酒で、山ぶどう酒はアルコールのメニューの中にもあり、自家製のもののようです。初めの日はお品書きはありませんでしたが、二日目はちゃんとついていました。周りを見回しても、どうやら二日目の方が基本的なメニューで、初日の方が連泊用のメニューなのだと思われました。二日ともちゃんと説明がありましたが、やはりお品書きがないと、記憶があいまいになってしまいますが、初日のメインは鴨肉の紙鍋で滋味あふれるものでした。ただ、初日の刺身は湯葉刺しだけで、魚がありません。湯葉刺しはとてもおいしいとは思いましたが、魚がない割には湯葉刺しの量もそれほど多いとは言えず、ちょっと淋しく物足りない感じがしました。切り身の焼き魚はおいしいのですが、魚が何だったか、ちょっと思い出せません。この切り身もやはり小ぶりです。あとは、からすみをタネにのせた寿司。このからすみは非常においしかったですね。お約束の湯葉の煮物は巻いた形の湯葉が二つも入っていて、味付けもなかなかです。それから、舞茸、茗荷、インゲンの天麩羅。これもあつあつが食べられ、文句ありません。ただ、この天麩羅はおいしいのですが、特筆すべきところはないように感じられました。このほかにきのこを炒めたものや、わさび系の前菜、お椀は白魚の入ったものが出ました。食前酒は山ぶどう酒。デザートは巨峰です。宿によっては巨峰はほんの少しで、ほんとに何粒かというところもありますが、ここはたっぷりと出てきます。氷をうまく使った盛り合わせになっていました。二日目の夕飯は、先に書いたようにお品書きがついています。昨日の鴨鍋の替わりに牛たたきのサラダ。そして、今日は刺身はちゃんとした魚で鮪と目鯛。この鮪はおいしいものでした。焼物の魚は鮎の塩焼きでこれも焼き立てでとても満足できます。前日と同様一品一品運ばれてきます。煮物は賀茂茄子で、揚げ物はきすと青唐、ヤングコーンでした。おいしいのですが、やはり昨日と同様特別にというところまでは行っていません。この日はお吸い物に湯葉が入っているだけで、湯葉は他にはありませんでした。ぼくが考えたようにこの日が正規の食事だとすると、名物の湯葉が少ない感じです。果たしてぼくの想像が正しいのか、その辺は少しひっかかりました。その他には、木の芽寿司、山桃などを盛り合わせた前菜、じゅんさいのポン酢、きのこの小鉢など。ごはんは山椒ごはんで、二日目のデザートはメロンでした。一日目、二日目を通して、全体的に食事はおいしく満足できますが、特にこれという飛びぬけたものがない点や、一品ずつの量が少なめであること。運ぶペースが割と速くて、45分くらいですべて運び終わってしまうこと。仲居さんの数が少なく、運び方に余裕が感じられないことなどが、気になりました。ただし、このおいしさ、内容で、一品一品運ぶところなど、今回のぼくの宿泊した料金からみたら、非常にコストパフォーマンスは高いといえます。料金の高い和室の宿泊でも内容は変わらないということでしたが、それでも満足度は高いと思います。ぼくにとってはやや少なめの印象でしたが、特別食い意地の張った女性以外には十分でしょう。

朝食は、一般の朝定食より品数が多い感じです。初日の魚は鯖の塩焼きで、とてもおいしい揚げ出し豆腐、たらことかまぼこ、味がついたイカ刺しのようなもの、あとは定番のしらすおろし、納豆、サラダといったところで、必ず最初におかゆが一杯つきます。たまご系のものがなかったのが少し淋しかったのですが、全体的に満足できる朝食で言うことはありません。また、この日はデザートにグレープフルーツがつきました。周りにはこの食事を食べている人は少なく、やはり夕食同様、こちらは連泊用という感じでした。二日目の朝食が一般的で、まず、やはりおかゆが出て、魚は鮭。この鮭は外側はしっかり焼けていても、中はしっとりして、カリカリの皮がとてもおいしいという絶品のものでした。イカの塩辛、塩昆布、甘い梅干、冷奴、ぜんまいの煮物。それと今日はたまご系のものとして茶碗蒸しが出ました。あとは海苔、サラダというところで、デザートはスイカでした。昨日と同じように非常に満足感のある朝食です。ようやく奥日光で納得できる宿を見つけることができたという感じです。特に企画によっては非常に安くとまることができるというのが大きな魅力です。しかも、この料金の割には夕食は一品出しで、朝食も十分なものです。湯上がりどころに冷水や麦茶もあり、夕食後は冷水が部屋にも用意されます。文句のつけどころがあまりない宿ですが、大浴場と脱衣所のリニューアル、申し送りということの徹底、の二点に気をつければさらに良くなると思われます。

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川俣温泉の「ふくよ館」へ行ってきました。川俣温泉へは去年の夏に行ったきりで、一年経ちますし、瀬戸合峡もまた見てみたいと思っていたのです。「ふくよ館」に電話してみると空いていれば一人もOKで、料金も2000円ぐらいの差だということです。ちょうどいい機会だと、泊まってくることにしました。ところが、瀬戸合峡のところに新道ができたという情報がもたらされ、危惧していたのですが、やはり素晴らしい景観の瀬戸合峡の手前で、バスはトンネル方向へ向かい、バスからは瀬戸合峡を全く見ることが出来なくなっていました。ぼくの川俣好きの半分は瀬戸合峡の素晴らしさゆえだったので、本当にがっかりしました。そのトンネルのおかげで時間は10分くらいは短縮されたのでしょうか。3時前にバスはふくよ館前に着きました。チェックインは2時ということらしいので、すぐに部屋に案内してもらえます。案内は女将さんで、さすがに、大浴場、非常口などそつのない案内でした。荷物も持ってくれ、お茶出し、浴衣の気づかいもありました。ここは5階建てで、フロントは4階、一つ上がって5階の506号室が案内された部屋でした。ここは全部で24室あり、この日はお客さんが5・6組しかいなかったので、一人旅でも上階のいい部屋へ案内してくれた模様です。506号室は、ドアを開けるとすぐ右手に洗面台が置いてあります。左手がトイレで、洋式トイレでしたが、シャワーでも温座でもありませんでした。ふすまを開けて中に入ると12畳の和室とその先に広縁という造りです。右側に床の間があるのですが、何も置かれておらず殺風景です。花はドアを開けてすぐのところに置かれていましたが、造花でした。平成二年に改築したということで、全体的に新しい感じは残っていますが、トイレの内装はちょっと雑で、また部屋の畳も?でした。広縁の先にあるガラス窓には網戸が入っていて涼風を入れることができます。窓の外には小高い木々と見下ろした感じで鬼怒川の流れを見ることができます。覗き込みはまったくありません。部屋には金庫もティッシュもありましたが、テレビ欄のコピーはなかったようです。ぼくはテレビを全く見ないので構わないのですが、テレビを見たい人には不親切ですね。いい部屋の割には、今一の感じは免れません。
 
お風呂は24時間OKです。内湯は男女別で入れ替えはありません。ただ、露天は混浴のために女性の専用時間が設けられ、夜・朝とも7時〜9時が女性の専用時間になっています。お風呂へはエレベーターで一階まで降り、突き当りまで歩いて、そこからさらに地下道のような階段を何段か降りていきます。そこにまず内湯があります。この男女別の内湯は、それほど広くなく、また脱衣所もうなぎの寝床式で、全然ぱっとしません。うなぎの寝床の先に湯殿があり、やはり素っ気無い感じです。洗い場は四か所で、湯船は5・6人入れる程度。小さめの窓から外が見えます。流しきりのお湯が湯船の低くなった一か所から流れ出ています。湯口には、接近して流れる口が二か所あり、一つから熱いお湯が、もう一つから、水、あるいは温めのお湯が流れ出ています。お湯は適温でした。ただ、今までは他の川俣のお湯では感じなかったのですが(気がつかなかっただけかもしれませんが)、入っていて、汗がだらだら流れてくるというお湯ではないですね。出た後もすーっと引いていくという感じです。混浴の露天はこの内湯の前を通って、さらに階段を降りて行きます。五・六か所踊り場がある感じで、全部で100段近くあったように思います。しかもかなり急です、お年寄りにはお勧めできません。ただ、この階段は外に面した形になっておらず、閉鎖された感じになっているので、夏の蛾の時期にも蛾の大群の中を突撃していく感じにはならないと思います。階段を降りたところにいきなり脱衣箱があり、外に出て露天へと向かう形になっています。脱衣箱の正面にガラス戸があり、ここにも小さな浴室があります。これがどうも「岩風呂」と呼ばれているもののようです。ただ、やはり雰囲気は今一です。屋根や周りが波板で囲まれ明るいのですが、殺風景で寒々しい感じがします。ここは一分間の記念入湯にとどめました。露天は、ドアを出て木の階段を5・6段降りた先に川に面してあります。ただ、川に面しているとは言っても、少し距離があります。パンフレットで見た感じよりも広めで12人くらいは入れそうです。川の反対側の一番奥まったところに湯口があり、ここから熱いお湯が流れ出しています。お湯の出はあまり強くなく、露天はこの流し込むお湯の量で湯温を調節しているようです。それにしてはちょっと温めで、もう少し流す量を多くしてもいいのではないかと感じました。また、最初は3時半頃に入ったのですが、この時は湯面が湯船の縁から15センチくらい低いところにあって、湯船からまったく流れ出しがなく、まさか循環じゃないよな〜、と思っていたら、じりじりと湯面が上がってきたようで、夜に入った時は湯船の端から川へと流れ出していました。流れ出す前は枯葉や虫の死骸などがけっこう溜まった感じになっていましたが、流れ出した後は、きれいな気持ちのいいお風呂でした。川の向こう岸の木々や、川の流れを眺めてゆっくりできる露天です。湯温はやや温めですが、湯口に近づけはだんだん熱くなります。
食事は夜は部屋、朝は1階の食事処です。時間は夜が6時ごろ、朝は8時ごろと指定されます。お品書きはありませんが、客が少なかったせいか、後で女将さんが説明に回って来てくれました。岩魚が出ましたが、お約束の塩焼きではなく、ホイルでくるんだみそ焼きでした。この味噌はふくよ館で作っている味噌だそうで、趣向が変わっていたせいもあってか、かなりおいしいと感じました。味噌自体もおいしいものでした。肉のものは栗山牛の石焼でした。やわらかくておいしいのですがほとんど赤身で、しょせん、米沢牛などと比べるのは無理です。でも、これはこれで悪くはありません。鍋物は鴨肉ときのこの鍋で、これも悪くありません。今挙げた三つは、すべてテーブルで火を使うもので、熱々が食べられます。ただし、出来上がりの時間が重なってしまうと慌てなければなりません。その他には、高野豆腐のふくませ煮や、やまうどの煮物がありましたが、これは特筆すべきところはありません。舞茸の茶碗蒸しはおいしいものでした。これは初めから出されていたものでしたが、熱々を食べられました。刺身は鯉の洗いと生湯葉で、鯉の洗いは臭みもなく新鮮でおいしいものです。女将さんの打ったそばが出され、まずまずおいしいと思います。その他にはトコロテンとデザートのメロンが初めから出されていて、後から鯉こくと、ばんだい餅、ご飯が運ばれてきます。後から、と言っても30分くらいで、まずビール中心のぼくは、まだほとんどおかずに手がついていない状態です。鯉こくは澄まし汁で、鯉こくの汁としては珍しいのではないでしょうか。絶品とまではいきませんが、かなりおいしいもので、考えてみると鯉こくでまずかったことはあまりないんじゃないかと思えてきました。ばんだい餅というのはこのへんの名物で、お米をつぶして餅のようにしたもののようです。持ってきた仲居さんは熱いうちにどうぞ、と言っていましたが、まだろくにおかずも食べていないうちに、お餅を食べる訳にはいきません。最後に食べましたが、冷えていても十分おいしいものでした。全体的に、トコロテンの位置付けがよく分からない気がしました。デザートだったら、メロンと一緒に端に置けばいいと思うのですが、料理の真ん中に堂々と置かれていました。料理は、特に料理長という人はおらず、女将さんと従業員とで作っているそうで、この手造りの味には十分満足できました。全体的においしい料理です。朝食もおいしいもので、ハムエッグ、鮭の焼物、けんちん汁とやはり、夕食と同様、テーブルで火を使うものが三つありました。すべて温かく食べられるのでいいと思います。鮭もけんちん汁も、なかなかの味です。サラダもおいしいと思いました。納豆はパックごと出されましたが、薬味の入った器が別に用意されこちらに納豆を移して食べます。いつもの習慣で、薬味をパックに移して、パックをかき混ぜそうになりました。習慣とはこわいものです。その他には、海苔、山菜二種、花豆、が出され、デザートにグレープフルーツまで、ついていました。この朝食も十分に満足できるものでした。

ここは女将さんがさっぱりした気さくな感じの人。ご主人は非常に腰の低い人です。この日は残念ながら会えませんでしたが、若主人が夜のラウンジでカクテルを作っているそうです。家族だけでやっている訳ではないのですが、全体的にアットホームな感じを受けました。部屋の造花、畳、冷水、湯上がり所の冷水、大浴場の脱衣所、などまだまだ欠点をあげるときりがなくなりそうですが、でも、ここは二人で宿泊した場合、さらにHPの特典クーポンを持っていけばかなり割安で泊まることができます。その料金で12品以上ある食事をおいしく食べることができます。ぼくは、若主人のいる時にもう一度訪れてみたいと思いました。

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一人旅で中川温泉の「河鹿荘」へ行ってきました。バス停を降り、歩いていくとどうやらこの「河鹿荘」は中川温泉の中でも奥に(といっても二三分程度ですが)位置しているようでした。大きな看板が向こうの、建物の上に掲げられていて、「あれ? 割と大きいじゃん」と思ってその建物を見ると「は、廃墟!!」という感じで、結局本当の入り口はさらに奥にあったのですが、その建物がもともと「河鹿荘」のものだったのか、それともただ看板を置いてあっただけなのかは不明です。小さな川を渡ると、河鹿荘の玄関は駐車場を兼ねた四角い広めの前庭の奥にあります。ただのガラス戸というような古い宿によくある玄関ではなく、一応それらしい感じの玄関になっています。横に歓迎板が置かれ、ぼくともう一組の名前が書かれていました。どうやら、今日の宿泊は二組だけのようです。玄関を開けて入ると、ロビーにはどうもここの関係者らしい立ち寄りの家族連れがいましたが、宿の人はいないようです。勝手に上がって、少し待っていると、旅館の人が出てきました。3時がチェックインの時間で、すでに3時半近くになっているので部屋にはすぐに入れるのですが、宿の人によると、ちょうどお姐さんが出ちゃって、私は足が悪いので申し訳ないが部屋に案内できないということです。部屋の名前と位置を教えてもらって、自分で部屋をさがして入りました。部屋は「あおい」という名で階段を上がってすぐの、玄関の上に当たる部屋でした。一畳弱の入口にスリッパをぬぐと、踏み込みはなくいきなり座敷の昔ながらのタイプで、座敷の手前の左に洗面所とその奥にトイレがあります。部屋は六畳でその先に三畳大の広縁。窓からは玄関前の前庭や向こうの小高い山が見えます。ところどころ紅葉に彩られ、景色としてはいい景色です。覗き込みはありません。ふと見ると、金庫はあるものの100円の有料金庫で、昔はみんなこうだったんだろうな、と思わせられましたが、金庫自体はそんなに古い感じはしませんでした。テレビの横を見ると、何と84年製のシールが張られ、もちろんリモコンはありません。ただし、この日立の14型のテレビはまだまだよく映っていました。エアコンはあるのですが、何と張り紙で「つけるのは6時半から、11時まで」と制限されています。部屋の中自体は古くてぼろぼろという訳ではなく、きちんと手入れがされていて、障子などもきれいに張られていました。ただ、広縁を歩くとぶかぶかしていて、部屋全体に古さを感じさせる匂いがただよっています(比ゆ的な意味ではなくて実際に)。もちろん、花、ティッシュ、カミソリ、バスタオルはありません。ただ、温座やシャワーではないものの洋式のトイレがついていて、洗面も独立してあったのは良かったと思います。迎え菓子は魚の形をした最中でした。製造は地元のようでしたが、あまり特徴のないものでした。部屋にはお絞りが用意してあり、急須にはすでにお茶っ葉が入っていました。記憶ですが、確かここには茶筒というものがなく、食後のお茶もすべて急須にすでに入っていたと思います。
部屋で着替えているところにフロントから電話があり、今日は二組だからお風呂にゆっくり入ってくださいということでした。確か、HPには露天があるとのことだったので、露天がありますよね、と聞いたら、「今日はキャンセルしました」とのことで、その言葉の使い方や、客が少ないから露天にお湯を入れないということに、口あんぐりです。でも、雨もふっていたし、どうせ大したことはないだろうと、あまり怒る気持ちにはなりませんでした。ただ、後で内湯に入りに行った時に見てみても、どこにも露天の表示がないのです。外に離れてあるのかと食事の時に仲居さんに聞いてみると、内湯のそばにあるが、カギをかけているということでした。それにしても表示自体がないということは、使わない時のために表示が取り外せるようになっているということでしょうか。とりあえず、その内湯に入ろうと行ってみると、男湯から女性の声が聞こえるではありませんか。どうも二組しかいないので、一組が一緒に入っているようです。では30分ほどしたら交替しましょう、ということにして、ぼくはまず女湯の方に入りに行きました。小さめのタイル貼りの湯船でしたが、古い宿で小さい湯船だから、循環じゃないんじゃないかとそれだけを期待したのですが、しっかりと吸い込み口がついていました。温度はやや高めでしたが、お湯はきれいで気持ちのいいものでした。今のうちに体を洗ってしまおうと、カランの水を出そうとしたら、「み、水の蛇口からお湯が出てくる!!」ということで、いつまで経っても水になりません。ま、熱湯ではないのでシャワーなどは離して浴びればちょっと熱いものの大丈夫かな、という感じです。脱衣所には平成9年の分析書が張ってあって、PHは10.1とありました。アルカリ度が高い割にはそれほどぬるっとした感じではありませんが、温まるお湯ではあったと思います。交替した男湯は女湯より広めになっています。こちらも吸い込み口がありましたが、少しずつは外に流れ出しているようです。仲居さんは「外にあふれているから」と自慢そうに言ってましたので、いくらかは半循環に近いのかもしれません。男女とも塩素臭はまったくしませんでした。この男湯のお湯は適温で、極楽、極楽状態になりました。ただ、この内風呂は女湯も男湯も外の景色がまったく見えない、閉鎖的な状態です。確か、窓はあったと思うのですが、曇りガラスで、しかもすぐそばに何かがあるのか、暗くなっている感じだったと記憶しています。お風呂の時間は6時半から夜の10半までですが、この日は夜の食事の時に何時ごろに入り終わるか聞かれ、10時頃と答えたのですが、その時間にしっかりお湯を止めに来ました。

食事は朝夕とも部屋で、朝夕ともおしぼりがちゃんとついていました。お品書きはなく、説明は少しだけありました。夜のメインとなるものはいのしし鍋。これはテーブルで火を使うもので、おいしかったのですがおいしいのはほとんどこれだけでした。海老、舞茸、さつま芋のてんぷらと鱒の塩焼きは両方とも冷蔵庫に入れておいたの?というくらい冷え切っていました。天ぷらは、抹茶塩の味の方が印象に残ってしまいそうです。前菜は川海老、ムール外のマヨネーズ掛け、エシャーレット、筋子で、刺身はサーモンです。そのほか、煮物、もずくなどです。デザートは柿でこの柿はおいしいものでした。朝食は一般的な朝定食で、夕飯に比べ、朝食はいくらかましかなという感じです。小田原から持って来たという鯵の開きはかなりおいしいもので、これが唯一高く評価できるものです。卵焼きもまあまあですが、味噌汁は辛すぎました。あと、サラダ、海苔、かまぼこ、とろろ芋は普通でした。ここはおそるべき宿ですね。とにかく見事なくらい、お客のことを考えるという姿勢がありません。お客が宿に合わせるように、強要する旅館です。ただ、そういうことを気にしないお客さんもいるようで、常連さんが多いということでした。また、ぼくがHPを見た人も、料金に見合っていると評価していました。慣れてしまえば、それほど気にならないのかもしれません。また、付け加えておきますが、旅館の人たちは決して悪意に満ちている訳ではなく、仲居さん(女将さんという説もある?)も結構人のよさそうな人で、見送りもちゃんと玄関へ出てきてくれ、雨の心配をしてくれました。とはいえ、ぼくにとっては一人でゆっくりお風呂に入ることができ、お湯が極楽状態だっただけが救いの宿であったことには変わりありません。

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一月の下旬に四万に行ってきました。「地酒の宿中村屋」、ここは「中村屋」という酒屋さんが経営していて少し前までは「民宿中村屋」といっていたようです。勝手が分からないので、店の中に入って行き「今日、予約したものですが・・」と告げると、「店の横を入ったところに入り口があります」ということでした。店を出て、見ると、横には狭い路地があり、すぐに入り口が見つかりました。「地酒の宿 中村屋」という大きな縦書きの看板が玄関の横に立てかけられており、しかし、この看板の写真を撮ろうとしても、後ろに下がれないので、全部入れることができません。ガラス戸を開け、中に入ります。靴を脱ぎ、げた箱に入れていると女将さんが顔を出して、すぐに部屋へ案内してくれました。もともと民宿ですので、荷物をもったりはしてくれません。全部で部屋は5室あり、すべて二階です。二階の廊下を挟んで右側の川方向に大きな部屋が2室、左側の通り方向に小さな部屋が3室あるようです。ただ、大きな部屋は廊下に面したふすまが入り口で、スリッパは廊下に脱ぐ形になります。小さな部屋は入り口がドアで、中にスリッパを脱ぐ形になります。ぼくが通された部屋は3号室で通りに面した一番奥の部屋でした。入口のドアを開けると3分の2畳大の板の間があって、そこにスリッパを脱ぎ、6畳の和室に入ります。ぎちぎちの6畳ではなく、1.5畳幅の床の間があり、そこにテレビやティッシュが置かれているので、狭さは感じません。ヒーターとエアコンがあり、エアコンは使っていないようですが、ヒーターが良く利いて寒くはありません。金庫やインターフォンはなく、貴重品袋もありませんが、ここは案内と食事以外は従業員の立ち入りはないのでそれでいいのかもしれません。部屋のコーナーに衣服掛けが置いてあるだけで、洋服入れはありません。ちゃんと浴衣の気づかいはありました。案内の時に、身長を見て、合った浴衣を持ってくる様子です。バスタオルはついておらず、タオルと歯ブラシだけでした。窓からは、四万の通りや前の商店が見えます。商店の二階の部屋からの覗き込みはあるのですが、あまり窓は開かない様子なので、気にせずに障子を開けっ放しにしていました。部屋にはトイレ、洗面はありませんが、廊下に出てすぐ外にトイレがあり、二つのうち、一つはシャワートイレで便座クリーナーまでついている清潔なものです。ただ、このトイレは男女共用です。風呂場の前のトイレもシャワートイレでした。迎え菓子は花豆の甘納豆3粒入りのものですが、製造元はでん六でした。お茶入れもありません。ま、民宿ですから当然なのかもしれません。部屋は歩くとみしみしいって、窓側が少し沈んでいる感じがするのですが、畳や障子も新しく、よく手入れされていて快適です。広縁や椅子などはありません。布団は押入れから出して自分で敷く形で、食事は部屋出し、食べ終わった食器などは、廊下に置いてある大きな台のところに自分で持っていく方式です。また、冷蔵庫は、部屋にはありませんが、廊下に大きいガラスケース形の共用のものがあって何でも冷やせます。
お風呂は玄関の脇の狭い階段から下に降りていきます。下に降りていくといっても地下ではなく、土地自体がそのような形になっているので、窓もちゃんとあります。浴場は家族風呂が二つあり、空いている方に勝手に入ってかぎを掛けるという形で共同のものはありません。それぞれ貸し切り制で、一回30分〜40分という注意書きが書いてあります。この点がゆっくりお風呂に入っていたい僕にとっては大きなネックですが、この日はぼくを含め、二組しか宿泊者がいなかったので、入りたいときにお風呂に入れないということはありませんでした。ただ、二つのうちの一つに露天がついており、そちらに入りっぱなしという訳にはいかないのが難点です。内湯は24時間OKで、露天は6時〜24時までということでした。でもこの露天は、内湯からつながっているタイプなので、内湯に入れるのなら、露天にも行けることになります。聞きませんでしたが、もしかすると露天のお湯だけを止めてしまうのかもしれません。内湯は二つとも同じ、三角形に近い形で割と狭く二人でもちょっとキツイかなという感じです。洗い場はそれぞれ二つでシャワーも付いています。また、真珠入り墨シャンプーやつぶ塩までも置いてあり、かなりの充実ぶりです。露天は、いかにも後から造りましたという構造で、背をかがめて内湯の端から窓ガラスを開けて外に出て行きます。頭をぶつけないように気をつけなければなりません。外に出ると、スペースは割りに広く、たる風呂にお湯がたたえられています。若い者が作ったと親父さんが言っていました。木はカナダのものだそうです。周りに木の囲いがめぐらされていますが、窓や扉が造られていて、開けようと思えば開けることができます。ただ、見えるのは駐車場です。露天は二三人は入れそうです。もちろん内湯も露天も流しきりで、内湯はやや熱め、露天はやや温めです。やはり四万のお湯らしくとても温まるお湯だと思いました。10軒くらいの宿が共同で山の方からお湯を引いているということでした。二つの内湯には両方ともコップが置いてありました。湯上がりの麦茶や冷水はありませんが、二階の上がり口に洗面があり、ここの水は冷たくてとてもおいしいものでした。
食事は、夕食・朝食とも部屋で、一人旅でグループやカップルと一緒になるのが嫌な人にはうってつけです。夕食はお品書きも説明なく、女将さんというよりもおばちゃんという感じですが、置いてすぐに行ってしまいます。後で、廊下に出しやすいように大きな四角いお盆の上に、最初からほとんど並べられ、しばらくしてからご飯と味噌汁とお新香、デザートを持ってくるという形でした。しばらくしてといっても、ほんの十分くらいですが、ごはんが冷めてしまったということはありませんでした。この日は二組しか客がいなかったのですが、最初はもう一組の、カップルの方に集中して出したようでした。それで、こちらは少し冷めてしまったかもしれません。ただ、天ぷらや岩魚の焼物はまだ温かく、温かいものを食べさせようという気持ちは感じられました。ここのメインはなぜか馬刺しなのですが、信州から取り寄せたものということで、かなりおいしい馬刺しでした。脂も乗っていていいものを使っていると思います。その他には豚肉の入った鍋、また天麩羅は6種盛りぐらいのボリュームのあるもので、海老はほっくりしていておいしく、いかもかなり柔らかく非常においしいものでした。その他にもふきのとうなどの山菜があり、この天麩羅も全体的に評価できます。岩魚の横には可愛らしいいなごの佃煮が三つ置かれていて、いなごは初めてだったと思いますが、思ったよりずっとおいしいものでした。ごはんは一人用のお釜で炊き上げられていておいしかったのですが、おかずが品数は多くはないものの、それぞれがボリュームがあったせいか、一杯だけしか食べませんでした。つまり、ご飯でお腹を満たすという必要はなかったくらいボリュームもあったということです。デザートはいちごでこれもおいしいものでした。
朝食は、温泉卵、のり、鮭の焼物、塩辛、サラダという一般的な朝定食ですが、質量とも普通の旅館と比べても遜色ないものです。サラダの中にパイナップルが入っていて、これがおいしかったですね。味噌汁は蜆でこれもたっぷり入っていました。ごはんは昨晩と同じ、お釜で一つ一つ炊き上げたもので、朝は全部食べました。
女将さんは気のいいおばちゃんという感じで、話好きそうな感じがしますが、意外にあまり話しに乗ってくる感じではありませんでした。ご主人は、気難しそうな感じだったのですが、逆に、話してみると話し好きそうです。酒屋さんがやっているということで、お酒は原価ですから、これは酒好きにとってはかなりの魅力では、と思いました。アドマチック天国の四万温泉の回で第一位に登場したということとか、その前には、露天風呂を造る様子をやはりテレビで取り上げられたということを話してくれました。それ以来やはりお客さんが多くなっているそうです。宿の名前こそ若い者(息子さん)の意見で「地酒の宿 中村屋」にしたけれど、親父さんは民宿という意識でやっていきたいということでした。とにかく、安くてうまく、お風呂も狭いが泉質は折り紙付きで、いい宿を見つけたという感じです。

