太夫さんの報告(九州)

太夫さんの報告を4つのページに分けて紹介しています。最新情報は、掲示板ダイジェストに掲載しています。写真は、太夫さんが撮影したものを私が貼り付けました。

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太夫さんの報告
太夫さんの報告(関東近郊)
太夫さんの報告(静岡県)
別府温泉「シーサイドホテル美松」・鉄輪温泉「おにやまホテル」・由布院温泉「山のホテル夢想園」
「さくらさくら温泉」・「霧島山上ホテル」・「妙見石原荘」
霧島温泉「旅行人山荘」・古里温泉「古里観光ホテル」
「華耀亭」・指宿温泉「秀水園」
「唐津シーサイドホテル」・「洋々閣」
嬉野温泉「萬象閣敷島」・雲仙温泉「富貴屋」「雲仙宮崎旅館」
黒川温泉「新明館」・「黒川荘」
玉名温泉「さつき別荘」・「ハウステンボスジェイアール全日空ホテル」
黒川温泉「旅館山河」・「山みず木」
菊池温泉「菊池観光ホテル」・「菊池国際ホテル笹乃家」・山鹿温泉「清流荘鹿門亭」
第二回「妙見石原荘」
吹上温泉「みどり荘」

 

別府(北浜)→別府(鉄輪)→由布院と行って来ました。今回は露天風呂重視の旅行という感じでした。

初日は、別府北浜の「シーサイドホテル美松」という旅館です。名前からも分かるように別府湾に面した旅館です。部屋は6階の角部屋でした。期待にたがわず、別府湾を見渡せる眺めのいい部屋です。この旅館は、別府湾の端に位置する高崎山が良く見えるんです。また、朝日も部屋の正面に見ることができます。翌朝は快晴でしたので、素晴らしい朝日を眺めることができました(写真左)。角部屋ですので、もう一面の窓からは、砂浜や海岸線が見通せました。この部屋は10畳で、広縁はやや広めにとられています。それほど新しくはないが古さも感じさせないといった感じでしょうか。部屋の風呂も温泉ということでした。ここのウリは屋上の露天風呂ですね(写真下1)。部屋からと同じ景色が舟形の露天風呂から眺められます。舟形と言ってもかなり大きく、10人以上は入れると思います。24時間入浴可能で、男女の交代はありません。したがって、男性の左側に位置する女性の露天風呂からはちょっと高崎山は見えにくいかもしれません。とにかく眺めが非常に良くて、別府湾、高崎山、国東半島、天気が良ければ四国まで見えるそうです。湾内には船はほとんどいないので、向こうから見られることもありません。源泉流し切りのお湯は適温で、飲泉も可能です。竹製のひしゃくが置いてありました。くせのない味で、おいしい温泉です。やや茶色っぽい気がしましたが、浴槽の桧の色かもしれません。少しぬるっとした感じがあります。大浴場はそれほど広くありません。浴槽が高く立ち上げてあるので圧迫感を受けます。非常に明るいのですが、今一情緒に欠ける感じがしました。食事は、城下カレイ、関鯵、など別府のお約束の品の他に貝柱茶碗蒸しなど、やはり海のものが多かったですね。もちろん、城下カレイ、関鯵など素材に文句はなく、おいしくいただきました。その他のメニューには特にこれといった特徴はないかもしれません。朝食はごく一般的な朝定食という感じです。おいしいけれど、とくにこれといった印象は持ちませんでした。全体としてこの旅館は、特に欠点はなかったような感じで、コストパフォーマンスは高いと思います。
二日目は鉄輪温泉の「おにやまホテル」です。鉄輪に行くなら絶対にここと前から決めていた宿です。部屋は東館の四階でした。10畳で広縁も付いていますが、床の間が非常に狭いと思います。新しさは感じさせないが、古くもありません。部屋のキーは温泉旅館にはめずらしく、オートロック方式でした。部屋の眺めは海方向で、少し町を見下ろす感じです。湯煙がたくさん立ち上っているのが見えました。さすが、別府だと思いました。部屋にお風呂はなく、シャワー設備だけがあって、めずらしいと思いました。風呂は円く細長い形の大浴場の先に露天がついているという形式のものでした。露天は、確かどこかに広さが西日本一とか書いてあった気がしますが、確かに広いです(写真2)。開放的でどこか南国の匂いを感じさせる露天でした。ぼくは結構気に入ったのですが、この露天の最大の欠点は背中にホテルの建物をしょっていて、各部屋からのぞかれ放題という点ですね。夜の10時に男女交代するのですが、これでは女性は交代する意味がありません、部屋からの死角となるところにかたまるしかないような気がします。と言っても、あまり気にしない女性もいて、朝、部屋から見える場所にも3人ぐらい入っていました(ということは、覗いたのか)。昼の女性風呂に当たる露天はあまり覗かれる心配はないのですが、男性用に比べて狭くすこし暗い感じがします。しかし、こちら側には「滝湯」という露天がついていて、この露天はちょっとイケます(写真3)。この露天へは、女性の露天の先から幅1メートルほどの小道を何と3メートルほど下っていくのです。ちょっと、秘密の花園めいた露天です。周りをすっかり囲まれた、何か異空間にまぎれこんだ感じで、夜中はここは男性の時間帯ですが、夜中に行くとちょっとゾクっとしますよ。ここはお湯の温度も低めです。滝湯の名の通り打たせ湯が四本、高いところから流れ落ちています。どのお風呂も源泉流し切りですが、温度が高すぎて湯口が鉄柵で囲われており、手ですくって飲むことができないんです。お湯に入っている時には硫黄のにおいはそれほど感じないのですが、あとでにおいが下着についていました。食事に関しては期待していなかったのですが、城下カレイ、関鯵、ステーキ、揚げ物など、おいしいと思いました。ただ、ほとんど初めから並べられてしまう形式で、ごはんまで初めから出してありました。一応、揚げ物とおすましが後出しなんですが、始めてから15分ぐらいして持ってきたのには笑ってしまいました。朝食はバイキングです。品数はそんなに極端には少なくはない感じですが、牛乳、コーヒー、果物はありませんでした。味はごく一般的で、まずくはありませんが、特にこれといったものもありません。

三日目はいよいよ由布院です。以前、何かの本で「山のホテル夢想園」の大きくて由布岳を眺められる露天風呂を見て、それ以来、由布院へ行くのなら是非「夢想園」へと思っていました。由布院には二日滞在する予定で、由布院にはいい旅館も多く、その二日で旅館を替える手もあったのですが、どうせなら一箇所でゆっくりしたいということで、夢想園に連泊することにしました。初日は本館、二日目は離れの「湯山亭」に泊まることになりました。本館の部屋は昔ながらの古い部屋です。8畳と広縁という小ぢんまりした部屋です。夢想園は高台にあるので、窓からは由布院の街並みを見下ろす感じで由布岳も見えます。この本館は眺めはいいと言えます。さて、お風呂ですが、ここは内湯のみが24時間で、外の風呂はすべて夜の10時までという厳しい時間制限がされています。夢想園の露天は女性上位にできています。男性の「御夢想の湯」は広くて由布岳も望めるいい露天なのですが、女性の「空海の湯」はさらにそれよりも広く、同じように由布岳も望めるようです。また、女性にはその他に「弘法の湯」という露天風呂まで一つよけいにあります。露天はややぬるめですが、広大な湯舟の中に何箇所か湯の湧き出し口があり、その近くに行けば温度は高くなります。家族風呂も充実していて、露天が二つ、内湯のタイプが二つあります。部屋数はそれほど多くないので、お風呂に関してはかなり充実しているといっていいと思います。ただ、ぼくが見た限り、なぜか、どのお風呂も浴槽の外からの一般的な流し込み式ではなく、浴槽の中からの湧き出し型なんですよね。したがって、お湯を口に含んで味わおうとすると、湯船のお湯を掬って口に入れるしかなく、それは抵抗があったので、残念ながら味はわかりませんでした。そんな状態なので、循環では?という疑問も湧いてくると思うんですが、たまたまお風呂の掃除係りの人と話をする機会があって、ここには源泉が四つあるということを聞きました。それをタンクで水道と隣り合わせにして温度を下げているということでした。ですから、循環ではないと思います。男性用の「御夢想の湯」は脱衣所が茅葺屋根の非常に雰囲気のあるお風呂でした(写真1)。露天自体は周りが岩などでかなり高く作られており、空以外に見えるものはあまりないんですが、360度の開放感はあります。見えるものがあまりないと言いましたが、とにかく由布岳のツインピークスがはっきりと見えますので、これさえ見えれば文句はないでしょう(写真2)。3時を過ぎて立ち寄り客がいなくなってしまうと、あとは少ない宿泊客だけですからゆっくり入れます。この広い露天風呂を独占することすら難しくありません。僕は二日間で計3時間くらいは独占できたと思います。独占しなくても、このひろいお風呂に多くても5・6人しか入っていませんからとにかくいつでものんびりと入っていることができます。初日は小雨、二日目は快晴と、それぞれに表情が違うこの露天風呂の二つの顔をみることができたのもかえって良かったと思います。ちなみに、立ち寄りは600円で3時まで。(何時からかは確認しませんでした。)炭シャンプー、桧泥炭石、シェービングフォームなどいいものが備え付けられてあり、露天風呂にも洗い場がいくつかあってそれらが使い放題。また、家族風呂も含めてすべてのお風呂に入れるらしいので、この立ち寄りはかなりお得ではないでしょうか。内湯はあまり広くはありません。雰囲気はあるのですが、浴槽の中に石がごろごろしており歩きにくく、露天に洗い場があることもあり、内湯に入ろうという気はあまり起こりませんでした。さていよいよ食事です。本館に泊まった初日は、胡桃家という食事処での食事となります。初日はふかひれ冷菜、山女梅香焼き、鰻のもろこしグラタン、鯛ちり、ゆふいん牛ステーキなどが一つずつ運ばれてきました。岩魚を出す旅館は非常に多いのですが、山女を出されたことはあまりなかったような気がします。いちじくが付け合わせについていました。全体に品数は多いという感じはありませんが、一品一品にボリュームがあります。全体的に非常においしいものでした。特に、鰻のもろこしグラタンはスイートコーンの甘味が非常に生かされたもので、絶品です。先付けから工夫のされたものが並ぶ料理でした。朝は一般的な朝定食ではありません。品数も結構あり、デザートもついているなど、文句ないところです。

二日目は希望していた離れの「湯山亭」に泊まることができました。こちらは6畳が二間の、わりと新しい部屋です。広々していて昨日の本館より大分落ち着くような気がしました。ベランダにイスとテーブルまで並べてあります。部屋にお風呂はないのですが、トイレや洗面所は本館とは比べ物にならないくらい広く取られています。ただ、部屋に関して昨日より劣るところは唯一つ、部屋からの眺めです。いちおう木々で目隠しされていますが、その向こうが駐車場への通り道になっていて、通る人から部屋の中が見えてしまいます。昨日の本館は町を見下ろしていて、由布院の夜景も楽しめました。さて、ここは部屋食になります。二日目の夕食はまた、工夫のこらされた文句のないものが運ばれてきましたが、この日は何と言っても、九重の黒ぶたのしゃぶしゃぶでしょう。鹿児島ではありませんが、九重の黒ぶたも非常においしいことが分かりました。昨日と唯一素材が重なったのが、最後のゆふいん牛で、昨日は一般的なステーキ、この日は西京焼きでそれぞれ違った趣で食べることができました。食器もいいものが使われていました。食事に関してはここまでは全く異論はなかったのですが、翌日の朝の食事は焼き魚、もやしを使ったサラダなど全体的に少し焦点がボケている感じがしました。決してまずくはないのですが・・・。振り返ってみると、完璧だとは言えないのですが、露天の広さ、雰囲気、食事のおいしさ、コストパフォーマンスなどを考えると、ぼくは結構高く評価したいと思います。

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何年かぶりで、鹿児島に行ってきました。三泊で「さくらさくら温泉」→「霧島山上ホテル」→「妙見石原荘」と庶民的なところから、高級旅館へと移動していく旅でした。それぞれ特徴のある旅館で内容はバラエティに富んでいますが、すべて源泉流し切りの宿でさすがに鹿児島という印象を受けました。またお風呂の交代制については女性優位の感じがして、これは男尊女卑の地、鹿児島らしくなかったなという気がしました。もしかすると長年の男尊女卑の反動がきているのかもしれません。

まず初日は「さくらさくら温泉」。ここは10年近く前にできたばかりのところですが、泥パックが非常に有名になり、いまや鹿児島県の人で知らない人はいないのではないでしょうか。霧島の中心は「丸尾」というところなのですが、そのバス停から送迎車で15分くらいで旅館に着きます。ログハウス・コテージ・和風一戸建て、ペンションなどの様々な宿泊施設が近くに分散しています。すべて敷地内かというとそうではなく、一般の道路をはさんで一般の住宅と同じように建てられているようです。ぼくの泊まったのはコテージで、とんがり屋根の山小屋風で一階が15畳大の広間、木のらせん階段を昇った二階に6畳大のベッドルームがあります。庭に面した部分はほとんどがガラス張りでかなり明るくていい感じです。ミニキッチンもあり、部屋のお風呂も石風呂の温泉です。トイレもシャワートイレでした。ただ、洗面台が大きくひびわれて、そこを補修したテープを剥したような後が黒くなっていました。全体的にコンセプトはおしゃれなのですが、造りはあまり緻密ではないなという感じがします。でも、庭はこの部屋だけの庭だし、庭に面したデッキも広く取られて、若くてそれほど予算のないカップルなどは大満足の部屋ではないでしょうか。さて、お風呂なのですが、本館から遠く離れているので、本館まで歩いて10分近くかかります。そういうわけで、お風呂に行くのにもすべてフロントに電話して迎えに来てもらうのです。ただ、何度お風呂に行くとしても決して嫌な顔をせずに、すぐに飛んできてくれます。全体的にフロントのメンバーは若い男女が多かったのですが、印象はよいものでした。

お風呂は混浴はなく、男女別で夜の12時まで、翌日6時から男女交代です。宿泊日の男風呂は内湯が一つ露天が一つという構成です。新しい旅館ですが、内湯は大浴場という感じではなく、昔ながらの内湯というものを意識した作りになっています。黒を基調として梁も高く作られていたと思います。露天はやや広めといった感じですが、特にこれといった特徴はありません。全体に囲まれてはいるのですが、狭くはないので圧迫感などはまったくありません。林に囲まれ眺望はのぞめませんが開放感はあります。お湯は内湯が適温で露天がややぬるめというところです。白濁して硫黄の匂いが少ししますが、なぜか単純泉ということです。泥湯ということですが、実際に注ぎ込まれるお湯に泥はほとんどありません。湯舟の底がドロドロなんていうことはないです。泥は源泉のところからビニールに入れて運ばれ、泥用の槽に入れられます。女性はこの泥をぬることで、知らない人同士のコミュニケーションがあるそうですが、男性は「ちょっと泥のぬりっこしませんか」なんていうことは決してありません。ぼくは、せっかくの記念に、腕とお腹に少し塗りましたが、乾くまで10分くらい空気に当てて待たねばならず、これから寒くなるとかなりキツイでしょう。泥パックをしたい人は寒い季節には行かない方がいいですね。また、ここのお風呂は入っている時はあったまるのですが、上がるとサーッと冷める感じがします。
当日は女性用で、翌朝男性に交代した方のお風呂は、内湯が二つあり、露天も二つあるという広々としたものでした。朝だったのであまりゆっくり入れなかったのが残念でした。食事は夕食が部屋で、朝食は本館の食事処になります。さて、夕食もここの名物です。「さくらさくら焼き鍋」と名づけられた鉄板焼きと、鍋がミックスされたようなものがメインです。これは、コンロの上にさくらの花をかたどったドーナッツ型の鉄板を置き、その中心部分に鍋を置くというもので、この旅館特注のものだそうです。具材は「黒毛和牛、薩摩黒豚、薩摩地鶏、飛魚、地鶏のミンチ野菜、カニ」などでいい素材を使っていると思いました。おいしかったです。最後におじやにするのですが、これはこちらが勝手に作るので、味付けに失敗してしまいました。この焼き鍋の他には、地鶏の刺身と漬物だけで、考えてみればまったく調理の手間が省けた、旅館側にとっては楽なものです。しかも、素材はそこそこなので、若い人などは結構満足できるのではないでしょうか。また、焼き鍋という面白いもので特徴付けるものなかなかのアイデアだと感じました。翌朝の朝食はごく一般的な朝定食で、まあまあ程度の評価です。夕食に腕をふるう必要がないので、それほどの料理人はいらないのかもしれません。鮭の焼き魚もぴんと来ないし、納豆はカップ容器ごとでてきました。温泉卵のだしが塩辛い感じでした。
 
二泊目は、やはり霧島の「霧島山上ホテル」です。ここは確か60室くらいの宿で、100室を超える巨大旅館が立ち並ぶ霧島の中ではそれほど規模は大きくなく、外観も山小屋風で大きさを感じさせません。ここの特徴は何といっても眺望の良さでしょう。早めに着いたのでしばらくロビーで待たされましたが、霧島の山々の向こうに遠く桜島がうっすらと浮かび、残念ながらこの日は見えませんでしたが、日によっては開聞岳も望めるそうです。そして、この景色は案内された部屋からも同じまま見えました。部屋は桜林山荘という棟の六階で、入り口が広く、洗面、さらに部屋風呂も広くとってあります。次の間が6畳で、本間が12畳、広縁はその二部屋分あり、両方の部屋の窓から先ほどの景色が見られるという訳です。部屋は広いだけではなく新しくきれいで言うことはありません。さらに素晴らしいことが二点あります。一つは先ほどの景色。もちろんこれは向こう側の建物からの覗き込みなどは一切ありません。建物などはまったくなく、ただ林と山々が見えるだけです。もう一つの魅力は部屋風呂です。とにかく明るくて、広い。窓が大きく取られていて、この景色も先ほどと同じです。つまり、この部屋は風呂、次の間の6畳、本間の12畳すべてが同じ方向を向いているという贅沢な作りです。部屋風呂の話にもどりますが、窓が大きいので開け放すと半露天のような印象になります。普段はほとんど部屋風呂には入らないのですが、ここは思わず一番初めに入ってしまいました。桧のお風呂でそれほど広くはないのですが快適でした。
大浴場もなかなかです。源泉流し切りでお湯があふれています。夜中の12時までで、翌朝は5時から男女交代になります。ただ、残念なことに当日の男性用は露天がありません。女性用には大きな露天とさらに桧の露天が付いているのにちょっと差がありすぎて、バランスが悪いですね。しかし、露天がなく大浴場自体も非常にシンプルな造りだったのですが、すべての窓が網戸で開け放されていたせいか、とてもさわやかでいい気分で入れました。いつもは露天がないと長湯できないのですが、出たり入ったりでけっこう長く風呂場にいました。翌日交代したほうの大浴場は、かなり広い湯舟でしたが、風が入らず、わりと蒸気がこもっていて、ぼくは前の日の大浴場の方が好きでした。露天は岩風呂はと広めで20名くらいは入れると思います。桧風呂は一名ずつ入れるものが三つならんでいるという形です。ただ、この桧風呂の方は一部の部屋からのぞかれてしまうので、女性は入りにくそうです。露天の眺望は林で、開放感はあったと思います。大浴場は適温で、露天はややぬるめでした。硫黄泉の感じですが昨日のさくらさくら温泉と同様に単純泉の表示でした。やや白濁している程度で、濁り具合は昨日ほどではありませんでした。湯上がりの冷水については男女ともそれぞれ脱衣所に冷水機がありました。さて、食事ですが夕食・朝食とも部屋でした。メインとなるものが鉄瓶揚げと呼ばれるもので、まあ、オイルフォンデューと天麩羅の中間みたいなものと考えていいでしょう。これは仲居さんが目の前で揚げてくれるので海老や穴子など、熱々がおいしく食べられます。そのほかには、鮑グラタン、茶碗蒸し、お造り、黒豚しゃぶしゃぶ、など非常においしくいただきました。食前酒は吾亦紅という甘酸っぱくて度数が少し高いというにごり酒でした。何品かまとめて出てくる形で、品数としてはやや少なめですがお腹いっぱいになりました。器も良かったと思います。朝食の魚は鮭で、ゴーヤ白和え、ピーナッツ味噌、卵は目玉焼きです。その他に、薩摩揚げ、厚揚げ、納豆などで一般的な朝定食とはやや違っています。印象としては夕食ほどのインパクトはないかなという感じですが、水準以上は間違いないでしょう。全体的に料金がそれほど高くないわりに、コストパフォーマンスはかなりいいと感じました。欠点としては、広い部屋にもかかわらず、主室が隣り合わせになっているたらしく、隣の部屋との境が薄いのか、隣の部屋のテレビの音が良く聞こえました。また、朝の布団上げが8:00の朝食時間ギリギリで、そのあとすぐに食事を運んできたのでほこりが気になりました。とはいえ、フロントの女性はえびの高原行きのバスの時間をしっかりと帰りの乗り換えの時間まで調べてくれるなど、対応はおおむねよかったのではないでしょうか。ただ、お着き菓子はお菓子ではなく黒砂糖とアメで、このアメは部屋に忘れてきてしまいました。
 
