太夫さんの報告

太夫さんの報告を4つのページに分けて紹介しています。最新情報は、掲示板ダイジェストに掲載しています。写真は、太夫さんが撮影したものを私が貼り付けました。

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太夫さんの報告(関東近郊)
太夫さんの報告(静岡県)
太夫さんの報告(九州)
美ヶ原高原「王ヶ頭ホテル」・美ヶ原温泉「美ヶ原温泉ホテル翔峰」
会津芦ノ牧温泉「仙峡閣」・「丸峰観光ホテル」
蔵王温泉「和歌の宿わかまつや」・上ノ山温泉「葉山館」
戸倉上山田温泉「笹屋ホテル」・湯田中温泉「よろづや」
白馬八方温泉「ホテル五龍館」・小谷温泉「旅館栃の樹亭」
赤湯温泉「いきかえりの宿瀧波」・白布温泉「東屋」
土湯温泉「向瀧」・穴原温泉「山房月乃瀬」
越後長野温泉「嵐渓荘」
新高湯温泉「吾妻屋旅館」・小野川温泉「高砂屋旅館」
奥山田温泉「満山荘」
越後湯沢温泉「ホテル双葉」・松之山温泉「鄙の宿千歳」・清津峡「清津館」・大沢山温泉「大沢館」
「登別温泉観光ホテル滝の家」・支笏湖「丸駒温泉旅館」・朝里川温泉「宏楽園」
津南「雪国」・湯の沢温泉「のよさの里」
あずまや高原ホテル・鹿教湯温泉「三水館」・別所温泉「七草の湯」
「鶴の湯」・田沢湖温泉「花心亭しらはま」
蓼科温泉「たてしな藍」
浅間温泉「玉の湯」・新穂高温泉「槍見館」・福地温泉「湯元長座」
福地温泉「かつら木の郷」
岩井温泉「岩井屋」・三朝温泉「旅館大橋」・皆生温泉「皆生菊乃家」・松江しんじ湖温泉「大橋館」
鳥羽「ホテル芭新萃」・賢島「志摩観光ホテル」
フォッサマグナ糸魚川温泉「ホテル糸魚川」・大町温泉「黒部観光ホテル」
別所温泉「臨泉楼柏屋別荘」・「かしわや本店」
「浄土ヶ浜パークホテル」・つなぎ温泉「四季亭」・「湖山荘」
さわんど温泉「渓流荘しおり絵」・福地温泉「かつら木の郷(二回目)」・扉温泉「明神館」
美ヶ原温泉「旅館すぎもと」
湯の沢温泉「時の宿すみれ」

 

長野の美ヶ原 に行って来ました。初日は、美ヶ原高原の「王ヶ頭ホテル」で温泉ではありません。温泉旅館のようなサービスを期待するとがっかりしますが、お風呂もきれいだし、食事も量は少ないですがおいしいです。何よりもすばらしい景色と、可憐な高山植物がいいと思います。今は、「まつむし草」という花が盛りのようでした。それよりも、名物(?多分)なのはここのおやじさんで、そのガイドぶり(写真)は抱腹絶倒ものです。心をなごませてくれること請け合いです。あまり天気がよくなくてせっかくの景色も十分には堪能できませんでしたが、昨日の朝は「王ヶ鼻」というところでブロッケン現象を見ることができました。まさか、そんな経験ができるとは思っていなかったので感激しました。
 
二日目は、山を下って美ヶ原温泉の「美ヶ原温泉ホテル翔峰」というところに泊まりました。100室ある大型ホテルで普段は敬遠するのですが、もともとちょっと気になっていたところでもあったし行ってきました。お風呂は大きくて温度管理もしっかりしていていいと思いますが、循環(?ぼくはあまり詳しくないので断言はできませんが、とりあえず、流れ入る湯と出る湯との比率から考えて)っぽい感じなのが気になりました。食事はおいしいと思います。ボリュームもあります。

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会津芦ノ牧温泉に行ってきたので報告します。初日は、日本秘湯を守る会の会員旅館でもある「仙峡閣」に泊まりました。何でも、芦ノ牧温泉では唯一の源泉を持っている旅館だそうです。他の旅館は組合(?)が管理しているそうです。そう言うだけあって、内湯は素晴らしいと思いました。小判型の湯船の片側が深くなっていて底から二筋湯が湧き出しています。透明感が抜群で、温度も丁度いい感じでした。湯にやさしく包まれるようで、「う〜ん、極楽極楽!」状態でした。まさに、澄明な湯という印象を受けました。ただ、残念なことにこの湯船は男性専用で交代はなく、女性の内湯は狭くて、これほどの好印象は持てないようです。また、露天風呂は男女同じ大きさなのですが、足を伸ばすと一人しか入れないほどの小ささでした。夕食は、味もボリュームも申し分ありません。美味しいと思います。素朴な中にも意外性のある料理だと思います。いけます。あと、女将さんが気さくな人でサービス精神満点です。
 
二日目は同じ会津芦ノ牧温泉の「丸峰観光ホテル」です。初日とは対照的な130室ぐらいもある豪華巨大ホテルです。部屋の景色が抜群でした。僕の泊まったのは渓谷側の部屋で、川と山しか見えません。そんなのどこにでもあると言われそうですが、この構図が何とも言えないのです。紅葉の時にはこの山が全山紅葉するそうで、これは素晴らしいのではと想像できます。お風呂は、総ガラス張りの30メートルの細長い浴槽が有名ですが、浅いので思ったほどお湯の量がある感じではありません。浴槽から洗い場が見えない作りになっていてなかなかいいと思いました。露天は巨大旅館にしては小さめな印象を受けました。周りをかなり囲まれていてあまり景色は楽しめません。お風呂に関しては「仙峡閣」とは対照的にここは女性優位です。ここも男女交代はないのですが、大浴場にしろ、露天にしろ、桧の湯にしろ女性の方がすべて景色がいいようです。女将も女性優位だと言っていました。食事はおいしいと思います。巨大旅館は団体と一緒にならない限り、そして旅館側が一組ごとの客への目配りを忘れない限りは悪いことばかりではないと思いました。

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今回の初日は蔵王温泉の「和歌の宿わかまつや」でした。蔵王温泉はほとんど自然湧出らしいのですが、ここも源泉100%でしっかり温度管理されていました。ただ、27室くらいの規模なので浴槽はすべて小さいのが残念です。内風呂が一つ、露天の浴槽が石造り一つ、桧(?)一つありますが、それぞれ温度が微妙にずらしてあります。酸性のかなり強い硫黄泉です。露天は、目の先一メートルほどのところに高い囲いがめぐらせてあって、眺めはまったくありません。泉質はかなりいいのではないでしょうか。浴槽に注ぐ前に有毒なガスを脱気してあるとのことで、pH1.3の酸性度の割にはあまりひりひりしなかったし、体に硫黄のにおいもあまりつきませんでした。お湯はなめてみると、強烈な、しょっぱすっぱいというような味がします。食事は、全体的においしいと思います。さすがに芋煮の本場ということで、芋煮は中のきしめんみたいな形のおそばをふくめて非常においしかったです。それ以外にもそれぞれ工夫のある料理が出てきました。あとは、フロントの調子のいい人が面白いですよ。和歌の宿ということで、ぼくも一首作ってきました。
 
二日目は上ノ山温泉の「葉山館」でした。ここは源泉の宿だということでお湯は豊富らしく、ほとんどの部屋の風呂も桧風呂で温泉です。ここも温度管理がしっかりしていて、ちゃんと立派な水温計がとりつけられています。大浴場が40度、露天が42度に保たれていました。ただやはり露天風呂は、目の先1メートルが囲いという状態でした。四季亭という棟に泊まったのですが、葉山館といえば写真に必ず出てくる屋内庭園の目の前の部屋だったのにはびっくりしました。部屋の中にも坪庭があり、部屋のお風呂も温泉で言う事はなさそうですが、実は窓を開けると目の前が石垣で、見晴らしはまったくなく、その窓は閉めっぱなしということです。食事は米沢牛がメインで、ステーキ・牛寿司・芋煮と米沢牛が使われていました。ただ、その分品数が少なくて全部で七品ぐらいだったと思います。やはりここでも芋煮がおいしかったですね。それから、鰊そばもおいしかったです。朝食は一般的な朝定食ですが、焼きたてパンの朝食も選べるようになっていて、それもつまんでみましたが、こちらはいけると思いました。朝食はパンをお勧めします。

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戸倉上山田温泉と湯田中温泉に行ってきました。戸倉上山田温泉は「笹屋ホテル」です。部屋は「万松閣」で池の庭に面した部屋です。この池は竜安寺の石庭と同じような石の配置をしたものだそうで、なかなか見事なのですが、池を見るためにレースのカーテンを開けると、部屋の中があらゆるところから丸見えになってしまうという、自己矛盾をおこしています。部屋はゆったりとしていて新しく、洗面台も二面あるほか、全室温泉の桧風呂がついています。また、カードキーが二枚ついているなど、気兼ねなく自分の好きなだけ風呂に入っていられます。自己矛盾を除けば部屋に関しては申し分ないと思います。風呂は男女交代で、よくパンフレットに載っている「石の湯」(昼・夜確か深夜3時に交替)が男性用です。石の湯はちょっとした雰囲気があります(写真1・2)。特に、西日が差し込むと、神秘的な感じになります。西日が光の筋となって、ゆらめく湯面に反射し、その湯面からまた、細いレーザービームのようにいくつもの光線が立ち昇り、揺れ動くのです。ただし、このようになる時間はそれほど長くはありません。せいぜい十分ぐらいかもしれません。でも、このことに気づいたりこのことを特別なように書くのは僕だけかもしれません、他の人はあまり気にしないようなことと言ってしまえばそれまでです。また、西日が差す時間は常に男性の入浴時間だと思いますので、女性はこれを見ることができません。温泉は硫黄泉で硫黄のにおいがあります。色は少し付いているような気もしますが透明かもしれません。露天は大浴場に併設されている型で、三人ぐらいしか入れないものと、一人がやっとという非常にぬるいものの二つの浴槽がありました。女性用の木の露天も、せいぜい二人か三人ぐらいしか入れません。眺めは木立で特に閉鎖的ではありませんが、やはり浴槽がゆったりできないのが気になりました。温度は全体的に適温だったと言っていいと思います。露天はややぬるめです。食事は、特に凝った料理というのはありませんでしたが、全体的においしく、フォアグラ、ハマグリ進丈、鯉の刺身などが特においしいと思いました。各部屋ともそれぞれ個室の食事処で朝・夕食事を取る様になっており、その食事処もゆったりと造られています。朝食は全体的に塩味が押さえられていて、非常においしいです。デザートに特においしいメロンが付きました。朝食としての完成度は高いと思います。

次の日は湯田中温泉「よろづや」で、今回は「松籟荘」に泊まれました。「松籟荘」はよろずやの元々の本館だったところで、昭和4年(?)に建てられた古い建物です。古いせいで部屋もそれほど広くはなく、洗面台が広縁の片隅にあったり、小さいテレビが部屋の隅の台に置いてあったり、トイレが狭かったりしますが、落ち着きます。また、松籟荘の館内全体も非常に情緒を感じさせるものです。よろづやと言えば桃山風呂(写真3)ですが、これは僕の内湯のベスト1で、今回は二度目なのでこの前ほどの感激はありませんでしたが、ベスト1というのは変えないでいいと思います。広々としていて情緒があり、内湯であるのにいつまでもいられるお風呂です。また、地下に温泉蒸し風呂というのがありますがこれも非常に効きそうな感じがします。外は大野天風呂(写真3)で、ここにつかりながら桃山風呂の建物を外から眺めるのもまたいいものです。今回は、この野天風呂はちょっとぬるめでした。この野天風呂は風呂全体が庭園になっているというものですね。夜の11時に男女交代ですが、もう一つの「しののめ風呂」は今回行ってみたら、露天風呂もついていて(この前はなかったと思う)きれいなお風呂になっていました。ちゃんと温泉蒸し風呂がこちらにも付いていました。露天は、そこそこ広くて、木や岩に囲まれてはいますが、わずかながら開けている部分もあり結構落ち着けると思います。ジャグジーも付いていて、普通の旅館だったら十分なお風呂です。料理は部屋出しで、一品一品運んでくる形です。岩魚の焼き物もおしいかったのですが、その付け合わせで出された栗が、さすがに見事ですね。お椀物や、前菜、水炊き、昆布ごはんなど満足できました。フレンチのように途中でシャーベットが出ました。朝食も部屋で、やはり一般的な朝定食とはちょっとちがいますが、おしいかったです。そばがゆが出ました。

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白馬八方温泉と小谷温泉へ行ってきました。白馬で宿泊したのは、「ホテル五龍館」です。白馬はペンションなどが多く、見た感じあまり背の高いホテルはないようで、この五龍館の五階建てはかなり高いほうではないでしょうか。ここの五階に宿泊できたので、部屋からの眺めは非常によかったです。北アルプスと白馬のジャンプ台が見えます。白馬のホテルの中では眺めは最高の部類ではないでしょうか。部屋は豪華という感じではありませんが、10畳と広縁で十分の広さです。畳は替えたばかりのようでした。部屋の中で抹茶を焚いているのが非常に印象的でこのほうじ茶のような良い香りはかなり長くもっていました。大浴場(写真1)は、非常に明るい印象を受けます。浴槽もけっこう広々しています。白馬八方温泉はアルカリ度がPH10以上あるそうなのですが、そんなにはない感じでそれほどぬるぬるはしていません。でも、ヌルスベであることは確かです。注ぐ量と、こぼれる量の差があるのが、いつもながら気になりましたが、塩素臭はまったくしません。このへんの詳しいところはよく分かりません。大浴場は適温、露天はややぬるめといったところです。露天(写真2)は北アルプス側ではありませんが、見晴らしはよく、開放感があります。湯舟自体は五・六人が入れる程度で、それほど広くはないのですが、湯舟の周りにかなりスペースの余裕があるので広々してゆったりできます。ただ、湯舟全体を屋根がおおっているので、風呂につかりながら星を見ることはできません。夕食は、桜肉のカルパッチョ、鮪とアボガドのサラダ、野豚の柔か煮、信州牛のしゃぶしゃぶの春巻き風などで、全体的に薄味で、薄味好きのぼくとしては気に入りました。お米は社長が特別に手を入れて作っているものとかでご飯が非常においしいです。運んでくるペースもなかなか良くあつあつが食べられます。朝食は一般的な朝定食で、夕食ほどではありませんが、おいしいといえます。朝のご飯(お米)は夕食とは違って普通の感じでした。インド人のコックさんがいるらしく、カレーパンが付くのが変わっています。是非お勧めしたいのがレストランで売っているソフトクリームです。これは旨い!!普通の種類のソフトのはずなのに、なぜか、オレンジぽい色をしています。レストランで飲める白馬の水も非常においしいですね。従業員の感じもよかったです。

二日目は小谷温泉の「旅館栃の樹亭」です。もし何かでパンフレットを見る機会があったら是非、旅館の写真を見てください。ブナの森の中の一軒宿の秘湯という雰囲気です。でも、これはちょっとそう見えるだけで、実際は森の中にぽつんとある訳でも、一軒宿という訳でもありません。部屋は10畳と広縁(5畳分、そのうち半分が板の間) で新しいのですが、室内が民芸調の意匠で落ち着きを感じさせます。部屋にお風呂はありません。大浴場は適温、露天はややぬるめだったのですが、翌日はそれが逆転していた感じでした。浴室(写真3)は、長方形の部屋を真ん中で分けて、手前半分が洗い場、先の半分が浴槽という感じで、窓は一面にしかなく狭い感じがしますが。全体で13室しかないので、まあ、十分ではないでしょうか。その大浴場の浴槽の中を通って外の露天(写真4)へ行くという形です。露天は、石囲みの四角い湯舟で、丁度大浴場の浴槽と同じくらいの広さでしょうか。女性の露天との境もあるのですが、ほとんど三方に開けているといっていいと思います。頭上も開けていて開放感に関しては何も言うことはありません。目の前に木々を見ながらも、非常に明るい感じを受けます。露天風呂は庭にある感じで、目の前の自然につながっています。広がる緑が目に染み、あいにくこの日は雨と霧で視界が閉ざされがちでしたが、霧が晴れた時には遠くの山も見通せました。ただ、残念ながら、女性の露天は、三方を囲まれていてあまり眺めはひらけないようです。お湯は透明でそれほどぬるっとした感じはありません。塩泉らしいのですが全然しょっぱくないのはどうしてなんでしょうか。しかし、さすがに塩泉だけあって、やはりとてもあったまるお湯です。夕食は非常においしい。山菜中心ですが、どの山菜もすべておいしくたべさせます。甘鯛の照り焼き、山菜とすり身の揚げ物、地鶏の山賊焼きいずれも絶品です。特に、甘鯛の照り焼きはかなりのものと思いました。味噌汁もおいしいです。絶品ぞろいと言っていい食事だと思いました。栃の樹亭ラベルのワインもあるのですが、2000円と言うことなしの安さです。味はけっこういけますよ。朝食もやはり山菜中心ですが、これまた粒ぞろい。玉子焼きも揚げ出し豆腐も非常においしいものでした。焼き物がししゃもというのも変わっていますが、これまたおいしい。すばらしい食事でした。ということで栃の樹亭は、ぼくの最高評価の宿の一つになりました。コストパフォーマンスや全体の完成度からいったら、最高かも知れないと思います。支配人の誠実さ。アルコール類の安さ。料理の旨さ。露天風呂の景色は、眺望と言う点からいえば今までで最高というわけにはいきませんが、緑の中に溶け込みそうな点では、今まででも最高の部類ではなかったでしょうか。サービスに関しても言うことはありません。水もおいしい。女性の従業員のすがたをこの日は全く見ませんでしたが、いないわけではなさそうです。料金も高くありません。

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赤湯温泉と白布温泉に行ってきました。赤湯温泉は「いきかえりの宿瀧波」です。赤湯へ行くならやはりまずこの旅館と思っていました。ここはいくつかの棟からなっているらしく、通されたのは奥の細道棟という、かなり古い建物の一階の一室でした。この「末の松山」という部屋は、そんなに狭くもなく、また新しくすべきところは新しくし、古さが魅力になっているところはきちんと残すという、バランスのとれた部屋で、僕は非常に気に入りました。八畳の和室に四畳くらいの広縁がついている部屋ですが、天井も高く、三分の二くらいに絨毯が敷かれた広縁も広々として、椅子も一つは揺り椅子が用意されているなど、くつろげました。洋風に洗面所とトイレが一緒になっています。と言っても、ゆったりとスペースがとられています。この部屋からの眺めは池でした。
お風呂は最近新しくしたようで、瀧波と言えば、大きな浴槽を真ん中で男女に仕切った内湯というイメージがあったのですが、残念ながらそのお風呂はどこにもありませんでした。ここは夜の8時に男女を入れ替える、交代制です。24時間入浴できます。昼間の男性用のお風呂は寝湯を初め、いくつかの浴槽がある広々としたものでした。こちらには内湯の外に大きな岩をくりぬいたという露天風呂があります。真ん中でし切られていますが、全部で8人くらいはいれるでしょうか。露天風呂は周りをすっかり建物で囲まれていますが、空間にゆとりがあるので、そんなに窮屈な感じは受けません。ゆっくりとお湯につかれます。浴槽の上に屋根がついていますが、ガラスの天窓になっているので、全体に明るい印象を受けます。お湯は少ししょっぱい感じです。浴槽からお湯が流れ出していますが、例によっ流れ込むお湯と流れ出すお湯のバランスが?です。でも、塩素臭などはしません。
「源泉風呂」というのがありましたが、そうするとそれ以外のお湯は源泉のままではないということでしょうか。こちらのお風呂に対し、昼の女性用のお風呂は、残念ながら露天がありません。しかも内湯は寝湯とふつうの浴槽しかなく、男女でかなりバランスの悪い構成となっています。例えば、カップルが上がる時間を揃えようとすると、一方はなかなか上がれず、もう一方はすぐに上がってきてしまうという感じになってしまうでしょうね。僕としては露天風呂が一つしかないということで、大幅減点です。また、この全体的に古いイメージの旅館としては、どうもこの新しいお風呂は合わない感じがします。夕食は部屋で、名物の箱膳が運ばれてきます。箱膳は大きくてかなり重たそうなのですが、要は上だけで、下には何も入っていません。山菜が何種類も少しずつ載せられています。山菜の勉強にはいいですよ。ぼくは「はあ〜、これが行者にんにくか」と初めてまじまじと見て納得しました。メインはやはり何と言っても米沢牛のステーキです。刺身は魚は出ず、牛刺しだけです。桜マスの蒸し物が非常においしかったです。最後のご飯は、焼きおにぎりでこれもここの名物になっているようです。全体的においしいと思いますが、中に何品か、たにしなど、クセのある味付けのものがでますので、そういったものが苦手な人は印象が悪いかもしれません。朝食はやはり名物の「もち」です。食事処で7:45から持ちつきが行われ、その後で「雑煮」「ずんだもち」「くるみもち」「おろしもち」「納豆もち」などがふるまわれます。もちは何回お代わりをしてもいいのですが、もち以外はほとんど食べるものがありません。もち自体も、まずくはありませんが、格別おいしいというほどのものでもなく、ぼくのこの朝食に関する評価は低いものです。
 
二日目は、白布温泉の「東屋」です。古い昔ながらの旅館だったのが、2年か3年か前に、火事で燃えてしまったんですね。その頃の旅館のたたずまいなど、僕は知らないのですが、今回行ってみたら、「小奇麗な宿」になっていたという印象です。秘湯っぽいところは、内湯にしか残っていない感じでした。通されたのは、道路から庭を上がって玄関へいたる道にある、立派な枝振りの松の木を目の前にする、「桂山」という部屋でした。8畳の主室と4畳半の次の間が付いた部屋です。バスは洋風の横長のものでしたが、トイレは温座ではあるものの、シャワートイレではありませんでした。お風呂は男女交代ではなく、それぞれ専用のものがあります。同じ脱衣所から内湯と露天に行くという形式でした(男性)。内湯は多分前と変わっていないだろうと思わせる、非常に雰囲気のあるものでした。熱い源泉の注ぎ込む小ぶりな湯舟と、高いところから勢い良く降り注ぐ打たせ湯が並んでいて、それぞれの湯舟からあふれたお湯が、さらに大き目の湯舟に流れ込むという形式ですね。この一連の流れにはまったく無駄がなく、さらにその湯舟から洗い場の方へ、惜しみなくお湯が溢れ出しています。出るお湯と、注ぎ込むお湯のバランスなど考えるまでもない、「見よ!これこそ『源泉流し切り』のお湯だ!」という、いわば「どうだ系」のお湯ですね。天井も高く、風が入るように工夫されているいい内湯です。お湯は全体に熱めですが、時間帯によって少し温度差があるような気がしました。
男性の露天は、脱衣所のすぐ裏側にあります。浴槽自体は15人程度の規模かなと思いますが、かなり広々しています。湯舟が一番低いところにあり、周囲の方が高いという「アリ地獄形」の露天で、蔭がまったくできず、カンカン照りの日にはキツイ露天です。蔭の出来ない露天の嫌いなぼくは、この日は日中にはほとんど入らず、日が傾いてからゆっくり楽しみました。開放感は360度近いと言っていいと思います。裏の林を見ながら入ることが出来ます。ただ、毎回申し訳ないのですが、女性用の露天はこんなに広くはなく、開放感もあまりないようです。内湯も露天も24時間いつでも入れます。石膏泉ということでしたが、なぜか硫黄っぽい匂いが肌着に残ります。また、源泉が熱すぎて味見がまたもや出来ませんでした。温泉の匂いもしていましたが、僕の好きなあのコンコンとした匂いではありませんでした。家族風呂は、内湯タイプのものが一つ、岩風呂という半露天タイプのものが一つあります。この岩風呂は雰囲気があってお勧めです。食事は玄関脇の食事処で夜も朝もいただきます。この日の夜は、米沢牛のビーフシチューをメインに、山菜鍋、茄子の煮物、岩魚の焼き魚などでした。やはり、初めにほとんどが並べられてしまう型で、岩魚などは冷めてしまっています。秘湯の宿としては合格点ではないでしょうか。ビーフシチューなどもいい味付けでした。朝は、まあ一般的な朝定食と言っていいでしょう。ただ、卵は茶碗蒸しになります。茶碗蒸の出来が、後一歩というところもありましたが、全体的においしかったです。シャーベットのデザートも出ました。秘湯の宿ですので、至れり尽くせりサービスはあまり期待しないとすれば、かなり満足度は高いのではないでしょうか。

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福島県に行ってきました。今回は台風との競走という感じで、土湯温泉には幸いに僕の方が先着して、無事に旅館に入ることができました。「向瀧」は土湯温泉の中では大きな旅館だと思いますが、全体的な印象としては、やや古くなった旅館という感じでした。部屋は8畳で、小さな広縁がついています。椅子も二脚ありますが、その椅子のところだけが一段低くなった感じの作りで、全体的に狭い印象を受けました。ただし、部屋に風呂もついています。部屋からの眺めは、下に荒川の流れが眺められ、ちょうど川が曲がるところに当たるので、変化に富んだ眺めになっています。また、林が川の方へせりだした形になっていて、建物なども見えず眺めは良いと言えます。
風呂は深夜の1時〜3時が休みでその間に男女が交代します。大浴場は男女とも同じような作りで、横に細長く波型のカーブを描いています。露天は当日の男性用は岩風呂が上下に二つあり、上の方から下へとお湯が流れ込む形になっています。ただし、下の岩風呂のメインは浴槽の中から湧き出すお湯です。この二つの岩風呂のお湯には茶色ぽい細かな湯の花が浮いていました。土湯温泉は全体的に湯量は豊富なのではないでしょうか。この岩風呂の外に、使われずに余ったお湯が惜しみなくパイプから流れ出ていました。ということで、この二つの岩風呂は完全に流し切りだと思います。ただ、加水していることも確かです。旅館の従業員が栓をひねって温度調節をしていました。
露天は建物の一部を露天にしたという形で、完全に上には屋根がついており、一面しか開けていないのですが、景色がいいこともあり、また、横に広いので割と開放感はあります。いつもは、このタイプの露天は全然好きではないのですが、今回に限っては雨が全然ふりこまず、風もそれほど吹き付けないので、非常に好都合でした。大浴場のお湯には湯の花はまったく見られず、このへんの理屈はよくわかりません。食事は、ある程度先に並べられ、後で暖かいもの系の4品ぐらいが一気に運ばれるという形式です。全体的においしくボリュームもあると思います。特に、最後のわいはん汁はおいしいと思います。釜飯は食べきれなかったらおにぎりにしてくれます。ただ、夕食は良かったのですが、翌朝のバイキングは?でした。まず、バイキングの容器が全部プラスチック製であったこと。重くならないようにという配慮もあると思うのですが、貧弱な感じでこれはちょっと納得できませんでした。コップまでプラスチックです。さらに、一番重大なのは従業員が客と一緒になって自分の朝食を皿に盛り付けているんです。初めは、足の不自由な客の変わりに取ってあげているのかと思いましたが、そのまま控え室のようなところに消えて行きました。バイキングの料理の味はそれほど悪くはありませんでしたが、果物、ジュース類はありませんでした。湯上りの冷水はあるし、部屋にもチェックイン時から冷水ポットがある、また、わざわざ歩いて3分のバス停まで迎えにきてくれ、チェックイン前でも部屋に通してくれるなど、評価すべきところもあるのに、先の二点は非常に残念でした。
 
二日目は穴原温泉「山房月乃瀬」です。部屋は8畳の主室と4畳半の次の間に広縁がついています。洗面台も二面あり広々としていました。眺めは摺上川とその向こうに丘陵が広がっています。家はちらほらとありますが、遠いのでのぞかれるということはありません。こちらも、チェックイン前の時間に付いたのですが、駅まで迎えに来てくれ、すぐに部屋に案内してくれました。ここで初めて経験したことですが、部屋係が案内する前にフロントが客の浴衣のサイズを判断し、連絡して、あらかじめ部屋にそのサイズの浴衣を用意しておくらしいのです。これには感心しました。ここもすでに部屋に冷水ポットが用意されていました。お風呂は24時間OKで、男女の交代はありません。見取り図から考えると、広さは全く同じのようです。広めですが、大浴場はかなり湯気がこもっていました。
ここも、大浴場の外の一角を露天にしているという形式です。もうこの時は雨も上がっていたので、広々とした屋外の露天の方が良かったのですが、残念ながらそうではありませんでした。しかも、この露天は4人入ればいっぱいになってしまいそうな感じで、もう少し大きくゆとりがほしいと思いました。この露天は循環らしく、まったく外にお湯が流れ出すところがありません。透明度は割とあるのですが、浮かんだ虫などはこちらで外に出さない限り、増えるばかりです。露天ばかりではなく、内湯も流れ込みがありません。しいて言えば打たせ湯が二本落ちていましたので、それが流れ込みと言えば言えるのですが、かすかに塩素臭がしたような気もします。とにかく循環であることは確かで、残念でした。ただ、打たせ湯のお湯をちょっとなめて見たのですが、甘味があっておいしかったのが意外でした。湯上り処には、麦茶とレモンの入った冷水が用意されていましたが、夜遅くには片付けられていました。料理は僕の好きな一品一品型ではなく、ほとんど最初に並べられてしまいます。といっても、その中に温かい料理はないので温かいものが冷めてしまうという心配はないのですが。温かいものは唯一後から出される茶碗蒸し、ご飯の時のお吸い物と、テーブルで火を使う「陶板焼き」と「寄せ鍋」だけでした。一品一品の量が多めで、洋皿もあり、かなり満腹感があります。ふかひれの入った茶碗蒸しや、寄せ豆腐、伊勢海老のマリネ?など、すべての料理がおいしかったと言っていいと思います。ただし、お品書きがなく、料理の説明もまったくないのがいただけません。朝食も部屋出しで、小皿が多めに並べられるという型です。やはりおいしいのですが、ほとんど醤油を使うもので、かなりご飯が進んでしまいます。ここで出された温泉卵は生臭みがなく、かなりおいしいものでした。部屋係はベテランらしき女性と若い女の子の二人一組でした。見送りの時もその女性二人とフロントの男女一名ずつが丁寧に最後まで我々だけのために手を振ってくれていました。送迎も随時のようで、また、近くにある姉妹館のお風呂にも送迎付きで入れるなど、サービス面ではかなり評価していいと思います。

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越後長野温泉「嵐渓荘」へ行ってきました。嵐渓荘へは新幹線の燕三条駅から一日一便送迎のバスが出ており、50分ぐらいで宿に到着します。この時期にわざわざ新潟まで行ったのですから、何と言っても目的は雪見の露天風呂です。送迎バスが30分ぐらい走ってから雪国らしい景色になり、宿近くになると、道路に沿った川にたくさんの白鳥を見ることも出来ました。宿の周辺は願いどおりすっかり雪景色で、足下に気を取られてこの時は気がつきませんでしたが、翌日見ると、玄関のある建物は木造の三階建てでなかなか風格を感じさせる立派なものでした。この日は日曜のせいか、立ち寄り客なども多いらしく、また、送迎バスから一度に客が到着したせいもあってか、ひっそりした秘湯という感じではありません。到着したのは3時少し過ぎで、一応チェックインは4時なのですが、部屋の用意ができていれば2時から入れるそうです。食事の時間などの簡単な打ち合わせの後、すぐに部屋係りの女性が部屋へ案内してくれました。嵐渓荘には一番新しい鉄筋の「渓流館」、もと燕駅前にあった料亭を移築したという「緑風館」、そして少し離れたところにある木造の「りんどう」という三種類の建物があり、この順に料金にも差がつけられています。また、料理は大雑把に言うと「フルコース」と「控えめコース」の二種類があり、基本的にはこの組み合わせで料金が決まるようです。ぼくは、一人旅であり食いしん坊なので「りんどう」の「フルコース」で申し込みました。「りんどう」にはトイレも付いていて、へなちょこのぼくでも安心です。その、りんどうへと案内してもらったのですが、途中、緑風館の大広間ではまさに、カラオケ大会の宴たけなわという感じで、歌声が廊下に響いていました。さっきの玄関の様子といい、いや〜繁盛してるなという印象でした。地元に愛される旅館ということは素晴らしいのですが、わざわざ遠くから秘湯の宿を求めてきたお客さんは少々がっかりするかもしれません。ただ、これはこの日が日曜であったせいらしく、翌日の月曜はうって変わってひっそりとしたものでした。この違いも大変なものでした。
りんどうの部屋は四部屋あり、案内されたのは一番奥の角部屋でした。りんどうは昭和35年建築の木造ですが、つい最近内装を新しくしたらしくきれいなものです。半畳ほどの踏み込みを上がると、すぐにトイレです。このトイレは四角い空間の対角線上に便器が取り付けられているというアイデアで、なかなか広く感じさせます。温座ですが、残念ながらシャワートイレではありません。部屋は8畳で、幅が一畳少しで奥行きが半畳ほどの床の間にテレビ、金庫などが置かれ、さらに3畳くらいのゆったりした広縁が続いています。広縁に洗面がついているタイプです。木造ということで、寒さを危惧していたのですが、すでに部屋には暖房が入れられ、それもエアコンとガスヒーターの二つが備えられていますので、寒さを感じることはまったくありませんでした。また、部屋に着くまでも、廊下のところどころにストーブが置かれ、今まで行った中でここまで配慮されている旅館は少なかったと思います。角部屋ですから、窓は二面あり、本来なら杉の林が眺められるらしいのですが、今は外に重機や建築資材が置かれています。というのは、りんどうの部屋の目の前に新しい浴場棟が近々完成するそうで、まさにその工事中なのです。次の日に工事中の浴場を見せてもらいましたが、二つの露天が造られ、昼は男女別、夜は貸し切りの家族風呂になるようです。渡り廊下を歩いていく形で、なかなかよさそうな雰囲気のものが出来そうで、完成してから来れば良かったかなとちょっと後悔しました。
お風呂は渓流館の一階にあり、男女別で交代はありません。時間は24時間入浴OKですが、掃除の時間が9時半〜11時、3時〜4時と一日二回あります。お風呂の入り口に冷水機が置かれていますが、冷水機にすっぽりとかぶせるような形で、竹細工の民芸調のカバーが掛けられています。カバーなどは手作りで、非常に苦心の跡が見られます。また、茶碗が置かれていましたが、切れることなく補充されていて良かったと思います。大浴場は小ぢんまりした感じですが清潔感があります。男性の方は二面が窓になっており明るさを感じさせます。湯舟もそれほど大きくはありませんが、17室の部屋数にはちょうど手ごろな大きさだと思います。塩素臭はまったくしません。非常にしょっぱいお湯で、今まで入った中でも、かなりしょっぱい方だと感じました。浴槽のへり浴槽からお湯があふれる辺りは茶色い成分がこびりついています。お湯はやや温めの適温というところです。浴槽から少しずつお湯はあふれていますが、循環もしているようです。露天は大浴場から通じているタイプで、小さめの岩風呂です。大人が足を伸ばしたら3人が限度だと思います。目の前は雪が積もっていて、少しはなれたところに、杉の木がまばらにある斜面が見えます。その斜面の手前には川が流れているのですが、残念ながら川を見ることはできません。しかし、空と杉の斜面と雪、それだけで雪見の露天の景色としては十分ではないでしょうか。せまいながらも、ゆっくりと時間をかけて入りました。
さて、いよいよ夕食です。旅館系では特に食事の評判が良かったので、楽しみにしていました。献立表がB4の大きさの宛名入りの紙で、そこに詳しく献立が書かれています。何を食べているのか、また後になっても何を食べたのかが良く分かり、やはり献立表があるのはいいですね。しかもこんなに大きいのは初めてです。食事は、初めに、前菜、山菜類、鍋、煮物、カニが並べられ、後で他の品が一品ずつ運ばれるという形です。まず食前酒が野草酒ということでマタタビ酒、いかり草酒などをブレンドした辛口ですが、飲み口は悪くありません。梅酒などの甘口のお酒より本来の食前酒としての役割を果たしていると思います。前菜の中にも山菜類が多く取り入れられており、山菜もここの料理の大きな特徴でしょう。どれもその山菜の持ち味をよく引き出しています。お造りは鯉の洗いで、鯉が苦手の人も多いようですが、この鯉はまったく臭みがありません。歯ごたえもよく、この鯉なら苦手な人も大丈夫だろうと感じました。また、この鯉につける酢味噌にも特徴があり、辛子がとてもいい感じで利いています。鯉はエサによって、これが鯉?と思わせるような濃厚な味を持たせたものもありますが、ここの鯉の味は正統派の、しかもクセのないものでした。酢味噌とともに非常に評価できます。二日目のお造りも鯉かと思ったのですが、お刺身の三種盛りに変わっていました。しかし、このお刺身もおいしいものでした。次に運ばれてきた山女魚の塩焼きは、頭も骨もまったく気にせずに丸かじりでき、しかも身もやわらかいという絶妙の焼き加減で申し分ありません。焼きものは二日目は鮎の田楽焼きで、量は少なめであるものの、これまた山女魚に負けず劣らずといったところでした。地鶏の鍋も滋味あふれ、二日目はこの鍋に変わって、鴨汁が出されましたが、この鴨汁は絶品で、非常にうまみのある温まるものでした。この嵐渓荘は山菜ばかりでなく、鍋物、汁物に自信ありと見ました。揚げ物は、初日は海老などを素材にしたもので、これもおいしかったのですが、二日目の公魚は特に気に入りました。弱々しくなくしっかりと味に主張を持った公魚でした。最後の牛肉の石焼きは焼いた小石の上に牛肉を載せて焼くものですが、肉が小石にくっついてしまい、少々取りにくく、もう少し考えてもいいのではないかと感じました。二日目はこの肉に代わって帆立のグラタンが出ましたが、グラタン好きのぼくとしても文句のないおいしいグラタンでした。初日、二日目に共通したものとしては切りズワイガニが出されました。おいしいとは思いますが、他の料理の中ではこれは特に強い印象は残りませんでした。ただぼくは、今までどこのカニに関しても、これは!と思ったことがないので、これはあくまでも、個人的な理由によるものでしょう。最後のご飯は初日が鮭とイクラのご飯、二日目は自然薯とろろご飯でいずれもおいしく、しかもお代わりもできるそうで、とろろご飯が大好きな僕は持ってきてくれた時に、すぐにお代わりをお願いしてしまいました。こんなぼくの態度にも、仲居さんはまったくいやな顔をせず、すぐにお代わりを運んでくれました。また、他の人たちも決して洗練されているというわけではありませんが、全体にこちらをくつろがせてくれる人なつっこさ、温かさがあるように感じられました。ということで、食事に関してはほとんど言うことがありません。非常に満足できました。このりんどうの部屋は建物全体の端にあるのに、しかも、外は寒いのに、温かいものはすべて温かいまま食べることができました。いかに気を遣って作り立てをすぐに持ってきたかということです。また、料理を運ぶタイミングもよく、長く待ったり、逆にあわてて食べたりということはありませんでした。全体に土地の素材を活かそうという姿勢があり、鍋、汁物や山菜という得意料理も持っていて、魚もおいしく食べさせます。かなりの高得点だと思います。ただ、和食のコースとしての決まりごとなのかも知れませんが、デザートの果物はもう一工夫あってもいいかなという気がしました。果物にこだわらずに、和食のデザートという視点で、何か凝ったものを考えてもいいのではないでしょうか。また、全体にボリュームのある食事で、それが食いしん坊のぼくとしては大いに気に入ったのですが、初日に比べて二日目はボリュームが幾分減ったような気がしました。二日目にご飯をお代わりしたのは、もちろんとろろご飯が大好きだからですが、いくらかはそのせいもあったかもしれません。また、食器はそれほど悪くはないとは思いましたが、初日の鮎寿司の器である「かまくら」は、最近は本当の氷を固めたものがほとんどですので、それに比べられるとキツイと感じました。むしろ普通の器で供した方が良いのではないでしょうか。朝食もおいしくやはりボリュームもありました。ここの朝食の特徴はご飯のほかに、温泉で炊いたおかゆが出されるということです。もちろん、ただそのまま炊くのではなく、いくらか味は調えてあるとは思いますが、とてもおいしいものです。朝の魚は初日は鮭が出ましたが、脂が乗っていて、やはり魚をおいしく食べさせるなと感じました。二日目は何が出るんだろうと楽しみにしていたのですが、たらこでしたので、焼き魚を期待していたぼくとしては残念でした。その他、湯豆腐、海苔、サラダ、煮物、卵料理、など、大体一般的な朝定食だと言っていいと思います。初日はその他にイカ刺しが出てこれもいけました。少なめですが、山葡萄のジュースやヨーグルトも出ますので、やはり満足度は高いと思います。
さて、嵐渓荘の食事として触れなくてはならないのは「たぬき汁」でしょう。匂いでダメだったということを聞いていたので、ぼくは最初からゲテモノだろうと思い、食べる気はなかったのです。ところが、初日の夕食の時、話のついでに仲居さんにどんな味か聞いてみると、クセがなくてとてもおいしいという意外な返事でした。そこで急遽、翌日の昼に食べようと思い立ったのです。たぬき汁を注文すると大体女将さんが運んでくるそうです。ぼくの時も最初は女将さんが、という話だったのですが、急に出かけなければならなくなったということで、仲居さんが持ってきました。ただ、女将さんは相当たぬき汁に思い入れがあるらしく、夕食の時にわざわざ仲居さんに代わって鴨汁を運びがてら、たぬき汁の説明に来てくれました。なんでも、たぬきの肉はよく煮込んだものと、煮込んでいないものの二種類を使っているそうです。よく煮込めば独特の匂いは消えるらしいのですが、あえてたぬきというものを感じてもらうために煮込んでいないものも入れるそうなのです。この話を聞いて、ここまでのこだわりに、感心しました。味は、「これはウマイ!」とひざを打つまでは行きませんが、絶妙のバランスをとっている味だと感じました。匂いは離れていてもプーンと匂ってくるという強烈なものではなく、スープ全体からかすかに、しかし確実に漂ってくるという印象です。肉は柔らかく決してまずくはありません。その他ネギやしいたけなどがうまみを出していて、冬は体が芯から暖まりそうです。ほんの少し匂いが気になった程度で、ぼくはそれほど抵抗なく最後の一滴まで飲み干してしまいました。それにしても、女将さんのここまでのこだわりは、鍋物、汁物に対する確固たる自信から来るように感じられました。

嵐渓荘は、チェックインが4時(日によっては2時でも可)、3時〜4時までが風呂の清掃時間、休前日は2人宿泊ができない場合がある、など、他の旅館にはあまり見られない、結構重たい、宿泊客から敬遠されそうな要素も抱えています。ぼくは、この3点は無いに越したことはないとは思いますが、17室という小規模旅館でありながら、渓流館、緑風館、りんどうというそれぞれに異なった特徴のある建物で経営していかなくてはならない苦労ゆえのことかと想像できます。これはジレンマかもしれませんね。しかし、何とか解決の道を見出してほしいと思います。旅館経営には様々な苦労があるとは思いますが、志を高く掲げ、足下を見つめて、地道な努力をコツコツと積み重ねていく。嵐渓荘はそうあってほしいと願います。ふと霧が晴れた時、まだまだ先が長いと思えていた頂上に、いつしか自らが立っていたことに気づく。そんな日がいつか来る宿だと信じましょう。

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新高湯温泉の「吾妻屋旅館」に行ってきました。白布を過ぎて、天元台行きのロープウエー乗り場からさらに上に登って行くのですが、この坂のキツイこと、道は完全に除雪してありましたが、かなりの急坂でこれで雪が降ったり、凍結したりしたらどうするんだろうと思いました。でも、通年営業しているので、まあ大丈夫なのでしょうが・・バス停まで、宿からの送迎があるようです。確かに、とても歩く気にはなれません。4時頃に宿に着いて、さっそく部屋に案内してもらいました。荷物は持ってくれましたが、案内はドアのところまでです。部屋は211号室で、踏み込みはなく、すぐに6畳の和室になります。部屋には広縁も床の間も洗面も冷蔵庫もありません。もちろん、トイレもなく、確か十年近く前にトイレのないペンションに泊まったことがあって、それ以来トイレのないのは二回目です。ティッシュボックスはありましたが、中には二枚しか入っていませんでした。その他、金庫とテレビはあります。ホットカーペットが敷かれていて、ガスストーブもあり寒さは感じさせません。布団が部屋に積んであり、自分で敷くのだそうです。バスタオルはありません。ないないづくしですが、そう悪い感じは与えません。全体的に小ぢんまりとして、清潔感はあります。部屋からの眺めは遠くに雪をかぶった連山、周りは雪の消え残った山、手前には内湯の屋根が見えます。もちろん、覗き込みはありません。
さて、さっそく露天に行きました。宿の玄関を出て少し下がったところに、小さな湯舟が二つと脱衣所、さらに五段くらい下がったところに、屋根つきの広い露天と脱衣所がありますが、もちろんこの上下の露天を行き来するのは、着替える必要はありません。これらの露天はすべて女性専用の夜7時〜8時以外は混浴です。こう書くと、食事時間と完全にバッティングすると思われるでしょうが、食事は5時15分ころから始まって、量も少ないので、まったく大丈夫です。まずぼくは、広い露天でくつろぎました。雪をかぶった遠くの山をはさむ形で近くの山が迫ります。ちょっと電線が目立つのが雰囲気を壊していますが、なかなかの景色だと思いました。また、屋根がありますので、雨の時でも気にせずに入っていられます。ここは7・8人ぐらいの大きさでしょうか。真ん中に大きな岩がありますので、混浴でも人さえ少なければ相手の死角に入ることができます。場所によって違うとは思いますが、一番前のところはやや温めでした。けっこう湯の花があって、それが底に積もるのか、かなり底がぬるぬるします。すべらないようにゆっくり歩きました。上の二つの湯舟は、一つは木のくりぬき風呂(根っこ風呂)、もう一つは小さめの畳くらいの大きさがある浅めの浴槽で、寝湯に近い形で体を伸ばせます。こちらは屋根がありませんので、満天の星空を眺めるのには絶好です。ぼくは夜、露天に入れなかったので星空は眺められませんでした。内湯は非常に雰囲気のあるものだと、ぼくは感じました。四角い木の浴槽で、床から40センチくらい立ち上げてあります。浴室は湯屋造りでそこそこ高さもあると思います。ただ、それほど広くないので、せいぜい4人くらいでしょうか。またお湯はやや熱めです。お湯の流れ込む脇に水道もあり、そこから少し水が流れていました。壁にはコップが備え付けられており、飲泉ができます。特にこれといった印象は残っていませんが、飲みやすいものでした。ただ、この内湯には洗い場というものが全くなく、体を洗いたい人にはかなり不満が残るでしょう。一応シャンプーとボディソープはあるのですが使いにくいと思います。
料理は本来ならその部屋でだと思いますが、我々のために、特別に違う部屋を用意してくれました。料理は初めに、味噌汁ご飯をふくめて全部持ってきてしまいます。といっても、熱いものというのはそれほどないので、あまり影響はないかもしれません。ただ、味噌汁とご飯は完全に冷めます。お品書きはなく、説明はあったそうです(ぼくはちょっと遅れて行きました)。焼物は山女でまだあたたかいものでした。ただ、丸ごと頭からかぶりついたのですが、骨は食べられませんでした。後はなめこそば、肉の柔らか煮、ふき、糸こんにゃくの煮物、山菜お浸し、山菜和え物、味噌汁、香の物、などで、全体的に品数が少ないと感じました。あと二品くらい欲しい気がしました。味はそれほど悪くはありませんが、特筆すべきものはありません。朝ごはんも、納豆や海苔、卵という定番に魚は岩魚の甘露煮、おからというシンプルな形でした。これも、それほど特筆するべきものはありません。ここの若主人だと思うのですが、ユーモアがあって好ましい印象です。また、従業員もちゃんと挨拶ができて、全体的に非常に好感が持てます。ただ、「山の宿ですので・・」という断りが多く、それを言い訳にしているところがなくはないか? と思いました。秘湯、簡素、清潔系の宿というカテゴリーでしょうか。食事に関しては不満が残るし、部屋のこざっぱりした感じから考えると、割と最近改装したような気がしますが、その時にトイレつきの部屋をつくっても良かったのではないかと感じました。もっと料理に力を入れ、一般の人も気軽に来られるようにすれば、結構人気が出そうな気がしないでもありません。若主人と話した感じでも、ちょっと決断が遅れるタイプの人かなという気がしました。
 