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川治温泉の「お宿東山閣」へ行ってきました。川治温泉はすべての旅館が1時チェックインでアウトが11時と、のんびりできるように設定されています。また、旅館の宿泊客は4時までなら他のどの旅館のお風呂にも入浴できるという特典があり、黒川のようにある程度温泉全体がまとまっている感じがします。ただ、地域の広がりがなく、特にこれといった特徴のある店や風景もないので、黒川のように発展するのは無理だと断言できてしまう点が悲しいところです。
それはさておき、そのチェックイン時間をすでに過ぎている、1時45分頃に到着しました。「お宿」というように、昔の宿屋の雰囲気を持たせたロビーで昆布茶を出され、さっそく部屋へ案内してくれます。ただ、案内係りは荷物を一切持たず、お茶を出した時に説明した食事処についての紙など、すべてを客に持たせます。エレベーターを降りると、その脇の廊下に浴衣がサイズ別に積まれ、ここから好きに浴衣を取ってください、何回着替えても構いません、という説明です。部屋でのお茶出しも当然ありません。どうやら、ここは料金を安く設定するために、特定の部屋係りをおかずその面でのサービスをカットする方式のようです。
通されたのは、妻籠宿と名付けられた最上階の507号室でした。鉄のドアを開けると、やや広めの踏み込みがあり、板の間に上がってすぐ正面が和室のふすまです。右手に直線の廊下があり、突き当たりが洗面所で、これは廊下の幅しかありませんから、狭く感じます。洗面所の右手前にバスのドアが、それよりも入り口側にトイレのドアが並んでいます。トイレはシャワートイレでした。ふすまを開けると10畳の和室になっており、左手奥に一畳大の床の間がありますが花はありませんでした。テレビやインターフォンを置くスペースは広めで、しっかり区切られていました。和室の、窓に向かって右端は一畳と三分の一くらい余計に奥まっていて、そこに簡素な文机が置かれているという変わった造りでした。一段、降りる感じの広縁は広めで、全部合わせると6畳分くらいはありそうな感じです。カーペット敷きで右奥の一郭には掘りごたつが置かれていました。迎え菓子は胡麻まんじゅうで、まずくはありませんが、これといったインパクトもありません。金庫、冷蔵庫、ティッシュはあります。広くてきれいで、この値段としてはかなりいい部屋だと思われます。ただし、障子に小さな穴が二つ開いていたり、壁紙に割れ目があったりと、細かいところまでは行き届いていないようです。窓の景色は近くの家々と遠くの小高い丘という感じで、高い建物がないので、覗き込みもありません。
お風呂は、昼間の掃除の時間を除いて、24時間OKということでした。男女交代もありません。大浴場は窓は大きく取られているものの、地形の関係で光があまり入らないため、全体的に暗めですが、そんなに悪い印象ではありません。小ぢんまり落ち着いた感じの内湯で、6人ぐらいは入れるでしょうか。オレンジ系ソープ・シャンプーと、炭系のものとが交互に置かれていました。
露天は大浴場から出る形です。湯舟が二段になっていて、上はやや熱め、下は温めで、確か冬期は上段にお入りくださいというような立て札があった気がします。といっても、下段も入れない温度ではありません。ゆっくりしたい人にはよさそうです。露天の敷地全体は、割と狭いのですが、敷地を最大限、湯舟として利用しているので、けっこうな人数が入れそうです。周りを囲まれていて見晴らしはなく、後ろの小高いところに竹林があって、見下ろされている感じがします。内湯は湯舟からお湯があふれ、流しきりと思われますが、分析表によると、一部循環と書いてあるので、これは多分お湯の出の激しかった露天の方がそうだったのかもしれないと思われます。ただし、露天は塩素臭はほとんどしなかったと思いますが、なんとなくするような瞬間がなくはなかったという微妙なところです。お湯は湯の花はなく、なめてみると甘味があっておいしい味でした。
食事は、朝夕とも大浴場へ向かう手前にある食事処でいただきます。大きな字の、年寄りにも見やすいといった感じの、その代わりあまり情緒を感じさせないお品書きが二人に一枚ついてきます。ただ、このお品書きは、料理長の名前はあるものの旅館名が入っていないのが変な感じがしました。また、説明もしっかりありました。食前酒はなく、先付けの柔らか蒟蒻、前菜の筍の土佐煮、味噌牛蒡、海鮮サラダなどが並べられていますが、すべて二人分が一つのお皿にまとめられ、こちらで取り分けるという形です。お凌ぎに特製山奥寿司というものが出され、寿司とは名付けられていますが、四種類出されるうちで、種が魚なのは八汐鱒だけで、それも非常に薄く切られていて、後は湯葉とふきのとう、茗荷というものです。決してまずくはないのですが、酢飯の比率が高いのが、気になります。後出しで煮物の下野煮と、焼き物は牛ヒレステーキか虹鱒塩焼きのどちらかお好みのもの、揚げ物の天麩羅が湯葉包みと春野菜、といったものが出され、吸い物はけんちん汁で、デザートは白玉ぜんざいでした。ここの特徴はお替わりができるものがあるということで、山奥寿司と煮物とけんちんじるの三種類がそうでした。お替わりが出切るという意味では、絶対に満腹になるとはいえます。また、味も全体的にまずいというものはありません。ただ、特別評価できるというものもありません。お替わりを除くと、量や素材の質の両方とも満足できない感じがしました。豚ちげはおいしかったのですが、このお鍋も普通より小さなもののような気がしました。特に焼き物で肉か魚かを選択というのは納得が行きません。多分、野郎二人旅ということで、料金をケチって最低料金の企画にしたのが裏目に出たのだと思います。もう少し高い企画だとまた違うのだろうと思います。この夕食は全体的にヘルシー過ぎという印象です。ヘルシー万歳という人にとってはいいとは思いますが、普通の旅館料理の量と質を期待する人はがっかりするでしょう。また、ほとんどの品が二人盛りで、一人ずつ取り分けなければならないというのもぼくにとってはわずらわしいものでした。
朝食も同じ場所です。席には、笹かまぼこ、卵焼き、ひじきと生揚げの煮物とお新香が、やはり真ん中にちょっぴり二人前ずつ用意され、後はバイキング方式で、ハムなどいくつかのおかずを持ってくることができます。ただし、味はごくふつうでバイキングの品数はかなり少なめです。特に、おかずの中に朝食の定番の焼き魚がなかったのにはがっかりしました。全体的に、あまり評価できない朝食だったと言えます。全体的に、サービスに関して、省略できるところは省略して宿泊代を安く設定しようという戦略がはっきり見える旅館だと言えます。湯上がりの水もあり、特筆すべきはカラオケが無料で利用できるなど、こういったサービスには気が配られています。部屋もシャワートイレになっているなど、値段の割には結構いいと思いますが、障子の小さな破れがあったりして、細かいところまでは行き届いていません。食事は特にまずいということは無いのですが、いかにも料金に見合ったという感じで、へぇー、この料金でという驚きは全くありません。料金優先で量や素材の質を求めず、とりあえず温泉のある旅館でゆっくりしたいというお年寄りなどにはいいかもしれませんが、さあ、旅館に泊まるぞ、と料理に期待していく人には失望感を与えるのではないでしょうか。お風呂は、品質の表示も明記されていて、それなりに満足できると思いますが、できれば露天も一部循環ではなく完全流し切りであったらと思いました。

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最近は一泊の旅が多くなり、一泊というと旅費を使うのがもったいなくなって、近場ですますのが僕の常です。ということで、一月は、多分家からの一番の近場である湯河原に行ってきました。湯河原には何回も行っているのですが、今回は奥湯河原にある加満田にしてみました。ここは「ふきや」などとちがい、JTBの評価を見てみてもそれほど高くはないのですが、やはり湯河原の老舗であることは確かであり、それなりに気になる宿であったのです。
加満田へは奥湯河原行きのバスの終点で降ります。終点といっても、湯河原駅からは30分もかかりません。バスを降りると先の道が三つに分かれており、中央がメインの道路で右が海石榴へいく道、そして左の細い道が加満田へと続く道です。しばらく歩くと、道の右側に一間ばかりの引き戸の玄関と加満田という名の入ったほんの小さな看板が見えてきます。こけおどしの大きな門などは一切なく、見落としそうなほどの小さな看板が玄関の脇の壁にぽつんとつけられているだけで、本当にひっそりとたたずんでいるという感じです。
正式なインの時間は3時で、今回はJTBの企画ものだったので、2時ということでしたが、着いたのはそれよりもさらに一時間早い1時でした。とりあえず、荷物を預けてその辺を歩いてみようということで、玄関を開けました。玄関は開いたのですが、声をかけても人の気配がしません。5分ぐらいそうしていたでしょうか。しょうがないから、電話でもかけてみるかと、携帯を取り出したところに、ばたばたと足音がして男性の従業員が顔を出しました。今日お世話になるものですが・・、と声をかけても表情が変わりません。普通は、まだ部屋の用意ができていませんので・・、などと困惑したような顔になるところなのですが。かといって、部屋に上げる気配もありません。は、それで?と馬鹿にした感じもしないのですが、ただ話をうかがうという様子で向こうのリアクションがありません。近所を散歩するからと、とりあえず予定通りに荷物を預け、周辺をぶらぶらしてちょうど2時頃に戻ってきました。後でわかりましたが、ここはロビーと言うべきものはないのですが、それでは部屋に入れない場合は旅館自体にも入れないのかというとそうではなくて、その玄関脇の小部屋が待合室ともいうべき部屋になっているらしいのです。廊下を歩くときにちらっと見て気づいただけなので、詳しいことは分かりませんが、とにかく狭い部屋であることは確かでしょう。ぼくは初めその部屋は玄関横にあることからして、帳場かとばかり思っていたのですが、帳場は廊下の真ん中あたりに位置しているようでした。
とにかく、戻ってくると、今度はちゃんと待っていた感じで、荷物はすでに部屋に運ばれており、すぐに部屋に案内されました。部屋はまんりょうという、帳場の上あたりに位置する木造の部屋です。ドアを開けて中に入るとやや広めの入り口に二畳の踏み込みがあります。踏み込みの襖が直進方向と左方向の二方向に立てられていて、直進方向に進むと広めの洗面室に入ります。この洗面室の中にさらにトイレがあり、その先の正面が浴室になっています。洗面台は広めでトイレはシャワートイレです。風呂も広々としていて、石造りの床や壁。そして、隅に木の浴槽が据えられています。このお風呂は温泉で、細長い窓もありなかなかよい風呂場でした。今回はこのお風呂には入らなかったのですが、とりあえずお湯を溜めて、入ってみればよかったと後で思いました。踏み込みを左に上がると、六畳の次の間と、右の洗面や浴室に沿って八畳の主室が並んでいるという造りになっています。主室には二畳ちょっとの立派な床の間がついていて、花の咲いた梅の枝と八朔のような柑橘系の実が活けられていました。ただ、インターフォンが置かれ、右側の違い棚の前にテレビが据えられていたのはいつもながら残念なことでした。広縁は全体で四畳くらいの広さがあり、小さ目なガラステーブルと椅子が二脚置かれていました。外の景色は林と小山で覗き込みはなく、非常に落ち着いた印象を受けます。ここは奥湯河原とはいえ、旅館の立ち並ぶメインの道路に面しているわけではなく、左に折れた閑静な小道に面しているので、車の行き来もあまりありません。部屋に金庫はなく、貴重品袋に入れてフロントに預けることになります。冷蔵庫は機械式ではなく、仲居さんがチェックする形です。迎え菓子は「みどり饅頭」といううぐいす餡の珍しいもので、おいしく頂きました。浴衣のサイズは、こちらに聞くことなく、仲居さんが判断して適切なものを持ってきてくれます。ちゃんと自分と女房とにぴったりのサイズを持ってきたのには感心しました。この時は、まず30代の男性が部屋に案内してくれ、年配の仲居さんがお茶を入れてくれ、さらに年配の男性が宿帳を持ってやってくるという三段構えになっていて、こんなことは初めてでした。この男性は恰幅がよくて、ご主人かと思いましたが仲居さんに聞いたら違うようです。宿帳を持ってきた時、一緒に貴重品袋を持ってきていたのですが、何にも言わずに持って帰ってしまい、その時は金庫もあるのかと思って、こちらも特に何も言わなかったのですが、結局、後で帳場に貴重品を持って行くことになりました。また、部屋にカギが置いてないのに気づいて仲居さんに聞くと、カギは帳場にあります、というよく分からない返事でした。カギを取りに行って、この分だと会計は部屋でというパターンかと思い、ついでに聞いてみると、その恰幅のいい男性がそうである旨の返事をしました。ところが、次の朝、貴重品を取りに行ったら、その男性にその場で飲み物代と税金を請求されました。今回はJTBの企画で行ったためほとんどクーポンで済んでしまったので、結局そうなったのかも知れませんが、この男性の対応は最後まで???でした。別に悪い人ではなく、応対は丁寧なんですが・・。
お風呂は、夜中の4時に男女交替です。朝、露天は入らなかったので、露天も交替したかは定かではありません。多分、交替はないのでなないかという気がします。ここは、最初男性用の大浴場だけが、本館?の二階にあり、女性用と男女の露天は一階のフロントの前を通って行く、新しい建物の一郭に固まっています。当然こちらは後から作ったものでしょう。二階にある方は、古い小さめの内湯で4・5人ぐらいが定員という感じでしょうか。古さは感じさせますが、外に面した壁の一面がガラス窓になっているので明るく、気持ちのいいお風呂です。ぼくの部屋の近くなので、窓から見える景色も同じように落ち着いています。風呂場のぼくの使ったカランにはシャワーがなかったので、すべてシャワーがついていないのかと思ったら、付いているのもあったようです。ただ、女房によると二つのうちの一つはシャワーからお湯が出なかったとのことでした。内湯は適温で、湯の花はなく、匂いも特に印象にありません。ただ、ちょっとぬるっとした感じがするような気がします。大浴場はこのお風呂も、最初女性用のお風呂も浴槽の内から温泉が注ぎ込まれる形なので、味を見ることはできませんでした。女性用の方は、新しく広めで木の浴槽です。ただ、風呂場の中はけっこう湯けむりがこもっていました。脱衣所も明るくきれいになっています。ここは大浴場とは別に、露天が独立した形になっています。露天は二・三人程度の大きさの岩風呂です。湯口からはかなりのお湯が勢いよく注ぎ込まれ、右側はジャグジーになっていて泡が吹き上げているため、狭さと湯口のお湯、ジャグジーの泡で落ち着かない気分になりました。露天のお湯は少し熱めで、湯口からの出具合を考えると循環ではないかと思ってしまいますが、ここは確か源泉を複数所有している宿だったと記憶しているので、あるいは循環ではないかもしれません。ただ、この岩風呂もあふれ出しのないタイプです。露天からは前の小山と露天用の小さな庭が眺められます。
食事は朝も夜も部屋に運ばれます。特にこちらから質問しなければ、説明はありません。支度ができましたということで席に着くと、すでに食前酒以外に八品ほど並んでいます。食前酒は梅酒、お造りはまぐろと甘えびとカンパチ? 前菜は、ごぼうの上にメレンゲ?を載せて雪に見立てたもの、あん肝?のペーストを梅型に抜いたもの、とろろ昆布をかずのこにかぶせたものを寿司の種にしたもの、煮こごりを使ったものの四点でした。さらに、木くらげの酢の物、小鰭の寿司、舞茸を使った蒸し物のあんかけ、数の子、鯵のたたき、椀物、以上が最初に並べられていました。しばらくすると、女将さんが庭で採れたずいきの小皿を持って挨拶に来てくれました。ここは先代の女将がかなり高齢まで務め、だからその後を継いだこの女将は先代の孫嫁に当たるそうです。孫嫁と言ってももう中年の女性です。さらにその後で、風呂吹き大根、何だったか忘れてしまいましたが、切り身魚の焼き物、次は洋皿になりますということで待っていたら、オコゼの揚げ物がやってきました。最後のご飯は赤出しと蟹雑炊、デザートはミカンの実をほぐしたものをヨーグルトに乗せたもので、女将さんの手作りだということでした。全体的に、特にこれはという飛びぬけたものはありませんでしたが、平均的にレベルは高くおいしいものでした。特に魚好きの人には申し分のないラインナップだったと思います。見事なくらいに肉類が使われていないのがこの宿のこだわりなのでしょうか。肉がほしい人にはちょっと残念な献立です。
朝は一般的、典型的な朝定食です。かまぼことわさび漬け、海苔の佃煮、卵焼き、わらびの煮物、湯豆腐、鯵の開きなどで、中でも海苔の佃煮と鯵の開きは絶品でした。ただ、いかんせんどれも塩気のあるご飯の進むものばかり。言い換えるとご飯がないと食べられないものばかりで、とにかく、ご飯は進みます。こういったタイプの朝食が好きな、ご飯好きな人にはたまらないでしょうが、その点は一考の余地があるのではないでしょうか。
チェックアウトの時は、この後湯河原の梅林に向かう予定の我々に、女将さんが梅林で飲める甘酒のチケットを渡してくれようと走り回ったり、番頭さんが、大声で「まんりょう、お発ち」などと、係の仲居さんに我々の出発を知らせたりして、何か昔の旅館にタイムスリップした感じがしました。この宿は、かつて多くの作家が作品を書くために滞在した宿として有名で、「カンヅメ」という言葉もここで生まれたそうです。ただ、最近は時代の流れで、カンヅメになって旅館で作品を書く作家もいなくなり、この宿もそういった作家に使われることもなくなってきたとのことでした。ただ、ぼくはそのような作家に愛される、好ましい雰囲気のようなものは確かに感じました。大げさでなく静かに心落ち着けることができる宿という気がして、何か心惹かれるものがあるのです。女将さんはいい人で、一生懸命にやっている様子に非常に好感がもてたのですが、前記のようにチェックイン時の従業員の対応が今ひとつだったのと、帳場の男性に関しては疑問点が多かったこと。さらに、新館?が新しく作られているが、この静かな雰囲気にはあまり合っていない感じがしたことなど、気になることは結構あります。また、この日は日曜であったにもかかわらず、それほど宿泊客がいなかったようで、この先、この宿はどんな方針で生き残っていくのかと、少し心配になりました。湯河原の伝統ある宿として、がんばってほしいと願わずにはいられません。