さあ、いよいよ三泊目は妙見温泉の「妙見石原荘」です。部屋はどこかと思ったら、ロビーのすぐ隣なんですね。石原荘はかなり広大な敷地を持っていて確か間口500mとか何かで読んだ記憶があったのですが、だったら、部屋に着くまでにもう少し歩いてもいいんじゃないかな、ちょっと気分が出ないなと思いました。部屋は紅藤という名で、石原荘で一番狭い部屋です。だから、多分料金も一番安いと思います。7.5畳しかありません。部屋のゆとりが欲しいと思う人はこの部屋はやめた方がいいですね。広縁も椅子ももちろん風呂もない部屋ですが、入り口や、床の間はある程度広くとられていて、小さいながら水屋もあり、それなりに工夫の凝らされたしゃれた部屋です。この部屋のいいところは、ロビーの隣にあることからも分かるように、川沿いの部屋の中でも特に眺めのいい場所にあるということです。さて、部屋で部屋係の若い女性にいろいろ説明を受けたのですが、露天風呂は予約制のものと、混浴のものとがあるということでした。さっそく予約制の露天に日の明るいうちに入ろうと申し込んだのですが、何と、この時点で6時15分までいっぱいになっていました。正式のチェックイン時間よりまだ早いのにです。いつ、だれが申し込んだのでしょうか。こういうことなら、なぜ着いた時に露天の予約だけでも受け付けるという心配りができないのでしょうか。じゃあ、明日の朝は?と聞くと明日は予約ではなく早い者がちだということです。しかたがないので、夜の10時に申し込み、9時過ぎにその前の予約者がキャンセルしたとの連絡があり、結果的にゆっくり入ることができましたが、なに分夜のことなので、どんな形をしたどんな露天で、どんな景色なのかはまったく分からず、ただ足下が暗くて危ないので気をつけながら入るという、あまり満足感のない入浴でした。しかし、まだ入浴できたから良かったものの、これは大きな問題をはらんでいます。露天の時間が何時までなのかは分かりませんが、一組30分、交代の時間が15分として、4時から、いったい何組の客がこの露天に入ることができるのでしょうか。しかも間に二時間以上かかる食事の時間を挟んでいます。多分半分以上の客がこの露天には入ることなく、宿を後にするのではないでしょうか。ここは是非、旅館側に考えて欲しいところです。
さて、貸し切りの露天が明るいうちには入れないということになったので、混浴の「椋の木露天風呂」に行くことにしました。ここは、去年できたばかりだということです。川岸に降りていってちょっと当惑です。脱衣所がありません。岩の上に大きめのざるのようなものがいくつかあってそこに浴衣を脱ぐようです。対岸からの目隠しにネットのようなものが張ってありますが、湯舟に入っている人間からは良く見えそうです。ということで、女性には非常に入りにくいだろうと思いました。とにかく、入るにせよ出るにせよ知らない男性と一緒になった時は、どうやって着替えるんだろうと心配になりました。また、雨の時は脱衣がぬれてしまいそうです。ただし、お風呂自体は非常にいいお風呂です。適温ですが、かなりあたたまるお湯だという気がしました。この辺のお湯は、鉄の味がして、炭酸を含んでいるらしくただの鉄のお湯よりは飲泉しやすいようです。また、椋の木露天というように、大きな椋の木の下にあり、椋の葉が上をおおって、椋の木に抱かれるような気分になり、非常に癒されます。ただ、近くに安楽橋(?)があって、そこを通る人からは見えてしまうことと、あまり気になりませんが、対岸にも建物があったと思います。さて、次は大浴場についてです。石原荘は風呂に行く場合はすべて本館の玄関を出て、右方向に歩かねばなりません、まず、貸し切りの露天の入り口があり、続いて「天降殿」という浴場棟があります。ここの入り口近くに飲泉場があり、竹の柄杓がいくつか並んでいます。そこを進んでいくと、浴場棟のロビー(湯上がり処)があり、ここには氷をたっぷり入れ、レモンの輪切りも入ったガラス製のピッチャーが二つ並んでいます。ブルーのグラスがきれいに伏せて並べられています。ここの素晴らしいところは機械的な冷水機や紙コップ・プラコップではない点、さらに、飲み終わったグラスがいくつも置かれる間もなく洗われ、水も補充される点にあります。極端に言うと、一人が一杯飲んだだけで、すぐに補充されます。今まで、いくつも湯上がり処を見てきましたが、これほど見事なのは初めてでした。大浴場は小ぢんまりしていますが、15室ですので、ちょうどいいのではないでしょうか。浴場内は大きな窓は一面にしかありませんが、緑が見えいい感じです。壁面は現代的な不思議なレリーフになっています。落ち着く浴場だと思います。混浴の露天に入り大浴場に入り、レモン水を飲んで結構気分的には落ち着いてきました。いよいよ夜の食事です。夕食は一品一品の部屋出しです。ちゃんと宛名入りのお品書きが添えられ、全部で13品の項目が書かれています。ぼくの印象としては特にこれがメインというものはなく、銀杏ごま味噌よごし、蛤 たらば蟹玉締め、むかご海老しんじょうなど、それぞれ工夫の凝らされた非常においしいものでした。中でも、鮎の葛の葉巻き、黒豚柔らか煮、山太郎蟹鍋、デザートのあけびなど、地元の食材を生かそうとしている工夫がはっきりと見られました。あけびというものを生まれて初めて食べました。すべてにおいてレベルの高い料理だと言えます。最後の湯葉ごはんというのも初めて食べましたが、これまたおいしかったですね。器も非常に良かったと思います。朝食も部屋出しなのですが、こちらの希望で食事処に変更してもらえました。個室でここもなかなかおしゃれな部屋でした。朝食自体もおしゃれな感じで、量は多すぎず少なすぎずです。寄せ豆腐、卵焼き、焼き魚、薩摩揚げ、おからなどで一般的な朝定食とは少し違います。夕食ほど特に凝ったものはありませんが、やはりおいしいものでした。ごはんは、一部屋ごとに小さいけれど昔ながらのお釜でたかれたもので、おこげを久しぶりに食べました。
さて、その朝食前に昨日の貸し切りの露天は今日は自由貸し切りなのでどんな塩梅だろうと見に行ったのですが、6時過ぎにはもう誰かに入られてしまっていました。で、しばらくしてから行ってみたのですが、こんどは空いていました。改めて朝入ってみるとこの露天もまた素晴らしいものでした。まずとにかく広い、大きく上下二段に分かれていて、その両方とも天降川の渓流に面しています。上段が適温で、下段はややぬるめという感じです。下段の湯舟はまた岩で二つに区切られた形で、つまり全部で三つの浴槽に分かれていると言ってもいいでしょう。しかもそれぞれの浴槽は広くて6・7人は入れるのではないでしょうか。つまり全部で20人以上がゆっくり浸かれるお風呂が貸し切りできるのです。多分無料の貸し切り風呂としては最高の部類でしょう。さらに、景色が素晴らしい。渓流の流れと周りの緑。下段の湯舟のところでは、手を伸ばせばいまにも流れに届くかと思わせるほどです。これだけ広いのに周囲からの覗きこみはほとんどないと思われます。昼間の立ち寄りの時間帯はここは女性専用の露天風呂になるようですが、その理由も分かります。ダイナミックさにおいては、昨日の椋の木露天風呂よりはるかにまさっています。やすらぎと落ち着きという点では椋の木露天でしょう。ということで最終的には露天に関してはすっかり満足してしまいました。部屋係やフロントの女性は和服ではなく女将さんがデザインしたというドレス(?)を着ています。また、夜寝る時はパジャマが出るのですが、これも変わった感じで多分女将さんがデザインしたのでしょう。部屋係の女性は若くて、ぼくの質問ぜめにも嫌な顔ひとつせずていねいに応対してくれ非常にいい印象を受けました。ただ、翌朝は顔を見せてくれなかったのが残念でした。4時チェックイン、予約露天の問題、露天脱衣の問題、フロントにもてなしの心が感じられない、など結構重大な問題もはらんでいるものの、露天や食事の素晴らしさ、宿全体に漂うおしゃれな雰囲気、など大きな魅力を持った宿であることは確かです。

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鹿児島第二弾の旅、霧島温泉「旅行人山荘」と桜島の古里温泉「古里観光ホテル」に行ってきました。
 
「旅行人山荘」は、坂を登っていく感じで、宿からの眺めは、霧島の山々、桜島(見せませんでしたが)など、素晴らしいものです。迎えの車で林の中を抜けて、「旅行人山荘」に着きました。名前からいうと小規模な小ぢんまりとした旅館を想像しますが、実際は40室の中規模旅館で、また耳慣れない旅館名だったので、新しいのかと想像していましたが、着いてみるとけっこう年数が経っている印象を受けました。後で聞いたところによると、ここは以前「霧島プリンスホテル」という名で、5年位前に名前を変えたということでした。通された和洋室は3階の角部屋です。部屋に入ると、右手にバス・トイレ、左に独立した洗面所。靴を脱いで上がると10畳の和室、その隣が10畳大の洋室という、かなり広めの造りです。窓は和洋室の両方にありますが、角部屋でも、その一方向にしかありませんでした。部屋は全体的にくたびれた感じで、広縁や踏み込みはなく、床の間もありません。椅子は重厚な、どっしりした感じのものが洋室に置いてありましたが、布が擦り切れて綿のようなものが顔をのぞかせていました。洋室にはミニコンポまで置いてありましたが、なんか全体的にちぐはぐな印象です。窓からの景色は、庭、霧島の山々などで、この窓からも桜島が見えるそうです。案内の女性は非常ににこやかな女性で、チェックインした時に判断したサイズの浴衣を持って部屋まで案内してくれました。チェックイン前の時間だったせいかお茶出しはなく、お着き菓子は「星降る霧島」というゴーフル一枚で、おいしいのですが、何かさびしい気がします。それから、バス・トイレに関してですが、ドアを開けると縦長の4畳くらいの空間があって、その一番奥の壁に洋式のバスがはりついているんです。そして一番手前にトイレがあって、その隣がトイレ用の洗面です。その間がガランとした空間だけです。しかも全面タイル張りなので、その寒々しいこと。絶対にバスに入ろうなんて気は起こりません。また、それとは別に独立した洗面があって、けっこう広くてそれはいいんですが、そこに置いてあった、歯ブラシとカミソリの入ったアメニティ袋には「霧島プリンスホテル」の名前が・・って一年目からでも、いや次の日から新しい名前の袋にしましょうよ〜。せっかくかっこいい名前にしたんだから。こんなちょっとしたことによるイメージダウンの方がよっぽど痛いと思うのですが・・。
ここには露天が五つあり、大浴場に付いている二つの展望露天をのぞいて、後の三つが貸し切り露天です。その三つのうちの最高の露天が「赤松の湯」です。「赤松の湯」は45分の予約制で、宿泊客は4時から入れるようです。今回もチェックインは早かったので、4時の時間帯に予約することができました。大浴場に行く途中で庭に出て、雑木林の中を一・二分降りていくと、まさに林の中に忽然と姿を現す露天風呂といっていいでしょう。といっても、いきなり湯舟だけがあるのではなく、ちゃんと脱衣のための小屋や木の扉があります。湯舟は石組みで、四人ほど入れそうなやや小さめなものと、その倍は入れそうなやや大き目のものが並んでいます。岩から流れ出すお湯はまず、小さめの方に流れ込み、そこから間の仕切りの石の上を通って大きめの湯船に流れ込むという趣向になっています。したがって、小さめの方はやや熱めで、大きめの方がぬるめになって白濁したお湯が流れ出しています。熱すぎず、ぬるすぎずでどちらに入っても長く入っていられます。まさに林の中のお湯で、しかもこの林は雑然とした暗い林ではなく、明るい美しい林である点が気分をよくしてくれます。しかも、どこまでも続く、奥行きのある林なのです。野と一体になった感じのお風呂ですが、ここは瀟洒な洗練された自然と言う感じです。湯舟の上には白い山茶花の花が今まさに満開で、それもまた優雅な気分を一層引き立ててくれました。
大浴場はやや長方形をした部屋の短い方の一面が窓になっていると言う形で、少し暗い感じがして僕としては今一でしたが、翌朝交代したほうの大浴場は少し広く感じられ印象はいいものでした。このそれぞれの大浴場にもその窓の先に露天が併設されていて、ここの見晴らしもかなりいいものです。黄砂さえなければ、桜島を眺めながら入浴できたのにと残念でした。ここは二つの大浴場が隣り合ってほとんど眺めは同じなのですが、手前の庭にある植物で少し印象が変わっています。当日が女性用だった方の露天はススキが白い穂をなびかせて、その点でいくらか景色が良かったように思います。お湯は白濁した硫黄泉で細かい湯の花がありました。ただ、大浴場の方はそんなに白濁した印象は受けませんでした。特に調べはしませんでしたが、源泉流し切りだと思われます。食事ですが、夜・朝とも「展望」というレストランでいただきます。夜の食事のボリュームはすごいものでした。メインとなるものは姿造りを中心とした刺身皿、カニを中心とした刺身皿の二つで、その他に豚肉と地鶏のすり身のとんとん鍋 土瓶蒸し 柿釜 てんぷらそばなどでした。全体的においしく、特に海沿いの温泉でもないのに、まるで漁師の経営する民宿のように刺身を中心とする魚料理がたっぷりと出たのが不思議でした。刺身の淡白質でもうおなかが一杯になってしまって、最後の方は味が良く分からなくなった感じです。どうせ無理して食べる感じになるので、ごはんはパスしました。ぼくがパスするなんてよっぽどのことです。朝は、この夜の食事に比べると異様に少ない感じがします。海苔、サラダ、温泉卵、湯豆腐、魚、煮物、薩摩揚げというごくごく当たり前の朝定食でした。ということで、お風呂、料理はほとんど言うことなし、部屋に関することがすべてという感じでした。次の日の予定を聞いて、バスの時間を調べてくれ、それに合わせて送りの自動車を出してくれるなどサービスに関しても申し分ありませんでした。送りの自動車を愛想のいい女の子が手を振って送ってくれました。
 
二日目は桜島にある「古里観光ホテル」です。ここには、大きな「龍神露天風呂」という錦江湾に面した男女混浴の露天風呂があるのですが、男女とも白い浴衣(よくい)を着なければならない、ということは結構有名だと思います。特に、鹿児島の人にはかなり知名度のある温泉ではないでしょうか。ただ、この龍神露天風呂に関してあまり知られていないことを一つ付け加えると、桜島が噴煙を上げ、風向きでその灰が露天風呂の方に流れてきた場合には露天風呂には入れないということです。つまり、運が悪いと、せっかくこの露天風呂をめあてに宿泊したのに、露天風呂に入れないままチェックアウトしなければならない、ということも起こりうるということです。また、露天風呂に入るときに着る浴衣も有料ですので、さらに210円余計にかかることも頭に入れておく必要があります。フェリー乗り場から迎えのバスが定期的に出ていますので、それに乗り込み宿に向かいました。部屋は12畳と広縁が5畳大で広縁に洗面があります。ユニットバスの洗面は別にあり、このユニットバスは広めでゆとりがあるものでした。浴衣(ゆかた)は初めから部屋にフルサイズが用意されています。全体的に悪くはないのですが、やや古くなった感じの部屋という印象です。部屋には最初から冷水ポットが氷入りで用意されています。金庫はカギのない暗証番号式の小さなものが四つあり、これは非常に評価できると思います。窓からの眺めは錦江湾の海原で、桜島の山方向は当然見えません。海ですので、向こうからの覗きこみもありません。この日は黄砂がとりわけひどく、桜島に向かうフェリーの船着場から見る桜島さえぼんやりとしか見えないという状態でしたので、窓からの景色も、本来なら見えるはずの半島なども見えず、残念でした。
さっそく、龍神露天風呂に出かけました。露天に入るにはまず、風呂専用のフロントに行き、そこでキーを預け入浴用の「南無観世音大菩薩」という言葉が背中に大書された白い浴衣(よくい)を受け取る仕組みです。この浴衣は別料金で210円しますが、宿泊者は一回払えば、後は何回入っても浴衣代は一回分で済みます。大浴場に入る場合でもこの風呂専用のフロントでキーを預かってもらえ、これはなかなかよいシステムではないでしょうか。部屋の金庫のキーがないことと合わせて、キーの安全に関してはなかなか留意している感じです。龍神露天風呂に関しては、浴衣を着て入浴しなければならないということに抵抗がある人ももちろんいるでしょうが、入ってしまえば意外に気にならないものだと感じました。むしろ、カップルも他の人に遠慮せずにゆっくり入れるという意味で、これはなかなかのアイディアかもしれないという気がします。普段は混浴で女性と話をするなんてことは考えられませんが、ここではみな同じ格好なので遠慮なく話もできます。ここは、もちろん錦江湾の海の眺めも素晴らしい上に、海に飛び込もうと思えば飛び込める近さ(もちろん飛び込み禁止です。もし飛び込んでも後は知りません)です。また、海を背にして反対側を向いても、たくさんの観音様を祀った祠?、男岩、あこうの木のからみあった根、小さな洞穴の中の飲泉、あこうの木に留まる様々な小鳥など、目に映る珍しいものも多いので長くいても退屈しません。お湯も食塩泉なので、少しぐらい湯舟から体を出していてもすぐに寒くなると言うことはありません。ただ、濡れた浴衣でまたお湯の中に体を入れるときが結構冷たく感じますが、それくらいです。この龍神露天風呂には、結局、昼・夜・朝と一時間ずつ三回も入ってしまいました。ただ、おどろおどろしくからみあったあこうの木の根や、観音様がたくさん祀られていることもあり、夜一人で入ると怖いかもしれません。本当は夕方の、日の沈むところも露天の中から見たかったのです。しかし、この日も夕方に大量の噴煙があがり、初めは風向きが違ったので良かったのですが、そのうちに風向きが変わり、湯舟にも灰が落ちてきて、果たせなくなってしまいました。この日は灰が降ってきたため、一度入浴禁止にして灰のやむのを待ち、急いで湯舟を清掃して、結局、夜の8時半から再開したそうです。お湯を抜くのに30分、入れるのに2時間半ぐらいかかるそうです。露天風呂まで本館からかなり下って行くのですが、斜行エレベーターが備えられて以前より大分楽になったようです。また、露天の小さな洞穴の奥には飲泉用の柄杓がおいてあるので、この露天は源泉流し切りだと思うのですが・・湯の花のたぐいはありません。
さて、大浴場には入り口にハンドタオルのみ少し置かれています。カミソリは風呂用のフロントで受け取る仕組みで部屋や脱衣所にはありません。大浴場の湯舟はひょうたん型で、10人ぐらい入れる程度でしょうか。湯船の中に四角形の台座とその上に巾着型の置物がありその巾着の中からお湯が湧き出すという趣向です。台座の四面のうちの一面に「安穏」という言葉が彫りこまれています。浴室が全体的にタイル張りで、それほど大きくもなく、一昔前の大浴場と言う感じがします。窓が全くなく、四面のうちの一面はすりガラスで隣と区切られていますが、向こう側は屋内プールの模様です。あまり長く居たくなるような大浴場ではありませんでした。また、その巾着とは別にパイプからドバドバとお湯が注ぎ込まれていましたが、湯舟からはほとんど流れ出さず、「飲泉はできません」と書かれていたので循環にちがいないと思われます。小さな湯舟なのに何で流し切りにしないのか、理解できません。夕食は刺身五種がメインで、赤ワインと梅酒を合わせた食前酒 前菜三種 酒肴五種 酢の物 豚鍋 が最初に出され、寿司(巻物二つ+たこのにぎり)、土瓶蒸し、大根の蓋物、天麩羅五種 が一つずつ後で出されました。しかし、結構ペースは速く、どんどん持ってきましたね。デザートはぜんざいでした。全体的においしいのですが、特にこれといった特筆するべきものはなかったと言っていいでしょう。朝食は龍神釜飯という釜飯がここの名物です。海老やほたて、海藻などの海鮮の具を温泉で炊き上げたもので、薄味でおいしいものです。あとはいかの刺身や冷奴などが並び、卵をつかった料理はなく一般の朝定食とは少しちがった印象を受けました。やはり、全体的には少なめの印象を受けました。立ち寄りも多いようで、全体的に落ち着いた雰囲気ではありませんでしたが、チェックアウトぐらいの時間になると余裕もできて、女将さん初めフロントの女の子や部屋係の女性も一緒に記念写真に入ってくれるなど親しみが持てました。その三人が送りの車を見送ってくれました。全体的に欠点は少ない印象を受けましたが、露天風呂を除いては特にこれというインパクトの強いものは感じませんでした。また、水を大切にし、露天の清掃も温泉を使うという話でしたが、そんなに源泉があるのになぜ大浴場が循環なのかがよく分かりません。そのことを含めて、少し古臭い感じもあり、大浴場の改良を望みたいところです。

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三か月連続の鹿児島へ行ってきました。今回、まず行ったのは天降川の岸辺に立つ「華耀亭」です。立地するのは自然に囲まれたところです。前にも後ろにも杉の木立が迫り、そこを降りたところに7階建ての建物が建っています。部屋は紫苑という四階の部屋で、踏み込み3畳、次の間6畳、主室10畳、広縁5畳大という広さです。建物全体はそう新しくはないのですが、室内は手入れがされていて新しい感じです。ベランダにサンダルもあり、出られるようになっています。窓一面には目の前に迫った小山の斜面に杉木立が整然と立ち並んでいます。窓から離れて窓を見ると、まるで杉の壁紙がはられているような感じです。窓から見下ろすと天降川の静かな流れが眼下に広がり、とにかく気持ちが安らぎます。もちろん外からの覗き込みはありません。部屋に着くと、まず抹茶とお着き菓子のミニかるかんが出され、部屋係の仲居さんの完璧な案内がありました。鹿児島名物のかるかんですが、宿で出されたのは初めてだと思います。仲居さんは、その後で煎茶も入れてくれました。
ここの露天風呂は「鬼のすみか」と名付けられた混浴のもので、もちろん天降川の岸辺にあります。さっそく行ってみると川岸から見上げる杉木立の壁の高さは思ったほどではなく、意外に明るくて、怖いくらいの雰囲気というものはありませんでした。杉木立の連なりがこの倍くらいの高さがないと、そんな感じにはならないのかなと思いました。湯舟は上下二つあり、上の露天も広々として景色もよく、これだけでも十分と言えるような露天ですが、残念ながら川面は見えません。
この上の露天からさらに川の近く、7段くらい降りたところに、下の露天が天降川の渓流に面して、やや細長い感じで川面よりも少し高いところに位置しています。湯舟に入りながらは川の流れは眺められませんが、少し腰を上げれば静かな川面を目にすることができます。上流に当たるのにここの流れはかなり静かで、どちらに流れているのかはっきりとはわからないほどです。川には大きな岩が点在し、岩には奥入瀬のように、草やコケなどが生えています。目の前に杉の木立が重なるように壁をつくり、まさに深山幽谷の露天風呂と言う感じで、非常にいい雰囲気です。今まで入った露天の中では、深山幽谷度という点ではNO1だと思います。下の露天風呂には上の露天からのお湯が流れ込むと同時に、専用の太いパイプからも源泉が流れ込み、下の天降川へとあふれ出ています。もちろん、どう考えても源泉流し切りです。上の露天の湯温はやや熱め、下の露天は上よりは低めですが、細長いため、源泉の流れ込む奥に行くにしたがって熱めになるという仕組みになっています。泉質は鉄と炭酸を感じるお湯で、よく温まります。飲泉はできないようです。特特Aの露天と評価しました。混浴ですが時間によって女性専用になり、女性は割と優遇されている感じです。特に夜8時から10時まで、翌朝6時から8時までと女性専用時間がかなり長く取られています。大浴場は湯舟が広めで、20人くらいは楽に入れそうです。ただし、湯舟の真ん中に大きな柱がどーんとあるのが少し興ざめでした。女湯との境の壁が少し低くなっていて、そこから源泉が惜しみなくどばどばと流れ込んでます。広い湯舟の10メートル以上ありそうな縁から、お湯があふれ出ています。こちらも源泉流し切りだと思われます。ただ、浴室内に湯気がこもって視界があまりはっきりしない点や、部屋数が50近くある割には洗い場が少ないのでは?と思いました。また、脱衣所は白いペンキ塗りの壁なので殺風景で、素っ気無く感じました。全体のレイアウトや置くものも含めてこの辺をもう少し気にかけ、工夫を凝らせばかなり評価は上がるはずです。また、特に湯上がりどころがなく、麦茶も冷水も置いてないのも残念でした。

食事は朝夕とも部屋で、夕食は箸袋が献立表になっています。最初に珍味、お造りが出され、メインの鴨のすり身鍋、それから土瓶蒸しに火がつけられます。その後で、一品ずつご飯を除いて四品出され、海老の釜飯。デザートの果物という順になります。少し早めの出し方でしょうか。全体的においしく、最後のご飯は海老の釜飯なのですが、これも薄味でおいしいものでした。また、お造りもおいしかったですね。ただ、とくにこれという飛びぬけたものはなかったような気がします。デザートはばんぺいゆという、何かと何かを掛け合わせたという柑橘系のものとイチゴでした。朝食は、海苔と卵焼きが付く一般的な朝食ですが、海苔がたっぷりはいったおすましや、温かいそうめん(にゅうめん)が付くのがめずらしい点です。全体的においしいものでしたが、これというインパクトは感じませんでした。