翌日は小野川温泉の「高砂屋旅館」です。一人部屋の割高な料金にもかかわらず、「高砂屋旅館」は今まで僕が宿泊した宿の中では最低料金で、ほとんど期待せずに行きました。共同湯の「尼湯」の近くにある、間口二間ほどの小さな宿で、これというエントランスがあるわけではなく、温泉街に面して、普通の家のようにそのまま玄関があります。玄関を開けると、廊下があり、椅子が二つ並べられています。ちょっとロビーとは呼べません。また、帳場というものもなく、事務室のような入り口があるだけです。ただ、声をかけると感じのいい女将さんが出てきて、3:00のインには30分くらいあったのですが、部屋に案内してくれました。バックは持ってくれたような気もしますが、あまり覚えていません。女将さんは一応部屋には入ったと思いますが、お茶出しはありません。まあこの料金では、それも当然かなと思いました。ただ、浴衣のサイズの気づかいはありました。部屋はあじさいという二階の角部屋で、廊下にスリッパをぬぎ、ふすまを開けると、いきなり和室になります。錠はふすまに取り付けるタイプでした。部屋自体は古い感じすが、畳は新しく一人部屋でも10畳の広さがあります。また、角部屋で窓が二面あるせいか明るい印象です。眺めは近くの宿やこの宿の大浴場の背面などでそれほど良くありません。どこからか覗かれる気がします。広縁は長さもあり、幅も広めです。その広縁に洗面があるタイプですが、もちろん部屋にトイレはありませんでした。金庫もなく、冷蔵庫は申告制です。残念なことにティッシュがありません。バスタオルも付いていません。ただ、特筆すべきは一間(けん)ちょっとの床の間に立派な花が活けてある点です。この料金で花とはすごいなと思いました。ここは廊下などにもちょっとした花が飾られていて、花の好きな女将さんなんだなと感じました。
さて、大浴場ですが24時間OKで男女交代はありません。男性は岩風呂になっていてワイルドな感じです。洗い場は五つくらいしかありませんが、まあ旅館の規模から言ったらこんなもんでしょう。浴槽は五、六人が入れる程度でやはりこんなもんかなという感じです。新館だけあって新しく、湯屋作りになっていて快適です。ただ、湯温は熱めで、確か、湯面へのお湯の流れ込みがなかったので味を確かめることができませんでした。ただし、源泉流し切りだとは思われます。水温計が浮かんでいて、見たら44度になっていました。露天は大浴場から出るタイプで、2,3人程度しか入れないほんの小さなものです。ほんのおしるし露天と言っていと思いますが、目の前に木が3本くらい植えられていますので、極端に狭いという感じはしません。ただ、周囲を囲われていることは確かです。
夕食は部屋出しです。小さなお膳をいくつか並べる形で、メインは牛の陶板焼きです。多分米沢牛だと思います。この値段で?と思いますが、まあ米沢牛にもいろいろあるのでしょう。その他に米沢名物の鯉の甘煮が付きます。米沢を意識した正統的な旅館料理かもしれません。この鯉の甘煮はややクセを感じるもので、鯉が嫌いな人はこれは多分だめだと思います。お品書きはなく説明もありません。味噌汁、ご飯以外はすべて最初にもって来てしまい、陶板焼きにも火をつけようとしたので、あわててとめました。最初はわかりませんが、当然、食べるときには冷めてしまっているものも多くなっています。ただ、ボリュームがかなりあり、肉と鯉以外には、タコの小鉢、茶碗蒸し、刺身、山菜の炒め物、青菜のお浸し、白身魚のホイル焼き、茄子の詰め物が出されました。ホイル焼きと茄子はお膳に載らず、畳の上に置かれました。また、それぞれがボリュームがあるのでかなり満腹になります。ただ、今日もまたデザートはありませんでした。この分だと朝食もそこそこ行けるかなと期待したのですが、どうした訳か、夢でもさめたかのように、朝の品数はかなり少なくなっていました。多分今まで行った宿の中での最少新記録だと思われます。卵(ラジウム卵?)納豆、鮭、やまうどのお浸し、香の物、味噌汁、ご飯、ヤクルト。以上それだけです。おかげで、おひつのご飯を全部食べてしまいました。味は悪くはないのですが、鮭などもどうというほどのものではありません。

ぼくは報告に料金についてはほとんど書かないのですが、ここは宿の名誉のために書いておきましょう。冬期なので暖房料が500円かかるのですが、それを入れても料金は8500円です。しかも一人でです。それで、この内容ですから、コストパフォーマンスとしてはかなりのものだと思います。お風呂も悪くはないと思うし、長逗留するにはいいかもしれません。また、新館の料金もそれほど高くはないようなので、新館だとどんな内容になるのか気になりました。ここはこの日もそこそこお客が入っていたようですし、安くてパフォーマンスのいい宿として人気になるかもしれません。それも旅館の一つのあり方かなと思いました。最後の見送りにご主人が廊下に座って見送ろうとしていました。写真を撮るために外に出て来てもらってしまったのですが、座って見送ってもらったことはあまり記憶にありません。女将さんも感じがよかったし、その点では評価できると思います。お嬢さんらしき人がいて、将来の美人女将候補です。

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奥山田温泉「満山荘」へ行ってきました。ここは秘湯の宿の中でも、非常に評判のいい宿で、是非行きたいと思っていたところでした。景色もいいようなので、せっかくだから連泊でゆっくりすることにしました。また、チェックイン時間にちょうどいいバスの便があり、その時間に合わせて旅館の迎えも来てくれるので、ぼくのところからでも割と苦にならない感じでした。

迎えの車で宿に着いたのが3時過ぎ。新しいけれど落ち着く感じのロビーでそば茶をいただきます。去年下の部屋を改装したということで、もしかするとこのロビーもその時新しくしたものかもしれません。この満山荘にはいくつかの特徴がありますが、まず第一点はスリッパをはかないということでしょう。畳敷きの旅館なら何もはかないのは当たり前なのですが、ここは畳敷きではなく、すべてフローリングです。掃除によっぽどの自信がないと、こんなことはできないでしょう。残念ながら白い靴下ではなかったので、掃除具合はチェックできませんでしたが、見た感じ掃除は良く行き届いていたと思います。特徴の第二点はここは全部で10室しかなく、家族四人だけでやっているということです。繁忙期には掃除は頼んでいるらしいのですが、それ以外は四人でやっているということでした。チェックインの時にお茶を出してくれたのがおばあちゃんで、夕飯の時に話をしにやってきたのが館主であるおじいちゃん。でも、それ以外は、すべて若夫婦しか目にしませんでした。これはとんでもなく大変なことだと感じました。そのせいで、まあ仕方ないかと大目に見る部分が増えてしまった気がします。たまたま3組の客が迎えの車で一緒になり、部屋も同じフロアということで、案内は3組まとめてということになりました。若主人が案内してくれましたが、荷物はもちろん全員のを持てる訳はなく、誰かの荷物を代表して持つという感じです。この部屋ですと言われ、202号室の「槍」という部屋に通されました。引き戸型のドアを開けると、入り口のすぐに右に洗面台があり、左がトイレになっています。さらにふすまを開けると、10畳の部屋にすでに布団が敷かれていて、すぐにでも横になることができます。その先に4畳大の広縁があり、左端に籐の長椅子が置かれていました。10畳の左側が床の間になっていて、テレビを置いてある部分と床の間とがしっかり仕切られていました。窓からは近くの山々と遠くには日本アルプスの壁のような山々、善光寺平などが眺められます。非常にいい景色なのですが、残念ながら窓の半分くらいは下の部屋の屋根が視界をさえぎっています。普通は外の景色がいい場合、建物の高い方がいい部屋なのですが、ここは逆で下の部屋の方が景色はよく、料金設定も高いようです。しばらくして、他の部屋を案内していた若主人が戻ってきて、簡単な説明をしてくれました。ここは浴衣ではなく作務衣なのですが、サイズの気づかいもありました。もし、何かあったら帳場のところにつるしてある鐘を鳴らしてくれと言うことでした。見てみると、部屋には内線電話も、金庫も、冷蔵庫も、ティッシュもありません。秘湯の宿としては料金設定はやや高めですので、内線やティッシュくらいはあってもいいのではないかと感じました。

さっそく風呂に向かいます。風呂は一万尺風呂と名付けられていて、露天から雄大な日本アルプスの姿が眺められます。しかし、泊まった二日間で山々の全体を通して見渡せたという時間はなく、時間を変えて部分的に見られたという感じでした。男女交代はあるのですが、交代時間は夕食から夜の10時までだけで、それを過ぎるとまた元に戻ってしまいます。ここの露天は女性の方が眺めが良いらしく、つまり、その露天に男性が入れるのは夜に限られているということで、これは非常に残念でした。景色が眺められないんじゃしょうがないと思い、結局そちらの風呂には全然入りませんでした。男性用の露天は内湯の建物に沿って鰻の寝床式に細長いもので、3・4人くらいしか入れない感じです。ただ、今回は二日とも男性の宿泊客が少なく、どの時間でも割とゆったりと入ることができました。女性よりも良くないとはいえ、それなりに日本アルプスも眺められるし、星空も見られるいい露天だと思います。内湯もそれほど広くはなく、4・5人入ればいっぱいになりそうです。やや温目の部分と熱い部分とが分かれていますが、全体的に露天を含めて適温だと感じました。源泉は96度で、ここより大分下の源泉から引いているそうです。浴室の造りは露天の上に小屋がけをしたような感じです。湯舟は岩風呂で周りに木の板が張り巡らされ、天井は白いプラスチックの波板です。おかげで非常に明るく、ぼくはこの内湯は好ましいものに感じました。洗い場は4・5か所あり、ちゃんとシャワーもついていました。ただ、洗い場のところにつぶ塩の空の容器がいくつか置かれ、その一つには水?が溜まっていました。この辺は気を配って欲しい感じです。泉質は硫黄泉ですが、口に含むと酸っぱさやしょっぱさなどの刺激的な味はまったくせず、やや甘い感じが広がります。
夕食は6時からと決められており、「Food風土」という食事処で一斉にはじまります。ただ、都合によってはずらしても構わないようで、隣の席の人は6時半にやってきました。でも、その場合は、前菜などを食べる余裕のないうちに次の品を持っこられてしまうようです。食事処は集合型ですが、センスよく仕切られておりあまり気になりません。献立表もちゃんとついており、さらに若主人がその場の何組かの客に聞こえるように、大きな声で説明をしますので、何を食べているのかが良く分かります。よく月替わりの献立というものがありますが、何とここの献立は日替わりです。といっても、365日毎日献立が変わるというわけではなく、何日かのサイクルになっていると思われます。連泊するとその客だけ2泊目は違う献立ということになるのが普通ですが、日替わりのおかげで、その日の宿泊客の献立は全く同じです。こうすれば、連泊客用に別に料理を用意しなくても済むし、説明も同じでいいので、なるほどよく考えているなと思いました。一日目の食前酒は白ワインをベースにしたもの、二日目は赤ワインをベースにしたものにそれぞれ様々なものを漬け込んだ手造りの食前酒です。最初に前菜や小鉢など5品くらいが並べられ、その後、一品ずつ時間を見計らって持ってきてくれます。このペースは早すぎもせず、遅すぎもせずで、ゆったりと食べることができました。また、二日目は天ぷらが揚がるたびに、一品ずつ、紙を敷いた大鉢の中に入れていってくれるという方法で、まさに、「ここは天麩羅屋?」という、きめの細かい食べさせ方でした。もともと素材もいいのですが、おかげですべてあつあつのまま、おいしく食べることができました。天麩羅は意外な素材がおいしく感じられることがままあるのですが、この日は信州りんごの天麩羅がそうでした。甘味があり、衣と一体になって新しいおいしさを引き出しているように感じました。また、二日目は中心となる素材として筍が取り上げられており、筍の刺身、焼き筍など、おいしく食べることができました。ただ、筍は地元のものにはまだ早く、九州からのものということでしたから、地元のものが使われるシーズンになるとさらにおいしいものが食べられることと思います。料理に使われている素材はよく吟味されているものです。特に一日目の山菜サラダのしゃきしゃきとした歯ごたえや野性味は何ともいえませんでした。また、鴨もいいもので、一日目の鴨のたたき、二日目の炒り胡麻を自分ですって食べる鴨鍋は絶品でした。魚は一日目が山女、二日目が岩魚で山女は非常に姿が美しく、岩魚は骨ごと食べられいずれもおいしいものです。ここは信州の山の中ですので、刺身は一日目が鴨のたたき、生湯葉、二日目が牛のたたき、不夜城(アロエ)、筍、という構成で、魚がなくても十分満足できます。その他、一日目はチーズの茶碗蒸しが和洋の見事な混合、二日目は長芋そうめんの爽快感を評価したいと思います。食事は一日目は梅干茶漬け、二日目は野沢菜茶漬け。デザートは一日目がりんごシロップ煮、二日目がさっぱりしていておいしい桜アイスで、それぞれ苺が一つつきます。器もいいものが使われ、大皿、大鉢など器づかいも非常に大胆です。まさに、どこをとっても、これが信州の秘湯の食事かと思わせる非常にセンスのいいもので、この献立が繰り返されるのでなければ、また温泉抜きでも食べに来たいと思わせられました。この料理を作るのが、おかみさん(ここの娘さん=若主人の奥さん)で、本格的な料理の修業はまったくしたことがないそうです。ただ、東京の武蔵野美大(多摩美大?のどちらか)を出ているらしく、多分、そこからくるセンスの良さが料理にも十分発揮されているのだと感じました。朝は同じ食事処で、バイキングになります。10室しかないのにバイキングとは驚きましたが、多分その方が手間をかけずにすむのだろうと思います。さすがに巨大旅館の料理数には及びませんが、種類もそこそこあり、りんごジュース、牛乳、コーヒーなどもあります。これは一日目と二日目とではまったく変わらず、確か味噌汁も同じだったと思います。味噌汁くらいは変えてもいいのではないかと思いました。さすがに、夕食ほどのパワーは感じませんが、味はすべて合格点と言っていいと思います。ただ、出されている量が少なめで、たっぷり取るのは遠慮してしまう感じがします。バイキングの時はいつもぼくは取りすぎて後悔し、食べるのに一時間くらいかかってしまうのですが、今回ばかりは30分で終わってしまいました。ただ、みんなが遠慮するせいか、最後は結構残っているのですが・・。

さて、もう一つ忘れてはならない特徴は、ここの館主堀江文四郎さんでしょう。この旅館を育て上げた人ですが、一言でいうと人なつこい面白いおじさんです。普通の旅館は夕食の時に女将が挨拶に来たりしますが、ここは文四郎さんが、ふらりとやってきて客に話しかけ、一組ずつ話していきます。人なつこく全然悪気のない人ですが、ともするとその話が自慢話であり、くどくどしていると感じる客もいるでしょう。また、正直な性格からか、若い女性のグループほど話が長くなる傾向があるように見受けられました。話が面白いのはいいのですが、その間、食事が中断されたり、集中力がそがれたりします。二日目は某温泉地の若女将5人のグループが宿泊していたらしいのですが、けっこう長い時間かしこまって話を聞いていたようです。もちろん、文四郎さんとの話を楽しみにやってくる客もたくさんいると思いますので、これは批判でも何でもなく、そういう面白いおじさんがいるということです。ここには「山の宿ですので」「家族4人でやっている宿ですので」という断り書き、言い訳は一切ありません。その点は立派だとは思うのですが、ただ、現実問題として表れてきてしまうところがあります。まず、金庫、冷蔵庫はいいとしても最低インターフォンはつけるべきではないかと思います。部屋を開けることのできない緊急の事態が起こるかもしれません。また、連泊しても新しい作務衣の着換え、アメニティの追加、部屋の掃除、シーツなどの替えがありません。掃除やシーツはそのままで構いませんが、着換えと歯ブラシなどのアメニティはあった方がいいと思います。スリッパがない分、アメニティには足袋くつしたが付いてきますが、神経質な人は替えがほしいでしょう。一度部屋に案内したら、あとは一切部屋には立ち入らないという方針であるのはいいと思いますが、朝食の後に着替えを渡すなど、この点だけは再考を要すると思います。この宿は家族経営の宿という山脈の中ではおそらく最高峰の一つではないでしょうか。特に料理は素晴らしい。また、秘湯でしかも快適な宿という山脈の中でも上位に入るでしょう。あと、ほんのわずかなことをクリアしさえすれば、日本の一つの宿としての総合的な評価も高まると思います。今でも、リピーターの多い宿です。予約の取れない宿となるのもそう遠いことではないかもしれません。

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新潟への四泊の旅に行ってきました。前半は暑く、青空も開けましたが、後半はどんよりとした曇り空で肌寒い感じでした。とは言え、松之山の美人林、また、清津峡を初めとする新潟の新緑とその中に点在する、藤や桐の花の上品な藤色に見守られた五日間の旅でした。
 
初日は越後湯沢温泉の「ホテル双葉」です。ここは77室の大型旅館で、割と最近、山の湯という新しい浴場を作ったばかりです。もともとここのお風呂は越後湯沢の中でも見晴らしがいい方らしいので、一度行ってみたいと思っていたのでした。宿に到着したのは1時30分頃で、ここは2時がインの時間なのですが、ぼくが到着した時点で宿の前には和服を着た女性ともう一人の従業員が出迎えに立っていました。これはわれわれ一般客のために立っていたのか、それとも団体の到着時間がまもなくなので立っていたのかはわかりませんでしたが、一般客のために30分も前からならたいしたものだと思います。時間前でしたが、待たされることもなく、部屋に案内してもらえました。ロビーや廊下には花が見事に活けられています。この辺は大型旅館ならではの豪華さという感じがしました。部屋は二畳の踏み込みに10畳の主室、広めの広縁という一般的な広さです。まあ新し目という感じでしょうか。一畳幅の床の間には花が活けてありますが、廊下の豪華な感じに比べて、とりあえず入ってますという素っ気無さでした。この日は天気も良く、越後湯沢の駅へ迎えもあるのですが、そんなに遠くないし旅館街も歩いてみようということで歩いて来たので、部屋の中だと暑く感じます。そこで案内係の女性に冷房にしてほしいと頼んだところ、何かごにょごにょ言って、エアコンをつけていきました。案内係の女性が去った後、入れてくれたお茶を飲んだら、湯飲みのおしりからお湯がポトポト・・。見ると茶托がお湯浸しになっていました。エアコンも全く利かず、吹き出し口に手を当ててみるとなんと温風が吹き出ていました。どうもここは全館一斉の冷暖房で、夜は冷えるためまだ暖房のままだったようです。この案内係は使えません。トイレはシャワートイレ、お風呂もありますが多分温泉ではないでしょう。また、部屋を歩くたびにみしみしきしむのが気になりました。窓からの眺めは、遠くのまだかすかに雪の残る山々、近くの緑の山々という感じですが、下の階の屋根部分もかなり視界を占めています。
さっそく、お風呂へ向かいます。最近できたらしい山の湯というのは広く、たくさんの浴槽があるのですが、一か所しかないので男女交代になります。男性は昼から夜の8時までで、それ以外の時間はすべて女性です。この宿は女性優位の宿であることを謳っているらしく、アメニティの足袋も女性だけ、デザートのぜんざいも女性だけのサービスで、たしかにこの日も女性の団体客が多かったようです。もともと男女別にあった大浴場とそれに続く露天も交代制で、二つのうちゆったりとした風情のある露天の方が夜まで女性用、男性は朝だけでした。山の湯は、広めの内湯と小さめの露天がたくさん並ぶというつくりになっていますが、浴場に入るなりかすかな塩素臭がします。これだけたくさんの浴槽を作ったのですから、循環は当然かもしれません。お湯をなめてみても、ほとんど特徴のないお湯という感じでした。確か塩化物泉ということですが、塩味はしません。ややぬる目の適温でしょうか。ここは内湯の仕切りがほとんどガラス戸になっていて、昼間はそのガラス戸がすべて開放されて、半露天の感じになっています。明るく開放感があり、内湯で十分満足できました。もともと小さい湯船は好きではないので、その他の湯舟は一応一回ずつ入ったきりでした。小さい湯船の一つに、温泉に真珠の粉を入れたという「真珠風呂」なるものがあって、白濁しています。ここは女性には人気の浴槽のようです。この山の湯の湯上がりどころにはお茶と冷水が置いてあり、小梅と小さなきゅうりのつけものも食べることができます。このきゅうりはおいしいものでした。もともとあった大浴場と露天もなかなか感じが良く、緑や山々の見晴らしもあってこれだけでも十分満足できるものです。
食事は夜は部屋で、朝はバンケットルームでのバイキングになります。夜はお品書きが付きますが説明はありません。食前酒はさくら酒という、お酒にさくらの花を入れたものでおいしいものでした。三品の中から選べるものと、二品の中から選べるものと二種類自分で選べることができます。ぼくはステーキと、帆立のクリーム煮にしてみました。初めに前菜、刺身など六品が並べられ。豆腐と地鶏鍋に火をつけようとしたので、地鶏鍋だけはこちらでつけるからと、とりあえずそのままにしてもらいました。食べているうちに追加の料理が運ばれてくるだろうと思っていたのですが、なかなかやってきません。その内に食べるものがなくなりそうになってきたので、あわてて地鶏鍋に火をつけました。なるほど、鍋に火をつけようとしたのはこういう事情からかと納得がいきました。豆腐は浅いお鍋に水が張られ、その中ににがりと豆乳の入った茶碗蒸で使うような蓋付きの容器が収まっていて、目の前で作るという趣向です。先に出された六品の中では、この地鶏鍋、豆腐はおいしかったものの、その他には印象に残ったものはありませんでした。前菜の中にやはりソラマメが一粒入っていて、新たにソラマメの法則が作れそうです。一時間ほどして、三品一度に運ばれてきましたが、なんとステーキは冷め切っています。肉の間に何かはさまれた少し凝ったものなので、もしかすると冷製仕立てなのかなとも思いましたが、やはりこれは温かい方が絶対においしいだろうという味でした。帆立のクリーム煮は温かさがのこっていましたが、やはり冷めていて今写真で見ても、表面に薄い膜がはってその膜にしわがよっています。また、味に深みもありません。もう一品だけはあつあつでしたが、残念ながら味は今一です。最後の味噌汁がわりの鯉こくは非常に温まるおいしいものでした。デザートは杏仁豆腐の杏仁に生クリームを添えたものでこれも今一でした。ということで、このようにある程度前評判のいい宿で、冷たいものを食べさせられるとがっかりします。この料理を運んでくれた仲居さんはさっきの案内係とは違って非常に感じのいい人だっただけに、料理は仲居さんのせいではないとはいえ、残念でした。朝のバイキングもごく普通で、まぐろの山掛け以外は目立ったものはなく、9時までの時間帯で8時にいったのにもかかわらず、魚はなくなっていました。その後追加されたみたいですが、見た目もいただけない感じでした。全般的に、味はごく一般的だったと思います。ただ、建物の外にも席がありそんなに見晴らしは良くないのですが、さすがに五月のさわやかな風は食欲を引き立ててくれました。今回の双葉ほど大型旅館の欠点が出てしまったところはないように感じます。多分、夕食の時間帯は団体に手をとられて個人客は放っておかれたのでしょう。ここは、昼間の時間にはセミナーなどが開かれていたらしく非常ににぎわっている印象です。団体向けの旅館が、軒並みおかしくなる中、まさに団体向けでまだなお成功している旅館ということができるでしょう。
 
二日目は松之山です。途中、美人林に立ち寄り五月の松之山の美しいぶな林を堪能した後、今日の宿「鄙の宿千歳」へと向かいました。「鄙の宿千歳」は松之山の温泉街のやや端に位置している、小ぢんまりとした旅館です。ロビーも広くはありませんが、玄関を入った正面に中庭のようなほんの小さな庭があり、池には金色の鯉がたくさん泳いでいて、暗めの室内に華やかなアクセントをそえています。チェックインしたのは3時ちょっと前で、部屋にはすぐ入ることができました。確か部屋係りの仲居さんがそのまま案内してくれました。この仲居さんは真面目そうな実直そうな人でした。お着き菓子は光餅というコシヒカリの粉を使った、この宿のオリジナルだそうで、非常においしいものでした。部屋はドアをあけてすぐ右手に洗面所があり、その横がトイレになっていて、このトイレはシャワートイレです。正面のふすまをあけると十畳の主室。その先に広めの広縁というつくりです。広縁の右側が板の間になっていてそこに掘りごたつがしつらえられています。もちろん、もうこの時期にはこたつ布団は外されていました。その左側にはマッサージチェアが置かれていました。でも残念ながら、百円入れないと動きません。お金を入れないで座ると、ただごつごつした感じで座りごこちが悪く、マッサージチェアを使わない人にとっては、せっかくの広めの広縁を占拠する邪魔物にすぎません。部屋は全体に新しくいい感じです。窓の外には温泉街の前の商店やその上方には木々が眺められ、覗き込みはありません。落ち着いたいい部屋だと思います。冷水も初めからセットしてあります。
さっそく源泉の露天へと出かけました。このお湯は月の湯と名づけられ、多分後から作られたものだと思います。もともとのお風呂は一階に男女別にそれぞれ露天もついてあるのですが、こちらは加水で循環のようです。ただし、塩素臭はしません。さて、その月の湯ですが、四・五人ほど入れる浴槽の端から源泉が注がれています。もちろん流し切りです。あとで旅館の人が温度計を持って計りにきたのですが、湯口から一番遠い対角線のところで44度、近くの端のところで47度。湯口のところで77度(?)だったようです。表面が熱いから湯もみして入るようにという書つけがあり湯もみ板が置いてありましたので、初めて湯もみしてみましたが、あれはなかなかうまくいかないですね。草津の熱の湯の湯もみショーみたいにはいかないもんだなぁと思いました。湯口には檜の枡が置いてあり飲泉できるようになっていましたが、このお湯もしばらく置いておかないと熱くて飲めません。冷まして飲んだところ、しょっぱーい!!という感じで、いままで飲んだ中でのしょっぱさ最高峰という気がします。また、この松之山は日本三大薬湯であるらしく、確かに何かの薬草を煎じたような味がします。それに檜の枡のにおいが加わって何とも複雑な味とにおいになっていました。他の人はアブラ臭いと言っていましたが、ぼくは檜の匂いかと思っていました。とにかく、しょっぱすぎて、枡一杯飲んだら絶対に体に悪いなと思っていたら、案の定、飲泉の際は三倍に薄めて飲むようにという但し書きがありました。しかしさすがにこれだけの塩分ですから、あったまることは最高ですね。ただ、残念なことにここは山に近いということで、ブヨが多く、やたらに噛み付いてきます。アブほどは強烈ではないものの、あまりいい感じはしません。また、夏になると露天の柱にたくさんのヤママユ蛾が張り付いているとの常連さんからの情報もありました。とにかく、ぼくはこの熱い湯に出たり入ったりしながら、結構長い時間入っていました。見晴らしはまあ利くものの、町中ですので大自然の中と言う感じではありません。大浴場も循環しているとはいえ、結構熱くなっています。塩素臭はしませんので、かなり流し切りに近いのではないでしょうか。小ぢんまりした浴槽ですが、旅館の規模には合っているとおもいます。また、併設された露天も二三人が限度という小ささで、見晴らしもまったくありませんが、すぐそばに魚の泳ぐ生簀のようなものがあり、面白いと思いました。ただ、部屋に冷水があるとはいえ、湯上がりどころにも冷水がほしい気がしました。
夕食は部屋でいただきます。お品書きはありませんでしたが、説明が少しありました。初めにぜんまい、わらびなどの山菜の前菜、ぼたん海老の入った刺身、アケビの芽をうずらの卵で食べさせるもの、ステーキ、など六品。後からけんちんグラタン、揚げ魚のあんかけ、鯉こく、野菜の煮物など四品が運ばれてきました。ステーキは何牛ですかと聞いてもちゃんとした返事はなかったのですが、ぼくはかなりおいしいと思いました。ぼくの食べたステーキは米沢牛のチャンピオン牛を使った(?)上ノ山の「古窯」のものが最高峰なのですが、瀬波の大観荘の「村上牛」やこの千歳の牛など新潟の牛もその次ぐらいのレベルではないかとさえ感じました。刺身もおいしかったし、ここぞというポイントを押さえた食事だと思います。後出しのものはすべてあつあつでおいしくいただけました。デザートはゼリーで工夫の凝らされたものでした。全体的にバランスのとれたおいしい食事だと思いました。ただ、白ワインを頼んだのですが、ワインを冷やすワインクーラーがなかったのが残念です、ワインを何種類か用意してある宿で、ワインクーラーがないとは解せません。朝食も部屋でした。おいしい牛乳がつきました。山菜系が中心で焼き魚の代わりにしらすが付きましたが、欲を言えばこれに加えて焼き魚がほしい感じです。また卵系の料理もなかったのが残念でした。とはいえ、おいしくご飯が食べられました。書いたように、何点か残念な部分がありましたが、全体的に心配りが行き届いたいい宿だと思います。料金もそれほど高くはありません。
 
三日目はまた越後湯沢にもどり、今度はバスで清津峡へ向かいます。昨日のほくほく線もそうですが、一日にあまり本数がないので、結果的に早めに宿についてしまいます。この日も正規のインの時間は3時なのですが、バスの時間の関係で2時前には着いてしまいました。見た感じ堂々とした構えの立派な建物です。でも、この旅館の歴史には雪崩でつぶされてしまったという悲しい過去があるようです。しかし、見上げてもそんなに高い山あいにある訳でもなく、一体どこからどんな風に雪崩がやってきたのだろうという気がします。
さて、一時間以上前ですが、さっそく部屋に案内してくれました。3階建ての3階の「栃」という部屋でした。ドアを入ると踏み込みの右手に洗面所があり隣がトイレになっています。このトイレは洋式ですが温座ではなく、座るとひやっとします。トイレの位置は違うものの昨日の千歳と似たつくりです。正面のふすまを開け、十畳の主室にはいります。左手全面が床の間、正面に広めの広縁があります。窓からは前の建物が左手に、右手には清津川の流れが眺められます。また斜面は緑におおわれています。床の間には立派な花が活けられていました。案内係の人もいてお茶も出してくれ、ゆかたのサイズの気づかいもあるなど、秘湯の宿の割にはいい待遇でした。床の間も立派なもので、左右に仕切られ、テレビやインターフォンが置いてあるところとメインの床の間とが区別されていました。天井も高く取られ、かなりしっかりした作りだと感じました。ドアはオートロックで秘湯の宿には珍しいと思います。ただ、オートロックはホテルのようにカードキーが何枚もあるときはいいと思うのですが、不便なことも多いのであまり好きではありません。
ここは露天風呂がなく、どうやら宿は以前は現在駐車場になっているところにあり、宿の前の池が露天風呂だったようです。しかし、現在は国立公園内なのでなかなか思うようにいかないということでした。したがって、今のところは露天風呂を造る計画はないようです。ということで、残念ながら内湯に入りびたりの生活になりました。内湯は非常に明るく二面に大きく窓がとられ、外の緑を見ながら入ることができます。ただし、外を歩いている人からも丸見えになってしまうのが欠点です。外から見えてしまう内湯というのも珍しいと思います。多分女性のお風呂はそんなことはないと思います。湯舟はそれほど広くはなく、四五人で一杯になってしまうでしょう。また、シャワーの付いているカランも二つしかありません。ただ、この日は三組しか客がいなかったので、何時間入っていても迷惑をかけることはありませんでした。お湯は適温でゆで卵をむいた時のかすかな卵臭がします。非常に上品な卵臭です。湯口の脇には温泉成分が白くびっしりと固まっています。松之山の強烈なお湯とは違い、ここはここでいいお湯だと感じました。もちろん源泉流し切りで、掃除の時間を除いて24時間入浴可能です。また、湯上がりどころというべきものはありませんが、浴室を出たところに湧き水の冷水ジャーが置かれています。夕食は部屋です。向こうから6時という指定で、しかも客が3組しかいないのに、6時半近くなってようやく若女将が運んできました。お品書きはなく、説明が少しありました。夕食のメインとなるものは鴨鍋で、きのう千歳で出たのと同じ、あけびの芽をうずら卵で食べるものがここでも出ました。これは何だか、お蕎麦を食べているような食感で、好印象です。この二つを初め、岩魚の焼物、山菜の胡麻よごしなど最初に七品。後から鯉のマリネ風刺身、山菜の天麩羅、茶碗蒸しの三品が出されました。ただ、あれだけ待たせて、まず岩魚の焼物がすっかり冷めてしまっている。これは冷めてさえおいしいもので、焼き立てだったらどんなにかと思わせられました。さらに、後出しの天麩羅さえ冷めているのはどういう訳でしょうか。茶碗蒸しが、その性格上かかろうじて温かかったという程度でした。鯉のマリネ風刺身は臭みがなくおいしかったし、最後に持ってきた味噌汁代わりの鯉こくはさすがに温かく、非常においしかったし、全体的に味付けはかなりいいと思いました。ただ、せっかくのその味付けを生かせない状態は何とか考えなければいけないのではないでしょうか。最後のデザートは小さなスポンジケーキと苺でこれはもう少し研究の余地ありと感じました。朝食は一階の食堂で、サラダ、焼き魚、温泉卵、海苔、煮物、お浸しという非常にオーソドックスなものです。また、最初に温泉で炊いたおかゆがつきます。ただ、ご飯がおいしいせいかみなおいしく感じられて、なかなか満足度の高い朝食でした。ここは部屋数は全部で11室。ちゃんと板長さんがいるようです。しかも案内係の女性や、その他何人もの従業員を見かけました。これでは経営効率が悪いだろうなと思いました。冷たいものの部屋出しと、大部屋でも温かいものがおいしく食べられるのと、お客はどちらを望むでしょうか。もともとおいしい食事なのですから、これをちゃんと食べられるようにすること、できれば露天を造ること、もともとロケーションに恵まれている宿なのですから、これだけでずいぶん評価が上がると思います。
 
いよいよ最後は四泊目の大沢山温泉大沢館です。またまた越後湯沢にもどって上越線で大沢駅へ向かいます。送迎は二時からにしてほしいと言われていたのですが、電車は1時半に着いてしまい、まあ、二時まで待つのもしょうがないやと思いつつ大沢館に電話したのですが、そんないやそうな感じでもなく、今食事しているので少し待ってくださいと、あっさりOKしてくれ、そんなに時間も経たずに迎えに来てくれました。ああ、この人がうわさの主人だなと一目で分かる感じで、ぼくは少し警戒していたのですが、きさくな感じで、車の中から景色の説明などしてくれました。
宿に着くとそこにはなんとも立派な門が建っていました。時代を感じさせるような門ですが、でも、この旅館はそんなに歴史のある旅館ではなく、この主人の代から始めたようです。門をくぐると焼き芋のいい香りが漂っています。門の裏にこの時代がかった門とは対照的なピカピカの焼いも機がすえつけられています。何でも3時過ぎには焼けるから、好きに取っていってかまわないということでした。玄関の引き戸を開けると、上がりかまちの左側に水槽がしつらえられ、水が張られてトマトやきゅうり、甘夏などが冷やされています。これも好きなだけ食べていいということです。その裏には囲炉裏のある小部屋があり、炭火が熾され、そのそばになまこ型のお餅が薄く切られて並べられていました。これも、炭火で焼いて食べていいそうです。また、今は出されていませんが、後の時間には、ここには粽や焼きおにぎりも出されるそうです。食べ物がいっぱいあるとは、知っていたのですが、とにかく、実際に目の当たりにして、このサービス精神には圧倒されました。こんな旅館は初めてです。
まだ正規のチェックイン時間には大分間があったのですが、案内してくれるということで、部屋に向かいました。部屋はトイレがあり、さわぎ声も聞こえないからという別館にしました。別館は三階建てで、二階と三階に三部屋ずつありますが、その二階の真ん中の「栃」という部屋でした。別館へ行く途中、露天風呂への入り口を通るのですが、ここにもどくだみ茶や、こんにゃくの味噌田楽などが置かれていました。部屋では案内係の女性がお茶も入れてくれました。浴衣の気づかいもあり、花も飾られていて文句のつけようもありません。アメニティは白いポーチの中にフェイスタオル、歯ブラシという定番の他に、綿棒やへちま、軽石までもありました。これもサービス精神の表れでしょうか。部屋は格子戸で、引き戸を開けた正面に洗面所とトイレ。このトイレは温座ではあるもののシャワーはなく残念でした。右手の部屋に入ると四畳半の次の間、その次の間を通って十畳の本間へ入ります。左側の壁がすべて床の間になっておりさらに、広縁の方にも飾り棚が続いています。天井も高く、欄間があり、また座敷と広縁との境に障子もたてられている、かなりどっしりした印象を与える本格的な日本間です。窓からは見下ろす感じの緑の景色と、右手には男性露天風呂、左手には男性内湯と、特に見たくないものも見えてしまいますが、開放感のあるなかなかの風景です。この部屋はすっかり気に入ってしまいました。
さて、さっそく露天風呂に向かいました。部屋から見た感じ、露天風呂もなかなか良さそうです。まだ、2時半ちょっと前で清掃中の札が立っていましたが、フロントでもうOKということを確認していたので、気にせずさっさと入りました。露天は一つの浴場棟になっていて、これもまた非常に本格的なものです。天井が高く太い梁が渡され、浴室の前面と左側面の二方向が開放されています。浴槽の上にも浴場棟全体の屋根が渡されていますから、正確に言うと半露天ということでしょうが、やはり眺めおろす景色の広がりは開放感をたっぷり味わうことができます。3メートル四方の五六人程度の浴槽ですが、満室だったこの日でも、そんなに混み合うということはありませんでした。お湯は、やはり塩化物泉だったと思いますが、しょっぱさは全然感じませんでした。また、少し沸かして循環させているようですが、塩素臭はまったくしません。なめてみると、甘さを感じるおいしいお湯です。この露天の欠点は、まず終わりが夜の10時と早いこと。いつも言っていることですが、せめて12時までにしてほしいところです。それから、露天までは渡り廊下を歩いて来なければならないのですが、その渡り廊下から男性露天が半分見えてしまうこと。これは廊下を歩いてくる女性もいやだと思います。また、お風呂に入っている側もどうも落ち着きません。とはいえ、風に当たりながら歩くこの渡り廊下もなかなか風情のあるものです。内湯はこの渡り廊下をはさんで、露天とは対称の位置にやはり、すこし飛び出した形で建てられています。岩風呂で、湯舟は露天よりもやや小さめくらいの感じですが、前面と右側面の二面に大きなガラス窓がとられて、やはりひろびろとした景色を眺められるようになっています。女性用はその隣ですので前面と左側面ということになります。女性の内湯の左側には野生の大きな藤の木があって、いままさに満開と言う感じでたくさんの花をつけていました。女性だったら、この花を愛でながら内湯で過ごすのもいいだろうなと思いました。この内湯は交代はなく24時まででした。
別館の客の夕食は部屋出しで、本館の客は露天へと続く渡り廊下に面した食事会場になるようです。最初に食前酒をはじめ十二品がどかんと運ばれてしまいます。お品書きもなく、説明もほとんどありません。食前酒は白ワインで、銘柄などは聞きませんでしたが、口当たりのいいおいしいものでした。運ばれたものは、鴨肉などの前菜、鮭の焼物、天麩羅、刺身、酢の物、山菜を使ったいくつかの料理、岩魚と舞茸の陶板バター焼きなどで、バター焼きにはまだ火がつけられていないのは良いと思いますが、テーブルには何気なくチャッカマンが置かれどうやら、自分達で勝手に頃合を見計らってつけるようです。それは全然構わず、むしろその方がいいのですが、一言「お好きな時に・・」などという言葉がほしいと思いました。ここでも、ご多分にもれず、焼き魚、天麩羅などは冷え切っていました。その冷えていることは別にしても料理全体にパワー不足で、おいしいものを食べさせてやろうという意気込みが伝わってきません。刺身も今回の四泊の中で最も力が落ちたと思います。とにかく、これはと思わせるものがほとんどなく、かろうじて目の前で焼いた岩魚と舞茸の陶板バター焼きがおいしかったと言えるだけでした。ただ、特にこれはまずいというものもなかったのですが・・。後出しが一つだけあり、なめこを使った温かい料理で、これはあつあつを食べられましたが、味は今一だった記憶です。最後におすましとご飯ですが、ご飯は塩沢コシヒカリを使っているそうで、浴衣にまでコシヒカリの名が入った米俵柄のものを使っているくらいこだわりがあるようです。確かに、ごはんはおいしいと思いました。デザートは抹茶ババロアの小倉あんかけ(?)で、これも膝を打つまでいきません。朝食は部屋ではありませんが、新館の客だけが中会場というところでの食事になります。海苔、温泉卵、サラダ、焼き魚、ひじき、煮物という定番のもので、これに牛乳かオレンジジュース、キウイとオレンジのデザートが付きます。朝食の魚は温かかった気もしますが、よく覚えていません。味は特にこれというものはやはりありませんでしたが、ごはんがおいしかったせいか、全体的においしくいただきました。ごはんはむかしながらのおひつで出され、非常においしかったと思います。おひつ全部食べられそうでしたが、四日も続いた旅のことも考え、三杯でやめておきました。さて、問題のお酒を飲んだ後の主人のことですが、幸か不幸かこの日、主人は早く帰ってしまったそうで、ふだんはどんな状態なのか分かりませんでした。女将さんは「よろしかったら・・」と言ってましたので、お酒のふるまいはあったと思います。ただ、ぼくは場所が玄関脇のいろりのあるところだと思って、様子を見にいったのですが、そこは明かりが消えていて何の気配もありませんでした。翌朝、食事を終えて部屋に戻ろうとしたところ露天の入り口近くに「いろり」という部屋があるのを発見しました。ははあ、ここだったんだなと思いましたが、きのうも盛り上がっていればその前を通った時に気づいたはずです。多分、主人がいないのでだれも来なかったか、早めにお開きになってしまったのでしょう。この主人については仲居さんも「お酒が入らなければ・・」と言っていたし、女将さんも「二重人格です」と言っていましたので、だれしも認めるところなのでしょう。ぼくは実際に酔った様子を目にしていないので気楽に言えるのかもしれませんが、宿の様子から考えるに、本質的にはもてなしの心にあふれた人なのだと思います。宿の、いろいろなものが好きに食べられることについて、女将さんに「もてなしの心にあふれていますね」と言ったら「主人が聞いたら泣いて喜ぶ・・」と言っていましたので、多分そうなのだと思います。それだけに、お酒は残念なことですね。あとは、やはり、現在の食事を何とかすることが必要でしょう。ぼくは、主人の評判から、働いている人の心や宿自体も荒れているのではないかと心配していたのですが、そんなことは全くなく、みんな明るく、宿も清潔で安心しました。本質的にはかなり評価できる宿ですので、主人の心がけで何とか前の評判をとりもどしてほしいと感じました。

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北海道へ行ってきました。6月は梅雨の時期。でも、北海道には梅雨はないと聞き、では今年は北海道にしてみようということになったのです。そして、思い通り晴天の北海道を楽しんでくることができました。ただ、電車やバスで移動するため、あまり遠くまでは行けず、地図とにらめっこをしながら、登別→丸駒→朝里川という順に決めたのでした。本来は、一番いい宿を最後に持ってくるのが、ぼくの旅館の決め方なのですが、最後に小樽の観光をするので、最初がいい宿になってしまいました。
 
初日は登別温泉の「登別温泉観光ホテル滝の家」です。ここは全部で60室という中規模の旅館です。登別の駅からバスで登別温泉へ、そこから歩いて4分くらいらしいのですが、どの方向に歩いて行っていいのかわからないので、宿に電話して迎えに来てもらいました。ほとんど待つことなく、すぐに来てくれました。登別の温泉街はそんなに広くなく、かなりかたまって旅館が建っている印象です。着いたのが3時近くで、インが2時ですのでぼくとしてはかなり遅い到着です。すぐに案内してくれ、通されたのが鶴という、三階建ての建物の二階の角部屋でした。ドアを入るとそのまま8畳大の洋間へとつながり、さらにその奥に12畳の和室が続いています。洋間といってもベッドはなく、応接セットが置かれています。したがって、和室には広縁はついていません。和室には骨董に近いような和家具と文机が置かれていて、落ち着いた雰囲気をただよわせています。床の間にはもちろん花がかざられています。角部屋ですので、非常に窓が多く、洋室に一面、和室に三面の窓がありました。洋室の一面も実際は、応接セットの置かれているあたりが、大きな出窓のように飛び出した形になっていますので、コの字型に窓に囲まれているのです。洋室から和室に向かった正面の窓は庭に面し、他の三面の視界は間近の斜面を覆い尽くす木々で占められています。正面の窓近くに行けば他の部屋が見えますが覗き込みはないと言っていいでしょう。部屋のところどころに炭がたっぷりと籠に入れて置かれているのが印象的でした。申し分のない部屋ですが、洗面とバスがユニットになっていて、この部分は情緒に欠けます。もちろんトイレは別で、シャワートイレでした。浴衣のサイズの気づかいもありました。
大浴場は掃除の時間を除いて24時間、露天もふくめて入浴可能です。男女の入れ替えはありません。多分、露天の構造上の理由だと思います。男性の露天が一部の部屋から見えてしまうのです。大浴場は、長方形で、そこに四角い湯船が、三つ順番にならんでいます。一番手前が、無色透明の食塩泉で温め、真ん中が硫黄泉で熱め、一番奥がラジウム泉で中間となっています。それぞれの湯船は割と大きく6・7人は入れるでしょうか。湯船の反対側に洗い場が並び、雲仙の宮崎旅館と同じように炭シャンプーとオレンジシャンプーが交互に置かれていました。シェーヴィングフォームも置かれているのは、僕としては高評価です。湯船は露天も含めて三つの泉質がすべて源泉流し切りで、いいお湯をたっぷり楽しむことができます。その露天は、大浴場の端のドアから少し下ったところにあり、かなり広々としています。20人くらいは入れそうな感じです。この露天風呂にはラジューム泉が注がれているようです。硫黄泉、ラジューム泉とも白濁していますが、どちらかというと硫黄泉は緑系、ラジューム泉は青系だったと記憶しています。露天のすぐ脇に細い水路がつくられ、透明度の高い冷たい水が流れていて、露天から手を伸ばせば簡単に触ることができます。この透明度や冷たさから考えると、多分湧き水が流れるようにしているのだと思われます。半分を木々に囲まれ、あとの半分は建物に囲まれていますが、広いのでそれほどの圧迫感はありません。この露天はやや温めで、じっくり温まることができます。また、湯上がり処には冷水機が置かれて、湯上がりに冷たい水を飲むことができました。
食事は夕食、朝食とも部屋です。風呂から上がって部屋に入ると、すでに白いテーブルクロスが敷かれて食事の用意が出来ていました。お品書きが置かれ、ご飯、デザートを除いて十品の品目が書かれています。ただ、食前酒がないのは僕としてはなんとも残念でした。ある程度の料金をとりながら、食前酒がつかない旅館はそこそこあり、いずれも、料理長の考えがあってのことでしょうが、何かその旅館ならではの食前酒がほしいなと、ぼくは思ってしまいます。ふと見ると、前菜の中にソラマメが二つぶ入っていました。初めての「テーブルクロスの法則」VS「ソラマメの法則」です。大体「テーブルクロスの法則」の旅館は一品ずつなのですが、この滝の家は最初にある程度並べてしまう型でした。先付、前菜、陶板、煮物、口替わり、酢の物が並べられていて、わりとすぐに吸い物とお造りが運ばれてきました。その後で蓋物と毛蟹、箸休めが出され陶板に火がつけられて、その後がご飯と味噌汁になります。さらに牛乳ゼリーのデザート、食器を下げにきた時に洋ナシのアイスクリームと夜食用の稲荷寿司が運ばれます。アイスクリームはさっぱりした感じ、夜の入浴後に食べた稲荷寿司はとてもおいしいものでした。「テーブルクロスの法則」の旅館はそのテーブルクロスのためか、テーブルで火を使わないところがほとんどでしたが、ここはハーブ豚の陶板焼きがありました。この供し方といい、ソラマメといい、火を使うところといい、ここは「テーブルクロスの法則」の旅館としては異端ですね。料理は毛蟹とハーブ豚の陶板焼きがメインでそれぞれにおいしいものでした。ただ、毛蟹がメインなのにお品書きには書かれていないのが大きな謎です。どの料理もそれぞれがおいしいものでしたが、いっぺんに出されてしまっているので、あまり一品一品味わうということができない分、印象がうすくなってしまったかもしれません。みんな平均点以上だと思いますが、あと一二品、これというパンチの効いたものがあれば申し分なかったところです。「テーブルクロスの法則」VS「ソラマメの法則」は「テーブルクロスの法則」の方が勝利していますが、ただ、やはり完璧に打ちのめしたというところまでは行かなかったように思います。朝食は鮭、湯豆腐、温泉卵、きんぴらゴボウ、サラダ、お浸し、たらこというごく一般的な朝定食ですが、すべてレベルは高くそれぞれにおいしいもので非常に満足できました。全体的にどこをとっても平均点以上の宿だとは思います。フロントの従業員の挨拶はいいし、すぐに迎えの車が来たり、送りの車を出してくれたりと気配りも行き届いています。ただ、部屋係りの見送りは宿泊階のエレベーターまでだったし、アウトの時に女将は見送りよりも御土産コーナーの金勘定に一生懸命でした。というように、残念ながら完璧とまで行かないようです。
 