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谷川温泉の別邸仙寿庵へ行ってきました。
ここは以前からJTBの満足度90点以上の宿の常連であり、しかも、その宿の中でも特別に評価の高い部門を多く持つところで、ぼくにとっては是非行きたい宿の一つでした。去年、会社を自主退社した理由と同じ理由で、旅館も行きたいところへ行けるうちに行くという方針に変更し、やっとこの旅館も視野に入ってきました(それでも、まだかなり高額の旅館には抵抗がありますが)。と言っても、この仙寿庵も同系列の「旅館たにがわ」との連泊プランというのを発見し、だったらこの金額もそれなりにリーズナブルなのかもという、やはり料金にこだわっての宿泊でした。だから、あるいは、通常のプランとは食事の内容などは異なるところがあるかもしれません。
連泊プランの初日は「旅館たにがわ」で、この宿についてはまた日を改めて書きたいと思います(?)。連泊プランの場合は、仙寿庵には、用意さえできれば12時頃にも入れ、その時間までたにがわで休んでいることができるようです。本当にゆっくりできるように考えられているプランですが、ぼくたちは昼食を水上の名物になっているらしい焼きカレーの店に12時で予約をしていたため、その店で食事が終わり、仙寿庵に迎えの車を頼んだのは12時40分くらいだったでしょうか。すぐに迎えの車が来てくれましたが、仙寿庵の車は車体に宿名が入っていないようで、また、迎えのお兄さんも宿屋の従業員らしき服装をしていませんでしたので、すぐには分かりませんでした。
迎えのワゴンは小さめですが、よくあるベンチシート型の座席ではなく、一つ一つが独立したゆったりしている座席で、さすがと思わせました。走り出してから迎えのお兄さんに「焼きカレー、どうでした?」と聞かれました。迎えの車で運転手さんから話しかけられることはあまりありません。「おいしかったですよ」というところから、会話がずっと続いて、「仙寿庵はたにがわの息子さんがやってるんでしょう?」と女房が聞くと「実は、わたしです」とその運転をしていたお兄さんが答えました。お兄さんというより、もう少し年齢は行っていると思いますが、まさに雰囲気はお兄さんそのもの、気取りも気負いもない本当に自然体の人で、これにはびっくりしました。よくこんなふうに迎えの運転をするのかということは聞きそびれましたが、チェックインの時の様子から見ても、ここ仙寿庵は従業員を多く抱え、また、いわゆる高級旅館の主人であっても、一般従業員と同じように立ち働く宿のようです。
主人と一緒だったせいもあるのかも、という気がしないでもありませんが、宿に入るまでに出会った従業員はみな非常に丁寧な挨拶をしてくれました。玄関は迎え用の畳の間のみで、フロントやロビーが見通せない造りになっているのは海石榴などと同様で、そこでは男性の従業員が畳に手をついて見事なお辞儀で迎えてくれました。外で迎えてくれた人も男性で、ここは男性の従業員が多いのかなという印象でしたが、その後の迎え菓子の応対や部屋への案内は女性でした。
ロビーでは柿を使った迎え菓子と、飲み物が出されます。飲み物は6種類あり、内容は全然覚えていないのですが、一口ビールとホットワインという言葉が耳に残り、ホットワインを頼みました。口当たりがよく、おいしいものでした。なお、連泊だったので干し柿を使った迎え菓子でしたが、通常は前日に「たにがわ」で出された「アロエ饅頭」が出されるようです。
しばらくこちらがゆっくりしたのを見計らって、いいタイミングで部屋に案内してくれました。建物全体が細長く延びた造りになっていて、ロビーから、外の庭に面した廊下に沿い、途中の大浴場の前を通って、歩いていきます。この廊下が素晴らしいんです。建物全体をぐるりと取り巻いているわけではないので、回廊という言葉はふさわしくないのでしょうが、まさに回廊と呼びたいような曲線の廊下で、天井が非常に高く、また、その高い左の壁が全面ガラス張りで、外は雪景色一色です。雪景色と言っても、雪が1メートル以上は積もっていて、雪が消えたらどのような景色になるのか想像もつきません。この廊下は途中で天井が低くなるところがありますが、その手前でエレベーターに乗り、2階へと案内されました。
部屋は202号室の「風月」という部屋。和風の引き戸を開けさらに模様の入った鉄製のドアを開けると部屋玄関と畳が三枚敷かれた前室とも言えるようなところがあります。ここの左端は飲用の蛇口とシンク、保温用プレート、ポットなどが並んだ長細い水屋スペースになっています。特筆すべきはこの長細いスペースを挟んで端と端にトイレが二つ備えられていることです。今までにトイレが二つある部屋に宿泊したことはなかったと思います。ぼくたちは二人でしたので、それぞれのトイレを決め、好きな時に相手に遠慮することなくゆったりと入れました。もちろん乾燥付きのシャワートイレで、中に手洗いもついており、ハンドタオルが何枚も用意されていました。
この細長いスペースとは直角の位置、つまり上がり口の正面にある木の引き戸を開けるとそこは洗面所でここも洗面用のシンクが二つ取られた広いスペースになっています。その右側に部屋付きの露天があります。湯船自体は何とか二人は入れるくらいの狭いものですが、石造りのもので、また、どこからも覗かれる心配も無く、庭の景色を堪能しながらお湯に入ることができます。このお湯はもちろん温泉で、常に流れ続けています。自分で水でうすめたりの温度調整はできないのですが、適温で快適でした。また、お湯の温度が不満ならいつでもフロントに電話してくださいとのことでした。
洗面所と露天に挟まれて、ガラスドアで仕切られたシャワールーム程度の洗い場のスペースが取られ、寒い季節でも外の空気にさらされることなく体が洗えるように配慮されています。
さて、この露天と壁を隔てて隣り合わせる形、つまり、洗面所に向かって右手に12.5畳の和室が位置しています。露天とは反対側の壁に1.5畳大の床の間がしつらえられ、もちろん、花が活けられていました。部屋では今度はえんどう豆?の餡を使った饅頭が部屋の保温用プレートで温められて出されます。もちろん、浴衣のサイズの気づかいはあり、浴衣も二枚仕度されています。また、枕や布団の素材や固さの好みを書き入れる紙が用意され、そのリクエストに合わせて布団を敷いてくれるようです。さらに、ここは部屋のキーも二つ用意されていますので、誰に遠慮も無く自由にお湯に入りに出かけ、帰ってくることができます。
部屋と露天の境の壁には腰窓?があり、そこの障子を開けると、露天の様子を部屋から見ることができます。和室の先には4畳くらいの広縁があり、イスが二脚置かれていました。この部屋は角部屋ではないのですが、仙寿庵の造りは「たにがわ」と同じように、それぞれの部屋の角が鍵方に少しずつせり出している造りらしく、擬似角部屋という感じになっています。「たにがわ」の場合はそれぞれの部屋のスペースに余裕がないため、そのせり出している広縁部分に行くと、左右の部屋の広縁部分が覗けてしまうのですが、この仙寿庵はかなりゆったりとスペースを取っているおかげで、他の部屋から覗かれる心配は全くありません。しかもせり出した部分がすべてガラス窓になっていて、見通しのいいことこの上ありません。
この窓の外に見えるのはただただ雪の庭と目の前の雪の小山、さらに遠くの雪山、しかも人工物がまったく目に入りません。こんなに遠くまで見渡せるのに、近くから遠くまで人工物が一切目に入らないのは奇跡的に思えました。部屋に関しては広縁がもう少し余裕があればよかったということと、クローゼットがやや狭目で部屋の割には貧弱だったという不満のみで、後はかなり満足度の高い部屋でした。雪景色のせいもあったのかもしれませんが、連泊してゆったりすれば、ずいぶんと癒される部屋だと思いました。暖房も絶妙で暖房されていることを意識させません。
書いたように、風呂は一階の廊下の途中にあり、男女は夜の食事時間中に交代になりますが、24時間入浴可能です。脱衣所にはハンドタオルとバスタオルが用意され、部屋から持ち出す必要はありません。それぞれ、内風呂とそこから出て行く露天とで構成されています。内風呂は明るく気持ちのいいものですが、木の浴槽は思いのほか小さいもので、5.6人という感じでしょうか。最初女性用の浴槽は小判型のものでこちらはもう少し小さい気がします。各部屋に露天が備えられているとはいえ、18室という全体の客室数からいうと少し小さめでしょうか。
お湯ははっきりしたことは分かりませんが、半循環という気がします。露天は石の湯船でできていて、底にごつごつした石が敷きつめられています。雰囲気があると言えば言えますが、ぼくはただ歩きにくいだけという気がしました。内湯は適温なのですが、露天は温めで、最初女性用の露天には湯温が低い旨の表示がありました。低いといっても風邪を引いてしまうほどのことはなく、露天にはよくある程度の低さの温度で特に問題はありません。
露天はもう少し川に近いのかと思っていたのですが、意外に離れていて、最初の男性用の露天からは川の流れが望めませんでした。ただ、これは雪がかなり積もっていたせいなのも知れません。目に入るものは雪山と雪をかぶった木々だけです。大浴場も露天も十分満足できるものだと思いますが、思い描いていたほどではなかった感じです。
廊下から浴場へのコーナーが一部ベンチになっているくらいで、湯上りどころというのは特になく、それぞれ脱衣所にしゃれた冷水機に入った冷水が用意されています。また、朝はロビーで牛乳かオレンジジュースを飲むことができます。
庭を横切ってしばらく歩くと読書室があるということで、せっかくだからと湯上りに長靴に履き替えて行ってみました。とにかく雪がかなり積もっていて歩きにくく、行きは大分遠く感じたのですが、独立した一つのガラス張りの建物が読書室として用意されています。長靴を脱ぎ中に入ると、暖炉には薪がくべられ、CDが流れていました。部屋の端に立つと薪の煙がかなり煙たいのですが、暖炉の前に用意されたイスに座るとそれほどでもありません。テーブルに置かれたみかんを一つゆっくりとつまんでいると、ゆったりとしたいい気分になります。ぼくが来たのと入れ違いに前客が出て行ったので、入浴後、部屋で休んでいた女房をインターフォンで呼び出し、次の客が来るまで、しばらく二人ではぜる炎を見つめながら、のんびりした時間を過ごしました。
こうして、夕食前にこの仙寿庵はかなり理想に近い宿という印象が強まっていきました。あとは食事のみです。
仙寿庵は部屋食ではなく、一階の廊下の内側のスペースにある個室の食事処でいただきます。食事の用意ができると従業員が部屋まで迎えに来てくれます。
案内された食事処の障子が開けられて、夜空に満月が輝いていました。
テーブルにはまず食前酒と突き出しの山菜三種が出されました。食前酒は薬草5種を使った薬草酒でクセのかなり強いものです。これは料理長のこだわりらしく、前日の「たにがわ」でもまったく同じものが出されました。ちなみに、料理長は「たにがわ」も「仙寿庵」も同じ人物です。この薬草酒は梅酒などの甘口系食前酒とは対極にあるもので、万人向けの食前酒とは言えません。ぼくは、全く構わないのですが、女房は口をつけませんでした。
突き出しは蕨浸し、うるいとのびる蕗の唐味噌ソース、たらのめこごみ胡麻掛けという、山菜好きにはたまらないようなものです。唐味噌や胡麻もほんの少ししか添えられておらず、山菜そのものの味を最大限味わってもらおうという意図だと思われます。京懐石にもこのように素材を素直にそのまま置いたような前菜があるようですが、工夫を凝らして驚かせ楽しませてくれる前菜の好きなぼくにとっては、いきなり失望させられるようなものでした。味も、そうこれが山菜の味ですよね、という程度の印象しかありませんでした。続いて椀盛りが河豚の白子と焼目餅に筍や菜の花が入ったお吸い物です。白子や筍、菜の花などおいしかったのですが、お餅が大きくて他のものとのバランスが悪いことと、なぜここにお餅が入っているのか疑問に思いました。
続いてお造りがとらふぐの薄造りとかじき鮪、北寄貝、羽太(ハタ)の盛り合わせ。とらふぐとは意外なものが出されました。みんなそれなりにおいしいとは思いますが、これはというものはありませんでした。続いての焼き物は山女の塩焼きか唐揚げ、または甘鯛の若狭焼きか魴幽庵焼きの四種類から選べるようになっています。昨日のたにがわで岩魚の唐揚げを食べたのでこの日はぼくが魴幽庵焼き、女房が甘鯛の若狭焼きにしてみました。魴幽庵焼き(この魚はまな鰹のことのようです)は味がはっきりしていておいしかったのですが、甘鯛の若狭焼きの方は今一つという感じでした。続いての湯葉の鱶鰭包み蒸しはおいしくいただきました。次はこだわりの増田牛ロース(ヒレとのどちらかを選ぶことができます)。おいしいのですが、もう少しボリュームが欲しかったなという感じ。続いてお口直しのシャーベットがあり、強肴の三種類のきのこの鍋物。これも最初の山菜と同じように、最大限素材の持ち味を生かそうということか、味付けがごくごく控え目に感じられました。おいしいとは思いますが、飛びぬけた感じはなく、やはり、これがきのこの味ですよね、という印象でした。
さて、このきのこの鍋はテーブルの横に備えられた炭火で作るのですが、ちょうどいい感じに出来上がった頃、フォアグラと鮑の入った海老芋のグラタンと、メインディッシュの鮪大トロを冬トリュフと下仁田ネギのソテーと共にという何だか急に洋食っぽいネーミングのお皿が運ばれてきました。それまでは、最初の方は快調だったものの、料理と料理の間が間延びして眠たくなってしまうほど間が空いた部分もあり、そうかと思うと、最後の最後で料理が三品同時に重なってしまいました。
ぼくがグラタン好きのこともあって、今回の食事の中ではこのグラタンが一番おいしいものでした。メインディッシュは大仰な名前がついていますが、それほどとりたてて特徴のある感じは受けませんでした。食事は白いご飯と、群馬の郷土料理のちぎりっこというすいとんのようなお椀物で、デザートはフルーツゼリーをデコポンのくりぬいた皮の中で固めたものでした。間延びした部分もあり、全部食べ終わるまで結局3時間はかかったと思います。全体には地のものの素材を生かそうとしている料理だと思いますが、逆にそのおいしさを伝えきれていない、驚きのあまりない料理に思えました。特に、料理を出すリズムの悪さはどうにもいただけません。
部屋に帰ると、夜食のちまきと、冷蔵庫にはブルーベリーが用意され、ハーブティーが置かれていました。ちまきは保温用プレートで温めて食べられるようにセットされていて、この辺の心遣いは申し分ありません。
朝食も夕食と同じ場所でした。サラダ、胡麻入りざる豆腐、それと、ひじき、きゃらぶき(?)、海苔の佃煮、海老の四つがそれぞれレンゲ状の容器に入ったもの、イカソーメンと湯葉、温泉卵、筍や椎茸などの煮物、テーブル横の炭火の部分には鯵の開きと雑穀のお餅が三種置かれています。さらには、非常においしかったブルーベリーのジュース(焼き魚とジュースは他のものとの選択可だったと思います)。そして、オレンジとキーウイのデザートにヨーグルトというラインナップでした。おかゆかご飯が選べます。全体としてはまずくはないと思いますが、特にこれといったインパクトもなく、鯵の開きは厚みのある立派な鯵でしたが、味の方は塩が強すぎて、過去に食べたおいしい鯵に比べるとかなり見劣りしました。また、ここでもぼくにとってはお餅が余計なものに思えました。
チェックアウトの際には廊下で会った仲居さんが荷物を持ってくれました。また、必ず一人は見送りに外まで出てきてくれるようです。来た時と同じゆったりしたワゴンで水上の駅まで送ってもらいました。
最初にここはJTBの「満足度90点以上の宿の常連であり、しかも、その宿の中でも特別に評価の高い部門を多く持つところ」と書きました。ただ、この印象はかなり前のことで最近の情報は知らなかったのです。この文章を書きながら、念のためネットで調べてみたところ、最新の「満足度90点以上の宿」にはこの仙寿庵は入っていませんでした。「85点以上の宿」にも入っていませんでした。どの部分の評価が下がったのか分かりませんが、ぼくはこの食事に関するものがかなり大きいのではないかと思います。
聞くところによると、書いたように「たにがわ」と「仙寿庵」の料理長は同じ人で、この二つを行ったり来たりしているとのことです。ぼくの少ない経験から言うと、一人の料理長が二つの宿を掛け持ちしているというのはあまりいい結果につながらないように思います。ここも、前泊の「たにがわ」の料理は料金が安いのにということもあって、なかなかの印象だったのに、食前酒や、魚の選択方式、河豚を使った料理、ちぎりっこなど似たようなメニューの部分もあったせいか、仙寿庵の方はかなり印象が悪くなってしまいました。過去の黒川荘、山荘天水の連泊の時も(この二つも料理長は同じです)山荘天水はとても良かったのに、黒川荘はパワー不足でした。二つの宿を掛け持ちすると、どちらか一つは、どうもぱっとしないようです。湯田中のよろづやは同じ宿なのに、本館と松籟荘とでは料理長がちがうと聞きました。このように競うあう方が良い結果につながる気がします。
お風呂は想像していたほど広くはありませんでしたが、それでも広々とした景色を眺めながらゆっくりと入れることには変わりはなく、先に書いたように食事前までは、ついに理想の宿を見つけたかと思いました。特にのんびりと寛がせてくれるという点ではかなりのものがあると思います。おそらく正式のチェックイン・チェックアウト時間も変わりがないのではないかと思いますが、このプランでは13:00イン、11:00アウトでした。16:00インの妙見石原荘などに比べて大違い、3時間も早く入ることができます。また、遠くまで人工物が何一つ目に入らない部屋の景色、少しでも寛げるようにという布団やホットプレートなど様々な心遣い、二つあるキーやトイレ、洗面シンクを含めて部屋のあり方全体が、そして読書室、天井の高い曲面の全面ガラス張りの廊下などがすべて「寛ぎ」という一点に向かって収斂していくように思えました。もちろん、大浴場や個室の食事処もそれに一役買っています。
働いている従業員は若い人が多く、確かに、お客さんとの何気ない会話から、姉妹館の山翠楼に150名もの団体予約を獲得したという海石榴の仲居さんのような剛の者こそいませんが、みんな明るく活気があり気持ちのいい対応でした。食事を担当してくれた仲居さんに聞くと、サービスのあり方など従業員みんなで話し合ってやっているとのことです。
それにしても、あまりに食事が残念すぎました。満足度90点上の常連だったころ、特に評価の高い点として挙げられていたのは、部屋、風呂、サービスの三点でした。この時も食事は他の事項に比べて、評価されていませんでした。
料理長はこの6年代わっていないそうです。旅館、料理長とも、この間何か客の身になって満足度を上げるような努力をしたのでしょうか。こだわりの料理が、自分のこだわりの料理になってはいないでしょうか。
飾らない、本当に自然体の若主人もとてもいいとは思いますが、決断すべき時には決断が必要だと思います。今でも寛げる宿であることは間違いありません。料理の満足度を上げ、どうか理想の宿にしてほしい、なってほしいと願ってやみません。

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大体7月というのは遠出しないで割と近いところで過ごすことが多いのですが、今年も近場で過ごすことにしました。一泊目はJTBでもまあ評判がよく、料金もそれほどは高くないということで以前から気になっていた東伊豆の宿「竹林庵みずの」で、ここは昨年の秋に海石榴に泊まる時の前泊のところとして考えたのですが、その時はあまり日がなかったせいか電話をした時にはすべて満室でした。今回はもう3か月くらい前から7月は近場で、二泊しかできないということが分かっていたので、ではまず「竹林庵みずの」、ということで電話をしてみました。やはり人気の宿らしく、その段階で確か半分くらいは部屋が埋まっていたような気がします。ここは見晴らしの良い温泉露天風呂が付いている部屋が多く、その割には料金がそれほど高くないということが人気の一つの理由だと思うのですが、部屋付きの露天風呂にあまり魅力は感じないぼくは、あえて露天風呂付ではない部屋を希望しました。その時に聞いたのですが、どの部屋も料理は全く同じだということでした。またHPを見ると相模湾を望む景色も、それぞれの部屋から見ることができるようです。二回電話をしたのですが、その二回とも受け答えは非常に丁寧で好感が持てました。
「竹林庵みずの」は網代から迎えの車で7分くらいでしょうか。インの時間は2時なのですが、網代駅には1時ちょっと過ぎに着きました。前もって到着時間を連絡していたので、インにはまだ大分時間があるのに、改札口の正面に、ちゃんと車のドアを開けて待っていてくれました。
宿に着くと車から仲居さんがすべての荷物を受け取り、さらに別の仲居さんへとその荷物が受け継がれ、靴を脱いだと思ったら、あれよあれよという間に部屋へ案内されました。ここもすべて畳廊下に素足で、最近このような宿が増えてきたのでしょうか。それともたまたまぼくが最近連続して泊まっただけなのでしょうか。ただ、周囲に植物が多いためか、あるいは梅雨の時期と言うこともあるでしょうが、畳がじとっとした感じがします。
部屋は全部で12室あり、通されたのは庭園風呂に行く通路の手前の階段を上がって、すぐの「暁」という部屋でした。引き戸を開けると、玄関と踏み込みが合わせて畳三畳分あり、すぐ右に冷蔵庫が置かれています。そのさらに右手にシンクの二面ある洗面台があり、奥がシャワートイレになっています。踏み込みの正面が15畳の和室で、そのままさらに四畳大の畳の広縁へと続いていて、広縁には重厚な椅子が置かれています。広縁のガラス窓からさらにベランダに出られるようになっていて、サンダルも四足用意されています。ベランダには出ませんでしたが、広縁と同じ広さくらいのところにテーブルと椅子も置かれています。天気がよければ青い海と初島、大島が望めるということだったのですが、あいにくの曇り空で水平線もはっきりせず、初島が雲海に顔を出した山のような感じに見えました。15畳もある広い部屋ですが、細かい造作などはなく、一言で言うとだだっ広いという印象です。床の間に花はなく、その代わり見事にインターフォン、パンフレット、テレビなどがずらりと並んでいました。浴衣の気遣いとお茶出しはありましたが、お絞りはありません。迎え菓子は百果菜という梅餡入りの羽二重餅で梅の実も少し入っているらしく、時々硬い食感もあるおいしいものです。朝は「逢初」という目覚めのお菓子がお茶と一緒に出されましたが、これもとてもおいしいものでした。畳廊下であるので、アメニティに足袋靴下も付いています。
部屋のテーブルに、チェックインした初めから白いテーブルクロスが掛けられています。これは初めての経験でした。新手の白いテーブルクロスの法則でしょうか。しかし、これは疑問です。これではいざ食事という時には清潔感が失われてしまうと同時に、テーブルに傷でもあるんじゃないかとカンぐられかねません。この宿全体は気配りの宿という感じは大いにするのですが、それが、女性好みの細やかな気配りという感じではなく、どうもアバウトな印象を免れません。
お風呂は24時間入浴OKで、最初男性の展望風呂「竹林」と最初女性の庭園風呂「風」があり、翌朝5時に交替します。「風」は庭園風呂とはいえ、入り口が庭園にあるだけで、眺めも素晴らしく、展望風呂同様に相模湾、初島、大島などを眺めることができます。露天風呂は「竹林」「風」それぞれに付いていて、それぞれ脱衣所からも内湯からも行ける造りになっています。お湯は黄色い色で、黄土色ではなく明るい黄色は珍しいと思いました。なめると、しょっぱく、やや苦いという感じです。仲居さんによると塩分と鉄分があるということでした。開放的で広々した露天が付いているということもあり、そんなに狭くは感じないのですが、「竹林」の内湯の浴槽は4・5人ぐらい、露天は3・4人くらいでしょうか。「風」もそうなのですが、木製の横長の浴槽がここの特徴です。温まるいいお湯だと思います。源泉の流しきりで水も加えていないということですが、浴槽に温泉の蛇口と深層塩水の蛇口が並んで突き出ていて、入浴客が自由に薄めることができるようになっています。しかし、浴槽は極端に熱い訳ではなく十分に入れる温度なので、見ている限り、誰もその蛇口をひねっていた者はいませんでした。湯花はありません。「風」の脱衣所に冷水機がありましたが、「竹林」の方にはなかったと思います。この他にも「独泉」という貸し切りの無料露天風呂があり、広々として浴槽も二つ備えられている上、素晴らしい景色を独占することができます。
食事は朝夕とも部屋でした。お品書きは料理長の名前が入らず、ただ旅館名のみが書かれたものがありました。仲居さんによるくわしい説明もあります。お品書きには食前酒は枇杷酒と書かれていましたが、仲居さんによると山桃酒ということです。これは甘口で口当たりの良いおいしいもので、女房は非常に気に入ったようでした。先づけが自家製烏賊の塩辛、八寸が小芋の田楽、手綱寿司、南蛮漬け、楓羊羹、鶯進丈、チーズ牛蒡の八種盛りです。それにお造りと、酢の物がさよりの昆布〆、北寄貝、強肴がカサゴの唐揚げでこれはこの宿の名物のようです。箸休めが赤紫蘇のところてんで、台のものが有頭海老のコキールと米茄子の素揚げ、冷煮物が南瓜と茄子に海老の酒蒸しに地鶏の治部煮と豆乳、さらに青竹そうめんに鯛の潮仕立てでデザートがブルーベリーの自家製アイス、となります。
最初に食前酒、先付け、八寸、酢の物が懐石盆の上に並べられ、続いてすぐにお造りとカサゴが運ばれてきました。お造りは飛魚の姿造りと、地鯵の姿造り、さらに勘八、鮪、真鯛、烏賊、金目の切り身など二人前が、大きな木の台の上に乗せられた厚い氷の皿の上に乗っているという食べ応えのあるものです。同時に運ばれたカサゴの唐揚げが身のたっぷり付いたボリュームのあるもので、ここまででテーブルがかなりにぎやかになります。このお刺身とカサゴだけで結構お腹がいっぱいになります。お造りもカサゴもおいしいもので非常に満足感がありましたが、カサゴはボリュームがありすぎて、もうちょっと小さい方が、この後の一品ずつ運ばれる料理がおいしく食べられるかな・・という気もしました。
でも、全体的に十分満足できた夕食でした。
朝食はまずこの辺ではお決まりの鯵の干物。それから、海苔を小さく切ったようなもの。これは地海苔ということでした。卵は茶碗蒸しで出されます。その他、蛸のカルパッチョ風サラダでこれも好印象でした。さらにしらすおろしと野菜の煮物。潮汁。ブルーベリーヨーグルトと続きます。醤油味に頼らないおいしい朝食で最初に出されるおかゆが特においしかったと思います。食後にコーヒーを出してくれるのもうれしいと思いました。
ここは見晴らしのいい部屋付き露天風呂があり、その割に料金もそれほどは高くないというのが第一のセールスポイントで、第二はボリュームのある料理というところでしょうか。フロントや仲居さんたちの対応もよく、流し切りのお湯もなかなかだと思います。ただ、12室と部屋数は少ないとはいえ、女性好みの小奇麗な宿というわけではありません。どちらかというと、それなりに露天も食事も満足できる料金がやや高めな大衆的な旅館といったところでしょうか。露天と活きのいい魚を楽しみたい人にはいいとおもいます。
 