 
二日目は指宿の「秀水園」です。案内係が部屋へ案内してくれ、すぐに抹茶とお着き菓子を持ってきてくれました。若い女性ですが、こちらの質問にあわせて、嫌な顔をせずいろいろ話をしてくれました。案内係というと、次の客の案内があるので、決められたことを説明すると、そそくさと出て行く人が多いのですが、ここは多くの案内係がいるらしく、あせるようすもなく話につきあってくれ、話の切り上げ時も心得ていました。部屋は南州という最上階の部屋で、若山牧水の歌が床の間に飾られていましたが、もしかすると自筆?という気がしました。古い建物ですが、ここもしっかり手が入っていて、部屋は全く新しい状態です。踏み込み2畳、主室10畳と一般的な広さの広縁という、割と基本的な造りですが、見取り図を見ると、この倍近く広さのある部屋も多いようです。洗面台は狭めですが、棚がビルトイン方式でうまく工夫されています。爪切りやパック入りのうがい薬と、ちょっとした小物を洗う、やはりパック入りの洗剤が洗面所に用意されていました。残念ながら、この旅館は海の際ではないので、前に建物があると視界がさえぎられてしまいます。何年か前までは全面に海が見えたらしいのですが、今は前の旅館が大きな建物を建ててしまったということで、海の景色が半分見えなくなっています。ある程度距離が離れているので、極端な覗き込みはありませんが、向かい側の旅館からも部屋の中が見えるかもしれません。半分はまだ海の景色がのこっていて、鳶などがゆっくり旋回するのが眺められました。
早速、歩いて5分ぐらいの砂蒸し会館「砂楽」へ出かけました。その時、玄関にいる案内係の女性6人ぐらいが「行ってらっしゃいませ」と一斉に手をついて(上がり口が畳敷きになっています)送り出してくれます。砂楽の砂蒸しは思ったほど熱くはなく20分も埋もれていました。もっと大丈夫でしたが、ま、このぐらいでいいだろうと出てきてしまいました。宿に帰ってくるとけっこう時間が経っていたので、さっそく宿の風呂へと出かけました。この秀水園も部屋数は多くて50近くあったと思うのですが、その割には脱衣所や大浴場は広くありません。どちらかというと小ぢんまりした感じです。脱衣所も大浴場も洗練されていて清潔感や快適さは十分感じさせるとは思います。脱衣所にはフェイルタオルのみ置かれています。また、「センブリ」「センナ」「ゲンノショウコ」など薬草を煎じた漢方の飲み物3種類と冷水機も置かれていて、グラスが扉の中に入っています。試しに、苦いといううわさの「センブリ」を生まれて初めて飲んでみましたが、たしかに「苦〜っ!」という感じでした。この脱衣所とは別に、外の廊下に冷たい麦茶も置かれていました。部屋のアメニティといい、かなり気配りはあると感じさせます。
露天は大浴場に面して設けられています。大浴場の外のわずかなスペースを最大限利用したという感じで、スペースが狭い割には、ほとんど湯舟になっているせいで意外と広く、6・7人は入れるでしょうか。大浴場のガラスと、反対側の塀にはさまれ、露天の開放感はまったくありません。見上げると長方形の形に区切られた空がわずかに覗けるだけです。また、この露天は温度調節が難しいらしく、初めはかなりぬるかったのですが、しばらくして従業員が来てバルブを開き、熱いお湯がドバドバと流れ込んで熱めになりました。ただ、熱い源泉を一気に入れたのでお湯が表面は熱く、下はぬるいという状態になり、手でかき混ぜながら入っていたら、また従業員がお湯をかき混ぜに来ました。ただ、これはお湯を循環させる装置がついていないということでもありますので、源泉流し切りということです。大浴場はやや低めの適温で、こちらは温度変化はなかったようです。こちらも流し切りだと思います。泉質は食塩泉で、極端に塩辛いというほどではありませんが、やや辛目ですね。
食事は、夕・朝食とも部屋になります。食事時間になるとテーブルに真っ白なテーブルクロスが掛けられ、期待を高めてくれます。ここは一・二品ずつの懐石型で、したがってテーブルで火を使うものはありません。運び方のペースはやや早めですが、早すぎるということはありません。柿釜はありませんでしたが、メインの鮑の素味噌焼きはその柿釜に当たるものだそうです。これは絶品です。バターを使っているのではないかと思い部屋係の仲居さんに聞いてみましたが、板長さんは教えてくれないそうです。また、黒豚の柔か煮も絶品で、口の中でとろとろと溶けていきます。先付やアマダイの真蒸など、その他のものもおいしく満足できましたが、なぜかお造りだけはインパクトがありませんでした。デザートは果物のヨーグルト掛け。また、夜食としてぜんざいが出ました。朝食は、焼き魚やサラダなどという一般的なものと薩摩揚げイカ刺し、煮物などです。また、汁物は「薩摩汁」と「ご汁」の二種類がつきました。全体的に吟味され、揺るぎのない朝食という印象を受けました。ここも部屋係の仲居さんが夕食、布団の上げ下ろし、朝食、見送りと、最初の案内以外はすべて世話をしてくれるという一流旅館に多いパターンでした。アウトの際にはお荷物を運びますのでお電話をください、とはっきり告げてくれた上に、電話なしでアウトするのではないかと気を配ってくれる様子もうかがわれ、心付けのあるなし、多寡に関係なく明るく面倒をみてくれた部屋係の女性「加代子さん」は高く評価したいと思います。一応アウトの時間を過ぎても、電車の時間に合わせしばらくロビーでくつろいでいたのですが、ここにだらだらといてもしょうがないので、もう駅で待つことにするかと、気まぐれに出発しようとした我々の見送りに急いでいかけつけて、心をこめて一生懸命に手を振ってくれた姿には心打たれました。また、そのように仲居さんを育てている旅館も素晴らしいと思います。ここは老舗(?といっても、そんなに古くはない)の名に恥じない、名旅館でしょう。客をもてなそうという心があります。また、それぞれの部門でのレベルが高いと思います。

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唐津に行ってきました。唐津には天然温泉はなく、それぞれの旅館は鉱石を利用したお風呂を天然温泉の替わりにしているようです。一日目が「唐津シーサイドホテル」で、ここは延々5キロ続く日本一の松原で有名な「虹の松原」の西端に位置する、客室数が100を越える巨大ホテルです。和室の部屋もあり、部屋の外を浴衣がけで出歩けますが、基本的には旅館というより、リゾートホテルと考えておいた方がいいでしょう。お着き菓子もないし、部屋係もおらず、オートロック式のキーになっています。ここは東館と新しい西館とに分かれており、選んだのはそれほど高くない東館の方の企画だったのですが、通されたのは西館の四階の部屋でした。わずかな踏み込みを上がると、正面が風呂で、この風呂は海岸に面している眺めの良い明るいものでした。風呂の手前に広めの洗面所があり洗面台は二面付いています。トイレはシャワートイレで乾燥もついていました。部屋は12畳の広さで、広縁や椅子はないのですが、全面に一枚ガラスがはめられた窓の手前に、海に向かって長いカウンターがしつらえられています。座敷側に座り、掘りごたつのように足を下ろして、ぼーっと海を眺めていられます。窓の外には一段下がってテラスがあり、白い椅子が二脚とテーブルが置かれていました。今は寒すぎますが、そよかぜの涼しい季節は最高でしょう。高島や広々とした唐津湾の砂浜が広がり、海の景色としてもなかなかのものです。玄界灘に当たるそうですが、湾内のせいか、波はしごく穏やかなものでした。この砂浜はホテルのすぐ外にあり、出るのに一分もかからないプライベートビーチのような感じです。夏にはかなりの海水浴客でにぎわうらしく、すでにもう満室になっている日もあるそうです。床の間は半畳分の幅で、左側の壁一面に広がっていましたが、花がなかったのは残念でした。洋服入れが二か所あり、金庫は桜島の古里観光ホテルにあったような、暗証番号式の小さなものが計五つ。もちろん、窓の向こうからの覗きこみのようなものはありません。ただ、部屋は新しいのですが、畳はやや色あせてくたびれていたのが気になりました。
大浴場は鉱石を使った温泉ということでしたが、ちゃんと「虹の松原温泉」という名前がつけられており、厚生省の認可を受けたということで、効能書きが浴室に掲げられていました。浴槽は6・7人が入れる程度のもので蛇口の数も7・8個と100室を超える規模のホテルとしては小さめですが、特に風呂を主目的とする宿泊客は少ないでしょうから、この程度の規模でも大丈夫なのかもしれません。窓の外には部屋から見るのと同じ海原が眺められます。また、海を見渡せる露天風呂も大浴場に併設されており、4人くらいは入れそうです。湯温は大浴場がやや温め、露天がやや熱めですが、入ってしまえばそれぞれ快適です。もちろん、完全な循環で塩素臭がしました。ただ、お湯は効能書きにあるとおり、ぽかぽかとあたたまり、それなりのものだったと思います。また、脱衣所には冷水機が備え付けられていました。
ここはホテル形式ですので、食事は和食、洋食、中華の中から好きなものを選ぶことができます。やはり、ここに来たら魚だろうということで、魚を一番食べられそうな和食を選びました。夕食は食事処で、テーブル席ですが、一品ずつ運ばれてきます。お品書きはあることはあるのですが、「前菜・お造り・・」という項目立てだけで、具体的な内容にはふれられていません。割とテンポ良く持ってくる感じですが、それほど気になりません。さすがに海のものが多く、玄界灘の魚は、荒波にもまれて身がしまっているということで、お刺身はプリプリしていました。特にメインというものはない感じで、ここの名物というイカシュウマイや最後の茶碗蒸しは絶品でした。多分洋食部門の作ったと思われるデザートの焼きプリンも絶品で、非常においしいものでした。ごはんは、じゃこめしでした。朝食はレストランでのバイキングになります。まず、席ですが、自分で探すのではなく、レストランに入った段階で、空いている一番いい席に、係員が案内してくれます。また、並べられている料理に、それが何であるかちゃんと札がつけられ、しかもその使われている食材が吟味されています。なっちゃんお勧めの川島豆腐店のざる豆腐もドカンと大きなざるのまま置かれていました。甘味のある非常においしいお豆腐でした。ということで、ここのバイキングはかなり評価していいと思います。

rakku。さんより・・・波戸岬のさざえの壷焼きも美味いですよ!

二泊目は、唐津シーサイドホテルから歩いて7・8分のところにある、なっちゃんお勧めの「洋々閣」です。洋々閣は、唐津の町の小さな通りに面して、本当にひっそりとたたずんでいました。大きな看板もなく、普通に歩いている人はここが伝統ある名旅館であるなどとは少しも気付かずに行き過ぎてしまいそうです。それでも、建物の前に白い大きな布がピンと張られ、洋々閣と右下に書かれているので、ああここがそうだと分かるのですが、実はここは館内に併設されている、陶芸家の中里隆氏のギャラリーの入り口で、本来の入り口はさらにその左に15メートルほど行ったところで、白地に黒い文字で「洋々閣」と書かれた小さな看板があるだけです。二間ぐらいの間口の引き戸を開けると、広い土間が続いています。ここはその昔、人力車が入ったなごりのようです。あまりにもひっそりとしているので、本当にここが入り口だろうかと疑問に思いながら奥へと進み、声をかけました。時間前ですので、ギャラリーをごらんになるか、ロビーでお待ちください、と言われ、まず、中里隆氏のギャラリーを見ることにしました。ギャラリーはどうやら二つあり、その小さい方を見たようです。陶器に関して鑑賞眼のないぼくは、本当の良さとはどういうものなのかまではよく分かりませんでしたが、とにかく一通りざっと見終わって、では次は庭を・・と思い、庭へ出るところを探していると、どうぞお部屋の用意が出来ましたと、作務衣姿の女性が声をかけて部屋へと案内してくれました。ぼくは、その女性の姿を見た瞬間に、ああこの人が女将さんだなとピンとくるものがありました。旅館のHPにも女将さんの写真は載っていなかったので、顔は知らないはずですが、多分全身に女将さん独特の雰囲気がただよっていたのでしょう。後で仲居さんに聞いたのですが、女将さん自らが案内するということはあまりないそうです。
部屋は「烏帽子」という名前で、実は山本益博氏が「味な宿に泊まりたい」で泊まった部屋です。この本に洋々閣が載っているらしいということはHPで分かっていたのですが、このあとロビーの書架からこの本を探し出し、読んでみて、同じ部屋に泊まったのだということが分かり驚きました。烏帽子は庭に面した部屋で、建物は古くても内装は新しく、洗練された和の造りになっています。全体的に黒や茶が基調であるらしく、随所にこだわりが見られます。トイレの便座が黒だったのは初めてではなかったでしょうか。また、このトイレは温座ではあるものの、シャワートイレではなかったのですが、機械的なチャラチャラしたものは置きたくないという、デザイナーのこだわりから、そうなったのではないかと感じました。部屋のスイッチ類もすべて、周りの金属が黒く塗られ低いところに取り付けられています。また、多分これもこだわりから来るのではないかと思いますが、部屋には冷蔵庫も金庫もありません。部屋は10畳で、庭に向かって左手の壁一面がすべて一畳幅の床の間になっており、書と花がバランスよく配されています。床の間の右下方には棚が横に渡され、その下が細い明り取りになって床の間に明るさを与えています。部屋の大きな障子を開け、和室から一段降りた形で石タイル敷きの5畳大の広縁が続きます。広縁にはホットカーペットが敷かれ、大きな包み込むような籐椅子が二脚と丸い籐のガラステーブル、可愛らしいスリッパが二足置かれています。さらに、庭に面した大きなガラス戸を開けると、その広縁から直接庭に出られるのです。部屋から見る庭の景色も素晴らしいものです。芝と松を主体とした庭で、特に華やかな色が目立つ庭ではありません。確かに緑の色はついていますが、どちらかというと山水画の趣です。部屋から眺めると窓の右側から、一本の曲がった松が、その体全体を左に伸ばして画面に大きなアクセントを与えています。もしかするとこの部屋の眺めが一番いいのでは? と思わせますが、多分どの部屋に入ってもそう思わせるのではないかと考えてしまうのです。また、多くの部屋がこの庭に面して建てられているのですが、この部屋からはどの部屋の中も覗けないのです。ということは、どの部屋からも覗かれないということでもあります。今まで、ここまで心憎いほどに計算しつくされた部屋にはお目にかからなかった気がします。ただ、エアコンはしっかり利いているし、上がり口のところにはファンヒーターもあるのですが、やはり木造なのでコンクリート造りに比べると寒いと言っていいでしょう。廊下などにも随所にファンヒーターが置かれていますが、基本的には夏に風を取り入れる造りなので、寒いことは寒いです。ただ、外の廊下はすべてガラスで仕切られ、館内で外気に触れるということは全くありません。案内してくれた女将さんと、部屋に入ってから少しお話をしましたが、ふくよかで温かな印象です。これだけの宿の女将なのに決しておごらず、しかし矜持を持っている。しかもしごく自然体でいられる人のように見受けました。勉強して自分でホームページを立ち上げるという、興味や意欲にあふれた人だからこそ、古い伝統に新しい血を入れることができたのではないでしょうか。また、この女将さんだからこそ、そのもてなしの心を仲居さんたちに自然に植え付けることができるのではないでしょうか。烏帽子の部屋係だった恵子さんも明るくさわやかで、もてなしの気持ちを十分に備えた人でした。ぼくはふと、ここで働くと言うことは花嫁修業としてもってこいなのではないか、などと考えてしまいました。

洋々閣で印象に残ったことをさらに二つ挙げましょう。一つは、先にも書いたように、ここは庭に面して廊下がめぐらされていて、そこにすべてガラスがはめられているのですが、部屋のガラスもふくめ、それらのガラスがすべてゆがみのない上質のガラスであり、しかも、すべて一点の曇りもなく磨き上げられていること。もう一つは、部屋や館内の随所に活けられた花の素晴らしいこと。ここには花を活けることを専門にする花守りさんがいるそうです。それなのにことさら「花の・・宿」などというサブタイトルをつけることなく、ただ「洋々閣」とは潔いですね。ここはもともと割烹旅館であったそうで、何と言っても食事を抜きに語ることはできません。山本益博氏の「味な宿・・」とは、料理の旨い宿という意味も掛けられているはずです。

夕食は部屋でいただきます。テーブルにはテーブルクロスが掛けられました。最初に珍味とお造りが並べられその後一品ずつ運ばれる形で、お品書きはありません。やはり海の近くなのでその日の水揚げによって内容が変わってくるせいではないでしょうか。また、料金設定で細かく料理を作り分けているのかもしれません。ただ、恵子さんはしっかり説明してくれるのですが、お酒も入っているので次から次へと忘れてしまうのが残念です。料理は素晴らしい唐津焼の食器に盛られて運ばれてきます。鑑賞眼のない僕でも、かなり高価な食器なんだろうなぁ、ぐらいのことは分かります。全体的に絶品ぞろいと言っていいと思うのですが、特に注目したのは「あらかぶ」という魚の煮付けです。この魚の名は初めて聞いたのですが、割と幅のある魚で30センチ弱のお皿から尾鰭がはみ出しています。見た感じ煮汁も濃い目で、これを全部食べたら、これだけでお腹がいっぱいになってしまうのではないか、いや、これを一人で一尾食べきれるだろうか、などという思いが頭をよぎりました。しかし、食べ始めてみると、その味付けの絶妙なこと。辛すぎずも、甘すぎずもせず、かといって淡白すぎもせず、あれよあれよという間に食べ終わってしまいました。また、お造りも一つ一つの量は少ないのですが六種くらい盛ってあり、やはり玄界灘の荒波にもまれて身がしまっています。その他手作りの塩辛、牡蠣の包み揚げ、蛤の吸い物、野菜の含め煮、河豚の湯引き、白子の赤だしなど、お酒がかなり進んだせいか、河豚が今一つ印象が薄くなってしまったのが残念でしたが、どれをとっても文句なしで、いい素材を惜しまずに使い、それを生かした料理であったと言えます。デザートはイチゴにヨーグルトと生クリームをかけたもので、このイチゴも吟味された上等のものでした。食事の最後の方で、女将さんが渋い和服に着換え少し紅をさして、改めて挨拶に来てくれ、また、ここでしばらく女将さんと話の花が咲きました。

さて、お風呂はやはり洋々閣も天然温泉ではなく、鉱石を使った温泉です。ここは麦飯石という石を使っているそうですが、その石から出る成分でお湯の透明度が下がるくらい、たっぷりと使っているようです。一種独特の匂いがして、まるで天然温泉に入っている感じがします。湯上がりも、ぽかぽかと体が暖まります。また、塩素臭はまったくせず、それだけ新しいお湯を使っているのか、あるいは塩素以外の消毒をしているものと思われます。ただし、浴槽からお湯があふれるということはなく、流し切りではありません。10畳大の四角い脱衣所は、洗面台のある一面の向かいに脱衣かごのある一面があり、それに挟まれて浴室に入るガラス戸があるという非常にシンプルな造りです。浴室も同じくらいの広さのシンプルな造りで、そこの片面に四・五人が入れる湯船があります。入り口の反対側に一枚の大きなガラス窓が嵌めこまれ、外の坪庭を眺められるようになっています。全体に、ゴテゴテせず、すっきりと作られていますが、すっきりし過ぎて、脱衣所にティッシュがないのが残念ですね。また脱衣かごを入れる棚が低くて、脱いだものが入れにくい感じがしました。さらに、大浴場を使う人も温泉ほどには多くないとは言え、やはり、湯上がりに麦茶や冷水は欲しいところです。ここのお風呂は、15時半〜23時、6時半〜10時となっています。ぼくはいつもの温泉と同じように、計四回入りに行きましたが、夜の10時過ぎに入りに行き、11時近くに上がって部屋に戻ろうとした時、女将さんがフロントから出てきて「明日は出かけますので、ご挨拶はできませんが・・」というようなことを、わざわざ断られるのです。不意をうたれたこちらは恐縮して、どぎまぎしてしまいました。

翌日の朝食は食堂であることはHPにも書かれているし、部屋係の恵子さんにも言われていたのですが、朝、食堂へ行こうと廊下を歩いていたら、廊下の途中でその恵子さんが立っていて、こちらへどうぞと個室へ案内してくれるのです。きつねにつままれたような気分になりましたが、もちろん個室で不足のあるわけはありません。この部屋は「佐用姫の間」という食事だけに使われる部屋で、庭に一部屋せりだした形になっており、四方に窓があるという眺めの素晴らしい部屋です。主に庭を見渡せる二面に大きなガラス窓が設けられ、この日もその二つの窓の障子が大きく開かれていました。ここでは、つい最近、元首相の細川護熙氏も食事をしたとかいうことで、何だか特別室という雰囲気です。なぜ、急にこの部屋になったのかの理由は聞きませんでしたが、昨夜の女将さんの挨拶といい、女将さんが配慮してくれたのに違いないと感じました。さて、朝食で特徴があるのはここは麦粥が出るということです。普通のお米のお粥を出すところはちょくちょくありますが、麦粥は初めてです。おかずは特に豪華というものはありませんが、地の新鮮な素材を使ったもので、ここでも川島豆腐店のざる豆腐が出されました。昨日のシーサイドホテルの豆腐もおいしかったのですが、昨日のそれよりも質感がきめ細かく密度が高いように感じました。ただ、かける醤油が昨日より甘めで、せっかくのお豆腐の甘さを殺してしまっているのでは? という気がしました。塩で食べる客もいるということで、それもむべなるかなという感じです。魚はごまが振られた鯵の開きでこれもおいしいものでした。菜の花のお浸しが出たのですが、この菜の花の食感と苦味は野趣あふれたもので、野のパワーを感じさせました。また、麦粥はさらさらと際限なく入っていきそうな気分です。ごはんも食べてみたかったので、お願いして持って来てもらい、しっかりと食べました。夕食と同じように質の高い朝食でした。温泉ではなく露天もない、これだけで評価を下げる人もいると思います。そういった意味で、すべての人を満足させる宿ではないかもしれません。しかし、ここはうわべだけの小賢しさというものが全くありません。伝統を純化させ大切に磨き上げてきたことが、はっきり伝わってきます。すみずみまで配慮の行き届いた本物の宿だと言っていいでしょう。もしかすると、影に隠れたご主人の努力の部分も大きいのかもしれませんが、ぼくは女将さんの人柄や力がかなり大きいのではないかと感じました。なっちゃんはここを宿の原点と表しましたが、ぼくはここを宿の頂点と評したいと思います。宿には確かにいくつかの山脈があります。洋々閣は、その中のある山脈の頂上を確かに極めた宿と言っていいでしょう。

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嬉野温泉と雲仙温泉に行ってきました。雲仙にはもともと行きたかったのですが、福岡空港から行くため、前泊地として嬉野温泉を選びました。