二日目は千歳までもどり、そこからバスで支笏湖まで向かいます。バス便が一日数えるほどしかなく、本当は滝の家でもっとゆっくりできたのですが、11時半のバスに間に合わせるために、チェックアウト時間より早めに出てきました。ところが、11時半のバスだと、今日の宿、支笏湖の丸駒温泉旅館へは1時前に着いてしまいます。正式チェックイン時間は3時ですので、まあそれまでは宿の周辺でも散歩すればいいやと考えて、とりあえず宿に、バス停に着く時間を連絡し、迎えをお願いしました。迎えには行けるが、まだ部屋には入れないということでしたが、それは当然ですので構わない旨、返事をしました。バス停に着くと、迎えのバスにはもうすでに何人か乗りこんでいて、やはり早めに宿に向かう人も多いようです。支笏湖のバス停から丸駒温泉旅館へは湖を四分の一周くらいしなければなりません。時間にして15分くらいでしょうか。支笏湖は広くて明るい湖で、開放的な気分になります。宿に着くとそこは秘湯という雰囲気はまったくなく、建物もリゾートっぽい外観です。三階建ての建物が湖に面して横に細長く続いています。中に入ってみると広々としてしゃれた感じになっています。着いた時間はちょうど立ち寄りのピークなのか、大勢の人で非常ににぎわっていて、平日なのに繁盛してるな〜と、びっくりしました。どこにも秘湯の宿という雰囲気はありません。しばらく庭を散歩して、1時半に一応フロントに戻ってみるともう入れるということで、すぐに部屋へと案内してくれました。その時、現在浄化槽の工事中で工事の音がうるさいかもという断り書きを渡されました。でも、たしか工事は3時でやめるとのことで、実際に工事は全く気になりませんでした。それよりも、わざわざ断り書きを作って一人一人に渡すという宿の態度に感心しました。ここは特にフロントの人は人当たりが非常にやわらかだという印象を受けました。予約したのは二か月以上前で、その時の宿のHPには、まだ二か月後の企画が出ていなかったのですが、一応普通のプランで予約しておいて、現在と同じような企画が続けて行われるようだったら、そちらに乗り換えたいから連絡してくれるように頼んだら、ちゃんと連絡してくれました。当然と言えば当然ですが、忘れちゃうだろうなという気もしていたので、ちゃんと連絡してくれたことに感心しました。ということもあり、ここのフロントは高評価です。案内してくれた部屋は2階のレストランのななめ上あたり、3階の307号室で建物の真ん中辺の部屋だろうと思われます。この宿は廊下をはさんで湖側と山側の、反対方向を向いた部屋があり、湖側の方がいくらか料金が高くなっていますが、やはり少し高くても湖側を絶対に取るべきです。広大な支笏湖と風不死岳の姿は何とも言えません。案内はドアの前までで、お茶出しはありませんでしたが、これはチェックイン時間前に入ったからかもしれません。浴衣のサイズの気づかいはありました。部屋は上がってすぐにトイレと洗面があり、このトイレがシャワートイレであるのにびっくりしました。洗面は素っ気無い感じのものですが、続く和室は10畳あり、さらに窓際に2畳大の広縁が続いていて椅子が二脚あります。天井が高く、ひろびろした感じです。金庫も、冷蔵庫も、バスタオルも付いていて、確かに全体的には殺風景で花もありませんが、でもこの料金の秘湯の宿としては十分ではないでしょうか。女夫渕の部屋よりずっといい気がしました。ただ、この日は少し暑くて窓(ちゃんとしっかりした網戸がついています)を開けっ放しにしましたが、部屋には冷房がなく、扇風機が置いてありました。8月の日中は少し暑いかもしれません。
お風呂は支笏湖の湖面と水位が同じだという源泉露天風呂、そして内湯とその外にある展望露天風呂の三種類で、それぞれ男女交代はありません。源泉露天風呂のみ24時間入浴可能で、内湯と展望露天風呂は23時までだそうです。ただし、朝は4時から入れるということでした。お風呂に行ったのはちょうど2時くらいで、やはり立ち寄りのピークが続いているらしく、特に女性の方はかなり混み合っているようでした。内湯と展望露天はそんなに広くありませんので、混み合っているとあまり印象は良くないかもしれません。ぼくは、最初に源泉露天風呂に行ったのですが、ここはそんなには混んでいませんでした。この源泉露天は支笏湖の水量によって水位が上下し、ちょうど今は少ないころで、深さは51cmということでした。台風シーズンには水位が上昇し、1メートルを越すようですが、この日は割と長くねそべらないと、肩まで入れませんでした。ぬる目のお湯で、頭の上には木の枝や葉が大きく陰を作り、ここはこの前の中生館のかじかの湯と同じように緑陰系の露天です。ただ、周りを岩に囲まれ湖水は全く見えません。水深が一メートルを越えて立ち湯っぽくなっても、どうも湖水は見えそうもありません。十何年ぶりかで来たという人がイメージが違ったといっていましたので、昔とは変わってしまったのかもしれませんね。ただ、見晴らしはありませんが、緑に囲まれ、それなりに癒される露天だとは思います。ぼくはここに一時間近くいて、展望露天へと移動しました。この展望露天は支笏湖と、風不死岳の雄大な景色を心行くまで見渡せるまさに展望系の露天です。ここに移動したのは3時頃で、湯船の上には屋根も何もないのですが、すでに蔭ができていて、ぼくの大嫌いな直射日光をさけることができます。これはポイントが高かったですね。確か一時間もしないうちに湯船全体が蔭の中に入ったと思います。ここは熱めで黄土色に染まっていました。飲泉もできます。この展望露天は非常に気に入りました。この日は平日のせいか、湖で遊ぶレジャー客はまったくおらず、心行くまで大自然に眺め入ることができました。入っている時に、ここのお湯守さんが湯温を測りに来て、43度だと言っていました。このお湯守りさんに質問をしたのですが、嫌な顔をせずににこやかに明快に答えてくれ、この人も好印象でした。何でも23時に閉めると、お湯を抜いてこの人が一人ですべての浴槽の掃除をして帰るということです。お湯守さんや、福岡から来た人、岩手から来た人などと話などをしながら、この展望露天には2時間近くもいたかもしれません。併設されている内湯もそんなに悪い印象ではありませんが、ちょっと古くなったかなという感じです。その内に直すかもしれないとお湯守りさんが言っていました。すべてのお湯が源泉流し切りで、展望露天はほんの少しだけ水を入れているとお湯守りさんが言っていました。聞きませんでしたが、多分内湯もほんの少し水を入れていると思います。ちなみに源泉の温度は51℃です。また、黄土色に変化しているのは展望露天だけで、源泉露天も内湯も無色透明でした。
夕食は部屋になります。一人一人の御膳に並べられるという型の食事で、ご飯以外はすべて最初に並べられてしまいます。この辺は秘湯の宿かなという感じです。この丸駒温泉旅館には、食事の内容に合わせて様々なタイプの企画があるのですが、ぼくの選んだのはかなり安いほうに入ると思います。ですから、食事に関しては一概にいえないのですが、一応簡単なお品書きも付き、最後のご飯やデザートなどを除いて8品しかありませんが、全体に少なすぎるという印象はありませんでした。この辺の名物だというハスカップワインを飲みながらでしたが、おかずが少なくてワインが余ってしまったというようなことはありませんでした。メインは鴨の陶板焼きで結構いけます。洋皿で魚貝のクリームシチューが出て、味は取り立てて素晴らしいというまでのことはありませんが、これもホワイトソース好きのぼくとしては良かったと思います。全体に、これはまずいというものはありません。中でも茶碗蒸はおいしいと思いました。お造りはサーモン、帆立、甘海老という代わり映えのしないものですが、ちゃんと冷たいまま食べられるように配慮されていたし、クリームシチューや、茶碗蒸など、温かい料理もちゃんと温かく、冷え切っていたという悪い印象のものはありませんでした。デザートはメロンで食後に冷水も出て、料金を考えれば十分コストパフォーマンスのある食事だったと言えます。朝食はフロント近くのレストランでのバイキングになります。品数も質もごく平均的で、まずまずと言ったところです。全種類を食べたわけではありませんが、特にこれは、というものもない代わりに、特にまずいというものもなかったと思います。ベーコンはおいしいものでした。ミルクはあり、ジュースはオレンジジュースだけでした。もちろん、コーヒーもあります。部屋係りのメイドさん(ここはメイドさんというようです。)はぶっきらぼうな感じの人でしたが、決して嫌な印象ではありません。従業員は大体好印象です。
ここは先代のおばあちゃんの「今日もニコニコ、明日もニコニコ」という言葉を大切にしているようですが、その精神はしっかりと受け継がれているように思いました。帰りはまた支笏湖のバス停まで送ってもらいましたが、おろしたてのバンで、初めてお客さんを乗せるということでした。そのバンの見送りに社長夫妻がまさにニコニコと手を振って送ってくれました。ただ、浄化槽の工事をしているところから考えると、ここはもう少し広げる計画があるのかもしれません。この大衆的な繁盛振りも考えると、早晩、秘湯の宿から外されてしまうような気がします。
 
支笏湖からバスで札幌へ。さらに小樽まで足を伸ばし、小樽で少し観光したあと、タクシーで三泊目の朝里川温泉「宏楽園」へ向かいました。もっと近いかなと思っていたのですが、15分くらいかかったでしょうか。道路に面して大きな看板があり桜並木を入っていきます。ここは広大な敷地を持っていて、この桜並木は桜の名所として小樽では有名なようです。ちょうど五月の連休あたりが桜の見ごろに当たるらしく、その時は大変なにぎわいになると仲居さんも言っていました。入り口の道路に面して、「さくら」という焼肉の直営店が店を構えていて、見るからに大衆的な旅館という感じです。着いたのは3時ちょっと前くらいで、ちょうどチェックイン時間ごろでした。すぐに部屋へと案内してもらえました。館内の階段のところでは二階から下へ水が流れ落ち、その下に鯉が泳いでいたり、ドアの横のところに、ひさしが大きく張り出しているなど、凝った造りになっていますが、どうにも洗練された感じは受けません。通されたのは「あかしや」という、本館の階段を上がってすぐの二階の部屋でした。ここは本館の一階の各部屋が露天風呂付きになっていてかなり人気があるようです。料金は結構差があるのですが、料理などはあまり変わりがないということでした。冬には露天風呂付きの部屋でも格安のプランがあるようですが、今はシーズン中ということで露天風呂付きはけっこう高く、料理が変わらないのならと、ごく普通の部屋を予約しました。部屋は入った玄関のところが玉砂利ふうの敷石になっていて、すぐ左のドアの横が洗面、さらにその奥がトイレになっています。このトイレもシャワートイレでした。襖を開けて中へ入ると、まず四畳の次の間、その奥に十畳の本間と二畳くらいの広さの広縁と続いています。とにかく、館内と同じように凝っていることは凝っていて、次の間に上がるところは縁側みたいな造りになっているし、床の間の隅は枯れ山水から竹が生えたような感じになっているし、床の間の反対側の壁には大きな絵?がはめ込まれているました。もしかすると僕の偏見で、ここが高級旅館だったら、さすが・・と思うのかもしれませんが(思うかな?)、なんかあまり素直に感嘆できないんですよね。いかにも、ただ、凝ってみましたというような印象でした。ここは今年の初め頃は韓国や中国のお客さんが非常に多かったということでしたが、外国のお客さんなら素直に感激できるかな、という感じです。部屋からは庭の緑が見えますが、広大な庭を見渡せると言う感じでは全然ありません。目の前にすぐ木が生えているので、視界はそこでストップです。また、下の部屋に露天風呂があるせいで、下の部屋のひさしが大きく張り出しています。外からの覗き込みは全くありません。床の間に花はありませんでしたが、冷水は初めから用意されていました。
お風呂は本館と別館にそれぞれ内湯と露天があります。露天は22時までで内湯は24時までです。風呂はすべて男女交替し、翌朝は6時半から入ることができます。交代時間は何かややこしかったので、よく覚えていませんが、日が変わったら交替していましたので、そんな感じなのだろうと思います。お湯の温度は大体どの浴槽も適温ですが、源泉は26.8℃ですので、すべて加熱です。また、全部循環だろうと思われます。すべての浴室で塩素臭を感じましたし、湯口からすごい勢いでお湯が流れ出していました。こんな勢いで流れ込んで、しかも浴槽から溢れ出していないのだから、温泉通でなくても、だれにでも循環だと分かる仕組みです。pH値は9.6でかなり高いもので、もちろんぬるっとした感じはしますが、それほどのヌルヌル感はありませんでした。本館の内湯は少し暗めで、浴槽もそれほど大きくはありません。本館の露天は、初日男性の方は割と広く、緑に囲まれてまあまあの感じですが、女性の方はコロニアル風の造りで、ぼくとしては全くいただけない露天でした。別館の方は本館よりも広くて明るく、内湯も露天もなかなかいい感じです。特に、内湯は初日男性の方よりも、女性の方が窓が広く明るい感じを受けました。窓からは庭の緑が眺められて評価したい内湯だと思います。露天はそれぞれ、池を眺めながら入るもので、この池がけっこう広く、浴槽の上に天井はありますが、開放感を感じる露天です。池の向こうには水車小屋があり、池の中の島になっているようなところからは水があふれだしています。また、ところどころに花が咲き、彩りをそえています。ただ、ここもゴテゴテといろんなものがあるという印象をぬぐえません。もう少しすっきりさせるといいのではないかと思いました。また、池という性質上仕方がないのかもしれませんが、水がよどんでいる感じであまり爽やかな感じは受けませんでした。ただ、ここなら長居はできるかなとは思いました。湯上がりの水はどこにもなく、部屋に初めから冷水が用意されているのはそのせいかとも思いますが、やはり、湯上がりにも麦茶や水がほしいところです。
夕食は部屋で、最初に前菜、豆乳のしやぶしゃぶ、タラバガニの足、お造り、お凌ぎが並べられていましたが、お品書きも説明も特にありません。食前酒も付き、これはなかなかおいしいものでした。聞いてみたらちそ酒ということでしたが、それ以上のことは詳しく聞きませんでした。前菜は乾き目、お造りはくたっとしていました。しゃぶしゃぶの肉はなかなかいいものでした。しかし、全体にこれというパンチのあるものはありません。このあとで海老の鬼殻焼き、蓋物の二品がついて、その後がご飯になります。こうして書いてみると品数が少なかったですね。タラバの足もそんなに量はなかったのですが、でもいつものように、ご飯をお代わりして満足させるということはありませんでした。デザートはメロンと苺で、苺は今一でしたが、メロンはおいしいものでした。
 朝食は大広間で、ずらっと各部屋の食事が並べらています。久々にボリューム感のある朝食で、鮭の切り身も大きく、定番のサラダ、湯豆腐、海苔、卵焼き、お浸し、たらこ、シラスおろし、佃煮の他に、イカ刺しとサーモンの刺し身も少しですが付いていてこれはおいしいものでした。鮭はしょっぱく固めでしたが、食事は全体的においしく食べられました。ここは、この日は満室だったようです。朝食会場を見ても、ずらっと食事が並べられ、他の旅館が見たら、らやましいだろうなと感じました。でも、何でこんなに人気があるのかということは今一わかりません。料金もそんなに安いわけではありません。風呂も循環であることを考えると今一ですし、料理も素晴らしいとはいえません。しかし、人気があるようですね。従業員の態度も悪いと言うことはまったくありませんが、もてなしの心を感じたのは最後の見送りに出てくれたおじさんだけでした。でも、人気があり、みんなけっこう満足している様子です。大衆向けの高級っぽい旅館ということでしょうか。

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津南の「雪国」へ行ってきました。津南へは越後湯沢からバスで50分。実は意外に近いのでした。ただし、このバス便は一日に四本ほどしかありませんので、乗り遅れたら大変です。バス停に降りて連絡すると迎えに来てくれ、その車も5・6分で着いてしまいます。チェックインは3時で、2時半ころに着いたのですがすぐに案内してくれました。改築して3年ということでまだどこも新しく、こぎれいな感じで、全体的にからし色をもっと落ち着かせたような色が基調のようです。廊下もきれいなカーペットが敷かれて申し分ありません。部屋は2階の215号室「千鳥草」という部屋でした。部屋にはすべて花の名前がつけられ、館内や各部屋には押し花が飾られています。予約をしたときにパンフレットを送ってもらったのですが。手書きのあいさつが入っていてそれにも小さな押し花がついていました。この辺も女性に人気のゆえんでしょう。部屋は入ると長めのスペースがあり、左に曲がると一畳大の踏み込みがあります。踏み込みの正面には小型の冷蔵庫が置かれていますが、この冷蔵庫は空なので自分の自由に使うことができます。欲しいものはフロントに頼むか、自販機で買ってこの中に入れます。踏み込みの左手に洗面所とトイレがあり、洗面所には専用のタオルが可愛らしい籐のかごに入っていました。トイレは温座ではあるもののシャワートイレではありませんでした。せっかくの新しい部屋だったのにこの点は非常に残念でした。踏み込みの右に10畳の和室が配置されています。ただ、広縁はありません。年寄りなどは腰掛けた方が楽という人も多いので、ぼくは広縁と椅子はあった方がいいと思うのですが。あまり気にしない若い人も多いのでしょう。一畳幅の床の間があり、反対側にはテレビや金庫が置かれています。床の間には可愛らしい花が置かれていましたが、これは造花でした。ここは生花がほしいところですね。窓からは信濃川が見えますが、二階なので、かなり横から見る感じになります。その手前や向こう岸には家が建ち、覗き込みは割とあるほうです。部屋にはすべてのサイズの浴衣が揃えられていて自分に合った浴衣を選ぶことができます。ただ、身長の目安などの書かれたものがないので、そのへんは少し不親切かもしれません。バスタオルとフェイスタオルが置かれていましたが、むきだしでポーチやビニール袋などがありません。全体的にこの雪国は非常に行き届いている宿だったのですが、これでは濡れたタオルの処理がしにくく、この点は雪国らしくなかったと思います。このフェイスタオルは持ち帰り不可かと思ったのですが、チェックアウトの時に確認すると、OKということでした。大体むきだしで置かれているところは持ち帰り不可ですので、このへんも分かりにくいと思いました。他の面から考えると、ここは可愛らしいポーチなどを絶対に用意している感じの宿なのですが、この点に関しては腑に落ちません。タオル自体は「雪国」と刺繍で名前が入れられているタイプの、いいものです。全体的に部屋自体は新しいだけあって明るく清潔で申し分ありません。迎え菓子は女将の歓迎の言葉が書かれた折り鶴の器や、やはり折り紙の容器に入れられるなど、非常に手が込んでいます。出してくれる飲み物はしそを煮出して作ったしそジュースで、シュワシュワと泡は立っていませんが、炭酸が入っているようなきりっとした味でおいしいものでした。この「雪国」には6人の女将がいるということです。この日はバス停まで迎えに来てくれたのが6番女将、主に接客してくれたのは5番女将でした。二人は姉妹で非常に明るく元気で、もてなしの心を感じさせてくれました。
最上階の4階がお風呂だけのフロアになっています。翌日に男女交替するタイプで、湯上がり処には冷水機が置かれ、おいしい水がいつでも飲めるようになっています。露天は10時まで、大浴場は11時までで、朝は6時からです。脱衣所も大浴場もしゃれた感じのものでした。大浴場の湯船は6・7人という感じですが、旅館の規模から言ったらちょうどいいくらいでしょう。洗い場の数も十分にありました。湯船には、透明ですが海藻色のついたお湯があふれていました。湯船の縁からもお湯は流れ出しています。ただし、浴槽の中からも勢いよくお湯が出てきますので、半循環だと思われます。こまかな湯の花もあり、適温でなかなかいいお湯だと思います。ただ、浴槽の中から出てくるお湯の勢いが強いので、近くにいるとわずらわしい気がしました。強烈な印象を与えるお湯ではないのですが、ふと斜めから湯面を見ると、角度によっては油膜のようなギラつきが見えます。油臭はまったくないのですが、やはり恐るべし新潟の湯というところでしょうか。
露天は大浴場から出るタイプで、この日に入った方はベランダ型でした。上を屋根が覆い、透明なプラスティック板に囲まれています。二・三人といった感じでしょうか。四階ですので二階の部屋よりは信濃川の流れが望めます。しかし、川岸に建つ家などから覗き込みは結構ありそうです。ここは翌日は女性用になるので、大丈夫なのかちょっと心配してしまいました。翌日交替した方の露天は、やはり同じ方向を向いているのですが、家が少なく覗き込みはほとんどありません。全面に屋根はありますが、こちらの方が開放感がある露天でした。さて、最初にも書きましたが、この露天で何とも残念なのが、ここは温泉ではないことです。内湯と比べ色がついていませんのですぐに分かります。しかし、ここも湯船からは少しずつですがお湯があふれているので、半循環に近いのではないでしょうか。大浴場も、露天もいずれも塩素臭はしませんでした。
食事は一階の食事処です。背中の高い洒落た椅子に腰掛けての食事です。席に着くとすでに席には食前酒を含めて7品が置かれていました。普通、この料金だと器は全然印象に残らないものがほとんどなのですが、びっくりしたのは、それなりに気を遣った器が並べられていたことです。食事内容について簡単な説明はありましたが、残念ながらお品書きはありません。食前酒はいちご酒。手造りのようです。きのこ鍋、蟹肉の酢の物、田楽いろいろ、鯛の味噌焼、などが並べられていて、さっそくきのこ鍋に火がつけられます。牛タン煮込みには保温用のろうに火がついているということだったので、すっかり後回しにしていたら、火はついておらず、冷たいものを食べるはめになってしまいました。しばらくして、まず、サラダ風刺身、鯉こく、鮎の焼物、松茸入りかきあげとズッキーニの天麩羅が、この順で一品ずつ運ばれてきます。サラダ風刺身に関してはぼくは普通のお造りの方がいいかなと思ってしまいますが、鯉こくは特に「ばばちゃんの鯉こく」と名付けられているようにここの自慢の品らしく、確かに絶品でした。臭みはまったくなく、味噌味とよく調和して、骨まで食べられる柔らかさです。続いての鮎の塩焼きもおいしいもので、最後の松茸入りかきあげとズッキーニの天麩羅も風味がよくあつあつで満足できました。初めに並べられているきのこ鍋も滋味たっぷりで、きのこの好きな人にはこたえられないことでしょう。運んでくるペースもそれほど速すぎたりせず、いいタイミングだったと思います。最後のデザートはメロンでした。朝食も同じ席です。鮭の焼物や温泉卵はありますが、その他は一般的な朝定食とは一味ちがった感じです。二尾ですが甘海老の刺身も出されていて驚きました。たとえ、何の刺身であろうと、この料金では普通は付きません。全体に山菜を使った田舎料理といった感じで、テーブルの上に何品か並べられ、さらに、部屋の隅のテーブルにも何品か、バイキング形式で取れるようになっています。食事をしていると焼きたてのクロワッサンを二つ持ってきてくれました。これは持ち帰っていいのかと聞くと、ちゃんとつぶれないように配慮して袋に入れてくれました。この朝食も十分満足できるものでした。ここは箸置きが折り紙でできているなど、非常に手間をかけて、しかも消耗品を多用してもてなしてくれます。アンケートに答えると、ご縁がありますようにと、5円玉が入った特製の可愛らしいメモ帳をくれます。細やかな心遣いで、女性にとっては非常に感激の多い宿だと思われます。見送りに関しても、車が出るまでしっかり見送ってくれました。送ってもらったパンフレットには、バスの時刻表などこちらの身になった、必要なものが入っていました。ただ、それと一緒に時間外は一時間1000円という内容の手書きのメモも入っていました。親切心からだと思うのですが、これは言わずもがなかなという気がしました。今まではどの宿も、かなり早く着いても部屋の用意ができていれば部屋に入れてくれましたし、用意ができていなければ待たされました。それでいいのではないでしょうか。何点か気になる点も書いてきましたが、全体的にはほとんど言うことなしです。JTBの協定旅館ではないせいなのか何なのか、JTBの満足度90点以上の宿に入っていませんが、実質満足度90点以上の宿であることは間違いないと思います。一口に言って、非常にコストパフォーマンスの高い宿で、正直、5割値上げしてもまったく不満は感じないでしょう。まだ全国的に知られていないせいか、この日も空室はけっこうあった感じですが、早晩リピーターで占められることになると思われます。そうなってもどうか値上げしないで頑張って欲しいと願わずにはいられません。
チェックイン時間の3時ちょうどに宿泊場所、湯の沢温泉「のよさの里」に着きました。ぼくたちの直後にやはりもう一組到着して、この日の宿泊はこの二組だけでした。フロントには若い男性が一人いて、後で到着した一組を残して、われわれを案内してくれました。この「のよさの里」はフロントのある「本家」から屋根の付いた渡り廊下を通って、宿泊棟である「分家」へ行くという形になっています。本家には、内湯、食事処があり、食事は朝・夕ともここでいただきます。内湯は10時までで、終了時間が早いのですが、これは分家から本家へ通じる通用口を10時に閉めてしまうという理由のようです。そのかわり、やはり渡り廊下を通っていく露天風呂は24時間入浴可能という、他の宿とはまったく逆の時間設定になっています。分家は七つの宿泊棟からなり、それぞれが独立した離れの形式になっていますが、建物は特に情緒のあるものではなく、ごくありふれた感じの簡素な建物でした。渡り廊下は木の板で囲われ、しっかりした新しい屋根がついていました。以前は砂利道だったそうですが、今はちゃんとした廊下になっています。途中で露天風呂方向と宿泊棟方向に分かれ、宿泊棟は簡単に言うと一本の幹線から左右に互い違いに分かれた分岐線の先に一軒ずつあるという形式のようでした。この幹線はかなり長く直線に延びていて、先は100メートルくらいあるのではないかと思われました。ぼくが泊まったのは二番目の「文五郎」という部屋でしたが、一番先の部屋はお風呂に行くにしても、食事に行くにしてもかなり時間がかかりそうな感じでした。引き戸式の戸を開けると、広い板の間になっていて、そこに囲炉裏が切ってあります。普通の家の台所にあるようなステンレスの流し台が部屋の隅についています。ただ、この流し台にはガスなど、火を使えるものがありませんので、自分で調理することはできません。冷蔵庫も普通の家庭用の小型のものが置かれていて、中にはビールなどが入っていましたが、まだ自分のものを入れられる余裕もたっぷりあります。これは自己申告制です。部屋の反対側にトイレがあり、トイレのドアを開けると、中に大きな暖簾がかかっていて少しじゃまです。トイレは和式でした。部屋のトイレ側には流しだけの洗面台も置かれています。部屋風呂はありませんが、金庫も、ティッシュもバスタオルもありました。この板の間は広く、正確なところは分かりませんが、14畳大くらいはあったのではないでしょうか。この板の間の奥に8畳の和室と、4畳半の和室が並んでいます。この二つの和室は何の飾り気もない部屋で、床の間などもなく殺風景です。8畳の方に布団が人数分畳まれていて、寝る時は自分で敷くことになっています。少し古くなった部屋という感じですが、網戸などはしっかりしていました。窓の外には周りの木々が見えます。覗き込みはありませんが、普通の家と同じような感じですから、戸締りはしっかりしておく必要はあります。部屋の玄関にはスリッパではなく、わらじに近い感じの草履が置かれていました。
露天は鳥甲山の屏風のような山肌を眼前に眺められる、山展望系の岩風呂です。男女交代はなく、男性用の露天は、湯船から出て周りをうろうろしている時には、渡り廊下から見えてしまうかもしれません。この日も翌朝も鳥甲山は見ることが出来ましたが、夕方は逆光のためにシルエットになってしまいます。その代わり、朝は山肌に光が当たって、非常にいい感じです。鳥甲山はどのくらいの高さなのか分かりませんが、かなり大きく視野を占めます。この露天はけっこう広いのですが、少し浅めで、体をかなり沈めないと肩までつかることができません。湯温はやや熱いという感じで、湯口からお湯がさかんに流れ込んでいますが、見た感じどこにも流れ出しておらず、循環だと思われます。ボイラーの作動するらしき音も聞こえていますので、過熱もしているのかもしれません。朝はこの流れ込みが少なくお湯も温めになっていましたので、24時間OKとはいうものの、夜は加熱を抑えているのではないでしょうか。湯船につかっているときは塩素臭は感じませんでしたが、お湯を鼻に近づけた時に、ん?という感じがしました。とはいえ、この露天の眺めは素晴らしく、山を眺めながらお風呂に入るのが好きな人には絶好の露天です。本家にある内湯は小さめで二・三人という感じでしょうか。ここもそんなに情緒があるという感じではなく、殺風景です。窓からの景色もなく、純粋にお湯と向き合うタイプのお風呂です。源泉流しきりで、湯口からやや熱めのお湯が静かに流れ込んできます。湯船に身を沈めると、あふれたお湯がやはり狭目の浴場の排水口に流れ込む音がします。古い感じのお風呂ですが、洗い場は三つあり、いずれもシャワーが付いていてこのへんは気を配られています。また、泥炭石鹸もありました。
食事は夜は6時から、朝は7時半からと指定されました。本家の食事処は、真ん中に囲炉裏が切ってあり、窓が大きく取られていて、鳥甲山を眺めながら食事を取ることができます。食事処に付くと、すでに天麩羅を初め料理が並べられていて、その料理の下に敷かれている紙がお品書きになっていました。説明はありません。ご飯のきびご飯もすべて置かれていましたが、岩魚の塩焼きだけは少し経ってから焼き立てを持ってきてくれました。また、お吸い物もごはんの時に持ってきてくれます。山野草の天麩羅は初めに出されているのですが、素材が薄いせいもあるのか、揚げ方がいいのか、冷めていてもそれほど味は落ちていない気がしました。秋山豆腐の田楽というのがあり、これは非常においしいと思いました。また、山菜茶巾、なめことろろもおいしいと思います。山菜系が多く、全体的に味はそれほど悪くはないと感じました。ただし、山の中でありお造りがないなど、品数は大分少なめで、さらに一品一品の量も多くないので、その辺に関してはかなり不満が残る人も多いのではないでしょうか。ぼくはビールが進んで腹がふくれたこともあり、それほどには感じなかったのですが、客観的に見てみると、かなり不満たらたらだったろうと思います。ごはんはきびご飯で、ごはんの中に黄色い粒がポチポチと見えますが、全体の味にそれほど影響は及ぼしてはいません。デザートはありませんでした。朝食も非常に淋しい系の食事です。しかも、味噌汁を筆頭に、味の濃いものが多く、ご飯を最低二杯食べないと、この淋しい系ですらすべて食べられませんでした。朝食時にはどうも料理人はいない感じで、出されたものは魚の甘露煮を初め、すべて保存のきくものという感じがしました。保存を利かせるために、あえて濃い目の味に作ってあるのかもしれません。夕飯のときはおいしいものもあったのに、残念でした。内容は魚の甘露煮の横に卵焼きの乗ったお皿、山菜や野菜がちょこちょこっと入った小鉢が四品、それと海苔といった感じです。ごはんはやはりきびご飯です。宿泊料金は、大きな離れに一人で泊まったということを考えれば高くはないのかもしれないけれど、料理のことを考えると、高いという感じですね。ここは栄村振興公社というところがやっている準公共の宿らしいのですが、この辺が公共の宿の限界かなとも感じました。離れの分家をもう少し風情がでるように手を入れ、料理をもっともっと充実させれば、露天の景色は抜群なのですから、結構人気が出るのではないかというような気がします。民営だったら、必死に模索するところでしょうが、経営に生活がかかっているか、いないかは非常に重要だなと今更ながら感じました。でも、今のままにしても、本家はけっこう風情があって、フロントの男性も感じは悪くありませんでした。料理に期待さえしないのであれば、あとはそれほど悪くはないので、お勧めしてもいい宿だと思いますね。

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信州、あずまや高原のあずまや高原ホテルに行ってきました。渓流だけではなく、もともと高原など山の景色も好きだし、今ごろは、もしかすると紅葉がきれいかなという気持ちもありました。あずまや高原ホテルへは、上田からホテルの送迎車で50分近くかかります。完全な紅葉まで後一息という景色の中、送迎バスはあずまや高原へと向かいます。高さは確か1500メートルだと言っていましたから結構な高さです。ホテルは外観はオシャレな感じですが、入り口を入るとみやげ物売り場があったり、ちょっと雑然としています。送迎バスで何組かの客が一度に到着したので、案内までしばらく待たされましたが、割と早めに案内してもらえました。案内は男性で荷物は持ってくれます。部屋は3階でこのホテルはリゾート型ですので、3階が最上階です。キーはホテルらしくドアの内側の壁のポケットに入れて部屋の灯りを点灯する形です。でも、オートロックではありません。部屋には、ほとんど空の冷蔵庫が置いていあり、自分の好きに使うことができます。冷水も初めから置いてあり、浴衣の気づかいもちゃんとありました。もちろん、ホテル形式ですので、お茶出しはありません。迎え菓子も置いてなかったので、そんなものかと思い、わざわざフロントに問い合わせたりしなかったのですが、大分たって冷蔵庫の中にお菓子が冷やしてあるのに気づきました。このお菓子はほとんど干し柿といっていいもので、それが四角くカットされ包装されていました。なかなかおいしいお菓子でした。この案内の男性は全体に対応が悪くはなかったのですが、この迎え菓子についての案内がなかったのが大きな減点部分でした。部屋は一般的なホテルの部屋の作りだと思うのですが、ドアを入ってまず左に洗面所(ここの洗面台は二面ありました)。洗面台に向かい合って、やや狭目のバス、その隣がトイレで、シャワートイレでした。廊下を挟んで洗面所の反対側にクローゼットがついています。さらに進むと10畳大のベッドルームがあり、その先に六畳の和室が付いています。この時まで全然知らなかったのですが、予約したプランはどうやら和洋室だったようです。廊下からベッドルームに入るところに、ドアがついていました。今までの経験ではここのドアってついていない方が多い気がするのですが、気づかなかっただけでしょうか。和室には半畳幅で、花もないとはいえ床の間もあり、全体的にこぎれいな感じです。ただ、残念なことにどうした訳か窓が狭く、せっかくの景色を大きく楽しむことができません。窓の外には遠くに噴煙をあげる浅間山、近くには色づいた林、その中間の斜面には黄葉した木々の重なりと、なかなかの景色なのですが・・・。覗き込みまったくありません。このホテルは高級ホテルではないし、内装などは大したことはないだろうと思っていたのですが、廊下も、部屋の中もそれなりに綺麗に整えられていて、破綻は見せていません。廊下に飾られていた紅葉の造花はいただけませんが、全体的に悪くはないと思いました。
お風呂はエレベーターで地下まで降ります。もちろん地下室ではなく、斜面なのでそのような階表示になるようです。男女交代はなく24時間入れます。入り口近くに冷水機が設置されていました。大浴場から露天に出るタイプで、大浴場は10人くらいの広さでしょうか。洗い場は7か所くらいだったと思います。清潔感のある大浴場ですが、それほど特徴があるわけではありません。露天はけっこう広めの岩風呂です。上下二段に分かれていて、上のほうは屋根があり、下のほうは屋根が切れている形です。上からも下からもお湯がものすごい勢いで流れ出していて、この勢いだとどう考えても循環だなと思わせます。現に、下の露天で何気なく、腰を降ろしたら「ギャっ!!」お尻をワニに齧られたかと思いました。ものすごい吸い込みです。ただ、塩素臭は全くしません。上の露天からは下の露天へとお湯が流れ込んでいます。上には吸い込み口がないようなので、上だけは流し切りかと思いましたが、どうもお湯の出具合から考えても下のお湯をまた上に揚げている気がします。ただ、お湯がぬるぬるした感じは十分にあります。ここの源泉は26度ということですので加熱をしているわけです。加熱をしているお風呂の場合、夜中の12時までなどというように、時間制限をするところが多いのですが、ここはこの広い露天の湯船に24時間入れるわけです。なかなかやるなと感じました。露天の景色は部屋と全く同じで、浅間山、黄葉の斜面、近くの林と「遠、中、近」の景色がそろった見事なものです。背中にホテルの建物がありますので、視界は180°ですが、十分開放感があります。この日は曇っていてだめでしたが、晴れた夜は、下の露天で星空も満喫できるのではないでしょうか。
食事はレストランで6時からと指定されます。時間少し前に行って見ると、たくさんのお客さんが所在なげにうろうろしています。どうも6時ぴったりに開けるつもりらしく、入り口にロープが張られていて、係員の姿がまったくありません。お客さんがたまって、何だか修学旅行の団体のような気分になりました。時間になり、案内されたテーブルは一段下がった窓際のいい席でしたが、夜なので外の景色がまったく分かりませんでした。特にライトアップされている訳でもありません。テーブルにはすでに料理が置かれていて、やはり揚げ物がすでにありました。すっかり見事に冷え切っています。ただ、とろろ茶巾、穴子進丈など冷えていてもけっこうおいしく、揚げたてだったらかなりいけたのではないかと思いました。お品書きはありましたが、特に説明はありません。メインは菊華鍋という海鮮寄せ鍋のようなもので、大きな食用菊が入っています。これって、食用?っていうほどの大きさでしたが、やはり食べてみると薬臭く、食べなければよかったと後悔しました。でも、食べずにはいられない性格ですね。食前酒は梅酒で、刺身もまあまあです。洋皿に生ハム入りりんごサラダがあり、この生ハムは非常においしいものでした。ご飯やお椀、デザート以外では、山女の塩焼きだけは後から出されたのですが、あつあつではなく、温くなっていました。山女は最初から会場の入り口近くに刺されて置かれていて、その時すでに火は消えていたような気がします。でも、内臓の苦味など、おいしい山女でした。その他には前菜や煮物など、全体的に味は良かったと思います。デザートはぶどうムースでこれもおいしいものでした。朝食は同じ会場でバイキングになります。種類は一般的か、やや少なめというところでしょうか。ジュースはオレンジしかなく、信州のりんごがないのが不満でした。全体的にバイキングの素材や味はいただけません。しらすおろしは固く、お浸しもしゃきしゃきしてるというよりも、ただ固かったという印象です。見事に全体的に今一でした。夜と朝とではどうして違ってしまうのでしょうか。コーヒーまで今一でした。このホテルはリピーターが非常に多いようです。それも、年配の人が多いのが特徴のように思えました。最初の送迎バスの中や旅館に着いたときなどは、すべてぼくより年上の人ばかりでした。なぜ、年配の人が多いのか分かりませんが、周囲の景色がいいこと、料金がそれほど高くはないこと、それなりにこぎれいなこと、露天の景色がいいことなどが理由ではないでしょうか。夕食もあつあつが出てくればかなり満足できるように思います。ただ、朝食のバイキングの味はどうにかしてほしい感じです。
 
二日目は上田にもどり、今度はバスで鹿教湯温泉まで向かいます。一時間以上かかって鹿教湯橋というバス停で降りました。鹿教湯の宿は「三水館」という宿です。バス停からの行き方が良く分からないので携帯で電話したら、ていねいに教えてくれましたが、迎えに行くという言葉はありませんでした。ここは8部屋の宿で、送迎するには人手に余裕がないのだと思われます。鹿教湯の旅館街からは少し離れた一番端に位置するところにあります。後で聞いたところによると、もともとは旅館街のところにあったのが、ここに土地を購入し、二年前にここでご主人がやりたい宿を始めたということでした。周りに家のない道を歩いていくと、右手の小高いところに二階建ての建物が見えてきます。クリーム色の外観はふつうの家のようで、あまり旅館という感じがしません。前庭を通り、玄関を開けると、土間のようなところがあり、ここにフロントがあります。さらに戸を開けて室内に入るという形です。いったん荷物を預けてまた鹿教湯の旅館街を少し歩き、もどったのが3時ちょっと前でした。インの時間が2時ですので、すぐに部屋へ案内してもらえます。館内は全体的に焦げ茶を基調とした渋めの落ち着いた印象で、床は板張りです。床暖房がほどこされ、スリッパはありません。その代わり部屋には足袋靴下が用意されています。玄関を上がった階段のところが吹き抜けになっていて、二階はその四角い吹き抜けの空間を囲んで部屋が配置されています。吹き抜けの上からは光が差し込んでいた記憶があります。通されたのは、吹き抜けをぐるりと回った二階の一番端、「細尾」という部屋でした。浴衣の気づかいがあり、続いてお茶が出され、迎え菓子を持ってきてくれました。プルーンジャムを使った手造りのパイということで、おいしいものです。部屋は、館内と同じように焦げ茶を基調としていて、落ち着いています。新民芸調の造作といった感じで、いかにも女性に好まれそうな雰囲気です。ドアを開け、板の間の踏み込みを上がると、左手に簡単な水屋、その隣が洗面所となっていて、突き当たりがトイレでした。水屋にはすでに冷水が用意されています。トイレには窓があり、もちろんシャワートイレです。冷蔵庫は申告制で、割と空間は多かったと思います。右手のふすまを開けると、8畳の和室で、広縁や椅子はありません。部屋には可愛らしい楕円形をしたテーブルが置かれ、よくあるどっしりとしたテーブルはありません。食事は食事処ですので、考えてみれば大きなテーブルは必要ないのですね。右手には一畳幅の床の間に花が活けられ、反対側の押入れにテレビが入れられています。邪魔な人はふすまを閉めればテレビを視界から消すことができます。テレビ欄のコピーも置いてなくて、この宿ではけっこうテレビは阻害されているようです。ただし、テレビ自体は大きくて立派なものです。窓の障子を開けると、サッシではない網戸が入っています。天井にはよしずのようなものが張られていて、部屋には相当こだわりがあるように見受けられました。自分で確認したわけではないのですが、他のお客さんの会話を漏れ聞くところによると、部屋ごとに意匠がちがうということでした。この部屋はちょうど玄関の上の方に位置していて窓からはこの宿に向かう客の姿や、入り口近辺に植えられてちょうど見ごろを迎えた紅葉の木々を見おろせます。目の前は小高い丘でそこの木々が正面に見えます。窓に近づくと外の人と目が合ってしまいますが、離れれば覗き込みはありません。
お風呂は専用の浴場棟が建てられていて、本館から外に出て歩いて行きます。と言っても、近くて、ほんの15メートルくらいでしょうか。外気には触れますが、屋根はあります。男女は夜の8時に交替し、チェックアウトまでそのままで、24時間入浴可能です。初めの男性用は奥の方の浴場で、内湯は木枠の浴槽、内湯から出て行く形の露天は石造りの円形のものです。建物は湯屋造りの本格的なもので、湯気などもこもることなく快適ですが、内湯、露天ともやや小さめです。内湯の湯船は3、4人、露天も3人程度ではないでしょうか。洗い場は4つしかありません。全部で8部屋ですので、時間がかち合わなければこれで十分なのでしょうが、ここは女性好みの宿なので女性のグループが多く、人数の多いグループの場合だと、そのグループだけでも露天には入りきらない状況になってしまいます。さらに、他のグループと時間がかち合ったりしてしまうと、かなり不満が出るのではないでしょうか。意外と時間がかち合うことは多いようで、ばくが隣で二時間近く入っている間も、とてもにぎやかな時とまったく静かな時とが極端に分かれていました。最初男性用の露天は周りを桧皮の囲いに囲まれていますが、周囲にやや余裕があり、そこに植えられた紅葉が見事に色づいていてのんびりできました。露天に屋根がなく、雨の時には入りにくそうですが、その分開放感はあります。交代した方のお風呂は内湯が石造り、露天が木枠と、逆の構成になっています。多分内湯の大きさはそれほど変わらないと思いますが、露天は湯船の上に太い湯樋が通されていることもあり、おそらくせいぜい二人しか入れないと思われます。それに、隣の紅葉と違って、こちらは草が目立ち、何だか野湯に入っている気分になります(いい意味ではなくて)。お湯は内湯は湯口から、石造りの露天は湯船の中から多く注がれていますが、このお湯は無味無臭という感じです。塩素臭はまったくしないので、これだけだと鹿教湯のお湯はこんな感じなのかと思って済んでしまいそうです。ただ、ここがこの旅館の良心なのでしょうか、露天に一本だけちょろちょろと竹筒で注がれているお湯があるのです。このお湯は少量で、しかもぬるいのですが、かすかなたまご臭がして、はは〜これが本当の鹿教湯のお湯なんだと教えてくれます。つまり、他の湯口のお湯は加熱・循環ということですね。木枠の露天に入っているとボイラーの音が聞こえてきました。鹿教湯のお湯はいいということですから、このお湯に関しては何とも残念な気がしました。お湯は組合が管理しているということですが、新しいせいもあって供給量が少ないのでしょうか。
食事は6時以降で用意が出来たら連絡してくれるということでした。食事は食事処で、ちょっと区切られたところもありますが、大体一つの部屋という感じだったと思います。テーブルには先付の里芋ときのこの煮物、前菜七種、メインのきのこ鍋の大鍋と具が置かれています。お品書きはなく、初めに置かれているものに関しては説明もありません。前菜は細長い大皿に七種盛られてきてそれを小皿に取り分ける形で、さつま芋、卵焼き、鶏肉、鮎などそれぞれおいしく、楽しく食べられました。ここの料理はご主人や奥さんを初め、従業員で作っているということでした。まさに手造りの味の前菜でした。刺身は牛刺しで非常においしいものです。青菜を中心とした酢の物と栗おこわ、サラダなどが出されているうちに、メインのきのこ鍋に火が通ってきます。このきのこ鍋のボリュームはかなりあります。肉は鶏肉と鶏肉のミンチそれにきのこや野菜が入ります。きのこには残念ながら松茸はありませんでしたが、かなりの種類、もしかすると十種類くらいは入っていたかもしれません。とにかく滋味あふれる感じでとてもおいしいものです。最後はこの汁をおじやにして食べるのですが、今回はうまく作れたこともあって、非常においしいおじやでした。おじやの時に持ってきてくれた香の物もおじやによく合ったものでした。ほかの料理にもきのこが多く使われていたこともあり、きのこの好きな人にはたまらない食事でしょう。ただ、逆に言うと、嫌いな人にとっては最悪の食事ということになります。鍋を食べている間にも岩魚の塩焼きを持ってきてくれました。本当に焼き立てで、熱々のおいしいものでしたが、少し塩味が強い気がしました。デザートは場所を替え、庭を見渡せるロビーの椅子でぶどうゼリーをいただきました。このぶどうゼリーも十分満足できるものでした。朝食は8時から、同じ場所、同じ席です。全体的に非常にシンプルで、ししゃもといわし(?)の丸干し、温泉卵、ひじき、お浸し、しらすおろし、香の物、それにご飯と味噌汁だけです。デザートに柿とりんごが一切れずつ付きましたが、物足りない気がしました。ちょっとしたもので構わないので、あと二品ぐらい欲しい感じです。しかし、どれもおいしいもので、出されたものの味に関しては文句のつけようがありません。食後はまたロビーで、セルフサービスですが、コーヒーを飲むことができます。チェックアウトの時にご主人と少し話をしました。穏やかそうな感じの人で好印象を持ちました。宿というものに対する意識は高いと感じました。奥さんもこのご主人をしっかり支えているという感じです。お湯に関しては書いたようにまだまだ欠点があり、これは改善も容易ではないと思うのですが、何とか良くなるといいなと思います。食事に関しては、今回はきのこ鍋の印象が強すぎて、他の料理が霞んでしまった感じです。季節が変わるとどうなるのか、興味があります。また、このように一つの料理の比重が高くなるのでしょうか。そうだったら、もう少し比重を下げて、もう一品これというものを作った方がいいのではないかと思いました。とにかくこの宿もリピーターが多く、特に5月にテレビに出てからは満室の日が続いているようです。料金もそれほど高くはなく、内装など、女性に好まれる要素を十分に持った宿であることは間違いありません。
 