おそらく、ドアtoドアでぼくの家から二時間以内で行ける一番近い温泉地は湯河原だと思います。いまは日本全国あちこちと動き回っていますが、そのうちに遠出するのが面倒になり、近場で静かな温泉地に落ち着くような予感がします。今のところ、湯河原がその最有力候補であると言えます。泉質としては無色無味無臭で全然目立たないのですが、以前にも「源泉上野屋」の時のONKEN21さんのレスにあったように、意外といい温泉なのではないかという気もします。それで、湯河原に手ごろな宿を探すのが将来を見据えた課題の一つになっています。
湯河原で今までに行った旅館は、行った順に「青巒荘」→「山香荘」→「川せぎ苑いすゞホテル」→「京ゆば懐石山翠楼」→「ふきや」→「源泉上野屋」→「加満田」→「海石榴」の八軒です。料金の心配をしないでいいのなら「ふきや」「海石榴」で決まりでしょうが、将来のマイ温泉地ということを考えると、16000円〜18000円(税抜き)で納得できる旅館を探したいという希望があります。行った中では「青巒荘」、「山香荘」、「川せぎ苑いすゞホテル」、「源泉上野屋」が料金のそれほど高くない宿です。「青巒荘」、「川せぎ苑いすゞホテル」は料金に比して決して悪くはないのですが、客室数が多かったり、廊下が雑然としていたりでやはり、今一歩という気がします。湯河原である程度納得できる旅館を探そうとするとどうしても、安くて2万円以上、あるいは3万円以上になってしまいそうです。
そんな訳で湯河原の宿の新情報にはアンテナを立てながらも、どうせ高いか安くても今一な宿だろうという先入観は捨て切れません。
今回行ってみた湯河原の宿「おやど瑞月」は「いい旅夢気分」での新情報でした。TVを見た限り、おしゃれな隠れ宿という雰囲気です。部屋数が5室しかない割に料金が2万以下ということで、かなりの有力候補でしたが、行き時を失ったまま、放送から恐らく1年以上経ってしまったでしょうか。しかし、しっかりと旅館名のメモだけは取っておいたので、今回の近場旅行の宿選びに急浮上しました。
この宿へは奥湯河原へ入る少し手前のところを左の方へ登って行きます。旅館へ電話した時「バス停を降りて、5分から10分」と言われ、何でそんなにアバウトなんだろうと思ったのですが、歩き始めて納得できました。急な坂道なのでさっさと歩ける人とのろのろとしか歩けない人との差が歴然と開いてしまうのです。うちの場合、ぼくは5分で、女房は10分です。歩いては女房を待ち、少し行っては女房を待ちしているうちに、坂道の上方に小奇麗な建物が見えてきました。見るからにここに違いないという感じです。さらに行くと、小さな門があり、やはりここが「おやど瑞月」でした。
湯河原で門というと何といっても立派なのは海石榴の門ですが、大分小さくなるもののここもちゃんとした門がしつらえられ、敷石を少し行った先の玄関には瑞月と染められた大きな暖簾が掛かっています。TVで見た通りの小さな隠れ宿といった雰囲気です。
チェックインは3時で、普段なら3時であろうと構わずに2時前にも到着してしまうのですが、さすがに5部屋の宿じゃ3時ぴったりでないと入れないかもしれないと思い、一応30分前の2時半に到着するように計算して行きました。戸を開け声を掛けると、作務衣を着た女性が出てきました。後で聞いたところによるとこの女性が女将さんでした。記帳後、すぐに案内してくれました。まずごく小さいながらもソファーの置かれたロビーがあり、壁で仕切られたその先にテーブルが五つ並べられたダイニングがあります。直線的なこの配置がなかなかおしゃれです。後で家に帰ってから放送時のビデオを探し出して見たのですが、TVでは仕切りの壁に開けられた丸い窓から光が差し込んでとてもきれいでした。ダイニングを抜けた先が客室とお風呂のある棟で一階に客室二部屋と男女の浴室、二階が客室三部屋となっています。さすがに五部屋しかないだけあって、とても分かりやすい造りです。
案内されたのは二階一番手前の201号室で「もみじ」という部屋でした。家に帰って検証した結果、窓の景色や床の間に飾られた絵から、ここが「いい旅夢気分」で坂口良子と尾崎健夫が泊まった部屋だと思われます。女将さんは元気で愛想のいい、どちらかというと民宿の女将さんという感じで、何でも気さくに話してくれました。この旅館は立ち上げてから3年ほどらしいのですが、この建物自体ができたのはそれよりもさらに10年くらい古いということでした。見たところ、10年以上経ったという感じはしません。3年と言われても納得しそうです。もちろん、民宿とは違って、お絞りもあり、お茶出しもあります。迎え菓子は「かるかん」でした。かるかんといえば鹿児島だと思っていたのですが、どうも湯河原名物でもあるらしいのです。食べた感じも鹿児島のかるかんと同じで、味も悪くありません。また、浴衣の気づかいもありました。
部屋はそれほど広くはなく、ドアを開けると玄関と踏み込み合わせて2.5畳ほどのスペースで、玄関のすぐ右にやや狭目の洗面所がありその先がシャワートイレになっています。風呂はありません。洗面所とトイレの両方に小さな花が飾られていました。踏み込みから洗面所に行くには玄関に一歩足を踏み出さなければならないのですが、その部分に切り株のような丸い踏み板が置かれ、そこを踏んで洗面所に入れるようになっています。しゃれたアイデアだと思いました。踏み込みの襖を開けて部屋に入ると、11畳の和室になっています。本来は10畳なのですが、端のインターフォンが置かれている部分が床の間の壁から突き出た形の小さな吊り棚になっているため、その下が畳一畳分の空間になっているということです。床の間には花が活けられ、他になにも置かれていないのは立派です。ただ、この花はちょっとくたびれていました。窓側の広縁は4畳大あり、椅子が二脚置かれて、左側には冷蔵庫とお茶セットが一つにまとめられた小さな戸棚が備え付けられています。窓からは急な坂道を登ってきた甲斐がある、湯河原が山間の温泉郷であることを感じさせる景色が右前方向に広がっています。左方の高台にマンションなどが建っていて覗き込みはあるのですがやや離れているせいもあり、それほど気になりません。特別これといったことはないものの、小奇麗に小ぢんまりとまとまっているいい部屋です。
風呂は一階の端にあり、手前が男性用、奥が女性用です。24時間入浴OKで男女の交代はありません。ただ、女性用の札の裏には貸し切り中という文字が書かれていたので、くわしいシステムは聞きませんでしたが、客の数や状況によっては貸し切りのお風呂にできるようです。何で詳しいシステムを聞かなかったのかというと、実はこの日は客がわれわれ一組だけだったのです。何という幸運。男湯と女湯では女湯の方が建物の角にある関係上、二方向から光が入って明るいということで、女湯の方を我々が借りきって使わせてもらうことになりました。男女はほとんど同じ造りですが、女将さんによると女湯の方がやや広いとのことで、風呂場の床の石の模様も女湯の方が良かった気がします。カランは三箇所だけで、湯船は4人くらいの大きさですが、この規模にしては十分でしょう。
露天は大浴場から出る形で岩風呂になっています。湯船は3人くらいの広さで、湯河原の町を見下ろす感じで入ることができます。脱衣所の表示によると、お湯は流し切りで、夏のみ熱いために加水するとのこと。また、湯の温度差をなくすための循環(攪拌)をしているが消毒剤は使っていないということでした。内湯がやや熱めの適温、露天が内湯よりはやや低めというところでしょうか。湯花はなく無色無味無臭ですが、温まるお湯です。内湯に行く途中の廊下に、飲泉できるひしゃくが置かれています。また、狭いながらも湯上がり処がちゃんとあり、ポットにレモン水が用意されています。レモン水は本当に久々で、以前はただの冷たい水の方がいいと思ったのですが、今回はレモン水もちょっと見直しました。
夕食後に入りにいった時、ちょうど男湯に入りに来たご主人や女将さんと一緒になり、ご主人と少し話したのですが、ここは旅館独自の源泉でその源泉は坂の途中にあること、お湯は捨てるくらいたっぷりあること、毎日お湯は取り替えていることなどを聞きました。そういえば、湯河原の旅館で飲泉できるところは珍しかったかもしれません。また、子供はこどもの日前後以外は断っていること、酒癖の悪い人もお断りだということでした。ただ、話した感じは気難しい人ではなく、女将さん同様気さくな人でした。
夕食は部屋でいただきます。お品書きはなく、説明もありません。この日、料理を運んだのはご主人夫婦の長女で、近くに嫁いでいるそうです。さすがに白いテーブルクロスはなく、まず前菜7点盛り、金目鯛のしゃぶしゃぶ、白和え、北寄貝の酢の物、お造り(鮪、烏賊、甘海老、鯵の姿造り、サザエ、白身魚)が並べられます。続いて牛たたきの胡麻だれ、茄子とかぼちゃの煮物、焼き魚、天麩羅、と一品ずつ運ばれて、デザートはフルーツゼリー寄せでした。全体的においしいと思います。特に金目は脂が乗っていて、最近食べた金目の中では一番おいしいものでした。他の魚も新鮮なもので、お造りもよくある三点盛り四点盛りではなく、前泊の竹林庵みずのには及ばないもののボリュームがありました。
ただ、料理の説明がなかったことと、我々一組しかいなかったせいか、あるいは、娘さんが早く帰りたかったせいか、それとも、ご主人夫妻がお酒を飲まないせいか、料理が運ばれるテンポが速すぎて、初めの30分くらいでほとんどの料理が出てしまった感じであったことが非常に残念です。せっかくのおいしい料理なのにそれが何であるかも分からず、じっくり味わう余裕もありません。
ほとんど家族で回している旅館のようですが、料理だけは若主人が手伝っているものの、料理長は他から迎えたということでした。
朝食はロビー隣のダイニングでの食事になります。五つのテーブルが窓際にずらりと並んでいて間には衝立などはありませんが、今回は我々だけだったのでゆっくりと食べることが出来ました。サラダと温泉卵に鯛の煮物もあります。魚は湯河原定番の鯵の干物で、これは形は小さかったものの脂がのっていておいしいものでした。最近の鯵の中では一番かもしれません。烏賊の刺身はねっとりと甘いもので、いけます。それに、かまぼこ、山葵漬け、たらこ、烏賊の塩辛を少しずつ配したお皿と煮物。デザートがキーウィ入りヨーグルト。蟹の味噌汁が付いて、手抜きのない全体に非常に満足できる朝食でした。この朝食の時には若主人と話ができました。子持ちながら、旧ジャニーズ系の甘い顔立ちのイケメンでした。
この宿を一言で言うと、非常に小ぢんまりとまとまっている宿です。5室ながら、門もあり、ロビーもあり、ダイニングもあり、飲泉所もあり、湯上がり処も備わっています。しかも、館内に多くの花が活けられて、気持ちを豊かにしてくれる、小奇麗な宿であるとも言えます。働いているのは料理長や掃除の人を除いてほとんど家族であり、非常に家族的な雰囲気の強い宿でもあります。
ただ、ここは部屋付きの風呂がなく、部屋にもどうしても風呂が必要だという人には合いません。また、風呂やダイニングで他の客と顔を合わせなければならないので、お忍びの隠れ宿とも言えないでしょう。それに、書いたように子供も受け付けてもらえません。
客の多くがリピーターであり、来るときにはみんな「ただいま」といって来るそうです。さもありなん、と思いました。ぼくも、もし再訪してあの女将さんの顔を見たら思わず「ただいま」と言ってしまいそうです。
いい宿を湯河原で見つけました。若主人は今後お風呂に手を入れたい旨を女房に話したそうですが、どうかいつまでもこの価格帯を維持してほしいものです。

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湯河原に海石榴あり、とは知っていました。日本の名旅館であり、多くの有名人が定宿としている宿という認識で、自分には縁のない、ただし、いつかは必ず行ってみたい宿という位置づけでした。
二年半前、朝日旅行の「日本の宿」が大きなキャンペーンを行い、「日本の宿」に属する旅館のいくつかに割安で泊まれた時期がありました。そのキャンペーンを利用し、行ってみたかった「たてしな藍」「坐魚荘」「運龍」に連泊してみることにしました。「坐魚荘」は残念ながら連泊できず、一泊は「古屋」に変更となりましたが、3か月の間に「日本の宿」のスタンプを6つ集めることができました。
半年後、海石榴が日本の宿のキャンペーンで4万円を割る料金で泊まれることを知りました。いつからミント計画(日本の宿のスタンプを10個集めて海石榴にご招待で行くという、もともと旅館系の旅人、ミントさんが計画していたもの)を意識していたのか、たてしな藍に泊まった最初からだったのか、それともこの海石榴のキャンペーンを知った時からなのかなどは、もう記憶にないのですが、とにかくこの時ミント計画は実現可能なものとして、はっきりとぼくの意識にのぼったのです。
ミント計画実行のため、海石榴に宿泊しスタンプをもらったあとは、行きたい宿もそれほどなく、招待の期限の3年にはまだ大分間があると、のんびり構えていたのですが、それでも、美ヶ原の「すぎもと」、そして今年5月の厳島神社参拝のからみで「岩惣」、「石亭」と宿泊し、ついにスタンプ帳を完成させることができました。完成したとなると、前回海石榴に泊まったのは晩秋でしたので、季節が重ならないうちにと、早速、夏の海石榴に申し込んだのです。
海石榴は奥湯河原の何軒かの旅館のうちの一軒で、右手の坂の登り口すぐに、海石榴の象徴と言える大きな門があります。タクシーで乗り着けたのですが、チェックイン近くだったせいかすでに玄関前には男性がいて、運転手から荷物を受け取ると、すぐに案内してくれました。
小ぢんまりとした玄関に入ると、和服姿の女性が三人正座し、畳に手をついて迎えてくれます。しばらくお待ちくださいと玄関前の外で待たされたわけではなく、タクシーから降りて案内されるまま、すぐに玄関に入ったのですが、この辺の連携というか素早さというか、前回の海石榴や姉妹館の山翠楼もそうだったのですが、毎回感心させられます。
まず、落ち着いたロビーに通され、ここで小さな落雁と抹茶をいただきます。前回はすでに先客が二組いて、その中の一組が非常に落ち着いて上品な常連らしき老夫婦で、女将が丁寧に挨拶をしていたのが印象に残っていたのですが、今回は我々だけで、お茶を飲んでいると、この海石榴の主とも言える前の女将が挨拶に来てくれました。今は海石榴の女将は引退して、食事処の太郎庵というところの女将をしているそうですが、長年海石榴の女将として、名だたる泊り客の応対をしてきた人です。
チェックインは2時半でまだ15分ほどあったのですが、お茶を飲み終わるとすぐに案内してもらえました。
部屋は326号室の「空蝉」というところで、前回宿泊した「高砂」という部屋の二つ先でした。たった二つ先の部屋なのですが、ただし、この二つの部屋には大きな違いがありました。前回の「高砂」は、窓は上から下まで全面あるものの手すりでガードされ、二階から下の敷地や池を見下ろす感じだったのですが、今回の「空蝉」から先の部屋は、部屋のガラス戸の外に人工地盤の広い池を造り、そこに小さな鯉を泳がせて、周りを緑の木々が覆っているという趣向になっているのです。本当は二階なのですが、まるで一階の雰囲気です。
ガラス戸の外にはテラスがあり、そこに石の涼しげなテーブルと椅子が二脚据えられていて履物も用意され、いつでも部屋から外へ出られるようになっています。夜はカジカ蛙の美しい鳴き声が聞こえ、朝はそのテラスの涼しげな白い椅子に座って、池の鯉に餌をやるのです。池の縁の小石の上にまで上がってきて餌を食べる鯉を見ていると、周囲の深い緑と相まって、非常に癒される気分がします。空蝉より先の3、4部屋で共有している池ですが、覗き込みもなく、また庭とは違って、となりの部屋の客が庭先に出てくる心配もありません。見渡す限りの美しい山や海の景色が遠望できる部屋もいいのですが、こういった癒される部屋も非常にいい感じです。
部屋の内部の造りは前回の「高砂」とまったく同じでしたが、前回は控えの間に小さなテーブルが置かれていたのが、今回はなく、これはあった方がいいと感じました。また、前回はガラス戸の手前には障子が立てられていたのですが、今回は障子が外され、涼しげなよしず戸に変えられていました。これは夏前に全部屋必ず入れ替えるそうで、それまでどこかの倉庫に預けてあるのだそうです。この辺にも、隅々にまで密かに心を配る老舗の矜持というものが感じられて感心しました。ここまでやる旅館こそ高級旅館と呼ぶにふさわしいでしょう。
さて、その部屋の造りです。やや暗めの廊下から、ガラスの引き戸を開け、さらに防火扉のようなスチール製の重たいドアを開けて部屋に入ると、黒タイルの玄関と白木の二畳大の踏み込みが現れます。踏み込みを上がり、少し左に行った手前にバリアフリーのトイレがあります。手すり、手洗いが備えられていて、手洗い用のタオルは正確に数えたわけではないのですが、おそらく20枚以上もあったと思います。一回使ったら、下の籠に入れるという形です。トイレには花も飾られていました。踏み込み右の襖を開けると先ほど書いた控えの間に続いています。この控えの間は、畳は6畳分あったものの、小さいので、おそらく正規には4畳半くらいの広さだと思います。踏み込み正面の襖を開けると12畳の和室で、広縁はなく、前述の外に出られるガラス戸が前面一面に広がっています。部屋の左側の真ん中あたりに半間幅の入り口が切られていて、その襖を開けると細長い小部屋が現れ、左手には洗面台、冷蔵庫、右側が小さいながらも石の浴槽と全面ガラス窓が庭に面する浴室になっています。ただ、残念なことにこのお風呂は温泉ではありません。
主室の右側の池寄りに二畳幅の床の間があり、掛け軸が掛けられ、花が活けられています。この掛け軸と花のバランスが絶妙で、みごとな床の間のしつらえと言えます。右の仕切りの横にテレビやインターフォンがセットされていて、完全に区切られているのは当然といえば当然ですね。
迎え菓子は藤木川というお菓子で、これは前回と同じでした。小豆餡を中心にした、渦を巻いた模様の濃厚なお菓子です。海石榴のオリジナルということでした。浴衣のサイズの気づかいはあり、布団を敷いた後に寝巻き用の浴衣が布団の上に置かれます。アメニティとして前回は持ち帰り用の温泉タオルがあったのですが、今回は持ち帰り不可のホテル仕様のタオルになっていました。
部屋自体は次の間付きとはいえそれほど広くなく、離れ形式の一軒家でもありません。部屋付きの露天もないし、部屋風呂は温泉でもありません。そういったことを重視する人にとっては、それでこの料金は高く感じられるかもしれません。しかし、これはこれなりに考えられた、落ち着ける、完成度の高いいい部屋だといえます。特に今回は入れ替えられたよしず戸のことで、この海石榴のもてなしの心の奥深さを改めて感じさせられました。
海石榴の建物全体の構造が今一よく分からないのですが、お風呂は別棟らしく、階段を1階に降りて、ロビー手前の売店の近くのエレベーターに乗って、また二階に上がります。ラウンジの横を通って、渡り廊下をさらに登っていくという、手間のかかるところにあります。大浴場に男女交代はなく、それぞれの大浴場から、直接露天に出られる構造になっています。大浴場は24時間入浴可能ですが、確か、露天は男は11時まで、女性は10時まででした。夕食前は入浴後にラウンジで、ビールかお茶を飲むことができますが、脱衣所にも最近はやりの巨大ペットボトルを逆さにしたような冷水機が備え付けられています。もちろん、大浴場にはバスタオルやフェイスタオル、さらに薄い温泉タオルも備えられていて部屋から何も持ち出す必要はありません。
脱衣所も大浴場も明るく清潔感があふれていて好感が持てます。確か大浴場の窓は一面だったと思うのですが、庭に面した全面から明るい光が入ってきます。窓側に浴槽があり、石造りの五人くらいの浴槽ですが、あまり人が来ないのでゆっくりと入ることができます。露天も石造りで円い形に近いのですが、どうも椿の花びらをかたどっているのではないかという気がします。露天の右手にさほど広くない庭があり、そこの空間以外は囲われてしまっていますが、囲いによる圧迫感はあまり感じません。入浴中にうぐいすとひぐらしとかじか蛙の鳴き声が聞こえるという贅沢な露天でしたが、何と翌朝には一瞬ですが屋根を伝っていくサルの姿も見てびっくりしました。まさか湯河原でサルを見るとは。湯河原でも奥の方は、まだまだ自然が残されているのだと感心しました。
ただ、お風呂の造りはいいのですが、お湯はどうも循環のようです。かすかな塩素臭がするような、しないようなというところです。時折は温泉の匂いがした気もするのですが、温泉の質に関しては老舗旅館で言うなら加満田にはちょっと、及ばないでしょう。
食事は夕・朝食とも部屋でいただきます。お品書は月替わりで能の題目から取られたタイトルが付けられるそうです。今回は「土蜘蛛」というタイトルでした。仲居さんによる説明もあります。食前酒は山桃酒で、先付けである、ずいきや子持ち昆布を入れた容器の上に蜘蛛の網を表したやぐらのような物が組まれ、女将手書きの和歌が書かれた短冊が添えられます。前回も同様でしたので、海石榴の夕飯の先付けの容器は、必ずタイトルに因んだ趣向が凝らされるようです。味にはまったく関係がありませんが、こういう趣向を面白がる人は嬉しくなるでしょう。前菜は帆立岩茸煮こごり、長芋うるか、山桃甲州漬け、羽太棒寿司、百合根うに最中、烏賊からし酢味噌、鰤風干し、石伏魚の有馬煮、牛舌六方焼きの九品あり、バラエティ豊かで、しかもみんな珍味です。今まで食べた前菜の中でも出色の出来で、非常に楽しめました。特に酒飲みには心はずむ前菜だと言えます。椀物は、白瓜を素麺のように細く切って素麺に見立てたもので、これも趣向が凝っています。鱧がなかなかのおいしさで、出汁の味つけも結構でした。瓜素麺に関してはアイディアですが、普通の素麺よりもおいしいということはありません。ただ、このお椀はこの趣向ごと味わうものだと納得できるものでした。向う付けは鰹、蛸、平目でそれぞれの素材が吟味されていました。ただ、海辺の宿のように特に刺身だけが突出しているということはなく、あくまでも懐石の流れの中の一品という感じです。あしらいの胡瓜の花は食べられるということで、花もまさに胡瓜そのものの味がしたのが面白かったです。焚き合わせは無花果の八方煮で小芋が入り、胡麻餡がかかっています。なかなか上品な味です。焼き物が鮎の風(から)干しで、蓼酢はもう振ってあり、蓼酢に付け過ぎて身がびちゃびちゃになるということはありません。なるほど、これからはぼくも、蓼酢が出てきたら身に振りかけて食べようと思いました。一人に二枚ずつあり、これは絶品で、鮎の干したものとしては今までで最高の出来と言っていいでしょう。狩野川の鮎だそうですが、添え物の茗荷の上に味噌を塗って焼いた物もおいしいものでした。進肴が生麩のお蕎麦仕立てですが、横に才巻き海老の身を酒盗で和えて、ほおずきの器に入れたもの、また、その才巻き海老の殻が素揚げされたものが添えられていて、これまた凝っています。温物は蓮を摺って百合根を入れて蒸した物に甘鯛が包まれています。汁が上品でおいしいものでした。止椀の赤だしが甘くておいしく、御飯は蓮御飯にゆかり粉をかけたものです。デザートは白桃と幸水とパパイヤのジュレ掛け、そしてブルーベリーゼリー、さらに、わらび餅を網で掬ってきな粉にまぶして食べるという趣向の三点で、食べる順も仲居さんがアドバイスしてくれます。特にずんだきな粉のわらび餅がおいしく、このデザートもまた楽しめるものでした。
生花を紙で巻いた箸置きといい、すでに割って湿らせておいた箸といい、最初の前菜から最後のデザートまで、この海石榴の料理に対する姿勢が非常によく表れた食事でした。この料理に関して、ぼくは言うことはありません。後は、その人によって、海石榴の料理に対する考え方をどのように受け止めるかや、味や素材が自分の好みにあうかどうかで、個々の評価に違いが出るのだろうと思います。
お品書きどおりの順に、一品一品出される京風懐石料理で、デザートまですべて食べ終わるのに2時間以上かかります。ぼくは最初はゆっくりですが、だんだん食べるスピードが速くなるタイプなので、後半はやや間延びするところもありました。
朝食も部屋でいただき、お粥と普通の御飯のどちらがいいか選択できます。最初に、幅広い形の、ゆずなどを練りこんだ砧うどんというものが出され、これから召し上がっていてくださいと言われます。さわやかな味のおいしいうどんです。焼き魚は、かますの塩焼きで、これは焼き具合が絶妙で、非常に上品なおいしさです。前回の朝食もかますだったのですが、料理人の手の内に入っているという感じでしょうか。他には大根、がんもどき、さや隠元の炊き合わせ。だし巻き卵。枝豆、帆立、かまぼことあと一品の乗ったお皿。えのきと水菜と油揚げのあっさりとした味のお浸し、などが出され、さらに豆腐は湯葉豆腐とのことで、クリームチーズみたいな滑らかさでした。デザートは西瓜とゴールドキーウィです。
仲居さんによると、料理は月替わりだが、朝はほとんど変わらないとのことです。朝食もバランスのいい、おいしいもので満足できました。夕食ほど凝ってはいませんが、パワーが落ちたということはありません。
海石榴の特徴の一つは女将でしょうか。長いこと海石榴の女将として勤め上げ、今は太郎庵を切り盛りしている女将は、もう60代半ばか、あるいはそれ以上かもしれませんが、その凛として、しかも親しみやすい姿は、様々な客をもてなしてきた経験からくるものか見事なもので、女将というものの一つの完成形を思わせられました。前回の海石榴訪問時は、山翠楼の女将として長年勤めていた女将が一時的に移ってきていたようですが、この人はかなり親近感の持てる、親しみやすい人でした。今はこの二人とは違う人が女将になっているようですが、残念ながらこの日は不在ということで、40代の副女将が夕食時の挨拶や、迎えと見送りを担当されました。この人も当たりの柔らかな人でした。海石榴の女将はオーナーの奥さんという訳ではありませんので、この辺も奥さんが女将として仕切る他の宿とは少し違ってくるのではないのでしょうか。海石榴の女将は他の宿よりも一歩、客の方に近づいてくれる気がします。
また、たまたまかもしれませんが、部屋を担当してくれた仲居さんが前回と今回の二回ともユニークな人でした。二人とも仲居としての仕事は見事に果たしてくれたのですが、前回は天然系の人で、その天然系ゆえに企業の社長などに気に入られるようで、食事などの応接中に、話の勢いでその会社の社員旅行として姉妹館の山翠楼に確か100名を越える団体をゲットしたというつわものでした。今回の仲居さんは、いかにも高級旅館の仲居でございます、という感じの人で、よくテレビに出てくる、ご主人思いだが、ちょっと気が付き過ぎるしっかりものの落ち着き払ったばあや、みたいな印象の人でした。ぼくとしては、話していると面白いので、この二人ともに、決して悪い印象をもちませんでしたが、もしかすると客によってはあまりいい印象を持たない人もいるんじゃないかな、と危惧しないでもありません。ただ、こういうユニークな仲居さんを宿の方針として揃えているという訳では決してなく、本当に偶然だったのだろうという気がします。
一口に高級旅館と言ってもいろいろな形があります。この海石榴は何でしょう。奥湯河原という立地がそのヒントを与えてくれるかもしれません。東京・横浜からそれほど遠くなく、自然も豊富に残っている。ただし、これといった観光がある訳ではない。この湯河原温泉に入りに、飛行機に乗ってわざわざ遠方からやってくる人はいないのではないでしょうか。都会の疲れを癒しに来る近場の人、あまり遠出はできない忙しい人がちょっと時間ができたからとふらりとやって来る、そんな温泉地である気がします。その点では、観光名所の多い箱根ともまた違います。ただ、ひたすら宿の魅力だけでお客を惹きつける必要があるのです。
決して広くはないが、寛げる部屋、温かく迎えてくれる女将、楽しめる食事、そして高級旅館としての宿の矜持、そんなところに魅かれて上質のリピーターたちは何度も訪れるのでしょう。そして、そのリピーターたちを含めて宿の格というものが形作られていく。海石榴の良さとして、前回はぼんやりとしていたものが、二度目にしてはっきりとその輪郭を現してきた気がします。前回の宿泊時に、あるテレビドラマでおなじみのTさんに遭遇しましたが、今回少し話をした先代の女将によると、そのTさんも常連だそうです。この海石榴と定宿とする、その気持ちが分かるような気がしました。
湯河原に海石榴あり。海石榴あなどるべからず。確かに海石榴も高級旅館という山脈のある一つのピークを極めた宿に違いありません。