嬉野温泉で選んだのは「萬象閣敷島」です。3時がインの時間ですが15分くらい過ぎて到着。ロビーで嬉野の紅茶を出してくれました。多くの旅館に泊まっていますが、紅茶でのおもてなしというのは初めてだった気がします。ちょっと変わった印象の紅茶ですがおいしいものです。知らなかったのですが、嬉野はお茶で有名なんですね。ここでは沢山の種類のお茶を飲みました。アンケートに答えると粗品をくれるのですが、それもお茶でした。案内係の女性がすぐに案内してくれ、部屋に通されると出されるのが、若女将手作りという敷島プリンです。これは人気があるようです。おいしいものですが、ただ、びっくり仰天というほどではありません。部屋はボルサリーノという名前の洒落た部屋で、去年の確か8月に改装したばかりだそうです。この部屋は最上階にあり、旅館のパンフレットに載っている部屋の一つです。入り口を入ると洋風の玄関とドアが続きドアを開けると黒いいぶしたような木のフローリングの10畳大の部屋があります。奥の明るい窓側に洗面所とバスルーム。そのバスルームには陶器の浴槽がデンと置かれています。お湯も温泉で、窓を開けると半露天になるそうです。またこのバスルームはベランダに突き出した形でしかも最上階なので、天井を見上げると天窓から空が見えます。ただ、難点はお湯の出が悪いこと。浴槽一杯に溜めるのに多分2時間くらいかかるのではないでしょうか。部屋には木のテーブルと椅子が四脚。ステレオセットからは、入ってきたときにはすでに、マライア・キャリーの曲が流れていました。心憎い演出です。この洋風のリビングの奥に引き戸があり、そこを開けると隣は純日本間です。12畳の部屋と外にはウッドデッキ、(というか、木のすのこがベランダにひかれたもの)があり、そこにもテーブルと椅子が二脚置かれていました。ぼくはどうせなら洋風で統一すれば良かったのにと思いましたが、やはり、寝るのは布団じゃないと、というお客さんに配慮したのでしょう。

お風呂は大浴場と露天風呂は別々の棟で、一度に両方とも入ろうとすると、少し移動しなければなりません。男女の交代はなく、大浴場は深夜の1時までですが、露天は11時までです。露天は完全に屋根に覆われており、雨の心配はいりませんが、星空は見えません。また、周りをすっかり囲まれていますが、浴槽が広々としているので、割とくつろげる感じです。ここの露天風呂は温泉ですが、さらにみかんの皮を布袋につつんで入れるみかん風呂であることも有名なようです。ただ、男性の露天はその袋は確か二つしかなく、浴槽の広さから考えると、どの程度の効果があるかは疑問でした。また、浴槽からお湯があふれるということはなく循環のようです。ただ、塩素臭はまったくしません。露天の近くに広い談話室のようなところがあり、そこに冷たい「ほうじ茶」「独創茶」「煎茶」がポットに置かれていました。どれもなかなかおいしいお茶でした。この三種のお茶のサービスは大浴場の方にもあるのですが、ポットであるため、すぐに無くなってしまう、(無くなったら連絡してくださいと書いてある電話がおいてありましたが、やはり、本来なら旅館側が気を配るべきでしょう)夜の10時で終わって、朝はサービスがない、などの気になる点がありました。大浴場の浴槽の広さも露天と同じくらいの感じです。明るくて清潔感があります。この大浴場に置かれているシャンプーもお茶を使ったもので、だいぶお茶にこだわりを持っているようです。お湯はかなりぬるぬる感のあるもので、最近入った温泉の中にはここまでのところはなかったように思います。表示にpHは書かれていなかったので、どのくらいなのかはわかりませんでした。なめてみるとしょっぱいのですが、塩辛くはありません。ただ、露天と同様、湯舟からの流れ出しはあまりありません。塩素臭はしていないので、循環はしているものの新しいお湯も十分に入れているものと思われます。露天よりもお湯の透明度が低く、お湯が濃い印象を持ちました。かなり温まるお湯です。とはいえ露天もやはりかなり温まりまりました。

夕食は部屋で、初めにお造りなど五品が並べられ、後から焼き湯葉のお椀、豚肉の柔らか煮、北京ダック、茶碗蒸し、と一品ずつ運ばれてくる形です。お品書きはありませんが、説明はしてくれます。メインとなるものは佐賀牛のしゃぶしゃぶで、なかなかいけます。デザートはパンナコッタで、お着きのプリンといい、こういうものが好きなようです。全体的においしく満足できますが、中でも鶏肉の空揚げの甘酢漬けは特に良かったと思います。ただ、よく出てくる、珍味などが並んだ先付に当たるものがなかったのが寂しく、これさえあればかなり満足できた食事だったと言えます。器もいいものでした。朝食は食事処で、一般的な朝定食です。ここで温泉豆腐が出ました。温泉豆腐とはどういうものか、あまりよく聞かなかったのですが、おいしくいただきました。全体的に質は高いと思いますが、飛びぬけてと言う感じでもありません。品数もそれほど多くはありません。

rakku。さんより・・・嬉野では「宗庵よこ長」の温泉湯豆腐、食べられましたか?共同湯→名水→豆腐と繋がっています。「宗庵よこ長」は「美味しんぼ?」に登場するそうです。

二泊目はいよいよ雲仙です。雲仙に関しては、地獄があるというくらいで予備知識が全然なかったのですが、とにかく交通手段としては諫早からさらにバスで80分、雲仙に近づくにつれて山の中に入って行きます。雲仙では、まず「富貴屋」翌日は「雲仙宮崎旅館」に泊まりました。最初は「富貴屋」です。着いたのは2時15分くらいで、3時が正式時間なのですが、すぐにロビーで抹茶とかす巻きというお菓子をいただき、しばらくして部屋に案内されました。部屋は五階建ての四階の一室で、一畳くらいの踏み込みに続いて、十畳の和室があり、さらに広縁があります。全体的に古い感じがして、壁に部分的な補修の跡がありちょっといただけません。風呂はついているのですが、ユニットバスで、聞きませんでしたが、雲仙の泉質のこともあり、当然温泉ではないと思われます。もちろんこのトイレはシャワーでも温座でもありませんでした。和室には幅が二畳程度ある床の間がついていましたが、この床の間に花はなく、テレビと電話が置かれていました。ただ、広縁は三畳ぐらいのゆったり目の造りで、窓からは湯煙のあがる雲仙の地獄が一望できます。向こう側に建物はないのですが、窓に近づくと地獄めぐりの観光客から見えてしまいます。でも、これはしょうがないでしょう。浴衣とは別に浴衣型の寝巻きが付きました。

お風呂は二階から廊下を渡っていく形で、浴場専用の小ぢんまりした棟が作られています。こちらは客室とちがって、新しいものです。時間は朝の6時から、清掃時間をはさんで夜の12時までで、男女交代はありません。大浴場は新しくて明るく、大きく取られた窓からは外の露天と、その向こうには雲仙地獄の湯煙があがっているのが見えます。お湯は適温で塩素臭はありません。少しあふれる感じですが、完全流し切りかどうかは疑問です。お湯をなめてみると、酸っぱさの中に甘味を感じる味で、酸っぱさと甘さの両方を感じたのは初めてだった気がします。脱衣所にはフェイスタオルのみがありました。露天は大浴場から外に出る形で、大浴場と一緒ですから男女別で交代はないということです。男性用は大浴場のガラス窓にそった縦長の岩風呂で180°開けていますが、目に入るのは風呂の周りの岩や松の木です。ただ、その後ろから地獄の湯煙が立ち昇っています。なかなかいい具合ですが、例によって女性用はこことは大分違い、たいしたことはないようです。やや温めだと思いますが、ところによっては熱い湯が表面に流れているといった感じです。湯上がり処には麦茶の冷水機が置かれていましたが、味は今一という気がしました。

食事は部屋です。特に部屋係りという人はいないようで、何人かの若い仲居さんが入れ替わりで運んできました。お品書きがあるせいか、説明はまったくなしです。昨日不満が残った珍味系の前菜が今日はたっぷり並べられていました。サザエの香草焼きや、むつの木の芽焼きなど五種類もあり、すべておいしいもので満足しました。ここには、地酒セットという、島原の地酒を一合弱で三種類セットにしたものがあるのですが、みな口当たりがよくおいしいお酒で、この前菜を引き立ててくれます。ただ、料理はほとんど初めにならべられてしまう形で、じゃが芋豆腐、刺身、鴨ロースワイン蒸し、海藻麺の小鉢、火を使う女将豆腐などがありました。昨日の佐賀牛のようにこれがメインというようなものは特にない感じです。後出しはパイ焼きと蟹饅頭で、もちろん両方とも熱々でした。特にパイ焼きはホワイトソース好きのぼくとしては、何とも文句のつけようのないものでした。蟹饅頭もまた良かったと思います。女将豆腐というのは女将が考案したらしいのですが、どんな工夫があったのか聞き忘れてしまいました。ただ、おいしいものだったことは確かです。パイ焼きや鴨ロースのワイン蒸しがあるなど、洋物が入ったメニューだったので、デザートも期待したのですが、残念ながら普通の果物の盛り合わせでした。でも、全体に満足の行く食事でした。朝食はレストランで一般的な朝定食です。おかゆかご飯を選べるのですが、まずおかゆを頼んでお替わりはご飯というのはできないのだそうです。ちょっと融通が利かない印象を受けました。また、湯豆腐と、夕食の海藻麺と似たような麺類が出て、昨日の夕食とかち合ってるなと感じました。卵はゆでたまごで、これは珍しいですね。全体的に夕食のレベルより少し落ちる気がしましたが、特にまずいというわけではありません。また、お替わりは席を立って隅の方に置かれたジャーで自分がよそわなければならない点は評価できません。隣にコーヒーポットがあって、こちらのセルフサービスは納得できるのですが。最後の見送りに杖をついた女将さんが出てきました。背筋を伸ばして、非常にていねいな心のこもった挨拶をされる方でした。この女将さんならもっといろいろな点に気を配って欲しいな、それができる人だろうに、という気がしました。

さて、雲仙から普賢岳を見るには仁田峠というところまで行き、そこからさらにロープウェーで上に昇らなければならない、昨日今日の冷え込みで、山の上には3月では珍しい霧氷が見られるかもしれない、ということを聞きました。雲仙といえば地獄を見るだけでOKだろうと思っていたのですが、曇り空で視界がまったく利かないかもしれないけれど、とりあえず行ってみるかということで、急遽バスで仁田峠へ向かいました。幸いに霧はまったくかかっておらず、なかなか素晴らしい見晴らしの中をバスは進み、さらに山の上では、生まれて初めて霧氷を見ることができました。あまりの感激のため、雲仙に戻るバスを一本遅らせたので、雲仙に戻ったのが1時過ぎ、続いて地獄めぐりです。地獄は箱根に似た感じですね。箱根をもう少しなだらかにしてスケールを小さくした感じでしょうか。大きな違いは、箱根はそばに旅館なんか建っていないのに、雲仙はすぐ近くに建っていることですね。ということで、富貴屋の脇から地獄に入り、40分ぐらいゆっくり歩いて終わりが雲仙宮崎旅館のところでした。 荷物を受け取りロビーで抹茶とあんの周りを砂糖で固めたような(和菓子の名前があるのでしょうが、知りません)お着き菓子を頂きました。ロビーには庭に面した方に一段高くなった木の舞台のようなところがあるのですが、非常にきれいに磨かれていて、土足厳禁かと思ったのですが、やはりそう思う人は多いらしく、土足でどうぞと書かれていました。その舞台のようなところの中ほどに二箇所くらいガラスがはめ込まれています。何だろうと覗いてみると、下ではお湯がぼこぼこと噴き出していました。また、もう一つの方は鯉が泳いでいる姿が見られました。とにかく、素敵なロビーで旅館のロビーとしては一級でしょう。このへんは巨大旅館ならではの豪華さですね。ここは1時インの11時アウトというゆっくり型の時間設定で、すでに2時前後になっていますので、さっそく部屋へ向かいます。途中にJTBの青銅のライオン像が置かれているのが目に入りました。確か二頭いたと思うのですが、後で写真に撮ろうと思いながら残念ながら忘れてしまいました。だから、どの部門での受賞なのか分からないのですが、多分サービス部門なのではないでしょうか。部屋は3階で、玄関をあがるとまず一畳程度の踏み込み。ふすまを開けて三畳の次の間を通り、十畳の主室へ入るという形です。さらに広縁に椅子が二脚、そして窓という直線的な造りです。畳は小さめなので部屋はそれほど広い感じはしません。造作は新しく、手入れが行き届いて、床の間にはちゃんと花が活けられています。ここは冷水ポットではなく、冷蔵庫の中のガラスポットに無料の雲仙の名水というものが入れられていました。バス・トイレは上がってすぐのところにあり、それぞれ清潔なものでした。トイレはシャワートイレです。洗面台は普通サイズですが、ビルトイン式の棚になっていて、いくらか広く感じさせます。部屋からの眺めはここも雲仙の地獄で、富貴屋の方は正面からの平面的な眺めでしたが、こちらは横から立体的に眺められる感じです。ここは廊下をはさんで両側に部屋があり、こちら側の眺めは雲仙の地獄ですが、反対側は宿の庭園だそうです。

さっそく、大浴場へ行きました。清掃時間を除いて24時間入浴可能で、男女交代はありません。入り口前に係の人がいて、めいめいにフェイスタオルを渡してくれます。また隣には冷たい麦茶が入った冷水機があり、これはおいしい麦茶でした。大浴場、脱衣所はほぼ申し分ないのですが、カミソリは部屋のアメニティにしかなく、大浴場にはないので、だれか団体客の一人がブツブツ言っていました。最近は大浴場にもカミソリが置いてある旅館が大分多くなってきたので、こんなところで評価を落としてはもったいないと感じました。お風呂は宿の規模にしてはやや小さめかなと思いましたが、非常にバランスのとれたものだと感じました。大き目の浴用椅子の上にプラスチックの洗面器が整然と置かれています。プラスチックの洗面器というと、ゲッと思われるかもしれません。でも、カラフルで非常に清潔感あふれるもので、ぼくも檜の桶派なのですが、これは面白いと思い、全然いやな感じは持ちませんでいた。洗い場は一箇所ごとに区切られ、よく見ると炭石鹸、炭シャンプーという炭系のところと、オレンジ石鹸、オレンジシャンプーというオレンジ系の洗い場が一つおきに配置されています。お湯は近くの邪見地獄が源泉だそうです。源泉温度が54度で、一切水を加えていないと明示されていました。浴槽は適温で、源泉流し切りと思われます。お湯をなめてみると、酸っぱさと甘さと塩辛さを感じ、はきだした後で口の中にわずかに苦味が残るという何ともバランスのとれた絶妙な味です。今までにこんなお湯にお目にかかったことはありません。かなり気に入りました。露天は大浴場から外に出る形で、雲仙地獄側に作られています。ただ、湯舟に入ってしまうと地獄はまったく見えなくなります。半分が屋根に覆われ、半分は空が見えるというぼくの好きな形ですが、全体的に広々とした感じはなく、定員は6・7人というところでしょうか。ただ、この日はほとんど露天に出てくる人がおらず、ゆっくりでしました。お湯の流れ込む辺りがやや熱めで、端に行くにしたがって温くなるという感じでした。男女の大浴場にはさまれて無料の家族風呂が一つあり、露天もついていてここもなかなかいいものでした。

さて、6時に夕食をお願いしたのですが、10分前ぐらいにもどると、すでに、白い清潔なテーブルクロスが掛けられ、5品位の前菜と小鉢が並べられていました。テーブルクロスといい、最初のこの並べ方といい、これは期待できそうだとわくわくしました。ただ、お品書きはなく、部屋係りによる説明も少しだった気がします。初めに並べられていたもののうち、小鉢の白子豆腐はなかなかのものでしたが、前菜にはあまり工夫が見られず、かなり印象は薄いものです。前菜の中にソラマメのゆでたものが一つだけというのは良くあり、これも和食の形の一つなのかなとは思うのですが、ぼくとしてはあまり歓迎できません。もっと工夫の凝らされたものを食べたいと思ってしまいます。続いて鯛の頭を上げたものの甘酢がけ?とお刺身、お椀が一度に運ばれてきました。最初の並べ方だと、完全に一品ずつというイメージだったのですが、見事に裏切られました。この中では鯛がしっかりした味付けでおいしく、骨までしゃぶってしまう感じです。全体の中でもこの鯛が一番おいしかったと思います。お刺身はおいしいのですが、もっとおいしくてもいいのではという気もしてしまいました。しばらくすると、今度は牛のすね肉の柔らか煮、蒸し物、魚を使った揚げ物が運ばれてきて、この後はご飯とのことです。多分時間にして、まだ6時20分頃ではなかったでしょうか。ちょっとペースが速すぎます。暖かいものが食べ終わらないうちに、どんどん次のものが運ばれてきてしまいます。でも、揚げ物は何をおいても早く食べなきゃと、揚げ物を口に入れて愕然としました。すっかり冷え切っています。この揚げ物は姿も美しくありません。衣がはがれ、まったく手をつけていない状態で撮ったのに、まるで食べかけのようです。この段階で、今まで漠然と抱いていた違和感は、急速に「食事はまったく評価できない」という点に収束していきました。デザートは果物だけではなくコーヒーゼリーがついたのはいいのですが、味はやはり今一です。ということで、今回初めてテーブルクロスの法則は裏切られました。ただ、使われていた有田焼の器はどれもいいもののようでした。朝食は最上階の食事どころで、お願いした時間に部屋係りの女性が部屋まで迎えに来て案内してくれました。夕食の場合なら時々ありますが、朝食の場所まで案内してくれるというのは今までにほとんどなかった気がします。定番の朝食といった感じで、どれもそこそこおいしいのですが、とびぬけてというものはありません。魚の干物も今一つパンチ不足です。お豆腐はまあまあおいしく、塩のりは昨日も富貴屋で出ましたが、このへんの名物でしょうか。朝食は後から煮物と茶そうめんが出て、温かいものを食べられました。富貴屋ではきしめんみたいな平たい麺がやはり朝食で出ましたが、これもこの辺の名物なのでしょうか。チェックアウトは11時なのですが、バスの時間もあり10時25分にバス停まで送ってもらうことにしました。本来は送迎は定時制で10時半らしいのですが、他にその時間で送迎を頼む客がいなかったらしく、融通を利かせて早く送ってくれました。ただ、なぜそんな間に合わないような時間に送りを設定しているのか疑問は残ります。部屋係りの女性が、出るときは連絡してくれということでしたので、連絡するとわざわざ荷物を運びに来てくれ、外で記念写真を撮る時は自分が雨に濡れるのを気にせず、車が移動するのを待ってシャッターを押してくれました。また、若女将を初め6人くらいの仲居さんと男性一人が風雨の中を我々だけのために外に出て手を振ってくれ、さらに、驚くべきことに、仲居さんの一人がわざわざ送迎バスに乗り込み、バス停の待合所まで傘を差し出したり荷物を運ぶのを手伝ったりしてくれました。これは初めてのことで大感激ですね。ここにはアンケートがあり、食事について今まで述べたようなことを書いてきました。料理に関する考え方をふくめ、このままの状態では宮崎旅館全体の評価は下がっていくと思います。ここも旅館という連峰の、ある山脈につながる宿であることは確かでしょう。ロビーの立派さなど大型旅館ならではのいいところも再認識しました。ただ、料理という心臓部に当たるところにぽっかりと大きな穴が開いていました。これで料理さえ申し分なければかなりの評価をしてもいいと思うのですが、残念です。

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やっと念願の黒川温泉へ行ってきました。ここは以前、今のような黒川ブームになる前、熊本の垂玉温泉や地獄温泉へ行った時から、すでに行きたかった温泉だったのですが、どうにも交通手段が見つからず、断念していたところだったのです。しかし、最近、たまたま黒川に九州横断バスが停車することになったのを知り、早速予約することにしました。 九州横断バスが黒川に停まることになったのはいいのですが、直行は一日二本しかありません。黒川はけっこう広く、端の旅館からもう一方の端の旅館まで歩くと一時間以上かかるようです。しかし、車が頻繁に通る道の部分が多く、すっかり歩いてみた訳ではないのですが、中心になる旅館街、温泉街と言えるところは意外に狭いような気がしました。新明館はその旅館街にある宿の一つです。迎えの車を降り、新明館への専用の橋を渡って、とりあえず荷物を預けます。迎えの車の中で、これから食事をすることや、次の日は黒川荘に泊まることなどを話しましたので、宿に着くと、車を運転してきた人が温泉街の地図を持ってきて、今迎えの車が通ってきた道、何か所かの食事ができるところ、食事場所に行くための近道などをていねいに教えてくれました。少し雨が降り出したので傘を差したのですが、こちらの傘をお使いくださいということで、旅館の傘を渡してくれました。今まで差していた傘はフロントに預け、フロントの人はその傘をていねいにふいて翌日帰る時まで預かってくれました。昼食後戻ってきたのは1時15分頃でした。新明館は1時がインなのですでに部屋に入れる時間です。もう一組客が来ていて、では一緒にということで二組一緒の案内でした。 新明館はもっと古い感じの旅館かと思っていたのですが、館内はよく手入れされていて、古さは感じさせません。この日も、外壁のところに足場が組まれていましたので、こまめに手入れがされているようです。廊下も磨き上げられて黒光りしていますが、古さゆえの黒光りと言うのとは違う感じです。通された部屋は二階の、左端の「ふじ」という角部屋でした。引き戸を開けると一畳大の上がり口があり、踏み込みはなくて、すぐ座敷という古い部屋によくある作りです。ただし、やはりしっかり手入れされていて、からし色と黒を基調にした民芸調の小ぢんまりとした新しい内装になっています。六畳の和室とその先に二畳大の広縁が続いています。広縁にはやはり民芸調の背もたれのない木の椅子とテーブルが置かれ、広縁の壁際に洗面台が据えられています。和室の床の間は一畳幅の狭いもので、床の間にはテレビ、エアコンが置かれているタイプです。床の間には花はないのですが、テーブルの上に小さな花が置かれていました。 金庫、冷蔵庫、ティッシュなどはあるのですが、トイレがないのがぼくにとってはこの部屋の最大の欠点と言えるでしょう。料金は一万円台の半ばですので、トイレはあるものと思い込んでいました。大体、秘湯の宿に泊まるときはトイレがあるかどうか最初にチェックするのですが、そう言えばトイレのことは聞かなかったのでした。でも、トイレは部屋を出てすぐ近くにあり、ほとんど部屋にあるのと同然だったので、あまり問題はありませんでした。このトイレも清潔で、シャワートイレでした。トイレのサンダルが、木製なのですが暖かみのある足になじむ感じのもので、これは良かったです。お茶出しはあり、迎え菓子は女将さん手作りの黄な粉団子でした。おいしいものです。この女将さんというのは、有名なこの新明館の主人の奥さんで、特に若女将というような人はいないそうです。角部屋ですので、窓は二面にあり、正面の窓からは前の旅館や家並みしか見えず、また外壁の足場が見えてあまり情緒はないのですが、側面の窓は岩戸の湯の入り口やその向こうの斜面に広がる雪崩落ちるような黄葉が望めて角部屋で良かったなという感じです。
新明館は何といってもお風呂です。この日も平日なのにひっきりなしに湯めぐりの手形を持った人が訪れていました。ここが黒川の中心部で立ち寄りやすいことと何といってもまず、黒川といえば新明館ということなのだと思います。そして新明館と言えば、主人が何年もかけてほったという洞窟風呂ということなのですが、どうも洞窟風呂と名付けられているのは女性専用のお風呂だけのようで、多分構造は同じだと思うのですが、男性が入れる混浴用のお風呂は穴風呂と名付けられていました。案内図を見ると、どうも洞窟風呂の方が大きそうな感じでしたが、ここは女性専用で女性客も途絶えることがないので、どんな感じかのぞくことができませんでした。穴風呂はそれほど広いという感じではなく、入り口の部分と、二手に分かれているその先の計三か所に湯船があります。お湯は適温ですので、薄暗くぼんやりした中でぼうっとするのが好きな人は多分ゆっくりできるのでしょうが、ぼくは開放感のある露天派ですので、この穴風呂に長く居るということはありませんでした。
ぼくが新明館へ行きたいと思ったのはこの洞窟のお風呂ではなく、もう一つの露天、岩戸風呂が目的でした。大体、このお風呂を紹介してあるものには神秘的な雰囲気とあり、どんな感じなのか、是非確かめてみたいと思っていたのです。岩戸風呂は洞窟風呂や穴風呂の先、川に沿った一番奥に位置していて、混浴です。入口にトウモロコシのぶら下がった脱衣所を開け、着替えて湯船に出ると、えっ??? ガーン!!! って言う感じです。あの本や雑誌て見慣れたはずの岩戸風呂が、何と高速道路下に引越しでもしたかのように、コンクリートの太い支柱に囲まれています。あの神秘的な雰囲気はまったく吹っ飛んでしまっています。チェックアウト後にフロントの女性に聞いたのですが、上の方から石などが落ちてきて危険だということで、今年の4月頃に工事をしたということでした。ああ、4月前に来たかったという気がしました。確かに、コンクリートを消して想像すると、薄暗い岩の壁を背景に、古い屋根がかかった小さなあずまや風のものが二つ湯船に立っている姿は神秘的な印象を与えます。ただし、左側の対岸には旅館街があり、左は細い木々で目隠しをしていて、決して山の中などではないのですが、写真は必ずその部分を外して撮っているようです。ただ、コンクリートが印象を悪くしてしまったとはいえ、元の岩戸風呂の雰囲気はもちろんたくさん残っていて、ゆっくりできる露天であることは確かです。湯温はやや熱めで、奥の壁から熱いお湯が流れ出ています。もちろん、お湯は流し切りです。 新明館には湯めぐりでは入れない露天が一つあります。風の湯と名付けられた女性宿泊客専用の露天で、ここは他のお風呂がすべて川側にあるのに対して、山側にあります。女性客が入っていないようなので、ちょっとだけ見せてもらったのですが、ここは本当に山の中にぽつんと一つあるという感じで、落ち着いた雰囲気のある、ぼくにとっては何時間でも過ごせそうな露天でした。女性専用というのが何ともしゃくでした。内風呂は男女別で交代はなく、ここは昔ながらの古いつくりという感じの狭目のものです。ぼくは他のお風呂にかかりきりで、結局この内風呂には入らなかったので正確なことは言えないのですが、とりあえず撮った写真で今確認すると、どうも洗い場の湯栓がない感じです。あと、洞窟風呂や穴風呂に並んで家族風呂が一つあり、これは宿泊者専用で当日の9時までは予約制、その後は空いていれば自由に入れます。この家族風呂は小屋のようになっていて露天ではないのですが、岩をくりぬいた湯船で、これまたワイルドな雰囲気のあるものでここもいいと思います。新明館のお風呂はすべて男女交代はなく、内風呂と家族風呂は24時間いつでも入れますが、他のお風呂は夜の11時頃には終わってしまい、朝は5時から入れます。夜はせめて12時までにしてほしいところです。お湯は透明なのですが、鉄分がふくまれているのか、周囲は見事に茶色にそまっています。柄杓が置いてあり、飲んでみたのですが、あまり鉄の渋さなどはなく、おいしいお湯のように思いました。また、湯上がりどころに冷水などはなく、部屋にも冷水ポットは出されません。