三日目は別所温泉です。鹿教湯からバスで上田に戻り上田からまた別所線で別所温泉へという行き方だと時間のロスなので、タクシーで向かいました。車だと30分程度でついてしまいます。別所の宿泊場所「七草の湯」に付いたのは11時半ころでした。「七草の湯」は、北向観音の階段を降りてきて、温泉街を突っ切り、ほんの少し入った、別所温泉の中心部というべきところに位置しています。さらに進めば、国宝の八角三重塔で有名な安楽寺へと通じます。このように観光に便利なところなので、七草の湯に荷物を預けて、まず観光というわけです。温泉街に位置していますので、一応玄関へ入るための通路のようなものはありますが、前庭などはまったくありません。このあたりは同じ別所でも以前宿泊した花屋などとは大きく違うところです。玄関を開けると、三水館とは対照的な明るく華やかな感じの畳敷きのフロアが広がっていました。和服を着た女性が近づいてきたので、今日宿泊をするものだが、荷物を預かって欲しい旨を告げると、まあ、コーヒーでもどうぞと、玄関脇のテーブルに案内し、たっぷりと量のあるおいしいコーヒーを淹れてくれました。この時も、もしかしてそうかなと思ったのですが、後でやはりこの人が女将さんだと分かりました。まだ三十代という感じの若い人でしたが、若女将ではなく、れっきとした女将だそうです。コーヒーを飲むうちに、今度は若い女性の従業員が、周辺の観光地図を持ってきて、別所の見所、おいしい食事どころの何軒かを教えてくれました。こっちはただ荷物を預けるだけのつもりで、地図をもらうのも忘れるところだったので、先回りして気を遣ってくれる対応に助かりました。信州の鎌倉と呼ばれる別所の観光場所は割と小ぢんまりまとまっているのですが、ゆっくり見て回ったので宿に戻ったのは2時少し前でした。ここではまずロビーにあるカウンターで、迎え菓子とお茶のもてなしを受けるという形になっています。迎え菓子はお芋のパイと梅のシロップ漬け(?)で、このお芋のパイはおいしいものでした。ここで記帳をすませ、食べ終わったら部屋へ案内してもらいます。館内はエレベーターの中も含めて全館畳敷きで、やはりスリッパはなしです。部屋には三水館と同じように足袋靴下が用意されていました。この「七草の湯」は四年前に全館改築して新しくしたらしく、それまでは「菊の湯」という小さな宿だったそうです。いまは6階建ての立派な建物になっていますが、部屋数は全部で17室と少なめです。ただ、チェックインした時はなぜかフロント全体が忙しそうで、一瞬、中規模旅館だったかと思いました。この日は僕の予約が最後の客室で、予約したのは二か月くらい前だったので相当な人気なんだなと思いました。ちょうど紅葉、松茸の時期だったからかもしれません。6階の最上階が大浴場になっていて、部屋は一部屋あるだけで、ほとんどの客室は5階からになります。ぼくが通されたのは4階の端の部屋でした。畳廊下を通り、ドアを開けると一畳大の踏み込みがあり、踏み込みを上がって左がわにバス・トイレ・洗面がまとまってあります。バスはやや狭目のユニット、トイレはその隣にあり、シャワートイレでした。バス・トイレと向き合う形に洗面があり、洗面台自体はふつうの大きさでしたが、その横に木の台があり大きな鏡が置かれて、洗面の鏡と合わせることができるようになっていました。踏み込みを上がった正面のふすまを開けると12畳半の大きな正方形の和室が広がります。左側にテレビを置く部分と、床の間がちゃんと仕切られて配置されています。床の間は狭目ですが、何種類もの花がまとめて大きく活けられています。今まで行った中でも、部屋に活けられた花としてはかなり豪華で、はなやかなものでした。すでにお茶はロビーで飲みましたので、改めてのお茶出しはありません。ただ、テーブルの上にはりんご煎餅というのが、置かれていました。浴衣のサイズの気づかいもありました。和室の先にはゆったりとした広縁が続き、椅子が二脚置かれています。4畳くらいの広さはあったと思います。窓からは別所の街並みと、遠くの山、はるか向こうの塩田の町の街並みが望めます。この方向に高いビルはまったくなく、全体的にかなり見下ろす印象を受けます。塩田の街並みは夜景としてもなかなか綺麗でした。ここは料金的にはやや高い方の旅館の部類に入ると思うのですが、冷蔵庫は空のものが置かれ、自分の好きなものを入れることができるようになっていました。こういった旅館としては珍しいと思いました。部屋としては明るくていい部屋なのですが、オッと驚かすようなことはなく、いい旅館のいい部屋というところでとどまっている感じです。
お風呂は先ほど書いたように最上階の6階。男女の交代はありません。お風呂の入り口には早い時間には置いてありませんが、夕方近くになると「柚子みつ」という飲み物が置かれています。それほど甘すぎもせず、おいしいものです。甘い系の飲みものが置かれていたのは久しぶりでした。ただ、麦茶や普通の水も置いてあると、なおいいと思いました。この柚子みつは夜や朝は置かれておらず、かなり時間が限られるようです。部屋の冷水ポットは夕食後で、これも早い時間からあるといいと思いました。大浴場は明るい、清潔感にあふれたものです。木枠の浴槽は7、8人は入れそうです。洗い場は8か所ありました。シェ−ビングジェルが置かれていました。シェービング系のものが置かれているところは非常に少ないので、これは評価できると思います。露天は大浴場から出る形で、石の四角い湯船です。せいぜい二人の広さでしょうか。湯船に入ると周りの竹垣にさえぎられて切り取られた空しか見えませんが、立ち上がると二方向が見えるせいもあり、部屋からの眺めと同じものと。北向観音方向の景色が眺められます。特に北向観音の右の高い位置にある薬師堂は真正面に良く見えます。この露天はベランダ型の一種で屋根がありますので湯船に入っていて開放感はあまりありません。この日の夜は星が非常に綺麗で、この露天からもかなりの星を見ることができました。ただ、やはりこれがおとといや昨日の上に開けた露天だったらなという気がしました。露天は12時までという断り書きがありましたが、露天へ通じるドアに鍵はかかりませんので、多分いつでも入れるのではないでしょうか。お湯は大浴場は源泉流し切りという気がします。かすかなたまご臭がします。露天は湯口を覗いてみたところ、中に口が二つ並んでいたので、多分源泉と循環のお湯ではないでしょうか。もしかすると内湯も浴槽内では循環しているかもしれません。でも、塩素臭はまったくせず、感じから言ってもお湯は悪くはないと思います。湯温もちょうどいい感じでした。
食事は夕食は部屋です。お品書きが置かれていますが、説明はあまりありません。まずテーブルの上には食前酒、前菜の六種と先付の落花生豆腐。牛の朴葉焼きの陶板と、松茸の土瓶蒸しが出ています。土瓶蒸しに火が入れられ食事開始になります。食前酒はくこ酒で思ったほどはクセはありませんでした。前菜はどれもおいしく、また落花生豆腐もいいと思います。しかし、何と言っても松茸の土瓶蒸しです。旨みと香りのハーモニーは何ともいえません。非常においしいものでした。後から運ばれたお造りの五点盛りは、五点盛りと言っても量はわずかですが、これもいい質のものだと思います。続いてさざえのきのこ焼きなどの鉢肴、穴子の奉書巻き、酢の物として蟹大和寄せが一品ずつ供されます。運んでくる間合いはちょうどいい感で、味も文句ありません。信州牛の朴葉焼きもとてもおいしいものでした。最後のご飯は松茸ご飯でこれまた大満足の味でした。デザートはメロンとりんごと巨峰でこれも良かったと思いますが、例によってぼくは何か一工夫したものが食べたかった気がしました。全体に非常に満足できた食事ですが、欲を言えば何か驚かしてくれるものが欲しかったなというところです。オーソドックスな料理をおいしくいただいたというところにとどまっている感じです。食事中に女将さんが挨拶に来ましたが、女将さんの挨拶は久しぶりでした。朝食は食事処で、一部屋にテーブルが二つあるような作りになっている小部屋の椅子席です。全体的にゆるぎのない朝食です。量はそれほど多くはありませんが、少なすぎるということも決してありません。焼き魚は鮭。おいしいものですが格段にと言う感じではありませんでした。これよりおいしい鮭は何回もこの報告に書いた気がします。サラダと卵焼きは非常においしいものでした。りんごジュースはかなり甘いもので、いいりんごのジュースなんでしょう。イクラおろしのイクラは非常においしいもので、一粒一粒食べてもおいしさが伝わってきます。また、ここは朝食のおかゆが名物だということで、確かにこのお粥が非常においしいものでした。これまでにおいしいお粥はたくさん食べていますが、トップグループに入る味です。その他、豆乳豆腐、山独活の煮物、貝の佃煮、どれをとってもおいしいと思います。ただ、デザートとして何かあれば完璧だったのですが、それだけが残念な気がしました。この宿も評判のいい宿です。JTBの「満足度90点以上の宿」に二年連続して入っています。ただ、本当にどこを取っても得点が高く、それゆえ全体の平均も高くなるという感じで、特にここ、という特徴にはやや欠けるかもしれません。建物は新しい6階建てのもので、こういう新館が好みの人にはいいでしょうが、古い建物が好みの人には敬遠されるでしょう。大浴場もこれといった特徴がなく、食事もかなりいけますが、あと一つのパンチには欠けます。一番特徴があるのはサービスかもしれません。送迎の車は多分こちらの希望時間ならいつでも出してくれる感じがしたし、フロントの若い女性たちの笑顔は快く、応対はしっかりしたものでした。女将さんの気持ちが従業員にちゃんと伝わっている気がします。女将さんはチェックアウトの時もコーヒーを勧めてくれました。ここはやや料金は高めで、この料金ならこれくらい当たり前・・と思われがちですが、実際になかなかそんな生やさしいものではありません。一般の旅行者が安心して泊まれ、満足できる宿としては最適だと思います。

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念願の乳頭温泉鶴の湯へ行ってきました。ぼくは鶴の湯へ行くなら雪の時期と思っていました。カンは見事に当たり雪見の鶴の湯、雪のちらつく中での露天の入浴を楽しむことができました。ぼくが行くほんの一週間前はまだ全然積もっていなかったようです。行ってみると鶴の湯は意外に行きやすいですね。東京から秋田新幹線で田沢湖駅まで3時間。そこから割と本数のある乳頭線のバスで田沢高原温泉のバス停まで45分くらいだったでしょうか。あらかじめ連絡しておけば宿から送迎のバスがすでに待っていてくれます。この日、田沢湖から乗り込んだ乗客はほとんど田沢高原温泉で降り、そのまま鶴の湯の送迎バスに移動しました。乳頭温泉郷のなかでも鶴の湯がとびぬけて人気があることを思わせました。送迎バスは途中、鶴の湯の別館である「山の宿」へ寄り、そこから本館のお風呂に入りに行く宿泊客を乗せて、満員で宿へと向かいました。宿の門のところで車を降り、まっすぐ歩いて事務所のところまで行きます。この時は着いたばかりだったし、雪がふっていたりしてそれほど気にとめなかったのですが、帰りに改めてよく見ると、この道の左側に並ぶ建物が本陣と呼ばれる情緒溢れるものでした。ぼくの部屋は、事務所の横の木戸を入ってすぐの入口から上がる、新本陣と言うところで、この他にも東本陣と呼ばれるところがあったり、総客室数はそれほど多くはないと思うのですが、造りは入り組んでいるようです。磨き上げられた廊下を通り階段を上がって、新本陣の建物に入るとすぐに、ちょっとした談話コーナーのようなところがあり、本や新聞が置かれていて、ゆっくりくつろげるようになっていました。部屋は新本陣の3号という部屋で、引き戸になっています。引き戸を開けると一畳大の板の間の上がり口のすぐ右手にステンレスの流し台が置かれ、その奥がトイレになっています。トイレはシャワートイレで快適です。ただ、消臭剤の臭いが強めで少し閉口しました。鶴の湯は自家発電ということで、部屋にテレビも冷蔵庫もないのですが、エアコンはあり、暖房はよく利いて申し分ありません。ただし、冬場は暖房費を取られます。冷蔵庫がないと冷水好きのぼくは困ってしまうのですが、流し台から出る水は非常に冷たく、冷蔵庫で冷やしておいたのとまったく変わりません。また、この水は非常においしいものでした。ついでにいうと、各お風呂場に体を洗う時にお湯をうめる水が出ているのですが、他のお客さんが宿の人に聞いたところによると、この水も飲めるそうです。これも同じく冷たくておいしい水です。お風呂に入ってのどが渇いたら、この水を飲めばいいわけです。部屋には他に金庫や衣服棚などはありませんでしたが、ティッシュはありました。衣服棚の替わりに、部屋のコーナーに置くタイプの大きなハンガー掛けが置かれていました。板の間の上がり口のふすまを開けると、8畳の和室が続き床の間もついています。ただ、残念ながら花はありません。部屋は格別新しくもありませんが、古さも別に感じさせません。広縁は板の間で3畳大の広さがあります。ぼくを含め新本陣の客が二組いたので、二組同時の案内で、荷物持ちやお茶出しはありませんでした。ただ、浴衣の気づかいはあり。これはちゃんと翌日も申し送りされていた模様です。迎え菓子は乳頭饅頭という、茶の皮をした饅頭です。この茶の皮の上の部分だけには皮はなく、黒い餡が丸く顔をのぞかせています。どうもこの黒い餡の部分が乳頭を表しているようです。窓の外には今まで見たこともないような大きなつららが下がり、ひそかに降り続く雪の向こうに東本陣の建物が浮かんでいます。この部屋は二階のはずなのですが、割とすぐ近くに地面があります。
連泊ですのであせる必要はありません。ちょっとくつろいでからお風呂に向かいます。まず行くのは何といっても混浴の露天でしょう。事務所側の宿の建物を出ると、小川を挟んで向かいにお風呂が並んでいます。小さな橋を渡った正面に白湯と黒湯。右の小道を行くと混浴の露天と中の湯。左に行くと女性専用の露天になります。露天以外はそれぞれ男女別の湯船がありますが、いずれも二人程度の狭いものです。ただ男性用の白湯はいくらか広いものでした。混浴の露天は小道に面していて、真ん中あたりに屋根だけがかかった脱衣棚がありますが、狭いもので、この時期は雪がつもっています。男女とも中の湯の脱衣所から出られるようになっていて、みんなここから出入りしていました。この混浴の露天は外から見ると思ったより狭い感じがしますが、入ってみると意外に広く何人でも入れそうです。朝食の食事会場に、この露天にたくさんの人が入っているポスターが張ってありましたが、正確に数えた訳ではありませんが、百人くらいは入っていたのではないでしょうか。この露天は見た瞬間にわーっと叫ぶような新奇性はありませんが、じっくりつかっていると、その良さをじわじわと感じるような露天です。白湯の建物近くから樋でお湯が流し込まれ、湯船に二つ見えている岩の下あたりからもぶくぶくと泡が立っています。また、樋でお湯が流し込まれるあたりの下からも熱めのお湯が力強く湧き出しています。小道に面した方の反対側はなだらかな斜面で雪が積もっていますが、まだ真っ白ではなく濃淡があるところが、かえって奥行きを感じさせます。まさに温泉情緒に溢れた露天です。今回はとにかくお客さんが少ない時期ということで選んだので、多分ぼくが入ったときで一番多くても10人ちょっとしかいなかったのではないでしょうか。そのせいもあって、本当にこの温泉情緒に十分ひたれることができました。連泊で合計10時間くらいこのお風呂に入ったと思うのですが、そのうち独占して一人で入れた時間が2時間近くあったかもしれません。昼間も夜もいいとは思うのですが、やはり夜が明けかかるときの薄墨色の世界がこの鶴の湯の露天には一番似合いそうです。お湯は注がれている部分から一番離れる中の湯の入口辺りはややぬるめですが、でもぬるすぎるということはありません。ここにずっといても十分温まると思います。もっと熱いのがいいなら注ぎ口に近づけば熱めになります。泉質に関しては弱酸性ということで、一日目は本当に柔らかなお湯という感じがしたのですが、二日目の夜はまるで蔵王のお湯のように目に染みてかなり目が痛くなりました。ところが三日目の朝になるとまたもとのお湯にもどったような感じになり何ともなくなりました。これはちょっと不思議でした。露天に入り浸りになっていたので、他のお風呂は駆け足になってしまいましたが、湯船はみな小さいものの、それぞれ力に溢れたお湯だと思います。男性は白湯と黒湯の脱衣所は同じなのですが、この脱衣所や湯船も雰囲気のあるものでした。これらの外のお風呂とは別に立ち寄り客は入れない内湯があるのですが、ここにはシャワーが一つだけついています。ただ、湯船はやはり小さめで、明るすぎたせいか雰囲気はあまり感じられませんでした。小さな家族風呂という感じがしました。
新本陣は、夕食が部屋で、朝食が大広間になります。夕食は小さなお膳形式で、二度に分けて運ばれ、さらに後から名物の山の芋鍋が出されます。お品書きはありませんがちゃんと説明してくれます。一度目はそれほど熱くないもの、二度目は熱いものということなのですが、一度目にお刺身が運ばれるのに、醤油は二度目なのです。またお酒やビールを注文しても運ばれるのは二度目です。これは連泊して一日目も二日目もそうでしたから、多分そんな風に決まっているのだと思われます。ぼくは食事の前にまず、何といっても湯上がりのビール派ですから、お預けをくった感じです。二日目は二回目が運ばれるのが割とすぐだったので良かったのですが、一日目はけっこう間があいた感じで、その間ほとんど箸をつけずに待っていました。一日目の最初は「ふき、ぜんまい、みずの実」という山菜三点とお米(秋田こまち)のお団子のきのこの餡かけ、岩魚の刺身、きのこのホイル焼き、山葡萄のジャムでした。二回目はメインの山の芋鍋を除いた岩魚の塩焼き、お蕎麦。舞茸の煮物というラインアップで、この岩魚は頭ごとほとんど骨も食べられるおいしいものでした。山葡萄のジャムはホイル焼きと同じお皿に出されホイル焼きにつけて食べるのかと思いましたが、つけないでくださいと言われ、このジャムの位置付けが今一分かりませんでした。山の芋鍋は滋味溢れる感じで、さすが名物と思いました。山菜の味付けもよく量といい質と言い、名前におごらずなかなか頑張っている宿だと感じました。
二日目は全体的にメニューは変わりますが、一日目と同じものも出されます。山菜の三点は器も中身も全く同じで、名物の山の芋鍋も同じように出されました。後はすべて変わっていました。刺身はサーモンに、岩魚の塩焼きは岩魚の味噌田楽に、そはば稲庭うどんにと言った感じです。その他、魚と野菜の炊き合わせ、蓮根ときのこの煮物、ときりたんぽが出されました。ぼくは岩魚の味噌田楽は初めてだったと思いますが、これはおいしく、頭ごとすべてぺろりと食べてしまいました。またきりたんぽもおいしかったと思います。ただ、これでかなり満腹になってしまったせいか、山の芋鍋は昨日ほどおいしさは感じられませんでした。昨日よりきりたんぽが一品多い感じで、その分というかそれ以上にお腹がいっぱいになりました。久々の超満腹状態です。
朝食は内湯の前の広間で、これはそんなに量は多くはありません。一般的な朝定食で一日目の魚は虹鱒の甘露煮。その他に納豆とサラダ、切干大根としゃきしゃきした食感の山菜それに湯豆腐でした。湯豆腐はよくあるテーブルでぐつぐつさせるものではなく、器に一切れ入っているものです。二日目の魚は鮭の切り身で、納豆、山菜は昨日と同じでした。その他に、目玉焼き、黒豆、ほうれん草ともやしのごま和えが出されました。この中では一日目の虹鱒の甘露煮がおいしいものでした。その他は特にこれといたものはありませんでした。
鶴の湯の食事について書いておかなければならないのは、全体に甘味が大切にされている(?)ということです。その象徴的なものが一日目の位置付け不明の山葡萄のジャムですね。また高菜の漬物は砂糖と一緒につけこまれているそうで、甘味を感じるものでした。全体的に砂糖が多く使われ、一品一品ははそれほど感じないとしても、それが積み重なるとかなり重量感を感じるようになるのではないでしょうか。ぼくは一日目の夕食は危ういバランスながらなんとか踏みとどまった感じがしましたが、二日目は一品一品はおいしいもののトータルとしてオーバーしてしまったのではないか、それが超満腹につながったのではないかという気がしました。高菜に関してはぼくはまずいとは思いませんでしたが、朝、隣で食事していた人は良い評価はしていませんでした。二日目のほうれん草ともやしも甘く、これは甘すぎという感じでした。
ここは8000円から泊まれてしかも食事は変わらないそうです。このお湯とボリュームたっぷりの食事、そして温泉宿としての雰囲気。人気の理由がうかがえます。宿の人もおごることなく接してくれました。食事の味付けがこの地域のものを受け継いでいるならわれわれがとやかく言うことではないのかもしれません。この地域の田舎料理に徹しようという心意気は十分伝わってきました。日本を代表する温泉の一つとしていつまでもこの心意気を忘れず、この宿の雰囲気を守り続けてほしいと願います。
 
翌日は田沢湖の観光を兼ねて田沢湖温泉の「花心亭しらはま」という宿です。宿は確か5年前にリニューアルしたということで、からし色をした近代的な5階建ての建物でした。宿泊料金がちょっと高め、というタイプの旅館によくある形だと思いました。ロビーでお茶を飲み、しばらく待って部屋に案内してもらえました。ここは畳ではなくカーペットですが、やはり最近の旅館によくあるように、スリッパははかないシステムになっています。すでに荷物は部屋に運ばれていて、案内をしてくれるのは部屋係りの仲居さんでした。この仲居さんは年は若そうですが落ち着いていて、説明もしっかりし、こちらの質問にもちゃんと答えてくれました。部屋は四階の413号室で、廊下を挟んでやはり413と部屋番号が書かれ、テーブルと椅子が置かれた小部屋があります。この旅館の最大のウリはそれぞれの部屋に専用のダイニングルームがあるということなのです。このダイニングルームで朝夕の食事をすることになります。部屋タイプによってはこのように廊下をはさんだドアの外にある場合もあり、あるいは主室とは別にダイニングルームとして同じ部屋の中にある場合があるようです。部屋はドアを開けると一畳大の上がり口とやはり一畳大の踏み込みがあります。踏み込みのすぐ左にトイレが、正面に洗面所と浴室があります。トイレはシャワートイレです。踏み込みを上がって右に14畳くらいの部屋があり、窓際に火鉢と座布団が置かれていて椅子はありません。左側には床の間があるのですが、残念ながら床の間にじかにテレビが置かれていて、境がありません。高めの宿にしては少し造作の配慮が足りなかったなという気がします。もちろん花はありました。窓からは真下に何に使うんだろうと考えてしまうようなかなり広い広場が、右手には田沢湖が望めます。覗き込みはありません。ここで仲居さんはまた抹茶と迎え菓子を出してくれます。迎え菓子は山芋を使った皮と中の餡はかぼちゃ餡ということで、しっとりとした上品な味でした。アメニティとしては、スリッパのない宿の常として、足袋靴下が備えられています。また、浴衣は全サイズがあらかじめ用意されています。また、翌日用の違う柄の浴衣も食後に用意されました。
お風呂はすべて一階です。大浴場は割と広めで洗い場の数も十分あり清潔で気持ちのいいものです。シェ−ヴィングフォームが備えられているのはカミソリ派のぼくとしてはうれしいところです。お湯は田沢湖温泉(温泉分析書によると正式には田沢湖パール温泉)ということでした。どこかからの引き湯かと思ったのですが、引き湯ではなく汲み湯ということでした。どこから汲んでくるのかまでは聞きませんでした。もちろん流しきりではありませんが、塩素臭はなく温泉特有の臭いも感じられるような気がしました。この日はほとんど泊り客がなく、大浴場や露天は常に貸しきり状態でしたので、お湯もまったく汚れてはいない感じがしました。源泉は42度ということでしたが、汲み湯ですので沸かしていると思われます。また、露天や家族風呂をふくめて24時間入浴できるのはなかなかいいと思います。汲み湯ということだったので、露天や家族風呂も温泉なのか念のため聞いてみたのですが、温泉だそうです。露天は大浴場から出るタイプで周りを板塀に囲まれ、見晴らしはまったくありません。ただ、他に入浴客がいなかったせいか、割とゆったりのんびりと入れました。家族風呂は一つあり、和室の次の間が付いた立派なものです。無料で、入浴している人がいないときはいつでも入れます。入口に小さなホワイトボードがあり、自分が上がる大体の時間を自己申告するようになっていて、面白いと思いました。
さて、専用のダイニングルームでの食事です。夕食は小さなお品書きと、仲居さんの丁寧な説明がありました。食前酒が珈琲豆酒という変わったもので、珈琲豆を焼酎につけて一年寝かせたものだそうです。まったく珈琲そのものの味でおいしいものでした。料理長が作ったということです。料理は最初に岩魚飯鮨、山芋豆腐、みずの実たまりづけ、などの地のものが中心の珍味や、網茸や蟹爪、豚トロなどの酒菜を少しずつ集めたお皿が出されます。特に豚トロに旨みが凝縮されてよかったと思います。また、蟹爪も一本だけでしたが、おいしいものでした。みずの実は面白い食感で、ここで初めて食べたのなら感心するのでしょうが、鶴の湯で二日連続して食べていたため、やや食傷気味でそれが少し残念でした。続いてお造りがぼたん海老と勘八と虹鱒、このお造りもとてもおいしいと思いました。さらに、お椀の鮭真薯、はたはたの蒸し物と続きます。このはたはたは卵を持っているもので、食べるとこりこりとかなり大きな音がするものでした。初めて食べました。味自体はとてもおいしいというところまではいきませんが、この食感はかなりユニークな感じです。続いて、秋田県の平鹿産の和牛ステーキ、これはかなりいけます。ただ、少し焼きすぎると急激に旨味が失われるような気がしました。レアに近い感じで食べた方がよさそうです。その他に柿膾、鴨つみれ入りのきりたんぽ鍋、そしてご飯になります。こちらのきりたんぽ鍋もおいしいものです。デザートは果物の盛り合わせですが、これは少しインパクトには欠けていた感じでした。全体的に夕食は地のものが使われ、料理長の工夫も見られるおいしいものでした。ただ、とび抜けてというものは少なかったような気がして、それは残念でした。仲居さんによると秋田の南部は味付けが甘いということでしたが、この宿は甘さについてはあまり感じませんでした。もちろん、朝食もダイニングルームです。朝食の最大の特徴は焼き魚でしょう。焼き魚は岩魚の燻製でした。燻製だけに、独特の風味があっておいしいものでした。その他に海苔、たらこ、茄子の煮びたし、ほうれん草のお浸し、しらす、卵焼き、野菜の煮付けが付き、さらにテーブルにとろろと納豆が用意されます。素材が吟味され非常にレベルが高くおいしいものですが、やはり全体に醤油を使うものが多い点、それでご飯が進んでしまう点が難点でしょうか。
この旅館は、シーズンオフのこの時期でも料金は高止まりしています。温泉が汲み湯であることを考えても、この値段だと割高という感じをぬぐえません。この日はあまりお客さんがいなかったのも、そのことを物語っているのではないでしょうか。全体的なレベルは高いと思いますが、特に何か一つこれぞという飛びぬけたものというものがありません。決して悪いわけではないのですが、もう一歩こちらに踏み込んでほしいという印象を持ちました。湯上がり処の冷水などのサービスもないし、帰りの荷物運びもありませんでした。近くに鶴の湯という人気の温泉宿があり、それにこの料金で対抗するには、もっと努力が必要なのではないでしょうか。

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たてしな藍]」へは中央線の茅野駅からタクシーで20分ぐらいです。今まで、行き方がよく分からず、何となく敬遠していたのですが、こんなに行きやすいところだとは思いませんでした。今回は旅館系のでびーさんから、「日本の宿」のキャンペーン企画の情報を仕入れて、いつか行きたいとは思っていた「たてしな藍」に出かけることにしました。
チェックインは3時なのですが、いつもの伝で2時少し前には宿に着きました。しばらく、庭に面した明るいロビーで迎え菓子の栗羊羹と煎茶をいただきながら時を過ごします。栗羊羹は栗がそのまま入っているタイプのものではなくて、練りこんであるものでした。上品な甘さのおいしいものです。ちなみに二日目は小さめのごま饅頭?でした。ロビーの前面の庭には雪が程よく積もり、小鳥のえさ台には四十雀を中心に多くの鳥が訪れるようでした。15分ほどして部屋へ案内されました。掃除はできていて、しばらく部屋を暖めていたようです。この時の案内の仲居さんは落ち着いていて、非常にしっかりした感じの人でした。
案内された部屋は、皐月という、新館への階段を上がったすぐのところにある部屋です。ドアの横の壁の飾り棚に陶器の雛人形がちょこんと飾られていて、奥にある部屋を除いては、新館のそれぞれの部屋のドアの横に飾り棚があるようです。木目のついたドアを開けると広い玄関と畳三枚が敷かれた踏み込みがあります。踏み込みを上がって、玄関の右手横に当たるところには広目のトイレがあり、中には小さな手洗いと、壁に生花の入った花瓶が提げられています。もちろんシャワートイレでした。トイレのさらに右手に洗面のドアがあり、ここも広目の洗面所で洗面台は二つあります。さらにその先が風呂で、落ち着いた感じの色の浴槽ですが、やや狭目な印象を受けました。踏み込みの襖を開けると、10畳の主室になります。その右手に二畳少しの着替えの部屋があって、ここに姿見が置かれ衣装棚があります。専用の着替えの部屋があるところは久しぶりでした。主室は左手の棚にインターフォンが置かれ、仕切られた先に一畳分の畳の床の間がありました。この床の間には花はなく、香炉が置かれていました。テレビやエアコン、金庫は反対側の右手の壁に埋め込まれる形に配置されているおかげで、十畳とはいえ、それ以上の広さを感じさせます。主室のさらに先には四畳大の広縁があり、掘りごたつが掘られています。広縁は一面のガラス窓で、カーテンウォールが下げられるようになっています。窓の外にはこの部屋用という感じの大きな岩とそれに組み合わされた一間半ほどの垣根が配置されていて、岩や庭には雪が積もり、こたつに入って外を眺めていると、まったく静かな時が過ぎていきます。庭には時折小鳥が顔を覗かせ、遠くを走る車の影が一瞬見えますが、覗き込みはなく非常に落ち着けます。全体的に申し分ない部屋ですが、鉄筋でないのか、やや寒く、暖房も非常に乾燥した空気が吹き付けてくる感じなのが気になりました。また、ティッシュが洗面所だけで、部屋になかったのが不便です。ただ、洗面所のケースからボックスだけ外して部屋に持ってきておいたら、翌日の掃除の後は部屋のボックスはそのままで、洗面のケースの中にも新しいティッシュボックスが入れられていました。浴衣は布団を敷くときに新しいものが一枚補充されます。案内時のサイズの気遣いはあり、これはちゃんと二日目にも申し送りされていました。また、バスタオルは一人につき三枚ありました。部屋に入ってからの改めてのお茶出しはありません。
お風呂はフロントから少し入ったところに男女が並んで位置し、夕食の時間帯に男女交替になります。露天もそれぞれについていますが、ただ、最初に男性用のお風呂の方は大浴場から出るタイプ、もう一つの、最初女性用の方は脱衣所から大浴場、露天と別々の口を通って出る形になっています。大浴場も露天も最初男性用の方が大きめで、それぞれ小ぎれいな感じで大きな窓が取られていますが、特にこれといった特徴は感じられません。大浴場は大きい方は二日目には浴槽の外にお湯があふれ出ていましたが、初日はあふれ出しはなかった気がします。初め女性用の方は二日とも流れ出しがありませんでした。逆に露天は最初男性用は岩風呂で、流れ出しがないタイプのようでした。このタイプに関しては、夏など虫や葉っぱが外に出て行かないのでは? と、いつも疑問に思ってしまいます。初め女性の方の露天は桧のお風呂で、こちらは入ったとたんに浴槽の縁からお湯が勢いよくあふれ出します。ただ、こちらは四人入るとかなりきつい感じがします。岩風呂の方は6人くらいは大丈夫でしょう。両方の露天とも高い位置にある板塀に囲まれていて見晴らしはありませんが、庭にある程度のスペースがあるためそれほど窮屈な感じはしません。岩風呂の方は湯船につかりながら夜空が眺められますが、夜は女性の時間帯になってしまいます。ということでお湯は流しきりではなく循環、半循環と思われますが、塩素臭はまったくありません。また、湯の花はなく、お湯はややぬるっとする感じのものでした。ややしょっぱい気もしますが、強いものではなくほんのわずかというところです。湯温は内湯も露天もぼくにとって最適の温度で気持ちよく入れました。浴場の前の男女の暖簾のかかったところに、麦茶の入った冷水機が置かれていましたが、二日目の昼早くには入っておらず、夜の10時頃にはもう空になっていて翌朝もそのままでした。全体に心配りの行き届いている宿なので、この辺の手抜かりはちょっとしたことでもけっこう印象を悪くしてしまい、惜しい感じがします。
食事は一階の食事処でいただきます。それぞれが個室になっていて、他の客の姿を見ながら食事をするということはありません。連泊したのですが、初日が正規メニューの日のようです。この日はちゃんと、「如月のお献立」というお品書きがついていました。全体的に吟味されたものだと思います。中でも強肴の黒豚の大和煮は非常に柔らかく、餅との取り合わせが何とも言えず絶品で、これはここの名物料理だということでした。おそらく毎月出されるのではないでしょうか。リクエストすると、連泊の場合、次の日も食べられるということでした。また、先付けのよもぎ豆腐のつるっとした食感も非常によくて、今までに食べたことのない感じのものです。食前酒は二日とも梅酒で、食事の前に梅昆布茶が出され、舌を整えるというのも変わった趣向です。お造りは初日の正規メニューが鯉の洗いにからすみを挟んだものと刺身こんにゃくを酢味噌でいただくもので、かなり凝っていますが、このからすみ挟みはそれほど効果を生じているとは思えませんでした。もちろんまずいということはありません。お造りは、二日目は紅鱒と馬刺しに変わり、これは非常においしいと思います。特に、馬刺しは上等なものでした。ということで刺身は二日目の方が良かったですね。初日の酢の物は春の山菜に蕗味噌をつけていただくもので、春の香りを楽しめました。野のものが好きな人にはうれしいものではないでしょうか。もっと先になると、さらに山菜の種類が増えるということでした。他には百合根にみぞれ銀餡をかけた蒸し物、大鱒の柚子釜の焼き物、海老芋の煮物などが並び、それぞれがおいしいものです。ご飯は山葵茶漬けで、香の物もあっさりした、口に合うものでした。デザートはイチゴのシャーベットを主体としたもので、満足できます。運ぶペースも程よいもので、全部で一時間半はゆうにかかります。さらに部屋へ戻ると、夜食のそば寿司が冷蔵庫に用意されています。食いしん坊にはこたえられませんね。
朝食はやはり食事処ですが、昨夜とはちがう個室に案内されました。白いご飯か、お粥が選択できます。焼き物は何の魚だったか忘れてしまいましたが、一夜干しが非常においしいものです。卵は温泉卵で出汁が醤油ベースのものではなく、塩味というのが珍しいものでした。漬物も相変わらずおいしく汁物は大根と芋の汁で豚肉が入ってとても具沢山です。お鍋からお椀にすくって入れるのですが、一人で何杯分もあるボリュームたっぷりなものでした。その他ほうれん草にとろろ昆布をかけたもの、小魚の佃煮、など種類も多く味もよく、非常に充実した満足度の高い朝食といえます。個人的には、ジュースやデザートがあると最高だったのですが、欲張りすぎでしょうか。食後に抹茶かコーヒー、紅茶のサービスがあります。
二日目の夕食はまた個室が変わりました。同じように梅昆布茶と梅酒の食前酒が出されます。二日目は鍋物と懐石のどちらかが選べるということでしたが、やはり懐石を食べてみたいということで懐石を選択しました。お品書きはありませんが、説明はくわしくしてくれます。昨夜もこの日もインの時に案内してくれたしっかりした仲居さんが担当してくれました。前菜の六種は昨日よりパワーが落ちた気がしましたが、先付けの胡桃豆腐はおいしいものです。湯葉のしゃぶしゃぶがテーブルで火を使うものとして出されましたが、におい消しのりんごの輪切りを浮かべたお湯に湯葉を広げながら入れて食べるという趣向です。ヘルシーですが、湯葉の量もそれほど多くなく、これというインパクトはありません。湯葉よりも、平べったいうどんのような、抹茶とこんにゃくを使ったという具が珍しく、おいしいと思いました。お澄ましは鴨のつくねの入った滋味のあるものでした。お造りは先に述べたもので十分に満足できます。あと、何だったか一品出されましたが、あまりインパクトがなかったのか、写真を見ても思い出せません。魚は大きな岩魚の塩釜焼き。二人で一尾の割り当てですが、かなり大きな岩魚なので、量的に不満はありません。岩魚はそれこそ百回以上食べたと思いますが、塩釜になったものは初めてでした。ほくほくしておいしいのですが、塩をよく落とさないと、けっこうしょっぱくなってしまいます。塩で固めるという凝った作りをしていますが、結果的には串焼きの方がややおいしいかなという印象を持ちました。酢の物は鱒を使ったサラダで、こちらはボリュームたっぷりです。その他、鴨と麩の焼き物はあまりインパクトがありません。また、山菜の天麩羅が出されました。ただし、この天麩羅はどうしたわけか決してまずくはありませんが、それほどの感激は感じられませんでした。ご飯は、とろろごはんで、とろろは非常にたっぷりとあったのですが、だし汁がぼくにとっては甘めで、とろろ大好きなぼくとしては満足感は今ひとつというところです。デザートはりんご、梨、イチゴ、メロンのフルーツ盛り合わせでした。全体的に悪くはないのですが、やはり昨晩と比べるとボルテージが下がっています。また、この日も冷蔵庫に昨日とはちがったそば寿司が用意されていました。
二泊目の朝食は昨夜の夕食と同じ個室でした。またおかゆを選択しました。ざっと見た感じ、数は数えませんでしたが、昨日よりは品数が少ない印象を受けました。メインは湯豆腐で、豆腐以外の野菜の具もちゃんとそろっている本格的なものです。湯豆腐はよく朝食に出されますがここまで本格的なものは今までになかった気がします。そのほかに、ささがきごぼう、おからを使ったもの、柔らかめのさつま揚げ、岩魚の一夜干し、とろろ、野菜の煮物などでした。こうして書いてみるとけっこう品数はありますね。この日はお芋の味噌汁で、やはりたっぷりあります。岩魚の一夜干しはやはり、とてもおいしいものでしたが、全体のバランスやそれぞれの品については、やはり一日目の朝食の方が評価できます。
この宿は案内の仲居さんがしっかりしていたことを初め、従業員全員に教育が行き届いているという印象を受けました。ただ、若い人など料理の内容を説明できないというようなことがありましたが、ちゃんと聞いてきて、その後しっかりフォローしていました。全体的に不満はないのですが、書いたように、湯上りの麦茶が二回も切れていたのが意外で残念に思ったこと、部屋の暖房の風が寝ている布団を直撃することを考えてほしいことなどがありました。また、食事もおいしいのですが、食べ終わったときのトータルとしての満足感にやや欠ける気がしました。これは、あるいは山菜や鱒などの素材に多少の偏りが感じられるせいかもしれません。また、ここもやはり一日よりも二日目の食事のパワーが落ちる宿という印象をぬぐえません。アウトはもちろんタクシーまで荷物を運んでくれ、その従業員と宿のご主人が丁寧に見送ってくれました。

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今回の新婚旅行のメインは奥飛騨で、福地温泉と新穂高温泉なのですが、いきなりここに行くよりも、その前日に松本に一泊しようということで選んだのが、JTBの評価もそれほど悪くないこの宿でした。松本から浅間温泉行きのバスに乗り、1時15分頃に小ぎれいな感じの宿に到着しました。本来は3時のインらしいのですが、ここはJTBの企画で2時のインになっていました。小ぢんまりしたロビーで、そば茶とおから饅頭というのを出され、部屋の準備ができるまでということでしばらく待たされました。このとき対応してくれたのは女将さんだったようです。しばらく待って、1時30分頃に部屋に案内されました。
部屋は503号室でした。ドアを開けると、二畳大の踏み込みの正面に棚があり、かわいらしい葉物が活けられていました。踏み込みの、右のドアを開けると広めの洗面室になります。洗面台と向き合う形に、ドアがあり、開けるとシャワートイレとその横にバスタブがありました。部屋自体は広くゆったりとしているので、一応ホテル形式なのですが、バスタブというより浴槽という感じで小さく、ユニットバスに近い形になってしまっています。洗面を出て、踏み込みの左の襖を開けて6畳の次の間に入ります。次の間の先が絨毯敷きの4畳半大の広縁になっていて椅子が置かれています。次の間と広縁に並ぶ形で隣に8畳の主室があります。主室の窓と向かい合った壁に床の間があり、花が活けられていました。周りにあまり高いビルはなく、五階からでも町を見下ろす感じで遠くまで見渡せます。遠くから見上げる感じになるのですが、窓の近くに寄ると少し覗き込みはあります。部屋は新しく、次の間の壁や、主室の窓の下には棚のようなものがめぐらされていて、殺風景になるのを防いでいます。浴衣の気づかいはあり、また浴衣の他に作務衣もあります。作務衣はゴムの入った着やすいものでした。また、金庫は長い鎖の付いたカギのかかった小さな金庫が四つ組み合わさったタイプのもので、友達同士での宿泊などにはいいと思われました。
お風呂は大浴場が男女別にそれぞれ一つずつと、大浴場から出る形の露天がやはり一つずつついているという一般的な形です。ここは男女の交替はありません。おそらく男女ともまったく同じような作りなのだと思われます。入浴は掃除の時間を除いて、24時間OKということでした。バスタオルは脱衣場にも置かれていました。大浴場は明るくて清潔な感じで、泥炭石鹸と泥炭シャンプーが備えられています。シェービングフォームもあり、これは言うことありません。露天は長方形の木枠のお風呂で4・5人ぐらいが入れそうな広さです。浴槽の上には屋根があり、周りをすっかり囲まれていますから、眺望などはまったくありません。お湯は適温で、温泉の匂いもせず、湯の花もなく、味にも特に特徴はない感じを受けましたが、翌朝はほっぺたがつるつるしていました。お風呂は源泉流しきりか半分循環かというところではないでしょうか。洗い場の蛇口のお湯も温泉を使用しているということでした。ただ、部屋にはそのような表示がなかったので、部屋のお風呂は温泉ではないと思います。湯上り処には延命茶とかりんジュースがいつでも飲めるように置かれています。ジュース類などを置いてあるところは、夜は引っ込めたりするところも多いのですが、ここは一日中飲めるようです。大浴場のほかに家族風呂が三つあり、二つが無料で一つが有料になっています。宿泊客は無料の一つに確か、一回だけ入れるということだったと思います。この無料の家族風呂は5階にあり、露天で眺めがいいものです。また、広くゆったりとしていて、一組一時間までということなので、割とゆっくり入っていられます。
食事は個室の食事処で、お品書きもあり、説明もあるものでした。一品ずつの懐石料理で、食前酒はあんず酒、先付けが白子豆腐、前菜は甘鯛の柚子焼など六種類、吸い物が松茸の土瓶蒸し、お造りが大岩魚のそぎ作りというもの、その他うなぎを使った蒸し物や、お凌ぎの手打ちそば、柚子釜、二色田楽などたくさん出されます。メインに位置づけられる感じで、信州牛のしゃぶしゃぶがありました。テーブル自体に電磁調理器が組み込まれているようで、ただテーブルの上にじかにお鍋を置いただけでお湯が沸騰してきました。ご飯は、茸ご飯で、これは松茸ではなくシメジでした。デザートのぶどうムースで終了です。全体的に洗練されていておいしい夕食だと思います。ただ、やはり、何か一つ飛びぬけるというものはなかった気がしました。
朝食も夕食と全く同じ場所でいただきました。地元の有機卵を使った温泉卵や海苔のある一般的な朝定食ですが、白いご飯の他にくこの実の入った薬膳の朝粥が一杯付いたり、サーモンの刺身があったり、湯豆腐は自分でにがりを入れてかき混ぜて作ったりと、ほんのちょっと変化を入れている印象を受けました。ブルーベリーヨーグルトのデザートもある、全体的に手抜きのないバランスのとれたもので、評価できる朝食だったと言えます。
この「玉の湯」の大きな特徴は、夕食後に「車坐」という部屋で毎晩のようにミニコンサートが開かれるということで、この夜もハープ(中南米の独特なハープ)の演奏がありました。まさか、団体は聞きに来ないだろうと思っていたのですが、団体も聞きに来て満員の大盛況になり、女将さんもいつもと雰囲気が違うといっていましたが、それなりに盛り上がりました。普段はもっとじっくり聴く雰囲気になるのでしょう。ミニコンサートとはいえ一時間半くらいの時間を取って行われます。音楽の好きな人にはいいかもしれません。ここの主人はフロントにいるときは愛想が悪いのですが、コンサートの途中のアトラクションに歌手として出演したときは別人のような感じで、あの愛想のない主人だとはまったく気づきませんでした。全体的に印象はいいのですが、料金もそれほどは安くはありません。全体のバランスは非常に取れている印象なので、お得意さんをしっかりつかんでしまえばいいと思いますが、逆に特にこれという突出したものもないので、ちょっとという人もいるかもしれません。その辺の兼ね合いが難しそうに感じました。 
 
玉の湯をチェックアウトしました。松本からバスでいよいよ目的地の奥飛騨へ向かいます。以前からずっと、ここへはトロリーバスとかケーブルカーなどに何回も乗り換えなければ行けないと思い込んでいました。何か他のところとの勘違いだったのでしょうか。テレビの温泉番組で松本から直行のバスが出ていることを知り、また、その途中に同じように課題だった「福地温泉」を通ることを知り、この二つの温泉を新婚旅行の地と決めたのでした。
確か、バスの所要時間は二時間もかからなかったと思います。通ってみたかった安房トンネルを抜けて、バスは奥飛騨の地に着きました。もっと山奥の感じで周囲は何もないところかと思っていたのですが、そんなに山奥ではないという感じで意外でした。直通バスがあるとはいえ、便数は少ないのでバス停に着いたのは12時45分頃でした。インの時間は2時で、どこかで昼食を取ろうと思ったのですが、ぼくたちが降りた、槍見館に近いにバス停の近辺にはまったくそれらしき店がありません。とりあえず旅館に荷物を置こうということに決めました。槍見館には歩いても行けるらしいのですが、小雨が降っていて荷物もあるということで、時間は早いのですが電話して迎えに来てくれるか聞くことにしました。連絡するとすぐ迎えに来てくれたので助かりました。槍見館には昼食を食べるところはなく、ロビーで売られている温泉卵などを食べて、結局それが昼食代わりになってしまいました。ロビーには囲炉裏の部屋があり、その囲炉裏端で百草茶と小さなお饅頭をいただきました。30分くらい経ったころでしょうか。仲居さんが部屋へ案内してくれました。説明のはっきりした、しっかりした印象を受ける仲居さんでした。部屋には、また迎え菓子の夢柿というお菓子や、塩昆布、小梅などが置かれていました。
部屋は本館の212号室で「笠ヶ岳」と呼ばれる部屋です。ドアを開け、一畳大の踏み込みに上がってすぐ左が洗面所になっています。洗面所の奥のドアがトイレで、シャワートイレでした。洗面所の後ろやトイレには窓がついていて外の明るさが入ってきます。踏み込みから頭をぶつけないように一段上がると、正面に四畳大の板の間があって長火鉢が置かれ、その中に炭が用意されていました。火が点けられるようで説明書のようなものが置かれていましたが、面倒くさいのと、危ないのとで火は点けませんでした。この板の間の左側に小さな窓があり、右側の和室にはまったく窓がないので、結局、窓はそこと、洗面所とトイレにあるだけです。窓の小さな部屋で、あまりいい部屋ではないのかと思いましたが、実はこの窓から槍ヶ岳を望むことができるのでした。宿の名が槍見館とはいえ、窓から槍ヶ岳を望むことができる部屋は少ないらしく、槍ヶ岳が見えると言う点では、どうもここはいい部屋だったらしいのです。その窓からの覗きこみはほとんどなく、遠くの道路からちらっと見えるかな程度でしょうか。板の間の右手に主室となる十畳の畳の間が位置しています。真ん中に大きな丸太の梁が通されていて、この梁は右側がずいぶん低くなっていて、気をつけないと頭をぶつけるので、十分注意してくださいと仲居さんに言われました。どうも、仲居さんはしたたか頭をぶつけた経験があるようです。幸いに滞在中に頭をぶつけることはありませんでした。十畳の間の一番奥に一畳×半畳の小さな床の間があり、花が活けられていました。驚いたことに翌日はこの花は代えられていて、今までに何回も連泊しましたが、花が代わったのは初めてではなかったでしょうか。あるいは、隣の部屋のものと代えただけかもしれませんが、そのちょっとした心遣いだけでもうれしいと思いました。部屋は古民家を移築し中を大胆に改造したという感じのするもので、民芸調でありながらもモダンな感じがします。エアコンは天井埋め込み型のもので音の静かなことと、自然な暖かさは非常に好感が持てました。ただ全体的にみれば、全体の広さもそれほどではなく、特に飛びぬけてすばらしいというほどの部屋ではありません。
お風呂の数は多く男女別の内湯が二つと、男女別の露天が二つ、混浴の露天が一つに貸し切りの露天が四つというラインナップです。男女の入れ替えはなく清掃時間を除いて24時間入浴OKです。時期によって違うのかもしれませんが、この時は露天はやや温めでした。大浴場は二つ浴槽があり、大きい方はやや温めで、小さい方はやや熱めといったところでした。すべて源泉流しきりと思われます。湯の花はなく、温泉の匂いもほとんどしませんでした。
大浴場は脱衣所も浴室も木をふんだんに使った印象のいいもので、大きなガラスが二面取られていて明るい印象を受けました。洗い場はは四つくらいの小さめの浴室ですが、すがすがしくて気持ちがいいと思いました。大浴場は建物の中にあるのですが、露天はすべて、大浴場の入り口のあたりから通路を通って外に出る形になっています。道に沿っていくつか並んでいて、最初にある槍見の湯が男女混浴で一番景色がよく、よく、雑誌やテレビなどの取材に出ている露天です。開放感は抜群で、最後の日は青空の下に頭を覗かせた槍ヶ岳の穂先を望むことができました。河原はあまり水量はなく、大きな石がごろごろと転がっていて渓流という感じではありません。また、この時は二日ともお湯はぬるめで、入ってから出るまで肩までお湯につかっていなければならない状態でした。と言っても、お湯から上がった途端に、ぶるっと寒いというところまでは行きません。ちゃんと体は温まっています。
貸し切りの露天は四つあり、入り口に掛けた札で、すでに誰かが入っているかいないかが分かる方式でした。貸し切りには大体カギはあって、掛けることはできるのですが、なぜかカギのないところもありました。
初日の夕食は一階の大部屋の食事どころでした。お品書きがありますが、若い男性従業員の非常にていねいな説明もあります。連泊の料理のうち、今日が本来の料理とのことでした。食前酒は山ぶどう酒で先付け・向付けが、洋ナシの生ハム巻き、蟹肉の菊花和え、飛騨牛の刺身の三点です。八寸として大皿に山菜を中心としたものが、ぐい呑み程度の大きさの容器に二つ、蕪と鮭を使った寿司、豆腐を使った一品が盛られ、二人でそれぞれのお皿に取り分けるようになっています。そして、岩魚の土瓶蒸しに火が入れられます。後から、ふろふき蕪、岩魚の塩焼き、茶碗蒸しのような感じのなめこの吹き寄せ、揚げ物として、海老芋、渋皮栗、青銀杏が出され、メインの飛騨牛のすき焼きになります。もちろん飛騨牛のすき焼きも言うことはないのですが、海老芋の天麩羅は絶品でした。岩魚の塩焼きはほんの少しだけ骨が残った感じです。デザートは柿シャーベットでした。全体的に工夫が感じられる料理で非常においしいと思いました。料理長は一年半前からとのことでしたので、それ以前に行った人はもう一度行ってみてもいいかもしれません。秘湯を守る会の宿の中では料理はかなりおいしい方に入ります。量から言っても、全体的にバランスがよくとれていると感じました。この後、部屋に戻ると夜食として、何かの葉に包まれた椎茸ご飯が用意されていました。
二日目の夕食は、一日目の大部屋の食事処から少し行った個室の食事処になりました。連泊用の献立の常でお品書きはありません。食事の世話は昨日と同じ若い男性の従業員でやはり丁寧な応対でした。どうも、男性の従業員はまったく愛想のないパターンと、丁寧なパターンの両極端に分かれるような気がします。食前酒はレモン酒に変わり、前菜として姫竹、寒干大根、なんばんの葉、出し巻き卵、きゃらぶきが、やはり取り分けられるように大皿で出されています。この日は、お造りとしてマグロ、カンパチ、さわらのたたきなどの魚がありました。地鶏の豆乳鍋に火が入れられ、後から、岩魚の揚げ物のあんかけ、湯葉と茸の茶碗蒸しが運ばれてきます。この日のメインは飛騨牛の朴葉焼きで、昨日のすき焼きと同様おいしいものでした。デザートはいちご、柿、なしという果物の盛り合わせです。この日の料理も十分おいしいものなのですが、品数がやや少ないという印象です。と言っても結構おなか一杯にはなるのですが。この日の夜食は何かなと思って部屋に戻ると、残念ながらこの日は夜食はありませんでした。
朝食はそれぞれの夕食と同じところで、一日目は大部屋、二日目は個室でした。一日目の朝食は温泉卵はあるものの海苔や納豆はなく、一般的な朝定食とはほんのちょっと違う感じがしました。しょうゆ味で食べさせるものではない朝食です。魚は鮎の開きで、その他朴葉味噌を焼いたもの、山菜の胡麻和え、ざる豆腐、蕗とがんもどきの煮物が並べられ、火には大鍋で味噌汁が掛けられています。全体的にバランスが取れていておいしく、手抜きのない朝食と感じました。メロンと杏仁豆腐のデザートあり、トマトジュースありとぼくとしては申し分のない朝食でした。
二日目の朝食も一日目と同様バランスの取れた食事で、やはり満足できました。トマトジュースはしそジュースに変わり、これはかなり甘いものでした。きゃらぶき、卵焼き、朴葉バター味噌焼き、えのき茸の小鉢、何の魚だったか、もちろん魚の開きもあります。漬物もおいしいものです。デザートはレッドグレープフルーツとキウイの盛り合わせでした。
案内の仲居さんは詳しく的確で、食事係の男性は細やか、二日目は花が代えられていたなど、秘湯の宿にしては行き届いていて繊細という印象を持ちました。お風呂は季節の関係もあるらしく、今は全体的に温めなのがぼくとしては残念なところです。旅館の従業員によると、夏は熱めだったということなので、一番いい時期というのは案外難しいのかも知れません。内湯はすべてが木で作られていて清々しく、部屋は古民家を現代風に作り直したということで、そういった改築・改造の専門の建築家がいるようですが、古い家をうまく生かしているのではないかと思います。他の部屋も見てみたい感じがしました。
 