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秘湯を守る会のぼくのスタンプ帳と女房のスタンプ帳とでは、ぼくの方がスタンプ3個分先行しています。ミニオフで行った新高湯温泉の吾妻屋の分と、一人で連泊した嵐渓荘の分です。この差ができたのはまだ一冊目の時のことだったのですが、差はそれ以来全然縮まらず、四冊目に入った今もそのままです。
この3個分のおかげで女房とぼくとが同じ宿に招待されるには少々面倒なことになっています。ぼくの方の3年の期限が来るまでに女房のスタンプ10個を集めなければならないし、共通する7個のスタンプの中から招待の宿を選ばなければなりません。
今回もぼくのスタンプ10個は、すでに笹屋で完成していたのですが、この11月までに女房のスタンプ帳の残り3個を埋めなければなりません。
ちょうどそんな時、旅館系のでびーさんが奥秩父柴原温泉の「かやの家」に宿泊し、その評価も高かったようなので、急遽この宿に連泊してラストスパートをかけようという作戦に出たのです。ここは何年か前にokiesさんも泊まっているので、okiesさんの追っかけでもありました。また、電車で少し行ったところに「長瀞」があり、舟好きの女房が長瀞の舟下りを楽しむことが出来る点も好都合でした。
最寄り駅の武州日野で迎えの車を少々待ち、旅館に入ったのが2時半少し前でした。フロント前は広々としていて、全体に木造りのすがすがしさが感じられる好ましいものでした。チェックインが2時半ですのですぐに部屋へと案内してもらえました。
部屋は「せせらぎ」というフロントから階段を少し降りた、二部屋だけが並んだ廊下の奥のほうの部屋です。引き戸を引くとすぐに板の間が一畳分あり、そこにスリッパを脱ぎます。板の間の右側がシャワートイレになっていて、板の間の正面の襖を開けると10畳の和室です。この部屋は突き当たりの角部屋なので襖を開けた正面に広縁と窓が、左手の壁にも窓があります。ただ、二面も窓があるのに、周囲を木々が囲んでいるせいでそれほど明るい感じはしません。また、周りに植物が多いせいと正面の窓の下に小川が流れているせいか、湿気で部屋の中がむっとしました。それに伴い、部屋がかび臭い独特の匂いがします。かなり強い匂いですが、慣れたのか二日目や食事の時はあまり気になりませんでした。とはいえ、匂いに弱い人は我慢できないでしょう。ただ、この宿は部屋の配置が散らばっているので、部屋によってはほとんど匂いのないところもあるのではないでしょうか。また、この部屋のある建物よりも新しい建物もあるのかもしれません。
広縁は3畳大でテーブルと椅子が二脚置かれ、右端に洗面台があるという古い部屋によくある形でした。
左手の窓からは木々と隣の旅館「柳屋」の本館や正面玄関が、正面の窓からは木々や「柳屋」の古い建物が見えます。また、何輪かの野の百合が手前の斜面に大きな花を開かせていました。一階とはいえ、斜面に建っているので、柳屋は見下ろす感じになります。
部屋の右側全体が床の間になっていて、ちゃんとアジサイの花などが活けられてはいるのですが、掛け軸は少しよれているし、テレビが金庫の上にでんと置かれているのはあまりにも殺風景な感じです。浴衣の気づかいはあり、冷水も初めから置かれて、その後もこまめに入れ替えてくれました。迎え菓子はしだれさくらというゴーフルで、ぼくとしてはゴーフルの迎え菓子は今一ですね。
また、この部屋は古いせいか、どこかから蟻などの虫が部屋の中に入ってきます。夜寝るときにぼくのシーツに小さな蟻が三匹いました。この部屋は匂いと虫とで減点ですが、その他に関してはまあまあの部屋で、料金を考えたら、まあこんなものかなというところです。
風呂はフロント前のロビーから違う方向の部屋に向かう途中の廊下を下ったところにあります。24時間入浴OKで、夜の10時に男女交替します。宿泊客にとって何よりうれしいのは立ち寄りを取らないということで、部屋数も少ないためゆっくりと入浴できます。
内湯は温めと普通の温度の二種類の浴槽がありますが、それぞれ1人と3人ぐらいの小さめの浴槽です。天井、床、壁が木で作られていて清潔感溢れる小ぢんまりした気持ちのいい浴室でした。洗い場は三か所です。
露天は両方とも内湯から出る形で、最初男性の方は八角形の木の浴槽に4人くらいは入れそうです。背の低い板で周りを囲まれていますが、屋根との間から明るい山の景色が見えます。電線が目障りなのですが、のんびりとしたいい景色と言えます。最初女性の露天は内湯から板で囲まれた通路を10メートルくらい歩いたところに、やはり四人くらいの長方形の浴槽があります。こちらは木々に囲まれていて薄暗い感じがしますが、雰囲気があるといえば言えます。ここだけは浴槽へのお湯の落としこみがあるのですが、他は湯の中への直接投入でした。
お湯は透明ですが、やや黄色がかっています。無味無臭で塩素臭もしませんが、あふれ出しはどの浴槽もないので循環です。男性の内湯のみ糸のような湯の花が浮かんでいました。
お風呂は循環ですが、立ち寄りを一切認めていないおかげで入浴者の数が少なく、お湯はいつも清潔さが保たれています。また、沸かし湯であるのに24時間入浴可能なのも、客の立場に立った好ましい応対だと思いました。
脱衣所にはバスタオルのみ置かれています。湯上がり処や脱衣所の冷水などはありませんでしたが、その代わりに初めから部屋に冷水が置かれているのでしょう。
食事は夕・朝とも部屋でした。
夕食はお品書きがあり、説明も少しあります。食前酒はありません。初日の先付けの新じゃがトマトはなかなかおいしくて、また工夫が凝らされているのがいいと思います。前菜の長芋蕗味噌掛けの蕗味噌はおいしいもので、青唐のみぞれ和えはあっさりとした味、また、抹茶豆腐はう〜んなるほどねという味、独活きんぴらは独活の味がおいしく、わさび蓮根素和えは酸味の強いマヨネーズがおいしさを引き出していました。向う付けは岩魚の刺身で、夏野菜ポン酢をかけて食べます。まあまあいけるというところでした。しのぎの山菜五目寿司もいけました。吸い物の南京まんじゅうはまあまあおいしいといったところ。焼物の鮎塩焼きの鮎は、焼いても身のぷりぷり感が素晴らしく、なおかつ骨まで食べられる絶品で、今まで食べた鮎の塩焼きの中では一番おいしいと思いました。煮物の冬瓜、鶏そぼろ餡かけもなかなかおいしいものです。ここは途中で箸休めが出るのですが、そのとまと蜜煮も良かったですね。さらに揚物の山里の天麩羅として、いたどり、まいたけ、ぎぼし、アジサイの花びら、ゴーヤの葉が出されました。アジサイの花びらは初めての経験で、ちょっと苦味があるがいけるものでした。ゴーヤの葉も初めてでしたがおいしく、この天麩羅は楽しめました。酢の物のかんきつ、独活酢味噌和えも悪くないものです。最後の食事はお蕎麦か雑炊かを選べ、この日はお蕎麦にしました。けっこうボリュームがありました。デザートはぶどうとメロンに黒胡麻アイスで、満足できました。連泊ですがこの日が一般宿泊用の食事だそうです。
最初に先付け、前菜、向う付け、しのぎの四品が置かれ、続いて、吸い物など献立表どおりに一品ずつ運ばれました。最後の揚物と酢の物は同時で、丁度いいか、やや早めのペースでした。
ここのご主人が調理しているそうで、この料金で13項目の献立と熱々の一品出しの料理は、コストパフォーマンスとしてはかなりのものです。また、器からして意気込みが違う感じです。
朝食は、お絞りなかったのが残念でした。稚鮎の開きと鰹節、もろきゅうの三点が載ったお皿。海苔。紫蘇の柴漬けみたいなもの。温泉卵。モロヘイヤをミキサーにかけて味付けしたおいしいもの。油揚げときのこの味噌汁。湯豆腐がありましたが、寄せ豆腐のような感じで柔らかくふわっとしていておいしいものでした。デザートはヨーグルトで真ん中にイチゴジャムがぽつんと乗っていました。昨晩の夕食同様、今日が一般的な朝食だそうです。全体のバランスもよく、満足できる朝食だったと思います。
二日目は予定通り長瀞の川下りに出かけ、やはり前日と同じ時間の送迎車に乗り、同じ時刻に宿に着きました。部屋には迎え菓子として甘納豆が置かれていました。
この日の夕食もお品書きがあり、説明もありました。相変わらず食前酒はなく、先付けのたらの芽氷室和えと、もみじ笠蒸し鶏胡麻和え、葉山葵が置かれていました。先付けというより、山菜の前菜のラインナップという感じですが、それぞれの持ち味が生かされていて、味付けなどの工夫もおのおのあり、おいしいものでした。しのぎとして、冷製そばがきと、向う付けの岩魚たたき風までが最初に置かれ、両方ともいいと思います。吸い物の湯葉吉野仕立がおいしく、この日の焼物の山女素焼きは、山女を卵焼きでとじたような感じのもので、変わっていて味も良く絶品でした。昨日今日と焼物は絶品が続きました。煮物の大根豚味噌煮もおいしく、かなりの水準だと思います。豚の柔らかさと旨みは言うことなしでした。今日の箸休めは甘露梅です。揚物は蕎麦豆腐揚げだしでこれもいけます。酢の物が岩茸土佐酢ジュレで、食事は今日はお蕎麦をやめて通常の雑炊にしてみました。雑炊も熱々のすごく上品な味で、おいしいものでした。デザートは、キーウィ、オレンジ、抹茶アイスで、抹茶アイスはかなり抹茶の味が濃く甘味が少ないのですが、これはこれでいいと思います。
昨日より一項目少ないのですが、手抜きのない夕食で昨日と同様、非常に満足できました。
二日目の朝も、やはりお絞りはありません。この日は稚鮎の焼物、酢はす、昆布の佃煮の載ったお皿。ほうれん草のお浸し。海苔。えのきと大根おろし。行者にんにくの佃煮が乗ったおいしい冷奴。さや隠元の胡麻よごしなどでした。冷奴のお豆腐は駅の近くのお豆腐屋のもので、これといって有名な店ではないそうですが、おいしいと思いました。今日もデザートはヨーグルトで、今日は真ん中にマーマレードがぽつんと乗っていました。二日目の朝も一日目同様満足できる朝食でした。ただ、朝食も悪くはないのですがやはり夕食に比べていくらかパワーは落ちました。
14000円を切る宿で、品数の多い懐石風の料理を熱々のまま一品ずつ持ってくるという、料理に対する心意気は高く評価したいと思います。しかも味も良く内容に工夫も凝らされています。ただ、山奥という立地のため素材が限定されていることと、人手がなく料理に手が回らないということで、料理は季節替わり、連泊は二日までと限られているのは残念ですがしょうがないのでしょう。
また、泊まった「せせらぎ」という部屋はその構造上か湿気が多く、虫の出現や匂いが気になる部屋でした。この部屋の三点が快適だったら全体的に文句はありませんでした。
女将さんやご主人の感じもよく、ご主人は秘湯を守る宿の南関東の支部長をしているとのことで、帰りの送りの車の中で少し話したのですが、宿というものに対する意識も高いと思いました。
最近、秘湯の宿も宿によっては二万円以上の料金設定があるところも多くなってきた気がします。その中で、この内容でこの料金設定はかなり良心的だと思います。もっと近ければ、何回も行ってみたいところです。

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佳松亭積善に行ってきました。佳松亭積善にはokiesさんのページに書き込み始めた時の年に一度行き、積善館の山荘には3年前に一度行っていますので、トータルとして3度目の宿泊になります。ぼくが三度も行っている宿は他に川俣温泉の一柳閣しかありませんので、ぼくの中で、積善館がかなり気になる宿であることは確かです。(ちなみに、一柳閣は行くたびに印象が悪くなり、途中の瀬戸合峡という絶景ポイントをバスが通らなくなったこともあって、もう二度と行かないと思います)。
佳松亭積善の一度目の印象は絶賛に近いものでした。料理は、料理を食べにだけにでも毎月来たいくらいだったし、部屋もきれいだし、お風呂は色々なタイプのお風呂がそろっていて泉質も文句なし、すべて流し切りで、さらに美人女将の対応も非の打ち所がない感じでした。当時、積善館のHPの掲示板には宿泊した人の絶賛の言葉が並んでいて、それも納得できました。僕自身も、長い賛辞をこの掲示板に贈りました。欠点は大浴場にシェービングフォームがないことと、湯上がりの冷水がないこと、そんな細かい二点だけを指摘しただけでした。本当にそれ以外は非の打ち所がない気がしたのです。
いろいろな宿に宿泊することを優先して、この積善館にはその後泊まる機会はありませんでした。3年前に二度目の宿泊をしたのは、一度目からある程度時間が経ち、ちょうど格安の山荘宿泊プランの案内も来たので、じゃあもう一度行ってみようかという気分になったからでした。ただ、この時の宿泊はなぜか細かいメモも取っておらず、全体の印象だけを書き付けただけで、部屋は山荘ですから、まあ昔ながらの部屋、お風呂は変わりませんが、食事は質・量ともにがっかりという印象だったようです。女将は不在のようで、挨拶には回ってきませんでした。確かに、格安プランだったので、前回のようなところまでは望むべくはないと思うのですが、とにかく食事についてはけっこう不満が残りました。
ただ、やはり第一回目の宿泊の印象が相当強く、同じ佳松亭の、ちゃんとしたプランでないと結論を出すのは早いかなと、今回は第一回目と同じようなプランで宿泊してみることにしました。前の二回は女房が参加していませんので、女房にも積善館の名物である元禄の湯を体験させたい思いもありました。
積善館は湯治型の積善館本館と古い建物の山荘、近代的な佳松亭と三つに分かれ、建物も本館から山荘、佳松亭と下から上へと上がっていく形になっています。佳松亭は車で行く場合は上の方に佳松亭の立派な玄関があるのですが、バスを利用していく場合は名物の赤い橋を渡り、本館のフロントに佳松亭の宿泊である旨を告げて、仲居さんに案内してもらいます。
2時がインの時間で、1時40分に本館のフロントに到着しました。そのまま土足で本館の階段を上がり、エレベーターで5階の佳松亭のロビーまで案内されます。本来は土足厳禁であるべき木造建築の廊下や階段を、靴のまま歩くということに女房は強い違和感を持ったようですが、佳松亭との連絡を考えるとやむを得ない処置なのでしょう。
佳松亭のロビーでホット梅ジュースを飲み、近頃熊が出て観光客が大怪我をしたので外へ出ないようにという注意を受け、部屋へ向います。佳松亭のロビーまではすぐに案内してもらえたのですが、ロビーでホットジュースを出された後、前の客への説明が終わるまでしばらく待たされました。説明に少し時間がかかり、部屋に案内されたのは2時過ぎでした。
部屋は137号室の「松風の7」という、7階の一番奥の角部屋でした。ここは料金が高めの部屋で、本来は最低料金の部屋でかまわなかったのですが、宿泊を決めた時点で佳松亭ではすでにこの部屋か、もう一つ上の特別室しか空きがなかったのです。
廊下の突き当たり、木の引き戸を引き、薄く模様のついたスチールのドアを開けると、二畳大の黒いタイル様の玄関の先に三畳大の板敷きの踏み込みがあります。上がって、まっすぐ踏み込みを行くと正面が広めの洗面所で、そのまま左に洗面台を見て、突き当たりに風呂のドアがあります。石造りの湯船としゃれたタイル張りの広めの浴室で、窓や横長の鏡が付いて明るいのですが、残念ながらここは温泉ではありません。洗面台に向き合った形で、反対側に和式のトイレがあり、洗面所入り口右手前には洋式のシャワートイレがあります。昔はこういう二つの違うタイプのトイレがあることはかなり親切だったと思うのですが、いまは年寄りでも和式の方がいいという人は少ないのではないでしょうか。むしろ年寄りほど洋式の方を喜ぶ人が多くなっただろうと思うのです。せっかくトイレが二つあるのに、我々が使ったのは洋式の方だけでした。もう洋式タイプを二つという形に作り変えた方がいい時代だと思います。
洗面所の手前左に畳廊下があり、正面の襖を開けると十五畳の主室、右の襖を開けると六畳の前室になっています。前室には鏡台が置かれていました。主室の右側の板敷き部分にテレビとポットがあり、その横の作り付けのエアコンの上部分が出窓のような感じになっています。ここからは、佳松亭専用の玄関前の風景が見えます。主室の左手には1.5畳大の床の間があり、調度を兼ねた?民芸風の時計だけが置かれています。ただ、この時計はない方がいい気がしました。床の間に花はなく、左手の床柱に小さな花入れが掛けられて花が入れられていましたが、ここはちゃんとした花が床の間にほしいと思いました。床の間のさらに先には畳二畳の荷物を置くスペースがとられ、腰の高さの障子が立てられています。その右隣が一段下がった4畳大の広めの広縁になっていて、しゃれた感じの籐の椅子とガラステーブルが置かれていました。広縁の窓からは見下ろす感じで、間近の木々の向うに、積善館の山荘の屋根と、四万グランドホテルの客室などが見えます。
全体的に明るく、とにかく広々とゆとりがある部屋で気持ちがいいのですが、却って、この広さは我々二人だけでは持て余してしまいます。また、宿の方でも持て余している感じで、これといって調度に凝ったものもなくてがらんとした印象をぬぐえず、広さに負けてしまっている感じが無きにしも非ずです。また、やはり部屋全体に、建てられてから少し日が経ちましたねという、ちょっとくたびれた雰囲気が漂っています。
浴衣の気づかいはありましたが、部屋で改めてお茶を出すことはありません。テーブルには迎え菓子の積と善という字がそれぞれ浮き彫りにされた小さな落雁が二つと、種無し梅、きゃらぶきが置かれていました。落雁は品があっておいしいものです。部屋係は案内とは別の人で、後で挨拶に来てくれましたが、その時に自分の名刺をくれました。部屋係の仲居さんが名刺をくれたのは確か初めてで、ここには部屋係というものに対する旅館の考え方が表れている気がしました。
お風呂は本館側に、温泉通には有名な元禄の湯と混浴の岩風呂、山荘に貸し切り風呂、佳松亭に大浴場とそこから出る形の露天風呂と揃っていて、その浴場すべてとあと二か所の飲泉所を回るスタンプラリーも健在でした。初回はすべて回って何か記念品をもらったのですが、2回目も今回も入ったのは元禄の湯と大浴場と露天だけでした。男女交代はなく、掃除時間を除いて24時間入浴可能です。
元禄の湯は大正ロマン的なアーチ型の窓がついた雰囲気のあるタイル張りの浴場です。
ドアの外に履物を置いてドアを開け、中に入ると、いきなりタイルの床ですが、床下に温泉が流れているのか、床暖房になっています。ドアの左右に脱衣場所があり、浴槽のある部分より一段高くなっていて、浴場全体を見渡せます。一人か二人入れる程度の浴槽が四つとそれよりもやや広い浴槽が一つ整然と並んでいる、という変わった形式の屋根の高い浴場で、洗い場はありません。お湯はやや熱めという感じで、特につるすべなどの特徴は感じられません。このお湯は積善館の前の川の底から湧いているものだそうです。右の壁に蒸湯用の小さな入り口が二つあります。中は暗くて狭く、デッキチェアの形に作られたタイルの上に斜めに寝そべる形になります。説明書きにはここにお湯を何杯か掛け入れてから入るように書かれています。タイルはけっこう熱くて、狭苦しく、入り口を閉めるので薄暗く、閉所恐怖症の人は絶対にダメでしょう。女房の話によると、女湯ではみな敬遠して入らなかったとのことで、ぼくはもう慣れているので元禄の湯に入るたびにこの蒸湯にも入ったのですが、割とすぐに出てきてしまい、記念入湯に近いものがありました。蒸湯に限らず、この元禄の湯はなぜかあまり長居をする気分にならないのです。タイル張りで、明るいからでしょうか。僕以外に入っていた人も、長湯の人は一人もいませんでした。あるいは、空間が広すぎるせいだからでしょうか。
5階にある露天付きの大浴場「杜の湯」は、大きく取られたガラス窓に面して10人程度の石の湯船が作られた、明るくて割と好きなお風呂だったのですが、今回行ってみると、ところどころにさびのようなものが浮き出て、やはり少し古くなったような感じです。このさびは外の露天側にもありました。
露天は大浴場から出る形です。屋根のある部分とない部分との二つの浴槽に分かれています。それぞれ8人ぐらいは入れる大きな岩造りの湯船で、様々なサイズの石が湯船の中に置かれていて、自分の好きな高さで半身浴ができます。ぼくにとっては形としては理想的な露天だったのですが、今回はちょっとばかり湯温が低すぎました。風邪をひくほどではないのですが、ずっと湯船に浸かりっぱなしという状態でした。湯口近くには、熱湯が出るので近づかないようにという注意書きがあるのですが、今回は湯口にも十分近寄れました。初回はむしろ熱めの露天という印象があったのですが・・
露天の周囲は柵で囲まれていますが、柵までの距離があることとその周りも木々であるので、開放感があり、十分に寛げる露天であるだけにちょっと湯温が温すぎたのが残念です。女房は温すぎたのでほとんど露天には行かなかったそうです。
無色透明で、5階の杜の湯も元禄の湯同様、下の川から湧く温泉を引いているそうです。大浴場とは別に佳松亭の玄関前に飲泉所があり、飲める温泉です。ほんの少しだけ塩味がある気がします。湯の花はありません。
また、以前は湯上がりの冷水はなかったのですが、今回は杜の湯を出たところに冷水機が用意されていました。ここは進歩ですね。
夕食は部屋です。「菊茶のもてなし」と題されたお品書きがあり、説明もあります。食前酒の「菊花酒」はちょっと変わった味わいでした。「箸附」は柿の白和えで、柿が甘くておいしいものでした。「酒肴」の菊ずわい蟹煮こごりは生姜の味が利いていました。「寄せ盛り」は柿の葉寿司・数の子西京漬け・丸十(いちょう形)・板雲丹(紅葉形)・汐煎り銀杏・畑しめじ酒焼き・むかご素揚げ・焼き栗などで、この栗は非常に甘くておいしいく、また数の子の西京漬けもいけました。「お椀」の雑煮椀には甘鯛酒焼きが入っていて非常に薄口なのですが、お餅がいいポイントになっていると思います。「向う付け」は勘八・ぼたん海老・平目・帆立のあぶりで、勘八も帆立もおいしいものです。この日は結婚記念日の宿泊である旨を伝えておいたら、亭主一献ということでかにの奉書焼がプレゼントされました。香ばしく味が濃い感じのとてもおいしい蟹で非常に満足しました。「和魂洋菜」は帆立雲丹きんとん焼きというもので、非常に上品な味付けです。薄味ですがおいしいものです。「焚き合せ」は海老芋・高野豆腐・巻貝・モロッコ隠元・紅葉麩・辛芋などが入っており、こちらは味がしっかりしていておいしいものです。「強肴」は名残鱧紅葉揚げ・松茸白仙揚げ・エリンギ黄身揚げ・伏見唐辛子素揚げという揚げ物のラインナップですどれもおいしいものでした。最後に「蒸し物」として、たらば湯葉蒸しが出され、〆の「飯」は土瓶雑炊で、鯛・ささ身・松茸・銀杏・海老・三つ葉・山葵・ぶぶあられが入っていて、簡単に言うと、土瓶蒸し茶漬けみたいな感じです。デザートの「甘味」は、小倉ムースがおいしいもので、まだ他にりんごワイン煮にオレンジがありました。初回はかなり凝ったデザートだったという記憶があったのですが、今回は初回ほどのインパクトはありませんでした。仲居さんは京都風の料理ということを強調していましたが、確かに全体的にかなりの薄味で、薄味に慣れていない人は物足りない味なのかもしれません。それで、仲居さんも予防線を張っていたのかなと思いましたが、ただ、薄味といっても決して水っぽい味というわけではなく、十分に素材の旨みを引き出した味で、ぼくは納得できました。
最初に食前酒、箸附け、酒肴、寄せ盛り、向う附けが置かれ、次にお椀、和魂洋菜、炊き合わせが一度に、その次には強肴と蒸し物と最後の食事が一緒に来ました。ペースとしてはちょうどいい塩梅なのですが、やはり、ここなら一品ずつにしてほしいところです。
全体的に十分に満足度の高い食事でしたが、もし、記念日でなくてあの蟹が無かったらどうだろうと考えると、やはり初回ほどの満足度は得られなかたっと思います。
食事の最後に羽根かそばかどちらの枕がいいか聞かれ、また、食器をすべて下げ終わった時に浴衣の替えと新しいバスタオルを補充してくれます。
朝食は部屋ではなく、フロント横の食事処になります。テーブル席で、席と席の間に特に仕切りというものはありません。席に着くと、最初に布団を上げるかそのままにするか聞いてくれました。
朝食は、刺身が付いていました。サーモンのたたきと帆立の二点で、量は少ないものの二点もあるのは珍しく、うれしくなりました。横に豆腐の入った牡蠣鍋があり、これはスープがおいしいものでした。あとは、小皿に入ったおかずが4皿ずつ二段重ねの容器に入っています。卵料理も納豆も海苔も湯豆腐もない、一般的な朝食とは違ったものです。魚は鯖の塩焼きが、その小皿の一品として出されます。おいしい揚げ出し豆腐、大根と人参と鯨のなます、しゃきしゃきしたきゃらぶき、ひじき、白菜、銀杏入りがんもどきと人参の煮物などが小皿の中に入っています。あみ茸と豆腐の味噌汁もおいしいものでした。お粥が出され、菊の花を散らした上品な味のおいしいお粥でした。全体的に料理の味が濃くないので御飯なしでも食べられるいい朝食です。デザートのフルーツ盛り合わせは二つの容器に分かれていて、一つにはメロンが二種類とグレープフルーツが入っていました。黄色いメロンはすごく柔らかくて美味しいものでした。もう一つの器にはりんごと、オレンジとラフランス。ラフランスは固くて味がなく、まだ時期的に早いものだそうですが、熟したものとは全然違った食感でそれが新鮮な驚きでした。ただ、これは驚きがメインで、味としてはおいしいものではないのです。脇には巨峰もありました。遠目で見渡したところ、このフルーツ盛り合わせは、プランによって差がつくようです。とにかく、これは非常に満足できる朝食で、初回の朝食と比べても遜色はないと思います。
今回はグルメプランであり、部屋も上から二番目のランクの部屋ということで期待していったのですが、部屋は高級旅館の部屋という感じではありませんでした。きれいなのですが調度が少なく、そのためにただただ広さを感じてしまうだけの部屋という印象でした。床の間にちゃんとした花がないのも、やはりこのくらいの料金だと淋しいものです。また、前回より年月が経ってしまったこともあって、やはり古くなったなという印象も持ちました。お風呂は相変わらずいいお風呂だとは思うのですが、大浴場や露天もさびなどが浮いて、やはりここも古くなったなという印象を与える部分があったし、露天の湯温が温かったのが残念でした。夕食はおいしかったのですが、前回ほどの大感激というインパクトがなかったのが淋しい気がしました。それと、一品ずつではなく何品かまとめて出されてしまうのも高級旅館とは言えない感じです。宿としては、もうその辺は割り切っているのでしょうか。料理の味はかなりの薄味で、これは料理長が京風に強くこだわっているような気がします。
この旅館の大きな特徴は、女将が美人女将で、しかも時々TVの美人女将特集に出てくる、「えっ、この人が美人?」というような中途半端な美人女将ではないのがすごいところです。今回も、女房には、女将が美人だとは前もって一言も言わなかったのですが、女将が挨拶で部屋に入ってきた途端に、女房から「美人女将ですね!!」という言葉が出ました。しかも、よく気がつくし、帰宅した後に届く、通りいっぺんではない直筆のお礼状を見ると、字もうまいのです。娘さんはもう20歳を越えているらしいのですが、まだまだ美人女将健在という感じです。
ここは長い歴史を持つ老舗旅館で、元禄の湯という素晴らしいお風呂もあります。女将も一生懸命で、宿泊客も順調に集まっているように思えます。ただ、その割に古くなった部分の手入れが行き届いていません。
部屋やお風呂の手入れを再確認し、部屋の意匠や調度、食事をもう一度吟味し直して、老舗旅館をより一層完成された形に磨き上げていってほしいと思います。
 