食事は確か普通の会席と囲炉裏焼きの二種類があって、料金もその違いによる二種類だけだったと思います。ぼくは囲炉裏焼きを選択しました。多分普通の会席だと部屋だと思うのですが、囲炉裏焼きは庄屋という食事処での食事になります。この食事処は廊下でつながってはいますが、館内から一度出る感じで、やはりお洒落な落ち着いた内装の渡り廊下を渡って行きます。ただ、いただけないのは、この渡り廊下に洗濯物が干してあったことで、新明館は全体的に気配りができていたと思うのですが、この干し物だけは残念でした。囲炉裏焼きのメインは地鶏と肥後牛です。これに野菜やしいたけなどを分厚い鉄板(陶板?)の上に乗せ、炭火で焼きます。地鶏も肥後牛も十分おいしいものです。火の脇にはあまごが差されていました。ただ、これは食べるまでちょっと長く置きすぎてしまったため、あつあつだったのですが、ちょっとぱさついてしまい、残念なことをしました。お品書きはありませんが、説明はありました。食前酒は山ぶどう酒。刺身は馬刺しで最上級のものではありませんが、それに近い脂の乗ったかなりおいしいものです。もろ味味噌で食べる野菜スティックはこのもろ味味噌がおいしく、野菜のしゃきっとした食感とうまく調和していました。そのほかにわらびの胡麻和え。山菜の白和え。大根サラダ。味噌汁とゆかりの乗ったご飯です。最初にほとんど並べられていて、後から持ってくるのは大根サラダやごはん味噌汁、デザートくらいですが、ただ、冷めてしまうものはないし、焼物がメインなのでほとんど問題はありません。焼物に比重が置かれていて、全体の品数は少なかったのですが満腹感はあり、また全体的においしく満足できるものです。ただ、デザートのメロンは固すぎてまったくデリカシーのないものでした。 朝食は館内の食事処で、畳の部屋に満室の客がずらっと揃い、席と席の間があまりないせいもあって、壮観というか団体旅行のような感じになります。朝食は、一般的な朝食に近い形で、湯豆腐、鮭、たらこ、温泉玉子、のり、サラダ、なます、山菜の胡麻和え、温かい牛乳、という感じでした。量も十分あり、格段にというほどではありませんが、全体的においしい朝食だと思いました。
サービスに関しては十分行き届いていると思います。仲居さんによると、新明館のご主人は講演で全国を飛びまわっているということでした。黒川温泉の発展とこのご主人とのかかわりはよく知らないのですが、とにかく黒川発展の原点はこの新明館、つまりこのご主人にあったと思うのです。テレビや雑誌でも何回か見ていたし、ちょっと実際に顔でも見てみたいと思っていたのですが、居れば9時すぎにはフロントに座るということでした。ただ、風呂に出かけた9時半頃にはいないようでした。露天が11時までですので、10時45分頃に岩戸の湯を出て、途中の家族風呂の写真を撮ったりして、通路を歩いていると向こうから作業着姿の風呂掃除の人らしい人が歩いてきました。よく見ると、TVや雑誌で見知ったここのご主人でした。どうも一人で風呂掃除をしているらしいのです。本当に旅館の主人という感じではなくて、風呂守りのおじさんという感じです。ほんの二言三言,話したのですが、偉ぶったところはまったく、素朴で人の良さそうな感じで、非常に好感がもてました。黒川の新明館の主人ということもありますが、今まで会った旅館のご主人の中で最も印象に残る人です。

 
黒川荘に着いたのは1時半過ぎくらいだったのですが、もう部屋に入れるということで早速案内してくれました。黒川荘は小ぢんまりした玄関を入るとそれほど広くない吹き抜けのホールがあり、右側にフロント、正面がどっしりした椅子が置いてあるロビーといった感じになっています。そのホールを囲むように階段がめぐらされて、二階の部屋へ続く形になっています。木造の二階建てらしいのですが、あまり木造ということを感じさせない内装です。特に今回ぼくの泊まった110号室は母屋と呼ばれる本館のうちの、右手に長く張り出した部分の部屋でこの右手に張り出した部分に関してはずいぶんと凝った内装の廊下になっています。特に女性だったら一目で参ってしまいそうな感じです。案内は男性だったのですが、フロント脇の階段を上がって、最初はごく普通の内装のところを通ります。しかし、しばらくすると突然、高級旅館の一郭のような造りの廊下に出て(外から見ると、右手に張り出した部分です)驚かされます。この一郭は全体的に照明が抑えられ、壁には電球を和紙で覆った灯りがともり、廊下には行灯型の灯りが点々と置かれています。一部屋ごとに小さな屋根が造られた障子の引き戸を開けて中に入ります。この廊下で驚かされたことは二点あり、一つは廊下の途中に大きな岩が壁を突き破って出てきましたというような感じのオブジェのようなものがあり、その岩に水が流れていることと、もう一つは各部屋の戸の横に円筒形に張り出した部分があり、部屋に入ってみるとその部分は洗面になっていて上部に張られた和紙のよう部分を通して洗面の照明が廊下の間接照明を兼ねているということです。これほど内装で驚かされた旅館というのは、とにかく最近行った旅館にはありません。部屋も凝っていて、まず上がると二畳大の板張りの踏み込みがあり、左手がその洗面所、それに面してトイレがあり、もちろんシャワートイレでした。ただ、ちょっとこのトイレは狭目です。和室は12畳で左の壁の一郭が一平米くらいの広さでガラスになっていて、向こう側にはミニ中庭があり、そこから明かりが入るようになっています。また右の壁の一郭には松の幹のようなものが一本、壁の上方から天井を支えるような形で一メートルほど出ています。広縁は一段降りる形で、どっしりした木のテーブルが造りつけられ、縁側に腰を降ろすような感じで、板の間に座るように座ぶとんが置かれています。足元には庭下駄が用意され、下駄を履きガラス戸を開けるとそのまま外のベランダに出られます。ベランダはいかにもという、よくある鉄枠のものではなく、やはり鉄製でしょうが木の幹を模したものに、竹を結びつけた形になっていました。外は駐車場を兼ねた中庭を見下ろす形ですが、細い木がたくさん植えられているので、外からの覗き込みは気にしなくてもよさそうです。床の間は一畳大ですが、ちゃんと花は活けられていました。ただ、残念なことに少し隠れる形ではありますが、インターフォンがこの床の間に置かれていました。テレビ台は床の間横の壁に埋め込まれ、テレビ自体を見たくなければ戸を引き出して閉めてしまえる造りになっています。案内の男性は、夕食まで部屋の立ち入りはないことを告げ、浴衣のサイズを合わせただけで去っていきました。普通なら3時すぎに部屋係りがご挨拶にうかがいますというところで、いつも無視してお風呂へ行ってしまうもののやはり心にひっかかるところはあるので、このように仲居さんの挨拶のないのは気楽です。テーブルの上には、表紙のついた小さなお知らせがあり、開いてみると心付けの気づかいは無用との案内が書かれていました。心付けが無用である旨が明示さている旅館は本当に少なく、今までで、那須の山楽くらいしか記憶にありません。心付け廃止論派のぼくとしては我が意を得たりというところです。テーブルには迎え菓子としてミニ最中が用意されていましたが、これは自分で皮に小倉あんを入れて作るという変わったものでした。ただ、これは自分で作ったからといって特段、感激があるものではありません。
 
この黒川荘には混浴のお風呂はなく、すべて当日と翌日の入れ替え制です。当日は夜中の12時までで、翌日は朝の6時からになります。お風呂は、内湯が二つと内湯から出る形の露天がそれぞれ二つずつあります。びょうぶ岩露天風呂と名付けられた、当日男性用の露天の一つはかなり大きなもので、しかもけっこう深いところがあります。一番長い部分の直線距離は20メートルくらいはあるのではないでしょうか。この広い露天に、グリーン系の濁ったお湯がたたえられています。周りを囲まれていますが、このようにかなり広いので圧迫感はまったくありません。びょうぶ岩露天風呂という名の通り、近くにまっすぐにそそり立つ、紅葉した木で彩られたびょうぶ岩があり、それをお風呂の中から眺めることができます。この露天は一番奥の岩の高いところからお湯が流れ出ていて、そのままでは熱すぎて手にとることが出来ません。また、ここには柄杓はなかったので、飲泉は不可なのかもしれません。四角い打たせ湯の露天はお湯の量と強さがちょうどよく、最近まったく打たせ湯に当たらなくなったぼくも、いい気持ちで当たってきました。内湯は少し暗いのが欠点ですが、湯船も浴場も広くてゆっくりできます。特に、洗い場と湯船との間がかなり広く取られています。もちろん源泉流し切りのお湯です。シャンプーやリンスはよもぎを使ったもので、どうやらこれは自然への影響を配慮した、黒川統一のもののようです。お湯は内湯、露天ともやや熱めかもしれません。翌日男性の露天は、やはり二つありますが、大きさはそれほどではありません。ただ、それは前日の露天に比べての話で、一般的には十分な広さです。奥の観音露天風呂と名付けられた露天は、朝でもやや暗めで一人でゆっくり出来ました。流しきりのお湯が、内逃がしの管に流れ込んでいくのをしばらく湯船の中で眺めていました。この二つの湯船もやはり、それぞれびょうぶ岩を眺めることができました。ただ、湯めぐりの人が多い関係でしょうか、湯上がりの冷水などを飲むところが特に設けられていないのが残念です。また、男性風呂はそうでもなかったのですが、女性の方のお風呂は湯めぐりの人たちでかなり混雑していたようです。
 
夕食は部屋でいただきます。予定の時間通りに仲居さんが用意に来ました。簡単なお品書きもありますが、ちゃんと席に着くのを待ってくわしい説明をしてくれます。最初に食前酒の青りんご酒、メインになる肥後牛の陶板、笛鯛の中華風サラダ、秋の幸の白和え、落ち鮎南蛮漬け、松茸の土瓶蒸し、珍味が並べられ、土瓶蒸しに火が入れられます。その後で、地鶏の山吹焼き、鯉のカレー風味揚げ煮、栗のいが揚げが一品ずつ運ばれますが、この運ばれる間隔はちょうどいいものでした。刺身代わりの笛鯛の中華風サラダは笛鯛と野菜とドレッシングとが三位一体に調和した非常においしいものです。鯉カレー風味揚げ煮、栗のいが揚げも同様に素材の味をうまく引き出していて、非常においしく食べられました。もちろん、土瓶蒸しや、陶板もかなりおいしいのですが、やはり松茸の土瓶蒸しはこの前の「七草の湯」に、陶板は米沢など牛のおいしいところの宿には負けていると思いました。しかし、全体的に非常にレベルが高く、工夫が感じられる文句のつけがたい食事であることは確かです。ごはんの小国米「とよひかり」も非常によかったと思いました。デザートの紅芋のアイスクリームも文句ありませんでした。朝食は食事処の広間です。これは前日の新明館よりはスペースの余裕はありましたが、やはりがらんとした広間に、特に仕切りもなく並べられていて、これだけはこのお洒落な宿には似合わないような気がしました。内容は、おじや、蓮根のごま和え、山独活、卵焼き、鮭、山芋、たらこ、ごぼう、がそれぞれ工夫を凝らされて少しずつ出されます。その他に海苔もありました。さすがにこの鮭は脂が乗っていておいしいものでした。また、山芋はそのしゃきしゃきした食感がすばらしいと思いました。おじやも、かなり汁の多いものでしたが、うまみの十二分に感じられるものです。ただ、最初に焼き味噌がへらで出され、ご飯にのせてお召し上がりください、とのことでしたが、この焼き味噌が結構辛いのでそれだけで、ご飯が進んでしまうのはどうでしょうか。もう少し、甘めの味付けにすればいいのではないかと感じました。全体的にとてもおいしい朝食でしたが、その焼き味噌だけが欠点だったと思われます。また、さらに何かちょっとしたデザートもあると良かった気がします。ここはとにかく女性好みの宿ですね。まず、書いたようにあの一郭の廊下や部屋のしつらえは女性の心をつかんで離さないのではないでしょうか。ただ、ここはすべてがあのような部屋になっている訳ではなく、ロビー近くの一階や二階の部屋はごく普通の廊下にごく普通の鉄のドアです。多分部屋の中はやはり素晴らしいとは思うのですが、そして、中には非常に景色のいい部屋があるらしいのですが、基本的に料金は同じなのでこちらの部屋になった人は不満を持ってしまいそうです。サービスに関しては早めに迎えにきてくれ、部屋に入れてくれるなど相手の身になって考えることができる宿です。黒川の宿は必ず確認の電話をくれるみたいで、その確認の時に前泊が新明館であることを伝えると、では、なるべく早く部屋に入れるように考えます、と言ってくれました。また、チェックアウトのときに廊下ですれ違っただけの従業員の男性が、荷物を持ってフロントまで運んでくれました。また、この宿は周囲の景色が素晴らしいと思います。特にびょうぶ岩のあたりが、岩、川、竹林、遠くの山、離れの茅葺の家と、まさに役者が揃っているという感じで、外に出てぼうっとこの景色を見ているだけで癒されそうです。この黒川荘は、景色、サービス、部屋、食事、風呂すべてが高いレベルでバランスを保っています。しかも、その割にはコストパフォーマンスが素晴らしい。
Contributions of the past of 神在月・・・次行ったら是非穴湯に入ってみてください、ここは黒川の原点みたいな所で宿の露天風呂などには無い趣があります。私は黒川温泉に行くと温泉は穴湯と地蔵湯です。
rakku。さんより・・・神在月さんの仰る様に「穴湯」と「地蔵湯」にも浸かって欲しいですね〜。あと奥黒川の「雀地獄」や「清流の森」あたりもぶらついて頂きたい。静かな黒川が堪能できます。

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熊本の玉名温泉へ行ってきました。玉名温泉へはJRの熊本駅から4・50分のところにある玉名駅からタクシーで5・6分というところです。宿泊したのは「さつき別荘」という、部屋数17室の旅館です。広い庭園にたくさんのさつきが植えられているということでしたが、残念ながらさつきの季節ではないので、せっかくのさつきも目を楽しませてはくれませんでした。二階建ての、からし色をしたさっぱりとした外観の旅館です。着いたのは2時15分頃で、チェックイン時間は3時だったと思いますが、すぐに案内してくれました。案内は部屋係りの仲居さんで、この仲居さんが食事運びから、布団敷き、アウト後の部屋の掃除とすべてするそうです。後での印象は少し変わったのですが、この時は、自分で荷物を積極的に持とうとせず、あまりいい感じではありませんでした。部屋に着くと、お茶もさっさと淹れて、浴衣の気づかいもなく出て行ってしまいました。ただし、その後、食事の時の話などはまともな感じで、そんなに悪い印象ではなかったし、翌朝も、食堂のテーブルにわざわざ挨拶に来たし、アウトの時もちゃんと玄関前に出てきて見送ってくれました。部屋は207号室の銀月という部屋でした。ここに着くまでの廊下はそんなにお金をかけていないという感じです。部屋は汚れたところはなく、さびれた感じもしませんが、といって、新しさもあまり感じさせないというところです。入り口の引き戸を開けると、踏み込みは一畳の板の間で、ドアが正面に、ふすまが左横についている閉ざされた空間です。正面のドアを開けると、洗面室に通じさらに奥に、トイレとバスルームが並んでいます。トイレには窓があり明るいのですが、残念ながら温座だけでシャワートイレではありませんでした。入口にもどり、左手のふすまを開けると、十畳の和室、さらに三畳大の板の間の広縁が続きます。金庫がなかったのは、まだいいのですが、金庫のないところは大体貴重品袋があるものですが、それもありません。それ以外は冷蔵庫やティッシュなど、大体そろっていました。迎え菓子は団子にちょこんとあんこが乗っているものです。床の間の幅は1.5畳分ありましたが、その床の間に。テレビ、電話、お茶セットなどが所狭しと乗せられていたのはいただけません。
 この旅館は高台に位置するので、窓からは玉名の町やさつきの植えられている旅館の庭を見渡すことができます。向こうからの覗き込みはありません。さつきは庭をぐるりと取り囲むように植えられているようで、やはりさつきの季節に来るべきだったと思いました。ただ、気になったのは、そのさつきの上に提灯が張り巡らされていることで、シーズン外の今は邪魔だし、シーズン中でも何か俗っぽいお花見の雰囲気で、ちょっと旅館の庭には合わないような気がします。
お風呂は一階にあり、男女交代はなく、24時間入ることができます。大浴場から露天に出る形で、大浴場の一番手前の浴槽から50度近くある源泉を投入し、隣の広い湯舟を通って、露天の打たせ湯に、そこからさらに露天の広い湯舟へと連続して流れていく造りになっています。最初そのことに気づかずに、分析表に飲泉可と書かれていたので、露天の湯口のお湯を二杯くらいのんだのですが、おいしいものでした。ちょうどそこへ、湯守さんが来たので、「これ、飲んでいいんですよね。」と聞いたら、そのお湯の仕組みを説明してくれました。ゲッとなりましたが、別にお腹はこわしませんでした。内湯は手前の一番熱いところは、ちょっと熱すぎました。その湯舟に足を入れて湯口までいかないと源泉は飲めないので、飲むことができませんでした。湯守の人も、あそこは入れませんよ、とか言っていたので、相当の人でないと入れないのではないでしょうか。その次の広い内湯もまだ熱めです。大浴場は石造りの湯舟で、17室の割には広いと思いました。露天は庭へ降りる形で、最初の打たせ湯は二人くらいの広さです。さすがに、熱いお湯も外に出ると冷えすぎるようで、ここでまた少しお湯を足しているそうです。そして、最後は6・7人くらいは入れそうな割と広目の露天です。三分の二くらいは屋根がかかっていますが、屋根のないところから久しぶりの星空が覗けました。湯の花などはありませんが、源泉の流し切りで、そんなに客数も多くないせいもあって最後の温めの露天までお湯は清潔です。泉質は単純弱放射能泉と書かれていました。放射能とはラドンのことのようです。ここはそれぞれの旅館が源泉を持っているようで、さつき別荘は地下150メートルのところから汲み上げているということでした。お湯には詳しくありませんが、けっこういいお湯ではないかと感じました。
食事は夕食は部屋、朝食は食堂です。夕食はお品書きも説明もありません。最初にからし蓮根、さざえ、子持ち昆布などの前菜、茶碗蒸し、うちわ海老のマヨネーズ和え、蟹の酢の物、蛸の煮物、魚の入った椀物、蟹が少し入っている紙鍋、いか、鮪、白身魚のお造りが並べられ、後から、天ぷら五種と、この旅館の名物らしい南関寿司という太巻きが出されます。北原白秋の母親の里、南関の特産の大揚げを使ったものだそうです。すべて温かいものは温かい内に食べられ、味もよく出来ていました。残念ながら、特筆すべきというところまでは行っていませんが、その中では、さすが売りにしているらしい南関寿司はかなりおいしいと思いました。ただ、太巻きである上、厚みのあるものが二つ出されますので、結構お腹一杯になります。この後、ご飯になりましたが、この時は椀物はつきませんでした。デザートはいちご、オレンジ、パイナップルの盛り合わせ。全体的に、まあ満足できる夕食でした。朝食は、一階の食堂で庭を眺めながらということなのですが、朝日が強く入り込むため、レースのカーテンを閉めてしまって何も見えません。一般的な朝定食で、魚は鰆の焼物、卵焼き、サラダ、とろろ芋、くらげ入り岩のり、やまうど、がんもどきのようなものの煮物というラインナップです。これも全体的においしいものでした。帰りは部屋係りの女性と、フロントの女性が玄関前まで出てきて丁寧に見送ってくれました。全体的に小ぢんまりとした宿という感じですが、庭の提灯など、ちょっとおしゃれな宿という雰囲気はありません。廊下などもけっこう殺風景です。この辺にもっと力を入れれば、女性好みの宿としてやっていけるのではという気がします。シーズンオフではありますが、宿泊組数はぼくを含めて三組だけでした。ちょっと手を入れればお洒落な宿に変身できそうな気がするのですが・・・。お風呂やお湯はぼくは良いと思います。食事もあと一工夫あればもっと生きるような気がしますが、現在でもある程度レベルは保っています。
 