新婚旅行も、いよいよ最終目的地となりました。槍見館を出て、新穂高ロープウェーで快晴の北アルプスの山々を楽しみ、次の宿泊場所の福地温泉「湯元長座」へ向かいました。福地温泉は是非行ってみたい温泉地だったのですが、やはり新穂高と同じ理由で行きにくいと思っていたのです。今回、新穂高を調べるに当たって途中のバス停に福地温泉があることを確認して、この組み合わせにしたのでした。
いつもはチェックイン時間前に到着して、ゆっくりと過ごすのですが、さすがにこの日は新穂高ロープウェーに乗ったため、福地温泉口のバス停に着いたのは2時ごろになりました。それでもインの時間と同時刻ぐらいにはバス停に着けた訳です。宿に電話をするとすぐ来てくれました。湯元長座は温泉街の一番手前に位置している宿のようです。風格を感じさせる玄関からロビーに入ると、すぐに部屋に案内されました。案内された部屋はあけびという部屋で、フロントのすぐ近くを少し上に上がったところに位置する部屋です。和風のドアを開け、上がるとすぐ廊下に面した右手に四畳大の部屋があります。真ん中に四角く炭を埋けられるようなスペースが切られています。ここは一枚の障子で廊下と隔てられているだけなので廊下の声がつつぬけです。ですから、この部屋を使うということは全くないと言っていいでしょう。二畳半くらいの踏み込みに上がると、左手に洗面所とトイレがあります。トイレはシャワートイレでしたが、洗面所のスペースがかなりきつくなっていました。踏み込みの正面辺りに位置するふすまを開けると十二畳半の和室がひろがります。このふすまがあるので、ここを閉めれば室内での声はそれほど廊下には聞こえないだろうと思われます。広縁や椅子などはなく、窓からは中庭や水車が眺められます。一応、この部屋は一階ということらしいのですが、斜面に建っているのか中庭はちょうど一階分を見下ろす感じになっています。この窓から右手を見るとロビーのガラスが見え、ロビーの端に立った人からは部屋の窓側のあたりが良く見えそうです。ここも古い庄屋屋敷を移築し現代的に作り直したらしく、部屋の中は槍見館に少し似ています。ただ、槍見館ほどはモダンでありません。部屋の中ほどに小ぶりな床の間がありましたが、花は活けられていませんでした。また、木造なのに、暖房を止めてもなぜかそれほど寒くありませんでした。迎え菓子は小ぶりな温泉饅頭で、考えてみたら、迎え菓子で温泉饅頭というのは意外に少ないかもしれません。浴衣と作務衣の両方出してくれて、サイズの気遣いもありました。ただ、この作務衣は腰にゴムがまったく入っていないもので、すぐずるずると落ちてきてしまい、今まで出された作務衣の中で最も着にくいものだった気がしました。
湯元長座には館内に内湯が二つとそれぞれに露天、それと家族風呂があり、男女の交替はなく清掃時間を除いていつでも入浴できます。また、何年か前にこの館内のお風呂の他に、歩いて五分ほどのところに「かわらの湯」という半露天のお風呂ができて、ここは朝の7時15分から夜は8時半までということでした。館内のお湯はいくつかの源泉を混ぜて温度調節をしているとのことで、温度管理がむずかしいと若女将が話してくれました。内湯は窓が小さめで、湯気がこもっているせいもあってか少し暗い感じがしました。木の浴槽で、確か二つに区切られていたと思います。ここは脱衣所にリキッドとヘアトニックがないのが納得がいかないと思いました。ただ洗い場にシェービングフォームはありました。露天は大浴場から二重の木の扉を開けて外に出る形式です。木がしげっていて、夕方でもあったのですが、こちらもあまり明るくない印象を受けました。ただ、その分、星を見るのにはいいかもしれません。庭園型の露天で周囲に木立が見えます。全体にけっこう広く、20人以上は入れるのではないかと思います。露天の湯温はぬるめですが、湯口に近づけば熱くなります。
宿から歩いて五分ほどの「かわらの湯」は一応露天という扱いのようですが、屋根に完全に覆われていて半露天という感じです。しかし、雨や日差しにじゃまされずにゆっくりお湯につかれて、逆にそれが気持ちいい気がしました。かわらの湯はやや熱めの適温というところでしょうか。泉質は本館と異なっていて、まだできてそれほど経っていないのに、浴槽が全体に温泉成分のために緑がかっています。遠くに渓流を眺める、ゆっくりできるお風呂です。本館のお湯も、かわらの湯も源泉流しきりだと思われます。いずれも湯の花はなく、温泉の匂いもあまりしませんが、仲居さんも、若女将もどうやらこのかわらの湯の方が泉質的にお勧めという感じでした。
貸し切り風呂は三つあり、そこへ向かう通路の入り口に、どのお風呂が開いているかがランプで表示されるようになっています。特に入浴の時間が決められているわけではなく、こちらの良識に任されているのは、時間に追われずにゆっくりできていいと思いました。貸し切り風呂は、結局そのうちの一つにしか入りませんでしたが、内湯と露天がついている立派なものでした。
初日の夕食は大部屋の食事処で、部屋の中にいくつもの囲炉裏があり、それぞれの囲炉裏を囲んでの食事になります。囲炉裏の周りの木枠の部分に品物が並べられる形です。お品書きは専用の台に挟み込まれていて、毎日使いまわしかと思ったのですが、持って帰ってもいいとのことでした。ただし、山里の小鉢、長座の土瓶蒸しなどと書かれているだけで、素材については詳しく書かれていません。席に着いたときに、いろりには三種類の串がさされているのですが、これはすでに焼きあがっていて、いつでも食べられるもののようです。それを知らずに焼けるのをしばらく待っていたら、あんまり焼いていると硬くなってしまうということでした。岩魚の串焼きはふっくらとしておいしく、串以外すべて食べられるもので、槍見館より良く焼けていました。そのほかの串ものは五平餅とじゃがいもで、それぞれほくほくしておいしくいただきました。食前酒は山ぶどう酒で、なつめ、いたどり、わらびなどの山のもの中心の前菜などがあり、メインは飛騨牛の朴葉味噌焼きでした。ほとんどあつあつのものを食べられるのですが、天麩羅だけは冷めていました。冷めていてもからっとした感じだっただけに惜しいと思いました。最後の食事には飛騨牛のお寿司もあり満足できるものでした。デザートはぶどう、柿などの果物の盛り合わせです。途中でご主人が部屋の真ん中で、挨拶をしていましたが、声が届きにくかったのか、内容はあまり印象に残っていません。料理としては前菜のなつめが珍しかったくらいで特に印象に残るものは少ないと思いましたが、部屋自体がやや暗いので、料理を視覚的にも楽しみにくい気がします。それが味の印象に多少影響しているかもしれません。
二日目の夕食は個室の食事処になりました。昨日と同様の台に乗ったお品書きがありましたが、これは素材がしっかり書かれていました。常識的には素材が書かれたこちらの方が正規の食事という気がしますが、昨日は大部屋でみんな同じものを食べていた気がします。ということで今回はどちらが連泊用の食事だか聞き忘れてしまったためよく分かりません。ただ、夕食に関してはそれほど差がないように感じました。やはり囲炉裏を囲んでの食事であることには変わりありません。食前酒はマタタビ酒でちょっとくせのあるものです。この日も串焼きがあり、「アマゴ」「エリンギ」「にゅうかわ豚」の三本でやはり昨日と同様おいしいものでした。その他、行者にんにくや朝鮮人参などを使った前菜、岩魚と卵豆腐のお吸い物、飛騨牛のタタキのお造り、鴨肉の朴葉焼き、鰻や子持ち鮎などが入った蕪釜、どくだみやユキノシタの揚げ物、福地大根のチーズ蒸しなどがあり、メインは飛騨牛のすき焼きでした。ご飯はわさび茶漬けで、デザートはメロンと生クリームの中に果物の小片がいっているものです。この日は個室で部屋も明るかったせいで、料理を目でも楽しむことができました。昨日今日といずれもボリュームたっぷりで満腹になります。全体的においしく、素材もおもしろいものを使っています。ただ、やはり、昨日と同様、これだと感激するようなものはなかった気がします。
朝食はそれぞれ前日の夕食の場所と同じ所でした。一日目は朴葉の上に野菜や茸を載せ卵を落として焼いたものに味噌を混ぜて食べるもの、鮭の焼き物、なめこおろし、山菜、サラダ、大根を使った料理、茶碗蒸し、温泉卵などで、一般の朝定食とは少し趣の異なった印象を与えるものでした。トマトジュースも付いてきておいしいものです。
二日目も一日目と同様、一般的な朝定食とは違った感じのものです。この日の特筆すべきことは、量は少ないのですが飛騨牛の朴葉味噌焼きがあったということでしょう。その他湯豆腐、卵焼き、魚の焼き物、茶碗蒸し、筍の煮物、お浸し、それ以外に小鉢が二つ。囲炉裏の周りに並べられた様子はとても朝食とは思えません。一品一品のボリュームもあり、ビールを頼んだせいもあって食べ切るのに50分もかかってしまいました。トマトジュースは相変わらず付いていて、さらに、この日はオレンジとブドウのデザートもありました。一日目、二日目のどちらが正規の朝食かは分かりませんが、おそらく一日目の方ではないかと思います。
この湯元長座は、大浴場がちょっと薄暗い感じがしたことや、部屋のエアコンが効きすぎであり、換気扇の音がうるさいこと、廊下と障子一枚なので音がつつぬけになること、部屋の壁紙にはがれているところがあること、脱衣場にティッシュがなく、ヘアトニックもないなど、細かく見ると欠点も多々目に付くのですが、旅館全体の時代を感じさせる雰囲気や新しいかわらの湯の快適さ、食事の量が多めで、ボリュームがあるとうれしいという人にはうってつけであることなど、魅力的なところも負けずにあります。

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かつら木の郷は福地の温泉街の最も奥に位置し、大きな門をくぐってこの宿に着いたのは2時20分頃でした。我々が最も早かったらしく、3時頃から順次案内するということで、一番大きなソファーにどっかりと腰を下ろしました。程なく他の客もぽつぽつとやって来て、3時頃にはすでに4組くらいの客が集まっていたでしょうか。来た順に案内されるということで、まず我々の名前が呼ばれました。
案内されたのは大きな門から玄関へと向かう外の小道と併行する、渡り廊下のようなところを行った一番奥、山紫庵という部屋でした。引き戸を開け、板張りの小さな踏み込みを上がって襖を引くと、10畳の部屋が広がり、さらにその先には囲炉裏が切られた四畳半の次の間が控えています。ここがいわゆる広縁に当たるらしく、椅子の代わりに、囲炉裏に座布団が二つ置かれていました。また、10畳の方にはまだ炬燵が据えられていました。端の部屋ですので、角部屋に当たるわけで十畳の和室の入って右側、四畳半の部屋の正面と右側にそれぞれ窓があります。少し高い位置から道路方向を見下ろす感じです。道路に最も近い部屋ということになりますが、周りに木が茂っているので、それほど道路からの覗き込みは意識しないで良さそうです。囲炉裏の部屋の左側に洗面とトイレが向かい合った形に配置されています。トイレはシャワートイレでした。和室の左側に床の間があり、花が活けられていました。ただ花瓶に花があるという状態ではなく、ちゃんと活けられています。クローゼットは、上下フルサイズの一間幅でかなりゆとりのあるものです。この前の仙寿庵もこのくらいのものがあったら、文句なしだったのですが。このかつら木の郷も部屋の落ち着いた感じはかなりいいと思います。
迎え菓子とお茶はロビーで待つ間にいただきました。お菓子はかたりべという小さな変わったお菓子でしたが、部屋での改めてのお茶出しや、迎え菓子などはありませんでした。少し淋しい感じがしましたが、なぜか夕食後、食事処から部屋に戻ってみると福地情話というお菓子が二つ置かれていました。特に何のメッセージも添えられていなかったので、このお菓子の位置づけがよく分かりませんでした。
ここはよくあるタオル地ではない使い捨てのスリッパが用意されていますが、このスリッパが、どういう訳か、素足で履いても暖かさを感じさせるものでした。
お風呂はフロントを間に、この部屋とは反対側にあり、24時間OKで、男女の交替はありません。入り口のところに湧き水を竹の管に通した風情のある水飲み場がありますが、ひしゃくが一つ置いてあるだけなので、あまり飲む気が起こりません。風情を大切にする気持ちも分かりますが、ここは清潔さ、飲みやすさを優先しても良いのではないでしょうか。ちなみに水は冷たくておいしいものでした。
大浴場は木の落ち着いた湯船で、それほど大きくはありませんが、適当に古びていて、ゆったりとした気持ちになれます。大浴場から木の扉を開けて出る形の露天風呂は、広目の湯船の上に巨岩が渡され、その下からお湯が湯船に流れ込んでいるという野趣に富んだものでした。向こう側に行くには、上に植物や土が堆積しているその巨岩の下を首をすくめて通らなければなりません。ぼくは一回しかその巨岩の向こう側には行きませんでしたが、ほかの人はけっこう行っていました。このかつら木の郷はとても秘湯の宿とはいえないようなおしゃれな宿ですが、さすがに内湯を含めてこのお風呂は秘湯の風呂という感じでした。湯温は大浴場がやや高め、露天はやや低めというところでしょうか。大浴場にしろ露天にしろ源泉流しきりのようです。脱衣所に、湯温ポリシーとでも言うべき、季節による、湯温を適温にするための方法をくわしく書いた紙が貼られていました。
食事は個室の食事処に用意され、ちゃんとお品書きがついてきます。食事処の部屋の真ん中には細長く囲炉裏が切られ、料理はその端の木の部分に置かれます。しかも端が高くなっているので、湯元長座のように必要以上に背中を丸めてかがむ必要がないのは助かります。囲炉裏には炭が埋けられ、火を加える料理はすべてこの炭火を使います。槍見館も同じように囲炉裏の食事処でしたが、囲炉裏は低く、しかもガスでしたので、この辺はかつら木の郷の方がいいですね。
囲炉裏には食前酒の梅ワインと、里芋や、くわい、椎茸などを使った6品くらいの盛り合わせである春山前菜が並べられ、火のそばにはあまごの塩焼きの串が刺さっていました。前菜はそれぞれちょっとした工夫のあるもので楽しめました。あまごはおいしかったのですが、少しふわっとした感じに欠け、これは前日の槍見館のあまごに軍配は上がりました。この後、料理は快調なテンポで一品ずつ運ばれ、次は先付けで春里の幸ゼリー寄せというもの、肉の旨みを黄身酢で引き立てたおいしいものでした。続いて、お椀が木くらげ真丈と焼き岩魚のお澄ましで、これは出汁の味と木くらげと焼き岩魚のハーモニーが素晴らしく、絶品のお吸い物でした。続いての敷山芋の川鱒あずき菜和えのお造りはこれがお造り?という凝ったもので、おいしかったとは思いますが、川鱒が奥に引っ込んでしまった感じは免れません。でも、山奥のお造りとしては、一つのあり方かもしれません。ここで、「板さんが敷地内で取ったもので、メニューにはないのですが」と言って仲居さんが持ってきてくれたものが、ふきのとうの天麩羅です。ふきのとうだけが一人二つずつ盛られており、これがとってもおいしいものでした。山菜の揚げ物はだいたいおいしいものと相場が決まっていますが、これは本当においしかったですね。ある意味、次の飛騨牛よりもおいしかったかもしれません。続いてはその飛騨牛の炭火焼、飛騨牛というと朴葉味噌焼きが一般的ですが、今回は前日の槍見館もこのかつら木の郷もそうではありませんでした。ここは網焼きで、網焼きも飛騨牛のおいしさに変わりはなく、その濃厚な味を堪能しました。肉の質としては前日の槍見館より勝っていたと思います。続いての、冷物はわらびと笹身の煮こごり湯葉クリーム添え、飛騨牛を食べた後を、さっぱりした湯葉の味で落ち着かせます。これもおいしいものです。最後の温物がサクサク蓬団子と焼き筍のあんかけ。まさにサクサクという食感で、焼き筍もえぐみのない非常においしいものでした。さらに五平餅も持ってきてくれます。ごはんは春キャベツのごはんという、春キャベツをお米と一緒に炊き込んだめずらしいもので、キャベツの甘味がごはんによく移っていました。デザートはサワーゼリー苺ソースがけでしたが、このデザートは少々インパクトに欠けたように思います。食事は全体的にテンポ良く、内容も非常に満足できるものでした。ただ、特別出演の蕗の薹があったから余計評価が高くなったということもあると思います。
朝食も同じ場所です。お約束の朴葉味噌、味噌汁代わりの田舎汁、煮物などが各種載せられたお皿、温泉卵入りのよもぎ蕎麦、鮎の一夜干、厚揚げ、トマトジュース、苺とパイナップルのデザート、というラインナップでした。田舎汁は具沢山で、あまり辛くないまろやかな味のおいしいもので、煮物などのお皿もそれぞれおいしかったと思います。ただ、ここでも鮎が自分で焼いたせいか、前日の槍見館に比べて今一の印象でした。しかし、食事に関しては夕食・朝食と総合的に見て、かなり高い評価をしてもいいと思います。
部屋もなかなか、お風呂もなかなか、食事もなかなかでかなり満足度の高い宿だと思います。着いた時のロビーでのみなさんの話が聞くともなく耳に入ってきましたが、かなりいろいろな宿に泊まっている人が集まっているようだし、出る時には感激している人もいました。ぼくも普通に何事もなくやって来て過ごしたなら同じような好印象を持って帰っていったと思います。
実は、ここにチェックインするまで次のようないきさつがありました。
前日の槍見館をチェックアウトしたのは10時で、この前と同様に新穂高ロープウェーに乗ろうかと、槍見館の車でロープウェーのところまで送ってもらったのです。でも、晴れてはいるが、ブルースカイではなく、とりあえず福地に行ってしまおうと、確か11時半ころのバスで福地温泉へ向かうことにしました。乗る予定のバスは福地温泉の中まで入らず、温泉口という少し離れたバス停にしか止まらないので、まず迎えに来てもらい、宿に荷物を置かせてもらって、チェックイン時間近くまで温泉街をぶらぶらしていよう、ということで宿に電話をしました。出たのは女性でしたが、事情を話すと困惑した感じでした。どうも人がいないらしく、迎えに来られない様子でしたが、ちょっと待ってくださいということで、だれかに頼んだらしく、ようやくOKの返事をくれました。ただ、その時、早めに宿に入ることはできない、宿に誰もいなくなる、というような内容のことを言われました。早めに宿に入ることができないのは仕方ない、あるいは当たり前としても、宿に誰もいなくなるというのは大いに疑問でした。この段階で、ぼくはこの宿はメインのスタッフが女将さんとご主人の二人ぐらいしかいない満山荘型の小ぢんまりとした宿なんだろうなと思っていました。
バスが福地温泉口に着くと、すでに男性が待っていて、荷物を預かるように言われたんですがと話しかけてきました。いや、そうじゃなくてぼくたちも一緒に乗せてもらうんですというと、ああ、そういうことですかということで、車に乗せてもらいました。その、他人事のような口調から、宿には迎えに来られる人が誰もいないので、誰か知り合いにでも頼んだのだろうと思いました。ところが、前回福地温泉に来て、足湯を探したんだけど見つからなかった、食事をするところもなかった、などの話をしているうちに、その応対からもしやと思い、その迎えの人に、あなたはかつら木の郷のご主人ですかと聞いてみました。このカンは見事に当たり、そうですということでした。しかし、主人にしてはあまりにも対応が他人事の感じです。
女房の体調が今一なので、部屋まではもちろん入れなくて構わないが、ロビーには何時ごろ入れるかと聞いてみると、2時くらいには入れるが、掃除をしているのでうるさい、という返事でした。は〜、2時にまだロビーの掃除をしている宿ですか、という感じです。12時からその2時まで時間をつぶさなければならないわけですが、体調が今一の人間がどういう風に、その2時までこの福地温泉で過ごしたらいいか、などの気配り、アドバイスは一切ありませんでした。ぼくが考えるに、立派な一軒家である足湯の「舎湯」でくつろぐのが一番いいと思うのですが、そのことにも一切触れません。前回来た時に、足湯がどこにあるのか分からなかったという会話の時にも、「そうですね、分かりづらいですね」といった返事だけで、どの辺にある、どんな建物なのかという説明もなく、道の右側でしたっけというぼくの重ねての質問に、そうです、と答えてくれただけでした。
結局、舎湯に一人だけ女房を残して温泉街を歩き回って時間をつぶし、もう一度宿に向かいました。やはりぼくたちが一番乗りで、ロビーの掃除は終わったらしく、ひっそりとしていました。まだ、少人数でやっている宿だと思い込んでいるぼくは、出てきて応対してくれた女性に「女将さんですか」と聞いてしまいましたが、違うということです。この後分かりましたが、満山荘とは大違いで従業員は何人もいるようでした。後から来た人が従業員に、電話をしたけれど出なかった、ということを言っていたので、やはり本当に従業員が誰もいなくなる時間があったようです。それが日常のことなのか、たまたまこの日だけのことなのか分かりませんでしたが・・
先にも述べたように「部屋もなかなか、お風呂もなかなか、食事もなかなかでかなり満足度の高い宿」であることには違いありません。また、おそらくぼくたちのように、普段とは違う、何か突発的な出来事でも起こらないかぎり、ほころびを見せることはないのでしょう。
okiesさんも含めて、この宿にいい印象しか持たなかった多くの人にとってはおそらくまた行きたい宿であるに違いないと思います。しかし、このかつら木の郷の主人にもてなしの気持ちがあるのかは、はなはだ疑問で、ぼくはこの宿をもろ手を挙げて大絶賛する気持ちは持てません。
ただ、そうはいっても、とりあえず主人と顔を合わせず、普通にインさえすれば、ぼくにとって、第三回ご招待の宿の候補になるだろうということもまた、事実なのです。

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今回の山陰旅行のメインは鳥取砂丘で、神在月さんから鳥取砂丘に最も近いのは岩井温泉ではないかという情報を仕入れ、岩井温泉から少しずつ西に移動していくという宿泊プランを立てました。岩井温泉については「岩井屋」という旅館が、旅館系のでびーさんのレポでも絶賛されていましたし、秘湯を守る会の宿でもあり、さらにJTBの満足度90点以上の宿にも入ったことがあるので即決定となりました。宿に電話すると、位置としては鳥取空港と岩井屋のちょうど中間あたりに鳥取砂丘があり、砂丘観光にはそんなに時間は要らない、ということだったし、翌日が雨で当日が晴れという天気予報もあり、砂丘は出発当日に見てしまうことにしました。
鳥取空港からタクシーで鳥取砂丘に向かい、砂丘の観光後、待っていてもらったタクシーを飛ばして、宿に着いたのは2時40分頃でした。すぐに従業員が出てきて、トランクから荷物などを運んでくれました。小さいけれど落ち着きのあるロビーがあり、全館畳が敷きつめられて、スリッパはありません。全館畳の旅館は久しぶりです。ロビーでのお茶などはなく、早速部屋に案内されました。
木造三階建ての建物で、通されたのは二階の端の「さつき」という部屋でした。10畳の主室に6畳の次の間がある広い部屋で、ドアのところにあった案内図を見ると、旅館の中でも広めの部屋だったようです。ドアを開けると、すぐ畳廊下があり、入った右側にトイレがあります。ここは窓付きでシャワートイレでした。畳廊下の左側には冷蔵庫と洗面所が並んでいます。その廊下に面して右側の部屋が次の間で左側が主室という割と単純な造りになっています。この次の間にも大きな障子窓があり、宿のフロント前にある坪庭を眺めることができます。ただし、他の部屋からも向かい合っている構造なので、ほとんどこの窓は開けませんでした。古い木造の建物ですが、部屋の中はそれほど凝った造りという訳でもありません。後で分かったことですが、隣や階上からの音はけっこうよく響き、声なども内容は分からないながら、もれ聞こえてきます。
床の間には花が活けられていましたが、真ん中にテレビがでんと座っていました。浴衣のサイズの気づかいはありました。昆布茶が出され、迎え菓子は20世紀梨を使った平たい形のゼリー菓子で、夕食後にはとっとり夢おこしというお菓子が出されました。このお菓子に関してはあまり記憶がないのですが、いわゆる雷おこしのようなものではありません。主室の窓側は三畳大の広縁で、窓からは「いなば温泉郷 岩井温泉」というかわいらしいゲートや、目の前の花屋という旅館の手入れされた玄関、その左の雑貨屋などが見えました。この温泉街の眺めはなかなか情緒があるように思えました。しかし、温泉街のように見えるのはこの辺りだけで、旅館も三軒しかないということです。翌日ぶらりと歩いてみたのですが、その通りで、かなりの歴史がある温泉にもかかわらず、本当に小さな温泉地でした。なんでも昔、大火があったらしく、それ以降寂れてしまったということでした。
お風呂は最初女性用の「源泉長寿の湯」と男性用の「祝いの湯」の二つが夜の8時を境に交替し、24時間入ることができます。最初男性用の「祝いの湯」はこの何年か前に出来たばかりで、女将さんの話によると、ご主人が亡くなる前にベッドで最後までこの「祝いの湯」の設計?に心を砕いていたようです。
そのご主人の思いのこもった浴場はレトロモダンという感じで、ししおどしが隅で規則正しい音を立て、ステンドグラスの細長い小窓が湯面に映える、天井の高い落ち着いた浴場でした。四角い湯船の真ん中がさらに四角く深くなって足下のすのこから時折小さな泡が上がってきます。足下からお湯が湧いているそうです。浴槽自体はあまり大きくないので、混んでいる時は楽しめないでしょうが、空いている時はのんびりと時を過ごすことができるいいお風呂です。風通しがよく、湯気がまったくこもっていないのもぼくにとっては好印象でした。
初め女性用の源泉長寿の湯もこの祝いの湯と同じような感じで、ステンドグラスもありましたが、湯船の広さは祝いの湯の二倍くらいあったとおもいます。やはり内側が深くなっていて足下からお湯が湧いています。ただ、祝いの湯ほど気泡は立ち上がってこない感じでした。こちらも湯気がこもらず、いつまでも入っていることができます。ここは源泉長寿の湯とは反対側の上の段に露天風呂がついているのですが、周りをすっかり囲まれていて開放感がほとんどないことや、湯気が全くこもらない内湯でも十分気持ちがいいこと、それに、多分露天は足下湧出ではないだろうということで、あまり露天のメリットが感じられず、ほとんど入ることはありませんでした。
お湯は両方とも適温で、無味無臭。湯の花はなく、仲居さんによると虫刺されにも効くということでした。効能としては珍しいですね。
浴室の外の廊下に湯上りの冷たい麦茶が用意され、久しぶりにキレのいい、おいしい麦茶を飲むことができました。
夕食は部屋のすぐ近くにある個室の食事どころでしたが、部屋によっては部屋出しの場合もあるようです。お品書きはあったのですが、説明はありませんでした。まず多くの料理がテーブルに並べられ、ご飯以外の後出しが四品という構成です。メインとなるのが但馬牛のミニステーキで、これは初めからテーブルにあり、こちらの好きな時に自分で火をつけるという形式で、これなら本当に食べたい時に食べられるので好都合です。食前酒はなく、前菜の白ニシ、こごみ、明太帆立、銀杏、蓮根の揚げ物、いくら寿司など八品と、中付けの胡麻豆腐、酢の物の松葉ガニ、茄子・紅芋饅頭・筍・こしあぶらの煮物が並べられていました。すぐ後から勘八、平目、鮪、白烏賊の刺身と、しばらくして、もさ海老と三つ葉と蕗と蛍烏賊の揚げ物、甘鯛を桜の葉で包んだ焼き物、い貝を土瓶蒸しにしたものが順に運ばれてきました。みんな非常においしくいただきました。新鮮な魚はもちろん、濃厚な胡麻豆腐、もさ海老と蛍烏賊の揚げ物が特に印象に残りました。料理長は東京の八芳園にいたらしいことを仲居さんが教えてくれました。運び方もテンポよく進み、中だるみもせずに申し分ありません。非常に満足しました。デザートはわらび餅と苺で残念ながらこれはそれほどのインパクトはありませんでした。
食事の後半に女将さんが挨拶に来て、いろいろ話をしてくれました。仲居さんによると全室を回っているとのことですが、帰った後でのでびーさんの話ではでびーさんが泊まった時は来なかったということでした。とにかく、女将さんの挨拶というと形式のみで、すぐに立ち去ろうという女将もいますが、ここの女将さんはかなり長い間話に付き合ってくれました。秘湯の宿に加入してから、遠方からのお客さんが増えたことや、ご招待でこの岩井屋を選ぶ人も少なからずいるなどということも教えてくれました。
朝食も同じ場所です。温泉卵、山菜とがんもどきの煮浸し、ちくわともろみ味噌、魚が鯖のみりん干し、湯豆腐、グレープフルーツジュース、というランナップで、ボリュームはそれほどありませんが、バランスの取れたおいしい朝食だといえます。
この宿の唯一の欠点が、階上や隣の部屋の音がよく通ってしまうこと。お風呂や食事は申し分ありません。女将の気配りも行き届いています。
この岩井温泉は山陰の温泉の中でもかなり古い歴史を持つようで、一時期は相当発展していたらしいのですが、今は旅館は三軒だけ、本当にひっそりした温泉になってしまいました。チェックアウトの後、昼食を駅近くで取ったのですが、食後トイレに立った女房はそのトイレにかなりのカルチャーショックを受けた様子です。そんなこれといって競い合うライバルのいない、ひなびた地域の中で旅館としてのレベルの高さを保ち続けるのは大変なことだと思いますが、今の心意気をわすれずに頑張ってほしい宿です。
 
二泊目は三朝温泉の旅館大橋。三朝温泉は斉木別館を初め、いい宿が多いらしいのですが、ここは何といってもokiesさんの追っかけで、旅館大橋に決めました。もちろん、JTBの満足度90点以上の宿に入ったことがあるということも、重要なポイントです。旅館を決めてから、旅館系のでびーさんも宿泊していたことが分かりました。やはり評価は高かったようです。
ここは倉吉駅から送迎をしてくれるのがうれしいところです。インターネットで申し込んだのですが、駅への到着時間が分かり次第ご連絡くださいとのコメントが添えられて、確認のメールが帰ってきました。電話をすると非常に対応のいい人が出て、到着した時に分かったのですが、この人はこの宿の支配人ということでした。チェックアウト時の対応からも、ただ調子がいいだけではない、こちらの立場に立って考えることの出来る人だと感じました。
旅館大橋は前泊の岩井屋と同じく木造の三階建てです。ただし、外観・内装などの凝った造りは岩井屋よりもずっと重厚さを感じさせます。この建物は国定有形文化財に指定されているということで、それもうなずける立派なものです。翌朝、この旅館全体が見渡せる対岸の遊歩道を散歩しましたが、旅館全体の姿も統一された美しいものでした。
迎えの車で旅館に到着したのは2時15分ごろ。三徳川(三朝川)に面した景色のいいロビーで抹茶と迎え菓子である二十世紀梨味のわらび餅をいただきます。そのあと、すぐに部屋へ案内してくれました。この旅館大橋のお風呂は建物の端と端の二箇所に分かれているのですが、今回泊まったのはその露天風呂側の端に最も近い百合という部屋でした。
ドアを開けると半畳ほどの狭いスリッパを脱ぐスペースがあり、体を半分入れたまま仕切りの襖を開け、二畳の控えの間に脱いだ足を入れる感じです。この二畳は襖が立てられているので、控えの間と呼びましたが、実質的には踏み込みですね。さらにその控えの間の襖を開け、奥へ進むと六畳の主室に続いています。部屋は六畳と非常に狭いのですが、ちょうど一畳大の立派な床の間もあり、床の間の脇壁といい、天井といい、室内の造作もかなり凝ったもので、非常にいい感じです。昨日と同様に二階なのですが、岩井屋のように上や隣の物音が聞こえるということもありませんでした。部屋の畳の上にテレビや文机も置かれ、場所をとっているのですが、広縁は3畳大で立派な椅子も置かれゆったりした感じを受けます。トイレは広縁側にあり、洗面も広縁に付いているという、昔ながらの構造です。ただ、シャワートイレであるなど、不便はありません。
床の間と広縁の境の壁に小さな障子がしつらえられ、その障子の前にあでやかな花が活けられていました。部屋でのお茶出しはありませんが、部屋には栃の実煎餅と三種類の珍味のお茶請けが用意されていて、いずれもおいしいものでした。窓からはロビーと同じように三徳川の流れと、それから、ちょうど部屋の真向かいの対岸に祀られたお地蔵様が目に入ります。ただ、風呂に一番近い部屋なので窓の右方向は、露天の屋根などに視界をさえぎられてしまっています。結構離れているとはいえ、対岸からの覗き込みはあり、着替える時などは障子を閉める必要はありますが、全体的には落ち着いた好ましい印象の部屋でした。
両端に分かれている風呂のうち、部屋に近い側に、大浴場の一つである「ふくべの湯」それに独立した露天風呂、さらに有料の家族風呂がかたまっていて、ふくべの湯と露天風呂は夜の九時にもう一方の端にある岩窟の湯と交替になります。最初はふくべの湯と露天風呂が男性用でした。ふくべの湯はその名の通りひょうたん型で、大きい円と小さい円の浴槽がつながった明るいお風呂です。やや温めですが、大きい円よりも小さい円の方がやや温度が高いようでした。窓の外の三徳川沿いのところに出ることができ、そこには湯温の低い寝湯があります。一人用なので長い間独占していると顰蹙ですが、湯温が体温程度しかないので、ぬる湯好きの人にはいいかもしれません。露天はせっかく三徳川の川沿いに作られているのですが、覗き込み防止のための囲いが高くはりめぐらされ、景色は全く見えません。ただ、露天の岩をあがった上のほうにラドン泉の特徴を生かしたミストサウナのような部屋が作られ、その入り口辺りからは景色を眺めることができます。ただ、それは対岸からも見えてしまうということで、女性はこのミストサウナは夜しか利用できないでしょう。湯温はやや温めといったところでしょうか。
ここの名物は岩窟の湯でとにかくワイルドな感じの岩風呂です。上の湯、中の湯、下の湯という三種類の自然のままの浴槽に分かれ、岩のでこぼこした中から気泡と共に、新鮮なお湯が湧きあがってきます。中の湯と下の湯がラジウム泉、上の湯がトリウム泉でこのトリウム泉はトリウムの含有量が世界一とのことでした。湯温も上の湯が一番高く、中・下の順に下がるようです。この浴槽のワイルドさもなかなかなのですが、ちゃんと体を洗う洗い場も何ヶ所か作られていて、洗った後の石鹸水は岩の割れ目に流れ込むという何ともワイルド感あふれる造りになっていました。ただ、その後の石鹸水はどうなっちゃうんだろうと、ちょっと気になりましたが、まあ、当然考えられているのだろうと思います。温泉の効き目について、ぼくは特には感じなかったのですが、普段はほとんど汗をかかない女房も、ここばかりは汗をかいたということで、温泉効果を実感して気に入ったようでした。
食事は朝夕とも部屋で出されます。風呂から帰ってくるとすでにテーブルに薄い水色のテーブルクロスがかけられていました。久々にテーブルクロスの法則を思い出しましたが、確かあれは白いテーブルクロスの法則だったなと思い直しました。お品書きはなく、特に仲居さんの説明もありません。せめて説明だけでもしっかりしてほしいと感じました。まず、テーブルには食前酒のヤマモモ酒と前菜の粽、むかご、明太子蓮根、海老、ほたるいかなどの九種盛りが並べられました。特にこのほたるいかは絶品でしたが、それに限らずどれもおいしいものでした。続いて一品ずつ運ばれます。まずおろしステーキという牛肉や大根おろし、グレープフルーツ?などを陶板で焼いたもの。ボリュームがあり、味も満足できます。続いてのお椀物もおいしいものでした。その次がお造りに当たる、平目の焼き霜造りでこの旅館の売りの料理だと思われます。焼いた石に平目の造りを乗せ、軽く焼いていただく、焼きしゃぶといった感じのものです。小さな平目ですが、頭も尾も一緒に出されましたので、おそらく二人で一尾だったのだと思われます。食べ応えのあるおいしいものでした。続いてが、栃餅入りの茶碗蒸し。栃の味のしっかりした栃餅が入っています。栃のクセの強さを感じさせる直前のところで止めておいたという絶妙なところにぼくは満足しました。これも食べ応えがあります。続いて、自然薯の包み揚げでこれも絶品という他ありません。最後の鴨と魚の焼き物も文句はなく、白いご飯につく赤だしもいい味をだしていました。後一品ぐらい食べてみたいと思いましたが、一品ずつのボリュームはあり、満腹感は十分感じられます。どれも、これは食べたことがあるという平凡な献立ではなく、工夫の凝らされた料理で、楽しみながらおいしく食べることができます。デザートはスイカをサイコロ型に切った単純なものですが、このスイカにもちょっとした工夫がありました。ただ、ぼくとしてはデザートにももう少し凝ったものが欲しかった気がしました。
朝食は魚が鮭で、脇に塩辛のようなものがあります。岩のり、しらすおろし、ちくわ、蓮根、こんにゃく、たらこの六品が前菜のように細長い皿に少しずつ乗せられたもの。湯葉?が入った小鉢と焼き海苔。鮪づけ山芋。温泉卵。そば。ところてん入り茶碗蒸し。というこれも一般的な朝食とは一味ちがう食事をおいしく味わうことができて、やはり満足しました。
料理長の知久馬惣一さんは3年前に現代の名工に選ばれた人で、今年黄綬褒章を受章したということです。久しぶりに、料理を味わいにだけでももう一度行きたい旅館となりました。
この旅館大橋は、国定有形文化財の建物と意匠の凝らされた部屋、底からお湯が湧き出る自然のままの岩窟の湯、現代の名工の作る工夫の凝らされたおいしい食事と、自慢できるものが三つも揃った類まれなる宿と言っていいでしょう。しかも、駅からの送迎があり、気配りのある支配人がいるというサービス面に加え、料金は至極リーズナブルということで言うことがありません。岩井屋とはまたちがい、これは三朝温泉という名旅館のそろった中で磨きあっての結果なのでしょうか。
ただ、ぼくが泊まった限りでは特に不満な点はなかったのですが、仲居さんの一人がまだ若く不慣れであったこと、布団を敷きに来たのが高校生のバイト?と思われるようなキャピキャピ3人娘で、態度は全然悪くなかったのですが、この旅館には不釣合いの若さあふれる感じに違和感を持ったこと、などがありました。また、でびーさんや他の人にも気になる点がいくつもあったようです。
どうか、客の苦言の一つ一つに誠実に対処し、日本が誇る宿の一つになれるよう、いっそう磨きをかけていって欲しいと願う、そういう宿です。
 
三泊目はまた列車で一時間ほど西進して米子駅に行き、そこからバスで皆生温泉に向かいます。山陰というと、ぼくの中では三朝と皆生と玉造がビッグ3で、今回はその三つの温泉に入ることも懸案でしたが、残念ながら玉造は事情により変更になってしまいました。皆生はどこにしようと思ったのですが、持っている何年か分の「満足度90点以上の宿」という本の、適当に取り出した一冊に「皆生菊乃家」という旅館が載っていて、皆生温泉は結構大規模旅館が多い中では客室数がまだ少ない方の旅館だったので、そこに決めたのです。
旅館はバス停からあまり離れていないようで、まあ降りれば何とかなるだろうと思っていたのですが、バス停は観光案内所の近くだったので、ついでに道を聞こうと中に入り、尋ねると、迎えに来てもらいましょうと、案内所の人が旅館に電話をかけてくれました。
若い女性が迎えに来てくれ、宿に着いたのは1時少し過ぎだったでしょうか。皆生温泉は日本海に面した温泉地で、この宿はロビーからすぐ先の砂浜を見渡すことができます。天気も良かったので、砂浜を少し散歩しようということで、しばらく歩き、宿に戻ったのが2時くらいでした。ロビーで梅昆布茶をいただき、すぐに部屋に案内されました。
部屋は403号室の「福寿海」というところでした。引き戸タイプのドアを開けると広目の玄関と二畳大の板の間の踏み込みがあります。上がって左にトイレがあり、シャワートイレでした。踏み込みの右には広目の洗面があり、その隣が風呂になっています。踏み込みの正面の和室が10畳で、その先に2.5畳大の畳の広縁が続いて和室用の椅子が置かれています。明るい部屋で、全面に大きく取ったガラス窓からは穏やかな日本海と、水平線のやや下に一列に並ぶ波消しブロック、そして、波消しブロックの手前の銀杏の葉を逆さにしたような砂浜、ただそれだけが見えます。この日の青空が一段と映える、非常にいい眺めの部屋です。左前方には島根半島も見えるらしいのですが、晴れてはいるものの、この日は黄砂ということで見えませんでした。この部屋の景色の素晴らしいところは、どうもこの窓が真北を向いているのではないかと単純なぼくは考えるのですが、この日沈む夕日が窓の左側に見え、翌日の朝日が窓の右側に見えたことです。季節にもよると思いますが、角部屋でもないのに、海に面したただ一面しかない窓から、朝日も夕日も見えるというのは珍しいのではないでしょうか。これだけでも眺望の評価は特Aになります。太陽が窓の反対側を回ってくるため、西日にしても朝日にしても部屋の中まで深く差し込まないのも非常にいい点です。二月に行った茨城の山水館は朝日か深く差し込み、二月とはいえかなり暑い思いをしました。この菊乃家で北向きの窓の思わぬメリットを初めて知りました。
一昨日の岩井屋、昨日の旅館大橋といった、純和風の古い建物の落ち着いた部屋とは様変わりの部屋で、最初は薄っぺらな印象を受けたのですが、しばらくしたら、この屈託のない明るい部屋もそれはそれでいいものだと感じられ始めました。
花は玄関脇の靴入れの上と床の間の二ヶ所に活けられていました。フロントで昆布茶を飲んだのですが、部屋で改めてのお茶出しがあり、迎え菓子の酒饅頭をいただきました。さらに、後で係の仲居さんが挨拶に来て、「いなばの白兎」と抹茶を出してくれました。ただ、お風呂にずっと行っていたため、この仲居さんの挨拶を受けたのは5時近くだったので、ぼくの「いなばの白兎」は夕食後のデザートへと回りました。ただ、フロントで昆布茶を飲んだときも、部屋に着いてお茶を入れてもらったときもお絞りが無かったのはちょっと残念です。どちらかではおしぼりが欲しいところです。また、浴衣の気づかいも無く、結局、後でサイズ違いを持ってきてもらいました。さらに、ここもインターフォンが床の間に置かれていました。しかし、部屋のキーは二本あり、いつも書いていますが、これはいつでも好きな時にそれぞれがお風呂に行けるので非常にありがたく、評価したいと思います。
お風呂は男性が一階、女性が二階のそれぞれ海側にあり男女交代はありません。入浴は夜中の一時まで可能です。海に面したお風呂は高層階にあるのが一般的だと思いますが、ここは一階と二階なので眺めはあまり良くありません。大浴場は海に臨む窓側に湯船があり、明るく湯船も割りと広めでゆったりしています。露天は大浴場からさらに海側に出る形ですが、一階ですので周りをすっかり囲まれているため、浴槽の外で立ち上がらないと海が見られませんし、そうすると外の道を歩いている人と目が合ってしまう可能性がある、いただけない状況です。
風呂場にある掲示によると、お湯は源泉の温度が高いため加水しているものの大浴場も露天も流し切りであり、循環ろ過はしていないそうです。泉質は塩辛くけっこう苦味がある感じでした。
脱衣所にはフェイスタオルが自由に使えるように置かれていました。また、名水百選に選ばれたという「天の真名井」という天然水が入った冷水機が設置されていました。おいしい水でした。
食事は部屋でいただきました。お品書きはありませんでしたが、説明はありました。思い出すままに並べると、食前酒の梅酒。牛肉のしゃぶしゃぶ、すずきの薄造り。もずく酢。前菜7点盛り(蛸、蟹の煮こごり、サーモン巻き他)。先付けの車海老の焼き物、鯛の白子、鴨肉? 炊き合わせ。茶碗蒸し、お造りの地鰤、め鯛、甘海老、アオリイカ、ニシガイなどでした。大体においておいしいと思います。特にすずきの薄作りやお造りはさすがに鮮度がよく、とてもおいしいものでした。しかし、全体的には前泊の旅館大橋ほどのインパクトはありません。デザートはキーウイ、洋ナシ、うりの組み合わせでした。
ただ、岩井屋や旅館大橋よりもほんの少し高い料金の割には、最初にほとんどの料理を持って来てしまう形で、あとから出されたのはお造りと茶碗蒸し、それからご飯やデザート関係のもののみで、この辺が非常に残念に思いました。一品一品丁寧に出されたら、食事の印象はより一層よくなったと思われます。
朝食も部屋で、魚ははたはたの一夜干でした。しかも一人二尾ずつ付きます。これが脂が乗っていてなんとも絶品でした。はたはたは以前秋田に行ったときに花心亭しらはまで初めて食べたのですが、意外と硬くてごりごりした食感に懲りて、こんなものかと思っていました。ですから、魚がはたはたと知った時にはがっかりしたのです。しかし、今回は全然違って、旨みが力強く感じられる、非常においしいものでした。その他、魚の皿の脇に竹輪。野菜の煮物。ひじき。イカソーメン。卵焼き。海苔。湯豆腐というラインナップでした。デザートはオレンジで、飲むヨーグルトもついていました。定番の朝食といえますがおいしく全体的に好印象でした。
ここは毎晩ロビーでフルートのコンサートを行っています。フロント担当の従業員がフルートのプロの演奏家でもあるらしいのです。このことは行ってみて初めて知ったのですが、夕食後に思わぬ楽しみを得ることができました。詳しいことはよく分かりませんが、この人がバス停まで送りの車を運転してくれた短い時間に少し話したところ、夏などはヨーロッパへ教えに行くということでした。
夕食時に、仲居さんに女将の話題を出したのですが、今日は女将は留守にしていていないけれど、若女将ならチェックアウトの時にいるだろうということでした。チェックアウトの時にこちらはすっかりその話題を忘れていましたが、若女将の方から声をかけてくれました。仲居さんの話によると、まだ結婚はしていないものの若女将見習いとしてすでに活躍中のようです。HPに出ている写真とは少し印象は違うのですが、いずれにせよ明るく清楚な感じのする女性で、ほんの一言二言しか話しませんでしたが非常に好印象を持ちました。
皆生温泉自体が今どういう状況なのかよく知りませんが、朝日と夕日の両方が見られる、見はるかす大海原の景色、流し切りの温泉、おいしい海の幸、ここに更なる工夫と努力を加えて、一層発展していくよう若女将にエールを送りたいと思います。
 