さて、四万の佳松亭積善と組み合わせてどこに行こうかと迷ったのですが、久しぶりに伊香保にでも行ってみるかという気になりました。伊香保は群馬の温泉の中ではこちらから近く、割と行きやすいので以前は結構行っていたのですが、どうも他の温泉地と比べて魅力的な宿が少ない気がして、最近はすっかり足が遠のいていました。以前、岸権旅館に行ってからもう7年近く経っていました。佳松亭積善に初めて行った時より、さらに前のことです。伊香保の旅館は相変わらずなのだろうかとクチコミを片っ端から調べていたら、意外に評価の高い宿を発見しました。それが「お宿玉樹」でした。
お宿玉樹へは、伊香保のバス停まで迎えの車が来てくれます。遠いのかと思ったら、中心部に近いところで、あっという間に着きました。石段街にも行きやすいところのようでした。ただ、着くまでは分かりにくそうな道でしたので、やはり迎えに来てもらった方がありがたいと思いました。
四万を11時にチェックアウトして、どこにも寄り道しなかったので、1時40分に早くも玉樹に到着してしまいました。インが3時なのでまだ大分時間があったのですが、部屋の支度が出来次第に通してくれそうだったので、ロビー(ラウンジ?)で休んでいることにしました。その間、カウンターにいた仲居さんとずっとしゃべっていたのですが、この仲居さんは落ち着いていて、こちらの質問に何でも答えられる品のいい人でした。どうも、この人が女将なのではないかと思ったくらいだったのですが、話しているうちに話の内容からどうやら女将ではないことが分かりました。女将はどうも不在だったようです。ラウンジでは熱い柚子ジュースと柚子ゼリーが出ました。
2時頃に部屋の支度が出来たということで、この仲居さんが案内してくれました。この仲居さんは気の利く人で、チェックアウトの時に、檀(まゆみ)の実はどんな実かと質問した女房のために、部屋近くの廊下に活けてあった枝から、実のついた部分を切り取ってわざわざ、これです、と持ってきてくれました。
部屋は檀(まゆみ)という、五階建ての三階の部屋です。畳廊下をぐるりと歩いて行き、ガラスに鉄の格子の入った扉を開けると、よしず張りの一畳ちょっとの玄関で、ガラスを通して外から部屋の玄関と踏み込み部分が見えます。他の部屋は普通のドアなのに、なぜかこの部屋だけがガラス張りでした。玄関の右に小物を置く民芸調の棚があり、踏み込みに上がると小さな畳が三枚敷かれています。小さいので、普通の畳だと二畳分くらいの広さでしょうか。踏み込みから左に少しずれたところに洗面の入り口があり、中に入ると広目の洗面です。その右手がシャワートイレで、部屋風呂はありません。踏み込み左の襖を開けると十五畳の広い和室で、入ると左手の壁に32か37型の液晶テレビが直接取り付けられていて、この壁はものすごく新しい感じす。天井にも直付けのエアコンが取り付けられていて、これも新しい感じなのに、柱は古く外の手すりは錆びだらけ、というように新しい部分と古い部分とが混在している部屋でした。ただし、部屋が民芸調であるせいか、それがあまり違和感なく全体的にうまくまとまっている印象を与えています。広縁はなく部屋に炬燵が置かれています。部屋の中ほどの金庫の上が洋服入れで、その右手に床の間があります。床の間には花がきれいに活けられていました。床の間の右はじに小さな物入れが備え付けられていて、その上にインターフォンなどが置かれています。床の間の右手に窓があるのですが、窓からの眺めは隣の寂れた民家、アパート等で景色は全然良くないし、覗き込みもあります。左手には山が見えるのですが、その下の旅館街も目に入ってきます。他の部屋はまた、違った景色が眺められると思うのですが、この窓からの眺めは、最低ランクに近いものだと言っていいでしょう。
窓に沿った右手に三畳の小部屋があって、召し換え用の控えの間という感じです。小部屋の窓の目の前にはきれいな紅葉の木があり、半分くらい紅葉しているのですが、窓に網が入っていてあまりよく見えませんし、外の柵も錆びていました。
迎え菓子は「てまり」という非常に上品なとてもおいしいお菓子で、これは高く評価できると思います。玉樹特性の微塵子菓子だという説明がついていました。ちゃんと部屋でもお茶を入れてくれましたし、その「てまり」という迎え菓子以外のお茶請けに、花隠元豆やきゃらぶき、お茶は菊茶と昆布茶も用意されています。浴衣の気づかいもあり、寝巻き用の白い浴衣も用意してくれました。民芸調の部屋で全体的には古い感じなのですが、中はよく手が入れられています。天井も格子状の雰囲気のあるもので、調度にもよく気が配られ、部屋としては昨日の佳松亭積善の角部屋よりも雰囲気はありました。また、キーが可愛らしい袋に入って二つ用意されているのもうれしいことでした。
お風呂は夜の8時と朝の5時の二回交替で、夜中も入浴できます。最初男性用は、明るくすがすがしい大浴場で気分よく入浴することができました。白木がふんだんに使われている、光がよく入る浴場です。浴槽は8人くらいは入れそうで、洗い場も浴槽から見えないつくりになっている、心配りの行き届いたものでした。ただこのお風呂は温泉ではあるものの無色透明のお湯でした。最初女性の方のお風呂は交代時間の関係で、明るい時に男性は入れないので何とも言えないのですが、女房はいい印象を持ったようです。伊香保特有の茶色い色のついたお湯は最初女性用の浴場にしかなく、ここは深めの浴槽になっています。最初男性用の脱衣場には加水なし、加温あり、循環、消毒の表示があり、お湯はかすかな塩素臭がしました。女性用には、加水なし、温度が下がったときのみ加温、循環なし、消毒の表示がありましたが、こちらの消毒には塩素は使われていないようです。
露天は、最初男性用も、女性用も大浴場から出る形です。最初男性用は白木の湯船の、3人くらいしか入れない浴槽と、それよりも広い半露天のジャグジーのお風呂があります。周囲をよしずで囲まれているのですが、露天部分に白木のすのこのスペースがあり、近くに菊のしゃれた鉢植えがあったりして、感じのいい気の利いた露天でした。最初女性の方の露天は夜しか入れず、しかも照明が間接照明でかなり暗めなので内風呂ともどもよく分かりにくかったのですが、丸い桶風呂になっていました。
脱衣所に冷水機があり、飲もうとして備え付けの小さな紙コップに水を汲んだら、何か白濁しています。おかしいなと思ってよく見たら、水ではなくてこれはポカリスエットでした。冷水代わりにポカリスエットがあったのは初めての経験です。ただし、これは最初男性用の大浴場のみで、最初女性用には湯上り処に麦茶のポットしかなかったと思います。
食事は衝立で仕切られたテーブル席が並んだ食事処でです。お品書きはなく、説明はあったと思います。食前酒は梅酒、先付けはルッコラとパール麺のサラダで、サラダが先付けとは珍しいと思います。もってのほかと蟹肉、千切りの大根のようなものの煮物?もあり、これも先付けっぽい感じです。前菜は五種で、火に掛けた土瓶蒸しの横の網の部分であぶって食べる、小さな小さな岩魚はおいしいものでした。その他、むかごを練り物の中に埋め込んだもの、小エビの背に切れ目を入れ魚卵を乗せたもの、白和え、子持ち昆布というラインナップでした。土瓶蒸しは銅製の大き目の容器に鱧と松茸が入っていて、それを火で暖めるのですが、器が大きかったせいか、最初は味があまり出ていない感じでしたが、ちびりちびりと移して飲んでいるうちに、次第に味が濃くなってきました。焼物は榛名山麓牛のこんにゃく八幡とエリンギで、こんにゃくと牛がよく合っていておいしいものです。強肴のお蕎麦も最初から付いてきました。続いて、鮪、勘八、さしみこんにゃくのお造りと茶碗蒸しが出され、さすが上州、さしみこんにゃくがおいしいものでした。茶碗蒸しもフカヒレが入っていておいしいと思いました。その次からは一品一品出され、まずは里芋のおから饅頭で、かもじごぼうが上に乗り、蕎麦の実の餡がかかっています。次が揚物の牡蠣のオイスターソース掛けでおいしいものです。続いて揚げ物の、あかもみ茸、さつま芋、海老進丈の蓮根はさみ揚げが出され、最後に酢の物でギンヒカリ(虹鱒)のみぞれ和えでした。食事の舞茸御飯は可愛らしい陶製のお釜に入っています。デザートは梨とみかんとアセロラシャーベットでした。デザートはまあ普通というところでしょうか。献立は二ヶ月に一度くらい変わるそうで、全体的においしくいただけ、満足しましたが、特に、とび抜けたといったものはなかったような気がします。
朝食は昨晩と同じところでした。段々豆腐というものが出され、これはおからの出ないこくのある豆腐だそうです。食べてみると、きめが細かい感じで、ちょっと変わった食感ですが、おいしいものでした。自家製の豆腐焼売というものもあり、これもおいしいと思いました。味噌汁が火に掛かっていてその脇に鮭の乗った網があるのですが、鮭はちょっとしっとり感がありません。小松菜のお浸しは薄味でしゃきしゃきしており、ポン酢で食べる野菜サラダとともにいいと思います。あとは温泉卵があり、蓮根と人参の煮物もありますが、この蓮根はちょっと乾いた感じがしました。味噌汁はまあまあといったところでしょうか。ごはんは黍がゆという珍しいものですが、これは味がついていないので山椒、川海苔、昆布などを載せておいしく食べることができました。朝食も夕食同様、全体的にはよくできていたと思います。
ここは古くて旧態依然としたところが多いという印象を受ける伊香保の旅館の中では、稀な、女性好み系のこじゃれた宿だと言えます。従業員の感じもよく、お風呂も食事も部屋も平均点以上でしょう。部屋からの眺めはどうにもいただけなかったのですが、これは最低料金の部屋をこちらが選んでしまったためでしょう。部屋の景色以外は特にこれといった欠点というのは見当たりませんでした。ただし、夕食は特に飛びぬけた物というのがなく、朝食も特筆するほどのことはないので、この辺がさらに強力になれば、旅館としては鬼に金棒といったところではないでしょうか。料金によっての食事内容の差というのはないそうなので、高い料金で泊まった場合は食事に対する満足度は、今のところやや下がるでしょう。とはいえ、全体的に考えても、女性にとってはかなり満足度の高い宿であることは間違いないと思われます。

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以前から、是非行ってみたい宿に那須の「二期倶楽部」がありました。ただ、料金が高めで二の足を踏んでいたのですが、次第に行きたい気分が高まってきて、まあ、もう一泊を安めの宿にすればいいのではないかと、那須近辺の宿のクチコミを探しはじめました。そして、食事の評価も高く、それぞれの書き込みの内容もなかなかの宿を発見しました。それが「ペンシオーネ サライ」でした。
「ペンシオーネ」という言葉からも分かるように、ここはペンションで、それまでペンションに泊まったのは、温泉宿めぐりを始めた初期に、霧島の「ペンション あこがれ」というところに一泊したきりです。そういえば、この時も「忘れの里 雅叙園」と組み合わせたのでした。「ペンション あこがれ」は、お風呂は内湯も露天もよかったし、食事も悪くはなかったのですが、部屋が今一で、しかもトイレは忘れましたが、洗面所が外ということで、それ以来、ペンションは宿探しの範疇から除外されていました。絶対にダメというわけではないのですが、ペンションまではわざわざチェックすることはなかったというところですね。
しかし、この「ペンシオーネ サライ」はクチコミでの評価が高いということと、温泉であるということで、だったら、ペンションでも構わないんじゃないか、ここにしてみようと、急浮上してきたのです。
サライのチェックイン時間は4時、チェックアウトは10時です。ここはあるいは手伝いに人が来ることもあるのかもしれませんが、ほとんどご主人夫婦の二人でやっている宿だと思います。従って、掃除や何やかやで、どうにか客を迎える容易ができるのが4時らしいのです。あらかじめ、4時前に来ても入れないという知らせがあります。
ということで、当日、玄関前に着いたのは4時10分前でした。まあ、10分前なのでちょっと様子を見てみようと、玄関のドアを開けようとしたが開かないのです。入れないと入っても、まさかドアまで閉まっているとは思いませんでした。仕方なく4時まで待っている間、続々と他の宿泊客が車で乗り付けてきました。4時だから、ほとんどどこかで時間をつぶしていたのでしょう。ここは全部で5部屋なのですが、そのうち4組の客がすでにチェックイン前に集まって、まだ開かないドアの前で「大丈夫かな・・」などと話し合っていました。4時になってもまだドアが開く様子がないので、宿に携帯を掛けようとしたら、やっとドアが開きました。
われわれがチェックイン一番乗りだったので、ご主人が急いで荷物一つを持ち、案内してくれました。階段を上がってすぐの203号室、イタリアンテイストの部屋に通されます。この宿は全5室のそれぞれが○○テイストと特徴づけられています。木製のドアを開けると、すぐ右がクローゼット。クローゼットに向かい合った左側がユニットバスで、シャワートイレとFRPの浴槽を挟んだ真ん中に洗面台があるタイプです。全体が二畳程度の、ユニットにしては普通サイズぐらいでしょうか。ドアを入ってからクローゼットとバスルームに挟まれた廊下が畳にすると一畳分くらいあり、その先の8畳大の空間の左に木製のベッドが二つ並べられています。真ん中に小さなテーブルが置かれ、11月の宿泊ですが、すでにクリスマスバージョンのスタンドやクリスマス小物がところ狭しと並べられていました。つい最近、模様替えをしたようなことを後で奥さんから聞きました。ベッドの上の壁にはタペストリー、左側のベッドの横の壁にはクリスマスリースが掛けられています。天井には可愛らしいしゃれたシャンデリア、ベッドと反対側の壁にはサンタクロースの絵と鏡、さらに、鏡の下のちょっとした飾り棚にもやはりクリスマス関係のものが置かれています。棚と並んで中央付近にテレビがあり、テレビを挟んで左右にスツールがあります。右側のベッドの横、つまりドアを開けたときの正面が窓で、窓からは一階部分の屋根、青空、木々が見えました。覗き込みはなく、上半分はひらけているのでそんなに悪い景色ではありません。部屋には飴玉が二個、お迎えの言葉と一緒にテーブルの上に置いてありましたが、ポットやお茶などはありませんでした。もちろんお茶出しもありません。冷水、冷蔵庫、金庫もなく、浴衣はあるもののサイズの気づかいはありません。隣の話し声や、廊下での声がよく聞こえます。とにかく女性が喜びそうな小物であふれている部屋ですが、基本的な造りは一般的なペンション同様に質素という感じでした。
ここのお風呂はメインの貸切露天が一つで、補助的に温泉ではない普通のお風呂が一つあります。この日は満室の5組で、しかもそのうちの一組が娘と親夫婦だったのでさらに分けて入らなければならず、やりくりが大変そうでした。夕食前に30分、夕食後に30分、朝30分の三回がそれぞれ時間指定で割り振られます。チェックインした順に夕食前の入浴時間が決められ、われわれは一番早い4時15分に指定されました。書いたようにチェックインが4時を過ぎていましたので、部屋に入ったら、とにかくまず入浴の支度をしなければなりません。その忙しかったこと。ご主人が大急ぎでわれわれを部屋に案内した理由が分かりました。夕食後はチェックインした順に好きな時間帯を取れますが、その代わり、朝の選択は逆の順です。われわれは、朝は最後に残った時間帯になります。8時からが朝食で、残っていたのは8時40分。つまり、朝食前には露天に入れませんでした。
階段下にある補助的なお風呂は、空いていれば自由に入れる模様(説明がなかったのですが、ドアの外に札が掛かっている構造からして、恐らくそうだと思います)で、仕方なく、朝食前はここで入浴と髭剃りを済ませました。
さて、その貸し切り露天風呂ですが、ここはクチコミの評判がなかなかいいようです。半露天のような感じで、4人くらい入れそうなけっこう広いお風呂になっています。見晴らしはまったくないのですが、木の壁が二面あり、その反対側の二面が大きく開放された空間で、緑の木々が目に入ってきます。なかなかいい雰囲気の岩風呂です。大きく開放された二面は、夜、ガラスの仕切りが閉められる構造になっています。塩素臭がややして、循環だと思われますが、温まるお湯でした。ただ、お湯にそれほどの特徴は感じられませんでした。洗い場は二か所ありました。
夕食は一階のダイニングです。7時開始で、9時終了でしたが、この日は先に書いたような事情で夕食前に全員をお風呂に入れる都合上、7時開始だったようです。客数によっては、時間が早まるかもしれません。支度が出来たらご主人が各室のドアをたたいて教えてくれます。
メニューはなく、説明がありました。奥さんが作って、ご主人がサービスするという満山荘型です。テーブルに着くと、テーブルにはすでに生ハムと海老のサラダと、かぶのスープが置かれていました。スープはやや冷めてしまっている感じがしましたが、まだ温かでおいしいものでした。野菜は近くの農家から買っているということで、この日もからし菜の一種の新製品だというものがサラダの中に入っていました。サラダには大きな海老も二尾入っていたのですが、残念ながらこれは特筆すべきほどの海老ではありませんでした。続いて、この宿の名物のビッグサイズのエビフライです。頭と尻尾が大きなお皿からさらにはみだしている、知らない人は絶対に驚くサイズです。ぼくはクチコミを読んでいたので、それほど驚かなかったのが、却って残念でした。シータイガーという種類の海老だそうでブラックタイガーの親戚のようです。ただ、海老には変わりないので、伊勢海老同様食べられる部分は結構少なく、サイズの割に超ボリュームがあるという感じではありません。とはいえ、さすがにここの名物だけあっておいしいものでした。ただ、絶品とまではいかない気がしました。添えられたタルタルソースや付け合せのエリンギと茄子のフライ、トマトとすべておいしいものでした。最後は牛の網焼きステーキで、皿にのったライスがついてきます。女性のライスは少なめにしてあるそうです。肉は柔らかくておいしいもので、ソースはちょっと甘めの、ペッパーとガーリックの入った和風ソースです。また、これも付け合せの舞茸の香りが高くておいしかったです。デザートはフルーツ(メロン、キーウイ、柿、りんご)においしいチーズケーキとカシスシャーベットで、かなり評価できます。ただ、食後のコーヒーは薄くて??という感じでした。配膳のペースにやや波がありますが、これは、奥さんが一人ですべて作っているせいで、しょうがないでしょう。奥さんはレストランなどの経験はなく、ここの料理は家庭料理だと言っていました。全体的においしく、ボリュームたっぷりで、十分に満足できる食事です。
朝食も同じところです。洋食メニューで、スープはキャベツと人参、じゃがいも、茸、ベーコンのコンソメでそれほど味は強くなく、優しい味でした。もう一つ、大きなお皿にサラミとロースハム、レッドグレープフルーツ二切れ、クルトン、からし菜、レタス、胡瓜、トマトと盛りだくさんのボリュームたっぷりのものが盛られているサラダと、その下に卵焼きが乗っていました。ブルーベリーのヨーグルトは優しい味でおいしいものでした。あとは牛乳と、もちろんパンです。バターロールとクロワッサンの焼きたてパンがふわふわサクサクで、非常に柔らかく絶品でした。やはり、パンの焼きたては素晴らしくおいしいですね。ここの朝食はお客さんが焼きたてのパンを食べられるように、それを第一に考えているようです。満足感のある朝食でしたが、最後に出た紅茶もちょっと薄い気がしました。最後のコーヒーや紅茶はどうもご主人が入れるようです。
さて、クチコミで大評判のサライですが、ここには大きな欠点が三つあります。まず第一は、4時インで4時までは鍵がかかっているため一歩も中へは入れないということ。多分、雨が降っている場合などは入れるのだろうと思いますが、このシステムは客を大きな不安に陥れます。せめて、ドアノブにその旨を書いた札を掛けておくべきでしょう。二つ目は、風呂が夕食前、夕食後、朝と三回入れるのはいいのですが、貸切風呂であるため、時間が正確に割り振られてしまい、自分の好きなときに入ることができません。一番にインしたこの日は最初が、4時15分、朝は8時40分という、いずれも非常に慌しい時間になってしまいました。しかもそれぞれ時間は30分のみです。風呂自体はいいのですが、のんびりと自分の好きな時間に入りたいという人には合わないですね。平日など、客数が少ないときはもっとゆとりを持って時間を取れるらしいのですが、今回はあいにく満室で、さらに一部屋は分割して入らなくてはならなかったため、かなり窮屈になってしまいました。この混雑を避けるにはなんといっても、平日で、客数が少ないときがお勧めです。最後は、やはりペンションということで、部屋が狭く、周囲の音がかなり聞こえるという点です。いくら人気の宿とはいえやはりペンションですねというところです。ただ、これだけの欠点がありながら驚くのは、ぼくが読んだ限り、クチコミではこれらにふれた内容はほとんど目にしなかったということです。これらの欠点を覆い隠してしまうほど、長所が強烈に印象に残るということなのでしょうか。
クチコミに書かれていることから考えると、ここが人気の理由は、お風呂がペンションにしてはいいということと、食事がおいしいということ、内装が女の子好み、主人夫婦の人柄という四点でしょう。特に奥さんは肝っ玉母さんという感じで、人懐っこく話好きです。ペンション内外や、部屋に飾られたかわいらしい小物はすべて奥さんの趣味で集めたそうです。それに、帰りぎわ、それぞれのネームの入ったワイングラスをくれるのですが、これも評判を上げているかもしれません。この辺に実に奥さんのサービス精神があふれているような気がします。お風呂や部屋にはあまりかまわないペンション好きの人にはかなり満足度の高い宿であることには違いないでしょう。
最後のチェックアウト客であった我々には、奥さんが長く話に付き合ってくれ、道の角を曲がるまで手を振って送ってくれました。
願わくば、3時インになりさえすれば欠点の二つはかなり緩和されるのですが・・
 