今回の目的地はハウステンボスでした。ホテルを調べている内に、唯一温泉を持っていて、しかも評判も悪くないところを発見し、そこに連泊することにしました。ハウステンボスジェイアール全日空ホテルという長い名前のホテルです。HPを見てみると、循環ではなく流しきりの温泉のようで、結構温泉としても期待が高まりました。玉名から特急を鳥栖で乗り換え、ハウステンボス駅へ。駅から外に出るとすでにホテルの威容が目に入ります。駅から歩いて7・8分くらいでしょうか。ハウステンボスの中に位置するホテルではありませんが、アムステルダム中央駅を模したというかなり大きな建物で、大きさから言っても、外観から言っても、ハウステンボスのランドマークと表現していいくらいです。ホテルに着いたのは1:30頃で、2時になれば部屋に入れるということでしたが、今回の主目的はハウステンボスですので、早速リゾートパスポートを受け取って、ハウステンボスへと向かいました。このホテルはハウステンボスの入場ゲート近くにあり、ホテルを出て2・3分でゲートに着きます。この日と翌日は快晴のハウステンボス日和という感じで、まさに晴れ男の面目躍如、二日間を十分楽しむことができました。晴れとはいえ、さすがに夜になると冷え込みが厳しく、夜まではいる気にならなかったので、初日は5時半頃にホテルに戻ってきました。このホテルには若い従業員が多く、若々しい元気さにあふれている感じがしました。部屋へ案内してくれたのも若い女性で、部屋は11階の1127号室でした。このホテルは12階が最上階ですが、12階には鉄板焼きのレストランやラウンジなどがあり、客室はありませんので、11階は客室としては最上階に当たります。その27号室はハウステンボス側から見ると右端の角の部屋です。ドアを開けてすぐ右に荷物置き場があり、その先がクローゼットになっています。廊下を挟んでクローゼットの反対側に洗面、洗面に入って左のドアを開けると浴室です。けっこう広めの浴室ですが、シンプルなため、がらんとした感じがなきにしもあらずといったところです。洗面の右手のドアがトイレで、もちろんシャワートイレでした。また、廊下にもどると、クローゼット側の先に冷蔵庫とその上がミニバーセット。その先はベッドルームで左側にセミダブルのベッドと反対側に木のケースに入ったテレビセットが置かれ、その隣には机があります。大きな鏡がついていますが、これはあくまでも机でドレッサ−という感じではありません。窓際には椅子が二脚とテーブルが置かれているまあありがちなパターンです。同じツインでも、もう少し広い部屋もあるらしいのですが、この部屋は総体的にはゆとりのある造りになっているとはいえ、それほど広さは感じませんでした。この部屋はハウステンボス側に位置し、部屋からハウステンボスのほぼ全景が見渡せる感じです。目の前には川とそれに沿ったしゃれた別荘地が広がり、左手にはシンボルの展望台のある建物(名前は忘れました)が見えます。少し遠い感じですが、夜の8時頃には、ここから花火もしっかり見ることが出来ました。もちろん、覗き込みはありません。
大浴場は一階の端にあり、ちょうどこの部屋からは一番遠い感じになります。リゾートホテルで大浴場のあるところは、浴衣やバスローブで部屋から出られるところもありますが、ここは浴衣はあるものの、浴衣での移動は禁止で、お風呂はスリッパだけがOKです。浴衣やパジャマになってしまうと着替えなければならないので、それが少々面倒です。受付でルームナンバーを言って、タオルとロッカーのキーを受け取ります。外来入浴も受け付けているようですが、値段は1500円だったと思います。宿泊者は何回でも、途中の清掃時間を挟んで、朝の6時から夜の12時まで入ることができます。男女の交代はなく、露天は付いていません。また、脱衣所に学校にあるような冷水機が備えられていますが、湯上がりどころとも言うべきところには冷水などはありませんでした。大浴場は天井も高く、湯舟もかなり広いものです。多分30人以上は入れるのではないでしょうか。天井が高いせいか、湯気が浴場内にこもることがありません。お湯は茶色く濁っているお湯で、表示にはカルシウム塩化物泉と書かれていました。茶色と言っても赤に近い感じでした。けっこうインパクトのあるお湯で、ぼくは気に入りました。鉄分は口に含んでもあまり感じなかったのですが、気のせいか湯船に入ると金気の臭いがした気がします。泉温は28度ということで、加熱しているようですが、適温の流しきりのお湯が湯船の端からあふれ出ています。ガラスが大きく取られていますが、すぐ塀に囲まれて見晴らしはなく、ハウステンボス特有の建物がその向こうに姿を見せています。流し切りだということで、かすかに期待していたところもあったのですが、その期待を裏切らないお湯で、かなり気に入りました。ホテルですので客室数は大分あると思いますが、洗い場は10箇所で、まあ、温泉がメインではないのでこんなものでも十分なのでしょう。洗い場にはシェービングフォームが置いてありました。
このホテルには、和食、寿司、中華、鉄板焼き、洋食のレストランがありますが、初日の夕食はホテルの最上階にある鉄板焼きの「大村湾」というところにしました。ちょうど花火が見られそうな時間だったので、よく見える席ということでリクエストし、メニューは無難に宿泊者特別コースというのにしました。まず、前菜としてもずくと山芋の酢の物と刺身風のものをソースで食べるお皿が出て、続いて帆立と、海老と、鯛を焼いてくれ、メインの平戸牛になります。ロースかフィレかを選べますが、ぼくはやはりロースにしてしまいます。付け合せは、たまねぎと茄子、きのこ、厚揚げの薄切りで、他にサラダとごはん、赤出し、漬物が出されます。平戸牛というのは初めて聞きましたが、非常においしいものでした。やはりいい牛というのは何牛でもおいしいのですね。全体的に非常においしくテンポ良く食べられ、あやうく花火を見逃してしまうところでした。鉄板焼きのカウンター越しに遠くで上がるのが見えましたが、大きいものの数はそれほど多くなく、あっという間に終わってしまった感じです。ここからは見えないけれど、下の方でもずっと花火はやっているということでしたので、やはり全部楽しむには近くまで行かないといけないようです。多分、この後、カウンターの後ろのテーブルに席を移してデザートの洋ナシとコーヒーになると思うのですが、この後、隣のラウンジに行くという話をしたら、ラウンジに運んでくれるということでした。味、サービスとも申し分のない店でした。
朝食は洋食のバイキングか、和食が選べるということなので、まずバイキングにしました。洋食のということだけあって、和食のメニューはありませんでしたが、ご飯、味噌汁、とろろはあって、ぼくはご飯にとろろをかけて食べましたが非常においしいものでした。パンは取ってくるのではなく各テーブルに用意され、玉子料理も取ってくるのではなくオーダーのあるなしに関わらず各テーブルに運んでくれるような印象を受けましたが、もしかするとこれは僕のカン違いかも知れません。洋食のメニューはあまり多いとは思いませんでしたが、洋食限定ですのでこんなものかもしれません。ジュースはオレンジ、りんご、グレープフルーツ、トマトがあり、もちろん牛乳もありました。全体的にホテルのバイキングとしては平均的なものかもしれません。
二日目も快晴で、ハウステンボスの園内を堪能したあと、またお風呂に入り、部屋で花火を楽しんだあと、今度は和食の店「雲海」へ出かけました。「雲海」は三階にあります。この日も無難に宿泊者特別メニューにしました。窓際のテーブル席でした。お品書きがついていて、完全に一品一品運ばれます。やはり、この辺はホテル内にあるとはいえ、独立した和のレストランということで、初めにある程度出されてしまう多くの旅館の料理とは違うところです。食前酒はなく、最初はからすみなどの前菜四種、それぞれ工夫が凝らされておいしく、食べていて楽しいものでした。続いて、あごの出汁仕立て。あごというのは飛魚のことだそうです。そして、鯛、ひらまさ、いかのお造り。それぞれ新鮮でぷりぷりしています。煮物が筍の土佐煮と海老芋、焼き物は鰤の照り焼きに山芋のおろしたものとイクラが乗っています。さらに揚げ物が河豚のからあげのあつあつで、これまた応えられません。酢の物がなまこで、このあとのご飯がさけフレークの乗ったご飯。この時に豚の角煮も一緒に持ってきてくれます。コースに沿ってしっかり食べていると、ご飯の時は味噌汁と漬物だけしか残らないということが往々にしてありますが、ここはその心配がないように、配慮しているのでしょう。この角煮も非常においしいものでした。味噌汁は赤出しに揚げ湯葉の具が入ったものでした。デザートはいちごがふた粒と可愛らしいものでしたが、このデザートにもう一工夫見られれば、ぼくの評価はかなり高かったのではないかと思います。量はそれほど多いとは言えませんが、全体的にレベルの高い食事で満足できました。
二泊目の朝食は和食にすることにしました。一階のレストランで和食を出すこともあるようですが、(一泊目はそうでした。)この日はやはり三階の「雲海」で通された席は昨日と同じ席でした。朝食は一般的な和定食で、工夫もなく、それほどボリュームも感じられません。考えてみると、ホテルの和の朝食はみんなこんな感じだなと思います。朝食に関しては旅館の方がいろいろ工夫を凝らしている気がします。海苔と、筍とにんじんと蓮根の煮物、魚は鮭に小さな魚の干したものがついているもの、温泉卵にたらこ、しめじを甘く煮たもの、などで、昨日の夕飯に比べるとパワーが落ちていますがおいしいことはおいしいですね。特筆すべきは海苔のおいしさで、絶品です。今まで食べた海苔の中でもかなりおいしいことは間違いありません。ごはんは、おかゆかごはんのどちらかを選ぶこという形です。
全体的に、食事もよかったし、従業員の笑顔の応対もよかったということでかなり好感を持てました。何といってもハウステンボスで唯一の温泉というのが最大の魅力でしょう。温泉もとってつけたようなものではなく、流しきりの本格的なもので、ぼくは温泉自体もかなり魅力的だと思います。ハウステンボスへ行く人なら誰にでも勧めていいと思いますが。その人が温泉好きなら、もうここしかないでしょう。

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今年を黒川年と思い定めて、その今年第一回目の黒川宿泊に行ってきました。二月に行くことにしたのは、黒川は九州の中でもかなり気温が低く、この時期なら黒川で雪見の露天風呂が楽しめるのではないかと期待したからでした。確かに少し前の大雪の時はすごかったらしいのですが、この時の前後はお天気男のぼくのせいか、天気も良くてかなり気温が高く、ほとんど雪は消えていて、日蔭にかすかに残っている程度でした。初日の宿泊は黒川に二軒ある秘湯を守る会の宿の一つ「旅館山河」にしました。バスが着くと予定通り迎えに来てくれていて、話好きの運転手さんとずっとしゃべったまま旅館に到着しました。黒川の旅館は大体どこも大げさな玄関というところはなく、小ぢんまりとした玄関になっています。山河も一応それには近いと言えるのですが、むしろ黒川の中ではどっしりとした重厚な玄関かもしれません。玄関のガラス戸を開けると、黒光りしたロビーが現れます。全体に暗いのですが、窓から明かりが差し込んでいるので陰気な感じはしません。ここは全部で15室ということです。通された部屋は、玄関を上がって右側の廊下をずっと先まで歩いていったところにある、西館の椿という部屋でした。入り口の引き戸を開けると、半畳幅の板の上がり口があり、ふすまが閉まっています。ふすまの手前右手にトイレがあり、これは新しいシャワートイレで、ちいさな手洗いも付いています。ふすまを開けると、8畳の和室で、左奥に半畳幅の床の間があり、しっかりテレビとは別になって、ちゃんと花も活けられていましたが、ただ、インターフォンが置いてあったのが残念です。広縁は三畳大の板張りで、椅子が二脚とテーブルが置かれていますが、何とこの三点セットは新明館と同じものでした。広縁の右側には洗面台が置かれ、反対の左側には飲用の水栓が別にあります。この洗面台は周囲の黒い色が非常に落ち着いた感じを与えるいいものでしたが、水はけが悪かったのが残念でした。部屋は全体に落ち着いた民芸調で、館内の黒とからし色を基調にしている点や、磨き上げた床など、新明館に良く似ている感じがします。迎え菓子は草もちにきなこをまぶしたような感じのもので、あっさりと上品でかなりおいしいと思いました。窓の外には目の前に崖が迫り、すぐ下をおだやかな川が流れています。建物のすぐ横を川が流れている感じで、こんなに川に近いのも珍しいのではないでしょうか。ただ、どうもこの川は人工的な感じがしないでもありません。目の前が崖ですから、もちろん覗き込みはありません。ゆかたの気づかいはなく、仲居さんは良い意味でのいなかのおばちゃんという感じで、この辺が秘湯の宿というところでしょうか。
お風呂は露天の家族風呂が一つ、小屋掛けの家族風呂が二つ、内風呂が二つ、それに露天は男女混浴が一つに女性専用が一つというラインナップです。お風呂は11時までで、男女交代はありません。内湯の家族風呂だけが24時間入浴可能です。内風呂は薬師の湯という名前がつけられていて、三人ぐらい入れば一杯になりそうな狭い岩風呂ですが、板壁に囲まれていて、なぜか雰囲気は非常に感じるお風呂で、温泉好きの人は結構気に入りそうな感じです。この内湯もそうなのですが、旅館山河のお風呂は三つの家族風呂を除いて、洗い場の蛇口はありません。混浴の露天へは西館近くの専用の出口から、外へ出て行く形になります。露天は周りを黒い板塀で囲まれていますが、けっこう広いので開放感は感じられます。湯船の一角に小さなあずまやのようなものが建てられていますが、こちらは神秘的な感じは受けません。混浴とはいえ、脱衣所は分けられておらず、ちょっと女性は入りにくいかなという感じです。湯船への入り口近くに、湯口があり、その近くは熱めですが、離れると少し温くなるようです。お湯はどこも流し切りです。薬師の湯と露天とは源泉がちがうとのことで、薬師の湯のお湯の方がお勧めだと仲居さんは言っていました。確かに名前から言っても薬師の湯の方が効果がありそうです。混浴露天には飲泉できるところが作られているのですが、この飲泉用のお湯だけは薬師の湯と表示がありました。この混浴露天の近くには、女性専用の露天と小屋掛けの二つの家族風呂があり、薬師の湯の男女二つの内湯はロビーの反対方向にあります。一つだけ離れて露天の家族風呂が、宿の玄関へ至る坂道の途中にあり、山の斜面にそって、景色の楽しめる丸い木の湯舟になっていてゆっくりできます。それぞれにいいお風呂だと思いました。
夕食は部屋でした。お品書きもなく、説明もないのが残念でしたが、全体的においしい方ではないかと思いました。メインとなるのは鍬の形をした鉄板で焼くステーキと馬刺しです。それぞれ霜降りの部分があまりなく、特に高級な素材を使っているという感じはないのですが、この二つともおいしいものだったと思います。その他に青菜のお浸し、椎茸と筍の煮物、酢の物、刺身四点盛り、前菜各種、山女の焼物、澄まし汁、茶碗蒸し、山菜の天麩羅、シチュー、いちごのデザートとボリュームはたっぷりあり、満足できます。馬刺しが出される場合は普通のお造りが出ないところもありますが、ここは刺身もちゃんと出されました。前菜や煮物、酢の物などはかなり定番メニューという感じでしたが、最後のシチューなどは工夫があったと思います。最初にほとんど出される形で、後から山女と茶碗蒸し、その後で天麩羅、ご飯の時にシチューという感じで持ってきてくれ、それぞれ温かく食べられたのは非常によかったと思います。特にこれが絶品というのはありませんでしたが、それぞれがおいしいものでした。朝食は大広間の食事処でいただきます。これも一般的な朝定食で、さわらの焼物、生卵、ほうれん草のお浸し、サラダ、ぜんまい、湯豆腐、海苔、牛乳、明太子が出されました。朝食も全体的に味は良いと思いますが、やはり特筆すべきところはありません。食後はロビーでコーヒーをセルフサービスで飲むことができますが、これは朝食の時に仲居さんが個別に言っているようで、ぼくは知らずに部屋に帰ろうとしてしまいました。ちょうどすれ違った仲居さんが一言言ってくれたのでコーヒーにありつけましたが、仲居さんに行き合わせなかったら飲めませんでした。秘湯の宿とはいえ、さすが黒川という感じで、温泉だけでなく居心地も悪くないと思います。秘湯の宿の中でもお洒落系の方に属するといってもいいのではないでしょうか。部屋係りの仲居さんが若いしっかりした女性だったら、それだけでもかなりお洒落度はアップするかもしれません。かつて、ここは黒川の宿の中でもリピート率がトップだったことがあるそうです。多分、あまり有名でなくて満室にめったにならず、知る人ぞ知るという存在の時があったのでしょう。最近は秘湯の宿にも入り、連日満室が続いているようです。いまでも料理はそこそこおいしいのですが、さらに工夫し、仲居さんなどサービス面も充実させれば、もっともっと良くなると思います。
 
翌日の宿泊は「山みず木」で、着いたのは1時45分頃、インは3時だったと思うのですがすぐに対応してくれました。玄関はガラス戸で、そのガラス戸を入ると、中は暗い感じですがやはり、左手の一郭に外の明かりを取り入れた明るいコーナーがあり、陰気な感じはしません。ここも館内は黒とからし色が基調で民芸調という感じです。部屋は、花片片という食事処の前の階段を二階に上がってすぐの、208号室「初陽(しょよう)」というところでした。入り口の引き戸を開けると、一畳大の板敷きの上がり口があり、小さな絨毯が敷いてあります。すぐ右手のトイレはもちろんシャワートイレで、手洗いが中についているタイプです。余談ですが、このトイレのサンダルは木で出来ているのに冷たくなく、非常にいい感じで足になじむものです。さて、上がり口の正面のふすまを開けると、10畳の和室です。ただ、左手の奥が仕切られてさらに一畳ほどの広さの着換えコーナーがついていて、やはり一畳幅の衣装入れがあります。この衣装入れは非常に大きくゆったりとしていて良いと思いました。和室は左手の先に床の間があり、花が活けてありますが、やはりインターフォンが置かれているのが残念です。テレビは床の間とは仕切られて、扉で隠せるようになっています。これは黒川荘同様の心遣いでした。和室の先には四畳大のフローリングの広縁が広がり、籐のロッキングチェアが二つ置かれていました。広縁の右手には飲用の水栓と、コーヒーメーカーが置かれています。このコーヒーメーカーはスイッチを入れると粉を挽くところから始めるタイプのもので、なかなか本格的です。やや深めに淹れられたコーヒーをいつでも好きなだけ飲むことができ、コーヒー好きにはたまらないサービスでしょう。広縁の左手は洗面所になっており、洗面台が二面置かれたスペースの広いものでした。ここは次の間はないし、和室自体も10畳の広さですが、全体的にゆとりをもった、しかも、合理的に考えられた十分満足できる部屋でしょう。浴衣の気づかいもちゃんとあり、もちろんお茶も出してくれました。迎え菓子はお多福豆にきなこをかけたものです。広縁の籐の椅子に座り外を見ると、旅館のかわら屋根の重なりと、正面には男性用の内湯の入り口が見えます。眺めは全然良くないと言っていいでしょう。ただし、覗き込みはありません。
お風呂は、内湯が男女一つずつ、露天は女性専用が二つ、混浴が一つで、内湯もふくめてすべて館外に作られています。男女交代はありません。内湯は24時間OK。露天は夜の11時まででその後お湯を抜いて掃除をするそうです。露天が広く、お湯がなかなか溜まらないことと、夜中が寒いこととで、冬は翌日の午前中はかなり温く感じます。初日に入った午後の3時くらいには、十分温かくなっていました。また、週に一回、確か水曜日だったと思うのですが、掃除をしない日があるそうで、その時は24時間入浴OKで、翌朝も温くありません。館外へ出てすぐが男性用の内湯で、ここは湯屋づくりの、古さと新しさを併せ持たせたような感じのお風呂です。薄暗い室内に障子形の窓から明かりがこぼれ、雰囲気は悪くありません。ただ、外から空気が入ってくる造りになっているので、この時期の洗い場は寒く感じます。浴槽は四人程度が丁度いいぐらいの広さで、そんなに広くはありません。脱衣所には、フェイスタオルが置いてあり冷水機もありました。お湯はちょっと熱めで、もちろん流し切りです。男性の内湯を出て石段を次第に低い方へと降りていくと、女性の内湯、その隣に混浴の露天の脱衣所があります。女性の露天は混浴のさらに先に位置し、ここの脱衣所へは、途中に分かれる道があります。混浴の露天はかなり大きなもので、ダイナミックな流れの川と、おとなしい流れの川が少し先で合流し、露天の目の前を流れてきます。川の少し段になったところが滝のようになっていて、景色としては超一流の露天風呂だと思います。また、河原に鷺が、違う時間帯には露天の少し先のところに突き出した木の枝に何と言う鳥か分かりませんが、かなり大きな鳥がじっと止まっていました。お風呂に入りながら、自然の鳥をしげしげと観察できることは滅多にないことです。周囲の景色に関しては、今回は冬枯れの景色でしたので、去年の秋ほどの感激はありませんでしたが、紅葉の頃とならび、多分、新緑の頃も素晴らしいものと思われます。広い湯舟ですので、脱衣所に近いところが温めで、奥の湯口に近くなると少し熱くなります。流しきりのお湯が河原へと流れ出ていました。また湯舟にはやはり屋根がかかった、小さなあずまや風のものがあり、これは黒川の定番かなと思わせられました。
食事は朝・夕とも花片片という食事処です。この食事処はすべて個室で構成されていますが、一階がゆったり目で、二階の方は一階に比べてやや狭目のようです。初日が一階、二日目が二階でした。ここは連泊をした場合、通常の食事が初日に出るか、二日目に出るかはその時の連泊者の数など、状況で変わるということでした。また、超人気の宿ですので、連泊は二日までというのが原則のようです。ぼくの場合、初日が二日目メニュー、二日目が通常メニューだったそうです。お品書きがあり、説明もしっかりしてくれました。食前酒は特になく、お造りは鮪のトロでこれは非常においしいものでした。どこから持ってくるのか聞いたのですが、教えてもらえませんでした。吸い物はふかひれという、和食でははじめての経験ですが、しっかり和の中に調和していました。その他、湯葉豆腐、鶯豆腐葛包み、鱒バター焼き、鰻おこわ、肥後牛サーロイン、白魚鍋、茄子まんじゅう、赤じゃが団子の鍋、こう並べるとどれもどっこいどっこいかと思われそうですが、そうではなく、すべてかなりおいしいものです。ご飯は竹酢米という農薬の代わりに酢を使った?お米(酢飯ではない)でこれもおいしいと思います。デザートは二色ジンジャーシャーベットでした。全体的に非常に完成度の高い夕食で文句ありません。ただ、デザートはチャレンジ性は認めるのですが、完成度は今一つという感じでした。食卓への出し方は、最初は先付の湯葉豆腐、小鉢の鶯豆腐、お造りの三点が並べられ、後から一品ずつ供されるという形で、全体のペースは非常によく、温かいものは温かいうちに、完璧に食べられました。この山みず木の評判の良さが納得できた食事でした。ただ、これはあくまでも連泊者向けのメニューで、翌日の通常メニューは体調不良のため、評価できませんでした。朝食は夕食と同じ個室でいただきます。この朝食も連泊者用の朝食で、一般的な朝定食とは異なり、ちゃんとした料理が供されます。鰆の焼き物、エリンギを使った小鉢、焼き茄子の煮びたし、青菜のお浸し、具沢山の味噌汁、さらに後から、卵焼きと何かのまんじゅうの餡かけといった具合で、一般的な朝定食を食べ飽きた身には、文句なしの朝食でした。二日目の朝食は一般的な朝定食で、海苔、納豆という定番ものが二つ、この納豆はかわいらしい藁苞に包まれたものでした。さらには大鉢に入った煮物、豆乳豆腐、小さめな魚の開き、といったところで、ちょっと物足りない感じがしました。やはり連泊用の朝食の方が充実しています。今回の食事に関しては、連泊者用のものの報告がメインになってしまったため、一泊だけでの宿泊とは、少し印象の異なるものとなってしまったかもしれません。食事にしても部屋、お風呂、サービスにしてもまったく文句はありません。二日目の昼は、歩くと結構遠いすずめ地獄や平野台というところまで出かけたのですが、帰ってきたとき、お疲れでしょうということか、デコポンなどいくつかの柑橘類を差し入れしてくれたし、いろいろと気を遣ってくれました。帰りの黒川温泉のバス停までの送りは、トヨタのクラシックカーモデルを使ってのもので、バス停で注目を浴びました。仲居さんは取り澄ました感じではなく、ざっくばらんで、しかしなれなれ過ぎたりしないというバランスをうまく保っている感じの人でした。素晴らしい宿だと思います。