いよいよ山陰も四泊目になります。
米子に戻ってさらに列車で西進。松江からタクシーに乗り大橋館へと向かいました。
大橋館はJTBの満足度90点以上の宿の常連で、今回、この日までに訪ねた三つの旅館が90点以上に入ったり外れたりしているのに対して、毎年のように名を連ねていることや、ネットで見てみるとその90点以上の中でも今年は上位に位置していそうな感じで非常に興味があったのです。一時は神在月さんが玉造温泉の方がお勧めということで、佳翠苑皆美にしようと思ったのですが、なぜかこの日だけが満室で、これも何かの縁かと思って大橋館に決定したのでした。ただし、パンフレットを見た感じや、電話で問合せた感じではあまり満足度90点という印象を受けないのが不思議でした。
松江大橋近くにある大橋館に荷物を預けて、すぐ近くのみな美で鯛めしを食べ、宍道湖から松江城へと歩いた後、堀川めぐりをして、また大橋館に戻ったら時間はちょうどチェックインの3時を10分程度回ったところでした。
ロビーで抹茶と出雲三昧という落雁や餡などを三層に重ねた非常においしい迎え菓子をいただき、さすが松江と感じ入った後、部屋へと案内されました。
部屋は5階の502号室「かえで」という部屋でした。大橋館は建物によって6階が最上階の場合もあるのですが、「かえで」のある建物ではこの階が最上階でした。ドアを開け、中に入ると黒タイルの玄関に二畳大の板の間の踏み込み、上がった右側突き当りに洗面とその左が狭目の風呂で、風呂の手前にあるトイレはシャワートイレです。踏み込みの正面にふすまが立てられ、開けると十畳の和室、さらにその先の窓側に二畳半ぐらいの広縁があります。冷蔵庫は広縁の端という古いタイプの部屋です。窓からは目の前の大橋川をたどって、すぐ右下に松江大橋、さらに宍道湖大橋と続き、その先の宍道湖まで一望の下に見渡せる、前日の皆生海岸とはまたちがった眺めのいい風景が広がっています。この景色をボーっと眺めているのも良さそうです。
ただ、部屋の造作が本当に類型的な感じでありかつ古いという、これといった特徴や感激する要素がないこと、さらに部屋でのお茶出しがないなど、まず部屋に入った段階で満足度90点以上という香りはさっぱり漂ってきません。また、タオルを入れる巾着ポーチが付いていないのも意外でした。もちろん湯上り足袋もありません。ただし、花は玄関の靴箱の上と床の間に活けられ、また、浴衣の気づかいはありました。
お風呂に関しては通常は3時から入れるはずですが、どうした事情からか「今日は4時から」と告げられました。理由の説明はありません。どうせ露天もないし、チェックインした時間もいつもほどは早くないということで、別に4時でもかまわないのですが、理由も言わず恐縮もせずただ事務的な感じで一方的に告げられるのは納得がいきません。
そのお風呂ですが、今述べたように露天がなく、また、地下一階にあるのがここの特徴です。時間は24時までで翌朝男女交替となります。この大浴場も古いタイル張りで、昔ながらの大浴場という印象です。浴槽は広く10人くらい入れそうでした。洗い場の一つ一つも広めに取られ、隣との仕切りが設けられているので、ゆったりと体を洗うことはできます。地下にあるのですが、窓なしで真っ暗というわけではなく、一面だけ明り取りの窓に沿って、一メートルくらいの幅で上から掘り下げられ、上から光が下りてくる仕組みになっています。そこに植物なども植えられていて、光や植物のおかげで地下の閉塞感はあまり感じられません。こうするだけで大分印象が違います。脱衣場にはハンドタオルが用意されていました。
お湯は適温で、季節によって加温しているようです。表示によると塩素消毒をしているらしいのですが塩素臭はしませんでした。さらに表示によると循環ろ過と放流循環を併用しているとのことでした。
ここは長いカウンターに座って川の流れを眺められる湯上りの部屋が別にあり、ウーロン茶か玄米茶を飲むことができます。ただ、特別にそのために係の人が付いているわけではなく、自分で勝手に部屋に入って冷水機から注いで飲むのです。この湯上り処は確か4時からだということでしたが、この日のお風呂の開始時間、4時ちょうどに風呂に出かけたぼくは風呂に入る前に、湯上りの部屋ってどんな感じなんだろうと、ちょっと覗いてみたのですが、4時を過ぎているのに従業員の一人がまだ昼寝をしていました。
お風呂から上がると、一階のロビーのところでお琴の演奏をしていました。ちょうどそこにいた女将らしき人と一言二言、言葉を交わしたのですが、毎日4時半から7時まではお琴を演奏するということでした。
夕食は部屋です。普通は部屋での食事となると、テーブルに置かれていた旅館の説明書やパンフレットなど種々のものがきれいに片付けられ、さらに丁寧なところだとテーブルクロスが敷かれます。しかし、ここでは説明書等はテーブルの隅に片寄せられただけでした。自分で部屋の隅に持って行きましたが、これは常識を疑います。
夕食はお品書きはなく、詳しい説明もありません。食前酒は付かず、先付けの野菜と海の物の和え物三種と前菜の鴨ロースト初め五種が懐石盆に並べられ、島根牛のしゃぶしゃぶが盆の外に用意されます。この後は一品ずつ運ばれ、まず甘海老、かんぱち?帆立、イカのお造り。続いて、茶碗蒸し。次に、すずきの奉書焼でこれはおいしいものでした。さらに続いたのどぐろの煮付けもおいしくいただけましたが、ただ若干味が濃いかなと思いました。その後が蕎麦寿司で、蜆汁の食事と続きます。デザートはパイナップルとブドウでした。やはり海のものがおいしく、全体的に満足のいくものでしたが、冴えやキレといったものは感じられませんでした。
朝食は食事処に変わります。野菜のふくめ煮。ひじき。ちくわなど三種類の入った容器。海苔。ぶりの照り焼き。イカ刺し。カニサラダ。以上が一つの盆に盛られて出されます。ホテルの和定食のような感じです。卵を使ったものがなく、またぶりの照り焼きはやはり味が濃い目でした。まあおいしいとは思いますが、特にこれといった印象はありません。デザートはオレンジでした。
この大橋館は今回旅行した山陰の四つの旅館の中では最も評価できない宿でした。風呂の開始時間に関すること、湯上り処に関すること、夕食時のテーブルに関することが評価できない大きな要因ですが、それ以外にも書いたように気になるところがいくつもあります。JTBの満足度90点以上の宿に入っていることに大いなる疑問を抱かざるを得ない宿が過去にいくつもありましたが、ここもそうでした。夕食の時に仲居さんにJTBの満足度90点以上に入っているという話題を出すと、やはりがっかりするお客さんがいるということでした。確かに部屋やポーチのことで到着した途端にがっかりするだろうなと思いました。JTBを通すといい部屋が取れるようですが、その部屋はどうなんでしょう。見たわけではありませんが、そんなに極端にいいような予感はしません。帰った後、JTBの窓口でちょっと話題にすると、料理は評判がいいが、意外にお風呂の評判も悪くないということでした。にわかに信じられない気分です。露天もないし、地下にあるしということでJTBの人も首をひねっていました。JTBが意図的に満足度を操作するということはあり得ないし、確かに満足してアンケートに答えた人がいるのでしょうが・・
マイナスの要素ばかりを書きましたが、フロントで出雲大社への行き方をたずねたとき、年配の男性が懇切丁寧に乗換駅や行き方を紙に書いて教えてくれました。はっきりとは分からないのですが、どうもこの宿のご主人のような気がします。この対応だけなら文句なしに満足度90点以上の宿でしょう。この男性の客を思いやる気持ちを全員が持ってくれるといいと思います。また、女房は宍道湖を望む部屋からの景色がいたく気に入ったようでした。

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神奈川県から北へは一応全部行っているのですが、まだまだ行っていない県も数多くあります。ぼちぼちとその辺も埋めていきたいなということで、今回は初の三重県に行くことにしました。何といっても本場で伊勢海老を一度食べてみたい、という女房の強い希望もありました。したがって今回は温泉は二の次、海の幸がメインの旅行です。
とはいえ、やはり温泉があるに越したことはありません。JTBのパンフレットを見てみると、鳥羽の旅館に温泉のマークがついていました。中でも客室数もそれほど多くなく、JTBの評価もそこそこいい、ホテル芭新萃にしてみました。鳥羽に連泊しその近くでもう一泊ということで最初は温泉もある志摩石亭に予約したのですが、インターネットで見たクチコミが今一なので宿泊二週間前に「海の幸のフレンチ」で知る人ぞ知る志摩観光ホテルに変更してしまいました。
名古屋で新幹線を乗り換えて鳥羽駅には1時20分頃に到着しました。1時半出発の迎えの車があるということでしたが、マイクロバスが現れたのは1時半ぎりぎりの時間でした。列車に合わせて車を出す場合、到着時には余裕を持って待っていてほしいものです。車には15人くらいの人たちが乗り込みましたが、この時男性はぼく一人、女性に人気の宿なんだなと思いましたが、後で仲居さんに聞いてみたところ、その車がたまたまで男女差はそんなに極端ではないということでした。
駅から近いのかと思っていたら、宿は車で30分近くかかるところにありました。2時ごろにチェックイン。何組かが一緒のバスで着きましたので順にロビーで待たされます。おとなしく待っていると、お疲れのところ申し訳ありませんがと従業員がやってきて、記念の写真を撮るためにわざわざ席を移動して所定のところに座らされます。はは〜、坐漁荘のように記念写真をくれるんだなと思って聞いていると、なんと有料とのこと。早くチェックインして寛ぎたい客を、自分の商売のためにわざわざ席を移動させるという非常識にはあきれましたが、みんなおとなしく席を移動し、順番に写真を撮られています。だけど、デジカメを誰でも持っている時代に、こんな写真を買う客なんかいないだろうなと思いました。その後、抹茶と小さな砂糖菓子をいただき、すぐに部屋へ案内されました。
ここはフロント前のロビーは靴のままなのですが、部屋へ向かう途中に靴を脱ぐところがあり、そこから先は畳敷きの廊下に素足となる変わった形式です。三階建ての建物の二階にフロントがあり、部屋へ向かうエレベーターはないので、その二階から一階分の上り降りが必要になります。
通された部屋は31号室の「五月」という部屋でした。部屋でのお茶出しはあり、迎え菓子は「磯笛の郷」という平たい形のお菓子です。浴衣の気づかいもあって、浴衣も当日分と翌日分の二種類が用意されます。サイズの申し送りもあったらしく、二日目も正しいものが置かれていました。朝刊も付いていて、4種類ぐらいから希望の新聞を聞いてくれます。せっかくなので地元の中日新聞にしてみました。床の間にはまだつぼみの百合が二輪生けられていました。ところが、翌日にはこの百合がちゃんと大輪の花を開かせていて、連泊の我々にしっかり合わせてくれる気遣いがありました。最終日には盛りも少し過ぎたような感じになって、百合って早いんだなと思いました。冷水も初めから用意されています。
畳廊下から各部屋のドア前が少し引っ込んだ形になっています。マンションで言えばアルコーブという感じで、廊下から部屋への出入りが直接見えないように配慮されています。引き戸を開けて部屋に入るとまず畳二畳の踏み込みがあります。踏み込みの左側には冷蔵庫と水屋が並んでいます。ただ、この水屋の蛇口は低く引っ込んでおり、下によしずのようなものが敷かれていて、どのように使うのかがよく分かりませんでした。踏み込み正面のふすまを開けると六畳の控えの間があります。ただこの部屋は畳が小さいので実質5畳くらいでしょうか。その先に明かり取りの障子があり、障子を開けるとさらに先の三畳大の広縁に続いています。控えの間を通って左にある12畳の主室に入ります。主室からも右手の広縁に出られるようになっているのですが、広縁との境がちゃんとふすまで仕切られています。主室からは洗面所、風呂、トイレが集まった一郭に直接行けるようになっていて、ここも境に扉が付けられています。つまり、すべてを閉め切れば主室は広縁からも独立した一つの部屋になるということで、これはなかなかの造りだと思いました。二・三年前にリニューアルしたということで、湯河原の海石榴やふきやなどのいわゆる高級旅館の部屋と同等くらいかもしれません。主室と広縁の窓からは前棟の屋根と前の小山、遠くに海が見えます。覗き込みはありません。
お風呂はロビーへ向かう手前で浴場専用のエレベーターに乗り、地下に降ります。地下といっても斜面に建っている形の建物ですので見晴らしは十分にあります。入浴時間は夜の12時までで朝は6時から男女が交代します。大浴場は明るく、真ん中に四角い浴槽があり、右の壁に沿って岩風呂がジャグジーと普通のお風呂の二つに仕切られています。それぞれの浴槽はそれほど大きくありません。明るい清潔な感じの大浴場です。露天はこの大浴場から出る形の、四人ぐらいの岩風呂で、目の前を緑の木々に覆われ、右手上方にははるかに海を見渡せます。ただ、どばどばと勢いよく湯口から流れ出るお湯が循環であることを物語っています。最初女性の方の露天は全体が木々の葉に囲まれていて、見晴らしがなくちょっと暗めです。
この大浴場の前に湯上り処があり、カウンターに置かれた冷水機で冷えたおいしい麦茶を飲むことができます。麦茶の係の仲居さんがいて、その仲居さんによるとここのお湯は近くの南勢桜山温泉から汲み湯して運んでいるということでした。風呂場の表示にも加温、循環・塩素投入と書かれていました。しかしカルキ臭はありません。最近は塩素投入でもカルキ臭のしないところが多いようです。
お湯は汲み湯とは言えけっこう温まり、汗がなかなか引きません。ただ、湯上りがべたつく感じであることや、お湯が少し白濁した感じであること、大浴場の浴槽はそうでもないのに、露天風呂は湯の花だか湯垢だか不明なものが浮遊していることなど、運び湯であるという先入観がそうさせるのか、気になることがいくつかあり、手放しで礼賛という気にはなれません。いつもはシャワーなどで流さずに出てくるのですが、さすがにここでは流してきました。これらが源泉のもともと持つ性質であるのなら、なかなかいいお湯であるとは言えると思います。
夕食は部屋です。お風呂から上がってくるとテーブルに白いテーブルクロスが敷かれ、懐石盆とその上に置かれた箸、脇のおしぼりが端然としたたたずまいで静かに料理を待っているという風情です。何か期待を抱かせるものがありました。
夕食をお願いした時間に、始めても構わないかという確認の電話があらかじめあってから料理が運ばれます。食前酒は梅酒で、まず前菜の季節の珍味三種(たこの塩辛、グリンピース卵、やまもも)が運ばれ、続いてお造りの季節の魚五種盛り(カワハギの姿造りを肝を溶いたしょうゆと共に食べるもの、太刀魚、鯛、海老、蛸)でこのカワハギを肝で食べる趣向は何とも言えず素晴らしいものでした。また、その他の魚も見るからに新鮮そのもので申し分ありません。また、カワハギは姿造りですからボリュームもたっぷりあります。続いて、待ってました伊勢海老の生き造り。まだ盛んに手足を動かす海老を気にしながら食べる、甘くぷりぷりとしたその身はたっぷりとあって十分に堪能しました。大満足です。続いてが白魚の茶碗蒸しで、白魚は踊り食いがよく出されますが、踊り食いは味としておいしいと思うことはほとんどなく、この前はどこだったか鉢から掬うところから始める趣向は格闘に近いものがあってただ疲れただけでした。それに比べて、この白魚のおいしさ。これも絶品でした。続いてが季節の三種の煮物(かぼちゃ、大根、海老の炊き合わせ)と鯛の骨蒸しで、この骨蒸しもおいしいものです。続いてのわらびの粉と混ぜさわせたというわらびそうめんも素晴らしく、その後に、先付けの月見玉子なめこコンソメゼリー寄せが出てきましたが、順番などおかまいなしにこれもおいしいものでした。ただ、先付けにしては出てくるのがわらびそうめんの後と、ずいぶん遅かったのはどういう訳なのか分かりません。さらに白身魚の春巻、わかめと貝の季節の酢物と続き、かなりおなかがいっぱいになり舌も麻痺してきたようでしたが、最後の食事は白いご飯か、めかぶの雑炊を選べるということでした。めかぶの雑炊を頼みましたが、またまたこれもおいしいものでした。デザートのフルーツゼリーもいけます。とにかく海の幸のボリューム満点で、魚の蛋白質だけでお腹がいっぱいになる食事です。ほんのちょっとずつの高級旅館より、こんな豪快な食事がぼくは好きです。食事の時はお品書きはなかったのですが、お品書きはないのかという質問に仲居さんが後で簡略なものを持ってきてくれました。最後のロスタイムという感じの時間に女将さんが挨拶に来ましたが、客室はほとんど回るらしく、忙しそうであまり話はできませんでした。やり手という感じの女将さんでした。
翌朝の朝食も部屋です。野菜サラダ、イカソーメン、卵焼き、蛸とオクラの和え物、湯豆腐、海苔、伊勢海老の味噌汁、デザートがメロンとレイシ(ライチ)という風に並べられ、何だか淋しいなと思ってよく見ると、焼き魚がありません。えっと思って、焼き魚がないことを指摘すると、仲居さんは、あわてる風もなく、明日とかち合うので今日は付けなかった旨の意味不明の説明でした。今までで連泊の時であれ、どんなに安い旅館であれ朝食に焼き魚が出なかったことは一度もなかったと思います。納得できませんでしたが、そんなものかと深く追及はしませんでした。味は良く、焼き魚があれば文句なしです。
翌日はお伊勢参りへ出かけ、帰ってきたのは3時過ぎでした。フロントでキーを受け取り、勝手知ったる部屋へ行くと、なんとドアが開けっ放し。貴重品はないとは言え、バックやら種々のものが部屋の中に置きっぱなしだというのにです。これには開いた口がふさがりませんでした。特に異状はなかったので何も言いませんでしたが、これは一言フロントに言っておくべきだったと思います。ドアが閉まっているならまだしも、全開状態でした。全開といえば、廊下の窓ばかりか、非常口のドアまで全開でした。よっぽど風を通すのが好きな宿だと見えますが、時間はチェックイン時間の3時を過ぎています。客が入る時間になる前には閉めておくべきではないでしょうか。全開のおかげで部屋にはハエが3匹も入っていました。こんな状態で夕食など食べたくありません。女房は夕食前の風呂に出かける前にフロントに電話をして、戻るまでに取っておいてほしい旨を伝えていましたが、夕食前の忙しく短い時間に、すばしこいハエを取るのは難しいだろうなと思いながら帰ってくると、見事に一匹もいなくなっていました。何か特別なハエ取り最新兵器でもあるのでしょうか。言ってみるものだと思いました。また、二日目の迎え菓子は昨日と変わらず磯笛の郷でした。
お風呂から帰ってくると、やはり昨日と同じく白いテーブルクロスが掛けられています。また、あらかじめの電話があってから料理が運ばれてきました。今日は食前酒はなく、先付けの太刀魚の明太子和えと、もう一つ先付があるのは珍しいのですが鰻東寺巻き、そして、お造りが今日はイサキの姿造りに、鯛、サーモン、甘海老というラインナップでした。昨日の肝のような珍味はなかったもののやはり新鮮でおいしい魚です。続いて、蓋物のすずきの姿蒸し、そして、煮物が赤魚(わが)煮付けですが、ちょっと味が濃い気がしました。続いてが昨日の伊勢海老に代わる鮑の陶板焼きです。今回の企画はその伊勢海老か鮑かを選ぶことができるのですが、連泊ということで初日が伊勢海老、二日目が鮑としたのです。この鮑も味のしっかりしたおいしいものでした。続いてが帆立のネーズ焼きで、このネーズとはマヨネーズのことで、帆立の上にマヨネーズをかけてグラタンのように焼いたもので、目先が変わっておいしかったと思います。そして、洋皿がすずきのあんかけでした。最後に松阪牛の石焼で、二日目は肉が出ました。石焼と言っても陶板のように平たくなっていて、普通の石みたいに石に肉がくっつくということもありません。胡麻だれで食べるのですが、この胡麻だれが辛いのが残念で、もう少し甘くてもいいのではないかと思いました。辛すぎて肉の旨みを打ち消してしまったような気がします。すでにかなりお腹がいっぱいになっていたのと辛い胡麻だれで、松阪牛に感激というところまで行かなかったのが悔しいところでした。全体的には昨日の方がインパクトが高いと思いますが、しかし、この日もほとんどおいしくて、十分に満足感がありました。ごはんは昨日と同じ、めかぶの雑炊を選び、この日のデザートはバニラの濃厚なアイスクリームでした。ただ、ゆっくりと食べていたため時間が遅くなったのか、デザートのアイスクリームを食べてるうちに片付けに来たのはいただけません。この日もお品書きはなかったのですが、昨日と同様のものを後で持ってきてもらいました。
二日目の朝食はもちろん焼き魚は付いています。すずき焼き味噌とでも呼ぶべきものが出されました。これはいわゆる朴葉味噌をすずきにまぶして焼いて食べるといった感じのものです。それから、浅利のしぐれ煮。そして、ハムサラダ。この中には苺が二個入っていて、今朝はデザート皿が付いていないのでその替わりかと思われます。海苔。温泉卵。サーモンの刺身とあり、さらにカレイの一夜干を控えの間で係の人が焼いてくれています。今回は焼き魚が二種類も付いていました。だったら、一つは昨日に回せばいいのにと思わずにはいられません。独立したデザートがないのが残念でしたが、サーモンの刺身はおいしかったですし、スズキもカレイも十分満足できました。
ここほど、いいところと今一のところが両極端に偏在する宿も少ないと思います。いいところはまず部屋でした。全体的に広く、主室から直接洗面所へ行けたり、広縁が独立していたり、書いたように料金がここより1万円くらい高い宿のレベルには十分行っていたと思います。続いてのいいところは、食事にボリュームがあり素材もいいということです。ただし、お年寄りなどには食事のボリュームが逆評価されてしまう恐れもありますが、海の幸の宿としては、ぼくが行った今までのベスト3に入るのではないかと思います。民宿などで、「えっ、この値段でこんなに」というのをTVなどでよくやっていますが、それの小ぎれいな宿バージョンと言っていいでしょう。とにかく、いい部屋で、海の幸も堪能したいという人にはうってつけの宿と言えるでしょう。ただし、最初の朝食に焼き魚がないのは大疑問でしたが。
仲居さんについては一概には言えませんが、担当してくれた仲居さんたちの若い一人は、ふつうはないお品書きを二日ともいやな顔をせずに工面して持ってきてくれたし、伊勢神宮へ行くためのパンフレットを自分から言い出して届けてくれました。評価したいと思います。
悪い点の1はまずチェックインの時に有料で売り付けるためだけに、早くゆっくり休みたい客にわざわざ席を移動させ写真を撮ることです。この写真は3種あり、それぞれが1000円もします。全部買うとすると3000円もするんです。その内の二枚は子供だましのような1億円札の肖像部分にそれぞれの客の顔が入っているというものです。こんなもの誰が買うのか、だれも買いはしないだろうと思っていると、女房が三枚とも全部買っていました・・・それはともかく、最近はやっている自分で選べるカラー浴衣のレンタルも有料で、確か一枚が1500円くらいしたと思います。するのなら無料のサービスでするべきところを有料でしているという感じがしました。
その2は書いたように二泊目の宿に戻ると荷物が置かれたまま部屋が開けっ放しになっていたこと。事故が起こらなくて良かったと思います。
あと、お風呂に関しては、今一つ理解できないところが心にわだかまっています。
と、評価のぶれの大きいこのホテル芭新萃ですが、やはり全体的には良い印象が強く残っています。写真撮影が無くなり、もしお風呂が源泉流しきりになったらかなりのお勧めの宿になるんですが。
 
伊勢志摩の三泊目は「志摩観光ホテル」です。ここは知る人ぞ知る「海の幸フランス料理」のホテルで、日本のフランス料理を語る際には外すことのできないホテルらしいのですが、実はそれを知ったのは、この旅行が決まった後、すでに志摩石亭に申し込んだ後だったのです。知ったのはほんの偶然で、今となってはそれが何だったのか思い出せないほどちっぽけなきっかけだったのですが、調べてみると、先代の伝説的な料理長である高橋忠之という人がこのホテルで地元の食材を元に独創的なフランス料理を創り上げたということが分かりました。その中で代表的なものが「伊勢海老のクリームスープ」と「黒鮑のステーキ」だということでした。高橋料理長は何年か前にこのホテルを去ったのですが、その味は弟子の料理人によってまだ受け継がれているらしいということでした。
「志摩観光ホテル」は温泉でもないし、大浴場もありません。それにひきかえ「志摩石亭」は温泉でありHPを見るとロケーションも料理もなかなか良さそうで魅力的です。ただ、ここまで「海の幸フランス料理」について知ってしまうと、これは是非食べてみなければなるまいという気になってきました。それに、予約した後で見た「志摩石亭」の評判が思ったほどには芳しくないこともあり、思い切って予約を「志摩観光ホテル」に変更してしまいました。
「志摩観光ホテル」には賢島駅から30分に一本ほどの送迎が一日中あるようです。12時前に賢島に着いたので、ちょうど駅前に来ていた送迎車に荷物だけを運んでもらい、食事と英虞湾めぐりに出かけました。
英虞湾めぐりから帰った我々がまた駅前に止まっていた送迎車に乗り込み、ホテルに到着したのは2時35分頃でした。駅からホテルまでは車で五分もかからず、着いた後に、これだったら歩いても大丈夫だったなと思いました。すぐに部屋に案内されました。
部屋は422号室で、32uのツイン。ごくオーソドックスな部屋のつくりです。入ってすぐ右手にクローゼット、反対側が洗面・シャワートイレ・バスのユニットでちょっと浴槽の幅が狭いかなと思いました。中央左手にツインのベッド、反対側に冷蔵庫やドレッサー兼用デスクが置かれ、右奥のコーナーにテレビが独立してあります。反対側のコーナーには二人掛けのソファとテーブルを挟んだこちら側に椅子が一脚置かれていました。ベランダもなく、窓も壁全体の幅のない小さいものなので、外の英虞湾に浮かぶ真珠いかだの景色が思う存分は楽しめません。また、部屋の調度などがやや年代を経たもので、部屋に入った途端に「わぁっ!!」という驚きを感じさせるものは一つもありません。ただ、その代わりに、落ち着いた部屋であるということはできます。ここの宿泊料金は高めですが、でもそのかなりの部分が夕食の食事にあてられる感じなので、部屋に関してはあまり高望みをするのは酷というものなのでしょう。ホテルには迎え菓子などは置いていないところが多いと思いますが、ここには「関の戸」という砂糖がまぶされた小さなお菓子が置かれていました。
ホテルにはただ宿泊するだけでなく、ホテル内を探索する楽しみというものもあります。この志摩観光ホテルにはまず広大な庭があり、ゆっくりと散歩して時を過ごすことができます。庭にはプールもあり、便は限られているもの、英虞湾めぐりの船の専用船着場もあるようです。また二階には小さいながらもドールハウスを集めたミュージアムのようなところもあり、売店も広いものです。屋上に上がると360度、どこを見ても海と緑と島の景色が広がります。また、絵も多く掛けられ、レストランのラ・メールには藤田嗣治の絵もあるということです。全体に目新しさはないものの、伝統のホテルとしてのどっしりした懐の深さを感じました。
夕食は一階のそのレストラン、ラ・メールです。食事時間をやや遅めの7時にしたので、多くの人がすでに席に着いていました。われわれのメニューは、伊勢海老のサラダ 伊勢海老ドレッシング、伊勢海老のクリームスープ、本日の魚のポアレ、シャーベット、鮑ステーキ ブールノワゼットソース、デザート、コーヒーとなっています。これにさらに松阪牛のステーキが付くコースもあるらしいのですが、あまり欲張ってはいけないとじっと我慢しました。
伊勢海老のサラダは伊勢海老の殻が脇に付いた立派なもので、真ん中に野菜類が、それを取り囲んで伊勢海老の切り身が並べられている結構ボリュームのあるものです。切り身はどのように処理したのか聞きませんでしたが、白くなっていましたのでおそらく茹でたのではないかと思いますが、ぷりぷりした感じはちゃんと残されていました。野菜には黄色っぽいドレッシング、伊勢海老の切り身にはオレンジっぽい色のドレッシングが掛けられて、このオレンジ色の方が伊勢海老ドレッシングだと思われます。このドレッシングに関しては、どんな味だったか、ちょっと記憶が飛んでいますが、おいしいお皿であったことは間違いありません。次の伊勢海老クリームスープは鮑クリームスープとのどちらかを選ぶことができるのですが、やはり定評のある伊勢海老クリームスープの方にしてみました。このクリームスープは伊勢海老の殻付きで出される場合もあるようですが、今回は殻がなく純粋にスープだけでした。おそらく前の伊勢海老のサラダに殻を使っているので、殻が続くことを避けたのだと思われます。カップになみなみと注がれたスープの表面に、まるで英虞湾の島々のように濃い茶色の部分が浮かんでいます。これは説明を聞き逃してしまったのですが、おそらくスープの上に何かを浮かべてさらに焼いたのではないかと思われます。とにかく伊勢海老の旨みが凝縮された濃厚な味で、なるほどとうならずにはいられない絶品です。これがこのホテルの名物料理の一つだということが十分に納得できます。続いてが本日の魚のポアレ フルーツソースで、確かこの日はイサキだったように記憶しているのですが、記憶違いかもしれません。ふわっと焼けたおいしいものでしたが、伊勢海老のクリームスープの後ではそれほど強烈な印象は残しません。しかし、このあと黒鮑のステーキとなることを考えると、むしろこの魚料理はこのように軽い感じの方がいいのかもしれません。
口直しのシャーベットの後がいよいよ鮑ステーキ ブールノワゼットソースです。これも牛フィレ肉のステーキとのどちらかを選ぶことができますが、牛を選ぶ人は多分鮑ステーキが有名であることを知らないか、あるいはもう何回も食べたことがあるという人でしょう。もちろん、ぼくは初めから鮑ステーキが目的です。後で写真を見ると、運ばれてきた鮑は、JTBのセット料金の関係からか、あるいはお皿が大きすぎたのか、それほど大きい鮑ではなかったようです。写真を後で見て、あれ?と思いました。しかし、その場で見たときはその存在感ゆえにでしょうか、少しも小さいとは感じませんでした。その厚みのあること、鮑の形容としてはおかしいかもしれませんが、まさに丸々と太ったという感じです。ナイフを入れても切り応えがあります。固すぎもせず柔らかすぎもせず、確実にナイフが入っていきます。しかし、相手は丸々と太っていますから、すべらせてフーテンの寅さんのように飛ばしたりしないように慎重に切りました。口に入れた瞬間、かつて食べたことのない味が口中に広がります。今までの和食で食べた踊り焼きの鮑は確かにおいしかったけれど、何て単調な味だったんだろうと思わずにはいられません。複雑で重層的な旨みが圧倒的な力を持って押し寄せてきて、ぼくを打ちのめしました。これは、鮑を超えた鮑料理と言ってもいいかもしれません。この鮑料理は、確かに一度食べてみる価値ありと思いました。デザートはアイスクリームのお皿に何だったか赤い色の果物を散らしたものでしたが、鮑に圧倒されたせいか、あまり記憶に残っていません。
今まで、洋食の朝食ではボリュームも含め、満足感が得られたことがあまりなかったので、昨夜のフレンチはそれとして、やはり朝食は和食にすることにしました。ここには「浜木綿」という和食のレストランがあります。大体ホテルの朝の和定食というのは決まりきっていますが、ここもやはり、あらかじめすべてが並べられたお盆が一つ運ばれてきただけでした。ほうれん草のお浸し、寄せ豆腐、油揚げと大根の煮物、サラダ、それに、豆、小松菜、じゃこ、ちくわが少しずつ載ったお皿、海苔、鯵の干物、その横に卵焼き、一つのお盆に載ってはいるものの、考えてみると品数はあり、それぞれに気の配られたおいしいものでしたが、やはりこういう形だと定食屋で定食を頼んだようで落ち着きません。もっと広いスペースでゆったりと食べたい気がします。また鯵は開きの頭をカットして身を二つに分け、重ねてお皿に乗せるくらいの大き目のものでしたが、脂の乗りという点では相模湾近辺のものにはやや及ばない気がしました。
とにかく海の幸フランス料理で有名な伝統あるホテルであり、ホテルとしての懐の深さも併せ持っているが、ただ、少し古さも感じさせる、そんなホテルですね。総客室数がどのくらいなのかよく分かりませんが、夕食のレストラン「ラ・メール」ではテーブル数に比して、それほど埋まっていたわけではありません。また、海の幸のメニューも、普通のフレンチレストランに比べるとかなり価格の高いものですから、この伊勢近辺の人たちだけではとうてい支えきることはできないと考えられます。つまり、このホテルとレストランは全国から客を集めなければならないことが宿命づけられている訳です。先代の伝説的な料理長でネームバリューのある高橋忠之氏の去った今、どのように歴史を受け継ぎ、さらに発展させていくのか、このホテルとレストランは重要な局面に立たされていると感じずにはいられません。

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立山黒部アルペンルートへ行ってきました。
ただし、今回はいくつもの乗り物の乗り継ぎや、荷物を持っての移動ということを考えて、個人的にあれこれと頭を悩ませるのが嫌になり、ツアーに参加することにしてしまいました。ツアーの欠点としては、遅いイン早いアウトのため旅館でゆっくりできない、せっかくの観光地でも時間の自由がきかない、旅館を自由に選べないなどいろいろあるのですが、それよりも頭を悩ませるわずらわしさからの解放を選んだわけです。
ホームページで旅行記を発表されている方がたくさんいらっしゃいますが、旅行中の出来事をとっても覚えていられないし、書くのも大変、ということで、いつものように旅館の内容にしぼって、ご報告します。
といっても、この報告初めての団体での宿泊ですので、いつものように旅館にゆっくり滞在することもできず、それに旅行会社がツアー料金のうちのいくらくらいをその旅館にかけているのかも不明なので、いつもの報告とは単純に比較はできません。そのことをあらかじめお断りしておきます。
まず初日は、新幹線で長岡へ、そこから越後交通のバスで宇奈月に向かいます。トロッコ列車で鐘釣まで往復して黒部渓谷の景観を楽しんだ後、またバスで糸魚川へと向かいました。
宿泊したのは「フォッサマグナ糸魚川温泉」の「ホテル糸魚川」で我々の部屋は406号室でした。ドアを開けると半畳ほどの狭い玄関があり、畳三畳の踏み込みへと上がります。踏み込みの手前、玄関の横には玄関と小さな壁で仕切られた洗面所があり、これも狭目です。さらにトイレがその隣にあり、シャワートイレでした。踏み込みの先に10畳の和室があり、その先の3畳大の広縁へと続いています。この広縁は一段下がる形でテーブルと椅子が二脚置かれていました。和室の左側に半畳幅のスペースがあり、テレビ置き場が独立しているのはいいのですが、残りの床の間に当たる部分が、高さのないただの板敷きという感じのところで、お茶セット置き場と化していました。花はなく、冷水も最後までありませんでした。
ただ、景色はかなり良く、姫川の流れは細いものの、広い河原と、その土手の手前にはこの宿の池、そして遠くには山を見渡せるという心安らぐものでした。もちろん、覗き込みもありません。ただ、一部のホテルのように、窓が壁の横幅の半分くらいしかなく、窓を意識して覗かないと景色が目に入らないというところが何とも残念で、せっかくの景色を生かしきれていない構造となっていました。部屋には迎え菓子のとろろおぐらという、ねっとりとした感じの饅頭が置いてありました。
お風呂は24時間入浴OKで、男女交代はありません。広々とした大浴場で、かなりの人数が入れそうです。窓に面した方の湯船の縁が他の縁より少し低くなっていて、そこからお湯が流れ出ています。湯船には相当量のお湯が流れ込んでいますが、このホテルの玄関前にふつふつと湧き出る温泉の湯量から考えると、源泉流し切りのお湯だと思われます。ただ、加水しているかは表示もなかったのでよく分かりません。また、入った時間が時間だったので、人が途切れることもなく、写真も撮れず、いつものようにはゆったりとは入れませんでした。お湯は緑を白で薄めたようなやや黄色みがかった色をしています。なめてみると塩泉で、出汁よりも辛い味がしました。
露天は大浴場から出る形で、後ろの大浴場のガラス窓と平行に細長く造られた岩風呂です。幅はそれほど広くないのですが、ある程度長さがありますので、こちらも広めのお風呂だと言えるでしょう。10人くらいは入れそうです。露天の前に小さな水路が流れていて、その先が土手のように高く盛られています。上への開放感はあるのですが、眺めは土手にさえぎられてしまっています。このあたりは、近くのホテル國富翠泉閣の露天となぜかよく似ていました。
食事は大部屋の食事処です。我々は団体とはいえ個人客の集合体ですので、全員揃っての乾杯などはなく、おそらく他の個人客と同じ食事処だったと思います。
お品書きはなく、説明もありません。我々の夕食は7時開始だったのですが、カニがあるにもかかわらず、8時15分には終了してしまいました。このカニは紅ズワイガニということで、一人に一ぱい付いていましたが、見るからに非常に貧相なカニで、案の定、どこの身も痩せていました。他には牛ステーキと、ゆずくらげなどの前菜三品。お造りはキスと目鯛、甘海老と烏賊。烏賊の塩辛ともう一つ海藻を使ったものがありました。寄せ鍋がありましたが、これは内容、味とも今一でした。その他にはサザエとバーナ貝のガーリックバター焼き、米茄子の煮物、海鮮サラダ、そして、最後に竹筒に入ったグラタンのようなものが出されたのですが、写真を見てもどんなものだったか思い出せません。デザートはフルーツ杏仁豆腐で、これはなかなかおいしいものでした。
食いしん坊の我々は一・二泊とも食事グレードアッププランにしたのでしたが、この日の食事はどうにもグレードアップされた感じはしませんでした。仲居さんに聞いたら、個人客の内容とは異なっているということでした。糸魚川っていうのは海の近くだと思ったのですが、その割にはいい魚が出なかったし、この宿はJTBでは一応料理自慢の宿に入っているようなのですが、全く納得できませんでした。
朝食は同じ会場でバイキングです。全体に品数は多くなく、味もごくごく普通の感じで特筆するべきところはまったくありませんでした。
お断りしたようにこの旅館に金額をいくら掛けているのか不明なため、対料金といういつもの評価はできませんが、部屋やお風呂はまあ満足できると思います。特に部屋の眺めは、窓が狭いとはいえなかなかのものがあります。ただ、食事に関しては大いなる疑問があるというところです。もう一度個人で行くかというと、行かないと思います。
 
翌日は8時に出発し立山→美女平→室堂→大観峰→黒部ダム→扇沢と乗り継いで、二泊目の大町温泉「黒部観光ホテル」に泊まりました。
部屋は451号室でした。しゃれた内装の廊下から一歩部屋に入ると、部屋の中は旧態依然としていました。一畳弱の玄関から、板の間一畳大の踏み込みにあがります。踏み込みのすぐ左手には洗面台がむき出されていて、その袖が玄関のところにまではみ出ています。部屋のドアを入ってすぐ右にはトイレがあり、座敷からは一度玄関でスリッパを履いて、トイレに入らなければなりません。トイレ専用のスリッパはなく、廊下を歩くスリッパがすべて兼用とはどうにも不潔な感じがします。
踏み込み正面の襖を開けて中に入ると10畳の和室になっています。左側に半畳幅の高さのない床の間が配されているのですが、ここもすべてテレビ、インターフォン置き場と化していました。もちろん花はありません。さらに先に3畳大の広縁があり、ガラス窓からは林と河原、遠くに山という、ホテル糸魚川と同じような眺めが広がっています。ただ、ここは目の前に林があるせいで、全体の開放感はホテル糸魚川の窓からの景色の方が良かったと思います。迎え菓子は黒部の太陽というお菓子だったのですが、どんなお菓子だったかあまり印象に残っていません。
大浴場は天井が山小屋風に三角形に高く作られていて広々としています。湯船もかなり広いものです。ここは入浴時間が夜の12時までで、翌朝は男女交替というシステムですが、湯船が石か木の違いというだけで、構造や大きさは男女でほとんど変わりがありません。お湯は無色無味無臭ですが、なめた後に、ほんのかすかな塩味が残るような気もしました。ただ、ほんのかすかなもので、気のせいかもしれません。ここもおそらく流しきりだと思われます。
露天は大浴場から出る形で、石あるいは木で四角く作られた5・6人が入れるくらいのものです。周りを木々で囲まれているためそれほどの開放感はありませんが、翌朝に入った初日女性用の方は前日の男性用よりも周りのスペースが広々としていた気がします。大浴場、露天とも適温で、特に熱いとか温いということはありませんでした。
食事はこの日もグレードアッププランということで、柏木という個室の食事処でいただきました。仲居さんに聞いたところ、この日の料理の内容は個人客と同じ内容だということでした。小さいながらも、料理長の名前の入ったお品書きが置かれていました。また、料理の説明もあり、ちゃんと一品ずつ運んでくれます。最初に前菜の岩魚の卵、紅鱒マリネ、鰻ざくの三種と、お造りの信州サーモン、岩魚、煮烏賊。それに、冷し鉢の柳豆腐、ミニトマト、小メロンが出されます。続いて、台のものの鹿肉じゃが巻き、温野菜。それから、煮物が大岩魚のあんかけでこれはおいしいものでした。しのぎの椀子そばが出て、焼き物が焼きトマト、信州サーモン西京漬け、ミニオクラ、エゴマ青じそ味噌、それにさらに別のお皿で焼き松茸が出されました。お品書きの焼き物の中には確かに松茸とありましたが、多分、薄くスライスしたものが炙られて、隅に置かれているぐらいのものだろうと想像していたところ、ほんのちっぽけな松茸ですがまるごと、しかも独立したお皿で出されたのは意外で、そのせいもあってかおいしく感じられました。次の進肴が馬刺しでこれもおいしいものです。さらに、油物が早松茸、活車海老、南瓜、青唐、松葉で、こちらの松茸は印象に残りませんでしたが、車海老は非常においしいものでした。最後に釜飯で、デザートはフルーツの盛り合わせでした。全体に一品一品のボリュームはあまりなく、盛り付けや器などにも凝ったところは全くありませんが、手造りの感じが良く出ていて、おいしいものでした。
朝食はこちらもバイキングで、全体においしいと思いますが、特に飛びぬけたものというのはない感じです。
部屋は大したことはないものの、お風呂はまあまあ、夕食は意外といいということで、ご褒美の宿にはどう逆立ちしても入りませんが、料金しだいではお勧めの宿というところでしょうか。

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松茸といえば別所温泉。その別所温泉の近くに松茸料理が存分に食べられる松茸小屋があるということで、何年か前から行ってみたいと思っていたのですが、とうとう今年行ってみることにしました。本当なら松茸のシーズンのピークである10月中旬がいいのですが、10月の旅行シーズンはもっと遠くへ行きたいという希望があって、じゃ、とりあえず松茸小屋ももうオープンしていることだし、9月に行ってみようかということになりました。結果としてはまだ時期が早かったようで、料金の割には松茸のボリュームが少なく、あまり満足できませんでしたが、出盛りになればはボリュームも多く、大変な人出になるそうです。
それはさておき、どうせ別所温泉に泊まるのなら、以前、七草の湯に泊まって、温泉街を歩いた時に非常に気になった、かしわや本店と臨泉楼柏屋別荘に泊まってみようと思っていました。かなり前に花屋に泊まったことがあるので、この二軒に泊まれば、別所の行ってみたかった旅館はすべて宿泊することになります。
初日は臨泉楼柏屋別荘です。別所温泉の各旅館の別所温泉駅への迎えは旅館街合同の大型バス、送りはそれぞれの旅館の車というシステムになっているようです。2時少し前に別所温泉駅に着いたのですが、迎えの合同バスに乗った三組すべての宿泊先は臨泉楼柏屋別荘でした。
全館畳敷きの旅館で、最近はやけに畳敷きが続く印象です。三組それぞれがロビーの椅子でちょっと待たされ、お茶とところてんをいただきました。ところてんは酢醤油と黒蜜のどちらがいいか聞かれます。また、ここで各自が自分の好きな柄のポーチを選ぶことができ、これはなかなかいいアイデアだと思いました。ポーチを選べるのは初めてだったと思います。さらに、女性は例によって、好きな柄の浴衣も選ぶことができます。
そばの椅子では先客が、いつまで待たせるのか、といらいらした様子でした。ただ、チェックインが2時からですから、まだ少し過ぎただけです。そのうちに我々の番になり、少し説明を受けてから男性が部屋へ案内してくれます。先客がいたり、三組がいっぺんに到着したりで、ちょっと忙しそうな雰囲気で、案内の男性は汗をふきふき、といった感じでした。
案内されたのは131号室「あずま」という部屋です。外から見て、木造四階建ての立派な建物の正面三階部分にある二部屋のうち、向かって右側の部屋だと思われます。畳廊下から入って板半畳分の玄関と板半畳の踏み込みがほんのわずかな段差で続いています。その踏み込みに上がると、すぐ右手の壁に床から15センチ上ぐらいのところに浮き上がった感じでドアがあり、そこを開けると、洗面とトイレと浴室が一体化したユニットバスになっています。トイレはシャワートイレですが、見るからに、昔ながらの和室にユニットを嵌め込みましたという感じです。古い建物なので、こういう形になるのはやむを得ないのでしょう。ただ、いつも言っているのですが、ぼくは部屋のバスはいらないと思うのですが・・踏み込み正面が四畳半の控えの間になっています。正面にガラス窓があり、外の景色が見えます。控えの間に入ると、90度右手に8畳の主室が続いています。主室の正面にはやや狭目の広縁に空の小さな冷蔵庫と、椅子が二脚置かれています。浴衣の気づかいもありました。
この広縁に面した窓がこの宿の正面に当たるらしく、何人もの人が盛んに外の道路からこちらの写真を撮っています。この窓から眺めると、右手は温泉街で旅館のビルなどが立ち並んで雑然としているのですが、この柏屋別荘が旅館街の一番奥ということで、左側は山や小道が見え、緑の木々の美しい景色です。前の個人宅からは覗き込みがあるのですが、少し離れているので気にはなりません。主室の右側に一畳大の床の間と、テレビ置き場が区切られてあります。床の間にはちゃんと花も活けられていました。ロビーですでにところてんとお茶を頂いたので、部屋でのお茶出しはなく、迎え菓子の酒饅頭が置かれているだけです。
ただ、古い木造なので、部屋は少し歩くとどしどしと音がします。下の階にはけっこう響いたのではないでしょうか。上からの音はまったくしなかったので、チェックアウトするまで、この三階が最上階だと思っていました。チェックアウト後、外から建物を眺めても、最上階の造りがどう見ても違うので、おかしいな〜と思い、念のために階数を数えたら四階まであって、驚きました。聞きませんでしたが、四階は多分宿泊の部屋ではない気がします。建物は古いながらもガラスを多用した魅かれる外観をしています。立ち寄りらしき人たちが盛んに写真を撮っている理由が分かりました。ぼくも一枚撮ってきました。
お風呂は男女の交代はなく、夜中の12時から2時までの清掃時間を除いていつでも入れるそうです。ここのお風呂の最大の特徴は浴室が畳敷きになっていることで、かなり昔に入った四万のやまぐち館にそんなお風呂があったような気がしないでもないというところですが、記憶がほとんどありませんので初めての経験という感じです。最近は湯船の中までが畳敷きというところもあるみたいですが、さすがにそこまでではありませんでした。ただ、この畳の浴室は入浴者が少なくて静かで清潔なお風呂には似合うと思うのですが、ここのように、温泉パスポートの該当旅館で、旅行会社の湯めぐりプランの旅館でもあるような、非常に入浴者の多いお風呂には合わないと思います。最初、チェックイン後に入った時はそうでもなかったのですが、夜寝る前に入った時は浴室の畳が明らかに黒っぽく汚れた部分がありました。非常に気になります。また、チェックイン後のまだ3時前の段階で、足拭きマットがびしょびしょでしたし、女房の言葉によると、女湯の脱衣所は散乱した髪の毛で足の踏み場も無いほど汚れていて、今までで一番汚れていた脱衣所だったということでした。男性の脱衣所のティッシュも切れていました。内湯にシェーヴィングフォームがあったのは良いと思います。
内湯の湯船は3・4人程度の小さなもので、やはりそれだけの立ち寄りを受け入れるには小さすぎる気がします。この日の内湯は白濁していて、湯口にはコップが置かれています。飲むと、上品な卵臭が漂います。露天は内湯から出る形の岩風呂でこちらは4・5人という感じでしょうか。こちらは透明ですが、やはり湯口にあるコップに口をつけるとお湯はまったく変わらないようです。大体は日光に当たる方が濁るという今までのぼくの印象だったのですが、ここは違うようです。翌朝は内湯も透明でしたので、多分初日は、入浴者が多かったためのお湯の劣化という気がします。露天は周りを2・3メートルの高さで完全に囲まれており、息苦しいほどではありませんが開放感はありません。風呂場の入り口脇に麦茶が置いてあります。色は薄いのですが、味ははっきりしていました。
また、全員がそうなのかは分かりませんが、貸し切り風呂に一回だけ無料で入ることができました。これは予約時間になってフロントまで行くと、わざわざ案内の人が冷水を持って案内してくれるという優雅なサービスが付いていました。お風呂は丸い形の内風呂で、取り立てて特徴はなかった気がします。
食事はぼくたちは個室の食事処でいただきましたが、部屋によっては部屋での食事になるようです。お品書きはありますが、説明はありませんでした。運んでくるのは若い人が多くその一人に聞いてみたところアルバイトだそうです。食事の内容についての詳しい説明は無理かもしれません。食前酒は塩田産の赤ワインでおいしく感じました。お通しが自家製醤油豆。前菜が生姜佃煮、しめじ有馬煮、プチぶどう、栗渋皮煮、山茶茸霙和え。お吸い物が、秋の味覚土瓶蒸し。籠盛りで塩烏賊胡麻和え、秋茄子釜臨泉味噌焼、信州サーモン刺身、揚げ玉葱豆乳クリームソース煮、秋刀魚柚子焼き。台の物は松茸鍋パンプキンスープ仕立。蒸し物が臨泉楼ルイビトン(ルイビ種の豚ということだそうで、後でネットで調べたら、富士宮が産地のようです。おいしいものでした。)角煮玉〆菊花餡。替わり鉢がきのこ饅頭。お食事に上田市下之郷、村山耕一さんが丹精こめたお米を松茸入りの釜飯にしたもの。止椀が信州合せ味噌仕立て、松茸真薯。デザートが無花果ミルク羹。以上がお品書きに書かれていました。一品一品のボリュームがそれほどないので、あと一・二品欲しかった感じがしましたが、それぞれおいしくいただけました。ただ、メインの松茸鍋初め、特別にインパクトのあるものはない感じです。こだわりのお米は、しっかり味わうのを忘れて食べ流してしまったので、何とも言えません。もともとお米の味はあまり分からないほうですから・・料理長は30代でまだここへ来て3年くらいという仲居さんの話でした。最初に食前酒、前菜とお通しが並べられ、続いて一品ずつ運ばれてきますが、ペースはかなり早く、最初の40分であと一品を残すのみになってしまいました。松茸ご飯の釜飯は炊き上がりまで、40分かかるということでしたが、食事の最初に、火を点けましょうかと聞いてきたので、旅館としてもそんなに食事時間を見ていないということでしょう。
朝食も昨晩と同じ個室です。魚は鮎の甘露煮で横にピリ辛の煮椎茸が置かれています。ご飯は麦とろと茶粥の選択ができ、味噌汁も五目と茸の選択ができます。その他にはサラダ。ひじきと豆の胡麻よごし。小松菜のお浸し。お蕎麦。りんごジュース。長谷川豆腐店の豆腐の冷奴。この長谷川豆腐店というのは、別所温泉では有名な豆腐店らしいです。固めの密度の濃い豆腐という感じがしました。卵料理が無いのが珍しい感じです。素朴でボリュームはありませんが、繊細な味で、全体においしくいただけました。
この別所温泉街の最奥にある、臨泉楼柏屋別荘は別所温泉でもかなり由緒のある旅館だと思われます。木造四階建ての、外観はなかなか素晴らしくエントランスも風情があります。つつじの頃は庭のつつじの花が見事らしく、花見台という見物どころもあり、その頃は宿泊料金が高くなるようです。ロビー横のギャラリーにはこの宿を訪れた文化人の色紙も半端でないほどの多くの数が飾られていて、その伝統と格式が強く感じられます。
しかし、現在はどうなのでしょうか。けっこう安い料金設定の部屋もあり、立ち寄りパスポートの宿ということで誰でも気軽に泊まれる、あるいは入れるようになったのはそれはそれでいいと思うのですが、書いたように、脱衣所が汚れ、落ち着いてゆっくり入れなくなるとなれば、そういう宿は最初に文化人に敬遠されてしまうのではないでしょうか。そう思って見たせいか、色紙には最近のものがほとんど無いような気がしました。また、若いアルバイトらしき男女の従業員が非常に多く、それだけで格式は格段に落ちてしまいます。案内してくれた男性も忙しそうで、汗をかきかきをいう感じで落ち着きがありません。
この臨泉楼柏屋別荘の進むべき道はどういった道なのでしょう。今は迷い道に入り込んでしまった気がして、他人事ながら将来を考えてしまいます。まずは立ち寄りを断り、従業員をしぼって、老舗らしい落ち着きを取り戻すことから始めるのがぼくは一番だと思うのですが。
今回の宿泊は両方ともJTBの企画ものでしたが、この臨泉楼柏屋別荘と、次のかしわや本店とでは5000円の料金差がありました。両方に泊まってみて、確かにそんな感じかなという気がしました。かしわや本店には色紙はまったく飾られておらず、どの程度の文化人が来ているのかは分かりませんが、現在だったら、必ず本店の方に来るでしょう。
 