二期倶楽部は3時インなのですが、サライを出てから、殺生石を見て、食事をしただけだったので、1時前に一番最寄りのバス停に着いてしまいました。最寄りとはいえ、ここから二期倶楽部まではさらに横道をかなり入らなければいけません。そこで、ここに迎えに来てもらえるかどうか電話をかけて聞いてみました。正式ルートの送迎の方に車は出てしまっているので、タクシーでいいかという返事でしたので、タクシーを呼んでもらうようにお願いしました。ところが、15分以上待っても来ないのです。もう一度電話してみると、バス停の場所が分からないということでタクシー会社から断られたらしく、まだタクシーの手配がなされていない状態なのでした。近くに目印になるような建物がないかと聞かれたので、看板をたよりに、近くにあるらしい、サファリパークへ向かうことにしました。しかし、どうもそこまでもかなり遠そうです。運よく、歩いている途中に大きなイタリアンレストランがあったので、ここで待っているとホテルに連絡し、タクシー会社に伝えるように頼みました。それからさらに30分以上待ったでしょうか。やっとタクシーが到着しました。計、45分以上。こんなに長時間タクシーを待ったのは初めてです。といっても、この段階でも正式のインの時間には1時間以上あったので、まだ良かったのです。しかし、これがインの時間を過ぎていたら怒り心頭というところだったでしょう。タクシー会社とのやりとりに不安があるなら、手配する段階で、念のためにこちらの携帯番号を聞くべきでした。
タクシーから降りると、フロント(二期倶楽部ではレセプションと呼んでいるようです)のある建物へ通じる外通路に男性が迎えに来ていました。インの手続きは女性のフロントスタッフでしたが、この女性の対応はてきぱきとして完璧でした。ただ、この女性がさっきの電話対応の女性であったら、ちょっと落差が激しい感じがします。
ロビーでハーブティーを飲みながら、少々待ちましたが、しばらくして、この女性が部屋まで案内してくれました。
部屋は13号室。目の荒い石の通路と石段を通って、二段に並んだコンクリート製のコテージ?の連なりの入り口近く、上段の部屋です。二期倶楽部の部屋はみんな独立した造りであることを、この時、初めて知りました。木製のドアを開けると半畳分の石のたたき。部屋のフローリングとほとんど段差がないので、そのまま靴で上がろうとしてしまいましたが、ここは玄関で靴を脱ぐタイプでした。入った左側に南瓜の入れ物に実のなった植物が置かれていました。そこを背にして部屋の中に上がると、踏み込みに当たる廊下部分が一畳分あり、左の壁に開けられた空間を通して二つ並んだベッドが見えます。そのまま真っ直ぐ行くと、広くてテーブルのように使える30センチ程の幅がある両袖がついた、斜めに寝そべる形の大きな椅子が二つ並んでいて、椅子の間には小さな丸テーブルが置いてあります。もちろん、オットマンもちゃんと置かれています。この大きな椅子が部屋の右半分を占領しています。手前と向こうに二つ並んだ椅子を通してその先に全面に開けた窓があり、ブラインドが窓全体に掛かっているのですが、ブラインドのそれぞれの羽根が水平になっているので、光が入って、外の木々や、前のコテージの背中部分が目に入ります。覗き込みはありません。特に見晴らしがいいわけではないのですが、緑の木々が窓一杯に広がる感じと、横に走るブラインドのラインの感じがうまく調和して、非常に癒されます。
この二つの椅子と向き合った形で、左に木製のクローゼットがあるのですが、このクローゼットは小さめで、唯一この部屋で不満の残るものでした。クローゼットの右側に幅の狭いテーブルが置かれ、左の袖に液晶テレビ、右の袖にはお湯のポットが置かれていました。左の袖、テレビの下の扉を開けると冷蔵庫があり、中のソフトドリンク、ミネラルウオーター×4、缶ビール(スーパードライ×2、恵比寿×2)がすべて無料です。迎え菓子に当たる?小さなチョコレートも無料だそうです。有料なのはドアポケットのワインの瓶と大きなチョコレートだけだそうで、このサービスはうれしいものでした。
部屋には、絹のパジャマ、ひざ掛け、外歩き用の防寒ダウンコート、湯上がりのガウン、部屋着、タオルスリッパ、湯上がり靴下などが置いてあり、申し分ありません。窓の反対側、玄関の仕切りを挟んだ向こう側にセミダブルのベッドが二つ並んで置かれ、羽根布団が掛けられています。右側のベッドの横の壁は低い窓になっており外の坪庭の様子が見えます。右側のベッドとクローゼットの間の部分に奥の洗面に通じるドアがあり、開けると、正面がガラステーブルの洗面で、広さは普通でした。洗面の右にやはり、ガラス張りの石の浴室と陶器の湯船がありましたが、温泉ではないそうです。(不確定情報なのですが、温泉の部屋もあるようです)。左のドアを開けるとシャワートイレでした。
ベッド部分が4畳大、フロア部分が10畳大という感じで、全体に広くはないのですが、まあ、過不足のない広さという感じでしょうか。部屋に金庫、グラス、箸はないようでした。夜は、夜食用にあっさりとした上品な味のお稲荷さんの差し入れがあります。(女房は味が濃いと言っていましたが・・?)。朝は曇り空だったせいで、ドアの外に傘が用意され、新聞が筒状の透明なケースに入って、部屋の外のドアノブに掛かっていました。東館に泊まった人に聞いたところ、部屋としてのバリエーションや面白さは本館の方があるということでした。
ここは本館の中に内風呂、東館に露天付の大浴場、外の敷地内に露天風呂があるのですが、男女交代はなく、外の露天は12時まで、建物の中のお風呂は夜中の1時までとなっています。
本館の大浴場は暗くて狭目ですが、窓が大きくとられていて、これはこれで魅力的なところがあります。暗いせいか、なんとなく秘湯の雰囲気も感じられるお風呂です。東館の大浴場は打って変わって、モダンな感じのレモングラスのハーブ湯で、洗い場はガラスの仕切りがあります。一般的な広さで、大浴場の中から外に出る形の露天もあります。この露天は鹿児島の妙見の湯のような茶と緑の中間色で、鉄の匂いがぷんぷんしました。ただその割に、舐めてみても鉄特有の渋みや苦みのないすごくおいしい感じの味で、不思議でした。妙見石原荘のお湯よりもずっと口当たりはいいものでした。ひょっとすると、湯口から流れ込むお湯は、この鉄のお湯なのではないのかもしれません。
外の敷地内にある露天は本館の建物を出て5分くらい歩く感じのところにあるので、大雨の時は入りに来る人はいないでしょう。あまり凝った造りではなく、10人くらい入れそうな石の素朴な四角い湯船です。お湯は温めで無色透明、湯の花はありませんが温泉の匂いはしたような気がします。屋根はなく周りの林の木々が見えます。
東館には湯上がり用の部屋があり、棚にミネラルウオーター専用ラックが置かれ、取り放題になっています。あまりよく見ませんでしたが、ミネラルウオーター以外の飲み物もあったのかもしれません。
食事は本館のレストランでフレンチです。フレンチですが、お絞りもちゃんとついています。メニューも、もちろん説明もありました。食前のアミューズは戻り鰹のたたきと、銀杏・エスカルゴ・椎茸を一つの串に刺した串揚げで、アミューズとはいえ、しっかり食べさせてくれます。最初のサラダ仕立ての前菜(来島産紅葉鯛の炙り、秋の果実と菜園のサラダ 那須御養卵といくらを散りばめて)は、色とりどりの賑やかなサラダで、それぞれの野菜の持ち味が生きている気がしました。続いてのスープは、梅山豚のツクネ、柚子の手打ち麺と那須高原のキノコ、菜園の小野菜と比内地鶏のブイヨンスープでした。魚料理は那須白川産紅鱒とフランス産フォアグラの胡麻風味焼きで、フォアグラと焼きリゾットが良く合っていておいしいものです。肉料理は、特選那須北和牛フィレ肉の網焼きで+2000円だったのですが、肉が固めでナイフの切れ味も鈍く、切りにくかったです。肉は旨みがある重厚なものでおいしいのですが、固めなのでちょっとあごが疲れる気がしました。またフレンチの肉料理なので仕方がない面もあるかもしれませんが、ボリュームとしても少々物足りなかったです。デザートは里芋のアイスクリームとテリーヌドショコラで、この濃厚なチョコレートケーキがおいしいものでした。また、紅茶のゼリーをまとったフルーツの三点盛りもありました。さらに、小さな焼き菓子が6点ほど細長いお皿で出されます。コーヒーはマイルドでおいしいものでした。ここのフレンチはテーブルに箸が置かれています。全体的に悪くはないのですが、特筆するべき点はありません。また、2000円アップしたにもかかわらず、肉の印象は今一つで、定額の鴨にしておけばよかったという思いが残りました。東館の客は東館のレストランでの食事で、東館も料理長は同じだそうですが、メニューは違うとのことでした。
朝食は昨夜と同じレストランで、洋食か和食か選べます。朝食が選べる場合は和食にすることにしていますので、今回も和食を選びました。黒豆茶がまず出され、サラダとフルーツと飲み物がフリーということが告げられます。そのフリーの飲み物の中にスパーリングワインがあったのがぼくにとっては特筆すべきことでした(もしかするとこれは今、なくなってしまったかもしれません)。ありがたく二杯飲んでしまいました。魚は鯵でしたが、開きではなく塩焼で、それと、出汁巻き卵、煮た椎茸、はじかみという四点の乗った横長の皿、がんもどきの入った小鉢、韓国海苔の小皿、湯豆腐の入った小丼、しめじと油揚げの味噌汁、香の物がラインナップです。それらが一つの大きなお盆に乗せられて、テーブルに置かれる、よくあるホテルの和食形式でした。温泉水で炊き上げた土鍋御飯はその脇に添えられます。食後はコーヒーとメロンが出されました。後で写真を見るとたいしたメニューではないのですが、でもスパーリングワイン効果か、最後のコーヒーと果物まで、一時間ぐらいかけてゆっくりと楽しみました。ホテル形式の和朝食というと、決まりきった定型の感が強いのですが、ここは、メニューはたいしたことはなくても血の通った感じがして、かなり満足できた朝食でした。
ぼくの報告は大体、部屋、風呂、食事がメインで、それ以外のことはほとんど書かないし、実のところ、あまり目が行かないのですが、ここはあと二点、触れなければいけないことがあります。
その一つは、まず建物ですね。全体の外観、部屋と本館のつながり、東館と、どこを見ても素人目にもデザインが素晴らしいと思います。といって、こけおどしのデザインでもない気がします。ただ、このデザインに関しては文章で伝えるのは無理で、実際に自分の目で確かめるしかないのではないでしょうか。ちなみに、本館と東館は別の建築家だそうで、それぞれ有名な建築家なのでしょうが、まったくうとい僕は、聞いても覚えられませんでした。確か、本館は日本人、東館は外国人でした。
二つ目は、敷地の広さです。全部回りきった訳ではないので、全体がもっと広いのか、あるいはぼくが歩いた範囲がすべてだったのか分かりませんが、露天へ行くまでけっこう時間がかかりましたし、東館も露天とは別方向に歩いていくのですが、そこへ行くのもけっこう時間がかかるのです。部屋に防寒用のダウンコートがあった理由が分かります。敷地内に川沿いの遊歩道があったり、テニスコートがあったり、面としての広がりがある宿です。ここは連泊しないと、宿全体がどうなっているのか把握できないかもしれません。 
とにかく、ここにたどりつく前のタクシー45分待ちのダメージはかなり大きかったのですが、館内に入った時の雰囲気やフロントの女性の対応などで、大分落ち着き、さらに、部屋に入ってからは、どんどんプラス評価が積み重なっていった感じです。部屋、宿全体の雰囲気、お風呂、サービス、従業員の対応は申し分ないといっていいでしょう。料理は料金アップした割に肉が物足りなかったので、アップ無しの鴨だったら十分に満足していたかもしれません。敷地の広さや風景、建物のデザインなど、高原リゾートとしては申し分なく、書いたように、ここは二泊くらいしてゆっくりしたいところでした。三か所のお風呂もそれぞれ趣が違って面白いし、お湯が二種類あるのもいいと思います。また、チェックアウトが12時で、朝食の時間の幅が広いのも評価できます。少々料金は高いものの、癒しの宿としてはかなり評価してもいいでしょう。余談ですが、TV番組の「旅の香り」の女性スタッフが、プライベートで親孝行のために宿泊していました。
ただ、お風呂、食事とすべて部屋から外に出て行く形であり、外を歩く時間もけっこうあるので、大雨など気候の悪い時は十分楽しめず、大きな欲求不満が残ってしまうかもしれません。これも、リゾートとしてはやむを得ないことでしょうが、その辺の万が一のギャンブル要素もあることを念頭に置いて予約したほうがいいかと思います。

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今年の正月は久しぶりに富士山を見に、河口湖へ行こうということになり、その前後で一泊するならどこがいいか、と頭を悩ませているうちに、旅館系で評判が良く、たろささんもお勧めだった嵯峨塩温泉「嵯峨塩館」が浮上してきました。河口湖は、前々から一度は行ってみたかった「うぶや」にしたので、うぶやよりも料金の安い嵯峨塩を一泊目に持ってくることになりました。
嵯峨塩館は最寄り駅の甲斐大和まで、送迎が一本ずつあります。一本しかないのですが、迎えが1時30分、送りが10時と、チェックインの2時、アウトの10時に合わせてくれているのは良心的で、これはこの前の明神館にも見習ってほしいところです。迎えに来てくれたのは、ここのご主人のようで、とっつきは悪い感じなのですが、話してみると意外に話好きで、車の中でのいろいろな質問に答えてくれました。逆に、奥さんの女将のほうは、とっつきはいいのですが、口は重い感じでした。
さて、部屋に案内してくれたのは女将さんで、フロントでお茶を入れ、そのお茶をお盆に載せて、片手でバッグを一つ持ってくれての案内でした。お絞りは出ませんでした。通されたのは、「春蘭」という二階建ての一階の部屋で、ここは全部で12室だそうです。木の床の廊下を通り、格子模様の木のドアを開けて、中に入ると一畳大の板の間です。板の間のすぐ左にちょっと暗めのトイレがあり、シャワートイレになっています。トイレと向き合う形で板の間の右側が狭目の洗面台です。スリッパを脱ぎ、板の間から上がってすぐ右手の襖をドアのように手前に引くと8畳の和室になります。部屋には炬燵はないのですが、テーブルのところにはホットカーペットが敷いてあります。和室に入って右に一畳大の床の間があり、花と木の枝がちょっと雑然とした感じで挿されていて、柿の実の掛け軸がかかっていました。床の間には古いブラウン管のテレビが置かれ、下にビデオテープが何巻か有料で(100円?)見られるようになっていました。インターフォン用の電話もここに置かれていて、狭いだけにちょっとごちゃごちゃした感じの床の間です。その左が洋服入れで中にアメニティが揃っています。その下には暗証番号方式の電子金庫があり、ポットとお茶セットが金庫の前に置いてありました。床の間と向き合う形で窓があり、窓からは川と、向かい側の山というか斜面、そしてその上に青い空が見えます。木々が川の手前と斜面にあります。左に滝のような斜めになっている流れがあり、なかなかいい感じで流れていました。寒さでその流れの周りが少し凍っています。覗きこみはありません。
和室の左に4畳半くらいの板の間の洋室があり、3人くらい座れそうなソファと木の立派なテーブルが和室に向かう形で置かれているのですが、このソファのスプリングがやわやわでいただけません。体が沈みこんで、お尻がソファの底板に当たる感じでした。洋室にも和室と同方向の窓があります。窓とは反対側の洋室の襖を開けると、ちょうど部屋のドアの正面に当たる間取りになっています。迎え菓子はおいしい干し柿だったのですが、縦半分に切ったものが一人分で、できたらまるまる一個欲しいところでした。夕食は6時、朝食は8時と指定され、浴衣の気づかいはありません。やや古さを感じさせる部屋ですが、値段の割には広いし、内装は新しく、こぢんまりとまとまっています。
風呂は男女別に二つあります。夜6時〜7時半の清掃時間後、男女が交替し、そのまま夜通し入浴OKです。大浴場は小ぢんまりしたお風呂でした。シャワーのあるカラン式の洗い場は二つなのですが、それとは別に、前に渡された湯樋から手桶でお湯を汲む形の洗い場もあり、これは情緒もあるし、好きなだけお湯がすぐに汲めるので、なかなかいいと思いました。
露天は大浴場から出る形の岩風呂です。こちらも3,4人程度の広くないものです。部屋の窓から見たのとまったく同じ、川を望む眺めです。
お湯は、無色、無味、無臭で半循環なのでしょうか。泉質は高アルカリ泉ということですが、それほどぬるぬるした感じのアルカリ泉ではありません。脱衣所に麦茶の冷えたものがありました。
食事は大部屋の食事処です。木の衝立で各席が仕切られていました。お品書きはなく、詳しい説明もありません。6時開始と指定され、終了したのが7時40分ごろで、ちょうどいいペース配分だったと思います。
食前酒は梅酒で、前菜はあみ茸ときのこの二杯酢、ピーナッツ豆腐、鮑の煮貝、人参と大根の酢の物、高原花豆、合鴨の紅茶焼、という六点盛りです。この中では女房はあみ茸が、ぼくは鮑の煮貝と合鴨の紅茶焼がおいしいと思いました。ただ、前菜全体にはそれほどキレというものは感じませんでした。さらに、無農薬野菜を使った猪豚鍋に火が入れられました。以上が最初にテーブルに並んだもので、この後は一品ずつでした。刺身はこんにゃくで、これは柔らかくぷるぷるでおいしいものでしたが、こんにゃくだけなのが残念です。こんにゃくに付けるしっかりした味の酢味噌もいいと思いました。続いて、うずらの焼物と、お腹にきのこの入ったあまごの笹蒸しが来ました。しばらく放っておいて、熱いうちに笹を取らなかったせいか、あまごの皮が笹にくっついてしまい、あまごは赤裸状態になってしまいましたが、おいしいものでした。ここで、口直しのキーウィフルーツのスープが出されます。白濁していて甘く、ジェラートを溶かしたような感じでした。キーウィをワインで煮てつぶし、さらに生クリームを使っているそうです。その後の、とうがんのあんかけはあっさりした感じでおいしいと思います。揚げ物が、百合根、山芋、蓮根の磯辺揚げで、四月になると山菜の揚げ物になるそうです。最後に食事セットという感じで、よもぎそば、茶碗蒸し、ご飯、お吸い物、香の物が一つのお盆で出されます。よもぎそばはしいたけのつゆ食べる趣向で、こうたけの入った茶碗蒸しはさっぱりしています。筍ご飯はおいしいものでした。デザートは、山栗のアイスクリームに黒胡麻の入ったクッキーで、悪くありません。食後はロビー横の談話室にセルフサービスでコーヒーと甘い焼き餅の用意がされています。
料理は季節替わりで、時期により素材が少し変わったりするが、大きな変更は季節ごとということでした。今日の料理は煮貝以外はすべて手作りだそうです。
迎えの車の中でご主人に聞いたのですが、料理は女将さんが作っているそうです(そのことを女将さんに聞いたら、女将さんは「みんなで作っている」と言ってましたが)。ご主人によると、女将さんは有名な調理師学校を出ているということでした。全体の印象としてはおいしく、決して悪くないと思うのですが、その調理師学校を出ているのなら、もっと作れるんじゃないかと感じました。特に工夫の凝らされているものというものもなかったし、女将さんが作るといえば、つい満山荘と比較してしまうのですが、フルパワーの感じられる満山荘に比べると、8分くらいのパワーで作っている印象を受けてしまいます。伝統の料理を深めるというなら、嵐渓荘には及びません。
実はこの日、こんなことがありました。迎えの車の中だったか、あるいは部屋に案内される時だったかもしれません。今日の客はわれわれ一組だけだと聞かされました。お風呂に入って夕食前に部屋に戻ると、すでに部屋に戻っていた女房が「お風呂で立ち寄りの人と一緒になったけれど、これからの予定がまだ決まっていないようだったので、ここに泊まったら、と勧めてきた」というのです。その時点で5時を回っていたと記憶しているのですが、ぼくは、これから食事を用意するのは無理なんじゃないか・・と思いました。
ところが、6時になって食事処へ行ってみると、すでにその客が席に着いて待っています。時間通り夕食は始まり、聞こえてくる感じだと同じものが出されている雰囲気です。
すぐに対応できると言えば聞こえがいいのですが、作り置きのきく、手間のかからない料理が多いのではないかという一抹の疑問が捨てきれませんでした。
朝食も同じところです。魚は虹鱒の甘露煮で小さいものがちょこんとお皿に乗っています。それから、松前漬、酢蓮、伊達巻、田作り、黒豆、昆布巻き、というおせちの名残というか、正月を意識したものが前菜のように細長い皿に少しずつ盛られていました。これはうちでおせちを食べ飽きた人と、まったく食べなかったので、ここで正月らしさを味わえてよかったと喜ぶ人とで、極端に評価が分かれるのではないでしょうか。ただ、旅館としては、これはまだ松の内のこの時期には必要なメニューなのでしょう。それから、生ハムやとうもろこし、菜の花他の新鮮野菜に鰹節のかけられたサラダと、こんにゃく、だいこん、がんもどきをお湯であたため、甘味噌で食べるもの。定番の温泉卵と海苔。かぼちゃ、にんじん、大根の入った具沢山の味噌汁。と並び、デザートはコーヒーゼリーと甲州葡萄でした。これは聞きませんでしたが、やはりほとんど手作りのものだと思います。全体的においしいもので、ほっとできる朝食と言っていいのではないでしょうか。
この宿で初めての経験をしました。夜、布団に足を突っ込むと布団に湯たんぽが入っていました。ぼくは足が冷える質ではないので、かえって、蹴とばしてしまいましたが、冷え性の人にはうれしい気配りだと思います。送迎の時間の設定とか、キーウィをお土産にくれたりなど客の身になって考えることのできる宿だと思います。ただ、ぼくの思い込みかもしれませんが、夕食はもっとできる気がするのに、気合がいま一つ感じられないのが残念でした。お湯は高アルカリのお湯なのですが、それほど強い印象はなく、風呂場もそんなに特徴がある方ではありません。
ここは、思いのほか近場にあり、駅から送迎してくれるのはありがたいと思います。料金もリーズナブルで交通費もあまりかからないので、うちからも気軽に行くことのできる宿です。全体に、コストパフォーマンスはいいと思ます。最近、行った中でここと似たタイプなのは、埼玉のかやの家でしょうか。ただ、ぼくは食事はかやの家の方がよかった気がします。
 
嵯峨塩館を出た後は、大月経由の電車で河口湖へ向かいます。河口湖は、考えてみれば6年前に「秀峰閣 湖月」に行ったきりでした。「湖山亭 うぶや」は以前から行ってみたかったのですが、湖月よりもいくらか料金も高かったし、前に道路があったりして、景色は湖月よりも悪いのではと、ちょっと敬遠していたのです。ただ、旅館系のお勧め情報もあり、今回行ってみることにしました。
河口湖に行くと、車ではないので、つい、駅前の食堂で食事を取ることになってしまいます。今回もいつもと同じように食事を取り、店主?のお婆さんと泊まる宿などの話をしていたら、うぶやなら、チェックイン前でも迎えに来てくれるだろうと、わざわざ電話を掛けてくれました。
チェックインは2時なのですが、すぐに迎えに来てくれたので、1時20分頃には宿に到着しました。ロビーで抹茶と干し柿のお菓子をもらい、しばらく待つ間に、案内係の女性にカメラで写真を撮ってもらうことになったのですが、逆光だったり、設定がおかしかったりで、なかなかうまく写らず、じゃあこっちのカメラで・・などとやって、かなり手間取らせてしまいました。しかし、その女性はいらいらしたりせず、落ち着いていてにこやかな態度は変わりませんでした。
案内されたのは藍館の5階、518号室で、うぶやは全52室と最近行った中ではかなり客室は多い方です。じゅうたんの廊下から、デザインの凝った藍色の鉄製のドアを開けて中に入ると、石タイル1畳半くらいの広さの玄関です。玄関には背の高い靴箱が置かれ、斜めになった板の間の1畳半くらいの踏み込みを上がります。すぐ右がトイレで、石タイルの床になっているちょっと広めのトイレでした。踏み込みを少し進んだ右に洗面コーナーと言うべきところがあり、入るとまず、冷蔵庫と鏡のあるちょっとした空間で、冷蔵庫の上には冷水ポットが置かれています。さらに奥の襖を開けると左に1畳半ほどの洗面所があり、両袖のある洗面台に整髪料などが置かれています。洗面所に向き合う形にFRPのユニットのバスルームがあり、ここはやや狭目でした。
踏み込みに戻り、真っ直ぐ正面に当たる襖を開けると10畳の和室で、和室の右側面は手前に洋服入れと、その先に1畳ちょっとの板の間の床の間があります。小さな鉢植えの木が置かれ、掛け軸が掛かっています。床の間左の明かり窓の台の部分に、インターフォンやお針箱、ティッシュなどがあり、下にはゴミ箱が置かれています。和室の正面には二段くらい下がって、板の間の広縁があり、湖に張り出した感じになっています。広縁の左はじに造りつけのソファが置かれ、目の前に河口湖が広がって河口湖の正面に富士山という構図です。広縁はソファも含めて4畳くらいの広さでしょうか。
きれいでいい部屋なのですが、襖の縁の塗った部分が少しはげているのが残念でした。浴衣のサイズについては何も言わなかったのですが、目測で持ってきた様子で、二人ともぴったりでした。カギは2つあり、カギを玄関脇のポケットに入れて部屋の点灯をする方式です。メインの道路に面しているため、5階とはいえ外を通る車の音がけっこううるさく感じられます。ただ、夜は静かになるので、車の音がうるさくて眠れないということはありません。
迎え菓子は富士の歳時記というオリジナル饅頭。しっとりとした感じで、中の餡が二層になっていておいしいものでした。浴衣は館内用の色つきとと寝巻き用の白いものの二種類ありました。
ここは建物の端にお風呂棟があり、2・3階が男性、4・5階が女性で交替はありません。それぞれ下の階の大浴場から直接階段を上ると上の階につながり、露天は上の階の横の方に付いています。大浴場は夜通しOKですが、露天は11時半までということでした。
脱衣所にはバスタオルのみ備えられています。
大浴場はガラス面が二面、大きく取られ、そこから富士山が望めるという、明るい大浴場です。ガラス面には熱風が送られ、ガラスが曇らないように工夫されているそうで、確かに非常にきれいに富士山が見えました。ここまで外の景色がはっきり見える大浴場はなかったと思います。富士山が何よりも重要な要素になる河口湖の宿にとって、これは大きなポイントでしょう。立派な大浴場で洗い場も多く、10人以上は入れそうな広い浴槽ですが、ただ、塩素臭がするのが残念でした。無色、無味で循環ですが、つるつるした感じにはなりました。大浴場にはシェービングフォームと馬油シャンプー類がありました。
露天は五人くらいの浴槽で、河口湖と富士山が見えるのですが、周りをふさがれる感じで開放感はそれほどありません。朝、大浴場から富士山がはっきりとよく見えたので、これは露天から是非、と思って上の露天に行ったら、こちらからは霧がかかった感じで、あまりよく見えないという不思議なことがありました。そんなに位置は違わないと思うのですが・・
大浴場から露天に上がる上がり口に、富士の名水と表示された蛇口があって、裸のまま水を飲むことができます。湯上がり処には、冷水、お茶、ウーロン茶が選べる大きな冷水機が置かれていました。また、浴場棟へ向かう廊下に沿って、写真を並べた部屋や、湖に向かってずらっと五台のマッサージチェアが置かれた部屋があって、さすがこの辺は大型旅館ならではの設備だと感じました。
食事は部屋でです。お品書きはありましたが、くわしい説明はありません。若い男性が担当でした。6時30分開始の予定だったので、そのつもりで直前にお風呂から上がり、部屋で身だしなみを整えていると、もう6時20分にはテーブルに並べ終わり、こちらが二人ともまだ席に着かないうちに、勝手に鍋に火を点け、まだ立ったままのこちらに、勝手に簡単な説明をして部屋を出て行ってしまいました。これはこの料金の旅館にはあるまじき応対と言わねばなりません。いままで、どんな料金の安い旅館でも、火をつけたり、説明したりは必ずわれわれが席に着いてからで、料金にかかわらず、これは当然の作法です。ただ、この男性は悪気はなかったようで、その後の態度はまあまあでした。
食前酒は山梨のヌーボォで、甘口のさっぱりとした赤ワインです。前菜については、黒豆白和えは黒豆の甘味が濃縮されて白和えと合っていておいしいし、ふぐ煮こごりは固めの煮こごりでまあまあのところ、針魚手綱寿司は下の部分がご飯ではなく、卵の黄身みたいで非常にこくがあるものでした。豚肉味噌漬けもおいしく、柚子柿チーズはしっとりとしていけます。その他、水菜としめじの数の子和え、蟹味噌豆腐など、どれも手が込んだもので、前菜好きとしては、文句のないラインナップでした。吸い物は土瓶蒸しになっていて、中の鯛のすり流しも、進丈もおいしいものでした。造りのまぐろは赤身ですがこってり、していておいしく、勘八もねっとりとしていて濃厚でおいしいものでした。甘海老、数の子も十分の出来です。ここまでが最初に出され、あとは二品ずつくらい運ばれてきます。
焼物は金目鯛粕漬けで、これは塩が効いて、味がしっかりしたもので、うまく甘味が引き出されてなかなかでした。蒸し物のふかひれ茶碗蒸しは、濃厚な感じでおいしいいい味が出ていました。火鉢は特選料理ということで、山梨の和牛のすき焼き風とお品書きに書かれていました。いい牛でおいしいものでした。甲州ワインビーフは人気が出てしまって供給者が売らなくなってしまい出回っていないとのことで、今日のは麦芽ビーフ(ビール滓を食べさせた牛)というものだそうです。海老芋、蕪、梅麩、鰊甘露煮が入った煮物、蟹絹田巻き、若布、白木耳の酢の物と続き、止椀と食事になりました。食事はうぶやの煮貝五目寿司というもので、鮑の煮貝を使った五目寿司が貝に盛られた、見た目もきれいなものでした。五目寿司、赤出汁もおいしいものです。デザートのチョコわらび餅はわらび餅にチョコレートの苦味が加味された感じでよかったし、クリーム水晶、すぐり、いちごなど全体的においしいデザートといえます。料理長はここはまだ4年くらいということでしたが、十分に満足できたおいしい夕食でした。
朝食は部屋ではなく、大部屋の食事処でした。飲み物はオレンジジュースか牛乳が選べます。納豆。卵焼き。胡麻豆腐。鮭の焼き魚。ツナサラダ。烏賊の刺身。きんぴらごぼう。青菜のお浸し。という、割と一般的なラインナップで、デザートはスイカ・パイナップル・ブルーベリーにヨーグルトを掛けたものでした。全体的においしいのですが、夕食ほどのパワーは感じられませんでした。
河口湖の宿はどうしても富士山次第というところがあります。旅館の中身にいくらか欠点があろうと、富士山さえ見えればそこそこOKで、みな満足して帰っていく。逆に、いくら旅館の内容が良くても、富士山が見えないと不満が残り、何だか損をした気分になってしまう、という感じです。今回は、到着日は昼の食事をしている間に、富士はすっかり隠れてしまい、どうなることかと思ったのですが、翌日は素晴らしい青空で、夜明けからアウトまで思う存分富士を堪能できました。
さて、その富士山の景色なのですが、ぼくは、河口湖では「若草の宿 丸栄」と「秀峰閣湖月」にそれぞれ二回ずつ宿泊しています。丸栄は河口湖の富士山側にあるので、逆さ富士は見ることが出来ず、富士に関しては景色はいいとは言えません。湖月は湖のかなり奥まったところにあるので、しっかりと湖に富士山が映ります。うぶやは駅から湖月に行く中間地点ぐらいにあるし、前を道路が走っているのでどうかなと思っていたのですが、前に道路があることに関しては、宿泊階が最上階だったせいもあってか、まったく問題はありませんでした。逆さ富士についても、もっと湖の端になるかと思っていたのですが、湖月の方がいくらか良かったとは思いますが、ここの逆さ富士も悪くはなかった気がします。ただ、対岸が近いせいで湖の周辺の建物は湖月よりも大きく見えます。
それから、前回、湖月に行ったときは夜明け前の富士山がはっきり見えて、その荘厳さに打たれて、今回も夜明け前の富士に期待したのですが、今回は朝霧が湖をおおっていて、日が昇るまでこの霧は晴れませんでした。これはこれで、朝霧の中に見え隠れする幻想的な富士の写真が撮れてよかったのですが、期待した荘厳な富士には会えませんでした。今回の気象条件が影響したのか、それとも、霧が発生しやすい場所にうぶやがあるなどの位置関係が原因なのかははっきりしません。お風呂から見る富士に関しては、大浴場から富士を楽しむならうぶや、露天から富士を楽しむなら湖月でしょうか。
ここは、全体的に料金に見合ったいい宿だと思うのですが、夕食開始時の部屋係の態度が、その従業員のしつけを含めて大きな減点ポイントでした。風呂に関しては、設備はいいものの、やはり温泉のパワーが弱く、塩素臭がしたのが今一と、露天は富士山が見えるとはいえ、それほど魅力的な露天ではないのが残念でした。食事は、夕食はかなりいいと思うのですが、朝食は夕食ほどの魅力はないのが惜しいところです。
部屋数が多いこともあり、微妙な位置づけだとは思いますが、河口湖の宿の中ではもちろんトップクラスでしょう。ただ、河口湖の宿の宿命でしょうが、富士山が見えればいいものの、見えないとやはりちょっと損した気分になることは否めません。