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今回は、熊本で気になっていた菊池温泉と、山鹿温泉へ行ってきました。全部で三泊、そのうちの二泊は菊池温泉でと決めていて、本来なら良さそうなところで連泊してのんびりするのですが、どこが良さそうなのか分からず、とりあえず二軒の宿に宿泊して様子を見ることにしました。まず一泊目は、ぼくの師匠筋に当たる露天風呂の本に載っていた「菊池観光ホテル」に泊まることにしました。
「菊池観光ホテル」は菊池温泉のバス停のすぐ隣にあると言っていいほどのところに位置し、部屋数が多くて大型旅館といっていい旅館です。チェックイン時間は通常3時ですが、今回の企画では2時でOKで、着いたのが2時15分頃だったので、すぐに案内してもらえました。部屋は、東館10階の1025号室で、本館のエレベーターで6階まで上がり、東館のエレベーターに乗り換えるという形です。部屋の鉄製の重い扉を開けると、正面に二畳の控えの間が見えます。手前右手に目隠しがあり、その奥がトイレで、シャワートイレでした。逆方向の左手には洗面室とバスがあり、スペースが広めに取られていて、洗面台は二面ありました。控えの間の畳は大分色があせていて、主室の新しい畳とは対照的です。控えの間を通り抜けてもいいのですが、控えの間の横の廊下を通る形で主室へ入ります。主室は12.5畳の広さがあり、ゆったりしています。後で確認したら、もともとの企画はもっと小さい部屋の設定でしたので、部屋は旅館側がランクアップしてくれた模様です。床の間が右手にたっぷりと取られていて、単なる花の投げ入れではなく、梅と木瓜の生け花がしっかりと活けられていました。また反対側の左手の壁にはテレビなどを置くスペースが幅は狭いものの壁一面にたっぷり取られているので、部屋全体は一層広々と感じられます。浴衣の気づかいもあり、お茶も入れてくれました。迎え菓子は松風という、瓦せんべいを小型で固くしたような干菓子です。広縁は板の間の3畳大で、窓が大きく取られています。かなり縦横に広い窓で、映画のシネスコの画面を見ているような感じです。旅館が斜面に位置して建てられていることに加えて、部屋が10階なので眺めはいいものでした。町を見下ろす感じで、正面には隣のお寺の楠のみごとな大木が見えます。
お風呂は本館1階と東館6階に大きく分かれています。本館のお風呂は女性が4時までで、その後は有料の家族風呂になるそうです。男性は夜の11時までで、男女とも翌朝はやっていない、という変則的な時間割です。湯量の関係なのか理由はよく分かりませんが、できたら、普通にやってほしいものです。東館6階のお風呂は朝の5時半から夜は12時までで、こちらも男女交代はありません。本館の方の大浴場も結構広いのですが、東館の方も湯舟はかなりの広さがあります。東館は外光をふんだんに取り入れた感じで明るく、二階吹き抜けの高さになっています。大浴場には馬油せっけんという珍しいものがあり、これは使用後、肌がつっぱらずしっとりとしてなかなかいいと思いました。本館の露天は、師匠筋の本に出ていた名物の洞窟露天があり、かなり広い感じがします。洞窟は白壁でそんなに暗い感じはしません。行き止まり型ではなく、露天の端からループ状に曲がってもう一つの端に出るというトンネル型の造りでした。湯温は温めで、湯口のあたりが適温という感じでした。洞窟のある露天の下に一段低い湯舟があるのですが、ここはお湯が抜かれ、上の洞窟風呂をご利用くださいという札が立っていました。この洞窟風呂の横の道をさらに少し上に登ってしばらくいくと、もう一つ露天があります。こちらもそこそこ広いのですが、周りを板塀にかこまれているため、まったく見晴らしはありません。ただ、少し隠れた感じがあり、ここまで来る人もあまりいないようでけっこう落ち着きます。この露天には、ドアがついていて、え?もしかして女湯につながってる?と思っていたのですが、そのドアを開けて入って来たのは男性でした。実はこの露天は東館の6階のお風呂から続く露天で、本館のお風呂との共用露天ということだったのです。本館のお風呂は1階で、東館のお風呂は6階なので、まさかつながっているとは思いもよりません。その男性からその話を聞いても納得がいかなかったのですが、後で東館のお風呂に入って、理解できました。東館のお風呂全体の入り口は6階にあるのですが、本当の入り口はそこから一階分階段を降りたところにあります。大浴場から露天に出るにはまた階段を降りていくということで、いつのまにか3階あたりまで降りてきてしまっているのです。本館からは、書いたように洞窟風呂のわき道を少し登って行きますから、それぞれ、あまり意識しないうちに、上り下りしている訳です。うまく考えたな、と感心してしまいました。菊池温泉の泉質はかなりヌルヌルしたお湯で、とてもいい感じです。九州でいうと嬉野温泉を思い出しました。表示によると泉温が48.2℃、PHが9.19ということでした。ここはそれぞれの旅館が源泉を持っているようです。ただ、露天は大浴場ほどぬるぬるを感じませんでしたが、湯船の作りから言っても循環ということはないのではないかと思います。東館の脱衣所にウオータークーラーがあり、水はおいしいと思いました。
夕食は部屋でいただきます。お品書きはありませんでしたが説明はありました。食前酒はいちごワインで、甘味があってちょっと女性向きかなという感じのものです。メインが肥後の赤牛の陶板焼き、お造りが鯛などの三種盛り。魚と山芋の酢の物、保温プレートに載せられた海老やふきのとうなど天麩羅四点、先付五点盛り、海鮮鍋が並べられ、鍋と陶板に同時に火がつけられました。いつもだったら、火は後にしてもらうのですが、あっという間で、ま、いいかということで、一番先に陶板から食べ始めました。しばらくして、鯛のお吸い物、筍の煮物、炭火ごとの岩魚の焼き物、の三点が同時に運ばれます。天麩羅などはいくら保温プレートで温めていても、揚げたての食感とは全然ちがってしまいます。それに対して、岩魚の焼き物は炭火に櫛を突き刺したままで出されますから、自分の判断で最もいい状態の時に食べられます。蓼酢で食べるという珍しい食べ方でしたが、やはりとてもおいしいものでした。その他、それぞれは決してまずくはありませんが、特に強い印象を残すものはありませんでした。お皿のせいもあるかと思うのですが、先付けのそれぞれの形や盛り方なども、今一つの感がしました。ご飯は釜飯で、客がいい頃を見計らって、それぞれテーブルで火をつける形のものです。筍ご飯がふっくらと炊けておいしいと思いました。デザートはメロンでした。朝食はバイキングですが、席は大広間で自由に座る人と、隣の小奇麗な部屋で決められた席に座る人がいて、これは料金によって分かれるようです。ただ、バイキングの内容はまったく同じです。ハーフバイキングということで、しらす、お浸し、卵焼き、たらこ、煮物など、ある程度の決められた物が載っているお盆をまず取り、さらにそれに加えて自分で取るものとに分かれます。ジュースはトマトとオレンジ、牛乳など、一通りのものはそろっている感じです。焼き魚は自分で火で炙るもので、この魚はおいしいと思いました。あとはごく普通の内容という感じでした。
華やかな大型旅館という感じでもなく、かといって寂れてしまった旅館という感じでもなく、ところどころ古さが目立つけれど、あやうい綱渡りをしながらふんばり、がんばっている大型旅館という感じでしょうか。部屋はいいし、食事がもっとよくなると、温泉がいいだけにかなり全体的によくなるのではという気がしましたが、ただ、やはり規模が少し大きすぎるかもしれません。朝の本館のお風呂がないというのも珍しいし、女性の本館のお風呂は4時までというのもめずらしいのですが、東館のお風呂は十分それを補っていると思います。荷物を預けて観光に行き、大分遅くなってアウトしたせいか、最後の見送りは全くありませんでした。
 
菊池温泉での二泊目は「菊池国際ホテル笹乃家」にしました。「笹乃家」も「菊池観光ホテル」と同じような大型旅館ですが、玄関前やロビー全体に小奇麗な印象を受けます。それもそのはずで、平成13年に秋篠宮ご夫妻が泊まられて、その時にお金をかけて綺麗にしたということでした。ただ、ロビーのソファーなどは、片隅にほんの少しだけ置かれているという印象です。また、玄関を入ってすぐに大太鼓が並べて二つ置かれているのが、目を引きます。なぜ、なのかは聞きませんでしたが、別にお客を迎える度に打ち鳴らすわけでもなく、理由はよく分かりません。フロントに行くと、規定のチェックイン時間の3時まで待たされることを告げられ、近所の観光どころを紹介しようとされましたが、近所ももう見てしまったので、構わないからロビーで待つことにしました。それでも2時45分頃には部屋へと案内してくれました。部屋は359号室で、鉄製の扉を開けると、二畳大の板の間があり、右にすぐ洗面台があります。洗面台と向かい合った、反対側の左手のドアを開けると、脱衣所のみのスペースがあり、さらに中のドアを開けると小さめの風呂場があります。洗面台と分離している脱衣所のみの部屋とは珍しいと思いました。左手のドアの手前、玄関口に沿うようにトイレがあり、シャワートイレでした。前後のスペースはあるのですが、広いという印象はありません。板の間にあがり、正面のふすまを開けると10畳の和室で、右側に一畳半幅の床の間がついています。ただ、床の間にはインターフォンとテレビが置かれ、重たそうな花瓶はあるものの、花は活けられておらず、淋しい感じがします。広縁は一段下がったカーペット敷きの三畳大で、どっしりとした三点セットが置かれていました。迎え菓子はやはり松風という干菓子で、この辺の名物なのでしょうか。部屋はわりと新しく、おかしなところはありませんが、洗面台といい、トイレといいあっさりとしすぎている感じがします。浴衣のサイズはすべて揃っているので、自分で合いそうなのを選んで着ることができます。窓からの景色はこの旅館の玄関前の建物で、三階ということもあって、見えるのは宿の前の道路と商店。昨日と比べると同じ菊池温泉の旅館でも、大分ちがう印象です。
お風呂は一階に男女の大浴場と、そこから出る形の露天がまとまって配置されています。入浴時間は朝は6時半から、夜の12時までです。朝の開始時間はちょっと遅い感じがします。その朝の開始と共にお風呂は男女交代します。最初ぼくが入った男性用の大浴場は、壁に、ポッティチェリの絵のような壁画タイルがはめこまれています。大浴場全体が広々として、湯舟自体も広めでいいと思いました。お湯は流しきりで、湯舟は20人くらいは入れそうです。洗い場は11くらいあって、余裕があります。露天は大浴場から出る形で、露天の湯舟も広く、8名くらいは入れると思います。循環ではないと思うのですがお湯が外に流れ出る感じがない形のもので、この仕組みはよくわかりません。この露天は、周りを板塀に囲まれているのですが、広いのでそれほどの圧迫感は感じさせません。また、大浴場と同じように洋風で、初日の露天にはミロのビーナスの像がありました。ただ、翌日交代した方には、大浴場も露天もまともな和風でした。広さは男湯も女湯もほとんど同じだったような気がします。源泉の温度が45.6度、PHは9.32表示にありました。昨日と同じように、泉質はかなりぬるぬるしたお湯で、良いと思います。お湯に顔を近づけるとかすかなイオウ臭のようなものを感じました。大浴場はやや熱め、露天はやや温めといったところです。
夕食は部屋で、昨日と同様お品書きはなく説明はあります。食前酒も昨日と同様いちごワインでしたが、味は微妙に違っていました。ただ、両方とも飲みやすいものです。今日のメインは、牛肉の豆乳鍋で、その他にサーモンのグリーンアスパラ巻きパプリカ添えといった洋皿、えんどう豆の豆腐、珍味三種、先付け七種盛り、魚と貝の酢の物、お造り四種盛り(鮪、烏賊、鯛、鰤?)、が初めに並べられます。その後で白魚と蕨のお吸い物、おまんじゅうの餡かけ、茶碗蒸し、さらに天麩羅四種(蟹、茄子、他)、貝のグラタン風、と続き、最後はやはり釜飯を自分で炊くスタイルです。この釜飯は桜海老の炊き込みご飯で、いけます。そしてデザートはメロンと苺と、ばんぺいゆのゼリーの盛り合わせで、全体的にかなりおいしいと思いました。昨日も決してまずくはなかったのですが、やはり比べてしまうと、一段ちがっている印象です。ここは3・4回に分けて持って来てくれましたが、これで一品一品だったら、もっと印象はよかったのではないかと思いました。
朝食は一階のフロント前の、重厚な扉を持つ「芙蓉」というレストランで、バイキングではなく普通の和定食でした。全体的にまずくはないのですが、昨日の夕食ほどのパワーはなく、落差を感じさせた食事でした。ごく一般的なもので、デザートのグレープフルーツがあったのは良かったのですが、カップ入りの納豆にふりかけパックと海苔が置かれ、鳥インフルエンザの影響で玉子はゆで卵になっていたのはちょっと興ざめです。焼き魚のお皿は鮭の小さなものとたらこ、昆布の佃煮とかまぼこの乗ったお皿、湯豆腐、サラダ、里芋と蕗の煮物、きゃらぶきの佃煮などが並べられていました。
全体的に夕食はかなり評価してよいと思いますが、朝食はごくごく普通で、その落差がもったいない気がします。また、インの正規時間まできっちり待たせる宿は、ぼくの経験上はかなり少ないものです。特に、立ち寄りなどに使っているのでなければ、さっさと入れてくれてもいいのではないかと思います。いつも言っていることですが、ここも大型旅館なのですから、湯上がりどころに水や麦茶くらい欲しいところです。風呂はまあまあ、部屋は今一つ、夕食はかなりいい、朝食は今一つという総括でしょうか。ただ、この料金ではいい方なのかもしれません。といっても、特別に安いというほどではありませんが。
三日目は、山鹿温泉です。ここはこの前タクシーの運転手さんに、「泉質が玉名よりずっと良く、ひげの濃い私でもひげが柔らかくなって剃りやすくなる」と聞き、俄然クローズアップしてきた温泉地でした。「清流荘 鹿門亭」は以前から旅行会社のパンフレットで目を付けていて、もし山鹿温泉へ泊まるならここと思っていたのです。外観を見たところこざっぱりした、お洒落な感じの宿で、予想を裏切らないものでした。しかも、全然分からなかったロケーションも、着いてみると菊池川の川端で、かなりいい感じです。ロビーでお茶を出され、すぐに部屋に案内してもらえました。荷物は専用のカートですべて運んでくれ、浴衣の気づかいもあったのですが、ただ、残念なことに部屋でのお茶出しはなく、迎え菓子の「錦もなか」をお茶なしで食べるか、自分でお茶を入れて食べるかしなければなりません。部屋は四階建ての308号室で、山鹿灯篭や古い写真などがガラスケースに飾られた廊下を通って行きます。扉を開け、踏み込みを右に上がると、すぐ右に冷蔵庫が置かれ、その隣にトイレがあります。これはシャワートイレで、このトイレとバスが向き合う形に配置され、その間が洗面のスペースになっています。踏み込みを上がった左には三畳の控えの間があり、そこを通って十畳の主室へと入る形です。主室の右側に奥行きは狭いものの、幅は広い床の間があり、残念ながら花は活けてありませんでした。ただ、テレビやインターフォンは反対側の部屋の隅に置かれ、床の間はすっきりとしていて良いと思います。広縁は全体的には三畳大の広さですが、左の三分の一くらいは畳敷きで、右側三分の二は一段低くなって、カーペットが敷かれ、三点セットが置かれています。広縁の先には大きなガラス窓が取られ、菊池川のゆったりとした流れが眺められます。この川は河原が広く、川向こうの建物はかなり遠いので心もゆったりした気分になります。もちろん覗き込みはありません。この宿はこの川側と反対方向の町側とに面した部屋があるらしいのですが、そんなに極端に料金は違わないようなので、絶対に川側の部屋を取った方が良いと思います。この部屋は角から二つ目の部屋なのですが、少しでっぱった形に作られているらしく、右側にもほんの少しですが窓があり、川の流れをずっと先まで見通すことができます。なかなかいい部屋です。
お風呂ですが、普通はチェックイン時間の3時にはちゃんと入れるようになっているということなのですが、この日は掃除が遅れて、お湯が溜まるのが4時になるということを案内の時に言われました。普段ならチェックインするとすぐに風呂に入りに行くのですが、今日はゆっくりするかということにしました。「じゃあ、入れるようになったら連絡してください」と言って、部屋でくつろいでいると、3時45分頃に「入れます」という連絡がありました。早速お風呂に出かけると、入り口の所にボディタオルが置かれ、そのカウンターに若い男性がいるのですが、こちらが前を通ってもまったく無視という状態で、「遅くなって申し訳ありません」とか、「タオルをお取りください」、などという言葉は一切、聞かれません。歳のせいか、若い人の年齢は良く分からないのですが、もしかすると高校生くらいなのかもしれません。とにかく、よく言えば客に慣れていないということでしょうか、客に対する態度が全然なっていません。女将の息子かな?と思って(そのくらいしか考えられません。これが正規の従業員だったら最悪です)まあ、こちらも相手を無視して、タオルも取らずに脱衣所へ入り、内湯に向かいました。浴槽にどのくらい溜まっているのか確認すると、まあ9分目くらいはあってこれならば十分と思ったのですが、よく見ると洗い場の一番はしに、体を洗うシャワー付きの水栓ではない、普通の水道の蛇口といった風情の水栓があって、そこにホースがつながれ、浴槽の中に引き込まれています。「あーあ、こんなに水で薄めちゃって」と思って、どのくらい出しているのか確認しようと、ちょっと触ってみると・・あっちっち、って水ではなくお湯なのです。この蛇口が温泉の蛇口とは常識的には考えにくいので、つまり浴槽を普通のお湯で満たしているのだと思われます。もちろん、このお湯ですべてを満たすのではなく多分浴槽の中からも普通の温泉は出ていると思うのですが・・この浴槽は上からの流れ込みはありません。しかし、それにしてもこれはいったいどうしたことでしょう。今日はお湯を溜めるのが遅くなり、しかも客が早く入りたそうな客で、しかたなく早くお湯を溜めるためにこういう手段に訴えたのでしょうか。善意に解釈するとそうなりますが、果たしてそうでしょうか。もしかすると毎日こんなことをやっているのではないか、という疑問が捨て切れませんでした。そのせいもあってか、タクシーの運転手の話とはちがって、全然特徴のないお湯に思えました。あきらかにヌルヌル度は昨日までの菊池温泉の方が上です。運転手の話からかなり山鹿温泉には期待していて、悪くても菊地温泉くらいではあるだとうと思っていたので、がっかりでした。ちなみに、脱衣所に成分表が掲示してあり、泉温は33.6℃、アルカリ単純温泉とありましたが、PHは書かれていませんでした。また、源泉はこの宿が所有しているもののようです。しかし、塩素臭は全くしませんが、お湯の溢れ方から考えると循環させているように思います。入浴中に、さっきの無愛想な若者が、やはり無愛想に何回かお湯の様子を見にきました。どうやら、湯量の見張り番を仰せつかっていたようです。で、いやいややっているのが、態度に表れたということかと想像しました。
内湯自体はやや暗い感じですが、小ぢんまりとまとまっています。大きさは、旅館の規模から言ったらちょうどいいくらいかもしれません。洗い場の数は10近くあり、炭せっけん、炭シャンプー、つぶ塩が置いてありました。露天は大浴場から出る形のもので、上に屋根があり、周りを塀でかこまれています。3.4人しか入れない感じで、湯船も露天全体の広さも余裕がなくのびのびできない感じでした。こちらは内湯とちがい、湯面より上からの流れ込みがあり、お湯は外に流れ出していました。ただ、翌日交代した方のお湯は流れ出している感じがしませんでした。入浴時間は昼の3時から夜の12時まで。朝は男女が交代して、毎朝6時からです。湯上がり所の水や麦茶はありませんでした。
食事は夜部屋でいただきます。お品書きはないものの、説明はありました。食前酒はありません。まず最初に並べられるものは、馬刺し。きびなごと鯨の尾の身、山菜のお浸し、豚肉と鶏つくねの鍋、先付けの鰆の焼き物と帆立の珍味、お造り五種盛り(うに、鮪、いか、甘海老、かんぱち?)で、うにがお作りで出たのはずいぶん久しぶりのような気がします。続いて、非常に姿のいい具の入ったお椀、おまんじゅうのあんかけが出され、その後で、かにのグラタン、山菜の天麩羅、おもちの甘酢餡かけ(違ったかも知れません)、が一品ずつ運ばれてきます。全体的に洗練されていて、とてもおいしいと思いました。もちろん、素材としては、うになど秋保温泉の「佐勘」で食べた、まるでアイスクリームを思わせるようなものとは、比べるべくもありませんが、まあ、それはどう考えても料金的に無理だと思われます。とにかく全体的に、料金から考えても非常に満足できるものでした。昨日の笹乃家も夕食は良かったのですが、さらにその上を行っていたと思います。ごはんはゆかりごはんで、デザートは二つに割ったグレープフルーツの芯の部分に、グレープフルーツゼリーを入れたものでした。
朝食は食事処になります。時間が、7時半か8時半ということでしたが、8時は無理ですかと聞くと、ちょうど私が降りますから大丈夫ですよと、仲居さんが言ってくれました。でも、この時間設定には疑問が残りました。二部制ということは、食事処の座席数に比べて客室が多いということだと思いますが、翌日行ってみると、その時間には自分をふくめて二組しかおらず、だったら、もっと融通を利かせてもいいのではないかと思いました。内容は夕食ほどではありませんが、レベルの高い朝食だったと思います。魚は脂の乗った白身の魚で、朝から鮪の刺身が三切れも付きました。それに、大根サラダ、たらこ、昆布の佃煮、ぜんまいの煮物に、海苔、納豆が付きます。この納豆はカップ入りですが、移し替える器はちゃんと付いていました。この他に、部屋の一郭に湯豆腐が置かれ、セルフサービスでどうぞということでした。確かに、量が多すぎて食べない人が多いのなら、こういう方法もあるなと思いました。デザートとして苺とオレンジが付いていました。デザートもあり刺身もありで文句ありませんでした。
書いてきたように、お客の身に立っていないという欠点が多々目に付きました。中でも、お風呂に関しては強い疑問が残ります。まず、この日は宿泊者がかなり少なかったので、じゃあ開始時間をすこしぐらい遅らせても構わないだろうという、安易な考えはなかったのか。浴槽が早く一杯になればお湯はどうでもいいだろうという、考えはなかったのか。従業員ではない人間を客の前に出して、サービス業としての責任は取れるのか、ということを強く思いました。バス停がすぐ近くにあるのですが、雨が降り出したために、屋根のある待合所がある始発のバス停まで車で送ってくれたり、また、態度のいい女性の従業員もいただけに残念でした。却って、ちぐはぐさが目立ってしまいます。また、いつも言っていることですが、湯上がりの水については是非欲しいと思いました。このように欠点は多々ありますが、部屋にしろ食事にしろその面に関しては、ぼくとしてはかなり満足度は高いというのも事実です。特に川側のゆったりした景色は癒されます。食事も特に絶品とまではいきませんが、全体的にレベルは高いと思います。ちなみに、坂東玉三郎はベッドでないとダメということで違うホテルらしいのですが、八千代座に出演する役者はここを利用するようです。