臨泉楼柏屋別荘を出て、温泉街を1・2分中心部方向へ戻り、少し右横に入るとかしわや本店です。この旅館も古いそうですが、見た目は新しい感じです。細い道を挟んで、本館と四季亭という別邸に分かれています。臨泉楼柏屋別荘のチェックアウトが11時だったので、かしわや本店には11時10分頃に着いてしまいました。荷物を預け、かしわや本店で松茸小屋の迎えの車を待つつもりだったので、フロントに声を掛け、その旨を告げました。時間が時間ですので、本来ならロビーは出発の人で混雑しているはずなのですが、客は誰もおらず、明るくゆったりした空間が広がっています。ここのチェックアウトは12時なので、あるいはまだみんな部屋でゆっくりしているのかもしれません。フロントからは男女一人ずつが出てきて応対してくれ、こちらの言うことをすぐに理解して、松茸小屋に確認の電話をしましょうかと言ってくれました。大丈夫だからと断りましたが、非常に感じのいい対応でした。
松茸小屋でゆっくりし、北向観音を参拝して、温泉薬師の前を進み小道を行くとすぐにかしわや本店前に着きました。まだ1時50分でした。かしわや本店のインの時間は3時なのですが、ロビーで小さな落雁と抹茶をいただき、しばらくすると案内してもらえました。先ほどもいた非常に感じのいい男性従業員が案内してくれました。ここも女性はカラー浴衣を選べるようです。
部屋は別邸の四季亭だそうで、別邸に通じる通用口でぞうりを履き、小道を渡ったすぐ目の前がもう四季亭の玄関です。そこでぞうりを脱ぐと、やはりこちらも全館畳敷きになっています。ただ畳の質が違うらしく、柏屋別荘に比べて、こちらはからっとした感じを受けました。
通されたのは四季亭の階段を上がってすぐ、111号室の「玄月(げんげつ)」という部屋で、あとでパンフレットを確認すると、かしわや本店では一番小さな部屋のようです。木の引き戸を開けると、板の間一畳分の玄関があり、そのまま畳四枚が敷かれている踏み込みに上がります。踏み込みの右には広いトイレがあり、中は奥にシャワートイレの便器とその手前に自動洗浄の男性用小便器もついていました。小便器があったのは初めてだった気がします。踏み込み左側にはシンクが二面ある広い洗面所とその奥にボディシャワー室がありました。風呂の替わりにボディシャワーがあったのも初めてだった気がします。狭いところに無理矢理ユニットバスをつけるより、汗は部屋で流したいという人のためにはシャールームをつける、というのは一つのあり方のような気がして感心しました。
踏み込み正面の襖を開けると八畳の主室。正面に窓があり窓からは下の浴場の屋根や他の旅館の屋根と青空という感じで、景色はそれほどのことはありませんが、覗き込みもありません。主室の左側に二畳分の広さの床の間があり、花瓶の他には何も置かれておらず、空間をゆったりと使っています。花は手前の専用のスペースといったところに活けられています。主室の窓の横に、小窓があり、インターフォンなどはその下の、台になっている部分に置かれています。主室の右横に並ぶ形で6畳の次の間があり、テレビはこちらに置かれていて、布団もこの部屋に敷かれました。並ぶ形だからこちらにも広い窓があり、全体的に明るい開放感のある部屋ですが、広縁や椅子はありません。
部屋での改めてのお茶出しはありませんが、浴衣の気づかいはありました。また、寝巻き用に作務衣がついています。冷蔵庫は申告制でした。部屋においてあった迎え菓子は柏屋の焼印の入った温泉饅頭で、皮がしっとりとし、中のこしあんは塩味がやや強めです。
部屋は新しい感じですが、この四季亭は建てられてから12年も経っているということでした。ぼくとしては椅子が無いのが残念ですが、やはりそれなりの、しつらえのいい部屋です。
お風呂は本館に露天と岩風呂の内湯、四季亭に大浴場が二つあり、まずは露天が男性、本館の岩風呂が女性になっています。夜の8時にそのすべて交替し、入浴は24時までだったと思います。翌朝は確か、四季亭のお風呂の方は替わったままでしたが、本館のお風呂はまた元にもどっていたと記憶しています。
四季亭にある大浴場はどちらも光量を落とした、落ち着いたお風呂で6人くらいは入れそうです。入浴客が少なければゆったりと入ることができます。泥炭石鹸も、桧シャンプーも、つぶ塩もシェーヴィングフォームもありました。洗い場の間には仕切りがあり、脱衣所のドレッサーも独立したゆったりしたものです。ただ、洗い場やドレッサーなどの数が少ないので、込み合うと余裕がなくなりそうです。
露天はそれだけが独立しています。服を脱いで露天に出ると、湯船は二つあり、完全な露天が一つ、その脇にガラスに囲まれた小屋がけのものが一つあります。ただし、どちらも一人くらいしか入れない小さなもので、幸いに他の人とかち合うことがなかったから良かったのですが、団体などと一緒になったら悲劇でしょう。ちなみに、かしわや本店は立ち寄りは一切認めていないようで、JTBの別所温泉湯めぐりの宿からも外れていました。
四方を囲まれている露天ですが、その囲んでいるものが、自然の緑の木々で、しかもかなり高いところまであるので、下から上を見上げる、高低差のある景色としては今までで一番かもしれません。
本館の岩風呂には短時間しか入らなかったのでほとんど印象が残っていないのですが、割と広くて、悪くない雰囲気でした。湯船は二つあった気がします。
また、このかしわや本店にも貸し切り風呂があり、やはり全員かどうかは分かりませんが、一回だけは無料で入れました。内湯と露天の両方がついている立派なものです。露天は岩風呂で先ほど入った独立したものよりも広いものでした。
温泉の質については、どの湯船も一応湯船からお湯はあふれているのですが、半循環かもしれないという気がします。ただ、まったく塩素臭はしません。卵臭は前日の柏屋別荘よりも明らかに弱く、お湯は柏屋別荘の方がいいように思いました。また、飲泉用のコップなどは見当たりませんでした。
麦茶の入った冷水ポットが四季亭は湯上がり処に、本館は廊下に置かれていました。
夕食は本館の個室の食事処でいただきました。食事処へ向かう入り口のところに、利き酒コーナーがあり、女将が三種類のお酒の利き酒をさせてくれます。この三種類のお酒は食事の時に注文できるものですから、この時に自分で味を確認したお酒を安心して注文できるわけで、これはなかなかいい企画だと感じました。
お品書きがあり、説明も少しありました。食前酒は別所の白ワインということですが、昨日の塩田の赤ワインのほうがおいしかった気がしました。献立は、先付けが巨峰のみぞれ和えと酔っ払い甘海老。前菜が月見の百合根団子、秋刀魚利久焼き、真田丸南蛮 秋味の子、松茸と蓮草の浸し。吸い物が松茸土瓶蒸し。おしのぎが鮎茶漬け。お造りが信州サーモン、鯛菊花、牛肉ももタタキ。煮物が菊花南瓜、名残り茄子、子持ち鮎甘露煮。焼き物が三つのうちから選ぶもので一つは松茸の牛肉巻き、もう一つは千曲子持ち鮎の塩焼き、もう一つは真田丸の串焼きで、僕たちは二人とも、松茸の牛肉巻きを選びました。続いて台のものが松茸入りきのこ鍋。酢の物の蟹菊花巻きで最後に松茸ご飯。デザートはぶどうとマンゴープリン?となっています。
最初に食前酒と前菜がテーブルに並べられ、続いて松茸の土瓶蒸し。先付けの酔っ払い海老。鮎茶漬け。お造り・・という順で一品ずつ運ばれてきました。全体的にいいペースで、ゆっくり2時間かけて食事をしました。やはり、松茸の別所温泉ということで、松茸が多く使われ、土瓶蒸し、松茸鍋、松茸ご飯の三品は前日の柏屋別荘と共通していました。どちらもとてもおいしいものでしたが、やはり料金の違いか、かしわや本店の方がボリュームも含めてやや上だった気がします。松茸の牛肉巻きも味わい深くおいしい贅沢なものでした。全体に満足の行く夕食でした。
朝食も同じ場所で、卯の花、たらこ、海苔の佃煮、という三点の小皿。薄切り野菜の煮物?しめじそば。大根、こんにゃく、冬瓜の炊き合わせ。鮎の一夜干と海藻?の付け合せ。温泉卵。野菜サラダ。自家製豆腐。このお豆腐は長谷川豆腐店のものではなく、この旅館特製のものだということでした。長谷川豆腐店とは対照的に、これは甘くてふわふわしたもので非常に特徴のあるおいしい豆腐でした。野菜サラダはドレッシングが気に入りました。さらに、りんごジュースが付きます。これといった特色はないものですが、全体においしい満足の行く朝食です。ロビーでコーヒーのサービスがあり、これでデザートが付いていたら文句なしでした。
12時チェックアウトで、ぼくたちは11時半頃までいたのですが、他のチェックアウトの客ともほとんど重ならず、ロビーには柏屋別荘のインやアウトのざわざわした感じとは対照的に、非常にゆったりした時間が流れていました。人によっては異論があるかもしれませんが、現在のところは別所一の高級旅館と言っていいでしょう。多分、アルバイトの、若い従業員の多い柏屋別荘に比べて、ここは落ち着いていて、ある程度年齢の行った男性従業員が多い気がしました。建物の雰囲気、お湯や庭は柏屋別荘の方がいいと思うのですが、ゆったりと寛ぐにはかしわや本店です。このかしわや本店には柏屋別荘の建物、庭のように特に突出したところはないのですが、かといって、文句をつける所もほとんど見当たりません。

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6年半ぶりの岩手県への旅へ行ってきました。本当は自分としては岩手なら平泉に行ってみたかったのですが、女房が小岩井農場に行きたいということで、最初はこの二箇所を回るプランを考えたのです。しかし、どうも時間的な余裕がなさそうなので、平泉は次回に回し、その代わりに三陸の浄土ヶ浜に一泊、そして小岩井農場に近い繋温泉に二泊ということにしました。繋温泉は前回「四季亭」に泊まっていて、典型的な女性好みの宿という結論で、ぼくとしては是非再訪したい宿というわけでもなかったのですが、今回、絶対に泊まりたかった湖山荘の離れ以外は、どうも他にこれという宿が思い当たらず、かといって湖山荘の離れに連泊するというところまでは踏み切れず、というなりゆきで、結局一泊はまた四季亭に泊まることにしてしまいました。浄土ヶ浜は「浄土ヶ浜パークホテル」そして、繋温泉の「四季亭」→「湖山荘」という順になりました。
浄土ヶ浜は温泉ではないのですが、まず三陸の海の幸、そして浄土ヶ浜の観光をメインの目的にすることにしました。「浄土ヶ浜パークホテル」は温泉ではないものの、露天風呂は海水を沸かしているということで、この海水風呂とはいかなるものか、ナトリウムはかなり入っているはずだが、温泉とはやはり違うのか、ということにも興味がありました。
盛岡から宮古までバスで向かったのですが、このバスの後半は何という川か分かりませんが、渓流沿いをずっと走ります。奥入瀬ほどの景色はないのですが、それに近い感じに川が流れていて飽きませんでした。
宮古から旅館の迎えの車で宿に着きました。この日は結婚式があったということで、この浄土ヶ浜パークホテルはこの地域のそのような宿であるようです。この前の団体旅行は別にして、我々としては久々の巨大旅館です。ロビーなどはそれなりに広々としていました。
チェックイン時間は2時らしいのですが、到着したのが3時ころでしたので、すぐに部屋に案内してもらえました。
案内されたのは501号室で、最上階の一番端の部屋です。角部屋にあたりますが、窓は一面にしかありませんので、角部屋としてのメリットはありません。逆に、浄土ヶ浜パークホテルは海側と松林側の部屋に分かれていて、もちろん海側の部屋の方がいいと思いますが、この部屋は一番端にあるため、左半分が海で右半分が松林という感じになっており、微妙な位置づけです。
少し広目の玄関を斜めに入る感じで踏み込みに上がると、右側に洗面とトイレと浴室がコの字型に並んでいます。踏み込み正面の部屋は10畳で右側に床の間があり、花は活けられていませんでしたが、テレビやインターフォンも置かれていません。正面に3畳大の広縁があり、椅子が二脚置かれています。広縁の右隣には壁で仕切られた、姿見のある1.5畳のスペースがあります。窓からは海と松林が見え、なかなかの景色です。覗き込みもありません。冷水は初めから置かれていますが、浴衣の気づかいはありませんでした。迎え菓子はかもめ玉子という、ひよこみたいなお菓子で、なかなかおいしいものでした。岩手の名物でしょうか。部屋は、新しかったのが、ちょっとくたびれてきたかなという感じです。
お風呂は大浴場がただの沸かし湯で、大浴場から出る形の露天が海水風呂です。大浴場の男女交代はあるのですが、一週間に一度の交替ということで、日曜のこの日は交替したばかりだったようです。なぜ、一週間に一度なのかはよくわかりませんが、とにかく初めてのパターンでした。
大浴場は大型旅館によくある形の、大きく窓をとった方の一面に沿って10人くらい入れそうな湯船があり、その反対側の一面にずらりと洗い場が並んでいるというものです。ただ、浴槽内には大きな柱が二本あり、わずらわしい印象を与えています。もちろん、循環で塩素臭もしました。
大浴場から出る露天は四角い岩風呂で、4人くらいのそれほど広くない湯船です。この海水を沸かしたというお湯は、なめるとやはり独特の味がします。やはり普段の塩泉とはまた違う複雑な味で、ただ塩が入っていれば同じようになる、というわけにはいかないのだ、ということがよく分かりました。湯船からは林が眺められ、立ち上がると向うの方に海が見えます。
食事は部屋でした。お品書きはなく、説明もありません。最初にグラスに入った赤い飲み物が出され、当然、食前酒かと思いましたが、実はこれは紫蘇ジュースでした。紫蘇に蜂蜜を混ぜた甘いもので、これは食後向きですね。最初にほとんど出されてしまう形で、後から出たのはそばと、どんこ汁、デザートだけでした。ただ、鍋や釜飯の火もこちらの好きな時につけることが出来たので、マイペースで食べられました。
いくらが単独で小皿に出され、鶏肉の茶碗蒸し、海老の麹漬けは甘い味ですがおいしいものでした。わかめとチョウザメの酢味噌和え、海鮮陶板バター焼きでは、あわび、帆立、牡蠣、しめじ、海藻、玉葱が素材です。やはり、あわびがおいしいですね。ただし、あわびはかなり小ぶりで、本当にあわびかどうか疑わしく思っていましたが、仲居さんによるとあわびだそうです。お造りはぶり、鮪の赤身、甘海老、烏賊、帆立の刺身で、烏賊と甘海老が特においしかったと思います。洋皿もあり、白身魚とパプリカと貝割れ大根にオリーブオイルとターメリックをかけたもので、ちょっと今一のところもありますが、まあおいしい方でした。わかめそば(そばにわかめが練りこんである)はいくらが入っていておいしいと思いました。鍋物はカニとサーモンと蛸の海鮮しゃぶしゃぶで、胡麻だれでおいしく頂きました。前菜の寒天や黒豆もおいしいものでした。前菜は他に茗荷とあと一品ありました。食事の鮭の釜飯はおいしかったのですが、どんこ(魚)汁は味のメリハリがなくて今一の気がしました。デザートのチョコレートムースもおいしいと思います。全体においしいとは思いますが、特にこれという飛びぬけた物がなく、また今一のものも少しあるというところです。
朝食はバンケットルームでバイキングです。バイキングというと、かつては全部食べようと何皿も持ってきて、1時間くらいかけて超満腹になって帰ったのですが、最近はどうもパワーも下がってしまって、適当に持ってきて終わりにするようになってしまいました。料理の種類は多くもなく少なくもなくというところで、味もまあまあいけると思いますが、特筆すべきことは何もないといった程度だったと思います。
温泉ではなく海水風呂というのがこの浄土ヶ浜パークホテルの一番の特徴でしょうか。ただ、やはり海水風呂は違和感があり、あまりゆっくりしたい気分にはなりませんでした。三陸の海の近くの宿なので、さすがに海の幸はおいしく、ボリュームもあります。ただし、料金がそこそこ抑えられているせいか、あるいは、今回の旅行会社の企画のせいか、これはという特筆すべきものはありませんでした。部屋も悪くはないのですが、窓から見える景色のうち、海が半分しかなかったのが残念です。今回の宿泊料金で温泉ではないことを勘案すると、この内容はコストパフォーマンスが特別いいとは言えませんが、かといって悪くもないといったところでしょうか。温泉だったら、もっとお勧めになるはずですが、そんな無理なことを言ってもしょうがありません。
 
さて、浄土ヶ浜から盛岡に戻り、つなぎ温泉の「四季亭」に向かいます。四季亭へは6年半前に大沢温泉山水閣と組み合わせて行って以来で、当時からJTBの満足度90点以上の宿によく入っていました。その時の宿泊後の簡単なメモ書きには「こちらは完璧に明月苑タイプの宿。あまり客も泊まっていなかった。食事はおいしかったが、昨日の山水閣の印象が強烈だったので、インパクトにやや欠けた。朝食はなかなか良かった。迎え菓子のくるみゆべしもよい。」
と書かれていました。川治の明月苑はそれよりさらに2年も前に行っていたのですが、どうもその頃、女性好みの小ぢんまりした宿の代表にしていたようです。典型的な女性好みの宿で、お風呂はたいしたことはなく、自分としてはあまり再訪する気の起きない宿という印象しか残っていませんでしたが、他に泊まりたい宿も特になく、また、前回女房は泊まっていませんので、じゃ、もう一度四季亭に泊まってみるかという気になったのです。
つなぎ温泉のバス停まで路線バスで行き、宿の迎えの車に乗り換えます。つなぎ石のすぐ近く、坂をすこし上ったところに、確かに、女性好みの小ぢんまりした宿という外観の四季亭があります。
3時がイン時間ですが、3時15分頃に到着したので。すぐに部屋に案内してもらえました。
部屋は302号室の「あじさい」でした。玄関と板の踏み込みを合わせて1畳もないくらいの狭い入り口で、踏み込みを上がった右側に洗面、バス、トイレがかたまっている造りです。洗面は狭いのですが隣が冷蔵庫になっていて、その上のスペースをうまく利用しています。洗面の対面にトイレとバスが並んでいて、トイレはシャワートイレですが狭目で、バスはFRPのものでした。
玄関から正面の襖を開けると、10畳の和室です。右側一面が洋服入れと床の間になっていて、床の間には花が活けられ、それ以外は一切ありません。やはりこういった床の間があるとないとでは大きく印象がちがいます。和室の先が広縁ですが、広縁の左が少し仕切られ、そこにテレビが置かれています。したがって右側の広縁部分は大体2.5畳分と、狭目です。
窓から見えるのは、前の小山を少し削った感じで作られたこの宿の駐車場で、ここは三階とはいえ、結構、駐車場からは部屋の中まで見通せそうな按配です。駐車場がなければ、小山の感じでまだいいのでしょうが、視界のほとんどが駐車場のこの景色はいただけません。下の二階の屋根部分が張り出して、石庭のように造られているのですが、覗きこむように見ないと見えないし、この殺風景な景色には焼け石に水といったところです。
全体に部屋は狭い感じであり、また、6年半前に比べ、やはりいささか古くなったことや、まるでぱっとしない窓の外の景色と合わせて、部屋は設定された2万円以上の料金には見合わない印象です。16000円くらいでも、はるかにここよりいい部屋のところはあります。
迎え菓子は今回もくるみゆべしで、これは相変わらずとてもおいしいものでした。浴衣の気づかいはあり、冷水も初めから用意されています。
風呂は男性は一階、女性は二階で、交替はなく、24時間入浴できます。ここも小ぢんまりした、一般型のごくふつうの大浴場で、長方形の浴槽は5・6人といった感じでした。脱衣所にはバスタオルと冷水機が置かれています。湯上がり処というのは特にありません。
露天は大浴場から出る形の石風呂でした。庭にいくらかの奥行きがあるので、囲まれているのよりは少しは落ち着ける気がしました。大浴場と合わせて、もう少しちゃちなお風呂だった気がしたのですが、意外にそうでもなく、今回はそんなに悪く思いませんでした。これも前回の前泊が大沢温泉だったからでしょうか。お湯はやや高めの適温で、かすかな硫黄臭がします。甘い味でした。
夕食は部屋です。まず仲居さんに、テレビはご覧になりますかと聞かれました。聞かれたのは初めてだったと思います。家ではテレビを見ながら食事をするのですが、旅先では一切テレビを見ないことにしています。「いいえ、見ません」と答えましたが、見ると答えた人にはテレビに向って二つ並べて配膳するそうです。半分以上の客がテレビを見るそうで、中にはまったく会話せず、テレビを見ている客もいるということです。
それはさておき、食事はお品書きがあり説明もあります。神無月のお献立というタイトルがついていましたので、月替わりだと思われます。食前酒が「柚子の露」という、柚子に焼酎と水を入れたものだそうで、さっぱりしておいしいものでした。箸染の「柿の白和え」は、とても甘い柿を使った白和えにクコの赤い実を乗せたもので、その柿の甘さが生きています。椀の「松茸と秋鯖菊花巻き」には、味が染みていておいしい湯葉団子も入っています。鯖がとてもおいしいのですが、惜しむらくはその鯖の強さに松茸が負けている嫌いがありました。刺身の「鮪大名作り・白身(すずき)切り重ね・北寄貝・白牡丹海老」は新鮮で冷えていてとてもおいしいものでした。中でも北寄貝と白牡丹海老は特に良かったと思います。籠に入った口替りも、「鮭小袖寿司・鮎有馬煮・鴨ロース煮・里芋・網茸、みずこぶ・太刀魚南蛮漬け」と色とりどりで楽しめました。これは特に鴨ロース煮がかなりおいしいものでした。鉢肴が「焙烙焼き」でこれは目鯛、鞘巻海老、ベーコン巻き、丸十芋、甘長唐辛子、半熟玉子、香母酸を焙烙で焼いた物ですが、各素材が生かされて、全体のハーモニーを感じさせるものになっていました。蒸し焼きになっているので、素材の旨みがとても生きていて、何本か入れられた松葉の香りが微かに行き渡っています。焙烙は塩を敷きつめた感じでは全くなく、仲居さんの説明によると、中に熱した石を入れ、容器自体は火にかけないで蒸し焼きにするということだったのですが、ぼくの知っている焙烙焼きは中に塩を敷きつめ、容器ごと火に掛けて蒸し焼きにするもので、仲居さんの説明は本当かなあ?と疑わずにはいられませんでした。ただし、出されたものを見ると、確かに説明の通りの気もしないではありません。中でも目鯛吟醸焼きは非常にうまく蒸し焼きになっていました。温かい物として「青大豆の寄せ豆腐」が出され、これはしょうが味の餡がかかっていておいしいものでした。煮物の「馬鈴薯饅頭あられ揚げ」もおいしいのですが、それまでほどのインパクトはありません。替わり鉢の「黒毛和牛(北上牛)鉄板焼きバター・胡麻だれ」も上質の肉のおいしいものでした。食事はちりめんじゃこの入った御飯と、じゅんさいの味噌汁で、これもそれぞれおいしくいただきました。水菓子として、「林檎、葡萄、柚子のシャーベット」が出されました。
最初に食前酒、箸染、口替りの三品が運ばれ、あとは一品ずつ出されるという形です。全体で1時間40分程度で、最初は快調だったのですが、最後にやや間延びしたのが残念でした。
朝食も部屋です。ここの特徴は何と言っても、朝食にもお品書きがあるところでしょう。お浸しの露地物葉菜は小松菜・三東菜などで、この日に市場に出たものを使うそうです。焼き物は「はたはたの一夜干」が二尾です。おいしいのですが、これは5月に皆生温泉の菊の家で食べた方が旨みが濃かった気がします。小鍋仕立には、がんも、つくね、里芋、人参、ブロッコリーが入っており、豆腐の盛岡名物寄せ豆腐は県産大豆(岩泉町産)を使用した寄せ豆腐で、プリンみたいな食感でした。生野菜が岩手純情野菜のサラダと生ハムで、蒸し物の温泉玉子(小岩井農場の「農場たまご」を使用して作ったもの)はさすが、こくがあっておいしいと思いました。皿の焼き海苔と、牛乳が「小岩井の成分無調整牛乳(ビン入り)」、そして、味噌汁が小川原湖の蜆汁(白の地味噌と赤の粒味噌の合わせ味噌仕立て)で、宍道湖の味噌汁を思い出しました。ご飯は岩手県産米ひとめぼれ100%の米だそうです。水菓子「季の物」は洋梨の赤ワイン漬けフランボワーズジャム?と共には、まあまあというところでヨーグルトもかかっていました。全体的にバランスの取れた非常においしい朝食だと思います。わざわざお品書きを出すだけあって、朝食にもリキが入っているという感じでした。
この宿は、書いたように料金の割には部屋は良くありません。最初女房はかなり不満そうで、ここが女性好みの宿だというと信じられないようでしたが、食事をして納得したようです。また、担当の若い仲居さんは、口数は少ないのですがするべきことはきちんとする人で、じゃじゃ麺のお店を調べて地図をコピーしてくれました。布団を敷く時間を聞いたり、次の宿泊場所の湖山荘まで荷物だけを運んでくれたり、客の立場に立つことができる宿です。部屋が大したことのない割には、女性のグループやリピーターも多いようです。確かに、食事は評価できると思います。料理を食べにだけでも来たい宿になりました。また、お風呂は前回感じたほどではなく、そんなには悪くない印象でした。部屋さえ何とかなればあまり言う事はなくなるのですが、この部屋という表現には内装や広さだけでなく、外の景色も含まれていますので、これを何とかなるように変えるのは大変かもしれません。とにかく、それでも部屋の欠点を食事で補い、総合的には好い印象が残りました。
 
いよいよ、去年の岩手の旅も最終章となりました。
四季亭に荷物を託し、小岩井農場でゆっくりした後、最終目的地の「湖山荘」へ向います。この「湖山荘」は何人かのHPで露天が広いということや、さらに離れが良く、ここへ行くなら離れに宿泊すべきという耳知識を得ていました。それも旅館系の人だけでなく、温泉系の人もかなり宿泊しているのがここの特徴のように思えました。
離れは3室しかなく、部屋付きの露天があるのはそのうちの1室のみで、あとの2室は内風呂しか部屋に付いていないということで、泊まるなら同じ離れでも露天付きの部屋、というのがここの常識のようでした。しかし、何しろ行くのが旅行シーズンの10月で予約の電話をしたのもそれほど前ではありませんでしたから、露天付きの部屋は取れるはずもなく、離れの部屋が取れただけでも良かったと思うことにしました。
チェックインは3時なのですが、早めに小岩井農場を後にしたので、2時15分に到着しました。しかし、3時になるまで部屋には入れないということでした。確か、お風呂には入れるということで、入りませんかと言われたと思ったのですが、記憶は確かではありません。ただ、浴衣を先にもらえるわけではなく、また洋服に着替えなければならないのが面倒くさいので断り、玄関前にある足湯に入っていましたが、これも20分も入っていたら飽きました。玄関横の腰掛形式の囲炉裏がある小部屋で休んでいると3時になり部屋へと案内してもらえることになりました。
離れへは外の離れ用の門をくぐってまっすぐ行きます。部屋は三軒並んだうちの右端の「岩鷲(がんじゅ)」という部屋でした。玄関を入ると、玄関と踏み込みを合わせて3畳ほどの空間があります。左の襖を開け、やはり3畳分くらいありそうな廊下に出ると右側にこの部屋の売りである大きな内湯があります。この大きな内湯はもちろん温泉で、総青森ひば造りだそうです。14畳分ある浴室の窓側半分の7畳が木の湯船になっています。湯船の右側は浅い寝湯になっていて、全面に取られた大きな窓から眺められる御所湖の風景も素晴らしいものでした。浴室全体も木で出来ていて、とても落ち着くお風呂で、普通の秘湯の宿の大浴場と言えるくらいの雰囲気を持っています。お風呂の入り口に秘湯を守る会の提灯を下げたくなりました。部屋付きの温泉内湯としては、今までで一番良かった気がします。また、脱衣所もシンクが二面ある洗面とつながっていて全体的に広々としていました。
その洗面の手前にトイレがあり、ここも広々していて、トイレ内に手洗いも着いています。もちろんシャワートイレで流しボタン付きでした。
廊下の左手は6畳の前室と8畳の主室が続き、さらにその先に五畳くらいの板の間の広縁が設けられています。広縁には二脚の椅子が置かれ、それに座って眺める広々した御所湖の景色は素晴らしく、手前のもみじがちょうど紅葉していたこともあって、上方に見える岩手山のシルエットと相まって何とも言えない癒される景色です。もちろん、覗き込みなどはなく部屋から眺める景色としては特上の部類に入ります。朝食の時には白い鳥が二羽、その景色を背景に飛んで、これまた心に残りました。仲居さんによると白鳥ではないかということでした。
ただ、部屋全体としては広くて新しいのですが、一畳大の床の間には花も活けられておらず、ポットが置かれていたし、特に調度に関してもこれと言ったものもなかった気がします。高級な部屋というよりも、ただ広い部屋という感じでした。
迎え菓子は栗と白餡の焼き菓子という手造り感あふれるもので、おいしく、食事のデザートを期待させるものでした。浴衣の気づかいもあり、浴衣は二枚ありました。
風呂は夜12時交替で24時間入ることができます。露天は確かに交替だったのですが、内湯に関しては入る気がなかったせいか、交替だったかはよく覚えていません。
風呂は露天と内湯が分かれていて、露天は本館の離れに近い端のほうに独立してあります。内湯は本館の建物の中に二つあります。本館の離れ寄りに一つ、離れとは反対側の本館の一番端に一か所です。離れ寄りは御所湖の景色はいいのですが、小さいものです。本館の端の方にある風呂は景色が今一だし、古い感じです。結局、露天風呂以外は部屋の内湯に入りました。本館の二つの風呂より、部屋の内湯のほうがよっぽど魅力的だったのです。
露天は男女それぞれかなり広い岩風呂です。最初男性用は、周りを石垣と黒塀に囲まれて、その四角い区画のほとんどが湯船になっています。正面の石垣を伝ってお湯が流れ込むという、凝った造りで、相当の人数が入れそうです。ただ、湯船につかって見渡すと、何か落城したお城でお風呂に入っている感じがします。ちょっと寂れた気配があって、お湯につかりながら、なぜか荒城の月を思い出してしまいました。お湯は場所によって温かったり熱かったりしましたが、全体的に適温ではないでしょうか。
夜中の12時に交替した方は、それほど寂れた感じはなく、湯船以外に庭らしさを感じさせる植物が植えられたスペースもあって、最初男性用の露天よりずっと印象は良いものでした。ただ、今回は部屋の風呂が非常に気に入ったので、ぼくには珍しく露天にはそれほど長時間は入りませんでした。部屋のお風呂は流し切りで、露天も多分、流し切りだと思われます。
食事は部屋でです。お品書きがあり、説明もありました。「畑のお豆腐」が先付けに当たるものだと思いますが、枝豆豆腐とえごま豆腐の二種類が羊羹を厚く切ったような形で並んでいます。枝豆は甘みがあるちょっと不思議な印象のもので、もう一つのえごまの豆腐の両方ともにお菓子みたいな感じがしました。「地鶏味噌」の小鉢と、前菜に当たる「山川の幸」はあみ茸とほうき茸、山菜のみず、栗の渋皮煮、岩魚の一夜干しの5種類がほんの少しずつお皿に載せられていました。ほうき茸は水っぽくて今一でしたが、みずはしゃきしゃきしておいしく、栗の渋皮煮もおいしいものでした。野菜と南部かしわ鶏の冷しゃぶは今一、味が無く、ちょっとぱさぱさしている感じでした。川魚のお造りは、山女と紅鱒と岩魚というラインナップでしたが、山女は小さくて今一味がせず、虹鱒はパンチが弱いと感じました。岩魚も味がしません。全体的に張りがなく、弱々しい感じの魚たちでした。ここまでが最初に出され、この後は一品ずつでした。「雫石牛と短角牛の炭火焼」は雫石牛が黒毛和牛で柔らかくておいしいものでした。短角牛は初めて食べましたが、サシの入った柔らかくてジューシーな黒毛和牛とはまったく違い、周りが硬い感じなのですが味わい豊かで、噛み応えがあり、噛むほどに味が湧き出てくるといった感じの独特の牛でした。付け合せは北あかりというじゃがいもです。「秋野菜の豆腐饅頭」はまあまあといったところ、「地野菜と山菜の揚物」については、椎茸・舞茸はおいしかったのですが、みずの芽はそんなにおいしさは感じず、長芋・茗荷はまあまあといったところでした。「岩魚の塩焼き」は非常においしく、串以外はすべて食べられるという状態の文句のないものでした。「舞茸ご飯」もおいしくいただきました。期待したデザートの「秋の冷菓子」は山葡萄のムースで、おいしいものでした。仲居さんに聞くと、食事は本館と離れとは若干違うだけだそうです。本館とは料金はかなり違うと思うので、その割には食事にはたいした差はついていないようです。
食事に使った竹箸は夕食後に絵付けをして持ち帰ることができます。僕などはこんな企画でもないと絶対にやらないことなので、それはそれで楽しいものでした。
朝食も部屋です。林檎ジュースが出ましたが、紅将軍というりんごを皮ごと摺ったものだそうで、ピンク色でつぶつぶが入っているおいしいジュースで、こういったりんごジュースは初めてでした。納豆と牛乳もあります。この牛乳は小岩井牛乳ではないそうですが、おいしいものでした。大きなお皿に少しずつ載ったものが六種類ありました。しゃきしゃきしている青菜と、菜の茎などを胡麻で和えたもの、茸、岩魚の甘露煮、里芋の煮物、もろみ味噌で、濃いものは濃い、薄いものは薄いと、味のメリハリがあって良いと思いました。他には青大豆の寄せ豆腐と、濃厚でおいしい温泉たまごが付きました。五分突きの麦が入ったご飯に味噌汁で、味噌汁はちょっと味が薄い感じでしたが、他の辛いものを食べた後で飲むとおいしく感じました。最後に食後のコーヒーも付きます。素朴ですが、地の素材が生かされていたおいしい朝食だったと思います。
ここは女将はいないとのことでしたが、そのかわり、目に入った従業員はほとんどが女性だった気がします。送りの車の運転も女性でした。フロントや部屋係の女性もみな非常に低姿勢です。ただ、3時まできっちりと待たせられたのは残念でした。また、女房が早めの水を頼んだ時も、すぐには動いてくれなかったようで、ちょっと杓子定規のところがあるかもしれません。いくらかの融通を利かせられると、いいと思うのですが。
評判の、広い露天はぼくにとってはそれほど強い印象のあるものではありませんでしたが、部屋の眺めと部屋の内湯は特一級です。これで料理が前泊の四季亭並みだったら言うことはなかったのですが、いつものことながら、うまくいかないものです。また、ビールが安いのも特筆もので(いくらかだったか忘れましたが)、竹箸の絵付けも楽しいものでした。客に対する融通が利かせられる臨機応変さと、夕食のレベルアップがただただ望まれます。これさえかなえられれば、非常にコストパフォーマンスの高い宿になることは間違いありません。

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秘湯の宿のスタンプ帳の三冊目がようやく一杯になったので、予定通り「かつら木の郷」にご招待で行くことにしました。ただ、いきなり奥飛騨までは遠いので、どこかで前泊することにして、いろいろ検討した結果、松本からのバス路線の途中にあり、クチコミや旅館系ページでも高評価の「しおり絵」が前泊の宿としては最適ではないかという結論に達しました。
しおり絵はチェックイン時間が2時なのですが、バスを降りて宿に着いたのは2時半くらいでした。明るいロビーで蕎麦茶と蕪の漬物をいただき、すぐに部屋へと案内されました。ここはスリッパがなく、フロントの床はフローリングでした。部屋は201号室の「にりんそう」というところでした。カーペット敷きの階段を上がって畳廊下に出たら、少し戻る感じの端の部屋です。模様が入れられたスチールのドアを開けると、3畳大の板敷きの踏み込みがあります。踏み込みをはさんだ正面が、引き戸を開けると明かりが付くタイプのトイレで、シャワートイレです。ただし、トイレ内に手洗いはありません。トイレの右隣が洗面所で一畳大の広さのある広目の洗面台でした。男性用と女性用のアメニティの瓶が3種類ずつ並び、さらに爪切りもついています。女性用に幅広のヘアバンドが用意されていたのは初めてだったでしょうか。手洗い用のタオルも二つ掛けられていました。
洗面所の先の襖を開けると、10畳の和室です。真ん中に大きな民芸調のこたつがでんと置かれ、ゆったりとしていてここで食事をしたい気分になりました。こたつは最近、出したばかりだそうで、こたつ好きの女房が喜んでいました。その先に3畳大のカーペット敷きの広縁があり、しっかりした椅子が二脚、窓の方を向いて、ハの字型に並んでいます。割と狭いので、ハの字にしないと、ひざがつかえて座れないのです。窓からは、下の部屋の石庭と、左に男性用露天風呂の先の部分、その先の梓川と遠くに道と木々、山の斜面がみえます。特に景色がいいというほどでもなく、まあまあといったところでしょうか。
広縁には、端に大きくて丈夫そうなタオル掛けが置かれていました。広縁の右側が、一畳半くらいの化粧コーナーという感じになっていて、小さな鏡台とスタンドが置かれ、上が小さな窓になっています。部屋の右手前には大きな、コートも余裕で掛けられる洋服入れがあり、その先、右手中ほどに1.5畳大の畳の床の間がありました。床柱のないタイプで、床の間にはいわさきちひろの絵と、ちゃんと花が活けられていました。
床の間に対面する、部屋の左側には壁全体にいくつもの棚が仕切られ、そこにお茶セット、テレビ、金庫、冷蔵庫、ポット、コーヒーメーカーなどすべてが納められていて、かなり合理的な壁の造りになっています。冷蔵庫は空で中に水が入ったポットだけが入っていました。迎え菓子は干しいもとさくらんぼのドライフルーツでした。さくらんぼのドライフルーツはけっこう甘味が凝縮された感じで、干しいもは普通です。特に特筆すべき迎え菓子ではありません。部屋でのお茶出しはありませんでした。
浴衣は、ロビーで男女とも好みの柄とサイズが選べます。男性は種類が少ないのですが、男性も選べるのは初めてではなかったでしょうか。キーも二つあり、明るく、小ぎれいでゆったりできる、この料金の部屋にしては申し分のない部屋といっていいと思います。
ここのお風呂に関してですが、大浴場に当たるところは、あるのは洗い場と露天のみで、内風呂は貸し切りの一つのみにしかありません。貸し切り風呂はチェックイン時の予約制で、浴槽が桧、床が畳という造りです。この宿はできてからそれほど年数が経っていないのに、桧の浴槽は最近替えたばかりだそうで、新しい桧のいい匂いが浴室に充満していました。
大浴場は男女交代がなく、11時までです。この大浴場は変わっていて、入るとまず通路を兼ねたところに洗い場が五か所あり床暖房が利いています。そこを通って、もう一つのドアで仕切られている外に出ると、そこが露天になっているという具合です。ですから、露天のみの大浴場とはいえ、熱海石亭とはちがって、寒さの中で体を洗う心配はありません。つまり、一般的な旅館の大浴場から出るタイプの露天に、内湯だけがない感じでしょうか。
露天は洞窟岩風呂と名付けられているのですが、全部洞窟ではなくて、洞窟部分は最初の3メートルほどで、そこを出れば、あとは一般的な露天です。周りをかなり囲まれてしまっているので景色はよくありません。8人から10人くらい入れそうな広めの露天で、やや温めの適温というところでしょうか。どっぷりと浸かって、長いこと入っていられるお湯でした。無色、無味で湯の花などはありませんでしたが、かすかに温泉の匂いがしました。中の湯からの引き湯とのことです。湯上りどころはなく、ロビーにポットに入った冷水が置かれていました。
食事は一階の大部屋の食事処でいただきます。一つ一つのメニューが絵で表された、絵入りのお品書きがテーブルに一枚置かれていました。そのせいか、特に説明はありません。最初に置かれたのは食前酒と前菜のみで、後はお造りからお品書きの順番どおりに一品ずつ運ばれました。全体的にちょうどいいペースでした。
食前酒はあんず酒で、これはそれほどアルコールを感じず、甘くはありますがさっぱりしていました。前菜のうち、南京ようかんはこってりというか、ねとっとした甘さがあるもの、いたや貝の有馬煮がおいしく、サーモン手毬寿司はごはんがぎゅっと締まっていてこのサーモンもおいしいものでした。栗のいが揚げは外がしゃきしゃきして中の栗が柔らかくねっとりしています。子持ち昆布土佐漬けもしゃきしゃきしておいしいもので、その他、衣かつぎ雲丹焼き、りんごワイン煮、がありました。前菜好きのぼくにとっても満足の行く前菜でした。お造りは大鱒の洗いのいくら(大鱒の卵)添えで、大鱒は川魚にしてはしっかりした歯ごたえがあり、臭みも全然なく、これは造りも卵もおいしいものでした。このお造りは、つまにも、大根と人参でしおりを表したものなど、色々手の込んだ工夫が凝らされていて、楽しめました。続いての蒸し物は地物茸七種ホイル蒸しを自家製ポン酢で食べるもので、かなりおいしいといえます。焼物は岩魚の塩焼きか、岩魚の柚子香焼きのどちらかを選ぶもので、ぼくは柚子香焼きを選びましたが、これは岩魚に醤油のたれを塗って、振り柚子をしたものです。しっかりした味で、尻尾の先まで全部食べられる、絶品でした。凌ぎは、女将の手打ち蕎麦で、細めで歯ごたえがあって、おいしくいけるお蕎麦でした。地物は信州牛のサーロインの辛こしょう味噌(唐辛子を刻んで作った自家製味噌)焼きです。味がしっかりしているのですが、それが肉の旨味と見事に調和しています。肉そのものの味を純粋に楽しみたい人にとっては異論があるかもしれないのですが、一つの料理としては文句のないもので、これも絶品と言えます。揚げ物は百合根のかき揚げがほくほくしておいしく、地物の高麗人参は小ぢんまりとまとまっていました、酢の物は秋茄子の味とジュレ酢の酸味とが絶妙なバランスを保っています。むかご御飯は上品な味で、淡白だが風味豊かという感じです。このむかご御飯が夜食のおにぎりになるのですが、その時に必要な数を聞いてくれます。漬物もみんなおいしいものでした。甘味物は季節の果物がとね柿で、これは柔らか過ぎず、固すぎずの絶妙の固さで、おいしいものです。それと地物の抹茶アイスもいけました。
ここは料理の内容が変わるのは不定期だそうで、その時々の食材の変化に合わせるようです。連泊はOKなのですが、三連泊は板長と相談してからということでした。食事は満山荘といい勝負だと思いますが、ボリュームがやや少ないのが欠点でしょうか。とはいえ、全体的に非常においしい食事で、時間も2時間くらいかかったと思います。ボリュームが少なく感じたのは、あるいは、もっとこの料理長の料理を食べてみたいという気持ちが、そう思わせたのかもしれません。
朝食も同じ場所でした。野菜ジュースが出され、大鱒の照り焼き、セロリの漬物、山葵漬け、ウインナー、蒲鉾、佃煮の載った長細いお皿が手前に置かれます。海苔、それに卵は、温泉卵、生卵、卵焼きの三種から選べます。温泉卵を選んだのですが、これは出汁が薄味で卵と出汁とのバランスが非常にいいものでした。風呂吹き大根もあり、柔らかく仕上がっていました。中でも胡麻豆腐や小松菜とエリンギのバターいためがおいしいものでした。あと、茸の味噌汁とデザートはりんごです。また、朝食中に希望を聞いて、部屋に食後のコーヒーの用意をしてくれました。夕食ほどの強烈さはありませんでしたが、胡麻豆腐にはその片鱗が見られ、ともあれ、おいしい朝食でした。
夕食のとき、女将さんと少し話ができたのですが、この宿は5年前にできたそうです。最近は古民家風の暗い宿がはやりなのですが、ここはその逆を行って、新しく明るくしているということでした。温泉は伝統のあるところにはかなわないので、旅館の新しさ、きれいさを保とうと努力しているようです。今の8部屋が顔と名前を覚えられる限度だと言っていました。
さて、全体的に非常に好印象だったこの旅館なのですが、夜、布団を敷くとき、大きな炬燵を広縁に押しやるため、その先の広縁の椅子が、ぴったり押し付けられて、座れなくなってしまうのが大きな欠点です。また、内湯の大浴場がないというのも欠点とまではいきませんが、弱点かもしません。それに、書きましたが、夕食のボリュームがもう少しほしいところです。しかし、気になるのは以上の3点くらいで全体的には欠点の少ない宿といえるでしょう。特筆すべきは夕食のおいしさで、絶品評価が3つもあったのは最近にはないことだったと思います。また、女将さんの客に対する姿勢が非常にいいですね。夕食時のこちらの質問にも嫌な顔をせずに答えてくれたし、8組の客の顔をすべて覚えようと努力している点も素晴らしいことです。まだ、5年しか経っていないのにもう桧の浴槽に手を入れている点から見ても、旅館の保守に関する心構えもしっかりしていると言っていいでしょう。非常にコストパフォーマンスのいい宿であると言えます。
 