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今年の2月に行った、一日一組限定の宿「すっぽん懐石 やじま」の報告です。
何年か前にTVで一日一組限定の宿の特集をやっていたことがありました。何軒か出た宿はほとんど興味を引かなかったのですが、この「すっぽん懐石 やじま」だけは、その料金の安さと、雰囲気のよさ、食事の魅力で、温泉ではないもののいつか行ってみたい宿として、長く記憶に留めていました。冬の宿を選ぶ段になってふと思い出し、2月の閑散期ならもしかして空いているかもしれないと、「2月で空いている日はありますか」と電話し、何日かあったうちの一日に予約を入れました。
ここへは、高崎から上信電鉄で約20分の「吉井」という駅まで行き、タクシーで向かいます。宿は、小高いところに作られていて、入り口でタクシーを降り、下の庭から上の方にある宿泊棟へとくねくねと登っていく造りです。
3時インのところを、2時40分に到着し、玄関を開けると、ちょうどご主人が玄関先でコードレスを片手に電話中でした。どうもお客さんからの問い合わせのようで、手招きで狭い部屋へと通されました。家は全体として広いようなので、最初、通された部屋は応接室のようなところかと思ったのですが、そこがわれわれが今日泊まる部屋なのでした。
この宿は玄関を上がって廊下の右端に洗面と浴槽のある風呂場があり、玄関前あたりが調理場で、その左隣がトイレという構造です。トイレは男女別に入口があり、それぞれ個室が二つずつあるのです。ただ、その構造が変わっていて、トイレのドアを開けると、まず、畳敷きの部分があり、個室は一段下りたコンクリートがむき出しのところに二つずつずらりと並んでいます。その四つの個室の壁の、下の部分と上の部分が男女の個室すべてつつぬけという、今までに見たことのない造りでした。男女二つずつある個室のそれぞれ一つはシャワートイレでした。
廊下の左方向突き当たりには16畳という広い部屋があり、そこは今回は閉まっていて、われわれは、その左手前、トイレ前の狭い部屋でした。全部で12名くらいまでなら対応できるとのことで、客数によって、広い部屋と狭い部屋を使い分けている様子です。ちなみに、われわれのように2名という小人数の客はほとんどなくて、平均7名くらいということでした。
われわれの狭い部屋には、廊下からまず障子を開け、二畳ほどの板の間の、小さな渡り廊下のような踏み込みを挟んで、もう一度同じような障子を開けて入ります。入ると10畳の和室で、入って正面と右側の二面に大きく窓が取られ、非常に明るい部屋です。和室正面にある窓は道路と、下の庭にある宿の門の方に向いています。右側の壁は全体が窓になっていました。正面に一つだけあるはめ殺しの小窓以外は、すべて上下に開け閉めできる障子がついています。右の窓の外に「遁世庵」という額の掲げられた建物が見えるのですが、これは宿の主人夫妻の住まいとのことでした。その他、木々、道路、庭、などが目に入ります。道路からの覗きこみはあるのですが、歩いている人はほとんどいません。部屋にはカギも何もありませんが、確かに一組だけなら必要はないわけです。
お茶は出してくれましたが、迎え菓子はなく、さらに、床の間なし、広縁なし、冷蔵庫、金庫もないという、ないないづくしの部屋でした。部屋に入ると右手前に洋服入れがあるのですが、上半分の高さしかなく、狭いもので、その下半分の部分にテレビ、インターフォン、懐中電灯、ティッシュ、ゴミ箱などが置かれていました。畳がかなり古い感じで茶色くなっています。浴衣の気づかいもなく、浴衣は丈や袖が短く身幅も狭いものです。おそらく、サイズは一つしかないものと思われました。トイレは前述のように廊下を挟んだ向かい側で、部屋の中にはありません。浴用タオルはついていたのですが、バスタオルがありませんでした。テレビで見た印象からくるイメージとは大違いで、唖然としました。
お風呂は4時前にようやく入れるようになりました。ここは温泉ではなく、料理にも使う山の湧き水を沸かしているということでした。夜通し入浴OKなのですが、この日のような冬の寒い時期はすぐに冷めてしまうので、入る30分くらい前から、湯船のお湯をかなり抜き、蛇口をひねってお湯を溜めておく必要があります。4時に入ったときは沸かし立てでちょうどいい湯加減だったのですが、夕食後はこのやり方がまだ理解できず、少し抜いただけで、すぐに入ってしまったため、非常にぬるいお湯に最後までつかる羽目になりました。こりゃいかんということで、翌朝は起きたらすぐにお湯を8分くらい抜き、そのまま30分お湯を入れっぱなしにしたら、ちょうどうまい具合の温度になりました。それにしても、これはかなり面倒なことでした。
お湯自体はとろっとした温泉みたいな感触の温まるお湯で、いい印象でした。浴槽は二人から三人くらい入れそうな木の湯船で、浴室の二面が窓になっており、外の木々が見えます。なかなか心休まる景色でした。露天はありません。
テレビでは夕食は専用の広い部屋で取っていたので、てっきりその部屋だと思っていたのですが、料理は自分たちの部屋に運ばれてきました。確かにこの宿は宿泊するのは一日一組限定なのですが、宿泊者がわれわれのように少ない場合、料理だけの客を取るらしいのです。6時近くになってがやがやしてきたので、何かおかしいなと思っていたのですが、6人くらいの団体が夕食だけに訪れたようでした。その団体に、食事の専用部屋を占領されてしまったようです。
お品書きはありませんでしたが、くわしい説明がありました。食前酒はなく、最初から完全に一品ずつ出される形で、まずは先付けとして、二つに割った蕗の薹に味噌を挟んだものが、細く割いた棕櫚の葉の上に載せられているものと、棗に入れられたよもぎ麩でした。蕗味噌は蕗の苦味がかなり強い野趣に富んだ味で、いけます。食欲をそそる感じです。よもぎ麩は甘くて香ばしいものでした。続いての前菜は、なごり節分ということで、鰯の干物と、柊の葉、鬼の金棒を模した牛蒡、炒り大豆、そら豆、椿の葉の上にすっぽんの肝臓と脂身、獅子頭の可愛い容器の中に鴨肉が入ったものでした。すっぽんの肝臓も脂身もおいしく、なかなか素晴らしいものでした。鰯の干物は堅く締まっていて、じっくりと味が出てきて申し分ありません。鴨もおいしい味が染み渡っていました。
次のお造りは鳥取のめじ鮪(本鮪の子)、もんごういかの子、白魚に若布を薄い京都の聖護院大根でくるんだもの、白子、焼き帆立、生たらこ、朝採りのニンジン、紅新(こうしん)大根(京野菜)のすべてが一つのお重の中に入れられたなかなか豪華なものでした。これを石榴の実が浮かんだ醤油で食べる趣向です。すっぽん懐石ということだったので、すっぽん以外は期待していなかったのですが、見事に裏切られた感じでした。もんごういかの子、は甘味があって噛み切りやすくおいしいものでした。聖護院大根でくるんだものはかなりくせのある大人向きの味といえます。白子は最後に黄身のような旨みがあふれ出てきました。焼き帆立は甘味があっておいしく、その他のものも十分満足できるお造りでした。次のお椀はすっぽんとお餅の椀物です。京都の白味噌で菜の花、大根、ごぼう、人参などが入っています。人参もごぼうも大根もそれぞれの持ち味が生きていてこのお椀もおいしいものでした。続いて生血と胆汁がグラスに入って出てきました。べつにこのタイミングで出るとは限らないということでしたが、やはり、苦手なお客さんが多いのか、最近は出さないことも多いそうです。苦いので先に青い胆汁から飲むように言われました。ガムシロップと柚子で味と香り付けがしてあります。本当は胆汁は先が見えないものだそうですが、これは薄く透き通ったきれいなグリーンになっています。かなり薄まっているのでしょう。生血はアルコールとオレンジジュースで割ってあるそうで、甘くなっていました。女房は胆汁はさすがにダメなようでしたが、生血の方は何とか大丈夫だったようです。オレンジジュースのちょっと変わった味という程度です。店によって割る物で味にかなりの差が出るらしく、出されても飲めないという店も多いということでした。続いての焼物は上州牛と椎茸と帆立が焼いた白菜の上に乗せられています。牛まで出ました。この上州牛はおいしいのですが、ぼくには振られた塩味がちょっと強く感じられました。椎茸はおいしさが十分に出ているものでした。油物はすっぽんとふぐ、たらの芽、山葵菜の天麩羅を胡麻だれで食べるという変わった食べ方です。すっぽん、ふぐともおいしいのですが、ふぐはちょっと塩味が強い気がしました。次がいよいよメインのすっぽん鍋の登場です。すっぽんの他はただ葱が見えるだけのシンプルな透明のスープのお鍋です。お好みで柚子胡椒を入れます。生姜が入っているせいもあるのですが、体がすごく温まります。これでどうだ、という感じにすっぽんがたっぷり入っています。すっぽんの甲羅は端がやわらかいらしく、これが亀と違うところだそうです。スープにもコラーゲンいっぱいということで、大満足のおいしいお鍋でした。最後はお約束のすっぽん雑炊。三つ葉と玉子、たっぷりのご飯が入っています。とても全部は食べきれず、残りは朝食に回してもらいました。もちろん、この雑炊もおいしいものです。2回目のお絞りが出たあと、デザートはイチゴとキーウイと小豆餡がけ。イチゴもキーウイも物が良く、このデザートもいいと思いました。その日の仕入れで、メニューは変わるということで、女将さんによるとご主人は同じ物を作るのがいやらしいということでした。5時50分頃に始まり、8時半頃に終了しました。この日は食事だけの客がいたためなのか分かりませんが、ペースはちょっと遅かったと思います。
朝食は昨晩、団体に占領されていた玄関脇の食事処です。食事処と言っても、一組限定ですから、広い部屋が一部屋あるきりです。われわれが宿泊した部屋よりも広くて、庭の方にせり出しているため、三方にガラス窓があるという明るいところで、ここに広いテーブルを前にわれわれが二人きりですから、非常に気分のいいものです。
出されたもののうち、白菜としし唐と鶏肉の甘辛煮、ポーチドエッグとすっぽんの醤油味はいずれもちゃんとした料理で、朝からこういう料理が並ぶのがすばらしく、もちろん両方ともおいしいものでした。その他、すっぽんの卵(内子)を生醤油に漬けたものと大根おろしの酢の物。この卵一個で鶏の卵10個と栄養価が同じという話です。自家製の豆腐は薄めないで固めているとのことで、味がしっかりしていておいしく、えのきと鰤の味噌汁もおいしいものでしたが、何よりも良かったのは、昨夜の残りのすっぽん雑炊で、味がとても染みていて何ともいえない満足感を味わいました。とにかく、昨晩きりでなく、朝まですっぽんが続くのがすごいところです。サラダ兼デザートはバナナときんかん、トマトでした。
この宿は何といってもその料理とご主人抜きには語れないでしょう。ご主人は満山荘の文四郎さんとはまた違ったタイプですが、語らせたらきりがありません。ただ、その話は興味深く、また非常に勉強になる話です。朝食のときに挨拶に来て、そのまま話し込んで朝食は1時間以上かかったような気がします。また、さすがすっぽんの宿だけあって、ご主人や女将さんの肌つやのすばらしいこと、すっぽんがいかに肌に良いかが一目で分かります。
すっぽんの料理は回数をあまり食べたことがないので比較が出来ないのですが、とにかく手抜きがなく、誠心誠意作っていることが良く分かります。その出される料理の種類は他の料理店には絶対に劣ることはないのではないでしょうか。ここは、料理に関しては何も言うことがありません。
ただ、想像と違ったのは、宿泊に関しては料理とは対照的に、あまり気が配られていないということです。トイレや洗面が部屋の中にないなど、一組限定の宿とはいえ、疑問に思いました。また、バスタオルがなく、浴衣も小さいもの1サイズというのも民宿並みです。食事処など景色はいいのですから、もうちょっと専門家の意見を取り入れて作ればよかった気がします。また、お風呂はいいのですが、この時期はすぐに冷めてしまい、温かくするのに手間と時間がかかって大変なのも、温泉でないので、しょうがないとはいえ、不満が残ります。
それから、宿泊は一組だけなのですが、われわれのように小人数の客だと、今回のように別に食事だけの客も受け入れてしまうので、宿泊客はその客が帰るまで、ゆったりとした気分になれないのは残念でした。一組限定という点に惹かれ、自分たちだけの世界でゆったりと寛ぎたいとやってきたカップルなどは、話が違うと感じるかもしれません。
しかし、とにかく、すっぽん料理をとことん楽しむ宿で、料理だけでもまた、食べに行きたい宿であることは間違いありません。
 
さて、前泊の「やじま」と組み合わせる旅館はどこがいいか、なのですが、高崎からだと草津か水上までは可能でしょうが、何かあまり遠くまで行く気分ではないのです。そんなこんなで、つい4か月前に行ったばかりなのですが、伊香保の岸権旅館にしてみるかという気になりました。前回の玉樹に行くまでは、伊香保ではぼくの一番のお勧めは岸権旅館だったし、女房はまだ岸権旅館には行ったことがなかったので、一回連れて行ってもいいかなと考えたのです。
岸権旅館は伊香保の中心である石段街の中ほどをほんの少し谷側に入ったところにあります。3時インのところを2時半に到着し、ロビーでふつうの茶碗に入った抹茶風のお茶と、伊香保名物の湯の花饅頭(清芳亭)が出されました。さすがというべきか、かなりおいしい饅頭でした。しばらくして、部屋へ案内されました。
部屋は613号室で、部屋数は全部で72・3あるとのことです。しゃれた絨毯敷きの廊下から、ドアを開けて入るとやはり同じ絨毯の、一畳大正方形の玄関で、入り口右手の靴入れの上にアロマオイルが置かれています。2畳大焦げ茶のフローリングの踏み込みに上がると、すぐ左が洗面室になっています。入った右側に普通の大きさの洗面台があり、洗面室の入り口正面にはすのこの敷いてある小ぢんまりした風呂場がありました。浴槽はFRPで周りは大きなタイル風です。洗面台の背中側に狭目のトイレがあって、例によって、洗面→風呂→トイレとコの字に配列されている定型の洗面室でした。踏み込みに戻り、正面の襖を開けると、畳十畳の、内装だけ変えましたという感じの割と新しそうな和室です。左手先のほうに一畳大の黒い板の床の間があり、床の間には掛け軸とフリージアの花が二輪活けられていて、しゃれた感じでした。床の間の先が細くカーブしていて、広縁横まではみ出しているのですが、そこに炭やメモ用紙の入った文箱、行灯が置かれています。この辺は微妙なところで、あるいは、もともとそのようなものを置くように作られている床の間なのかもしれません。障子の仕切りはなく、和室の先がそのまま広縁になっているタイプの2畳半程度の絨毯敷きの広縁が和室の先に続いています。段差もありません。大き目の椅子が二脚置かれていて、広縁の右手に洋服入れがありました。
障子が四枚立てられた窓を開けると、斜面に建っているため、見下ろす感じで、前は東急系のホテルだったらしいけれど今は大江戸温泉物語の経営になったというピンクの可愛らしい建物があります。左手にはちがう旅館の建物があり、あとは雪に覆われた山の斜面、林、遠くの山々、というかなり見晴らしのいい部屋で、向うからの覗きこみもありません。この部屋は非常にこぢんまりとまとまっていて悪くないと思います。建物は古いらしいのですが、手をちょこちょこと入れているそうで、部屋は全館こんな感じということでした。部屋でのお茶出しはありませんでしたが、旅路というゴーフルの迎え菓子が置かれていました。浴衣の気づかいもありました。
ここはお風呂が伊香保にしてはかなり充実していて、道路を挟んだ崖の上に館外露天風呂の「権左衛門の湯」が、本館の1Fには昔からの大浴場「又左衛門の湯」が、別棟に新しい、展望「六左衛門の湯(露天付き)」があります。
権左衛門の湯だけが夜の11時までで、朝は6時からということです。あとのお風呂は一晩中OKで、男女の入れ替えはすべてありません。権左衛門の湯はやや温めでしたが、あとは適温です。
すべてのお湯が、伊香保独特の黄土色で、なめてみると、やや苦く塩気もほんの少しある感じです。ただ、源泉近くの飲泉所のような強烈さはありません。また、すべて流し切りということでした。
「又左衛門の湯」は古いのですが、そのせいで人があまりいないのか、落ち着ける感じで好きでした。浴槽はけっこう広くて、お湯も気のせいか、新しい「六左衛門の湯」よりもいいような気がしました。展望の「六左衛門の湯」は新しく明るいのですが、男湯は展望という割には景色は大したことがありません。脱衣所にはフェイスタオルだけが置かれていました。湯上りどころに麦茶があるのですが、夜遅くと翌朝はありませんでした。
独立した露天の「権左衛門の湯」が一番見晴らしがよく、あまり人も来ないので落ち着けます。お湯も新しい浴場棟のお風呂よりも少し濃い感じがしました。ただ、そこそこ部屋数がある割に湯船はそれほど大きくないので、あまり人が来ると印象が悪くなってしまうかもしれません。といっても、新しい「六左衛門の湯」にも露天があるので、わざわざ外に独立しているこちらまで来るのを敬遠してしまうのか、ぼくが入っているときはあまり人に会いませんでした。
夕食は部屋食でした。お品書きがあり、説明もありました。「食前酒」は自家製橙々酒です。「箸付け」の胡桃豆腐の揚げ出しはおいしいものです。山海月とほうれん草の白和えもおいしい上品な味付けでした。「椀盛り」は金目鯛と舞茸の清汁で、ぼくにとってはちょっと塩味が強い気がしましたが、悪くありません。「造里」の鮪は全然ダメで、目鯛と箱島産銀光鱒はまあまあというところ、あと牡丹海老もありました。「焼肴」はいわゆる前菜に当たる感じで、少しずつ7品がお皿に盛られています。ただ、この盛り方は雑然としていて、何も知らないアルバイトが盛ったような出来でした。まながつおの西京焼きは、冷えているのですが、まずくはなくまあまあでしょうか。蓮根の金平とぜんまい信田巻きはちょっと今一というところ。蟹身の甲羅焼きはおいしいものでした。こんにゃくは甘い感じなのですがそこそこいけます。その他に身付き六角芋、スナックえんどう?もありました。「温鉢」は天蕪と生鱈子の炊き合せで、入っていたエリンギ茸は味が染みていておいしく、生鱈子もおいしいものです。「箸休め」の上州おっきりこみうどんは、さすが地元だけあって滋味があって温まります。「台のもの」は網で上州牛サーロインや岩魚の燻製、椎茸、ネギなどを焼く趣向なのですが、上州牛の串焼きは、肉は赤身で筋がありました。まあまあ柔らかいのですが、やはり全体の印象もまあまあというところで、あごの疲れる肉でした。箱島湧水岩魚の燻製もおいしいのですが、骨までは食べられません。串団子も甘くておいしいと思います。「留鉢」は白子豆腐とタラバ蟹の浸しで、これもいけます。「食事」のむかごご飯は醤油の味付けが絶妙で、むかごもほくほくして非常においしいものです。赤だし汁は自分で火をつけるのですが、しめじと豆腐の具でいい味が出ていました。「水菓子」は旬のフルーツということで、いちごとキーウイとグレープフルーツの砂糖漬けが出ました。これはごく平均的な味でした。料理長はもうここで20年くらいのキャリアのある人だそうですが、まだ40代だそうです。朝、バイキングでオムレツを焼いている人がその人ということでした。
ご飯以外の一度出しで、とにかくいっぺんにすべて出てきます。こういった出し方が嫌な人には受け入れがたい夕食でしょう。一番先に肉が焼けたので、メインの肉を一番初めに食べることになりました。そこそこ満足できる夕食ですが、もちろん、料理に力を入れている宿とは比べるまでもありません。
朝食は食事会場でのバイキングになります。種類は多くも少なくもなくというところでしょうか。まあまあおいしいという程度の質は保っていると思います。料理長らしい人の作るオムレツはおいしいものでした。
伊香保の宿の部屋からの景色は、宿によって大きく二分されると思います。この前の玉樹のようにまったくパッとしないところ(部屋によるのかもしれませんが)と、この岸権旅館のように非常に見晴らしのいいところと。岸権旅館の部屋は、狭目ですがこぢんまりと非常にバランスよくまとまっていて、景色がいいところも高得点です。
また、伊香保の宿はお風呂に関しても二分されます。伊香保独特の黄土色のお湯のある宿と、ない宿と。この岸権旅館は伊香保の中ではお湯はかなりいい方に属するでしょう。すべての浴槽が伊香保の黄土色のお湯で、すべて流しきりということです。
食事は一度出しである点がいただけないのですが、味は悪くなく、火を点けようとする仲居さんを抑えて、自分で点けるようにさえすれば、マイペースで食事ができるかもしれません。朝のバイキングも、それほどひどいことはないので、バイキングを毛嫌いするひとでなければ、気にするほどのことはないかもしれません。
前回行った玉樹と比べると、部屋のしつらえや広さは玉樹のほうがいいのですが、ここもこじんまりとバランスが取れ、景色ははるかにこちらのほうがいいですし、お風呂に関しては、風呂場の雰囲気やしつらえは玉樹の方がいいのですが、お湯の質や露天の景色は断然こちらになります。食事は玉樹の方が一度に出さない点や、しゃれた感じのある点でややいいかなというところで、朝食はバイキングがいやでなければここの方がいろいろ食べられていいかもしれません。
この岸権旅館は、まだ団体重視のくびきから抜け出せていない宿ですが、このあともしぶとく生き抜いて行くだろうと思わせられました。女将はサービス精神があったし、送りの車が、待っている間ベンチに日が当たるこちらのバス停の方が暖かいからと、最寄のバス停ではなく始点のバス停まで運んでくれたのはうれしいことでした。特にピカイチというところはないものの、なぜか心魅かれる宿でした。

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