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去年亡くなった下の義弟の一年目の集まりがあり、親戚一同で旅館に一泊して来ました。高齢の義母が居るので、去年行った霧島では車に乗っている時間が長すぎるということで、今回はそれよりもいくらか近く、義妹などが行ってみたいと言っていた妙見温泉の石原荘に宿泊することにしました。石原荘は4年前の秋に行って報告を書きましたが、いつのまにかそれから4年が経ってしまったわけで、時の経つのは早いものです。
今回は夏休み中の土曜宿泊で3室必要。しかも義母が足が悪いので一階希望という難しい条件だったのですが、予約したのが早かったせいか奇跡的に確保できました。早いと言っても半年前ということはなかったと思うので、妙見石原荘も意外にそれほど人気はないのかもしれません。
着いたのはちょうど4時。妙見石原荘のチェックイン4時、アウト10時というのは相変わらず変わっていないようですが、HPを見るとそれよりも早くチェックインしたい人は連絡してくださいというような内容が書かれていましたので、いくらかは進歩したのでしょうか。ロビーでミニ氷あずきをいただき、それぞれの部屋に分かれます。部屋は「浅緑」と「浅葱」そして前回我々が泊まった「紅藤」の予定だったのですが、「紅藤」は狭いですからということで、地下の「紫」に変更されていました。一部屋だけ離されてしまった訳で、どうしても3部屋とも近くの部屋が欲しかったというグループなら、ここで一悶着というところですが、料金が変わらず部屋が広くなるのならいいんじゃないか、ということでおとなしく受け入れました。料金が変わらないというのはその場で確認したわけではないのですが、支払いの段階ではやはり変わっていませんでした。
また、椋の木の露天が混浴で、貸し切り露天は当日が予約制、翌日は早い者勝ちというシステムは変わっていませんでした。そして、その段階で貸し切り露天の残っている一番早い時間が6時ということでした。この日は4時にインだったので、3時半インで6時15分が一番早かった前回よりはまだましなのかもしれませんが、この予約時間がインの時間にすでに埋まっている謎は相変わらずです。今回は夏なので、まだ6時でも十分に明るいということで、6時に予約しました。
初め「紅藤」の予定だったぼくと上の義弟が「紫」に、女房と義母が「浅緑」に、義妹一家3人が「浅葱」へと分かれ、それぞれの部屋に案内されます。モダンな和風の「浅緑」と「浅葱」は後でちらっと覗いただけなので、細かいことはよく分かりませんでした。
「紫」はフロントから地下に降りるのですが、建物は斜面に建っているのでいわゆる地下室とは違い、むしろ川のそばで、もちろん窓もちゃんと付いています。「民家風の造り」の部屋ということで、他の二部屋のようにしゃれた感じはそれほどありません。入ると二畳大の玄関があり、右手に畳2畳の踏み込み。さらに踏み込みの右手に廊下があり洗面所に通じています。洗面所は洗面用のシンクと、飲料水用の狭くて深いシンクの二つがついています。洗面所の右手がトイレでシャワートイレになっており、左手に桧の部屋風呂があります。温泉かどうかは不明ですが、特に温泉である旨の表示はありませんでした。玄関正面の襖を開けると6畳の次の間に通じ、その右手に8畳の主室があります。この主室には洗面所へ通じる廊下側からも入ることができます。次の間に入ると正面には四畳大の板の間の広縁があり、この広縁は隣の主室にもつながっているのですが、主室の方は広くなく、ただ主室から広縁に行くための通り道程度の広さです。次の間、主室のそれぞれに窓が付いていて天降川を間近に見ることができるのですが、窓に高さがなく、また障子が付いているので、外の景色が大きく中に入っていくるという印象にはなりません。窓に近づいて覗き込む感じになります。川を挟んだお向かいが雅叙苑で、そちらからの覗き込みはあるのですが、川べりに木々があるのでそれほどは気になりません。床の間は1.5畳大あり、花が活けられています。花は確か玄関にもあったはずです。前回は部屋での迎え菓子はありませんでしたが、今回は薄切りのかるかんが出されました。薄切りのかるかんとは珍しいと思いました。前回もそうだったのですが、部屋には常時お砂糖をまぶした南京豆が置かれていて、お菓子の中ではこれが一番おいしいかもしれません。浴衣は二枚あり、サイズの気遣いもありました。さらに上からストンとかぶる形のパジャマもあります。部屋に金庫はなく貴重品袋での対応でした。
椋の木の露天の混浴は変わらずですが、脱衣所が坂の途中に出来ていました。ただし、籠が4つくらいしかなく男女の区別もありません。もう少しちゃんとできそうなものだと思うのですが・・。以前同様、目の前に建物はあるものの、それ以外の景色は相変わらずよくて、癒される露天なのですが、今の時期はアブがいました。それから、ぼくはどうも蚊に刺されやすい体質らしく、この露天への道の途中でか、あるいは露天でかは分かりませんが何か所も刺されました。
もう一つの貸し切り露天は大変化がありました。この前の報告で上に小さな露天があり、下に大きな露天が二つに分かれてあると書きましたが、何とこの下の二つの露天に激流が渦巻いていました。この前の豪雨で大分増水したらしいのですが、また水が引けば以前と同じように使えるのかと思ったら、もう2年くらい前に下の二つの湯船はつぶしたということなのです。下の湯船は上からのお湯が流れ込む形なので、どうしてもお湯が古くなってしまう、という理由のようでした。これはぼくにとってはショックでした。景色は相変わらずの迫力で申し分なく、以前のお風呂を知らない人は、上の湯船だけでも、これはこれで十分満足できると思うのですが、知っている人にとってはやはりがっかりですね。
大浴場は変わらずで、小さいながら、流しきりのお湯がふんだんにあふれています。窓から明るい緑が見える、癒されるいいお風呂です。温度も本当にちょうどいい感じになっていました。湯上がりどころのロビーも相変わらずの涼しげなブルーのグラスと、レモン水です。この前瑞月で久しぶりにレモン水を飲んだと思ったら、続くものですね。また、やはり変わらずの雰囲気のある飲泉所で飲泉してきました。うん、この味この味、という感じでなつかしく思い出しました。
食事は地下にある広目の個室食事処で、でした。
料理長は二年前に交代したということでしたが、地のものを最大限に生かそうという考え方や、最初の竹筒に入った日本酒の食前酒が出るところなどは、全く変わっていませんでした。お品書きも説明もあります。まずは、食前酒の竹筒入り日本酒「しげます」です。前回は確か新潟のお酒だったと思うのですが、今回は福岡のお酒ということでした。多分、料理に合わせて選んでいると思うので、酒好きにはうれしいかもしれません。まず、白瓜のうるか合え、ちぢみ蛸たたきおくら、ゴーヤ・するめ・赤パプリカを使った木の実味噌和え、の三品が並べられ、その後に一品ずつ運ばれます。イサキの焼霜造り・鮪・水茄子・姫竹というお造りは、量は少ないのですがイサキ、鮪ともおいしいものでした。その後が、薩摩沢煮椀、鮎の塩焼きと鮎寿司で、塩焼きは香り高い非常においしいもので、鮎の塩焼きとしては今までで一番だったかもしれません。その後が、夏野菜琥珀煮(冬瓜含煮、日向鶏万年煮)、枝豆すり流し、黒毛和牛ロースと続きます。ごはんが、鰻時雨煮ご飯で、デザートが無花果甲州煮でした。前回と同じように地のものにこだわった、非常においしい夕食だったのですが、全体的にまとまりがよくなったかな、という感じです。お行儀がよくなり、この前のような荒削りの大胆さの魅力がなくなってしまったような印象を持ちました。ただこれは、あくまでも印象のレベルで、それほど変わらないと思う人や、逆に、繊細で良くなったと感じる人もいると思います。
義母がいるので、他の客に比べるとゆっくりしたペースだったと思いますが、われわれにとっては早すぎもせず、遅すぎもせずでちょうどいい運び方でした。
朝食も同じ場所で、ほんの小さなグレープフルーツジュースがついています。法蓮草のお浸し、ひじきと干大根の当座煮に卵は出汁巻玉子、魚は鯵の干物でこんにゃく 酢れんこんと手造り豆富、それに鰹と生野菜のサラダと南瓜・午房・大名筍の炊合せに地鶏そぼろあんをかけたもの、浅利の味噌汁に前回と同じ炊きたて釜御飯、そしてブルーベリーヨーグルトというラインナップでした。すべておいしい、言うことなしの朝食で、特に鯵の干物は相模湾のもの同様においしいと思いました。
今回は4時にチェックインしたので、前回のようにチェックイン時の対応の不満などはありませんでしたが、やはり、チェックインが4時?という問題点はまだ残っています。また、前回不信感を持った、フロントにもてなしの心が感じられないということも、今回はそうは思いませんでした。むしろ、サービスに関しては足の悪い義母のことを気遣ってくれ、わざわざ浴場棟の一番風呂に近い入り口まで、二回の入浴の度に車で送迎してくれた点や、ちょうどその場にいた従業員が手を引いてくれたことなど、心配りの細やかな点が印象に残りました。また、食事時間も夕食の予約が6時半だったのが義母の用意に手間取って15分くらい遅くなってしまったし、朝食も義母が朝風呂に行きたいということで、直前に30分延ばしてもらったのにいやな顔をせずにきちんと対応してくれて、この点も大いに評価したいと思います。
ただ、チェックイン時間の4時の時点でもう貸し切り風呂の空いている一番早い時間が6時だったし、4時インの10時アウトは滞在時間が短すぎます。また、内湯の終了時間の11時も早すぎるし、朝は確か6時からで、今の時期にはこれも遅すぎると思います。
以上、相変わらずの問題点はありますが、前回ほど、いい悪いの差が大きいという感じはしませんでした。

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女房の里帰りに同行し、ついでに鹿児島の温泉に一泊することにしました。女房の秘湯の宿のスタンプ帳があとスタンプ一個で完成だということと、ちょうど朝日旅行が守る会のスタンプ+1キャンペーンをやっていたのとで、鹿児島の秘湯を守る会の宿に泊まることにしました。鹿児島には三軒の守る会の宿があるのですが、すでに「おりはし旅館」は行っていますし、「南州館」は実態が不明ですので、割と近い吹上温泉の「みどり荘」にしました。
タクシーで到着したのが3時半。確か何かにチェックインが4時とあったので、それよりも30分早く到着したのですが、今、守る会のHPを見てみたら、インは3時になっていました。とにかく、フロントにいた若女将はそのまますぐ部屋に案内してくれました。ちょうど昨日の日曜で夏休みが終わり、今日の宿泊は我々一組だけだということで、部屋をランクアップしてくれ、みどり池に面した「桜」という離れの一番奥の角部屋に案内してくれました。離れといっても、一軒家の豪華な造りではなく、部屋と部屋とが壁で隔てられている造りのものです。
予約は一番安い料金だったので、本当はもっと悪い部屋のはずだったのですが、本来なら3500円近く高い部屋に入れてもらえました。
部屋は引き戸を開けると一畳大の玄関と板二畳大の踏み込みがあり、まっすぐの廊下の突き当りが洗面になっています。洗面のすぐ右隣に部屋風呂があるのですが、このユニット風呂は今までに見た一番小さい風呂のような気がします。洗い場も狭く、湯船と洗い場を合わせてもシャワールームほどの大きさで、ここまで無理して部屋風呂を作らなくてもいいのではないかと思いました。その風呂の手前、玄関側にシャワートイレがあります。
廊下の左側が部屋で、襖を開けると10畳の和室です。角部屋のために窓が二面取られていますが、左の一面は庭木に覆われ、その隙間からただ通路が見えるだけです。右の四畳大の広縁に面した大きな窓からは、みどり池というまさに緑色をした池とその周囲の木々を眺めることが出来ます。ただ、それほど眺めがいいというわけではなく、池の前にある木々に視界が邪魔されてしまっているし、もともと緑色の池自体も美しいという形容は当たりません。池の周りに散策路があり、そこを人が通ると樹の間を通して少し見える程度の覗き込みがあります。また、池に面しているだけのことがあり、この季節はかなり湿気を感じます。
部屋には一畳大の床の間がありましたが、花はなく、その代わりに種々雑多なものが置かれていました。冷水はポットに入ったものが、初めから冷蔵庫に入っていたのですが、それについての説明はなく、冷蔵庫を開けてみて初めて気づきます。このへんは不親切ですね。
アメニティとして、シャンプーやボディソープのミニ容器が付いていて、ホテルでもないのに珍しいなと思ったのですが、後で内湯に行って、風呂にはそういった類の物が置いてないことに気づきました。ただ、これは風呂に行かない限り分からないので、初めからその旨の説明はしっかりして欲しいと思いました。
悪くない部屋ですが、この部屋の正規の料金ではちょっと割高な感じで、我々が予約した料金ぐらいでもいいのではないかという気がしました。
案内してくれたのは若女将で、荷物はしっかり持ってくれたのですが、部屋に入ったり、お茶を入れたりということはなく、浴衣サイズについてだけ尋ねて、後で踏み込みのところに置いていってくれました。最低料金とはいえ、もともとの料金もそんなに安いわけではないので、お茶出しくらいはしてもいいのではないかと思いました。テーブルにはすでに二段のミニお重が置かれ、一つには昆布に砂糖をまぶしたもの、もう一つには漬物が入っていたのですが、迎え菓子としてはあまりぱっとしない印象を受けました。床の間に花がなかった代わりに、テーブルの上にごく小さな野の花がありましたが、恥ずかしそうに下を向いていました。野の花もいいのですが、花持ちが悪いですよね。この花は、あまり見栄えがよくないので、夕食の時に仲居さんが片付けてしまいました。
離れ形式の宿ですので、お風呂はすべて部屋を出て外を歩いて行かなければなりません。昨日が夏休み最後の日で昨日まではにぎわっていたようですが、その反動で今日はわれわれ一組しか宿泊していないそうです。ただ、立ち寄りが夜の7時半まであるので、それ以降だったらすべてのお風呂に自由に入っていいということでした。男女交替はなく、内湯は24時間OKです。ただ、露天は男性が11時、女性は10時までだそうです。女性の露天は一番奥にあり、池の周りを少し歩かなければならないので、夜は早いそうです。
まず日の高いうちに露天に入ろうということで、露天に向かいました。風呂は部屋よりも敷地の奥のほうに女性の内湯、男性の内湯、男性の露天と固まってあり、さらに奥に少し歩いて女性の露天が位置しています。
露天のサイズは男女とも同じくらいの石造りの長方形のもので、4人程度の大きさでした。両方とも浴槽の周りに、ぐるりとある程度のスペースが取られていて、周りや天上を木々の枝葉が取り囲んでいます。男性の露天は池も見え、池にいる大きなアヒルや、枝に止まった、美しい小鳥を眺めながらゆっくり入浴できたのですが、後で女房に女性の露天の感想を聞いたところ、浴衣を脱いで、湯船に浸かったとたん、とてつもなく大きなカエル(女房によるとウシガエルということだが、疑問)が出てきて、のそりのそりと脱衣所に入っていったので、どうしようかと思ったが、何とか裸の上に浴衣だけを着けて、ほうほうの体で内湯へと脱出してきたそうです。もう二度と露天には行かないということでした。確かに池に面しているし、言われてみれば、男女とも露天の湯口にカエルの石像があるのです。かなりカエルは出てくるのではないかという気がします。ぼくはカエルは別に構わないのですが、カエルがたくさんいるということは必然的にそれを狙う蛇も多いということで、ちょっと嫌な気分になりましたが、幸いに僕が入っていたときには何も出てきませんでした。翌朝、一人で女性用の露天に入ってみましたが、池は見えないものの、自然に囲まれた悪くない露天でした。
内湯はいかにも秘湯の宿という感じの、しゃれっ気の全くないところですが、不潔ではありません。池に面して大きくガラス窓がとられ、明るい印象です。ただ、透明な窓ガラスがかなり曇りガラスに近い感じになっているのは、それが秘湯の雰囲気をかもし出していると言えば言えるのですが、やはりちゃんと磨き上げて欲しい気がします。そのガラス窓沿いに端から端まで石造りの長方形の湯船になっていて、7人くらいは入れそうです。洗い場は4つあり、蛇口のお湯は温泉が出てきますが、シャンプーの類はありませんし、シャワーもありません。
お湯は透き通った薄い黒で、東京などにも黒いお湯が多いようですが、実は黒いお湯に入ったのはこれが初めてだったと思います。ただ、露天は無色です。確か、露天が旅館の源泉のみで、内湯は温泉組合のものを混ぜているという話でした。両方とも硫黄泉で、ぬるすべタイプです。飲泉用のひしゃくが内湯にも露天にも置いてありましたが、飲みやすくて非常にいいお湯だと思いました。硫黄泉は酸っぱかったり、苦かったり、渋かったりととかくクセのあるものが多いのですが、ここはまったくクセがなく、それどころか非常においしい硫黄泉です。若女将もお湯だけは自慢だと言っていました。
夕食は部屋ででした。予約した料金なら部屋ではないはずなのですが、部屋をグレードアップしてくれたおかげで、食事場所も部屋になったようです。ただ、ここは料金の差は部屋だけではなく、食事も微妙に違うようなので、食事の内容については予約した安い料金の内容だと思います。
お品書きはなく、説明は少しありました。まず、テーブルに真っ白なテーブルクロスが、きちんと敷かれました。これにはびっくりしました。秘湯の宿で白いテーブルクロスが敷かれたのは初めてだったと思います。久しぶりにテーブルクロスの法則を思い出しました。まず食前酒のすもも酒はかなり濃厚な味で、梅酒の濃い感じの甘さがありました。先付けは山芋と玉子の白身を使ったもので、凝ってはいるのですがその凝っているところがまだおいしさには結びついていない感じがしました。前菜は七点盛りで、穴子寿司は山椒の香がぷーんとしておいしく、さつま芋はただふかしただけなのか、それとも何か工夫が凝らされているのか分かりませんでしたが、さすが本場で絶妙な甘さの味がおいしいものでした。海老と烏賊はまあまあというところ、鮎の輪切りのようなものはなかなかいい味を出していました。さざえのつぼ焼きや、鮭のテリーヌっぽいものはまあ、おいしいかなというところで、前菜全体としては悪くないものでした。ここまでのものが最初に出され、ここから先は一品ずつ運ばれました。
次の冬瓜と鱧と茸の吸い物の味はやや濃い目で、お造りは、鯛と烏賊と鮪と勘八です。鯛は新鮮でぷりぷりしていておいしく、勘八も新鮮でいいです。他は新鮮ですが味は今一つという感じでした。続いては里芋と冬瓜と海老と蓮とさや隠元の煮物で、銀餡の味付けがちょうどいい感じでした。里芋、海老を初めとした素材すべてにしっかりしたおいしさがありました。次が鮑の貝殻に秋の野菜とチーズを乗せて焼いた秋の野菜の吹き寄せで、中の具材がグラタンみたいな調理法とうまくマッチしています。味がしっかりしていますが、グラタン好きのぼくにとってはかなりおいしく感じられました。絶品と言ってもいいでしょう。続いての地鶏の蒸し焼きもおいしいし、その次の黒豚のしゃぶしゃぶもなかなかおいしいものでした。食事が無農薬の御飯と赤だしで、赤だしはおいしかったのですが、デザートのメロンは今一でした。今年はメロンに当たらない気がしました。地下水を使った料理で、すべて手作りだそうです。全体的に満足できた食事ですが、まあまあおいしいというところでとどまっている物も多く、大絶賛というところまでは行きませんでした。
朝食は食事処なのですが、季節が丁度いいのか、池を見渡すことのできる、屋外の藤棚の下に朝食がセットされました。満開の百日紅の花の前の、一番景色のいい石のテーブルの席で池を見ながら並んで食事をすることができました。外でも虫がおらず、それは良かったのですが、風がない上、相変わらず湿気がひどくて、お風呂から上がってけっこう時間も経つのに、食事中、メガネが湿気で曇りっぱなしなので、とうとう最後にはメガネを外して食事をしました。
朝食は魚が、鮭の切り身で、それに、たらこ、かまぼこ、サラダ、温泉玉子、海苔、蜆の煮物にきんぴらごぼう、それに白い御飯と若布とお豆腐の味噌汁、というラインナップでした。蜆の煮物ははおいしいし、きんぴらごぼうもしゃきしゃきしていていい感じでしたが、味は悪くはないものの、ごくごく一般的なメニューで、どちらかというと質素な方の朝食だったと思います。
宿泊客が一組だけということもあってか、若女将も、この旅館から歩いて5分のところに家があるという係の仲居さんも、こちらの話にじっくりつきあってくれました。説明不足のところはありましたが、悪気はなく、いい人たちでした。
ここは結構有名人が宿泊しているようです。かつて寅さんも鹿児島でロケがあった時、この宿に何週間か宿泊したそうです。また、秘湯を守る会に加盟したのは鹿児島で一番早いとのことでした。ただ、女房も常々言っているのですが、鹿児島の宿はなぜか高いんですよね。ここも宿泊客が少なかったおかげで、部屋をランクアップしてもらったのですが、そこで初めて料金的に見合った感じになりました。通常の部屋だったら割高に感じられたはずです。また、池を目の前にしているせいで、書いたようにこの時期の湿気ははなはだしいものがあります。それから女房同様、カエルなどが苦手な人は敬遠した方がいいかもしれません。温泉の質やロケーション自体は決して悪くないのですが・・

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