いよいよあのかつら木の郷です。
前回の「かつら木の郷」の報告にも書いたように、サービス面でのひどい評価はあったものの、部屋・風呂・食事が良く、行った段階ですでに、次回のご招待はここかな、という予感はありました。結局、10個スタンプがたまった段階で、やはり、「かつら木の郷」にしようということになり、初めは11月はどうかなと思ったのですが、予約状況を見てみるとすでにかなりの部屋が埋まっていたこともあって、一月延ばして12月にすることにしました。そのおかげか、無事にご招待の予約も予定していた日に取れました。
前回は前泊の新穂高温泉郷からすぐに行って、かなり早い時間に着いてしまったため、ひどい目にあったということもあり、今回はちょっと離れている「しおり絵」にしてみたのです。バスで平湯温泉まで行き、軽い食事をしてまたバスで福地温泉に着きました。前回よりも遅いとはいえ、まだインの時間まで余裕があるということで、やはり舎湯に寄ってみました。足湯でしばらくゆっくりし、じゃ行くかと舎湯の玄関に出たときにちょうど旅館の関係者らしき人とすれ違い、「こんにちは」と明るく挨拶してくれました。その時、ぼくは「あれ〜っ?」と思ったのです。もしかして、この人は、この前の「かつら木の郷」の若主人じゃないか・・と。しかし、前回は迎えに来てくれたときにちらっと、顔を見ただけで、そのあとは、車の中で背中としゃべっていただけですので、確信がありません。その人は小型の車で来ていて、女房がその車を見ていました。
今回は2時40分に到着。ロビーでお茶、と前回と同じ「かたりべ」という、きな粉を固めて砂糖でくるんだような感じの迎え菓子をいただき、しばらくして部屋に案内されました。前回のような、ロビーのあちこちの客が常連風を吹かせる風もなく、まだ、前回ほどの数の客も到着しておらず、ごく普通のロビーの印象でした。
今回の部屋は202号室の「陽明庵」というところでした。外通路沿いの長い渡り廊下を歩いてきて、突き当たる一つ手前の部屋で、前回は突き当たりの201号室「山紫庵」でしたから、その隣の部屋になるわけです。
木のドアを開けて入ると、畳一畳分の板の間があります。右手の台の上に花瓶が置いてあり、花ではなく、葉のついた枝が入っていました。上がり口に、使い捨ての白いスリッパとマジックが置かれているのは以前と同じです。板の間にスリッパを脱いで上がると、そこはもう6畳弱の控えの間で、控えの間の真ん中にいろりが切られています。正面に大きな窓が取られていて、道路沿いの景色や窓の正面には山が見えます。この控えの間の右側に1畳くらいの広めの洗面所があり、洗面所に向かい合う形で、シャワートイレがあります。控えの間の左隣に10畳の主室があり、真ん中に炬燵が置かれています。主室の右側に控えの間と並んで窓があり、同様に、山、周りの道路、雑木などが見えました。窓に向かい合う形で1畳大の床の間があり、花がしっかりと活けられ、ティッシュとインターフォンが一段低い手前の板の部分に置かれていて、床の間にはメガネの入った文箱だけが置かれています。床の間の左にテレビの置き場があり、その下が金庫になっています。やはり、部屋でのお茶出しはなく、部屋には前回同様、夕食後に福地情話という平べったいお菓子が置かれていたました。
前回の部屋の様子などすっかり忘れていましたが、大体、似たような感じだったと思います。前回評価した、クローゼットの大きさですが、今回、ぼくはあまり気にしなかったようで、メモにはありませんでした。ただ、多分、前回同様に大きかったと思います。
ところで、この部屋に案内されるとき廊下から外を見たら、さっきの舎湯で見た車が敷地内に置かれていました。やはりあの舎湯の愛想のいい人は、前回の無愛想なここの若主人だったのでしょうか・・謎です。
お風呂は前回と同じなので割愛させていただきます。ただ、前回はあまり気にならなかったのですが、露天、内風呂とも浴槽の底がざらざらした感じになっていて、女房はこれが痛くて気に入らない様子でした。前回は何も言わなかったのですが・・
ぼくとしては、言われてみれば確かにそうかな・・程度です。
食事は個室の食事どころです。個室とはいえ、隣の声はかなり良く聞こえる、二組で一室の仕切り壁タイプのものだったと記憶しています。
「暮古月のお献立」と題されたお品書きと説明もありました。食前酒(飛騨りんごワイン)は、あっさりしたさわやかな味で、ちょっとアルコールを感じる程度で、先付けは(フワフワきのこ(原木舞茸、しめじ、木くらげ、百合根)の茶碗蒸し(すり身と山芋が入っている)でした。餡が固めの、ちょっと変わった茶碗蒸しです。秋の籠盛りという前菜は、春菊としめじの白和えは春菊が効いていておいしく、金時豆、あまごの甘露煮まあまあ、なつめの甘露煮は甘味が効いている感じ、一度揚げた慈姑はほくほくとして、いい味がついて、かぼちゃはさくっとしたおいしさという不思議な食感で、飛騨牛の手鞠寿司がおいしい、といったところでした。おいしいものはあるのですが、甘いものの多い前菜というところが今一の気がしました。甘い物が多すぎです。料理長はお酒は飲むらしいのですが、何で前菜にこんなに甘いものが並ぶのかが良く分かりません。
続いてのお椀は、白菜だんごスープ仕立てというもので、白玉団子に、鶏がらのスープだそうです。このお椀は、和食の椀物というより、まさにスープという感じです。おいしいけれど、洗練されたところはなく、中のお餅はとろっとして、おしいかったのですが、無理やりという印象でした。造りは川鱒と大岩魚のなめこ醤油(湯がいて叩いたなめこを醤油で味を調えたもの)添えで、なめこ醤油はおいしく、岩魚もおいしく食べられます。なめこ醤油の上に、茄子、岩魚、川鱒が積み重なっているという変わった形のお造りで、おいしいものでした。ただこれも、見た目無理やりの印象は免れない気がしました。焼物のひだ牛炭火焼はおいしい飛騨牛でいい肉です。この前よりもおいしい印象がして、なかなかいいと思いました。岩魚炭火焼は塩加減がちょうどよく、ふわっとしてよく出来ていると思うのですが、ちょっと骨が残りました。ごへい餅はご飯を握って、一度揚げて、調合した味噌を塗ったもので、非常においしく、なかなかのものです。平湯のバスセンターで昼に食べた物とは月とすっぽんの上出来でした。口替りの紅茶ゼリー、りんご餡掛けは、さっぱりしたデザートみたいな感じです。揚げ物のしゃきしゃき団子と皮付き里芋の揚げ出しは、下にさつま芋、上に蓮根のお団子が重なった、これもお造りに似た、上に積み重ねた変わった形の揚げ出しですが、これはまあまあおいしいというところでしょう。ごはんは焼きおにぎり茶漬けです。デザートは南瓜のムースで、上に抹茶と小豆が乗っています。悪くはないのですが、取り立ててという感じでもありません。
全体的にまあまあの夕食でしたが、これといった切れ味はない気がします。全体の流れとしても、どうかなというところで、流れがあまり感じられません。
料理長が代わってもうちょっとで一年になるそうで、前の料理長の下で働いていた人が昇格したそうです。メニューは徐々に新しい料理長の色を出しているようで、評判はお客さんによりけりということでした。確かに、五平餅など、伝統的なメニューはしっかりと味が継承されていると思いますが、自分らしさを出そうと工夫しているところが、まだ意図通りには表れていません。また、その工夫の方向性にも疑問点がつくところがある気がします。新しい料理長はまだ20代ということでした。料理は明らかに前回より落ちた印象です。
朝食も同じ場所です。飛騨のトマトジュースが出されますが、おいしいものです。前菜みたいな感じで、ぜんまいと焼き豆腐、里芋(ちょっと固め)、こんにゃく、さや隠元、大根(よく味が染みていておいしい)の煮物が盛られた器がありました。温泉卵とよもぎ蕎麦が一緒に入った器にそばつゆを入れて食べる趣向は変わったものです。魚は鮎の一夜干で、これはおいしく、味噌汁代わりの田舎鍋は豚肉などが入っている具沢山の鍋で、豚汁みたいな感じです。滋味豊かという印象のものでした。朴葉味噌、厚揚げ、しし唐、これと鮎の一夜干しはすべて網に載せて焼きます。ころ芋は固めの甘辛煮ですが、甘めの味付けの汁にいろいろなエキスが良く出ていておいしいものでした。デザートがメロンと柿です。朝食はおいしく、満足できましたが、考えてみたらこの内容はほとんど前回と同じです。季節は前回が4月、今回が12月と大分変わっているのですが、そうすると、一年を通してこの内容なのかもしれません。ただ、これは家に帰ってきてから、前回の内容を調べてみて分かったことで、食事中は新鮮な思いで、おいしく食べることができました。記憶力が悪いというのも、いいこともあるものです。
前回は若主人の感じや、従業員の印象が悪かったのですが、部屋、風呂、食事内容がよく、今回のご招待の宿の選定となったわけです。ただ、今回は驚きがなくなったせいか、部屋も風呂も特段の感激はなくなってしまいました。これはただ、あくまでもこちらの受け取り方の変化で、旅館自体には何の責任もないことなのですが、唯一、食事に関しては明らかに前回よりは落ちたと思います。洗練された感じがなくなっています。ただ、飛騨牛や五平餅など、以前から受け継がれている物は確かに前回同様においしいものでした。
また、前回は非常に忙しそうで話ができず、残念に思っていた若女将とやっと話せたのですが、やはり非常に感じのいい人でした。従業員のどこか冷たい感じは、相変わらずなくはないのですが、今回夕食の担当をしてくれた若い女性は、よく質問に答えてくれたと思います。とにかく、若い料理長の成長と飛躍を願いたいところです。
 
さて、せっかく奥飛騨まで行ったのだから松本近辺でもう一泊しようと思い、どこがいいかと考えたのですが、どうもこれといった宿が思い当たりません。結局、どこかすでに行ったことのある宿の再泊も候補に入れて考えました。再泊となると、扉温泉の明神館が、前回行ってから何年も経つし、前回の印象もよかったし、何年か前にリニューアルしたし、ということで俄然浮上してきました。
明神館は、松本駅から宿まで送迎してくれるのですが、最初の迎えの時間が3時丁度なのです。インの時間が3時ですので、宿に着く時間は3時半をまわってしまいます。これは前回のときもそうで、ぼくにとってはマイナスポイントなのですが、公共のバス路線はなく、タクシーだと料金が相当かかりそう、ということで今回も3時の迎えの車で行くことにしました。
迎えの車では多くの宿泊客と一緒になったのですが、宿に着き、靴を脱いで室内に上がると同時に「○○様」と呼ばれ、すぐに担当の男性の案内係がついて、そのまま、あれよあれよという間に部屋へと案内してもらえました(ただ、これは後で述べるような事情があったからのようです)。
部屋は「お鷹棟」の310号室「竜胆」です。絨毯敷きの廊下から、ドアを開けて入ると、1畳半大の黒い大きなタイルが貼られた玄関です。木を焼いた感じの濃茶のフローリング(下に炭を敷いてあるそうで、空気の浄化と温熱効果があるらしい)の三畳大の踏み込みの右側に木製の大きなクローゼットが置かれ、これは開けるとギーという音のする年代物でした。クローゼットの反対側、踏み込み左のドアを開けると、バスとトイレと洗面が組み合わさった部屋になり、洗面は畳一畳大と広目です。ドアを開けた右が洗面で、左側がバスルームですが、バスルームは洗面との境いの壁とドアがすべて透明ガラスでした。このバスルームはタイル張りなのですが、タイルが茶色っぽい明るいおしゃれなものなので、タイル特有の冷たい感じはまったくしませんでした。バスルームの奥、右手にガラス繊維か何かでできた感じのちょっと狭目の浴槽がありますが、バスルーム全体はけっこう広くなっています。洗面の左隣がドアのない腰高の壁とすりガラスとで仕切られた空間でシャワートイレが据えられていました。
踏み込みの正面は洋室なのですが、変わったことに襖があります。襖を開けると、踏み込みと同じ色のフローリングが続き、10畳くらいの広さでしょうか。右側に液晶テレビと真空管がむき出しになったアンプのステレオセットが置かれていました。癒し系のCDがセットされ、真空管アンプは、よく言われているように、すごく温かいいい音がすると、ぼくも思いました。しゃれた大きな電気スタンドも左右一対置かれ、反対側には広目のセミダブルのベッドが二つ並んでいました。ベッドに関してはよく分からないのですが、ロスチャーべディングマットレスという、何やら高級なものが使われているそうです。枕もとの壁にはそれぞれ二つずつ絵が掛けられています。
さらにその先の広縁というか、狭目のリビングというか、そことの境は障子で仕切られ、ソファーが窓に向かって置かれています。また、もう一つオットマン付きのどっしりとした椅子がやはり窓に向かって置かれていました。右側に大きな飾り棚とコーナーにはガス式の暖炉があります。反対側が飲料用の蛇口と、冷蔵庫、お茶のセットなどが納められた一角です。正面が広い一面のガラスで、外は川の流れと林、青空が見え、左下にレストランのテラス席がちょっと見えます。覗き込みはありません。この広縁というかリビングは全体が6畳くらいの広さですが、エアコンがなかなか自然な感じで快適に効いていて、寒さをまったく感じさせません。
宿の玄関で靴を脱いでから、担当の男性がずっとついて案内してくれましたが、部屋でのお茶出しもこの男性です。迎え菓子はぺしゃんこの采女という和菓子と、TOBIRAと箱に書かれたクッキーも置かれていました。このクッキーはおいしいものでした。浴衣の気づかいもあり、寝巻きもついています。浴衣はつむぎだということでした。この担当の男性は非常に丁寧で一流ホテルレベルだと思います。キーは二つありました。
お風呂は大浴場と立ち湯、寝湯がそれぞれ男女別にあります。リニューアルで立ち湯と寝湯が増えたようです。大浴場が変わったのかは、以前の記憶がまったくあいまいなので、よく分かりませんでした。大浴場と立ち湯は夜通しOKで、外の露天と寝湯は23時までだそうです。夕食時間あたりで、男女交替があったようです。露天は朝は夜明けからということでした。
大浴場は清潔で明るいお風呂です。ただし、全部で45室ある割にはそれほど湯船が広くありません。8人くらいというところでしょうか。8角形の湯船で真ん中からお湯が湧きあがる形ですが、湯面ギリギリのところまでしか湧き上がらないので、お湯を口に含むことができません。カランは11あったと思います。
立ち湯は半露天の感じで開口部が広く取られ、全体も広々として、なかなか気分がいいところです。立ち湯といっても、浅い部分が広く、外に面した一角だけが一段と深くなっています。外に面しているので、目の前の林を眺めながら入っていられます。立ち湯にはミストサウナも付いていました。寝湯は、夜入ったらアロマキャンドルが点されていて、いい匂いが漂っていましたが、朝はすべて消されて片付けられていました。ここも悪くはないと思います。
タオルはバスタオルのみが脱衣所に置かれていました。
露天はそれぞれの大浴場から出る形の、小さいものと、宿の玄関先を下りたところに混浴の露天の二種類です。大浴場に付属する露天は、眺めもない、あまりぱっとしないもので、前回の宿泊の印象と変わりません。この露天は多分以前とは変わっていないのではないでしょうか。混浴の露天は岩風呂で6・7人というところの細長いお風呂です。脱衣所が男女別れていましたが、前回は分かれていなかったように記憶しています。こちらの露天も岩壁と板塀に周りを囲まれていて、それなりに風情のある露天なのですが眺めはありません。以前は知りませんが、今、この露天は雨が降ると入浴禁止になってしまうそうです。
お湯は、無色、無味、無臭で、塩素臭は感じなかったのですが、循環のような気がします。湯の花もなく、あまり特徴の感じられないお湯のように思いました。
夕食はフレンチ、懐石、創作和食の3種類から選べます。懐石と創作料理の料理長は同じ人だそうで、そちらも興味深いのですが、この明神館で今、一番人気はフレンチらしく、ぼくもフレンチを選択しました。フレンチ希望者は予約の段階で早めに伝えた方がよいそうです。フレンチとはいえ、野菜を多く使い、バターなどは控えめにした料理ということでした。フレンチは専用のレストランで、ここの定員が割と少な目のためにすぐに埋まってしまうようです。また、食事はフリータイムなので、自分の好きな時間に(ただし、夜8時までに)入ればいいというのもうれしいものです。実はこの日、夕食前に、スパーリングワインとビールを結構飲んでしまい、ちょっと休んで、ぼくとしては珍しく7時という遅い時間に出かけたのですが、フリータイムのおかげで、あせることもありませんでした。
フレンチながら、お絞りも出ます。個々にコースのメニューが置かれていて、丁寧な説明もあります。最初は、「オードブルバリエ」で、どじょうのエスカベシュ、アボカドに蟹とカリフラワーのクリーム、カンパリゼリーとハーブと山椒を乗せた苺の三点がガラスの器に載って出てきました。苺はさらに中華のレンゲに入れたもので、見た目、和食の前菜と言われても納得してしまいそうです。アボカドに蟹とカリフラワーのクリームはやさしい柔らかな味なのですが特にインパクトはないし、カンパリゼリーとハーブ、山椒を乗せた苺は甘くておいしいのですがカンパリの苦味とのバランスが今一理解できないという前途多難な出だしでした。 続いては「帆立と蕎麦」で蕎麦のソースは甘味があっておいしく、帆立自体もおいしいし、プチプチという蕎麦の実との食感のバランスがいいものでした。次は「御岳椎茸」で、これは御岳椎茸(トランペット茸?)をマッシュルームとエシャレットを使ったソースで食べる趣向です。御岳椎茸がはなりおいしいもので、また、ソースともよく合っていました。昨日のかつら木の郷の網焼きの椎茸より、さすが手が込んでいるだけあって、よっぽどおいしいものでした。そして、「すっぽんとチコリ」フレンチでよく出てくる、真ん中がくぼんだ大きなお皿に、すっぽんのスープ注がれ、中のすっぽんと焼いたチコリがうまく合っていておいしいものです。すっぽんの下処理の段階でお酒と昆布出汁を使っているということでした。次が「鮟鱇」で、焼いた鮟鱇が二切れ置かれ、周りにはオレンジの泡、エシャレットのアッシュ(刻んだもの)、ハーブのアッシュ、マヨネーズパウダーが飾られています。別々につけてもいいし、混ぜてつけてもいいそうです。これもソースにいろいろ工夫があって面白く、おいしいと思いました。
ここで、「信州産山葵とグレープフルーツのシャーベット」が出されましたが、まさにお口直しという感じで、とにかく口の中がさっぱりすることは確実というものです。最後が「蕪(塩と昆布でシンプルに炊いたものに豚ミンチのあんかけのようなソース(コテキーヌソース)を掛けたもの)」、または牛蒡(堀川牛蒡の中をくり貫いてを牛肉を詰めて赤ワインで煮込んだ料理で一番味がしっかりしている)、または子羊(信州産の子羊にハーブの香りのソース)」という三品の中から一品を選ぶ、メイン料理です。ぼくは子羊を選びましたが、ボリュームがあってしっかりしているもので、おいしく、これはいいと思いました。女房は牛蒡を選びましたが、こちらも満足できた料理だったそうです。これ以外に料金がアップするものが他に二種ありましたが、二期倶楽部で料金アップは懲りているので、通常料金の中から選びました。
デザートは「甘い誘惑」と題され、三種のチョコレート(チョコレートとコーヒーの二つを使ったテリーヌとイチゴ、ビスタチオのオイルと液体状のチョコレート、チョコレートのアイスクリームにオレンジの焼き菓子、テリーヌは大人の味)の載ったお皿が出てきましたが、何とお皿の余白に、「Happy Birthday」の文字とぼくの名前がチョコレートで書かれていました。実は、以前連泊したときに、非常に気に入った旨を食事の時に何気なくしゃべったところ、無料だから、これに入会しませんかということで、何かを書いたのですが、それをこちらはすっかり忘れていたのに、旅館側は何年間も記録に留め、予約したときの電話番号と名前からちゃんと検索していたようです。このサプライズにはやられました。チョコレートは一段とおいしく感じられました。食後の飲み物は、コーヒーまたは紅茶またはハーブティーが選べます。ぼくはコーヒーを選びましたが、これもおいしいものでした。その他に、食事中出されるパンがもちもちしていて、また、お代わりのパンの方はサクサクしていてヨーグルトっぽい味がしてそれぞれおいしいものでした。
ここのフレンチは創作フレンチという感じで、かなり和の印象の強いフレンチです。最初の前菜のときはどうなることかと思ったのですが、全体としては十分に楽しめるものでした。シェフは33歳くらいと若いらしいのですが、フランスで修業し、25歳で那須の二期倶楽部の料理長に就任した人だということです。
なお、連泊して二泊ともフレンチが食べたい場合はメニューが変わるということでした。帰ると、夜食用のおにぎりが部屋に置いてありました。
朝食は場所がかわり、ダイニング四季というところで、8時〜10時までのフリータイムということでした。夕食同様、好きな時間に行け、しかも10時までとはうれしいことです。朝食は和食のみということで、和食派のぼくは何の問題もありませんでしたが、せっかく夕食が三種の中から選べるのだったら、ここでも洋食が選べたら喜ぶ人も多いのではないでしょうか。
牛乳とレモン、蜂蜜を合わせた飲み物が置かれ、ごはんか、海苔の入っているお粥(海苔の風味がよく効いている)を選びます。煮物は里芋、蓮根、人参、南瓜、さやえんどう、豚バラ肉が入っていて、上から黒酢のあんが掛けられています。柔らかくしかも煮崩れていない絶妙な仕上がりで里芋が特においしく感じられました。魚は銀鱈で、脇に卵焼きと昆布が置かれていて、この鱈もおいしいものでした。大根サラダがしゃきしゃきしていて、わらびとこんにゃく、油揚げと素麺南瓜、それにもう一つの小鉢と計三つの小鉢もあります。その他に、セルフサービスのコーナーがあり、地元の新鮮な生卵、扉の有機栽培の大豆で作ったオリジナル納豆、自家製の豆腐を使った湯豆腐が並べられ自由に取ることができます。豆腐は大豆の香りがしておいしいものでした。デザートはりんごと葡萄とオレンジを少しずつ盛り合わせたもので、食後にコーヒーか紅茶がつきます。サービスの女性がこちらの話によく付き合ってくれ、その女性とゆっくり話をしながら食べたので、食事が8時半から9時半までかかってしまいました。特に、取り立てて目立ったものはないのですが、全体的においしく、くつろいで食べられた朝食でした。
全体的にかなり満足度の高い宿泊でした。もともとここはインターネット割引プランで申し込んだのですが、旅館側は、こちらでさえすっかり忘れていた会員のメンバーであることを調べ、そのインターネット割引プランよりもさらに1%安い、会員メンバー料金にわざわざ変更しておいてくれました。これは、高く評価していいと思います。
人に関しては、従業員の印象が全員非常ににこやかでいいと思いました。みなしっかり訓練されているようで、ぼくが話した人はすべてホテル並みの丁寧さで接してくれました。
フレンチもヘルシーであり、メニューは個性的でとても魅力があります。お風呂も立ち湯と寝湯も増えて充実していました。部屋には真空管のアンプが置かれていて、とても温かく柔らかな音で音楽が流れています。これも非常に気持ちがいいことでした。夜は窓から、ライトアップされた大きな木が見えて、非常に癒される風景で、今回は点火しませんでしたが、部屋の暖炉も安らぎを与えてくれるはずです。十分にくつろげるとてもいい部屋で、二期倶楽部のような広い庭はないものの、ここも連泊してゆっくりするのが一番いいのかもしれません。
部屋数が多く、特に女性客が非常に多い(迎えのバスは男性が二人だけで、あと10人以上が女性でした)ので、時間によっては女性用の風呂がごったがえすらしいことと、インが3時なのに、迎えが駅を3時発、アウトが12時なのに、送りが宿を11時発という送迎の時間設定に疑問があることの二点のみが欠点だと言えるでしょう。是非、送迎の時間だけでも再考してほしいものです。
明神館は、以前は旅館という感じだったのですが、今回は完全にホテルに近い、非常に行き届いたサービスで申し分ありませんでした。今は何泊かすると、会員になれるそうなので、さらに快適なサービスを受けられることと思います。

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この「すぎもと」へ行く道は非常に分かりづらく、バス停を降りてからもう一度電話して行き方を確認したのですが、その時、これから着く旨のことを告げると、まだ入(はい)れないという内容のことを言われました。とりあえず行って、ロビーで待たせてもらおうと、チェックインは3時でしたが到着したのが2時25分頃でした。女将らしき人がフロントで電話中で、他には誰もいないようだったので、とりあえず靴を脱いでロビーに上がり、椅子に腰掛けて待ちました。電話が終わった女将は、客がチェックイン時間前に勝手に上がりこんだのが不満そうな感じでしたが、それはあまり気に留めずに、ぼくが朝日旅行のクーポンとスタンプ帳を出すと、このクーポンでスタンプは押せないと言われました。えっ!と驚き、朝日旅行のクーポンですよ、と念を押すとすぐに撤回されたのですが、クーポンを出す客には反射的にこのような対応になるんじゃないかと怪しみました。
従業員が出勤してきて、45分頃に部屋へ案内されましたが、その間、まだ寒さの残るロビーに暖房をつけたり女将が話しかけてきたりすることは一切なく、気配り心配りは感じられません。この女将は今一だな・・という印象でした。
案内されたのは3階建ての3階の常念という角の部屋でした。ドアを開けると半畳ほどの板の間の玄関と、その先に小さな畳二枚分の踏み込みがあり、突き当たりの壁に棟方 志功らしき版画が掛けられています。廊下はなく、独立した玄関です。踏み込み左手の襖を開けると10畳の民芸調の和室になっています。和室に入ると右手に引っ込んだ形で脱衣所があり、ここに冷蔵庫も置かれています。脱衣所の隣がユニットバスで、一般のユニットバスのようには極端には狭くないのですが、もちろんトイレ・洗面・バスのユニットなので広くはありませんでした。トイレは残念ながら温座だけのものでした。
和室にもどると、右手の壁に洋服入れがあり、それ以外は一面が広い床の間になっています。変わっているのはその床の間の背中の壁に当たる部分全体がつげ櫛型の障子窓になっていて、そこを開けると北アルプスの山々が見えるのです。まさに景色を取り入れた床の間で、このような床の間を見たのは初めてでした。床の間の左方、和室の正面には障子が立てられ、その先にやや狭目の広縁があって、左端が三分の一畳ほどの畳の小物スペースになっています。広縁には椅子が二脚置かれていました。広縁の窓からも遠くの山が見えるのですが、どちらかというと近くの家々の屋根が景色のほとんどを占めていると言っていいでしょう。三階なので覗き込みはありません。
部屋でのお茶出しはあり、迎え菓子は金つばでおいしいものでしたが、おしぼりは出ませんでした。浴衣の気遣いはありました。ただ、部屋には金庫はなく、冷水も最後まで届きませんでした。
お風呂は中庭にあり、男女大浴場に露天がついています。男女の交代はなく、夜通し入浴することができます。
男性大浴場は、浴槽は4人くらいで狭目です。小ぢんまりとした感じで、木組みの天井の雰囲気がなかなかいい感じだと思いました。
露天は大浴場から出る形です。大浴場の扇型の浴槽とガラス窓を挟んで対称の形になっています。露天は周りを塀で囲まれていて、見晴らしはまったくありません。この露天にはあまり魅力は感じませんでした。お湯は加温、循環、塩素投入が明記されていますが、加水はしていないそうです。また塩素投入ということですが、塩素臭はしませんでした。脱衣所の冷水ポットに冷えた緑茶が用意されています。
夕食は大部屋の食事処でです。
お品書きはありませんでしたが、説明はありました。食前酒はありません。先付けというより突き出しに近い感じの、山菜にけずり節を使った小鉢が出され、置かれていた信州牛に、最初から火が入れられました。牛肉はあまりじっくりと焼かない方なので、結局この牛をまず初めに食べることになってしまいました。そのせいで、全体の食事の流れがおかしくなった気がします。続いて一品ずつ運ばれてきます。蛍烏賊、馬のふたえごのベーコン、小魚の甘露煮、胡桃小女子、海藻、山菜などを使った前菜が載った細長いお皿が真ん中に置かれ、これは二人で小皿に取り分けて食べます。この中では、馬のふたえごが出色の出来で、前菜は全体的にもおいしいと言えます。
次に出てきたのが白魚の踊り食いです。鉢に入ったものを網で掬って食べるという趣向のものですが、この白魚が元気良くて、まず掬うのが大変なのです。白魚の数も結構いるので、何か最後には白魚と格闘しているような気がしてきました。のど越しを楽しむものなのに、格闘に気を取られ、今一楽しめなかった感じがしました。次は湯葉刺しで、これは舌触りがよくとてもおいしいものでした。続いては、いろいろな山菜をぐい呑みの中に入れたものを中心に、大きなお皿に白和えなど、ちょっとしたものを9種類並べたもので、一つ一つはおいしく楽しめたのですが、大きなお皿に並べられたその見た目と相まって、最初の前菜が二度出てきたような印象がありました。
次も小さめの容器に出てきたじゅんさいを使った料理だったし、先付けの山菜を使ったものも小ぢんまりしたものだったので、ちょっと、それぞれの小さな器を含めて、料理にメリハリがない感じは否めません。いつの時点だったか、食事中に従業員が他のお客さんに「うちの料理は酒の肴みたいだとお客さんに言われます」と何やら言い訳めいて言っていたのが耳に入って、なるほどなと思いました。続いてが蛍烏賊と何だったか忘れてしまいましたが、小ぶりの魚のしゃぶしゃぶでした。蛍烏賊はおいしかったのですが、小ぶりの魚はよく火を通してくれと言われ、通しすぎたのか旨みが失われてしまった印象です。しゃぶしゃぶと言うのなら、あまり火を通さなくても食べられるものを出して欲しいと思いました。続いて馬のたたきと種々の薬味を海苔で手巻きにしたもので、これは従業員がやってくれたおかげで、非常においしく食べられました。続いて手造り豆腐とまて貝のお吸い物が出され、このまて貝はとてもおいしいものでした。
さらに海老グラタンが出てきました。グラタン好きのぼくは、グラタンにはけっこう点数が甘いのですが、このグラタンはインパクトに欠け、この日の料理の中で最も評価は低いものでした。続いてグリンピースご飯が出され、最後に焼き筍で〆です。筍は熱々でおいしいのですが、少しえぐみがあり、何よりもこれが出されるまでにかなり時間があったので、それまで快調に運んでいた食事がすっかり間延びしてしまい、我々より30分後に席に着いた人と時間が揃ってしまいました。その後で、別料金の主人の手打ち蕎麦が出されて終わりとなりましたが、この蕎麦打ちは5時からつなぎ無しの水打ちで主人が打っていたものです。ちょっと、おいしさが失われている印象を受けましたが、ただ、ぼくは蕎麦喰いではないので、この蕎麦に関しての評価はこの程度に留めておきたいと思います。全体的にはおいしく、味は評価していいと思うのですが、最初に牛を食べてしまうことになる点や、前菜が二つ出てくるような印象、最後の筍が間延びしたところなど、料理の組み立てに大いに疑問が残りました。
なお、この料理は主人と料理長の二人が中心になって作っているとのことでした。最後のデザートがなかったのですが、部屋に戻るとマンゴスチンと夜食のおにぎりが置いてありました。マンゴスチンは非常に久しぶりで期待したのですが、以前食べたものより味は確実に落ちるもので、がっかりしました。
朝食も同じところです。お絞りはありません。桜海老と大根おろしの小鉢があり、小さな鮭とかまぼこ一枚、山葵漬け少し、さやえんどう一つが一枚の大きなお皿に載っていました。他には筍とさやえんどうの和え物、ほうれん草のお浸し、椎茸の朴葉味噌焼き、湯豆腐、海苔というラインナップで、たまにありますが、卵を使ったものは出ませんでした。あと、りんごジュースが付きました。それぞれはおいしいのですが、全体にボリューム不足で物足りない印象はぬぐえません。
すぎもとは、まず、チェックイン時の女将の対応に一考を要します。チェックイン時間を過ぎて入ったなら、また対応は違ったのかもしれませんが、通常とは違うちょっとしたところにこそ本質は現れてしまうものです。チェックイン時間前に部屋へ入れろとは言いませんので、せめてチェックイン時間前に到着した客にもある程度の気配りは必要なのではないでしょうか。ただ、対照的にここのご主人はチェックアウトの時など、非常に低姿勢でそれはいいと思いました。
お風呂も雰囲気はある程度感じるのですが、やはり狭目で、露天も含め、風呂自体の魅力は薄いですね。露天の印象がもう少し良くなると全体もアップするような気がするのですが。食事は悪くないと思いますが、いみじくも従業員が言っているように、料理というより酒の肴が並んでいるという印象の強い構成です。また、時間配分に問題がありました。後半部分の料理にもう少し力を入れ、肉に火を入れる時間をずらしただけで、大分感じが違ってくると思うのですが。
ここのお風呂は中庭に張り出している形なのですが、その周りを石庭のように小ぎれいに造ってあります。読書室も階段の上がり口にあり、こういった雰囲気が気に入った人や、酒の肴で大いに結構という酒好きならリピーターになる人もいるかもしれないな、とも思いました。

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2009年11月に米沢の湯の沢温泉「時の宿 すみれ」に連泊で行ってきました。実はこれが3回目の宿泊で、最初がその前年の2008年9月、2回目が4か月前の2009年7月でした。1回目、2回目とも報告をサボってしまったので、最新のこの3回目を中心に今までの総括報告をさせていただきます。
1回目の宿泊は2008年9月でしたが、この宿の名を知って、マークし始めたのはそれよりもかなり前、TV番組「いい旅夢気分」で、あき竹城とケーシー高峰が訪れた際の様子を見たときからでした。ウッドデッキのテラスを持つロビーから眺める緑の庭。そして何よりも、次から次へと展開される、米沢牛を使った料理の数々。すぐにでも行ってみたいと思いましたが、ぼくの悪い癖で、TVで放送されたすぐ後は絶対に混んでいるからと、いつもかなりの期間先延ばししてしまうのです。湯河原の「瑞月」の時もそうでした。「すみれ」もぐずぐずしているうちに、旅館系の人たちも何人か宿泊して、そこからも高い評価の声が聞こえてきました。
これは行かねばなるまいと思って重い腰を上げ、ようやく2008年9月に行ったのですが、その時に、連泊した場合、次の日の料理もやはり牛懐石で、内容もすべて変わるということを聞いて、これは連泊せねばなるまいと新たな課題が生まれ、今年の7月に連泊を果たしたのです。そして、さらにその時に女将から季節それぞれの宿の様子を聞き、これは季節を変えて行ってみなければ、どうせ行くならやはり連泊と、この2009年11月の紅葉の季節に3度目の訪問になったわけです。
ここにエースJTBの「優雅・華やぎ」というパンフレットの最新号(2009.10.1〜2010.3.31)、があります。「すみれ」も載っていて、そこにJTBが宿泊者に依頼したアンケートの集計が掲載されているのですが、すみれは、客室が3点、食事が5点、大浴場が2点、サービスが4点、満足度が5点となっていました。すべて5点満点です。このアンケート結果はぼくの一回目の宿泊時の実感ともけっこう近いのですが、注目すべきは、個々の項目では食事以外に5点の評価がなく、しかも2点、3点という低い評価項目があるのにもかかわらず、総合評価ともいうべき満足度が5点であることです。いかに食事がすべてをカバーしているかが分かります。
ぼくの第一回目の宿泊時の印象もまさにそんな感じでした。一回目は「ひめ」という、すみれでいえば中間ぐらいの価格帯の洋室に宿泊したのですが、部屋は広いもののがらんとした感じで、ポットもホテル形式の、自分で水を入れて沸かす小さなものだし、もちろんお茶も自分で入れなければならないことなど、ちょっとよそよそしさを感じさせてあまり好きになれませんでした。
大浴場も非常に不満でした。すみれは大浴場が露天付のものと露天なしのものとの二つあるのですが、この日、まず男性用に割り当てられたのが露天なしの方でした。コンクリート打ちっぱなしで、本来はおしゃれな浴場なのでしょうが、洗い場が三つしかなく、そのすぐ後ろが木の縁の浴槽との仕切り壁になっていて非常に狭く感じられました。また浴槽も3人くらいの広さで、脇のスペースもなく、とにかく狭く息苦しい感じは否めません。いつもは長風呂のぼくも、ここは長時間いられないと早々に出てきてしまいました。
こんな訳で、食事の時間までにはかなり不満が募っていたのです。ところが、夕食に行ってみると、次から次へと出てくる、工夫を凝らした料理の数々。今まで聞いたこともないような牛肉部位が使われているのにもかかわらず、ただの珍味では終わらない、一つの献立として完成された料理。食べ進み、席を替えて最後のデザートを食べ終わって気づくと、先ほどまでの積み重なった不満はうそのようにさっぱりと一掃され、さらにお釣が来るほどの満足感に満たされていました。
夕食時に男女交代時間となったもう一つの大浴場には露天も併設され、内風呂の方も広くなっていて、こちらのお風呂は十分に満足できましたし、翌朝の食事も手抜きのないものでおいしく食べることができ、夕食の後はうって変わって、何一つ不満を感じることはありませんでした。そればかりか、チェックアウトする段階では、連泊した時の夕食がどんなメニューになるのか、非常に興味がわいたこともあって、次回は是非連泊でと思うまでになっていました。
こんな一回目の状況の後、2009年7月に連泊で出かけたわけです。部屋は今度は「あけぼの」というところで、和室です。「ひめ」より狭くなっていますが、全体の構造は前回と似たような感じで、空のポットも同じだし、もちろんお茶を入れてはくれません。最初の風呂も小さい方で、滑り出しは前回とほとんど同じでしたが、この時はすでに1度経験済みですから、前に感じたような不満はまったくなく、こんなもの、と悟った心境でそのまま食事に行き、食事でも前回と全く同じように満足しました。二泊目の食事も一泊目同様、全く遜色なく楽しめました。そして、今度は季節を変えて来てみようという心境になったのです。
以上が前回までの大まかな流れです。
すみれのメニューは季節替わりで、3回目のすみれ宿泊は、メニューとしては1回目同様、秋のメニューなのですが、1回目は9月で特にこれといった景色はなかったので、今回は景色中心に秋の紅葉の時期に行ってみようかということで、すみれ周辺の紅葉の時期であるらしい、11月の初旬に決定しました。
すみれは、道路からそれて敷地に入ると、木立のある前庭を通って建物のところまで行き着くまでに少し時間があります。道路にそのまま面していたり、道路から玄関前の庭を通してすぐ目の前に見えたりというタイプの宿ではありません。こういう、行き着くまでにある程度前庭のスペースのある宿がぼくは大好きです。
玄関前で送迎車を降りて中に入ると、ロビーからはウッドデッキのあるテラスと緑の庭が目の前に広がります。そのロビーの椅子で、宿特製のロッシェというメレンゲの焼き菓子と抹茶をいただき、本来ならここで風呂や食事の説明を受けるのですが、4か月前に来たばかりということで、それは省略、さっそく部屋に案内してもらいます。今回の部屋は「げんじ」という二階の端の部屋で、前回の「あけぼの」よりも2畳ほど狭くなった8畳の和室。窓は玄関前の木立方向に面しています。和室と言っても、モダン和室という感じで床の間は現代的なしつらいになっていますが、全体的には凝った作りではなく、やはり素っ気ない部類に入るかもしれません。ただ、3畳大の広縁があり、2脚の椅子とテーブルが置かれているのは、椅子が好きなぼくとしては文句のないところです。部屋全体の作りとしては、前回のあけぼのより2畳分狭くなっただけで、ほとんど変わりがないように思えました。
風呂は前述の大浴場二つのほかに、予約なしで札をひっくり返して入る貸切りの半露天が、木の浴槽と、石の浴槽の二つあり、空いていればいつでも入れます。狭い大浴場に当たってしまった時間帯は、こちらに避難することもできますが、ただし、石鹸類は使えません。貸し切り風呂は二つ並んだ形で川に面しています。半露天なので視界も狭く、そんなに変化に富んだ景色とはいえませんが、川が視界に入ることもあり、へたな宿の囲まれている露天よりはずっと癒されます。入浴はすべての浴場が24時間可能で連泊の場合は、掃除中でも、聞いてくれれば入れる風呂を案内するということでした。
確か、すべて源泉流し切りだったと思います。お湯はこの近辺の特徴のある温泉と比べると、確かに旗色が悪く感じられますが、その代わり優しく穏やかで、却ってこのお湯が好きと言う人もいるかもしれません。もともとその傾向があるのですが、ぼくの場合、一層おでこがツルピカになりました。無味、無臭、無色で、湯花はなく、塩素臭もしません。
ロビー前のバーカウンターに、いつも地下水の冷やしたものが置かれています。甘くて、おいしい水です。
食事はすべて食事処で、鉄板を前にしたオープンキッチンのカウンターに4室8名分の席があり、ここはリピーター優先のようです。カウンター席の背後に半個室といった感じの小部屋がいくつかあり、さらに昼食のグループ客用なのか、畳の敷かれた部屋も横に見えました。
11月の連泊は初日のメインがステーキ、二日目のメインを初めてすきやきにしましたので、初日がカウンター、二日目は個室でした。すみれの料理はメインを「ステーキ」「すき焼き」「しゃぶしゃぶ」の3種のうちから選ぶようになっていて、「すき焼き」や「しゃぶしゃぶ」を選んだ場合は、鍋を使う関係上、必ず個室になります。
1日目の正規メニューももちろんおいしかったのですが、今回はあまりレポートされていない、2日目の料理を中心に報告します。メインが「すき焼き」になっただけであとは変わりませんが、「すき焼き」の場合、食事は白い御飯になります。ステーキを選ぶと、食事は牛肉を使ったお茶漬けなどになるはずです。
1日目と同じように一組に一枚、大きなお品書が置かれ、そこには「すみれの米沢牛懐石 二〇〇九 秋」と昨日の1日目のお品書きと全く同じタイトルが書かれています。ただし、今日は連泊用の献立で、
・もも肉のタルタル コンソメゼリーと共に
・マッシュルームの温製すうぷ
・いちぼと千本のお刺身
・はらみのバーニャカウダ風
・山ぶどうのグラニテ 
・大とろのにぎりとあぶり
・真たんの香草ソースサラダ仕立
・まくらとほうれん草の白和え 
・サーロインのすき焼きすみれだれで
 米沢遠山のひとめぼれ 
・キャラメルアイスのクレープ包み
というラインナップです。
正直、すべての料理がおいしくまったく不満はありませんでした。だから、中でも特に印象に残ったものを選んで書いておきます。「マッシュルームの温製すうぷ」はマッシュルームの香り、風味が非常に豊かでおいしく、絶品でした。料理長はフレンチ出身ということでしたが、その技量がいかんなく発揮されたスープだったと思います。「大とろのにぎりとあぶり」は2回の連泊経験からいうと、連泊の時には必ず出るスペシャリテだと思われます。1泊でも宿泊すれば大とろのにぎりは必ず食べられるのですが、あぶりは連泊しないと食べられないようで、同じ材料でも見た目も味もまったく違います。いずれにせよ、にぎりは圧倒的なおいしさで、思わず笑いがこぼれてしまいます。「真たんの香草ソースサラダ仕立」については、真たんというのはタンの中心部らしく、すみれのメニューではよく使われるのですが、このタンの柔らかいこと。ぼくはすみれで初めてタンは柔らかいのだということを知った気がします。これもおいしく、周りに散らされたピンクペッパーとの調和が何とも言えません。「サーロインのすき焼きすみれだれで」のすみれだれというのは、かなり甘めの味噌だれです。もちろん、この肉もたまらないおいしさ。ステーキでなくても十分に楽しめます。ただ、すき焼きは最初、係の女性が作ってくれるのですが、後半は自分たちに任され、その時に調子に乗ってタレを入れすぎて味が濃く、くどくなってしまったのが何とも残念でした。やはり、うちの場合、自分たちで作るシチュエーションだと、どの宿でも出来が今一になってしまう傾向があります。ただ、肉だけは最初に集中的に食べてしまったため、その影響は免れ、本来のおいしさを十分に堪能できました。
最後は場所を変えて、「キャラメルアイスのクレープ包み」のデザートとコーヒーで、これもフレンチ出身のシェフですので十分に楽しめました。
全体的に、今回の連泊は、料理として凝った感じの1日目、肉のおいしさをストレートに楽しむ2日目といった印象でした。
朝食ではカウンターは使わず、すべて個室に用意されます。連泊の場合の朝食は洋食になるらしいのですが、いやな人は1泊目と同じように和食の朝食を食べることができます。もちろん、内容は変わります。うちの場合、朝食で洋食を選択することはほとんどないので、今回も二日とも和食にしてもらいました。朝食に関しては1泊目に食べた方が連泊用の献立ということでしたので、これも、連泊用の方を報告しましょう。
すみれの朝食は、八寸皿のような大きな四角い皿がどんと出され、その皿には3×3の9品がほんの少しずつ載っているという形が基本です。季節が変わっても、連泊になっても、この基本は変わりません。今回の連泊用献立の9品は、とろろ、お新香、ほうれん草、もっての外、山葵漬け、海苔の佃煮、納豆、あと郷土料理っぽいもの2品という組み合わせでした。この皿の他に、ハムサラダ、大根とごぼうと肉の煮物、温泉玉子、冷奴の4品が別の小鉢で出されました。味噌汁もおいしく、デザートは果物盛り合わせ(グレープフルーツ2種、オレンジ、キーウィ、メロン)で。十分に満足できる朝食でした。朝食の後も席を変えてコーヒーがサービスされます。
とにかく、すみれで食事をしていると、なぜか幸せな気分になります。最初に書いたように1回目の宿泊ではそれまでの不満が一挙に氷解したし、2回目の宿泊時は女房が食事の直前に、携帯で妹とやりあってカリカリしていたのが、カウンターに着き、一つ目の料理を食べた途端に、見事なくらいに穏やか、にこやかになりました。
また、部屋数が10室の宿というのはけっこうあるのですが、すみれのいいところはそれぞれ2名に限定されているので、最大で20名にしかならないというところでしょう。お風呂に入っても、ロビーにいても、団体やグループでうるさいということがありません。
女将さんもすみれの魅力の一つでしょうか。もともとはキャリアウーマンとして東京で働いていたそうですが、お祖母さんが始めたこの宿を、わけあって4年前に引き継ぎ、リニューアルしたそうです。女将さんという言葉は実は似合わない、黒いパンツスーツ姿の背の高い颯爽とした女性です。夕食の最後、デザートの時に必ず話しかけてくれるはずです。多くのリピーターの中にはこの女将さんファンもけっこういるのかもしれません。
リピーターと言えば、すみれは、行けば行くほど居心地の良くなる宿でしょう。先ほども書いたように宿泊客も少ないので、従業員と客とがお互いに顔見知りになる確率も高く、まして連泊すればさらにその確率は上がります。実はこの11月の3回目の宿泊の時、米沢駅まで迎えに来てもらったのですが、迎えに来た男性従業員が、大勢の新幹線乗降客の中からしっかりとぼくを見つけてくれました。何でも、2回目の宿泊時の送りを担当したということでした。ぼくは他の客がいない場合は運転手に質問攻めにするので、客の中でも覚えられやすいのでしょうが、さすがサービス業、大したものだと思いました。こうして顔見知りになれば、お互いに緊張することもなくなり、よりリラックスした滞在ができるようになります。2回目の初日のカウンター席は全員がリピーターだとシェフが言っていました。
あれこれと書いてきましたが、しかし、何といってもすみれの最大の魅力はその夕食です。すみれの夕食は「牛懐石」ということで、すべての料理に牛の、それも他では食べられないような珍しい部位が使われ、しかもただの珍味に終わらないおいしさと、料理としての完成度を持っています。これでもかと魚介料理を食べさせる漁師宿は星の数ほどあるし、牛肉を食べさせる店は、焼肉、ステーキハウス、鉄板焼き、フレンチなどなど、世にあまたありますが、このように牛の多様な部位を様々な方法で調理し、懐石風に献立を構成している店を、寡聞にしてぼくは他に知りません。そういったメニューを持つ宿としても貴重な存在ですが、さらに、ただ珍しさだけでなく、おいしく、しかもリーズナブルな料金で食べさせてくれる宿として、すみれは日本の宿の中でも稀有ともいえる存在でしょう。
今、3回、計5泊した後で考えてみると、JTBのあの評価はちょっと辛すぎるように思えます。
客室が3.5点、食事が5点、大浴場が3.5点、サービスが4点、満足度が5点というところが妥当なのではないでしょうか。

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